(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149526
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】スピーカ
(51)【国際特許分類】
H04R 9/04 20060101AFI20220929BHJP
H04R 9/02 20060101ALI20220929BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
H04R9/04 105Z
H04R9/02 102E
H04R3/00 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051732
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(72)【発明者】
【氏名】戸板 大樹
(72)【発明者】
【氏名】田地 良輔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮
【テーマコード(参考)】
5D012
5D220
【Fターム(参考)】
5D012BA06
5D012BB02
5D012BC06
5D012FA03
5D012GA01
5D220AA41
(57)【要約】 (修正有)
【課題】振動板を含む可動部の移動状態を検知してフィードバック制御することができるスピーカを提供する。
【解決手段】スピーカ1において、振動部に振動板3とボビン6が含まれており、ボビン6にボイスコイル7が固定されている。検知部20は、可動磁石21と磁気センサ22を有している。ボビン6の前縁部にリング状の磁石支持体23が固定される。磁石支持体23には、可動磁石21が位置決めされて固定されている。磁気センサ22は、駆動支持部に固定されている。可動磁石21が磁石支持体23を介してボビン6に固定されているため、可動磁石21の組み付け作業と位置決めが容易である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームに支持された振動板と前記振動板とともに振動するボビンおよび前記ボビンに設けられたボイスコイルを有する振動部と、前記ボイスコイルに磁束を与える磁気回路部および前記フレームを有する駆動支持部と、が設けられたスピーカにおいて、
可動磁石と磁気センサを有する検知部が設けられており、
円筒形状の前記ボビンに、その円周方向の少なくとも一部に沿って延びる非磁性材料製の磁石支持体が取付けられて、前記可動磁石が前記磁石支持体に固定され、前記磁気センサが前記駆動支持部に固定されていることを特徴とするスピーカ。
【請求項2】
前記磁石支持体は、前記ボビンの全周に沿って延びるリング形状である請求項1記載のスピーカ。
【請求項3】
前記磁石支持体に、前記可動磁石を設けることによる質量の偏りを解消するためのバランス質量体が固定されている請求項1または2記載のスピーカ。
【請求項4】
前記磁石支持体は、前記ボビンにおける前記ボイスコイルが設けられているのとは逆側に位置する前縁部に沿って取り付けられている請求項1ないし3のいずれかに記載のスピーカ。
【請求項5】
前記ボビンで囲まれた領域では、前記磁気回路部に支持されたフェイズプラグが設けられており、
前記磁石支持体の内周部が、前記フェイズプラグとの相対位置を決める位置決め部として機能する請求項4記載のスピーカ。
【請求項6】
前記磁石支持体は、前記ボビンの前後方向の中間部分において、前記ボビンの外周面に固定されている請求項1ないし3のいずれかに記載のスピーカ。
【請求項7】
前記フレームと前記ボビンとの間にダンパー部材が設けられており、
前記磁石支持体は、前記ボビンと前記ダンパー部材との接合部に沿って取り付けられている請求項6記載のスピーカ。
【請求項8】
前記磁石支持体は、前記ボビンと前記振動板との接合部に沿って取り付けられている請求項6記載のスピーカ。
【請求項9】
前記磁気回路部から前記磁気センサに与えられる磁場の向きと、前記可動磁石から前記磁気センサに与えられる磁場の向きとが交差しており、
前記磁気センサから、前記2つの磁場の合成ベクトルの向きの変化に基づく検知出力が得られる請求項1ないし8のいずれかに記載のスピーカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動板とボビンを有する振動部の動作を磁気センサで検知することができるスピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
