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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149500
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】車両サイドドアの構造
(51)【国際特許分類】
   B60J 5/00 20060101AFI20220929BHJP
   B60J 5/06 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B60J5/00 P
B60J5/00 M
B60J5/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051697
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】小柳出 康雄
(57)【要約】
【課題】サイドドアの剛性を向上させサ、ドア開状態における安定性を向上させる。
【解決手段】車両サイドドア構造は、ドアインナパネル10と車体とを連結するスイングアームが設けられる。ドアインナパネル10の前端部には、前側ラッチ取付部15Aが設けられ、後端部には、後側ラッチ取付部15Bが設けられている。ドアインナパネル10には、ベルトライン部14が設けられ、ドアインナパネル10の前部には、上下方向に延びる前側リンフォースメント21が接合され、前側リンフォースメント21の下部は、ドアインナパネル10の下部に配置され、上部は、ベルトライン部14に配置されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドアアウタパネルと、該ドアアウタパネルの車両内側に設けられたドアインナパネルとを有し、
前記ドアインナパネルの車両前後方向の中間部には、前記ドアインナパネルと車体とを連結するスイングアームが設けられ、
前記ドアインナパネルの前端部には、前側ラッチ取付部が設けられ、前記ドアインナパネルの後端部には、後側ラッチ取付部が設けられている車両サイドドアの構造において、
前記前側ラッチ取付部は、前記後側ラッチ取付部よりも車両下方に配置されており、
前記ドアインナパネルには、車両前後方向に延びるベルトライン部が設けられ、
前記ドアインナパネルの前部には、車両上下方向に延びる前側リンフォースメントが接合され、
前記前側リンフォースメントの下部は、前記ドアインナパネルの下部に配置され、前記前側リンフォースメントの上部は、前記ベルトライン部に配置されていることを特徴とする、車両サイドドアの構造。
【請求項2】
前記ドアインナパネルは、車両外側を臨む主壁部と、該主壁部の前端から車両外側に延びる前壁部と、を有し、
前記前側リンフォースメントには、車両外側を臨む外面の前端から車幅方向外側に屈曲し、前記前壁部に接合されるフランジが設けられ、
前記フランジの下部は、前記前壁部の下部に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の車両サイドドアの構造。
【請求項3】
前記前側ラッチ取付部は、前記ベルトライン部及び前記ドアインナパネルの下部に対して、車両内側に凸となる凸形状を有していることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車両サイドドアの構造。
【請求項4】
前記前側リンフォーメントの車両前後方向の長さは、前記ドアインナパネルの前部に設けられた前側サッシュの車両前後方向の長さよりも大きいことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の車両サイドドアの構造。
【請求項5】
前記ドアインナパネルの車両上下方向の中間部には、車両前後方向に延びるセンタメンバが設けられ、該センタメンバの前部には、前記前側リンフォースメントが接合されていることを特徴とする、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の車両サイドドアの構造。
【請求項6】
前記ドアインナパネルにおける前記前壁部及び前記主壁部と、前記前側リンフォースメントの下部とにより、閉断面構造が構成されていることを特徴とする、請求項2に記載の車両サイドドアの構造。
【請求項7】
車体側部に設けられたドア開口部の下部には、車両前後方向に延びるサイドシルが設けられており、
前記車両サイドドアが開いているとき、
