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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149568
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】能動消音装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/02 20060101AFI20220929BHJP
   G10K 11/178 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
H04R3/02
G10K11/178 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051785
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】金内 健
【テーマコード(参考)】
5D061
5D220
【Fターム(参考)】
5D061FF02
5D220AA01
5D220AA11
5D220CC08
(57)【要約】
【課題】リファレンスマイクと制御音を出力する出力スピーカとの距離を短くしてコンパクトな構成を実現できながらも、ハウリングを効果的に抑制できるフィードフォワード式の能動消音装置を提供する。
【解決手段】制御音出力スピーカSP2とハウリング抑制スピーカSP1とリファレンスマイクMとから成る入出力機構部50を、騒音源SNと消音対象空間との間に設け、且つハウリング抑制スピーカSP1の出力面を騒音源SNの側へ向けると共に制御音出力スピーカSP2の出力面を消音対象空間の側へ向け、且つリファレンスマイクMを制御音出力スピーカSP2及びハウリング抑制スピーカSP1から等距離の位置に設ける。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
騒音源から発せられる騒音を消音可能なフィードフォワード式の能動消音装置であって、
前記騒音源からの前記騒音の振幅及び周波数を検出可能なリファレンスマイクと、消音対象空間での所定の消音地点において音波の振幅が零に近づくように、前記騒音と逆位相の消音信号を前記リファレンスマイクでの検出結果に基づいてアナログ回路により生成可能なアナログ制御部と、当該アナログ制御部にて生成された前記消音信号に従って制御音を出力する制御音出力スピーカと、前記制御音出力スピーカにて出力される前記制御音と同一振幅及び同一周波数で逆位相のハウリング抑制音を出力するハウリング抑制スピーカとを備え、
前記制御音出力スピーカと前記ハウリング抑制スピーカと前記リファレンスマイクとから成る入出力機構部を、前記騒音源と前記消音対象空間との間に設け、且つ前記ハウリング抑制スピーカの出力面を前記騒音源の側へ向けると共に前記制御音出力スピーカの出力面を前記消音対象空間の側へ向け、且つ前記リファレンスマイクを前記制御音出力スピーカ及び前記ハウリング抑制スピーカから等距離の位置に設ける能動消音装置。
【請求項2】
前記騒音源から前記騒音が出力されている状態で、所定の時点において、前記消音対象空間における特定の予備計測地点でマイクにて計測される前記騒音と、前記騒音源の近傍でマイクにて計測される前記騒音とから、前記騒音源の近傍での前記騒音に対する特定の前記予備計測地点での前記騒音の減衰割合を、複数の前記予備計測地点毎に記憶する記憶部を備え、
前記アナログ制御部は、複数の前記予備計測地点から所望の前記消音地点に対応する前記減衰割合を前記記憶部から読み出し、前記記憶部から読み出した前記減衰割合を用いて、前記制御音出力スピーカにて出力する前記制御音の振幅を制御する請求項1に記載の能動消音装置。
【請求項3】
複数の前記入出力機構部を分散配置して備えると共に、
複数の前記入出力機構部において、前記アナログ制御部及び前記記憶部を共用する構成を備える請求項2に記載の能動消音装置。
【請求項4】
前記騒音源から前記リファレンスマイクへの前記騒音の伝播方向において、上流側の前記リファレンスマイクと下流側の前記制御音出力スピーカとの距離を、前記制御音の位相を巻き戻す位相巻き戻し距離として、変更可能に構成されている請求項1~3の何れか一項に記載の能動消音装置。
【請求項5】
消音対象の前記騒音の周波数が高いほど前記位相巻き戻し距離が増加する相関関係と、消音対象の前記騒音の周波数とに応じて、前記位相巻き戻し距離を設定する請求項4に記載の能動消音装置。