音響装置における従来のスピーカは、アンプから出力されるオーディオ信号をそのまま受け入れて音圧を再生する処理を行うだけであり、スピーカ自らがオーディオ信号に合わせた制御動作を行っていなかった。そのため、発音に歪が発生しやすく、音質のばらつきが生じやすかった。さらには、振動板の振幅が過大になったときに、振動板やダンパーなどが破損することもあった。
【0003】
上記の問題を解決するために、特許文献1には、磁気センサによって振動板の動きを検知してフィードバック制御を行うスピーカシステムが記載されている。
【0004】
このスピーカシステムは、磁気回路部を構成するプレートを有し、このプレートにおけるボイスコイルとの対向部に磁気センサであるホール素子が支持されている。磁気回路部のギャップ内の有効磁束密度がホール素子により検出され、その検出信号が増幅されてパワーアンプにフィードバックされる。パワーアンプからボイスコイルに駆動電流が与えられボイスコイルとともにボビンが振動すると、ギャップ内の有効磁束密度が、ボイスコイルに流れる電流およびボイスコイルに生じる逆起電力によって変化する。この有効磁束密度の変化をホール素子で検知しパワーアンプにフィードバックすることで、ボイスコイルに与えられる駆動電流の歪分が補正される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたスピーカシステムのフィードバック制御には、検知素子として光学検知素子やコイルなどよりも小型の素子であるホール素子が使用されているため、スピーカの寸法が過大になるのを防止でき、消費電力が増大するのも防止することができる。しかしながら、磁気回路部のギャップの有効磁束密度の変化をホール素子で検出する方式は、ボイスコイルやボビンの動きを直接に検知できないため、音の歪や音質のばらつきなどを高精度に補正することが難しい。
【0007】
また、特許文献1のスピーカシステムは、プレートにおけるボイスコイルとの対面部にホール素子を埋め込む構造であるため、ホール素子の取付け構造が複雑であり、組み立て作業も非効率的である。
【0008】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、可動磁石と磁気センサを用いて振動部の振動を高精度に検知することができ、また可動磁石を可動部に取り付けやすい構造のスピーカを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、フレームに支持された振動板と前記振動板とともに振動するボビンおよび前記ボビンに設けられたボイスコイルを有する振動部と、前記ボイスコイルに磁束を与える磁気回路部および前記フレームを有する駆動支持部と、が設けられたスピーカにおいて、
可動磁石と磁気センサを有する検知部が設けられており、
円筒形状の前記ボビンに、その円周方向の少なくとも一部に沿って延びる非磁性材料製の磁石支持体が取付けられて、前記可動磁石が前記磁石支持体に固定され、前記磁気センサが前記駆動支持部に固定されていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明のスピーカは、前記磁石支持体が、前記ボビンの全周に沿って延びるリング形状であることが好ましい。
【0011】
本発明のスピーカは、前記磁石支持体に、前記可動磁石を設けることによる質量の偏りを解消するためのバランス質量体が固定されていることが好ましい。
【0012】
本発明は、前記磁石支持体が、前記ボビンにおける前記ボイスコイルが設けられているのとは逆側に位置する前縁部に沿って取り付けられているものである。
【0013】
前記スピーカでは、前記ボビンで囲まれた領域に、前記磁気回路部に支持されたフェイズプラグが設けられており、
前記磁石支持体の内周部を、前記フェイズプラグとの相対位置を決める位置決め部として機能させることが可能である。
【0014】
または、本発明のスピーカは、前記磁石支持体が、前記ボビンの前後方向の中間部分において、前記ボビンの外周面に固定されているものである。
【0015】
例えば、前記フレームと前記ボビンとの間にダンパー部材が設けられており、
