(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149485
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】ポリプロピレン系樹脂組成物及びその製造方法、並びに射出成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 23/10 20060101AFI20220929BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20220929BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20220929BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20220929BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20220929BHJP
C08L 51/06 20060101ALI20220929BHJP
C08F 255/02 20060101ALI20220929BHJP
C08F 4/654 20060101ALI20220929BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20220929BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C08L23/10
C08L23/08
C08L23/16
C08K3/01
C08K5/00
C08L51/06
C08F255/02
C08F4/654
B29C45/00
B29C45/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051678
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】597021842
【氏名又は名称】サンアロマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】中島 武
(72)【発明者】
【氏名】丸山 真範
(72)【発明者】
【氏名】梶岡 寛
【テーマコード(参考)】
4F206
4J002
4J026
4J128
【Fターム(参考)】
4F206AA11A
4F206AA45
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4J128GA04
4J128GA05
4J128GA06
(57)【要約】
【課題】n-ヘプタンへの溶出成分が少なく、かつ、剛性、面衝撃強度、成形性、インモールドラベルの合わせ面における耐久性(破壊ひずみ)、外観、臭気、及び生産性のバランスに優れる射出成形体が得られる、ポリプロピレン系樹脂組成物及びその製造方法、並びに射出成形体の提供。
【解決手段】プロピレン重合体(a1)からなる連続相と、エチレンと炭素数3~10のαオレフィンとの共重合体(a2)からなるゴム相とを含むポリプロピレン系樹脂(A)、エチレンと炭素数4~10のαオレフィンとの共重合体である任意成分のエチレン・αオレフィン共重合体(B)、及び核剤(C)を含有するポリプロピレン系樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン重合体(a1)からなる連続相と、エチレンと炭素数3~10のαオレフィンとの共重合体(a2)からなるゴム相とを含むポリプロピレン系樹脂(A)、
エチレンと炭素数4~10のαオレフィンとの共重合体である任意成分のエチレン・αオレフィン共重合体(B)、及び核剤(C)を含有するポリプロピレン系樹脂組成物であって、
前記ポリプロピレン系樹脂(A)の含有割合が、前記ポリプロピレン系樹脂組成物の総質量に対して90質量%以上100質量%未満であり、
前記エチレン・αオレフィン共重合体(B)の含有割合が、前記(A)及び前記(B)の総質量に対して0~10質量%であり、
前記核剤(C)の含有割合が、前記(A)及び前記(B)の総質量100質量部に対して0.02質量部以上0.5質量部以下であり、
前記ポリプロピレン系樹脂組成物の温度230℃、荷重2.16kgでのMFRが40~120g/10分であり、
前記プロピレン重合体(a1)の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比率(Mw/Mn)が7未満であり、
前記プロピレン重合体(a1)中のエチレン由来単位含有量が、前記プロピレン重合体(a1)の総質量に対して1.5質量%以下であり、
前記共重合体(a2)の含有量が、前記ポリプロピレン系樹脂(A)の総質量に対して24~43質量%であり、
前記共重合体(a2)中のエチレン由来単位含有量が、前記共重合体(a2)の総質量に対して25~60質量%であり、
前記ポリプロピレン系樹脂(A)のキシレン可溶分の、135℃のテトラヒドロナフタレン中での極限粘度が0.5~3.0dl/gであり、
前記ポリプロピレン系樹脂(A)の温度230℃、荷重2.16kgでのMFRが40~120g/10分である、
ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記プロピレン重合体(a1)と、前記共重合体(a2)とは重合によって混合され、前記ポリプロピレン系樹脂(A)は、下記(ア)~(ウ)の成分を含む触媒を用いて製造された重合混合物である、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
(ア)マグネシウム、チタン、ハロゲン、及び電子供与体化合物としてのフタレート系化合物を含有する固体触媒
(イ)有機アルミニウム化合物
(ウ)外部電子供与体化合物である有機ケイ素化合物
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法であって、下記(ア)~(ウ)の成分を含む触媒を用いて、前記プロピレン重合体(a1)の存在下で、エチレン単量体及び炭素数3~10のαオレフィン単量体を重合して前記ポリプロピレン系樹脂(A)を得る工程を有する、ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法。
(ア)マグネシウム、チタン、ハロゲン、及び電子供与体化合物としてのフタレート系化合物を必須成分として含有する固体触媒
(イ)有機アルミニウム化合物
(ウ)外部電子供与体化合物である有機ケイ素化合物
【請求項4】
請求項1又は2に記載のポリプロピレン系樹脂組成物を射出成形した射出成形体。
【請求項5】
最も薄肉の部分の厚さが1mm以下である、請求項4に記載の射出成形体。
【請求項6】
容器の形状に成形されており、前記容器の側壁の厚さが0.1~1mmである、請求項4又は5に記載の射出成形体。
【請求項7】
容器の形状に成形されており、前記容器の側壁にインモールドラベルが備えられた、請求項4~6の何れか一項に記載の射出成形体。
【請求項8】
-10℃以下の低温環境下で使用される用途の請求項4~7の何れか一項に記載の射出成形体。
【請求項9】
食品に接する、容器又は包装体として使用される用途の請求項4~8の何れか一項に記載の射出成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂組成物及びその製造方法、並びに射出成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは、耐衝撃性、剛性、透明性、耐薬品性、耐熱性等の物性に優れることから、種々の用途に使用されている。ポリプロピレンを主成分とする樹脂組成物の射出成形体には優れた外観が求められることがあり、例えば特許文献1には、キシレン不溶分(XI)の含有量及びMw/Mn等を調整することにより、種々の機械物性の他に外観にも優れた射出成形体が得られる樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
食品に接する容器等の包装材として使用される成形体には、成形体の成分が食品に滲出し難いことが求められる。国が定める基準(厚生省告示第370号)には、ポリプロピレンを主成分とする容器(試験片)をn-ヘプタンに浸漬する溶出試験を行い、溶出された成分の量が所定値以下であることが求められている。その所定値は使用温度によって異なるが、厳しい基準を満たすためには35μg/ml以下であることが必要といえる。一方、特許文献1に開示の樹脂組成物では、上記の基準を必ず満たすことは想定されていない。
【0005】
本発明は、n-ヘプタンへの溶出成分が少なく、かつ、剛性、面衝撃強度、成形性、インモールドラベルの合わせ面における耐久性(破壊ひずみ)、外観、臭気、及び生産性のバランスに優れる射出成形体が得られる、ポリプロピレン系樹脂組成物及びその製造方法、並びに射出成形体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] プロピレン重合体(a1)からなる連続相と、エチレンと炭素数3~10のαオレフィンとの共重合体(a2)からなるゴム相とを含むポリプロピレン系樹脂(A)、
エチレンと炭素数4~10のαオレフィンとの共重合体である任意成分のエチレン・αオレフィン共重合体(B)、及び核剤(C)を含有するポリプロピレン系樹脂組成物であって、
前記ポリプロピレン系樹脂(A)の含有割合が、前記ポリプロピレン系樹脂組成物の総質量に対して90質量%以上100質量%未満であり、
前記エチレン・αオレフィン共重合体(B)の含有割合が、前記(A)及び前記(B)の総質量に対して0~10質量%であり、
前記核剤(C)の含有割合が、前記(A)及び前記(B)の総質量100質量部に対して0.02質量部以上0.5質量部以下であり、
前記ポリプロピレン系樹脂組成物の温度230℃、荷重2.16kgでのMFRが40~120g/10分であり、
前記プロピレン重合体(a1)の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比率(Mw/Mn)が7未満であり、
前記プロピレン重合体(a1)中のエチレン由来単位含有量が、前記プロピレン重合体(a1)の総質量に対して1.5質量%以下であり、
前記共重合体(a2)の含有量が、前記ポリプロピレン系樹脂(A)の総質量に対して24~43質量%であり、
前記共重合体(a2)中のエチレン由来単位含有量が、前記共重合体(a2)の総質量に対して25~60質量%であり、
前記ポリプロピレン系樹脂(A)のキシレン可溶分の、135℃のテトラヒドロナフタレン中での極限粘度が0.5~3.0dl/gであり、
前記ポリプロピレン系樹脂(A)の温度230℃、荷重2.16kgでのMFRが40~120g/10分である、
ポリプロピレン系樹脂組成物。
[2] 前記プロピレン重合体(a1)と、前記共重合体(a2)とは重合によって混合され、前記ポリプロピレン系樹脂(A)は、下記(ア)~(ウ)の成分を含む触媒を用いて製造された重合混合物である、[1]に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
(ア)マグネシウム、チタン、ハロゲン、及び電子供与体化合物としてのフタレート系化合物を含有する固体触媒
(イ)有機アルミニウム化合物
(ウ)外部電子供与体化合物である有機ケイ素化合物
