(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149497
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】摺動部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/12 20060101AFI20220929BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20220929BHJP
F16C 17/02 20060101ALI20220929BHJP
C22C 9/06 20060101ALN20220929BHJP
C22C 9/02 20060101ALN20220929BHJP
C22F 1/08 20060101ALN20220929BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
F16C33/12 A
C21D9/00 A
F16C17/02 Z
C22C9/06
C22C9/02
C22F1/08 G
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 602
C22F1/00 630Z
C22F1/00 630D
C22F1/00 650A
C22F1/00 630A
C22F1/00 631A
C22F1/00 626
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051692
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】中井 雅博
【テーマコード(参考)】
3J011
4K042
【Fターム(参考)】
3J011AA20
3J011BA02
3J011DA01
3J011DA02
3J011KA02
3J011MA02
3J011NA01
3J011SB03
3J011SB05
3J011SB15
3J011SB20
4K042AA25
4K042BA01
4K042BA03
4K042CA05
4K042DA05
4K042DA06
4K042DC02
4K042DC03
4K042DD02
4K042DE02
(57)【要約】
【課題】加工工数の増大を招くことなく、高温の環境下における変形が小さく、耐摩耗性及び耐焼付性の高い摺動部材を提供する。
【解決手段】本実施形態の摺動部材10は、筒状のCu基合金で形成され、板厚方向の内周側に摺動面12、及び摺動面12と反対側に外周面13を有する本体11を備える。本体11は、板厚方向の一方の端部が摺動面12に面し、他方の端部が外周面13に面する構造体15を含む。本体11の断面における任意の観察視野において、構造体15が占める割合S(%)は、30≦S≦80である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のCu基合金で形成され、
板厚方向の内周側に摺動面、及び前記摺動面と反対側に外周面を有する本体を備える摺動部材であって、
前記本体は、板厚方向の一方の端部が前記摺動面に面し、他方の端部が前記外周面に面する構造体を含み、
前記本体の断面における任意の観察視野において、前記構造体が占める割合S(%)は、30≦S≦80である摺動部材。
【請求項2】
前記本体は、円相当径D(μm)が0.2≦D≦10の析出物をさらに含む請求項1記載の摺動部材。
【請求項3】
Cu基合金を鋳造により成形する成形工程と、
前記成形工程で成形された成形物を、予め設定された第一温度で予め設定された第一時間で保持した後、水冷する第一熱処理工程と、
前記第一熱処理工程を経た前記成形物を、前記第一温度よりも低く予め設定された第二温度で前記第一時間よりも長い予め設定された第二時間で保持する第二熱処理工程と、
を含む摺動部材の製造方法。
【請求項4】
前記第一温度は、725~775℃に設定され、
前記第一時間は、5~30分に設定され、
前記第二温度は、400~450℃に設定され、