前記磁石支持体は、前記ボビンと前記ダンパー部材との接合部に沿って取り付けられているものである。
あるいは、前記磁石支持体が、前記ボビンと前記振動板との接合部に沿って取り付けられているものである。
【0016】
本発明のスピーカは、前記磁気回路部から前記磁気センサに与えられる磁場の向きと、前記可動磁石から前記磁気センサに与えられる磁場の向きとが交差しており、
前記磁気センサから、前記2つの磁場の合成ベクトルの向きの変化に基づく検知出力が得られるものが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のスピーカは、振動部の一部であるボビンに設けられた可動磁石からの磁束を、磁気センサで検知しているため、振動部の動きを直接に検知することができる。そのため、振動部の動作を補正する高精度なフィードバック制御が可能になる。また、磁気センサで、磁気回路部からの漏れ磁束の磁場と可動磁石からの磁場の合成ベクトルの向きの変化に基づく検知出力を得ることにより、磁気回路部から発生する駆動用磁束の強弱に影響されることなく、振動部の動きを高精度に検知することが可能になる。
【0018】
また、円筒形状のボビンに、その円周方向の少なくとも一部に沿って延びる非磁性材料製の磁石支持体を取付け、この磁石支持体に可動磁石を固定することにより、薄い材料で形成されたボビンに、可動磁石を正確に位置決めして固定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施形態のスピーカをX-Z平面と平行な面で断面した半断面斜視図、
【
図2】前記第1実施形態のスピーカをX-Z平面と平行な面で断面した半断面図、
【
図3】本発明の第2実施形態のスピーカをX-Z平面と平行な面で断面した半断面図、
【
図4】前記第2実施形態のスピーカの組立作業を示す説明図であり、Y-Z平面と平行な面で断面した部分拡大断面図、
【
図5】第1実施形態と第2実施形態のスピーカに設けられたボビンと磁石支持体および可動磁石を示すものであり、(A)は上方から見た分解斜視図、(B)は下方から見た分解斜視図、
【
図6】本発明の第3実施形態のスピーカをX-Z平面と平行な面で断面した半断面図、
【
図8】本発明の第4実施形態のスピーカをX-Z平面と平行な面で断面した一部拡大断面図、
【
図9】第3実施形態と第4実施形態のスピーカに設けられたボビンと磁石支持体および可動磁石を、上方から見た分解斜視図、
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1と
図2に示される本発明の第1実施形態のスピーカ1はZ1―Z2方向が前後方向であり、Z1方向が前方で発音方向、Z2方向が後方である。
図1と
図2には、前後方向(Z1-Z2方向)に延びる中心軸Oが示されている。スピーカ1の主要部は、中心軸Oを中心とするほぼ回転対称な構造である。
図1には、中心軸Oと直交する平面において互いに直交するX軸とY軸が示されている。X軸は、磁気回路部10で形成される駆動用磁束F1のうち磁気センサ22で検知しようとする磁場H1の向きに一致している。Y軸は、可動磁石21で形成される可動磁束成分F2のうち磁気センサ22で検知しようとする磁場H2の向きに一致している。
【0021】
図1と
図2に示されるスピーカ1はフレーム2を有している。フレーム2は、非磁性材料または磁性材料で形成されており、前方(Z1方向)に向けて直径が徐々に広がるテーパ形状である。フレーム2の後方(Z2方向)に磁気回路部10が接着やねじ止めなどの手段で固定されている。フレーム2と磁気回路部10とで駆動支持部が構成されている。
【0022】
磁気回路部10は、中心軸Oを中心とするリング状の駆動用磁石11と、駆動用磁石11の前方に接合されたリング状の対向ヨーク12と、駆動用磁石11の後方に接合された後方ヨーク13を有している。後方ヨーク13にはセンターヨーク14が一体に形成されている。センターヨーク14は、駆動用磁石11と対向ヨーク12の内側に位置し、後方ヨーク13から前方(Z1方向)に隆起して形成されている。なお、センターヨーク14が後方ヨーク13と別体に形成され、後方ヨーク13とセンターヨーク14とが接合されていてもよい。センターヨーク14には、前後方向(Z1-Z2方向)に向けて貫通する穴15が形成されている。対向ヨーク12と後方ヨーク13およびセンターヨーク14は磁性材料、すなわち磁性金属材料で形成されている。