【請求項6】
前記騒音源が、空調室外機と給湯器と道路を走行する車両との少なくとも何れか一つであり、
前記騒音が、前記空調室外機から発生する乱流音と、前記給湯器から発生する燃焼音と、前記車両が前記道路を走行するときのロードノイズとの少なくとも何れか一つであって、音圧波形の変動が大きいランダムノイズである請求項1~5の何れか一項に記載の能動消音装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、騒音源から発せられる騒音を消音可能な能動消音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、騒音を低減するべく、騒音源からの騒音の振幅及び周波数を検出するリファレンスマイクと、当該リファレンスマイクにて検出した騒音と同一振幅で逆位相の制御音の出力信号を演算する制御装置と、当該制御装置にて演算された出力信号を出力するスピーカと、当該スピーカにて出力された制御音と騒音との双方を検出するエラーマイクとを備え、前記制御装置は、当該エラーマイクにて検出される音波の振幅が零となるよう補正出力信号を演算し、当該補正出力信号に基づいてスピーカから出力される制御音を補正する能動消音制御装置が知られている(特許文献1を参照)。
上記特許文献1には、特に、出力信号を演算するための時間を稼ぐため、騒音の進行方向において、特にリファレンスマイクとスピーカとの距離を十分に確保する必要がある点及びその構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-232964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示の技術では、リファレンスマイクとスピーカとの距離を十分に確保するため、能動消音装置が大型になり、比較的大きな設置スペースを確保する必要があるといった問題があった。
また、回転機械の排気口のように数十cmの排気ダクトを持つ場合には、当該排気ダクトに対してリファレンスマイクとスピーカとを備える構成を採用できるが、空調室外機や給湯器のように、排気ダクトを備えない騒音源に対しては、特許文献1に示されるように、追加ダクトを備える構成を採用する必要があり、構成が大型化及び複雑化するという問題があった。
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、リファレンスマイクと制御音を出力する出力スピーカとの距離を短くしてコンパクトな構成を実現できながらも、ハウリングを効果的に抑制できるフィードフォワード式の能動消音装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための能動消音装置は、騒音源から発せられる騒音を消音可能なフィードフォワード式の能動消音装置であって、その特徴構成は、
前記騒音源からの前記騒音の振幅及び周波数を検出可能なリファレンスマイクと、消音対象空間での所定の消音地点において音波の振幅が零に近づくように、前記騒音と逆位相の消音信号を前記リファレンスマイクでの検出結果に基づいてアナログ回路により生成可能なアナログ制御部と、当該アナログ制御部にて生成された前記消音信号に従って制御音を出力する制御音出力スピーカと、前記制御音出力スピーカにて出力される前記制御音と同一振幅及び同一周波数で逆位相のハウリング抑制音を出力するハウリング抑制スピーカとを備え、
前記制御音出力スピーカと前記ハウリング抑制スピーカと前記リファレンスマイクとから成る入出力機構部を、前記騒音源と前記消音対象空間との間に設け、且つ前記ハウリング抑制スピーカの出力面を前記騒音源の側へ向けると共に前記制御音出力スピーカの出力面を前記消音対象空間の側へ向け、且つ前記リファレンスマイクを前記制御音出力スピーカ及び前記ハウリング抑制スピーカから等距離の位置に設ける点にある。
【0007】
上記特徴構成によれば、まずもって、消音対象空間での所定の消音地点において音波の振幅が零に近づくように、騒音と逆位相の消音信号をリファレンスマイクでの検出結果に基づいてアナログ回路により生成可能なアナログ制御部を備えているから、消音信号の演算に要する時間を十分に短くでき、当該演算時間に起因するリファレンスマイクと制御音出力スピーカとの物理的な距離の制約を取り除くことができる。