前記ドアインナパネルの下部と車体側部のサイドシルとの間には、前記ドア開口部の前端から後端まで、車両前後方向に連続するように延びる空間が形成されることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の車両サイドドアの構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両サイドドアの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体側部に設けられたドア開口部を開閉可能に、車体側部に取り付けられたサイドドアには、例えば、特許文献1に開示されているように、サイドドアが車幅方向外側に平行に迫り出し、前後方向に移動することによって開閉する構造が知られている。このようなサイドドア構造は、車体から離間して空中を滑らかに平行移動することから、グライドスライディングドアまたはスライドドアと呼ばれる。
【0003】
また、このようなサイドドアの前部及び後部には、ドアハンドル等によるマニュアル操作可能な前側ラッチ及び後側ラッチが設けられている。サイドドアの前側ラッチは、車体のドア開口部の前縁部に設けられたストライカと係合し、後側ラッチは、ドア開口部の後縁部に設けられたストライカと係合する。また、この例のサイドドアは、リンク部材を有するスイングアームを介して、ドア開口部の後縁部に連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-177587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記例のような構成は、サイドドアが開状態では、リンク部材を介して車体に支持される状態になるので、サイドドアが開いている状態を安定させるためには、リンク部材の剛性を高める必要がある。リンク部材の剛性を向上させようとする場合、リンク部材のサイズは重量が大きくなってしまう。
【0006】
一方で、リンク部材の剛性が十分に確保できないと、側面衝突(側突)時には、サイドドアの上部が、車両外側に変形することにより、車体側部とサイドドアの上部との間隔が大きくなる可能性がある。例えば、側突等が起こると、車両に積載されている積載物が慣性力等により車体に対して相対的に移動する。そのとき、積載物がサイドドアを車両内側から外側に押圧し、車体側部とサイドドアの上部との間隔が大きくなるように変形する可能性がある。このような変形が起こると、積載物が車両の外に放出される可能性がある。このため、上記例のような構成では、サイドドアの変形を抑制する上で、改善の余地があった。
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、サイドドアの剛性を向上させ、サイドドアが開状態における安定性を向上させることが可能な車両サイドドアの構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る車両サイドドアの構造は、ドアアウタパネルと、該ドアアウタパネルの車両内側に設けられたドアインナパネルとを有し、前記ドアインナパネルの車両前後方向の中間部には、前記ドアインナパネルと車体とを連結するスイングアームが設けられ、前記ドアインナパネルの前端部には、前側ラッチ取付部が設けられ、前記ドアインナパネルの後端部には、後側ラッチ取付部が設けられている。当該車両サイドドアの構造において、前記前側ラッチ取付部は、前記後側ラッチ取付部よりも車両下方に配置されており、前記ドアインナパネルには、車両前後方向に延びるベルトライン部が設けられ、前記ドアインナパネルの前部には、車両上下方向に延びる前側リンフォースメントが接合され、前記前側リンフォースメントの下部は、前記ドアインナパネルの下部に配置され、前記前側リンフォースメントの上部は、前記ベルトライン部に配置されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、サイドドアの剛性を向上させ、さらに、サイドドアが開状態における安定性を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る車両サイドドアの構造の一実施形態を示す側面図である。
図2図1のサイドドアを車両外側から見た側面図である。
図3図2のベルトラインリンフォースメントを取り外した状態を示す側面図である。
図4図3のサイドドアを車両後方から見た斜視図である。
図5図3のA-A矢視断面図である。
図6図4のB-B矢視断面図である。
図7図1のサイドドアが開いているときの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る車両の車両サイドドア1の構造の一実施形態について、図面(図1図7)を参照しながら説明する。なお、図において、矢印Fr方向は車両前後方向における前方を示す。実施形態の説明における「前部(前端)及び後部(後端)」は、車両前後方向における前部及び後部に対応する。また、矢印Inは、車幅方向内側(車両内側)を示し、矢印Outは、車幅方向外側(車両外側)を示している。