【0023】
センターヨーク14は円柱状であり、その外周面と、対向ヨーク12の内周面との間に、中心軸Oを中心とする円周に沿って磁気ギャップGが形成されている。
図2に示されるように、磁気回路部10では、駆動用磁石11から発せられた駆動用磁束F1が、対向ヨーク12から磁気ギャップGを横断してセンターヨーク14と後方ヨーク13を周回する。
【0024】
フレーム2の前方部分の内側に振動板3が設けられている。振動板3は円錐状のいわゆるコーン形状である。フレーム2の前端周囲部2aと振動板3の外周端3aは、弾性変形可能なエッジ部材4を介して接合されている。エッジ部材4と前端周囲部2aおよびエッジ部材4と外周端3aとは接着剤で固定されている。フレーム2の中腹部の内面に内周固定部2bが形成されており、断面がコルゲート形状の弾性変形可能なダンパー部材5の外周部5aが内周固定部2bに接着剤により固定されている。
【0025】
フレーム2の内部にボビン6が設けられている。ボビン6は、中心軸Oを中心とする円筒形状である。振動板3の内周端3bはボビン6の外周面に接着剤で固定されており、ダンパー部材5の内周部5bも接着剤によってボビン6の外周面に固定されている。振動板3の中心部には前方に向けて隆起するドーム形状のキャップ8が設けられている。キャップ8は、ボビン6の前方の開口部を覆っており、キャップ8の周縁部8aが振動板3の前面に接着剤を介して固定されている。
【0026】
ボビン6の後方(Z2方向)に向く後端部6b(
図5(B)参照)では、その外周面にボイスコイル7が設けられている。ボイスコイル7を構成する被覆導線は、ボビン6の外周面において所定のターン数で巻かれている。ボイスコイル7は、磁気回路部10の磁気ギャップG内に位置している。磁気回路部10とボイスコイル7とで、磁気駆動部が構成されている。
【0027】
振動板3とボビン6は、エッジ部材4とダンパー部材5の弾性変形により、フレーム2に対して(駆動支持部に対して)前後方向(Z1-Z2方向)に振動自在に支持されている。振動板3とキャップ8およびボビン6とボイスコイル7が、フレーム2を含む駆動支持部に対して前後方向に振動する振動部を構成している。
【0028】
スピーカ1には、可動部の振動を検知する検知部(振動検知部)20が設けられている。検知部20は、可動部に設けられた可動磁石21と、駆動支持部に設けられた磁気センサ22とで構成されている。可動磁石21は、磁石支持体23に固定されている。
図5(A)(B)に、ボビン6と磁石支持体23および可動磁石21が分離して示されている。磁石支持体23は360度の角度範囲で途切れなく連続するリング形状であり、合成樹脂材料などの非磁性材料で形成されている。磁石支持体23は、ボビン6の前方(Z1方向)に向く前縁部6aに取り付けられている。すなわち、磁石支持体23は、ボビン6においてボイスコイル7が設けられている後端部6bとは逆側の前縁部6aに取り付けられている。
【0029】
ボビン6の前縁部6aには、円周方向に向けて等間隔を空けた複数か所に位置決め凹部6cが形成されている。
図5(B)に示されるように、リング形状の磁石支持体23の後面には、部分円弧形状に形成された溝部23aと、溝部23aの間欠部である位置決め凸部23bとが設けられている。溝部23aと位置決め凸部23bは、円周方向に交互に形成されている。前縁部6aが溝部23aの内部に挿入され、位置決め凸部23bが位置決め凹部6cに挿入されて、ボビン6と磁石支持体23とが接着剤で固定される。ボビン6の前縁部6aと磁石支持体23の溝部23aとで第1の凹凸嵌合部が構成され、磁石支持体23の位置決め凸部23bとボビン6の位置決め凹部6cとで第2の凹凸嵌合部が構成され、これら凹凸嵌合部が位置決め構造として機能している。この位置決め構造によって、磁石支持体23とボビン6とが半径方向へ相対的に動くことなく位置決めされ、前後方向に相対的に動くことなく位置決めされ、さらに円周方向へ相対的に動くことなく位置決めされる。
【0030】
図5(A)に示されるように、磁石支持体23の前面には磁石保持凹部23cが形成されている。磁石保持凹部23cは、前方と半径方向外側に向けて解放された凹部である。磁石保持凹部23cの内部に可動磁石21が保持され接着剤で固定されている。磁石支持体23の前面には、少なくとも1か所にバランス保持凹部23dが形成されている。このバランス保持凹部23dの内部にバランス質量体24が保持され接着剤で固定されている。バランス質量体24は、