これにより、リファレンスマイクと制御音出力スピーカとの物理的な距離を短くして、構成のコンパクト化を図ることができるが、リファレンスマイクを制御音出力スピーカの近傍に配置すると、制御音出力スピーカにて出力した制御音をリファレンスマイクで検出し、それに基づきアナログ制御部が消音信号を出力して、当該消音信号に基づき制御音出力スピーカが制御音を出力するという閉ループが形成されることでシステムが不安定となり、ハウリングが生じるという問題がある。
これに対し、上記特徴構成によれば、ハウリング抑制スピーカの出力面を騒音源の側へ向けると共に制御音出力スピーカの出力面を消音対象空間の側へ向け、且つリファレンスマイクを制御音出力スピーカ及びハウリング抑制スピーカから等距離の位置に設ける構成を採用するから、リファレンスマイクが設けられる位置において、制御音出力スピーカからの制御音を、ハウリング抑制スピーカからのハウリング制御音により打ち消すことができ、ハウリングを効果的に防止できる。
更に、このとき、ハウリング抑制スピーカの出力面は、消音対象空間の側とは逆向きである騒音源の側へ向いているから、ハウリング抑制音により消音対象空間で騒音が大きくなることも抑制できる。
以上より、リファレンスマイクと制御音を出力する出力スピーカとの距離を短くしてコンパクトな構成を実現できながらも、ハウリングを効果的に抑制できるフィードフォワード式の能動消音装置を実現できる。
【0008】
能動消音装置の更なる特徴構成は、
前記騒音源から前記騒音が出力されている状態で、所定の時点において、前記消音対象空間における特定の予備計測地点でマイクにて計測される前記騒音と、前記騒音源の近傍でマイクにて計測される前記騒音とから、前記騒音源の近傍での前記騒音に対する特定の前記予備計測地点での前記騒音の減衰割合を、複数の前記予備計測地点毎に記憶する記憶部を備え、
前記アナログ制御部は、複数の前記予備計測地点から所望の前記消音地点に対応する前記減衰割合を前記記憶部から読み出し、前記記憶部から読み出した前記減衰割合を用いて、前記制御音出力スピーカにて出力する前記制御音の振幅を制御する点にある。
【0009】
上記特徴構成によれば、フィードフォワード式の能動消音装置において、消音対象空間の消音地点に通常設置されるエラーマイクを省略しながらも、当該消音地点において、騒音と制御音との合成音の振幅を零に近づけることができるので、騒音の伝播方向において、制御音出力マイクの下流側における構成のコンパクト化を図ることができる。
尚、上述したように、本発明によれば、リファレンスマイクを制御音出力スピーカに近づけることで、騒音の伝播方向において、制御音出力マイクの上流側における構成のコンパクト化も図ることができるから、制御音出力マイクの上流側と下流側での双方でコンパクト化を図ることができる。
【0010】
更に、記憶部は、消音対象空間における複数の予備計測地点に関する騒音の減衰割合を予め記憶しているので、アナログ制御部は、消音対象空間の複数の予備計測地点での減衰割合に基づいて制御音出力スピーカからの制御音の振幅を制御する形態で、一の予備計測地点のみならず、複数の予備計測地点の夫々に対応した制御音を、例えば時間帯毎に切り替えながら出力して、消音対象空間の複数の消音地点での消音効果を得ることができる能動消音装置を実現できる。
【0011】
能動消音装置の更なる特徴構成は、
複数の前記入出力機構部を分散配置して備えると共に、
複数の前記入出力機構部において、前記アナログ制御部及び前記記憶部を共用する構成を備える点にある。
【0012】
上記特徴構成によれば、複数の入出力機構部を分散配置するので、例えば、消音対象空間が広く、複数の消音地点が離れて存在する場合に、夫々の消音地点に対応する形で入出力機構部を配置して、複数の消音地点での消音を効果的に実現できる。
更に、このような構成では、予備計測地点毎の騒音の減衰割合が共通であるので、記憶部及び当該記憶部に記憶される減衰割合に基づいてアナログ制御を実行するアナログ制御部を共通化することができるので、共通化による構成の簡略化を図り経済性を向上できる。
【0013】
能動消音装置の更なる特徴構成は、
前記騒音源から前記リファレンスマイクへの前記騒音の伝播方向において、上流側の前記リファレンスマイクと下流側の前記制御音出力スピーカとの距離を、前記制御音の位相を巻き戻す位相巻き戻し距離として、変更可能に構成されている点にある。
【0014】
上記特徴構成によれば、リファレンスマイクにて検出した騒音から消音信号は、アナログ回路を有するアナログ制御部にて演算して生成するから、演算時間をほぼ零の十分に短い時間とすることができる。
