IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 神鋼建材工業株式会社の特許一覧

特開2022-149585後付け吸音装置の取付方法及び取付構造
<>
  • 特開-後付け吸音装置の取付方法及び取付構造 図1
  • 特開-後付け吸音装置の取付方法及び取付構造 図2
  • 特開-後付け吸音装置の取付方法及び取付構造 図3
  • 特開-後付け吸音装置の取付方法及び取付構造 図4
  • 特開-後付け吸音装置の取付方法及び取付構造 図5
  • 特開-後付け吸音装置の取付方法及び取付構造 図6
  • 特開-後付け吸音装置の取付方法及び取付構造 図7
  • 特開-後付け吸音装置の取付方法及び取付構造 図8
  • 特開-後付け吸音装置の取付方法及び取付構造 図9
  • 特開-後付け吸音装置の取付方法及び取付構造 図10
  • 特開-後付け吸音装置の取付方法及び取付構造 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149585
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】後付け吸音装置の取付方法及び取付構造
(51)【国際特許分類】
   E01F 8/00 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
E01F8/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051806
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000192615
【氏名又は名称】日鉄神鋼建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】阿部 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 充明
【テーマコード(参考)】
2D001
【Fターム(参考)】
2D001AA01
2D001BA03
2D001BB01
2D001CB02
2D001CD02
(57)【要約】
【課題】防音壁に後付けして安価に防音性能を向上させることができる後付け吸音装置の取付方法及び取付構造を提供する。
【解決手段】基礎構造物(壁高欄11)に支柱が立設されずに防音パネル12が直接固定されて立設された既設の支柱レス防音壁10に、後付け吸音装置3を増設する後付け吸音装置の取付方法において、防音パネル12の幅の複数枚分以上の長さを有する横材2を複数の防音パネル12に亘って固定して取り付ける横材設置工程と、横材2に後付け吸音装置3を固定する後付け吸音装置設置工程と、を実行する。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎構造物に支柱が立設されずに防音パネルが直接固定されて立設された既設の支柱レス防音壁に、後付け吸音装置を増設する後付け吸音装置の取付方法であって、
前記防音パネルの幅の複数枚分以上の長さを有する横材を複数の前記防音パネルに亘って固定して取り付ける横材設置工程と、前記横材に前記後付け吸音装置を固定する後付け吸音装置設置工程と、を備えること
を特徴とする後付け吸音装置の取付方法。
【請求項2】
前記後付け吸音装置は、背面パネルと前記背面パネルと上端が離間して傾斜して設けられた正面パネルを有すること
を特徴とする請求項1に記載の後付け吸音装置の取付方法。
【請求項3】
前記横材設置工程では、上下に間隔をあけて前記横材を複数枚の前記防音パネルに亘って上下二段に固定し、
前記後付け吸音装置設置工程では、上段の前記横材を前記後付け吸音装置の上部に固定し、下段の前記横材を前記後付け吸音装置の下部に固定すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の後付け吸音装置の取付方法。
【請求項4】
前記横材設置工程後に、前記後付け吸音装置が落下しないように線状又はチェーン状の落下防止材を介して前記横材と前記後付け吸音装置とを連結する後付け吸音装置連結工程を有すること
を特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の後付け吸音装置の取付方法。
【請求項5】
前記横材及び前記後付け吸音装置は、前記防音パネルの騒音源側に取り付けること