図1に現れている。バランス質量体24は、ボビン6上において、可動磁石21を設けることによる質量の偏りを解消するものであり、磁石支持体23の少なくとも1か所に設けられる。バランス質量体24は、中心軸Oを中心として、可動磁石21と180度の角度を空けた位置に設けることが好ましい。また、
図5に示されるように、バランス質量体24は、中心軸Oを中心として、可動磁石21と90度の角度を空けて3か所に設けることがさらに好ましい。バランス質量体24は、金属製または合成樹脂製などであり、個々のバランス質量体24は、可動磁石21と同じ質量または同等の質量を有することが好ましい。なお、バランス保持凹部23dを設けることなく、インサート成形法などによって、バランス質量体24を磁石支持体23とを一体に形成することも可能である。
【0031】
図5に示される実施形態では、磁石支持体23が360度の範囲で連続するリング形状であるが、磁石支持体23が、ボビン6の円周方向の少なくとも一部に沿って延びる形状であってもよい。例えば、磁石支持体23が、磁石保持凹部23cを中心とする所定角度の長さに形成された部分円弧部と、これとは別にバランス保持凹部23dを中心とする所定角度の長さに形成された部分円弧部とに分離されて形成され、それぞれがボビン6に固定されていてもよい。
【0032】
図1と
図2に示されるように、検知部20を構成する磁気センサ22は、ボビン6の内側の空間内に設けられている。センターヨーク14の前端面14aに基台27が接着されて固定されている。基台27は、合成樹脂などの非磁性材料で形成されたブロック形状である。この基台27の前面に配線基板28が固定されており、配線基板28の前面に磁気センサ22が実装されている。配線基板28は基台の一部を構成しており、これら基台によって、磁気センサ22が、センターヨーク14の前端面14aから前方に離れた位置で、且つ可動磁石21に接近する位置に配置されている。配線基板28には、磁気センサ22に導通する配線ケーブル25が接続されている。配線ケーブル25は、基台27の中心部に形成された穴およびセンターヨーク14の穴15の内部を通過して、磁気回路部10の後方の外部に引き出されている。
【0033】
図1と
図2は、スピーカ1を、中心軸Oを含むX-Z平面と平行な切断面で切断した断面を示している。可動磁石21の中心と磁気センサ22の中心は、中心軸Oを含む同じ断面内に位置している。磁気回路部10の内部を周回する駆動用磁束F1のうちの磁気回路部10の前方に現れる漏れ磁束は、磁気センサ22に対し半径方向(X方向)に作用する成分を含む。
図5に示されるように、可動磁石21は、着磁された端面21a,21bが、ボビン6の接線方向(Y方向と平行な方向)に向けられている。端面21aがN極で端面21bがS極に着磁されているとすると、可動磁石21の後方(Z2方向)には、
図5(A)(B)において矢印で示す可動磁束成分F2が作用している。可動磁束成分F2は、可動磁石21で生成される磁束のうちのボビン6のほぼ接線方向(Y方向と平行な方向)に向けて作用する成分を意味している。
【0034】
磁気センサ22は、中心軸Oと直交して磁気センサ22の中心を通る平面(X-Y平面と平行な平面)において、ベクトル量である磁場の向きの変化を検知することができる。磁気回路部10で生成される駆動用磁束F1の漏れ磁束は、磁気センサ22に対して半径方向(X方向)に作用する。
図1には、駆動用磁束F1の漏れ磁束に基づいて磁気センサ22にX方向へ作用するベクトル量である磁場がH1で示されている。可動磁石21で生成される可動磁束成分F2は、磁気センサ22にY方向に作用する。
図1には、可動磁束成分F2に基づいて磁気センサ22にY方向へ作用するベクトル量である磁場がH2で示されている。磁気センサ22からは、磁場H1と磁場H2との合成ベクトルである検知磁場Hdの向きの変化に応じた検知出力を得ることができる。磁気センサ22と磁気回路部10の相対位置は変化しないため、磁気センサ22に作用する磁場H1の強さは実質的に変化しない。これに対し、可動部の前後方向(Z1-Z2方向)の振動に伴って可動磁石21と磁気センサ22の距離が変化するため、磁気センサ22で検知される磁場H2の強さは変化する。そのため、合成ベクトルである検知磁場Hdの向き(中心軸Oと直交する平面内での角度)θは、可動部の振動に応じて変化する。