[3] [1]又は[2]に記載のポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法であって、下記(ア)~(ウ)の成分を含む触媒を用いて、前記プロピレン重合体(a1)の存在下で、エチレン単量体及び炭素数3~10のαオレフィン単量体を重合して前記ポリプロピレン系樹脂(A)を得る工程を有する、ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法。
(ア)マグネシウム、チタン、ハロゲン、及び電子供与体化合物としてのフタレート系化合物を必須成分として含有する固体触媒
(イ)有機アルミニウム化合物
(ウ)外部電子供与体化合物である有機ケイ素化合物
[4] [1]又は[2]に記載のポリプロピレン系樹脂組成物を射出成形した射出成形体。
[5] 最も薄肉の部分の厚さが1mm以下である、[4]に記載の射出成形体。
[6] 容器の形状に成形されており、前記容器の側壁の厚さが0.1~1mmである、[4]又は[5]に記載の射出成形体。
[7] 容器の形状に成形されており、前記容器の側壁にインモールドラベルが備えられた、[4]~[6]の何れか一項に記載の射出成形体。
[8] -10℃以下の低温環境下で使用される用途の[4]~[7]の何れか一項に記載の射出成形体。
[9] 食品に接する、容器又は包装体として使用される用途の[4]~[8]の何れか一項に記載の射出成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を使用すれば、食品衛生性が優れ(すなわち、n-ヘプタンへの溶出成分が少なく)、かつ、剛性、面衝撃強度、成形性、インモールドラベルの合わせ面における耐久性(破壊ひずみ)、外観、臭気、及び生産性のバランスに優れる射出成形体が得られる。
また、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、薄肉射出成形(Thin Wall Injection Moulding: TWIM)に適している。
本発明の射出成形体は、上記の機械物性のバランスに優れるので、食品包装用途(容器・ドリンクカップ等)に特に適している。また、食品包装用途以外にも、例えば、雑貨、日用品、家電部品、電機電子部品、自動車部品、筐体部材、玩具部材、家具部材、建材部材、包装部材、工業資材、物流資材、農業資材等の用途に使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】インモールドラベルを備えた容器を圧縮試験機の内部に横向きに配置し、圧縮する直前の様子である。
【
図2】インモールドラベルを備えた容器を圧縮試験機の内部に横向きに配置し、圧縮した後の様子である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<ポリプロピレン系樹脂組成物>
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、プロピレン重合体(以下、成分(a1)ともいう)からなる連続相と、エチレンと炭素数3~10のαオレフィンとの共重合体(以下、成分(a2)ともいう)からなるゴム相とを含むポリプロピレン系樹脂(A)(以下、成分(A)ともいう)を含有し、さらに、エチレンと炭素数4~10のαオレフィンとの共重合体である任意成分のエチレン・αオレフィン共重合体(B)(以下、成分(B)ともいう)、及び核剤(C)(以下、成分(C)ともいう)を含有する。
成分(B)は任意成分であり、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物に含まれてもよいし、含まれていなくてもよい。
【0010】
前記ポリプロピレン系樹脂(A)の含有割合は、前記ポリプロピレン系樹脂組成物の総質量に対して90質量%以上100質量%未満であり、下限値として90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましい。
前記範囲の下限値以上であれば、本発明の上述の効果が充分に得られる。
前記範囲の上限値未満であれば、成分(B)又は成分(C)を含有する余地が得られる。
【0011】
前記エチレン・αオレフィン共重合体(B)の含有割合は、成分(A)及び成分(B)の総質量に対して0~10質量%であり、上限値として10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、0質量%がさらに好ましい。
前記範囲の下限値以上であると、射出成形体の面衝撃強度が高まる。
前記範囲の上限値以下であると、射出成形体の剛性が高まる。10質量%を超えると剛性が低下し、取り扱いが困難になる。
【0012】
前記核剤(C)の含有割合は、成分(A)及び成分(B)の総質量100質量部に対して0.02質量部以上0.5質量部以下である。
前記範囲の下限値以上であると、射出成形体の剛性が高まる。
前記範囲の上限値を超えると、射出成形体の剛性向上の効果が頭打ちになり、不経済である。
【0013】
ポリプロピレン系樹脂組成物の温度230℃、荷重2.16kgでのMFRは、40~120g/10分であり、下限値として50g/10分以上が好ましく、60g/10分以上がより好ましい。また、上限値として100g/10分以下が好ましく、85g/10分以下がより好ましい。ここで、前記MFRは後述する測定方法で測定された値である。
前記範囲の下限値以上であると、薄肉射出成形の際にも成形型内への充填不良が発生し難く、ハイサイクル(高速)の成形にも対応することができる。
前記範囲の上限値以下であると、射出成形体の低温耐衝撃性を充分に高めることができる。
【0014】
[ポリプロピレン系樹脂(A)]
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物に含有されるポリプロピレン系樹脂(A)は、JIS K6921-1で規定される耐衝撃性ポリプロピレンポリマーの一態様であり、プロピレン重合体(成分(a1))の連続相と、その連続相の中に分散相として存在するエチレン・αオレフィン共重合体(成分(a2))のゴム相を含む二つ以上の相で構成される。
ポリプロピレン系樹脂(A)は、成分(a1)と成分(a2)とが重合時に混合された混合樹脂であってもよいし、別々に得られた成分(a1)と成分(a2)とが、溶融混練によって混合された混合樹脂であってもよい。剛性と低温耐衝撃性と引張特性とのバランス(以下「機械物性バランス」ともいう。)に優れるものがより安価で得られることから、成分(a1)と成分(a2)とが重合時に混合されたもの(重合混合物)であることが好ましい。
重合混合物では、成分(a1)と成分(a2)とがサブミクロンオーダーで混じり合うことが可能であるため、重合混合物をベースとしたポリプロピレン系樹脂組成物は、優れた機械物性バランスを示す。
一方、別々に得られた成分(a1)と成分(a2)とを溶融混練して得た単なる機械混合物で同様な均一混合を実現して優れた機械物性バランスを得る場合には、貯蔵・保管・移送・計量・混合・溶融混練等の別工程を経る必要性から製造コストが高くなる。エネルギーコストの観点からも好ましくない。
なお、前記重合混合物と機械混合物とが異なる物性を示す場合があるのは、成分(a1)中の成分(a2)の分散状態が異なっているためと推測されるが、成分(a2)の成分(a1)との界面の状態を含めた分子レベルでの分散状態を分析する現実的手段は現状知られていない。ポリプロピレン系樹脂(A)の製造方法については後で詳しく説明する。
【0015】
ポリプロピレン系樹脂(A)のキシレン可溶分の極限粘度(以下、「XSIV」ともいう。)は0.5~3.0dl/gであり、下限値として1.2dl/g以上が好ましく、1.5dl/g以上がより好ましい。また、上限値として2.4dl/g以下が好ましい。
前記範囲の下限値以上であると、射出成形体の低温耐衝撃性が高まる。また、0.5dl/g未満であるとポリプロピレン系樹脂組成物の製造が困難になる。
前記範囲の上限値以下であると、射出成形体の低温耐衝撃性が高まり、外観不良(ブツの表出)を抑制できる。
ここで、XSIVは、135℃のテトラヒドロナフタレン中での測定値である。キシレン可溶分は、ポリプロピレン系樹脂の試料をo-キシレン中、135℃で溶解させた後、25℃に冷却し、その冷却した溶液を、濾紙を用いて濾過し、濾液を蒸発乾固して得られる成分である。
【0016】
ポリプロピレン系樹脂(A)を構成するプロピレン重合体(成分(a1))の分子量分布の指標である重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比率(Mw/Mn)は、7未満である。
前記範囲の上限値未満であると、射出成形体としてインモールドラベルを備えた容器を形成した場合、インモールドラベルの合わせ面部分の強度が向上する。
上記比率の下限値は特に制限されず、目安として例えば3以上が挙げられる。
ここで、プロピレン重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した値であり、具体的には後述する方法で測定された値である。
【0017】
ポリプロピレン系樹脂(A)を構成するプロピレン重合体(成分(a1))中のエチレン由来単位含有量(以下、「C2」ともいう。)は、前記プロピレン重合体の総質量に対して1.5質量%以下であり、1.2質量%以下が好ましい。
C2が前記上限値以下であると、射出成形体の剛性が高まる。
C2の下限は特に限定されず、0質量%であってもよい。
したがって、プロピレン重合体は、プロピレン由来単位のみからなるポリプロピレンホモポリマーであってもよく、98.5質量%以上100質量%未満のプロピレン由来単位と0質量%超1.5質量%以下のエチレン由来単位とからなる共重合体であってもよいが、得られる射出成形体の剛性を高める観点から、C2は0質量%であることが好ましい。
C2は、13C-NMR法によって測定される。
【0018】
ポリプロピレン系樹脂(A)を構成するエチレン・αオレフィン共重合体(成分(a2))は、エチレン由来単位と炭素数3~10のαオレフィン由来単位を有する共重合体である。
成分(a2)中のエチレン由来単位含有量は、成分(a2)の総質量に対して、25~60質量%であり、下限値として30質量%以上が好ましい。また、上限値として50質量%以下が好ましく、43質量%以下がより好ましい。
前記範囲の下限値以上であると、射出成形体の低温耐衝撃性が高まる。
前記範囲の上限値以下であると、射出成形体の食品衛生性が高まる(n-ヘプタンへの溶出量を充分に低減できる)。
成分(a2)中のエチレン由来単位含有量は、13C-NMR法によって測定される。
【0019】
ポリプロピレン系樹脂(A)の総質量に対する、エチレン・αオレフィン共重合体(成分(a2))の含有量は、24~43質量%であり、下限値として27質量%以上が好ましい。また、上限値として39質量%以下が好ましい。
前記範囲の下限値以上であると、射出成形体の低温耐衝撃性が高まる。
前記範囲の上限値以下であると、ポリプロピレン系樹脂(A)製造時に粉体流動性悪化により生産設備上での流路が閉塞するリスクを低減できるので、ポリプロピレン系樹脂(A)を安定的に連続生産することができる。
【0020】
前記エチレン・αオレフィン共重合体(成分(a2))を構成するαオレフィンとしては、プロピレン(1-プロペン)、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等が挙げられる。
具体的な成分(a2)としては、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、エチレン・ペンテン共重合体、エチレン・ヘキセン共重合体、エチレン・オクテン共重合体等が挙げられる。