【0012】
本実施形態のサイドドア1は、サイドドア1が車幅方向外側に平行に迫り出し、前後方向に移動することによって開閉する、いわゆる、グライドスライディングドア構造を有するサイドドア1である。サイドドア1は、車体側部に設けられたドア開口部2を開閉するように、スイングアーム16により回動可能に車体側部に連結されている。サイドドア1がドア開口部2を開閉するときは、サイドドア1が閉状態の向きを維持し、車両外側に移動しながら車両後方にも移動する。すなわち、サイドドア1の開閉動作時は、サイドドア1が車両前後方向に延びた状態を維持しながら開閉する。サイドドア1の開閉動作については、後で説明する。
【0013】
本実施形態のサイドドア1は、図1に示すように、車体側部に設けられたドア開口部2を開閉可能に構成されている。ドア開口部2の前部には、車両上下方向に延びるセンターピラー5が配置され、ドア開口部2の後部には、クォータピラー6が配置されている。クォータピラー6は、全体として、車両上下方向に延びており、車両上下方向の中間部は車両後方に凸となる凸形状を有している。このまた、ドア開口部2の下部には、車両前後方向に延びるサイドシル7が配置されている。また、ドア開時にはサイドドア1とサイドシル7の間には、図7に示すように、空間S2を有している。つまり、車体側部に設けられたドア開口部2の下部には、サイドシル7が設けられており、サイドドア1が開いているとき、空間S2は、後述するドアインナパネル10の下部とサイドシル7との間において、ドア開口部2の前端から後端まで、車両前後方向に連続するように延びている。本実施形態のサイドドア1は、車体に対してスイングアーム16によって支持されている。
【0014】
サイドドア1は、ドアサッシュを有するタイプのサイドドア1であって、サイドドア1の本体を構成するドアインナパネル10と、該ドアインナパネル10の車両外側に接合されるドアアウタパネル31と、を有する。また、サイドドア1は、ドアインナパネル10の車両内側に連結されるスイングアーム16を有している。さらに、サイドドア1は、前側ドアラッチ30Aと、後側ドアラッチ30Bと、前側リンフォースメント21と、後側リンフォースメント23と、第1センタメンバ25と、第2センタメンバ28と、ベルトラインリンフォースメント18と、を有している。
【0015】
先ず、ドアインナパネル10の構造について説明する。ドアインナパネル10は、ドア開口部2の形状に対応する外周形状を有している。ドアインナパネル10の車両上下方向の中間部には、ベルトライン部14が設けられ、ベルトライン部14の車両上方側には、ドアサッシュ及び窓開口12が設けられている。ベルトライン部14は、ドアインナパネル10の前端と後端との間で、車両前後方向に延びている。ドアサッシュのうち、前側に位置する前側サッシュ11Aは、ベルトライン部14の前部から車両上方に延びている。ドアサッシュのうち、後側に位置する後側サッシュ11Bは、ベルトライン部14の後部から車両上方に向かうに従い車両前方に傾斜して延びている。前側サッシュ11A及び後側サッシュ11Bを含むドアサッシュは、窓開口12の窓枠を構成している。
【0016】
窓開口12の車両下方側には、車両外側を臨む主壁部10aと、車両後方を臨む後壁部10bと、前壁部10dとを有している。この例では、後壁部10bは、主壁部10aの後端から車両外側に突出し、車両上下方向に延びており、主壁部10aに対してほぼ直交している。前壁部10dは、主壁部10aの後端から車両外側に突出し、車両上下方向に延びている。主壁部10aには、車両外側と内側とを連通する下側開口部13が設けられている。
【0017】
また、ドアインナパネル10の後部でベルトライン部14の車両下方側の部分は、ベルトライン部14から所定位置まで車両下方に延び、該所定位置から車両下方に向かうに従い車両前方に傾斜してドアインナパネル10の下部まで延びている。すなわち、ドアインナパネル10の後部は、車両上下方向の中間部が車両後方に突出するように形成されている。突出する形状は、ドア開口部2の後部の形状にほぼ対応している。
【0018】
また、ドアインナパネル10の前部には、前側ラッチ取付部15Aが設けられ、ドアインナパネル10の後部には、後側ラッチ取付部15Bが設けられている。前側ラッチ取付部15A及び後側ラッチ取付部15Bは、車両上下方向に位置が互いに異なるように配置されている。この例では、前側ラッチ取付部15Aは、後側ラッチ取付部15Bよりも車両下方側に配置されている。
【0019】