これにより、騒音の伝播方向において、上流側のリファレンスマイクと下流側の制御音出力スピーカとの距離を騒音が伝搬する伝播時間だけ、騒音の位相に対し制御音の位相を巻き戻すことができる。即ち、リファレンスマイクと制御音出力スピーカとの距離である位相巻き戻し距離を変更可能に構成することで、例えば、騒音の高周波をカットするローパスフィルタを用いることにより位相遅れが生じるような場合であっても、当該位相遅れ分を巻き戻して、良好な消音効果を得ることができる。
【0015】
当該能動消音装置において、位相巻き戻し距離は、消音対象の前記騒音の周波数が高いほど前記位相巻き戻し距離が増加する相関関係と、消音対象の前記騒音の周波数とに応じて設定することにより、消音効果をより発揮できるようになる。
【0016】
能動消音装置の更なる特徴構成は、
前記騒音源が、空調室外機と給湯器と道路を走行する車両との少なくとも何れか一つであり、
前記騒音が、前記空調室外機から発生する乱流音と、前記給湯器から発生する燃焼音と、前記車両が前記道路を走行するときのロードノイズとの少なくとも何れか一つであって、音圧波形の変動が大きいランダムノイズである点にある。
【0017】
上記特徴構成によれば、アナログ回路により消音信号を生成するアナログ制御部を備えるから、比較的音圧波形の変動が大きいランダムノイズであっても、消音信号を十分に短い時間で演算して生成し、生成した消音信号に基づいて、リファレンスマイクと制御音出力スピーカとの距離を短くした全体としてコンパクトな能動消音装置であっても、良好に能動消音を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る能動消音装置の概略構成図である。
図2】実施形態に係るスピーカ及び各種フィルタの周波数利得特性を示すグラフ図である。
図3】実施形態に係るスピーカと各種フィルタ等の周波数位相特性を示すグラフ図である。
図4】実施形態に係る能動消音装置を用いた場合の騒音の周波数毎の減音効果のシミュレーション結果を示すグラフ図である。
図5】実施形態に係る能動消音装置を用いた場合に、図1に示す所定の消音地点での騒音の周波数毎の減音効果の実験結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に係る能動消音装置は、リファレンスマイクと制御音を出力する出力スピーカとの距離を短くしてコンパクトな構成を実現できながらも、ハウリングを効果的に抑制できるフィードフォワード式のものに関する。
以下、図1~5に基づいて、実施形態に係る能動消音装置100について説明する。
【0020】
実施形態に係る能動消音装置100は、図1に示すように、空調室外機や給湯器等の騒音源SNから発せられる騒音であって、音圧波形の変動が大きいランダムノイズを消音可能なものであり、騒音源SNからの騒音の振幅及び周波数を検出可能なリファレンスマイクMと、消音対象空間での所定の消音地点(図1ではP1、P2)において音波の振幅が零に近づくように、騒音と逆位相の消音信号をリファレンスマイクMでの検出結果に基づいてアナログ回路(図示せず)により生成可能なアナログ制御部S1と、当該アナログ制御部S1にて生成された消音信号に従って制御音を出力する制御音出力スピーカSP2とを備えるフィードフォワード式の能動消音装置として構成されている。
ここで、騒音としてのランダムノイズは、空調室外機から発生する乱流音や、給湯器から発生する燃焼音である。
【0021】
即ち、当該実施形態に係る能動消音装置100においては、空調室外機や給湯器等であって、一般的に能動消音装置のリファレンスマイク等が設置可能な排気ダクト等を備えない騒音源SNにおいて、リファレンスマイクMを制御音出力スピーカSP2の近傍に配置するコンパクトな構成を採用するべく、制御に係る構成として、消音信号を十分に短い時間で演算できるアナログ回路を備えたアナログ制御部S1を備えている。当該構成により、リファレンスマイクMと制御音出力スピーカSP2との距離が短い場合であっても、当該短い距離を騒音が伝搬する短い時間であっても、消音信号を迅速に演算処理して能動消音を良好に実行できる。
【0022】
さて、ここで、リファレンスマイクMを制御音出力スピーカSP2の近傍に設ける場合、制御音出力スピーカSP2からの制御音をリファレンスマイクMが検出し、当該検出結果に基づいてアナログ制御部S1が消音信号を演算し、当該消音信号に基づいて制御音出力スピーカSP2が制御音を出力するという閉ループが形成されることによりシステムが不安定となり、ハウリングが発生する。