これらの中でも、ポリプロピレン系樹脂(A)の生産性向上を考慮すると、エチレン・プロピレン共重合体が好ましい。
【0021】
ポリプロピレン系樹脂(A)の温度230℃、荷重2.16kgでのMFRは、40~120g/10分であり、上限値として110g/10分以下が好ましく、90g/10分以下がより好ましい。ここで、前記MFRは後述する測定方法で測定された値である。
前記範囲の下限値以上であると、薄肉射出成形の際にも成形型内への充填不良が発生し難く、ハイサイクル(高速)の成形にも対応することができる。
前記範囲の上限値以下であると、射出成形体の低温耐衝撃性が高まる。
【0022】
[エチレン・αオレフィン共重合体(B)]
エチレン・αオレフィン共重合体(B)は、エチレンと炭素数4~10のαオレフィンとの共重合体である。αオレフィンとしては、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等が挙げられる。
具体的なエチレン・αオレフィン共重合体(B)としては、エチレン・ブテン共重合体、エチレン・ペンテン共重合体、エチレン・ヘキセン共重合体、エチレン・オクテン共重合体等が挙げられる。
これらの中でも、原料としての調達容易性や経済性等を考慮すると、エチレン・ブテン共重合体またはエチレン・オクテン共重合体が好ましい。
【0023】
エチレン・αオレフィン共重合体(B)の温度190℃、荷重2.16kgでのMFRは、1.0~40g/10分が好ましい。ここで、MFRはJIS K6921-2に基づき測定された値である。
前記範囲の下限値以上であると、前記ポリプロピレン系樹脂組成物の流動性が高まる。
前記範囲の上限値以下であると、前記ポリプロピレン系樹脂組成物におけるブロッキングの発生を抑制し、当該組成物の連続生産性を高めることができる。また、射出成形体の低温耐衝撃性および引張特性が高まる。
【0024】
[核剤(C)]
核剤(C)は結晶核剤とも呼ばれる。核剤(C)としては、従来のポリプロピレン系樹脂組成物に含有させる公知の核剤を使用でき、ノニトール系核剤、ソルビトール系核剤、リン酸エステル系核剤、トリアミノベンゼン誘導体核剤、カルボン酸金属塩核剤、およびキシリトール系核剤から選択される核剤が好ましい。タルクを核剤として使用することも可能である。射出成形体の臭気を低減する観点から、リン酸エステル系核剤が好ましい。
ノニトール系の構造を有する結晶核剤として、例えば、1,2,3-トリデオキシ-4,6:5,7-ビス-[(4-プロピルフェニル)メチレン]-ノニトール、キシリトール系の構造を有する結晶核剤として、例えば、ビス-1,3:2,4-(5’,6’,7’,8’-テトラヒドロ-2-ナフトアルデヒドベンジリデン)1-アリルキシリトール、ビス-1,3:2,4-(3’,4’-ジメチルベンジリデン)1-プロピルキシリトール、ソルビトール系の構造を有する結晶核剤として、例えば、ビス-1,3:2,4-(4’-エチルベンジリデン)1-アリルソルビトール、ビス-1,3:2,4-(3’-メチル-4’-フルオロ-ベンジリデン)1-プロピルソルビトール、ビス-1,3:2,4-(3’,4’-ジメチルベンジリデン)1’-メチル-2’-プロペニルソルビトール、ビス-1,3,2,4-ジベンジリデン2’,3’-ジブロモプロピルソルビトール、ビス-1,3,2,4-ジベンジリデン2’-ブロモ-3’-ヒドロキシプロピルソルビトール、ビス-1,3:2,4-(3’-ブロモ-4’-エチルベンジリデン)-1-アリルソルビトール、モノ2,4-(3’-ブロモ-4’-エチルベンジリデン)-1-アリルソルビトール、ビス-1,3:2,4-(4’-エチルベンジリデン)1-アリルソルビトール、ビス-1,3:2,4-(3’,4’-ジメチルベンジリデン)1-メチルソルビトール、ビス(p-メチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4-ビス-o-(4-メチルベンジリデン)-D-ソルビトール等が挙げられる。
ノニトール系の市販の結晶核剤として、例えばMillad NX8000(ミリケンジャパン社製)、ソルビトール系の市販の結晶核剤として、RiKAFAST R-1(新日本理化社製)、Millad 3988(ミリケンジャパン社製)、ゲルオールE-200(新日本理化社製)、ゲルオールMD(新日本理化社製)等が挙げられる。
リン酸エステル系結晶核剤として、リン酸-2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ナトリウム塩、リン酸-2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)アルミニウム塩、リン酸-2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)リチウム塩等が挙げられる。市販のリン酸エステル系結晶核剤として、例えばアデカスタブNA-11(ADEKA社製)、アデカスタブNA-21(ADEKA社製)、アデカスタブNA-71(ADEKA社製)などが挙げられる。
トリアミノベンゼン誘導体結晶核剤として、例えば、1,3,5-トリス(2,2-ジメチルプロパンアミド)ベンゼン等が挙げられる。市販のトリアミノベンゼン誘導体結晶核剤として、例えばIRGACLEAR XT386(BASFジャパン社製)、リカクリア PC1(新日本理化株式会社製)などが挙げられる。
カルボン酸金属塩核剤として、1,2-シクロヘキサンジカルボキシル酸カルシウム塩等が挙げられる。市販のカルボン酸金属塩核剤として、例えばHyperform HPN-20E(ミリケンジャパン社製)などが挙げられる。
これらの結晶核剤は、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
[その他の成分]
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、任意成分として、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリプロピレン系樹脂(A)、エチレン・αオレフィン共重合体(B)及び核剤(C)以外の添加剤が含まれてもよい。
前記添加剤としては、例えば、酸化防止剤、中和剤、前記核剤以外の核剤、耐候剤、顔料(有機または無機)、内部滑剤および外部滑剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、塩素吸収剤、耐熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、スリップ剤、防曇剤、難燃剤、分散剤、銅害防止剤、可塑剤、発泡剤、気泡防止剤、架橋剤、過酸化物、油展等が挙げられる。これらの添加剤は1種のみでもよいし、2種以上でもよい。含有量は公知の量としてよい。
【0026】
<ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法>
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を製造する方法としては、ポリプロピレン系樹脂(A)と、任意成分のエチレン・αオレフィン共重合体(B)と、核剤(C)とを混合した後、溶融混練する方法が挙げられる。
混合方法としては、ヘンシェルミキサー、タンブラーおよびリボンミキサー等の混合機を使用してドライブレンドする方法が挙げられる。
溶融混練方法としては、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールミル等の混合機を用いて溶融しながら混合する方法が挙げられる。溶融混練する場合の溶融温度は160~350℃であることが好ましく、170~260℃であることがより好ましい。溶融混練した後でさらにペレット化してもよい。
【0027】
[ポリプロピレン系樹脂(A)の製造方法]
ポリプロピレン系樹脂(A)は、プロピレン重合体(成分(a1))とエチレン・αオレフィン共重合体(成分(a2))とを重合時に混合して得てもよいし、別々に製造された成分(a1)と成分(a2)とを溶融混練によって混合して得てもよい。
ポリプロピレン系樹脂(A)は、成分(a1)と成分(a2)とが重合時に混合された重合混合物であることが好ましい。
このような重合混合物は、成分(a1)の存在下で、エチレン単量体及びαオレフィン単量体を重合することにより得られる。この方法によれば、生産性が高くなる上に、成分(a1)中の成分(a2)の分散性が高くなるため、これを用いて得た射出成形体の機械物性バランスが向上する。
【0028】
以下、αオレフィン単量体としてプロピレン単量体を使用する場合を説明するが、他のαオレフィン単量体を使用する場合にも同様にして製造することができる。
【0029】
前記重合混合物の製造方法としては、典型的には、多段重合法が用いられる。例えば、二段の重合反応器を備える重合装置の一段目の重合反応器にて、プロピレン単量体及び必要に応じてエチレン単量体を重合してプロピレン重合体を得て、得られたプロピレン重合体を二段目の重合反応器に供給すると共に、この二段目の重合反応器にてエチレン単量体及びプロピレン単量体を重合することで前記重合混合物を得ることができる。
重合条件は、公知の重合条件と同様であってよい。例えば一段目の重合条件としては、プロピレンが液相でモノマー密度と生産性の高いスラリー重合法が挙げられる。二段目の重合条件としては、一般的にプロピレンへの溶解性が高い共重合体の製造が容易な気相重合法が挙げられる。
重合温度は50~90℃が好ましく、60~90℃がより好ましく、70~90℃がさらに好ましい。該重合温度が上記範囲の下限値以上であると、生産性及び得られたポリプロピレンの立体規則性がより優れる。
重合圧力は、液相中で行われる場合には25~60bar(2.5~6.0MPa)が好ましく、33~45bar(3.3~4.5MPa)がより好ましい。気相中で行われる場合には、5~30bar(0.5~3.0MPa)が好ましく、8~30bar(0.8~3.0MPa)がより好ましい。
重合(プロピレン単量体の重合、エチレン単量体及びプロピレン単量体等の重合)は、通常、触媒を用いて行われる。重合の際、必要に応じて、分子量の調整のために、水素が添加されてもよい。プロピレン重合体やエチレン・プロピレン共重合体の分子量を調整することで、ポリプロピレン系樹脂(A)のMFR、ひいてはポリプロピレン系樹脂組成物のMFRを調整できる。
一段目の重合反応器での重合の前に、その後の本重合の足がかりとなるポリマー鎖を固体触媒成分に形成させるために、プロピレンの予重合を行ってもよい。予重合は、通常は40℃以下、好ましくは30℃以下、より好ましくは20℃以下で行われる。
【0030】
触媒としては、公知のオレフィン重合触媒を用いることができる。
前記プロピレン重合体の存在下でエチレン単量体及びプロピレン単量体を重合する際の触媒としては、立体特異性チーグラー・ナッタ触媒が好ましく、以下の成分(ア)と成分(イ)と成分(ウ)とを含む触媒(以下、「触媒(X)」ともいう。)が特に好ましい。
(ア)マグネシウム、チタン、ハロゲン及び電子供与体化合物としてフタレート系化合物を必須成分として含有する固体触媒。
(イ)有機アルミニウム化合物。
(ウ)外部電子供与体化合物である有機ケイ素化合物。
【0031】
ポリプロピレン系樹脂(A)は、触媒(X)を用いて、前記プロピレン重合体の存在下で、エチレン単量体及びαオレフィン単量体(例えばプロピレン単量体)を重合して前記ポリプロピレン系樹脂を得る工程を有する方法で製造することが好ましい。触媒(X)を用いることで、各物性が前記範囲内であるポリプロピレン系樹脂(A)が容易に得られる。