を特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の後付け吸音装置の取付方法。
【請求項6】
基礎構造物に支柱が立設されずに防音パネルが直接固定されて立設された支柱レス防音壁に、横材を介して吸音装置が取り付けられた吸音装置の取付構造であって、
前記横材は、直交する面同士を有する断面形状の条材からなり、複数の前記防音パネルに亘って取り付けられ、
前記吸音装置は、前記横材の前記防音パネルに当接する面と直交する面に取り付けられていること
を特徴とする吸音装置の取付構造。
【請求項7】
前記吸音装置は、前記防音パネルに沿って鉛直に設けられた背面パネルと、前記背面パネルと上端が離間して傾斜して設けられた正面パネルを有すること
を特徴とする請求項6に記載の吸音装置の取付構造。
【請求項8】
前記横材は、上下に間隔をあけて複数の前記防音パネルに上下二段に固定されており、前記横材の上段の上横材に前記吸音装置の上部が吊り下げ固定され、前記横材の下段の下横材に前記吸音装置の下部が載置されて固定されていること
を特徴とする請求項6又は7に記載の吸音装置の取付構造。
【請求項9】
前記横材には、長孔が形成され、前記長孔を介して前記吸音装置が長さ調整自在に固定されていること
を特徴とする請求項6ないし8のいずれかに記載の吸音装置の取付構造。
【請求項10】
前記横材と前記吸音装置とは、線状又はチェーン状の落下防止材で連結されていること
を特徴とする請求項6ないし9のいずれかに記載の吸音装置の取付構造。
【請求項11】
前記横材及び前記後付け吸音装置は、前記防音パネルの騒音源側に取り付けられていること
を特徴とする請求項6ないし10のいずれかに記載の吸音装置の取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道や高速道路などの騒音源に沿って並設される支柱が無い支柱レス防音壁の先端に後付けして防音性能を向上させる後付け吸音装置の取付方法及び取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新幹線の速度を上げて、所要時間を短縮し、顧客サービスの向上を図る取組みが進められている。しかし、新幹線の速度を上げた場合、列車走行時の騒音レベルも上がるため、これに対する騒音対策が求められている。また、新幹線沿線の地域の宅地化が進み新しい住宅が建てられた場合、更なる騒音対策が求められ、防音壁の性能アップが必要となる。
【0003】
一方、出願人は、多重回折による騒音減衰効果を有する騒音回析装置を遮音壁(防音壁)の先端部に取り付けた特許文献1に記載の頂部回析型遮音壁を開発した。特許文献1に記載の騒音回析装置5は、支柱3間に取り付けられる背面板9と、その背面板9上端に接合された騒音発生側へ略水平方向に延びる水平板10と、背面板9上部に継ぎ板11を介して接合された騒音発生側へ斜め上方に延びる傾斜板12とからなり、水平板10の先端と傾斜板12の上端との間に騒音導入部13が形成されている(特許文献1の明細書の段落[0021]~[0031]、図面の図2図3等参照)。このため、騒音回析装置5を防音壁の先端に取り付けることにより、防音壁の高さを変えることなく、防音性能を向上させることができる。
【0004】
そこで、前述のように、現況の騒音対策では不十分となり、防音壁の防音性能の性能アップが求められた場合、既設の防音壁の先端に特許文献1の騒音回析装置5に相当する多重回折による減衰効果を有するY字型の後付け吸音装置を増設することが考えられる。このような後付け吸音装置を増設することで対応できれば、既設の防音壁から防音性能の高い新たな防音壁に作り直して更新する場合と比較して、コストを抑えながら防音性能の向上を図ることができる。
【0005】
しかし、近年、工期短縮や施工コストの削減を目的にパネルを固定する支柱が無い、いわゆる支柱レス防音壁の設置が増えてきている。例えば、特許文献2には、筐体2と、筐体2内に所要間隔で配された複数枚の反射板16と、反射板間に配された吸音材4とを備えており、複数枚の反射板16が一体化された反射板組立体3が形成されて、該反射板組立体3が筐体2に固定されている支柱レスタイプの防音パネル1が開示されている(特許文献2の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0042]~[0051]、図面の図1図4等参照)。
【0006】