前記第二時間は、4~8時間に設定されている請求項3記載の摺動部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、摺動部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特に、ディーゼルエンジンなどの内燃機関では、出力及び熱効率の向上にともない高温の環境下でも安定した作動が求められている。そのため、例えばクランクシャフトやピストンピンなどの回転軸は、摺動部材による高温の環境下における支持が必要となる。このような高温の環境下では、軸受装置に用いられる摺動部材は、クリープ特性が不足すると、使用時の変形を招くおそれがある。そこで、スピノーダル分解型の合金を利用して、高温での強度の向上が図られている(特許文献1、2参照)。
【0003】
しかしながら、一般的なスピノーダル分解型の合金は、熱処理及び塑性加工を必要とする。そのため、所望の摺動部材を得るためには、工数の増加及び複雑化を招くという問題がある。また、熱間加工による塑性加工は加工時に加える力を大きくすると割れを招きやすく、冷間加工による塑性加工は工数が増加する。さらに、スピノーダル分解型の合金に含まれる微細な化合物は、強度や硬度の向上に寄与するものの耐焼付性が低いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】ドイツ特許出願公開DE4121994A1号公報
【特許文献2】特表平11-506804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、加工工数の増大を招くことなく、高温の環境下における変形が小さく、耐摩耗性及び耐焼付性の高い摺動部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するための本実施形態の摺動部材は、筒状のCu基合金で形成され、板厚方向の内周側に摺動面、及び前記摺動面と反対側に外周面を有する本体を備える。
本体は、板厚方向の一方の端部が摺動面に面し、他方の端部が外周面に面する構造体を含む。
本体の断面における任意の観察視野において、構造体が占める割合S(%)は、30≦S≦80である。
【0007】
このように、本体に含まれる構造体は、摺動面から外周面まで板厚方向に存在している。そのため、構造体は、本体の内部において隣り合う構造体や析出物などの粒子と接する部分が減少する。そして、構造体は、板厚方向つまり摺動面に対して垂直に伸びている。そのため、本体は、摺動面から加わる力に対する耐性が向上し、粒子間の滑りも生じにくい。したがって、高温の環境下における変形を小さくすることができ、強度の向上により耐摩耗性及び耐焼付性を高めることができる。
【0008】
また、本実施形態の場合、板厚方向へ伸びる構造体によって高温の環境下のクリープにともなう変形が低減される。そして、構造体及び析出物は、熱処理によって生成する。そのため、本体の形成において、例えば一般的なスピノーダル分解型の合金のような塑性加工を必要としない。したがって、加工工数を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態による摺動部材の断面における本体の組織構造を示す模式図
【
図2】一実施形態による摺動部材を示す模式的な斜視図
【
図3】一実施形態による摺動部材のクリープ試験の試験条件を示す概略図
【
図4】一実施形態による摺動部材の焼付試験の試験条件を示す概略図
【
図5】一実施形態による摺動部材の摩耗試験の試験条件を示す概略図
【
図6】一実施形態による摺動部材の実施例及び比較例の評価を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、一実施形態による摺動部材を図面に基づいて詳細に説明する。
図2に示すように摺動部材10は、Cu基合金で形成されている本体11を備えている。本体11は、円筒状に形成されており、内周側に摺動面12、及び外周側に外周面13を有している。本体11を構成するCu基合金は、Niを4.0~8.0質量%、及びSnを4.0~8.0質量%を含んでおり、残部が主成分となるCu及び不可避的な不純物である。
【0011】
本体11は、
図1に示すようにマトリクス相14、構造体15及び析出物16を含んでいる。マトリクス相14は、本体11を構成する主たる部分であり、Cu基合金で形成されている。構造体15及び析出物16は、このマトリクス相14に分散している。構造体15は、単結晶の集合体で構成されている。構造体15は、本体11の板厚方向において一方の端部が摺動面12に面しており、他方の端部が外周面13に面している。すなわち、本体11を構成するマトリクス相14に含まれる構造体15は、板厚方向において摺動面12から外周面13に達している。この構造体15は、例えば樹木状に成長した結晶が集合したデンドライト集合体であり、摺動部材10の本体11となるCu合金を構成する金属間化合物の単結晶の集合体である。