前側ラッチ取付部15Aは、ドアインナパネル10の前端部に設けられている。本実施形態では、前側ラッチ取付部15Aは、ドアインナパネル10の前壁部10dの車両上下方向の中間部及び主壁部10aの前端に連続するように設けられている。また、前側ラッチ取付部15Aは、前壁部10d及び主壁部10aにより形成される角部に形成される長孔15Aaと、該長孔15Aaの周囲に設けられている複数の貫通丸孔15Abと、を有している。当該前側ラッチ取付部15Aは、下側開口部13の前縁部の車両上下方向の中心よりもやや下方側に配置されている。図2及び図3では、前側ラッチ取付部15Aの位置を、縦破線で示している。
【0020】
また、前側ラッチ取付部15Aは、ベルトライン部14及びドアインナパネル10の下部に対して、車両内側に凸となる凸形状を有している。凸形状と頂部(車両内側端)は、図5に示すように車両上下方向に延びている。前側ドアラッチ15Aの上端及び下端は、凸形状の頂部の上端及び下端にほぼ対応するように配置されている。
【0021】
一方、後側ラッチ取付部15Bは、ドアインナパネル10及びベルトライン部14の後端部に設けられ、車両上下方向に延びる略長方形状の領域に形成されている。本実施形態の後側ラッチ取付部15Bは、車幅方向視で、ベルトライン部14に重なって配置されている。詳細には、ドアインナパネル10の後壁部10bに設けられている。この例の後壁部10bは、ベルトライン部14の後端も含まれる。後側ラッチ取付部15Bの上部は、ベルトライン部14の後端部に重なるように配置され、後側ラッチ取付部15Bの下部は、後壁部10bの上部に配置されている。図2及び図3では、後側ラッチ取付部15Bの位置を、縦破線で示している。
【0022】
続いて、前側リンフォースメント21について説明する。前側リンフォースメント21は、図2及び図3に示すように、車両前後方向に所定の長さを有し、車両上下方向に延びる板状の部材である。前側リンフォースメント21は、ドアインナパネル10の前部に接合されている。
【0023】
前側リンフォースメント21の上部は、車両前後方向に延びており、ベルトライン部14の前部に配置されている。この例では、当該上部は、ベルトライン部14の前部にスポット溶接等により接合されている。図4において、スポット溶接の溶接点を黒丸のWで示している。また、前側リンフォースメント21の上部は、ベルトライン部14の上端の位置と前側リンフォースメント21の上端の位置とがほぼ揃うように配置され、且つ前側サッシュ11Aの車両下方側に配置され、さらに、下側開口部13における前縁部とベルトライン部14とにより形成される角部に、車幅方向視で重なるように配置されている。
【0024】
前側リンフォースメント21の下部は、ドアインナパネル10の下部に配置され、この例では、下側開口部13の下縁部と前縁部とにより形成される角部に、車幅方向視で重なるように配置されている。すなわち、前側リンフォースメント21は、下側開口部13を車両上下方向に跨いた状態で、ドアインナパネル10の車両外側の主壁部10aに図4における溶接点Wの位置で接合される。
【0025】
前側リンフォースメント21は、車両外側を臨む外面21bと、該外面21bの前端から車幅方向外側に屈曲し、ドアインナパネル10の前壁部10dに図4における溶接点Wの位置で接合されるフランジ21aが設けられている。
【0026】
さらに、前側リンフォースメント21の外面21bの前端及びフランジ21aは、ドアインナパネル10の前端部の形状に沿って車両上下方向に延びており、フランジ21aの上部は、ベルトライン部14の前部に配置され、フランジ21aの下部は、前壁部10dの下部に配置されている。
【0027】
また、外面21bの下部における前部は、車両下方に向かうに従い車両後方に向かって傾斜している。また、外面21bの前部における車両上下方向の中間部には、ドアハンドルを取り付けるための取付部19が設けられている。また、外面21bの後端は、車両上下方向に延びている。
【0028】
前側リンフォースメント21の外面21bにおける前部は、下側開口部13の前縁部を構成するドアインナパネル10の主壁部10aに接合され、外面21bの下部は、下側開口部13の下縁部を構成するドアインナパネル10の主壁部10aに図4における溶接点Wの位置で接合されている。また、前側リンフォースメント21の外面21bの後部おける車両上下方向の中間部には、第1センタメンバ25の後述する前側延長部25aがスポット溶接等により接合されている。
【0029】
また、フランジ21aは、前側ラッチ取付部15Aを覆うように配置されている(図4)。この例では、前側ドアラッチ30Aは、前側リンフォースメント21を介在して、ドアインナパネル10の前側ラッチ取付部15Aに取り付けられている。
【0030】