なお、使用する触媒(特に成分(ア)の電子供与体化合物)によって得られるプロピレン重合体の分子量や立体規則性の分布は異なり、その違いは結晶化挙動等に影響を与えるが、その関係性についての詳細が明らかになっていない。これを明らかにしようとする場合、分子構造として分子量分布と立体規則性分布を併せて解析する必要があるが、結晶化過程において分子量と立体規則性が異なる成分同士が影響を及ぼし合うため複雑であり、立体規則性の分布が結晶化挙動に及ぼす影響についての解釈をより困難にしている。さらに、実際の射出成形は非常に高速でかつ流動状態にて実施されるので、たとえ高度な解析技術を用いてもその現象を把握することは容易ではない。よって、特定の触媒を用いて得られたポリプロピレン系樹脂組成物において、立体規則性の分布による結晶化挙動の違いを数値等で特定することはおよそ不可能である。分子量分布や立体規則性分布は、上述した触媒の種類以外に溶融混錬時の熱劣化や過酸化物処理等によっても変化する。
【0032】
成分(ア)は、例えば、チタン化合物、マグネシウム化合物及び電子供与体化合物を用いて調製される。
成分(ア)に用いられるチタン化合物として、一般式:Ti(OR)gX4-g(Rは炭化水素基、Xはハロゲン、0≦g≦4)で表される4価のチタン化合物が好適である。
炭化水素基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル等が挙げられ、ハロゲンとしては、Cl、Br等が挙げられる。
より具体的なチタン化合物としては、TiCl4、TiBr4、TiI4のようなテトラハロゲン化チタン;Ti(OCH3)Cl3、Ti(OC2H5)Cl3、Ti(On-C4H9)Cl3、Ti(OC2H5)Br3、Ti(O-isoC4H9)Br3のようなトリハロゲン化アルコキシチタン;Ti(OCH3)2Cl2、Ti(OC2H5)2Cl2、Ti(On-C4H9)2Cl2、Ti(OC2H5)2Br2のようなジハロゲン化アルコキシチタン;Ti(OCH3)3Cl、Ti(OC2H5)3Cl、Ti(On-C4H9)3Cl、Ti(OC2H5)3Brなどのモノハロゲン化トリアルコキシチタン;Ti(OCH3)4、Ti(OC2H5)4、Ti(On-C4H9)4のようなテトラアルコキシチタン等が挙げられる。これらチタン化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記チタン化合物の中で好ましいものはハロゲン含有チタン化合物であり、より好ましくはテトラハロゲン化チタンであり、特に好ましくは四塩化チタン(TiCl4)である。
【0033】
成分(ア)に用いられるマグネシウム化合物として、マグネシウム-炭素結合やマグネシウム-水素結合を有するマグネシウム化合物、例えばジメチルマグネシウム、ジエチルマグネシウム、ジプロピルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、ジアミルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、ジデシルマグネシウム、エチル塩化マグネシウム、プロピル塩化マグネシウム、ブチル塩化マグネシウム、ヘキシル塩化マグネシウム、アミル塩化マグネシウム、ブチルエトキシマグネシウム、エチルブチルマグネシウム、ブチルマグネシウムハイドライド等が挙げられる。これらのマグネシウム化合物は、例えば有機アルミニウム等との錯化合物の形で用いることもでき、また、液状であっても固体状であってもよい。さらに好適なマグネシウム化合物として、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、フッ化マグネシウムのようなハロゲン化マグネシウム;メトキシ塩化マグネシウム、エトキシ塩化マグネシウム、イソプロポキシ塩化マグネシウム、ブトキシ塩化マグネシウム、オクトキシ塩化マグネシウムのようなアルコキシマグネシウムハライド;フェノキシ塩化マグネシウム、メチルフェノキシ塩化マグネシウムのようなアリロキシマグネシウムハライド;エトキシマグネシウム、イソプロポキシマグネシウム、ブトキシマグネシウム、n-オクトキシマグネシウム、2-エチルヘキソキシマグネシウムのようなアルコキシマグネシウム;ジメトキシマグネシウム、ジエトキシマグネシウム、ジプロポキシマグネシウム、ジブトキシマグネシウム、エトキシメトキシマグネシウムのようなジアルコキシマグネシウム;エトキシプロポキシマグネシウム、ブトキシエトキシマグネシウム、フェノキシマグネシウム、ジメチルフェノキシマグネシウムのようなアリロキシマグネシウム等を挙げることができる。これらマグネシウム化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
成分(ア)に用いられる電子供与体化合物は、フタレート系化合物を必須成分として含有することが好ましい。フタレート系化合物を電子供与体として含む触媒(X)を用いると、プロピレン重合体のMw/Mnが前記範囲内であるポリプロピレン系樹脂が容易に得られる。
フタレート系化合物としては、例えば、モノエチルフタレート、ジメチルフタレート、メチルエチルフタレート、モノイソブチルフタレート、モノノルマルブチルフタレート、ジエチルフタレート、エチルイソブチルフタレート、エチルノルマルブチルフタレート、ジn-プロピルフタレート、ジイソプロピルフタレート、ジn-ブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジn-ヘプチルフタレート、ジ-2-エチルヘキシルフタレート、ジn-オクチルフタレート、ジネオペンチルフタレート、ジデシルフタレート、ベンジルブチルフタレート、ジフェニルフタレート等が挙げられる。中でもジイソブチルフタレートが特に好ましい。
【0035】
フタレート系化合物以外の前記固体触媒中の電子供与体化合物としては、スクシネート系化合物、ジエーテル系化合物等が挙げられる。
【0036】
スクシネート系化合物は、コハク酸のエステルであってもよく、コハク酸の1位又は2位にアルキル基等の置換基を持つ置換コハク酸のエステルであってもよい。具体例としては、ジエチルスクシネート、ジブチルスクシネート、ジエチルメチルスクシネート、ジエチルジイソプロピルスクシネート、ジアリルエチルスクシネート等が挙げられる。
【0037】
ジエーテル系化合物としては、例えば、2-(2-エチルヘキシル)-1,3-ジメトキシプロパン、2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパン、2-ブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-sec-ブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-シクロヘキシル-1,3-ジメトキシプロパン、2-フェニル-1,3-ジメトキシプロパン、2-tert-ブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-クミル-1,3-ジメトキシプロパン、2-(2-フェニルエチル)-1,3-ジメトキシプロパン、2-(2-シクロヘキシルエチル)-1,3-ジメトキシプロパン、2-(p-クロロフェニル)-1,3-ジメトキシプロパン、2-(ジフェニルメチル)-1,3-ジメトキシプロパン、2-(1-ナフチル)-1,3-ジメトキシプロパン、2-(p-フルオロフェニル)-1,3-ジメトキシプロパン、2-(1-デカヒドロナフチル)-1,3-ジメトキシプロパン、2-(p-tert-ブチルフェニル)-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジシクロヘキシル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジエチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジプロピル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジエチル-1,3-ジエトキシプロパン、2,2-ジシクロペンチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジプロピル-1,3-ジエトキシプロパン、2,2-ジブチル-1,3-ジエトキシプロパン、2-メチル-2-エチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-メチル-2-プロピル-1,3-ジメトキシプロパン、2-プロピル-2-ペンチル-1,3-ジエトキシプロパン、2-メチル-2-ベンジル-1,3-ジメトキシプロパン、2-メチル-2-フェニル-1,3-ジメトキシプロパン、2-メチル-2-シクロヘキシル-1,3-ジメトキシプロパン、2-メチル-2-メチルシクロヘキシル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ビス(p-クロロフェニル)-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ビス(2-フェニルエチル)-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ビス(2-シクロヘキシルエチル)-1,3-ジメトキシプロパン、2-メチル-2-イソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-メチル-2-(2-エチルヘキシル)-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ビス(2-エチルヘキシル)-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ビス(p-メチルフェニル)-1,3-ジメトキシプロパン、2-メチル-2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジイソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジフェニル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジベンジル-1,3-ジメトキシプロパン、2-イソプロピル-2-シクロペンチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ビス(シクロヘキシルメチル)-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジイソブチル-1,3-ジエトキシプロパン、2,2-ジイソブチル-1,3-ジブトキシプロパン、2-イソブチル-2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジ-sec-ブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジ-tert-ブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジネオペンチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-イソプロピル-2-イソペンチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-フェニル-2-ベンジル-1,3-ジメトキシプロパン、2-シクロヘキシル-2-シクロヘキシルメチル-1,3-ジメトキシプロパン等1,3-ジエーテルが挙げられる。