【0012】
この構造体15は、本体11の断面に設定した観察視野に占める割合S(%)が、30≦S≦80である。以下、割合S(%)の単位の表記「%」は省略する。すなわち、構造体15は、観察視野の全体に対する面積の割合Sが、30≦S≦80である。構造体15は、面積の割合SがS<30となると、変形に対する強度が低下する。また、構造体15は、S<30となると、クリープ後に残存する伸びが過大となる。一方、構造体15は、80<Sとなると、引張強度の低下につながる。したがって、構造体15の割合Sは、30≦S≦80であることが好ましい。観察視野は、本体11の板厚方向の断面であれば任意の断面に設定することができる。例えば、観察視野は、
図2に示すように円筒状の摺動部材10の中心軸Cに対して垂直な断面Cs1に設定してもよく、中心軸Cに平行な断面Cs2に設定してもよく、これらから任意の角度傾斜した断面に設定してもよい。
【0013】
図1に示すように本体11は、構造体15に加え、析出物16を含んでいる。析出物16は、本体11を構成するCu合金のマトリクス相14に含まれており、摺動面12又は外周面13に面していてもよく、面していなくてもよい。析出物16は、Cu基合金に含まれるSn、Niを由来とする化合物である。析出物16は、例えばCu-Sn化合物、Ni-Sn化合物などである。析出物16は、円相当径D(μm)の平均が0.2≦D≦10である。以下、円相当径D(μm)の単位の表記「μm」は省略する。析出物16は、本体11を構成するCu合金のマトリクス相14よりも硬度が大きい。そのため、硬度の大きな析出物16は、摺動部材10と摺動する図示しない相手部材の表面を平滑化する。これにより、析出物16は、相手部材の表面粗さを小さくし、滑りを生じやすくする。
【0014】
また、析出物16は、相手部材に凝着したCu合金を除去する。そのため、析出物16は、相手部材へのマトリクス相14などの凝着にともなう摩耗を低減する。析出物16は、円相当径DがD<0.2となると、凝着した合金を除去する能力が低下する。そのため、摺動部材10と相手部材との摺動時における焼付が生じやすくなる。一方、析出物16は、10<Dとなると、本体11に含まれる析出物16が過大となり、本体11に占める析出物16の割合も増加する。そのため、析出物16は、10<Dとなると、摺動部材10の引張強度の低下につながる。したがって、析出物16の円相当径Dは、0.2≦D≦10であることが好ましい。
【0015】
本実施形態場合、摺動部材10は、本体11に構造体15を含んでいる。この構造体15は、本体11の板厚方向に摺動面12から外周面13に達している。そのため、構造体15は、マトリクス相14や隣り合う構造体15との間で板厚方向における境界が減少する。つまり、マトリクス相14や構造体15が相互に接する部分は減少する。その結果、マトリクス相14や隣り合う構造体15の相互間における滑りは減少する。これにより、本体11の摺動面12に大きな力が加わっても、本体11を構成する組織の滑りに起因する変形は低減される。また、構造体15は、摺動面12に対して垂直な本体11の板厚方向へ形成されている。そのため、構造体15は、摺動面12に大きな力を受けても変形しにくくなる。これらの結果、高温の環境下における変形を小さくすることができ、強度の向上により耐摩耗性及び耐焼付性を高めることができる。
【0016】
摺動部材10は、その硬度H(Hv5)が180≦H≦300であることが好ましい。以下、硬度H(Hv5)の単位の表記「Hv5」は省略する。硬度Hは、過大になると相手部材の損傷を招き、過小になると摩耗量の増加を招く。摺動部材10の硬度Hは、Cu基合金に添加されるSn及びNiによって制御される。また、摺動部材10は、引張強度TS(MPa)が500≦TS≦1000であることが好ましい。以下、引張強度TS(MPa)の単位の表記「MPa」は省略する。摺動部材10は、その機械的な強度を維持するために引張強度TSを上記の範囲に設定している。
【0017】
次に、摺動部材10の製造方法について説明する。