車体側部が側突等を受けるとき、車両内部の積載物が車両外側に移動することでサイドドア1が積載物により押圧され、ドアサッシュが車両外側に倒れようとする変形が起こる場合がある。このとき、前側ラッチ取付部15Aと後側ラッチ取付部15Bを繋ぐ仮想線を回転軸Xとして、サイドドア1には回転力が作用する。サイドドア1の上端に位置するドアサッシュが車両外側に変形することで、サイドドア1が開くように変形する。一方でサイドドア1の下端は、車両内側に変形しようとする。
【0031】
本実施形態では、前側リンフォースメント21が、前側ラッチ取付部15Aに接合され、ドアインナパネル10の下部及びベルトライン部14に、前側リンフォースメント21が接合されることにより、前側ラッチ取付部15Aの車両前後方向及び車幅方向の剛性が向上し、さらに、ドアインナパネル10の下部が車両内側へ向け押し付けられるとき、ドアインナパネル10の下部の補強により、サイドドア1の上端側が車両外側に開くことを抑制することができる。
【0032】
また、仮想的な回転軸Xと、車両前後方向に延びるベルトライン部14と、車両上下方向に延びるドアインナパネル10の前部とが、略三角形を形成するように配置されることで、剛性が高まり、その結果、仮想的な回転軸Xの周りを回転しようとする変形が抑制される。すなわち、後側ラッチ取付部15Bと前側ラッチ取付部15Aとを繋ぐ仮想的な回転軸Xを、ベルトライン部14に連結されるため、ベルトライン部14に沿って、サイドドア1の前部に応力を分散させることが可能となる。
【0033】
前側リンフォースメント21のフランジ21aが前壁部10dに接合されることにより、前側リンフォースメント21は、ドアインナパネル10の車幅方向の剛性を向上させることができる。さらに、ベルトライン部14からドアインナパネル10の下部まで、フランジ21aが延びていることにより、ドアインナパネル10の車幅方向の剛性が向上する範囲を、より広げることが可能となり、ドアインナパネル10の変形を抑制する効果を高めている。
【0034】
また、本実施形態のドアインナパネル10の前側ラッチ取付部15Aが、車両内側に凸形状を有することにより、ベルトライン部14及びドアインナパネル10の下部に対し荷重を分散させることができる。また、凸形状を有するため、フランジ21aの幅(車幅方向の長さ)が広がるため、ドアインナパネル10の車幅方向の剛性を、さらに向上させることが可能となる。
【0035】
また、本実施形態の前側リンフォーメント21の車両前後方向の長さは、前側サッシュ11Aの車両前後方向の長さよりも大きい。この例では、前側リンフォースメント21の外面21bの上部における前端及びフランジ21aの上部における前端は、車両前後方向で、前側サッシュ11Aの下部における前端にほぼ揃うように配置され、ベルトライン部14の前部に接合されている。外面21bの後端は、前側サッシュ11Aの下部における後端よりも車両後方側に位置するベルトライン部14に図4における溶接点Wの位置で接合されている。
【0036】
前側リンフォースメント21に荷重が入力されるとき、前側リンフォースメント21の車両前後方向長さが、前側サッシュ11Aの車両前後方向長さより大きいため、前側ラッチ取付部15Aが車両上下方向に変形することを抑制することが可能となる。さらに、車両前後方向長さを上記のように設定することにより、ベルトライン部14やドアインナパネル10の下部へ応力を分散させやすくなる。
【0037】
続いて、後側リンフォースメント23について説明する。本実施形態の後側リンフォースメント23は、図2及び図3に示すように、ドアインナパネル10の後部に接合さる板状の部材であって、車両前後方向に所定の長さを有し、ドアインナパネル10の後部の凸形状に沿うように、車両上下方向に延びている。この例では、後側リンフォースメント23の下部は、下側開口部13の後縁部を構成するドアインナパネル10の主壁部10aの車両上下方向の中間部に配置されている。
【0038】
さらに、本実施形態の後側リンフォースメント23は、車幅方向視で、後側ラッチ取付部15Bに重なるように配置されている。この例では、後側リンフォースメント23の後部は、後側ラッチ取付部15Bを覆うように配置され、後側ドアラッチ30Bは、後側リンフォースメント23を介在して、ドアインナパネル10の後側ラッチ取付部15Bに取り付けられている。
【0039】
さらに、後側リンフォースメント23は、詳細な図示は省略するが、ドアインナパネル10の後壁部10bに対応して湾曲する湾曲部23dを有している。湾曲部23dは、車両内側に膨出するように湾曲し、ドアインナパネル10の主壁部10aと後壁部10bとによって形成される角部を車両外側から覆うように湾曲している。
【0040】