また、1,3-ジエーテル系化合物のさらなる具体例としては、以下が挙げられる。
1,1-ビス(メトキシメチル)-シクロペンタジエン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-2,3,4,5-テトラメチルシクロペンタジエン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-2,3,4,5-テトラフェニルシクロペンタジエン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-2,3,4,5-テトラフルオロシクロペンタジエン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-3,4-ジシクロペンチルシクロペンタジエン;
1,1-ビス(メトキシメチル)インデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-2,3-ジメチルインデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-4,5,6,7-テトラヒドロインデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-2,3,6,7-テトラフルオロインデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-4,7-ジメチルインデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-3,6-ジメチルインデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-4-フェニルインデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-4-フェニル-2-メチルインデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-4-シクロヘキシルインデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-7-(3,3,3-トリフルオロプロピル)インデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-7-トリメチルシリルインデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-7-トリフルオロメチルインデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-4,7-ジメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-7-メチルインデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-7-シクロペンチルインデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-7-イソプロピルインデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-7-シクロヘキシルインデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-7-tert-ブチルインデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-7-tert-ブチル-2-メチルインデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-7-フェニルインデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-2-フェニルインデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-1H-ベンズインデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-1H-2-メチルベンズインデン;
9,9-ビス(メトキシメチル)フルオレン;
9,9-ビス(メトキシメチル)-2,3,6,7-テトラメチルフルオレン;
9,9-ビス(メトキシメチル)-2,3,4,5,6,7-ヘキサフルオロフルオレン;
9,9-ビス(メトキシメチル)-2,3-ベンゾフルオレン;
9,9-ビス(メトキシメチル)-2,3,6,7-ジベンゾフルオレン;
9,9-ビス(メトキシメチル)-2,7-ジイソプロピルフルオレン;
9,9-ビス(メトキシメチル)-1,8-ジクロロフルオレン;
9,9-ビス(メトキシメチル)-2,7-ジシクロペンチルフルオレン;
9,9-ビス(メトキシメチル)-1,8-ジフルオロフルオレン;
9,9-ビス(メトキシメチル)-1,2,3,4-テトラヒドロフルオレン;
9,9-ビス(メトキシメチル)-1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロフルオレン;
9,9-ビス(メトキシメチル)-4-tert-ブチルフルオレン。
【0038】
成分(ア)を構成するハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素又はこれらの混合物が挙げられ、特に塩素が好ましい。
【0039】
成分(イ)の有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリエチルアルミニウム、トリブチルアルミニウムのようなトリアルキルアルミニウム、トリイソプレニルアルミニウムのようなトリアルケニルアルミニウム、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジブチルアルミニウムブトキシドのようなジアルキルアルミニウムアルコキシド、エチルアルミニウムセスキエトキシド、ブチルアルミニウムセスキブトキシドのようなアルキルアルミニウムセスキアルコキシド、R1
2.5Al(OR2)0.5(R1,R2は、各々異なってもよいし同じでもよい炭化水素基である。)で表される平均組成を有する、部分的にアルコキシ化されたアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、ジブチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムブロミドのようなジアルキルアルミニウムハロゲニド、エチルアルミニウムセスキクロリド、ブチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキブロミドのようなアルキルアルミニウムセスキハロゲニド、エチルアルミニウムジクロリド、プロピルアルミニウムジクロリド、ブチルアルミニウムジブロミドのようなアルキルアルミニウムジハロゲニド等が部分的にハロゲン化されたアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムヒドリド、ジブチルアルミニウムヒドリドのようなジアルキルアルミニウムヒドリド、エチルアルミニウムジヒドリド、プロピルアルミニウムジヒドリドのようなアルキルアルミニウムジヒドリドなどの部分的に水素化されたアルキルアルミニウム、エチルアルミニウムエトキシクロリド、ブチルアルミニウムブトキシクロリド、エチルアルミニウムエトキシブロミドのような部分的にアルコキシ化及びハロゲン化されたアルキルアルミニウム等が挙げられる。上記成分(イ)は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
成分(ウ)の外部電子供与体化合物としては、有機ケイ素化合物が用いられる。
好ましい有機ケイ素化合物として、例えば、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、t-ブチルメチルジメトキシシラン、t-ブチルメチルジエトキシシラン、t-アミルメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ビスo-トリルジメトキシシラン、ビスm-トリルジメトキシシラン、ビスp-トリルジメトキシシラン、ビスp-トリルジエトキシシラン、ビスエチルフェニルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、γ-クロルプロピルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、t-ブチルトリエトキシシラン、テキシルトリメトキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、iso-ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、クロルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、2-ノルボルナントリメトキシシラン、2-ノルボルナントリエトキシシラン、2-ノルボルナンメチルジメトキシシラン、ケイ酸エチル、ケイ酸ブチル、トリメチルフエノキシシラン、メチルトリアリルオキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシシラン)、ビニルトリアセトキシシラン、ジメチルテトラエトキシジシロキサン、メチル(3,3,3-トリフルオロ-n-プロピル)ジメトキシシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、シクロペンチル-t-ブトキシジメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、イソブチルイソプロピルジメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、ジ-n-プロピルジメトキシシラン、t-ブチルエチルジメトキシシラン、t-ブチルプロピルジメトキシシラン、t-ブチル-t-ブトキシジメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルイソブチルジメトキシシラン、ジ-sec-ブチルジメトキシシラン、イソブチルメチルジメトキシシラン、ビス(デカヒドロイソキノリン-2-イル)ジメトキシシラン、ジエチルアミノトリエトキシシラン、ジシクロペンチル-ビス(エチルアミノ)シラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、t-ブチルトリメトキシシラン、i-ブチルトリメトキシシラン、i-ブチルセク-ブチルジメトキシシラン、エチル(パーヒドロイソキノリン2-イル)ジメトキシシラン、トリ(イソプロペニロキシ)フェニルシラン、i-ブチルi-プロピルジメトキシシラン、シクロヘキシルi-ブチルジメトキシシラン、シクロペンチルi-ブチルジメトキシシラン、シクロペンチルイソプロピルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシラン、p-トリルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