このような支柱レス防音壁の先端に、横長の吸音装置を後付けしようとする場合は、以下の問題があった。
【0007】
支柱レス防音壁は、支柱がなく、直接防音パネルを基礎となる鉄筋コンリート構造物に固定支持させる構造であるため、複数の縦長なパネルを線路方向に並設していく構造となっている。このため、後付けする横長の吸音装置は、支柱レス防音壁の縦長な防音パネルを複数枚跨いで設置することとなる。このとき、縦長な防音パネルは、製品の製作誤差や設置時の施工誤差により、先端部同士に段差が生じているおそれが高く、後付けする横長の吸音装置を取り付けにくいという問題がある。勿論、後付けする横長の吸音装置を支柱レス防音壁の縦長な防音パネルの割付に分割することも可能である。しかし、その場合は、接続箇所が多くなり設置コストや製造コストが嵩むのは明らかである。
【0008】
また、後付けする横長の吸音装置を防音壁に設置する場合、支柱が無いため、万が一、後付け吸音装置が脱落した場合に、落下や飛散防止のために落下防止ワイヤーを留めるところがないという問題もある。
【0009】
一方、後付けする防音施設としては、例えば、特許文献3に、工事現場の仮囲いの上端近傍に先端改良型消音器24をフック44で掛け止めた工事現場用仮囲いの防音構造が開示されている(特許文献3の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0036]~[0050]、図面の図1図2等参照)。
【0010】
しかし、特許文献3に記載の先端改良型消音器24は、フック44で仮囲いに掛け止めるだけの構成であり、既設の直壁に取り付け、取外し可能な技術ではあるが、鉄道や高速道路沿いの恒久構造物である防音壁に適用できる技術ではなかった。特に、特許文献3に記載の工事現場用仮囲いの防音構造は、新幹線通過時の風荷重に耐え得るものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005-213753号公報
【特許文献2】特開2012-180688号公報
【特許文献3】特開2015-168960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、防音壁に後付けして安価に防音性能を向上させることができる後付け吸音装置の取付方法及び取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1発明に係る後付け吸音装置の取付方法は、基礎構造物に支柱が立設されずに防音パネルが直接固定されて立設された既設の支柱レス防音壁に、後付け吸音装置を増設する後付け吸音装置の取付方法であって、前記防音パネルの幅の複数枚分以上の長さを有する横材を複数の前記防音パネルに亘って固定して取り付ける横材設置工程と、前記横材に前記後付け吸音装置を固定する後付け吸音装置設置工程と、を備えることを特徴とする。
【0014】
第2発明に係る後付け吸音装置の取付方法は、第1発明において、前記後付け吸音装置は、背面パネルと前記背面パネルと上端が離間して傾斜して設けられた正面パネルを有することを特徴とする。
【0015】
第3発明に係る後付け吸音装置の取付方法は、第1発明又は第2発明において、前記横材設置工程では、上下に間隔をあけて前記横材を複数枚の前記防音パネルに亘って上下二段に固定し、前記後付け吸音装置設置工程では、上段の前記横材を前記後付け吸音装置の上部に固定し、下段の前記横材を前記後付け吸音装置の下部に固定することを特徴とする。
【0016】
第4発明に係る後付け吸音装置の取付方法は、第1発明ないし第3発明のいずれかにおいて、前記横材設置工程後に、前記後付け吸音装置が落下しないように線状又はチェーン状の落下防止材を介して前記横材と前記後付け吸音装置とを連結する後付け吸音装置連結工程を有することを特徴とする。
【0017】
第5発明に係る後付け吸音装置の取付方法は、第1発明ないし第4発明のいずれかの発明において、前記横材及び前記後付け吸音装置は、前記防音パネルの騒音源側に取り付けることを特徴とする。
【0018】
第6発明に係る吸音装置の取付構造は、基礎構造物に支柱が立設されずに防音パネルが直接固定されて立設された支柱レス防音壁に、横材を介して吸音装置が取り付けられた吸音装置の取付構造であって、前記横材は、直交する面同士を有する断面形状の条材からなり、複数の前記防音パネルに亘って取り付けられ、前記吸音装置は、前記横材の前記防音パネルに当接する面と直交する面に取り付けられていることを特徴とする。