また、後側リンフォースメント23は、ベルトライン部14の後端に重なって接合されている。さらに、後側リンフォースメント23は、ベルトライン部14の上方に設けられたドアサッシュまで延びている。詳細には、後側リンフォースメント23の上部に、ベルトライン部14を超えて車両上方に延出する上側延長部23eが設けられている。上側延長部23eは、後側サッシュ11Bの車両上下方向の中間部まで延びている。この例では、上側延長部23eの上部は、後側サッシュ11Bの上端と下端との中心よりも下方に配置されている。上側延長部23eは、後側サッシュ11Bの段差形状に対応するように段差が設けられ、上側延長部23eと後側サッシュ11Bとの接合強度を向上させている。
【0041】
また、本実施形態のドアインナパネル10には、第1センタメンバ25及び第2センタメンバ28が設けられ、第1センタメンバ25は、前側リンフォースメント21に接合され、第2センタメンバ28の後部は、後側リンフォースメント23に接合されている。さらに、第1センタメンバ25及び第2センタメンバ28は互いに接合されている。以下、第1センタメンバ25及び第2センタメンバ28について説明する。
【0042】
第1センタメンバ25は、全体として車両上下方向に延びる部材で、下側開口部13を跨ぐように配置されている。第1センタメンバ25の本体の車両上下方向の中間部には、車両前方に延びる前側延長部25aが設けられている。前側延長部25aの前部は、第1センタメンバ25の本体の下側の前端と、前側延長部25aの前部の下端とが接続されることによって形成されている。前側延長部25aの前部は、前側リンフォースメント21の外面21bの後部に、スポット溶接等により接合されている。これにより、前側リンフォースメント21を第1センタメンバ25によって支持することが可能となる。
【0043】
また、第1センタメンバ25には、上下方向リブ27及び前後方向リブ26が設けられている。上下方向リブ27は、第1センタメンバ25の上部から下部に向かって車両上下方向に延びている。前後方向リブ26は、第1センタメンバ25の車両上下方向の中間部に配置され、第1センタメンバ25の後部から車両前方に向かって前側延長部25aの前端まで延びている。
【0044】
第2センタメンバ28は、車両前後方向に延びる部材であり、下側開口部13の車両上下方向の中間部に配置されている。第2センタメンバ28の前部は、第1センタメンバ25の後部にスポット溶接等により接合されている。また、第2センタメンバ28の後部には、フランジ28aが設けられ、該フランジ28aは、後側リンフォースメント23の前側の下部に接合されている。
【0045】
また、本実施形態では、第2センタメンバ28が後側リンフォースメント23に接合することにより、後側リンフォースメント23が車幅方向から荷重が入力されたときに、第1センタメンバ25及び第2センタメンバ28には車両前後方向に引張力が発生し、ドアインナパネル10の車幅方向の変形を、第1センタメンバ25及び第2センタメンバ28で支持することができる。上記したように、本実施形態では、第2センタメンバ28と、第1センタメンバ25の前後方向リブ26が車両前後方向に連続するように配置されているので、上記効果をさらに高めることができる。
【0046】
本実施形態のベルトライン部14には、車両前後方向に延びるベルトラインリンフォースメント18が取り付けられている。ベルトラインリンフォースメント18は、ベルトライン部14と、前側リンフォースメント21と、第1センタメンバ25と、後側リンフォースメント23とを、車両外側から覆うように配置され、これらにもスポット溶接等により接合されている。ベルトラインリンフォースメント18を設けることにより、ベルトライン部14が補強され、且つ、後側ラッチ取付部15B等に作用する荷重を、後側リンフォースメント23等を介して、ベルトライン部14に分散させることができる。
【0047】
また、本実施形態では、後側ラッチ取付部15Bと後側リンフォースメント23が重なるため、後側ドアラッチ30Bの周辺に荷重が集中するような場合でも、後側リンフォースメント23に荷重が分散され、後壁部10bに沿って車幅方向の荷重を支持できる。その結果、サイドドア1の後端部が車幅方向に変形することを抑制できる。
【0048】
また、上記したように、後側リンフォースメント23をベルトライン部14の後部に接合することにより、後側ラッチ取付部15Bに入力された荷重を、ドアサッシュやサイドドア1における前端部に分散可能となる。これにより、一定量を弾性変形が起こるようにして、ベルトライン部14の付近の破壊を防ぐことも可能となる。
【0049】