これらの中でも、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、t-ブチルトリエトキシシラン、t-ブチルメチルジメトキシシラン、t-ブチルメチルジエトキシシラン、t-ブチルエチルジメトキシシラン、t-ブチルプロピルジメトキシシラン、t-ブチルt-ブトキシジメトキシシラン、t-ブチルトリメトキシシラン、i-ブチルトリメトキシシラン、イソブチルメチルジメトキシシラン、i-ブチルセク-ブチルジメトキシシラン、エチル(パーヒドロイソキノリン2-イル)ジメトキシシラン、ビス(デカヒドロイソキノリン-2-イル)ジメトキシシラン、トリ(イソプロペニロキシ)フェニルシラン、テキシルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、i-ブチルi-プロピルジメトキシシラン、シクロペンチルt-ブトキシジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルi-ブチルジメトキシシラン、シクロペンチルi-ブチルジメトキシシラン、シクロペンチルイソプロピルジメトキシシラン、ジ-sec-ブチルジメトキシシラン、ジエチルアミノトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシラン、ビスp-トリルジメトキシシラン、p-トリルメチルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、2-ノルボルナントリエトキシシラン、2-ノルボルナンメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチル(3、3、3-トリフルオロ-n-プロピル)ジメトキシシラン、ケイ酸エチル等が好ましい。
上記成分(ウ)は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
有機ケイ素化合物は、特にキシレン不溶分の量を調整するのに重要な役割を果たす。他の触媒成分が同じ場合、キシレン不溶分の量は、有機ケイ素化合物の種類と量および重合温度に依存するが、適切な有機ケイ素化合物を用いた場合においても、通常ジエーテル系触媒を除き、有機ケイ素化合物の量が特定の値以下になると大きく低下する。このため、重合温度が75℃の場合、有機ケイ素化合物と有機アルミニウム化合物とのモル比(有機ケイ素化合物/有機アルミニウム)の下限は0.015が好ましく、0.018がより好ましい。当該比の上限は、0.30が好ましく、0.20がより好ましく、0.10がさらに好ましい。
内部電子供与体化合物としてフタレート系化合物を用いる場合は、重合温度を上げるとキシレン不溶分が増加するので、好ましい有機ケイ素化合物と有機アルミニウム化合物とのモル比(有機ケイ素化合物/有機アルミニウム)の下限および上限が低下する。具体的には、フタレート系化合物を用いて80℃で重合する場合の前記モル比の下限は、0.010が好ましく、0.015がより好ましく、0.018がさらに好ましい。前記モル比の上限は、0.20が好ましく、0.14がより好ましく、0.08がさらに好ましい。
【0042】
触媒(X)としては、成分(イ)が、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウムであり、成分(ウ)が、ジシクロペンチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン等の有機ケイ素化合物であるものが好ましい。
【0043】
なお、多段重合法により前記重合混合物を得る方法は上記の方法に限定されず、プロピレン重合体(成分(a1))を複数の重合反応器にて重合してもよいし、エチレン・αオレフィン共重合体(成分(a2))を複数の重合反応器にて重合してもよい。
前記重合混合物を得る方法として、単量体濃度や重合条件の勾配を有する重合器を用いて行う方法も挙げられる。このような重合器では、例えば、少なくとも2つの重合領域が接合されたものを使用し、気相重合でモノマーを重合することができる。
具体的には、触媒の存在下、上昇管からなる重合領域にてモノマーを供給して重合し、上昇管に接続された下降管にてモノマーを供給して重合し、上昇管と下降管とを循環しながら、重合生成物を回収する。この方法では、上昇管中に存在する気体混合物が下降管に入るのを全面的又は部分的に防止する手段を備える。また、上昇管中に存在する気体混合物とは異なる組成を有する気体及び/又は液体混合物を下降管中に導入する。この重合方法は、例えば、特表2002-520426号公報に記載された方法を適用することができる。
【0044】
(エチレン・αオレフィン共重合体(B)の製造方法)
エチレン・αオレフィン共重合体(B)は、重合の際にメタロセン触媒又はハーフメタロセン触媒を用いる公知の方法(例えば、国際公開WO2006/102155号に記載の方法)によって製造することができる。
前記重合の際に、連鎖移動剤(例えば、水素またはジエチル亜鉛)等の公知の分子量自動調整剤を使用してもよい。
【0045】
<射出成形体>
本発明の射出成形体は、上記のポリプロピレン系樹脂組成物を射出成形することにより製造できる。
成形温度は一般的には150~350℃、好ましくは170~250℃で実施される。成形温度が350℃を超えると、樹脂組成物の劣化及び成形不良の原因となり、150℃より低いと流動性が低下することで金型内への充填不足による外観不良や成形不良が発生する。金型温度については、10~60℃の範囲で行うことが好ましい。金型温度が60℃を超えると成形体の表面仕上げ度が優れ、剛性に優れた成形体が得られるものの、成形サイクルが長くなり生産性が低下する。逆に、金型温度を10℃より低温に設定すると反りや収縮などが顕著になり、満足な成形体が得られにくくなるばかりか、金型に結露が生じやすくなるために金型腐食を進行させる原因となる。冷却に関わるエネルギーコストの観点からも適さない。
【0046】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、薄肉射出成形に適している。例えば、最も薄肉の部分の厚さが1mm以下、好ましくは0.7mm以下、より好ましくは0.5mm以下の射出成形体を形成することができる。薄肉部の厚さの下限値の目安は0.1mm程度である。薄肉部の厚さは、測定箇所の断面を測定顕微鏡等の公知手段で観察して測定される。
【0047】
本発明の射出成形体の形状は特に制限されず、種々の機械物性のバランスに優れ、薄肉化も可能であることから、容器に適している。前記容器の側壁の厚さは、例えば0.1~1mm、好ましくは0.1~0.7mm、より好ましくは0.1~0.5mmとすることができる。側壁の厚さは、測定箇所の断面を測定顕微鏡等の公知手段で観察して測定される。
【0048】
本発明の射出成形体が容器である場合、前記容器の側壁にインモールドラベルが備えられていてもよい。インモールドラベルは前記側壁を一巻き(一周)しており、始端の辺と終端の辺とが重なった合わせ部を有しているものが挙げられる。通常、インモールドラベルの本体は、容器本体をなすポリプロピレン系樹脂組成物とは異なる樹脂で形成されている。インモールドラベルの厚さは、例えば10~100μmとすることができる。インモールドラベルの厚さは、容器の側壁の厚さに含まれるものとする。インモールドラベルには、文字、絵、記号、数字、その他の任意の図形やデザイン画が印刷されていてもよい。
【0049】
本発明の射出成形体は低温耐衝撃性に優れるので、例えば、-10℃以下、好ましくは-20℃以下、より好ましくは-30℃以下の低温環境下で使用することができる。
【0050】
本発明の射出成形体は、食品衛生性に優れたポリプロピレン系樹脂組成物によって形成されているので、食品に接する容器又は包装体としての用途に適している。
前記ポリプロピレン系樹脂組成物からなる射出成形体について、後述するn-ヘプタン溶出試験によって求められる蒸発残留物の量は、35μg/ml以下が好ましく、30μg/ml以下がより好ましく、25μg/ml以下がさらに好ましい。
【0051】
本発明の射出成形体の引張弾性率は、900MPa以上が好ましく、1000MPa以上がより好ましい。
引張弾性率が高い程、剛性に優れた射出成形体であり、薄肉部を有する射出成形体の製造に有利である。
【0052】
本発明の射出成形体がインモールドラベルを備えた容器である場合、後述の試験方法において測定した圧縮距離(破壊ひずみ)は、50mm以上であることが好ましい。
この圧縮距離が長い程、容器が大きな変形に耐え、割れにくいことを示す。
【実施例0053】
以下に実施例及び比較例を示すが、本発明は以下の実施例だけに限定されない。
【0054】
<共重合体1の作製>
MgCl2上にTiCl4と内部ドナーとしてのジイソブチルフタレートを担持させた固体触媒を、欧州特許第728769号公報の実施例5の46~53行に記載された方法により調製した。具体的には下記のように行った。
【0055】
微小長球形MgCl2・2.1C2H5OHを、次のようにして製造した。タービン撹拌機および吸引パイプを備えた2Lオートクレーブ中に、不活性ガス中、常温で、無水MgCl2 48g、無水C2H5OH 77g、および灯油830mLを入れた。内容物を撹拌しながら120℃に加熱することにより、MgCl2とアルコールの間の付加物が生じたが、この付加物を融解し、分散剤と混合した。オートクレーブ内の窒素圧を15気圧に維持した。オートクレーブの吸引パイプを加熱ジャケットを用いて外部から120℃に加熱した。吸引パイプは内径が1mmで、加熱ジャケットの一端から他端までの長さが3mであった。このパイプを通して混合物を7m/secの速度で流した。パイプの出口にて、灯油2.5Lを含み、初期温度を-40℃に維持したジャケットで外部から冷却されている5Lフラスコ中に、分散液を撹拌しながら採取した。分散液の最終温度は0℃であった。エマルションの分散相を構成する球状固体生成物を沈降させ、濾過して分離し、ヘプタンで洗浄して乾燥した。これらの操作はすべて不活性ガス雰囲気中で行った。最大直径が50μm以下の固体球状粒子形のMgCl2・3C2H5OHを得た。収量は130gであった。こうして得られた生成物から、MgCl2 1モルあたりのアルコール含有量が2.1モルに減少するまで、窒素気流中で温度を50℃から100℃に徐々に上昇してアルコールを除去した。
【0056】
濾過バリヤーを備えた500mL円筒形ガラス製反応器に0℃で、TiCl4 225mLを入れ、さらに上記のようにして得た微小長球形MgCl2・2.1C2H5OH 10.1g(54mmol)を、内容物を撹拌しながら15分間かけて入れた。その後、温度を40℃に上げフタル酸ジイソブチル9mmolを入れた。温度を1時間かけて100℃に上げ、撹拌をさらに2時間続行した。次いで、TiCl4を濾過により除去し、120℃でさらに1時間撹拌しながらTiCl4 200mLを加えた。最後に、内容物を濾過し、濾液から塩素イオンが完全に消失するまで60℃のn-ヘプタンで洗浄した。このようにして得た触媒成分は、Ti=3.3重量%、フタル酸ジイソブチル=8.2重量%を含んでいた。
【0057】
次いで、上記固体触媒と、有機アルミニウム化合物としてトリエチルアルミニウム(TEAL)と、外部電子供与体化合物としてジシクロペンチルジメトキシシラン(DCPMS)を用い、固体触媒に対するTEALの質量比が20、TEAL/DCPMSの質量比が10(上述した有機ケイ素化合物/有機アルミニウムのモル比に換算すると0.05)となるような量で、12℃において24分間接触させた。
得られた触媒(X)を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃にて5分間保持することによって予重合を行った。