【0019】
第7発明に係る吸音装置の取付構造は、第6発明において、前記吸音装置は、前記防音パネルに沿って鉛直に設けられた背面パネルと、前記背面パネルと上端が離間して傾斜して設けられた正面パネルを有することを特徴とする。
【0020】
第8発明に係る吸音装置の取付構造は、第6発明又は第7発明において、前記横材は、上下に間隔をあけて複数の前記防音パネルに上下二段に固定されており、前記横材の上段の上横材に前記吸音装置の上部が吊り下げ固定され、前記横材の下段の下横材に前記吸音装置の下部が載置されて固定されていることを特徴とする。
【0021】
第9発明に係る吸音装置の取付構造は、第6発明ないし第8発明のいずれかの発明において、前記横材には、長孔が形成され、前記長孔を介して前記吸音装置が長さ調整自在に固定されていることを特徴とする。
【0022】
第10発明に係る吸音装置の取付構造は、第6発明ないし第9発明のいずれかの発明において、前記横材と前記吸音装置とは、線状又はチェーン状の落下防止材で連結されていることを特徴とする。
【0023】
第11発明に係る吸音装置の取付構造は、第6発明ないし第10発明のいずれかの発明において、前記横材及び前記後付け吸音装置は、前記防音パネルの騒音源側に取り付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
第1発明~第11発明によれば、防音性能を向上させる後付け吸音装置を防音壁に後付けして安価に既設防音壁の防音性能を向上させることができる。また、第1発明~第11発明によれば、横材及び後付け吸音装置が既設の防音パネルにボルトやリベットなどの機械的接合手段で接合されているので、特許文献3に記載の工事現場用仮囲いの防音構造のような仮設構造物と相違して後付け吸音装置の固定度が高く、長年恒久的に設置される恒久構造物として機能させることができる。その上、第1発明~第11発明によれば、防音パネルの幅の複数枚分以上の長さを有する横材を複数の前記防音パネルに亘って固定して取り付けるので、既設の防音パネルの設置時の施工誤差による防音壁のパネル面外方向の段差を矯正して横長な後付け吸音装置を短時間で容易に取り付けることができる。
【0025】
特に、第3発明及び第8発明によれば、横材が防音パネルに上下に間隔をあけて上下二段に設けられるので、後付け吸音装置をより強固に固定することができ、耐久性が向上し、さらに恒久構造物として機能させることができる。
【0026】
特に、第4発明及び第10発明によれば、落下防止材で横材と後付け吸音装置とが連結されているので、支柱が無いため落下防止ワイヤーを留めるところがないという問題を解決して、万が一の後付け吸音装置の落下防止対策を講じることができる。
【0027】
特に、第5発明及び第11発明によれば、後付け吸音装置を防音パネルの騒音源側に取り付けるので、脚立を使って後付け吸音装置の取付やメンテナンスを軌道側や車道側から行うことができ、橋梁の外部や民地側に仮設足場を設置することが不要となり、工期を短縮して設置コストやメンテナンスコストを低減することができる。
【0028】
特に、第9発明によれば、横材に長孔が形成されているので、既設防音壁の壁面に沿った防音パネルの設置間隔の誤差に対応して長さ調節し、短時間に簡単に後付け吸音装置を設置することができる。また、後付け吸音装置を直接既設の防音壁の防音パネルに取り付けることができるので、既設防音パネルの幅や割付、種類に限定されることなく、共通の後付け吸音装置を設置することができ、部品点数を削減してコストダウンを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明の実施形態に係る後付け吸音装置を取り付けた防音壁を騒音源側から見た状態を示す正面図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る後付け吸音装置を取り付ける前の既設の支柱レス防音壁を示す斜視図である。
図3図3は、同上の既設の支柱レス防音壁を示す分解斜視図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る後付け吸音装置を示す斜視図である。
図5図5は、同上の後付け吸音装置を示す右側面図である。
図6図6は、同上の後付け吸音装置を騒音側から見た正面図である。
図7図7は、同上の後付け吸音装置を示す平面図である。
図8図8は、本発明の実施形態に係る吸音装置の取付構造を適用した防音壁の落下防止材付近を拡大して示す部分拡大斜視図である。