【0035】
磁気センサ22は、少なくとも1つの磁気抵抗効果素子を有している。磁気抵抗効果素子は、固定磁性層とフリー磁性層を有するGMR素子またはTMR素子である。固定磁性層の磁化の向きが固定され、フリー磁性層の磁場の向きが検知磁場Hdの向きの変化に追従し、固定磁性層の固定磁場とフリー磁性層の磁化との相対角度の変化に応じて電気抵抗値が変化する。この電気抵抗値の変化に応じて、検知磁場Hdのベクトルの角度θの変化を検知することができる。または、磁気センサ22として、2個のホール素子を、中心軸Oと直交する平面内で検知方向を交差させ、好ましくは直交させて配置することによっても、検知磁場Hdの向きθの変化を検知することが可能である。この場合、一方のホール素子で磁場H1の強さを検知し、他方のホール素子で磁場H2の強さを検知することで、検知磁場Hdのベクトルの向きの変化に応じた検知出力を得ることができる。
【0036】
次に、スピーカ1の発音動作を説明する。
発音動作では、オーディオアンプから出力されたオーディオ信号に基づいてボイスコイル7に駆動電流が与えられる。磁気回路部10から発せられる駆動用磁束F1がボイスコイル7を横断するため、駆動用磁束F1と駆動電流とで励起される電磁力により、ボビン6と振動板3を含む振動部が前後方向に振動して、駆動電流の周波数に応じた音圧が発生し、前方に向けて音が発せられる。
【0037】
スピーカ1に併設された制御部では、磁気センサ22からの検知出力に基づいてフィードバック制御が行われる。磁気センサ22から検知磁場Hdの平面内での角度θの変化に基づく検知出力を得ることにより、制御部では、振動板3を含む振動部の前後方向の位置およびその変化を知ることができる。例えば、制御部では、オーディオ信号の印加により想定される振動部の前後方向の理想的な位置およびその変化と、磁気センサ22の検知出力から判定される振動部の実際の位置およびその変化とのずれ量が演算され、ずれ量がしきい値を超えたら、ずれ量を補正する補正信号(オフセット信号)が生成される。ボイスコイル7に与えられる駆動信号(ボイス電流)に前記補正信号が重畳され、このフィードバック制御により、スピーカ1による発音の歪みや音ずれなどが補正され、さらには、振動板3が前後方向に過振動するのを防止する。
【0038】
磁気センサ22は、磁気回路部10で生成される駆動用磁束F1の漏れ磁束と、可動磁石21で生成される可動磁束成分F2の双方の合成ベクトル量である検知磁場Hdの角度変化を検知している。すなわち磁気センサ22は、磁気回路部10からの駆動用磁束F1の漏れ磁束の検知成分を利用して検知出力を得ている。そのため、駆動用磁束F1の漏れ磁束が可動部の位置検知の妨げにならず、駆動用磁束F1の漏れ磁束がノイズの原因となることもなく、常に高精度で高感度のフィードバック制御を行なうことができる。
【0039】
図1と
図2に示されるスピーカ1は以下の行程で組み立てることができる。駆動用磁石11は予め着磁しておき、着磁後の駆動用磁石11に対向ヨーク12と後方ヨーク13を接合して磁気回路部10を組み立てる。または、駆動用磁石11となる強磁性体と対向ヨーク12と後方ヨーク13を接合した状態で、強磁性体を着磁して駆動用磁石11を形成する。あるいは、強磁性体と対向ヨーク12と後方ヨーク13を接合し、さらに対向ヨーク12をフレーム2に接合して駆動支持体を組み立てた後に、強磁性体を着磁して駆動用磁石11を形成する。一方で、可動磁石21は単独で着磁してから磁石支持体23に固定する、あるいは、可動磁石21となる強磁性体を磁石支持体23に固定した後に、強磁性体を着磁して可動磁石21を形成する。これらの着磁行程では、駆動用磁石11と可動磁石21とを別々の行程で着磁しているため、双方の磁石の着磁行程が他方の磁石の着磁状態に影響を与えることがない。
【0040】
スピーカ1の組立行程では、磁気回路部10とフレーム2とを接合し、配線基板28および磁気センサ22を組み付けて駆動支持部を構成する。治具を用いてボイスコイル7が巻かれたボビン6を磁気回路部10の磁気ギャップG内に挿入して位置決めし、ダンパー部材5の外周部5aをフレーム2に接着し、内周部5bをボビン6の外周面に接着する。さらに、振動板3の外周端3aをフレーム2に接着し、内周端3bをボビン6の外周面に接着する。このスピーカの基本構造が完成した後に、振動板3の中心部から前方に突出しているボビン6の前縁部6aに、可動磁石21およびバランス質量体24が固定された磁石支持体23を組み込んで、ボビン6と磁石支持体23とを接着して固定する。その後、キャップ8の周縁部8aを振動板3の中心部の前面に接着する。この組立行程では、スピーカの基本構造が完成した後に、振動板3よりも前方に突出しているボビン6の前縁部6aに磁石支持体23を固定しているため、可動磁石21を、ボビン6に簡単に位置決めして取り付けることができる。