得られた予重合物を、二段の重合反応器を直列に備える重合装置の一段目の重合反応器に導入し、プロピレンを供給してプロピレン単独重合体を製造した。続いて、二段目の重合反応器に、プロピレン単独重合体、プロピレン及びエチレンを供給してエチレン-プロピレン共重合体を製造した。重合中は、温度と圧力を調整し、水素を分子量調整剤として用いた。
重合温度と反応物の比率は、一段目の反応器では、重合温度、水素濃度が、それぞれ70℃、2.32モル%、二段目の反応器では、重合温度、水素濃度、エチレンとプロピレンとの合計に対するエチレンの割合が、それぞれ80℃、3.62モル%、0.35モル比であった。また、エチレン-プロピレン共重合体の量が28質量%となるように一段目と二段目の滞留時間分布を調整した。以上の方法により、目的の共重合体1を得た。
得られた共重合体1は、連続相を構成するプロピレン重合体である成分(a1)とゴム相を構成するエチレン・プロピレン共重合体である成分(a2)との重合混合物であり、前述のポリプロピレン系樹脂(A)である。
共重合体1について、成分(a1)の分子量分布 Mw/Mn、成分(a1)のエチレン由来単位含有量、質量比 成分(a2)/[成分(a1)+成分(a2)]、成分(a2)のエチレン由来単位含有量、成分(a1)+成分(a2)のXSIV、成分(a1)+成分(a2)のMFRは表1に示すものであった。
表1中、フタレート系化合物を成分(ア)として含む触媒(X)を「Pht」と表し、スクシネート系化合物を成分(ア)として含む触媒(X)を「Suc」と表す。
【0058】
<共重合体2-7の作製>
成分(a2)/[成分(a1)+成分(a2)]の質量比が表1に記載の割合となるように、一段目と二段目の滞留時間分布を変更するとともに、成分(a1)+成分(a2)のMFRを調整するために一段目の水素濃度を表1に示す値に変更した以外は、共重合体1の場合と同様の製造方法にて、成分(a1)と成分(a2)の重合混合物からなる共重合体2-7の製造を試み、共重合体2-6については、目的の共重合体を得た。共重合体7については、成分(a2)/[成分(a1)+成分(a2)]の質量比が大きく(45質量%)、反応器が閉塞したので、目的の共重合体が得られなかった。
得られた共重合体について、共重合体1と同様に測定した。その測定値(共重合体7の場合は目標値)を表1に示す。
【0059】
<共重合体8-9、11-12の作製>
成分(a2)のエチレン由来単位含有量が表1に記載の割合となるように、二段目の反応器のエチレンとプロピレンとの合計に対するエチレンの割合を表1に示す値に変更した以外は、共重合体1の場合と同様の製造方法にて、成分(a1)と成分(a2)の重合混合物からなる共重合体8-9、11-12を得た。
これらの共重合体について、共重合体1と同様に測定した。その測定値を表1に示す。
【0060】
<共重合体10の作製>
成分(a1)+成分(a2)のXSIVと成分(a2)のエチレン由来単位含有量が表1に記載の値となるように、二段目の反応器の水素濃度とエチレンとプロピレンとの合計に対するエチレンの割合を表1に示す値に変更するとともに、成分(a1)+成分(a2)のMFRを調整するために一段目の水素濃度を表1に示す値に変更した以外は、共重合体1の場合と同様の製造方法にて、成分(a1)と成分(a2)の重合混合物からなる共重合体10を得た。この共重合体について、共重合体1と同様に測定した。その測定値を表1に示す。
【0061】
<共重合体13-18の作製>
成分(a1)+成分(a2)のXSIVが表1に記載の割合となるように二段目の反応器の水素濃度を表1に示す値に変更するとともに、成分(a1)+成分(a2)のMFRを調整するために一段目の水素濃度を表1に示す値に変更した以外は、共重合体1の場合と同様の製造方法にて、成分(a1)と成分(a2)の重合混合物からなる共重合体13-18の製造を試み、共重合体15以外については、目的の共重合体を得た。共重合体15については、成分(a1)+成分(a2)のXSIVが小さく(0.4)、製造が困難であったので、目的の共重合体が得られなかった。
得られた共重合体について、共重合体1と同様に測定した。その測定値(共重合体15の場合は目標値)を表1に示す。
【0062】
<共重合体19-23の作製>
成分(a1)+成分(a2)のMFRが表1に記載の値となるように一段目の反応器の水素濃度を表1に示す値に変更した以外は、共重合体1の場合と同様の製造方法にて、成分(a1)と成分(a2)の重合混合物からなる共重合体19-23を得た。
これらの共重合体について、共重合体1と同様に測定した。その測定値を表1に示す。
【0063】
<共重合体24、25の作製>
成分(a1)のエチレン由来単位含有量が表1に記載の割合となるように一段目の反応器のエチレン濃度を変更するとともに、成分(a1)+成分(a2)のMFRを調整するために一段目の水素濃度を表1に示す値に変更した以外は、共重合体1の場合と同様の製造方法にて、成分(a1)と成分(a2)の重合混合物からなる共重合体24と25を得た。
これらの共重合体について、共重合体1と同様に測定した。その測定値を表1に示す。
【0064】
<共重合体26の作製>
特表2011-500907号の実施例に記載の調製法に従い、固体触媒を以下の手順で調製した。
窒素でパージした500mLの4つ口丸底フラスコ中に、250mLのTiCl4を0℃において導入した。撹拌しながら、10.0gの微細球状MgCl2・1.8C2H5OH(USP-4,399,054の実施例2に記載の方法にしたがって、ただし10000rpmに代えて3000rpmで運転して製造した)、及び9.1ミリモルのジエチル-2,3-(ジイソプロピル)スクシネートを加えた。温度を100℃に上昇させ、120分間保持した。次に、撹拌を停止し、固体生成物を沈降させ、上澄み液を吸い出した。次に、以下の操作を2回繰り返した:250mLの新しいTiCl4を加え、混合物を120℃において60分間反応させ、上澄み液を吸い出した。固体を、60℃において無水ヘキサン(6×100mL)で6回洗浄した。
上記固体触媒と、TEAL及びDCPMSを、固体触媒に対するTEALの質量比が18であり、TEAL/DCPMSの質量比が10となるような量で、室温において5分間接触させた。得られた触媒系を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃において5分間保持することによって予重合を行った。得られた予重合物を、液相重合反応器と気相重合反応器を直列に備える重合装置の液相重合反応器に導入し、一段目の重合反応器でプロピレンの液相状態にてプロピレン重合体を製造し、二段目の気相重合反応器でエチレン・プロピレン共重合体を製造した。重合の際には、重合温度を80℃とし、重合圧力と触媒の添加量を調整するとともに、成分(a2)のエチレン由来単位含有量が所定の量となるように、二段目のエチレン供給量とプロピレン供給量を調整してエチレンとプロピレンとの合計に対するエチレンの割合を0.27モル比とした。また、分子量調整剤として水素を用いて、成分(a1)+成分(a2)のMFRとXSIVが所定の値となるように、水素濃度を一段目で1.51モル%、二段目で2.69モル%とした。また、質量比として成分(a2)/[成分(a1)+成分(a2)]が所定の量となるように、一段目及び二段目の滞留時間分布を調整した。以上の方法により、目的の共重合体26を得た。
得られた共重合体26は、連続相を構成するプロピレン重合体である成分(a1)とゴム相を構成するエチレン・プロピレン共重合体である成分(a2)との重合混合物であり、前述のポリプロピレン系樹脂(A)である。
共重合体26について、成分(1)の分子量分布 Mw/Mn、成分(1)のエチレン由来単位含有量、質量比 成分(a2)/[成分(a1)+成分(a2)]、成分(a2)のエチレン由来単位含有量、成分(a1)+成分(a2)のXSIV、成分(a1)+成分(a2)のMFRは表1に示すものであった。
【0065】
【0066】
【0067】
表1の測定結果は下記の測定方法によって測定された値である。
【0068】
<成分(a1)のMw/Mn>
一段目の反応器で重合した成分(a1)を採取した試料2.5gを測定試料とし、以下のように、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)の測定を行い、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除して分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
装置としてポリマーラボラトリーズ社製PL GPC220を使用し、酸化防止剤を含む1,2,4-トリクロロベンゼンを移動相とし、カラムとして昭和電工社製UT-G(1本)、UT-807(1本)、UT-806M(2本)を直列に接続したものを使用し、検出器として示差屈折率計を使用した。また、試料溶液の溶媒としては移動相と同じものを使用し、1mg/mLの試料濃度で、150℃の温度で振とうさせながら2時間溶解して測定試料を調製した。これにより得た試料溶液500μLをカラムに注入し、流速1.0mL/分、温度145℃、データ取り込み間隔1秒で測定した。カラムの較正には、分子量580~745万のポリスチレン標準試料(Shodex STANDARD、昭和電工株式会社製)を使用し、三次式近似で行った。Mark-Houwink-Sakuradaの係数は、ポリスチレン標準試料に関しては、K=1.21×10-4、α=0.707、ポリプロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体、およびポリプロピレン系重合体に関しては、K=1.37×10-4、α=0.75を使用した。
【0069】
<共重合体の総エチレン量、成分(a1)のエチレン由来単位含有量>
1,2,4-トリクロロベンゼン/重水素化ベンゼンの混合溶媒に溶解した共重合体試料について、Bruker社製AVANCEIII HD400(13C共鳴周波数100MHz)を用い、測定温度120℃、フリップ角45度、パルス間隔7秒、試料回転数20Hz、積算回数5000回の条件で13C-NMRのスペクトルを得た。
上記で得られたスペクトルを用いて、Kakugo,Y.Naito,K.Mizunuma and T.Miyatake,Macromolecules,15,1150-1152(1982)の文献に記載された方法により、共重合体試料の総エチレン量(質量%)を求めた。
なお、成分(a1)を試料として測定する場合、上記方法により得られる総エチレン量(質量%)は、成分(a1)のエチレン由来単位含有量(質量%)となる。
【0070】
<成分(a2)中のエチレン由来単位含有量>
上記文献に記載された方法で共重合体の総エチレン量を測定するに際して求めたTββの積分強度の替わりに、下記式で求めた積分強度T’ββを使用した以外は、総エチレン量と同様の方法で計算を行い、成分(a2)のエチレン由来単位含有量(質量%)を求めた。
T’ββ=0.98×Sαγ×A/(1-0.98×A)
ここで、A=Sαγ/(Sαγ+Sαδ)であり、上記文献に記載のSαγ及びSαδより算出される。
なお、成分(a1)と成分(a2)からなる共重合体において、成分(a1)がエチレン単位を含む場合の成分(a2)中のエチレン由来単位含有量は、質量比 成分(a2)/[成分(a1)+成分(a2)]が重合条件より明らかな場合(前記共重合体24と25が該当)、下記式により求めた。
成分(a2)のエチレン由来単位含有量(単位:質量%)=
[共重合体の総エチレン量
-成分(a1)のエチレン由来単位含有量×共重合体中の成分(a1)の含有割合]