そこで、当該実施形態に係る能動消音装置100では、制御音出力スピーカSP2にて出力される制御音と同一振幅及び同一周波数で逆位相のハウリング抑制音を出力するハウリング抑制スピーカSP1を備え、制御音出力スピーカSP2とハウリング抑制スピーカSP1とリファレンスマイクMとから成る入出力機構部50を、騒音源SNと消音対象空間との間に設け、且つハウリング抑制スピーカSP1の出力面を騒音源SNの側へ向けると共に制御音出力スピーカSP2の出力面を消音対象空間の側へ向け、且つリファレンスマイクMを制御音出力スピーカSP2及びハウリング抑制スピーカSP1から等距離の位置に設ける。
当該構成により、リファレンスマイクMに伝播する制御音は、ハウリング抑制スピーカSP1から出力されるハウリング抑制音により打ち消されることになり、上述の閉ループを解消してハウリングを抑制できる。
ここで、入出力機構部50は、上述の条件を満たすものであれば、どのような配置であっても構わないが、構成のコンパクト化を図る観点からは、制御音出力スピーカSP2とハウリング抑制スピーカSP1とリファレンスマイクMとは互いに近傍に設けられることが好ましく、例えば、図1において、騒音の伝播方向(図1で矢印Xに沿う方向)で、リファレンスマイクMと制御音出力スピーカSP2との距離Lxは、0cm以上50cm以下程度に設定することが好ましい。
尚、制御音出力スピーカSP2とハウリング抑制スピーカSP1とは、制御を容易にする観点から、同一機種のものを用いることが好ましい。
【0023】
尚、当該実施形態において、消音対象空間は、図1において、制御音出力スピーカSP2よりも紙面右側を意図しているものとする。また、制御音出力スピーカSP2及びハウリング抑制スピーカSP1の出力面は、それぞれのコーン紙にて形成される振動面を意味するものとする。
【0024】
更に、当該実施形態に係る能動消音装置100は、上述のアナログ制御部S1と、能動消音に用いる各種制御情報を記憶する記憶部Kと、アナログ制御部S1にて生成された消音信号を増幅するアンプAMと、当該アンプAMにて増幅された消音信号から低周波を除去するローパスフィルタと位相進み及び位相遅延補償フィルタ等のフィルタ群としてのフィルタFとを制御機構Sとして備えている。
【0025】
さて、上述したように、当該実施形態に係る能動消音装置100は、フィードフォワード式の能動消音装置100として設けられているが、エラーマイクを設けず、以下の構成を採用している。
記憶部Kは、騒音源SNから騒音が出力されている状態で、所定の時点において、消音対象空間における特定の予備計測地点でマイク(図示せず)にて計測される騒音と、騒音源SNの近傍でマイクにて計測される騒音とから、騒音源SNの近傍での騒音に対する特定の予備計測地点での騒音の減衰割合を、複数の予備計測地点毎に記憶し、アナログ制御部S1は、複数の予備計測地点から所望の消音地点に対応する減衰割合を記憶部Kから読み出し、記憶部Kから読み出した減衰割合を用いて、制御音出力スピーカSP2にて出力する制御音の振幅を制御する。
より詳細には、アナログ制御部S1は、騒音の振幅に減衰割合を乗算する形で消音信号を演算して導出し、当該消音信号に基づいて制御音出力スピーカSP2にて制御音を出力する。更に、これに伴い、アナログ制御部S1は、減衰割合により調整された制御音あと同一振幅及び同一周波数で逆位相のハウリング周波数を出力するようハウリング抑制スピーカSP1に制御信号を送る。ちなみに、アナログ制御部S1には、図示しない外部の入力部にて入力された所望の消音地点を受け付け可能に構成されている。
つまり、当該実施形態に係る能動消音装置100は、予め消音地点になり得る予備計測地点においてマイクにて減衰割合を取得し、実運用の時点では、当該減衰割合に基づいた能動消音制御を実行することで、エラーマイクを必要としないフィードフォワード方式の能動消音装置を実現している。
【0026】
更に、当該実施形態に係る能動消音装置100では、図1に示すように、騒音源SNからリファレンスマイクMへの騒音の伝播方向(図1で矢印Xの矢示方向)において、上流側のリファレンスマイクMと下流側の制御音出力スピーカSP2との距離を、制御音の位相を巻き戻す位相巻き戻し距離として、変更可能に構成されており、消音対象の騒音の周波数が高いほど位相巻き戻し距離が増加する相関関係と、消音対象の騒音の周波数とに応じて、位相巻き戻し距離が設定される。
【0027】
〔能動消音に係るシミュレーション及び実験結果〕
次に、当該実施形態に係る能動消音装置100を用いた能動消音に係るシミュレーション及び実験結果を、図2~5を用いて説明する。