【0041】
また、スピーカ1の組立行程として、予め磁石支持体23をボビン6に固定しておき、磁石支持体23が固定されたボビン6を、治具を用いて磁気回路部10の磁気ギャップG内に挿入して位置決めし、ダンパー部材5と振動板3とを組み付けてもよい。
【0042】
図1と
図2に示されるスピーカ1では、可動磁石21が磁石支持体23に位置決めされ、ボビン6の前縁部6aに磁石支持体23が位置決めされて固定されているため、可動磁石21と磁気センサ22との相対位置をばらつきなく決めることができる。そのため、可動磁石21から磁気センサ22に作用する可動磁束成分F2の向きと強度を一定にでき、製品ごとのフィードバック制御のばらつきを最小に抑えることが可能になる。
【0043】
このスピーカ1では、可動磁石21が、ダンパー部材5よりも前方(Z1方向)でボビン6の前縁部6aに取り付けられているため、振動部の前後方向の振幅が大きくなって、ボビン6が後方(Z2方向)に向けて大きく移動したとしても、可動磁石21が磁気回路部10に大きく接近することがない。そのため、可動磁石21が磁気回路部10の対向ヨーク12に磁気吸着されるようなこともなく、可動磁石21の着磁状態が低減するなどの問題が生じにくくなる。
【0044】
また、磁石支持体23はボビン6の円周方向に沿う形状であるため、磁石支持体23によってボビン6が補強され、ボビンが変形しにくくなって、ボビン6およびボイスコイル7の円筒形状の歪みが生じにくくなる。さらに、磁石支持体23に、可動磁石21とのバランスをとるバランス質量体24が固定されているため、可動部の質量の偏りを矯正でき、可動部が動作するときに重心のずれによるローリングなどが発生するのを抑制できる。
【0045】
図3に本発明の第2実施形態のスピーカ101が示され、
図6に第3実施形態のスピーカ201が示され、
図8に第4実施形態のスピーカ301が示されている。これら各実施形態では、
図1と
図2に示される第1実施形態のスピーカ1と同じ構成部分に同じ符号を付して詳しい説明を省略する。
【0046】
図3に示される第2実施形態のスピーカ101は、磁気センサ22を支持している基台27のさらに前方にフェイズプラグ31が固定されている。このスピーカ101にはキャップ8が設けられておらず、前方から見たときに、フェイズプラグ31の外周に磁石支持体23が露出している。また、磁石支持体23の内周面は、フェイズプラグ31との相対位置を決めるための位置決め部(位置決め面)23eとなっている。
【0047】
このスピーカ101の組立行程では、いずれかの時点で、
図4に示されるように、ボビン6の内側に円筒形状の位置決め治具35が設置される。位置決め治具35の外周面35aに磁石支持体23の内周面である位置決め部23eを密着させ、位置決め治具35の内周面35bにフェイズプラグ31の外周面31aを密着させて、磁石支持体23とフェイズプラグ31とを組み付ける。この行程で、ボビン6とフェイズプラグ31の中心を一致させることができ、組立て後は、磁石支持体23の内周面とフェイズプラグ31の外周面31aとの間に、全周にわたり均一な隙間を形成することができる。したがって、発音動作においてボビン6が前後に振動するときに、フェイズプラグ31とボビン6とが当たる現象が生じにくくなる。
【0048】
図6と
図7に示される第3実施形態のスピーカ201では、磁石支持体123が、ボビン6の外周面において前後方向(Z1-Z2方向)の中間部に設けられている。
図9に示されるように、磁石支持体123は、2つに分離されて形成されている。2つに分離された磁石支持体123のそれぞれは、合成樹脂材料などの非磁性材料で形成されており、内周面には位置決め凸部123aが一体に形成されている。ボビン6には、位置決め凸部123aに対応する位置に位置決め穴6eが開口している。位置決め凸部123aと位置決め穴6eとで、ボビン6と磁石支持体123とを位置決めする位置決め構造が構成されている。それぞれの位置決め凸部123aを位置決め穴6eに挿入し、2つに分離された磁石支持体123をボビン6の外周面に接着し、2つの磁石支持体123を互いに接着するなどして接合することによって、磁石支持体123は、ボビン6の全周にわたって延びるリング形状となる。なお、磁石支持体123は、周方向に間隔を空けた不連続な状態でボビン6の外周面に接着されてもよい。