/(共重合体中の成分(a2)の含有割合)
【0071】
<質量比 成分(a2)/[成分(a1)+成分(a2)]>
下記式により求めた。
成分(a2)/[成分(a1)+成分(a2)](単位:質量%)=共重合体の総エチレン量/(成分(a2)中のエチレン由来単位含有量/100)
【0072】
<成分(a1)+成分(a2)のXSIV>
以下の方法によって共重合体のキシレン可溶分を得て、キシレン可溶分の極限粘度(XSIV)を測定した。
共重合体のサンプル2.5gを、o-キシレン(溶媒)を250mL入れたフラスコに入れ、ホットプレート及び還流装置を用いて、135℃で、窒素パージを行いながら、30分間撹拌し完全溶解させた後、25℃で1時間、冷却した。これにより得られた溶液を、濾紙を用いて濾過した。濾過後の濾液を100mL採取し、アルミニウムカップ等に移し、窒素パージを行いながら、140℃で蒸発乾固を行い、室温で30分間静置して、キシレン可溶分を得た。
極限粘度は、テトラヒドロナフタレン中、135℃において毛細管自動粘度測定装置(SS-780-H1、株式会社柴山科学器械製作所製)を用いて測定した。
【0073】
<成分(a1)+成分(a2)のMFR>
共重合体の試料5gに対し、本州化学工業株式会社製H-BHTを0.05g添加し、ドライブランドにより均一化した後、JIS K6921-2に従い、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定した。
【0074】
[実施例1~20、比較例1~12]
表2に示す組成で成分(A)~(C)を配合し、成分(A)~(C)の総量100質量部に対し、酸化防止剤としてBASF社製B225を0.2質量部、中和剤として淡南化学工業株式会社製カルシウムステアレートを0.05質量部加え、ヘンシェルミキサーで1分間撹拌、混合した。当該混合物を、株式会社JSW製同方向2軸押出機TEX-30αを用いて、シリンダー温度200℃で溶融混練して押出した。ストランドを水中で冷却した後、ペレタイザーでカットし、ポリプロピレン系組成物のペレットを得た。このようにして製造したポリプロピレン系樹脂組成物、およびこれらを用いて得た射出成形体について各種物性を評価した。結果を表2に示す。
【0075】
【0076】
【0077】
表2の各成分は次の通りである。
成分(A)は、表1の共重合体1~26である。
【0078】
成分(B)は、下記のエチレン・αオレフィン共重合体である。
B-1:ダウケミカル社製、エンゲージ 8100、エチレン・オクテン共重合体、MFR(190℃、荷重2.16kg)=1.0g/10分
【0079】
成分(C)は、下記の核剤である。
C-1:株式会社ADEKA製アデカスタブ NA11(リン酸エステル系核剤)
C-2:ネオライト興産株式会社製、ネオタルクUNI05(レーザ回折法によって測定した体積平均粒子5μmのタルク)
C-3:ミリケンジャパン株式会社製 Millad 3988(ソルビトール系核剤)
【0080】
他の成分は、次の添加剤である。
酸化防止剤:BASF社製B225
中和剤:淡南化学工業株式会社製カルシウムステアレート
【0081】
表2A~表2Bの測定結果及び評価結果は下記の方法によって測定及び評価された値である。
【0082】
<流動性 MFR>
ポリプロピレン系樹脂組成物のMFRは、JIS K6921-2に基づき温度230℃および荷重2.16kgの条件下で測定した。
【0083】
<剛性 引張弾性率>
JIS K6921-2に従い、射出成形機(ファナック株式会社製FANUC ROBOSHOT S2000i)を用い、溶融樹脂温度を200℃、金型温度40℃、平均射出速度200mm/秒、保圧時間40秒、全サイクル時間60秒の条件にて、ポリプロピレン系樹脂組成物からJIS K7139に規定する多目的試験片(タイプA1)を射出成形し、測定用試験片を得た。JIS K7161-2に従い、株式会社島津製作所製精密万能試験機(オートグラフAG-X 10kN)を用い、温度23℃、相対湿度50%、試験速度1mm/分の条件で引張弾性率を測定した。
【0084】
<低温耐衝撃性 面衝撃強度>
パンクチャー衝撃試験機(島津製作所製ハイドロショットHITS-P10)を用い、JIS K7211-2に準拠し、前記測定用試験片の-20℃における面衝撃強度を測定した。面衝撃強度の値が大きい程、耐衝撃性に優れる。
【0085】
<食品衛生性 n-ヘプタン溶出試験 蒸発残留物>
縦×横×厚さが80×80×0.5mmであるプレスシートを(株)ショージ製36tプレス成型機を用いて、熱盤温度230℃、冷却盤温度30℃、加圧5MPaの条件で得た。このプレスシートを試験片として、250mlのn-ヘプタン(25℃)に浸漬し、1時間放置した。次に試験片を取り出して得たn-ヘプタン(試験溶液)をナス型フラスコに移し、減圧濃縮して数mlとしたその濃縮液及びそのフラスコをヘプタン約5mlずつで2回洗ったその洗液を、あらかじめ105℃で乾燥した重量既知の耐熱ガラス製の蒸発皿にとり、水浴上で蒸発乾固させた。次いで、105℃で2時間乾燥し、デシケーター中で放冷した後、秤量して蒸発皿の前後の重量差を求めて、蒸発残留物の量(単位:μg/ml)を算出した。以上の試験は、厚生省告示第370号に記載の方法に準拠して行った。
算出した蒸発残留物の量が35μg/ml以下である場合に基準を満たすとした。当該量は少ない程好ましい。
【0086】
<成形性>
ハイサイクル(サイクル時間:10秒)における射出成形性を評価した。
射出成形機(SE230HY、住友重機(株)製)を用い、シリンダー設定温度250℃、金型温度15℃、サイクル時間10秒の条件で、ポリプロピレン系樹脂組成物を、外径71mm、高さ110mm、厚さ0.5mmのドリンク容器(液体を保持して飲食用に供することに適した容器)に成形した。金型から容器を取り出すために15mmφの突き出しピンで容器の底部を100mm/secの速度で突き出した。この際、下記の基準で評価した。
「〇」: 問題なく成形できた。
「×」: 容器の剛性が低すぎるため、金型から容器を取り出す際に突き出しピンの力で座屈してしまう。もしくは、流動性が低すぎるため、ショートショットとなり、完全な形状の容器を成形できない。
【0087】
<インモールドラベルを備えた容器の破壊ひずみ>
上記と同様にして同じ形状の容器を成形した。この際、金型内に矩形のインモールドラベル用のフィルム(厚さ:60μm、材質:PP)を装填して、容器の外周面を一巻きするインモールドラベル(以下、ラベルという。)を取り付けた。成形後の容器の側面において、上記矩形のフィルムの一方の短辺から他方の短辺に向けてフィルムが容器の側面を巻いており、一方の短辺と他方の短辺が重なる位置で互いにシールされている。このシールされた部分が、ラベルの合わせ面(継ぎ目)であり、容器が押し潰されたときに破壊が起き易い箇所である。
図1~2に示すように、ハイドロショット(HIPS-P10、(株)島津製作所製)装置を用いて、0℃に温度調節した支持台上に容器を横置きで配置し、ストライカー(20mmφの円柱の押し棒)を容器の側面の中央付近のラベルに押し当てて高速で圧縮変形させ、ラベルの合わせ面に沿って破壊が生じるまでのストライカーの圧縮距離(単位:mm)を測定した。この距離が長いほど、ラベルを備えた容器が大きな変形に耐え、割れにくいことを示す。
図1は試験開始時、
図2は圧縮変形後の試験機内部の様子をそれぞれ示す。
ストライカーを押し当てる条件は下記とした。
衝撃速度 :1m/sec
最大到達値 :80.5mm
サンプリング点数:1200点
サンプリング時間:50μsec
データ採取時間:600msec
n数:5
【0088】
<外観>
射出成形機(α100C、(株)ファナック製)を用い、シリンダー設定温度230℃、金型温度40℃の条件で、ポリプロピレン系樹脂組成物を、130mm角で厚さが2mmの平板に成形した。この平板を試験片として外観を評価する前に、温度23±2℃、相対湿度50±5%の室内に48時間保管して状態調整した。次に試験片を目視により観察し、下記の基準で評価した。
「○」:良好:成形体の外観不良(「ゲル」:成分(a2)中の高粘度成分の凝集による粒状の表面荒れ)が見られない。
「×」:不良:成形体の外観不良(「ゲル」:成分(a2)中の高粘度成分の凝集による粒状の表面荒れ)が見られる。
【0089】
<臭気>
上記と同様にして同じ形状の容器を成形した。試験者が容器の臭いを嗅いで臭気を下記の基準で評価した。
「○」:臭気の発生はない。
「△」:臭気の発生は極微量。
「×」:臭気の発生がある。
【0090】
<生産性>
「○」:ポリプロピレン系樹脂の製造工程が安定しており、生産できた。
「×」:ポリプロピレン系樹脂の製造工程が安定せず、生産が困難であった。
【0091】
≪作用効果≫
実施例1~20の射出成形体(ドリンク容器等)は、所定の物性を有するポリプロピレン系樹脂組成物を用いているので、剛性、面衝撃強度、成形性、インモールドラベルの合わせ面における耐久性(破壊ひずみ)、外観、臭気、及び生産性のバランスに優れるだけでなく、食品容器や食品包装用途に求められる食品衛生性(n-ヘプタン溶出試験蒸発残留物が基準値以下(ここでは35μg/ml)であること)を満たしている。
上記のバランスが優れるだけでなく、食品衛生性の基準を満たすために、本発明者らは組成物全体の配合を見直す必要があった。つまり、n-ヘプタン溶出試験蒸発残留物を減らすためには、成分(a2)のエチレン由来単位含有量を所定値以下に抑える必要があり、そうすると、機械物性が劣る問題に直面した。例えば、成分(a2)のエチレン由来単位含有量は、組成物のゴム的性質に影響するので、あまり少ないと低温下での耐衝撃性が劣化し易くなる。このため、成分(a1)+成分(a2)のXSIV値等の他のパラメータを鋭意調整することにより、食品衛生性の基準を満たしつつ、他の機械物性のバランスを高いレベルで整えて、本発明を完成した。
【0092】
比較例1は、成分(C)を含まず、剛性が劣り、射出成形された成形品を金型から取り出す際に問題が生じた。すなわち、剛性が低いため突き出しピンで金型の外へ押し出す際に座屈した。
比較例2は、成分(B)の含有量が多く、剛性が劣り、射出成形された成形品を金型から取り出す際に問題が生じた。すなわち、剛性が低いため突き出しピンで金型の外へ押し出す際に座屈した。
比較例3は、成分(A)における成分(a2)の含有量が少なく、面衝撃強度が弱く、低温環境下での使用に懸念がある。
比較例4は、成分(A)における成分(a2)の含有量が多く、製造が困難であった。
比較例5は、成分(a2)のエチレン由来単位含有量が多く、食品衛生性の基準を満たさなかった。
比較例6は、成分(a2)のエチレン由来単位含有量が少なく、面衝撃強度が弱く、低温環境下での使用に懸念がある。
比較例7は、成分(a1)+成分(a2)のXSIVが小さく、成分(A)の製造が困難であった。
比較例8は、成分(a1)+成分(a2)のXSIVが大きく、面衝撃強度が弱く、低温環境下での使用に懸念があり、射出成形体表面の外観が劣る。
比較例9は、成分(a1)+成分(a2)の流動性および樹脂組成物の流動性が低く、成形性が劣っていた。すなわち、ショートショットの問題が生じた。
比較例10は、成分(a1)+成分(a2)の流動性および樹脂組成物の流動性が高く、面衝撃強度が弱く、低温環境下での使用に懸念がある。
比較例11は、成分(a1)のエチレン由来単位含有量が多く、剛性が劣り、射出成形された成形品を金型から取り出す際に問題が生じた。
比較例12は、成分(a1)の分子量分布が広く、インモールドラベルを備えた場合の圧縮変形に対する耐性に懸念がある。