摺動部材10の本体11となる成形物は、Cu基合金の鋳造により成形される。成形された成形物は、第一熱処理工程及び第二熱処理工程において、熱処理が施され、マトリクス相14に構造体15及び析出物16を含む本体11として生成される。熱処理が施された成形体は、さらに切削加工を経て摺動部材10の本体11として生成される。
【0018】
第一熱処理工程は、溶体化処理であり、鋳造によって得られた成形物を第一温度で第一時間保持することによって実施される。この場合、第一温度は、725℃~775℃程度に設定することが好ましい。また、第一時間は、5~30分程度に設定することが好ましい。溶体化処理は、一般に添加元素であるSnやNiがマトリクス相14に固溶しやすい温度で実施される。しかし、摺動部材10は、比較的硬質の化合物の析出物16がマトリクス相14に分散することにより、耐焼付性が向上する。そこで、第一温度は、Sn及びNiの化合物がマトリクス相14に分散するように、溶体化が促される温度よりも低い温度に設定している。
【0019】
第二熱処理工程は、時効処理であり、溶体化処理による第一熱処理工程を実施した後、第二温度で第二時間保持することによって実施される。この場合、第二温度は、400℃~450℃程度に設定することが好ましい。また、第二時間は、4~8時間程度に設定することが好ましい。これら第一熱処理工程及び第二熱処理工程によって、鋳造で得られた成形物は、デンドライト集合体からなる構造体15の成長が促されるとともに、析出物16の成長が促される。時効処理のための第二温度及び第二時間は、摺動部材10に要求される性能、特に要求される硬度Hに応じて設定される。本実施形態の場合、第二熱処理工程は、耐焼付性及び加工性の観点から、硬度Hが最大とならないように過時効に設定している。
【0020】
第二熱処理工程によって得られた成形物は、簡単な塑性加工つまり切削加工によって摺動部材10の本体11として生成される。成形体は、内周側及び外周側をそれぞれ切削することにより、内周側及び外周側の最表面に形成される表層いわゆるチル層が削除される。これにより、成形体は、内周側に摺動面12が形成されるとともに、本体11の内部に生成した構造体15が摺動面12及び外周面13の双方に面する摺動部材10として生成される。
【0021】
(実施例)
上述の構成による実施形態による実施例は、比較例とともに「クリープ試験」、「焼付試験」及び「摩耗試験」を実施して性能を評価した。
クリープ試験は、
図3に示すように230℃の条件下において、320MPaの負荷を加えて24時間実施した。クリープ試験は、この試験条件における試験後の伸び率に基づいてクリープ特性を評価した。焼付試験は、
図4に示す条件によって実施した。焼付試験は、試験対象に加える荷重を変化させながら実施した。焼付試験は、焼付を生じない最大となる面圧に基づいて耐焼付性を評価した。摩耗試験は、
図5に示す条件で20時間実施した。摩耗試験は、20時間経過後の摩耗量に基づいて耐摩耗性を評価した。こられの他に、実施例及び比較例は、硬度H及び引張強度TSを測定した。
【0022】
本体11に含まれる構造体15の割合S及び析出物の円相当径Dは、画像処理を施した組成像に基づいて測定した。具体的には、本体11の中心軸Cに垂直な断面Cs1を露出させた後、エッチングを施し、その表面の組成像を電子顕微鏡で撮影した。得られた組成像は、一般的な画像解析ソフトを用いて画像処理を施した。割合Sは、画像処理を施した組成像に基づいて、構造体15を特定して測定した。また、析出物16の円相当径Dは、画像処理した組成像に基づいて、析出物16を特定して測定した。組成像の倍率は、任意に設定することができる。本実施形態の場合、組成像の倍率は100倍に設定した。
【0023】
図6に示すように実施例1~実施例9は、いずれも構造体15の割合Sが30≦S≦80の範囲に含まれている。これら実施例1~実施例9は、割合Sの条件を満たさない比較例1~比較例3と比較して、クリープ試験後の伸び率が減少するとともに、耐焼付性及び耐摩耗性が向上する。したがって、実施例1~実施例9は、高温下における摺動部材10の特性が向上していることがわかる。
【0024】