【0049】
図6と
図7および
図9に示されるように、磁石支持体123に磁石保持凹部123cが形成されており、可動磁石21が磁石保持凹部123cの内部に位置決めされて固定されている。また、磁石支持体123に、バランス保持凹部が形成されバランス質量体24が位置決めされて固定されることが好ましい。
【0050】
図7に、ボビン6と磁石支持体123との接合部およびボビン6とダンパー部材5との接合部(i)が拡大断面図として示されている。磁石支持体123の内周面の前方にテーパ面123bが形成されており、ボビン6の外周面とテーパ面123bとの間に、前方に向かって隙間が徐々に広くなる隙間部42が形成されている。接合部(i)では、ダンパー部材5の内周部5bとボビン6の外周面とが接着剤41によって接着されている。磁石支持体123は、接合部(i)のすぐ後方に位置しており、ダンパー部材5の内周部5bの一部が、ボビン6と磁石支持体123との間の隙間部42の内部に位置している。内周部5bの一部を隙間部42内に位置させることにより、ダンパー部材5の内周部5bの後方(Z2方向)への位置決めを行なうことができ、この位置決めを行った後に、内周部5bとボビン6とを接着することができる。
【0051】
図6に示されるように、第3実施形態のスピーカ201では、ボビン6の外側の領域において、フレーム2に非磁性材料で形成された基台26が固定されており、基台26の前面に配線基板28が固定され、その前面に磁気センサ22が実装されている。このスピーカ201における磁気センサ22の磁場の検知機能は、
図1に示された第1実施形態のスピーカ1などと同じである。
【0052】
図6と
図7に示される第3実施形態のスピーカ201では、リング形状の磁石支持体123によってボビン6の前後方向の中間部が補強されているため、ボビン6に歪みが発生しにくく円筒形状を維持しやすい。また、ボビン6とダンパー部材5との接合部(i)が、磁石支持体123によって補強されまたは保護された構造であるため、接合部(i)の破損も生じにくい。可動磁石21は磁石支持体123に保持されているため、ボビン6が後方(Z2)方向へ大きく移動したときに、磁石支持体123が磁気回路部10に当たることがあっても可動磁石21が直接に磁気回路部10に当たることがない。
【0053】
図8に示される第4実施形態のスピーカ301では、リング形状の磁石支持体123が、ダンパー部材5よりも前方で、ボビン6と振動板3との接合部(ii)のすぐ後方に取り付けられている。接合部(ii)では、ボビン6の外周面と振動板3の内周端3bとが接着剤43で固定されている。磁石支持体123のテーパ面123bとボビン6の外周面との間に隙間部44が形成されている。振動板3の内周端3bの一部が隙間部44の内部に位置しており、磁石支持体123によって、接合部(ii)が保護されている。また、振動板3の内周端3bをボビン6に接着する前に、振動板3の後方(Z2方向)への位置決めを行うことができる。
【0054】
前記スピーカ301は、磁石支持体123の取付け位置以外の構造が
図6に示される第3実施形態のスピーカ201と同じである。スピーカ301では、磁石支持体123がダンパー部材5よりも前方に位置しているため、ボビン6が後方へ大きく移動したとしても、可動磁石21が磁気回路部10に磁気吸引されて可動磁石21の着磁状態が変化することがなく、また、可動磁石21が磁気回路部10に衝突して破損するなどの問題も生じにくくなる。
【符号の説明】
【0055】
1,101,201,301 スピーカ
2 フレーム
3 振動板
6 ボビン
7 ボイスコイル
10 磁気回路部
11 駆動用磁石
12 対向ヨーク
13 後方ヨーク
14 センターヨーク
20 検知部
21 可動磁石
22 磁気センサ
23,123 磁石支持体
23c,123c 磁石保持凹部
24 バランス質量体
31 フェイズプラグ
35 位置決め治具
F1 駆動用磁束
F2 可動磁束成分
H1,H2 磁場
Hd 検知磁場
O 中心軸