図2は、当該シミュレーション及び実験に用いる制御音出力スピーカSP2、ハウリング抑制スピーカSP1、及び各種フィルタの周波数利得特性を示すグラフ図である。グラフ図において、スピーカ利得特性(+フィルタ+アンプ増幅)は、フィルタFとして、ローパスフィルタ、位相進み補償フィルタ及び位相遅延フィルタを用いると共に、アンプAMにより80dBの増幅を行ったものである。
図2に示されるスピーカ利得特性(+フィルタ+アンプ増幅)では、周波数100~1000Hzの範囲で、比較的利得が高く利得の変化がなだらかな利得特性を示すため、当該範囲を減音対象とする。
【0028】
次に、当該シミュレーション及び実験に用いる制御音出力スピーカSP2、ハウリング抑制スピーカSP1、及び各種フィルタの周波数位相特性を示す図3のグラフ図を参照する。
スピーカ利得特性(+フィルタ+アンプ増幅)は、位相遅れが発生しているのであるが、100~1000Hz以外の周波数において、位相遅れの許容範囲(-90°以上-270°以下)を超えている。ちなみに、位相遅れが許容範囲である場合、騒音と制御音との位相差が逆位相と近くなり、制御音が騒音を打ち消すことができる。一方で、許容範囲を超えると、制御音が騒音を増幅させることになる。
そこで、スピーカ利得特性(+フィルタ+アンプ増幅)に位相巻き戻し補正を施すと、図3に示すように、位相遅れを、減音対象の100~1000Hzにおいて、位相遅れの許容範囲(-90°以上-270°)に収めることができている。ここで、当該データを取得したときの位相巻き戻し距離Lxは、15cmに設定している。
【0029】
当該能動消音装置100を用いた場合、騒音の周波数毎の減音効果のシミュレーション結果は、図4のグラフ図に示すように、200Hz~300Hzをピークとする減音効果を発揮できていることがわかる。
更に、図5の実験結果に示すように、騒音の伝播方向で、制御音出力スピーカSP2から下流側へ1.0mの第1地点P1と1.5mの第2地点P2の夫々の消音地点において、200Hz~300Hzをピークとする減音効果を発揮できていることがわかる。
【0030】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、騒音源SNとして、空調室外機や給湯器を例示したが、他の例として、道路を走行する車両であっても構わない。この場合、騒音は、車両が道路を走行するときに生じるロードノイズとなる。
【0031】
(2)上記実施形態では、騒音として音圧波形の変動が大きいランダムノイズを対象とすることを示したが、卓越周期音等のランダムノイズ以外の騒音を対象とすることもできる。
【0032】
(3)上記実施形態における能動消音装置100は、一の制御音出力スピーカSP2と一のハウリング抑制スピーカSP1と一のリファレンスマイクMとからなる入出力機構部50を一つ設ける構成例を示した。
しかしながら、例えば、消音対象空間において、離間した位置に複数の消音地点がある場合、夫々の消音地点に対応する形態で、入出力機構部50を備える構成を採用しても構わない。
この場合、アナログ制御部S1及び記憶部Kは、複数の入出力機構部50で共用する構成を採用することができる。即ち、複数の入出力機構部50に対して一の制御機構Sを設ける構成を採用すればよい。
【0033】
(4)上記実施形態に係る能動消音装置100では、エラーマイクを設けない構成を例示したが、エラーマイクを設ける構成を採用しても構わない。
この場合、記憶部Kを設けることなく、エラーマイクを消音地点に設置し、アナログ制御部S1は、リファレンスマイクM及びエラーマイクの双方の検出結果に基づいて、能動消音を実行することになる。
【0034】
(5)上記実施形態では、位相巻き戻し距離を設定すると共に、当該距離を調整可能に構成したが、当該位相巻き戻し距離は、調整可能に設定されていなくても構わない。
【0035】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の能動消音装置は、リファレンスマイクと制御音を出力する出力スピーカとの距離を短くしてコンパクトな構成を実現できながらも、ハウリングを効果的に抑制できるフィードフォワード式の能動消音装置として、有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
50 :入出力機構部
100 :能動消音装置
K :記憶部
Lx :位相巻き戻し距離
M :リファレンスマイク
S1 :アナログ制御部
SN :騒音源
SP1 :ハウリング抑制スピーカ
SP2 :制御音出力スピーカ
図1
図2
図3
図4
図5