さらに、上側延長部23eを設けることにより、ベルトライン部14を補強し、さらに、ドアサッシュが車体から離れて変形することを抑制することが可能となる。すなわち、本実施形態のように構成することで、先ず、ベルトライン部14の剛性を向上させ、ベルトライン部14が変形することを抑制し、次に、ドアサッシュが外側に折れるように変形することを抑えている。
【0050】
また、本実施形態では、前側リンフォースメント21と、ドアインナパネル10によって、閉断面構造S1が構成されている。詳細には、図6に示すように、閉断面構造S1は、ドアインナパネル10の下部における主壁部10a及び前壁部10dと、前側リンフォースメント21の下部とによりが構成されている。当該閉断面構造S1は、水平断面でなく、図4に示すように、サイドドア1における前側の下部において、車両後方に向かうに従い車両下方に沿った方向の断面に設けられている。
【0051】
ドアインナパネル10の下部には、車幅方向内側へ荷重が入力される。これに対して、ドアインナパネル10の下部に閉断面構造S1が形成されることにより、サイドドア1の下部における車幅方向に対する剛性を向上することが可能となる。また、当該閉断面構造S1は、上記の傾斜方向に沿って閉断面を構成しているため、車両前後方向に対しても剛性向上に寄与している。
【0052】
続いて、スイングアーム16について簡単に説明する。図1では、模式的に示しているが、スイングアーム16は、一方の端部が、第1センタメンバ25の車両上下方向の中間部に回動可能に取り付けられ、他方の端部は、ドア開口部2の後部に位置するクォータピラー6の後方側の車体パネルに回動可能に取り付けられている。
【0053】
図1及び図7に示すように、スイングアーム16は、2つのリンク部材16aを有し、2つのリンク部材16aの前部が、車両上下方向に延びる回動軸16cに連結されている。2つのリンク部材16aは、車両前後方向に延び、車両上下方向に互いに間隔を空けて配置されている。リンク部材16aの後部は、取付部16bを介して、車体パネル等に回動可能に取り付けられている。なお、スイングアーム16は、第1センタメンバ25の上下方向リブ27と前後方向リブ26とが交差する付近に配置されている。これにより、スイングアーム16が比較的剛性の高い部位に取り付けられるため、スイングアーム16の安定した回動動作が可能となる。
【0054】
サイドドア1は、閉状態から開状態になるとき、車体パネルに取り付けられた図示しない回動軸の周りを2つのリンク部材16aが回動する。この動作に合わせて、第1センタメンバ25に取り付けられた回動軸16cの周りを2つのリンク部材16aが回動する。
【0055】
本実施形態では、サイドドア1の上端や下端には、スイングアーム16のリンク部材16aのような部材は設けられておらず、車両上下方向の中間部に位置するスイングアーム16によってサイドドア1は車体に支持されてる。すなわち、サイドドア1が開いているときは、ドアインナパネル10の下部と車体側部のサイドシル7との間には、ドア開口部2の前端から後端まで、車両前後方向に連続するように延びる空間S2が形成される。すなわち、この例のサイドドア1は、開状態において、ドア開口部2の前端と後端との間では、サイドドア1の下部とサイドシル7との間に障害物となるものは、配置されていない。よって、スイングアーム16がサイドドア1の上端及び下端に設置されないことにより、サイドドア1の車体との連結部はスイングアーム16、前側ドアラッチ30A及び後側ドアラッチ30Bとなる。
【0056】
本実施形態の説明は、本発明を説明するための例示であって、特許請求の範囲に記載の発明を限定するものではない。また、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 サイドドア
2 ドア開口部
5 センターピラー
6 クォータピラー
7 サイドシル
10 ドアインナパネル
10a 主壁部
10b 後壁部
10d 前壁部
11A 前側サッシュ
11B 後側サッシュ
12 窓開口
13 下側開口部
14 ベルトライン部
15A 前側ラッチ取付部
15Aa 長孔
15Ab 貫通丸孔
15B 後側ラッチ取付部
16 スイングアーム
16a リンク部材
16b 取付部
16c 回動軸
18 ベルトラインリンフォースメント
19 取付部
21 前側リンフォースメント
21a フランジ
21b 外面
23 後側リンフォースメント
23e 上側延長部
25 第1センタメンバ
25a 前側延長部
26 前後方向リブ
27 上下方向リブ
28 第2センタメンバ
28a フランジ
30A 前側ドアラッチ
30B 後側ドアラッチ
31 ドアアウタパネル
S1 閉断面構造
S2 サイドシルとサイドドアとの間の空間
W 溶接点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7