一方、比較例1は、第一熱処理工程における溶体化処理で供給される熱量の上限を超えている。このような比較例1は、構造体15の割合Sが過大となり、引張強度TSの低下を招く。また、比較例1は、析出物16の円相当径Dが過小となり、耐焼付性の低下を招く。比較例2は、第一熱処理工程における溶体化処理で供給される熱量の下限を下回っている。このような比較例2は、構造体15の割合Sが過小となり、クリープ試験で破断を招いている。比較例3は、第二熱処理工程における時効処理で供給される熱量が下限を下回っている。このような比較例3は、析出物が生成せず、耐焼付性の極端な低下を招いている。また、比較例3は、硬度Hが低く、耐摩耗性が低下している。
【0025】
次に、実施例2~実施例9について、実施例1を基準に比較して説明する。
実施例2は、第一熱処理工程における溶体化処理を上限で行なっている。すなわち、実施例2は、第一熱処理工程において供給される熱量が実施例1に比較して増加する。そのため、実施例2は、構造体15の割合Sが増大するとともに、析出物16の円相当径Dが減少する。その結果、実施例2は、実施例1と比較してクリープ試験後の伸び率が減少するものの、耐焼付性が低下する。実施例3は、実施例3とは反対に第一熱処理工程における溶体化処理を下限で行なっている。すなわち、実施例3は、第一熱処理工程において供給される熱量が比較例1に比較して減少する。そのため、実施例3は、構造体15の割合Sが減少するとともに、析出物16の円相当径Dが増大する。その結果、実施例3は、実施例1と比較してクリープ試験後の伸び率が増大するものの、耐焼付性が向上する。
【0026】
実施例4は、Cu基合金に添加するSn及びNiの割合が上限となっている。実施例4は、Sn及びNiの割合が大きくなることにより、本体11の硬度Hが増大する。そのため、実施例4は、実施例1と比較して耐焼付性が低下する。実施例5は、Cu基合金に添加するSn及びNiの割合が下限となっている。実施例5は、Sn及びNiの割合が小さくなることにより、本体11の硬度Hが減少する。そのため、実施例5は、実施例1と比較して耐摩耗性が低下する。
【0027】
実施例6は、第二熱処理工程において供給される熱量が上限となっている。これにより、実施例6は、実施例1と比較して過時効となり、析出物16の円相当径Dが増大するものの、本体11の硬度Hが低下する。そのため、実施例6は、実施例1と比較して、耐焼付性が向上するものの、耐摩耗性が低下する。実施例7は、第二熱処理工程において供給される熱量が下限となっている。これにより、実施例7は、析出物16の円相当径Dが減少し、本体11の硬度Hが増大する。そのため、実施例7は、実施例1と比較して耐焼付性が低下する。
【0028】
実施例8は、Cu基合金に添加するSn及びNiが下限を下回っている。そのため、実施例8は、実施例5と同様に、本体11の硬度Hが小さくなる。そのため、実施例8は、実施例1と比較して耐摩耗性が低下する。実施例9は、Cu基合金に添加するSn及びNiが上限を上回っている。そのため、実施例9は、実施例4と同様に、本体11の硬度Hが大きくなる。そのため、実施例9は、実施例1と比較して耐焼付性が低下する。
【0029】
以上説明したように一実施形態の摺動部材10は、本体11に、摺動面12から外周面13まで板厚方向に存在する構造体15を含んでいる。そのため、構造体15は、本体11の内部において、マトリクス相14、隣り合う構造体15及び析出物16などの粒子と接する部分が減少する。そして、構造体15は、摺動面12から外周面13に達することから、板厚方向つまり摺動面12に対して垂直な方向に伸びている。そのため、本体11は、摺動面12から加わる力に対する耐性が向上し、組織を構成する粒子間の滑りも生じにくい。したがって、高温の環境下における変形を小さくすることができ、強度の向上により耐摩耗性及び耐焼付性を高めることができる。
【0030】
また、本実施形態の場合、板厚方向へ伸びる構造体15によって高温の環境下における変形が低減される。そして、構造体15及び析出物16は、第一熱処理工程における溶体化処理及び第二熱処理工程における時効処理によって生成する。そのため、摺動部材10は、例えば一般的なスピノーダル分解型の合金のような複雑な塑性加工を必要としない。したがって、加工工数を低減することができる。
【0031】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0032】
図面中、10は摺動部材、11は本体、12は摺動面、13は外周面、15は構造体、16は析出物を示す。