図9図9は、本実施形態に係る後付け吸音装置の取付方法の横材設置工程を示す工程説明図である。
図10図10は、同上の横材設置工程を示す図9の部分拡大図である。
図11図11は、本実施形態に係る後付け吸音装置の取付方法の後付け吸音装置設置工程を示す工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態に係る後付け吸音装置の取付方法及び吸音装置の取付構造について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0031】
<吸音装置の取付構造>
図1図8を用いて、本発明の実施形態に係る後付け吸音装置の取付方法で吸音装置を後付けした本発明の実施形態に係る吸音装置の取付構造について説明する。本発明は、既設の支柱レス防音壁に吸音装置を後付けする際に好適に適用される発明であり、線路脇に設置された既設の支柱レス防音壁10に、多重回折等による減衰効果を有する変形Y字型の後付け吸音装置3を増設する場合を例示して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る後付け吸音装置3を取り付けた防音壁1を示す正面図である。
【0032】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る吸音装置の取付構造を適用した防音壁1は、既設の支柱レス防音壁10に、山形鋼からなる横材2を介して、多重回折等による減衰効果を有する変形Y字型の後付け吸音装置3を増設するための取付構造である。なお、図中のX方向は、支柱レス防音壁10、即ち鉄道(道路)に沿った防音壁方向を示し、Y方向は、上下方向を示す。また、Z方向は、支柱レス防音壁10の板面(鉄道、道路)と直交する防音壁面直交方向を示す(以下同じ)。
【0033】
(支柱レス防音壁)
先ず、図2図3を用いて、後付け吸音装置3を取り付け防音性能を向上させる既設の防音壁について説明する。図2は、本発明の実施形態に係る後付け吸音装置3を取り付ける前の既設の支柱レス防音壁10を示す斜視図であり、図3は、既設の支柱レス防音壁10を示す分解斜視図である。図2図3に示すように、図示した既設の支柱レス防音壁10は、鉄筋コンクリート製の基礎構造物である壁高欄11に支柱が立設されずに防音パネル12(その枠体を含む)が直接固定されて立設された支柱レス防音壁である。
【0034】
防音パネル12は、ステンレス鋼板、めっき鋼板、アルミニウム板などからなる金属製の筐体に多数の孔12aが穿設された概略縦長な長方形(矩形)箱状の筐体120を備え、この筐体120内に吸音材(図示せず)が装填されている。
【0035】
吸音材は、発泡ポリウレタンフォームなどの発泡樹脂や、ポリエステルやグラスウールなどの繊維材が好適に用いられ、筐体120の孔を通過した騒音を乱反射等で減衰することにより吸音する材料であれば適宜用いられるものである。なお、吸音材を装填せずに、鋼板などの重量則で遮音する遮音板からなる支柱レス防音壁にも適用可能である。
【0036】
また、図1図3に示すように、防音パネル12は、筐体120正面板及び背面板の下端から下方に突出する取付プレート12bが延設されている。この取付プレート12bが壁高欄11に埋め込まれたアンカーボルトでボルト止めされることにより、支柱レス防音壁10が壁高欄11に支柱を立てることなく立設されている。
【0037】
その上、筐体120の側面には、図2図3に示すように、隣接する他の防音パネル12の筐体120と嵌合する段差が設けられた左右一対の段部12c,12dが形成されている。このため、列車通過時の風荷重などに対しては、隣接する複数の防音パネル12同士が嵌合して一体となって対抗することができる。
【0038】
但し、既設の支柱レス防音壁10は、種々存在するものであり、防音パネル12の幅W1も一律ではなく、種々存在する(図2参照)。支柱レス防音壁10の一般的な防音パネル12の幅W1は、300mm~600mmのものが主流となっている。そして、既設の支柱レス防音壁10は、防音パネル12の製作誤差、施工誤差を、防音パネル12のX方向の設置間隔Gで調整している。このため、設置間隔Gの幅もまちまちとなっていることが一般的である。
【0039】
その上、図3に示すように、図示する支柱レス防音壁10は、防音パネル12の取付プレート12bを壁高欄11に削孔してあと施工したアンカー等で止め付けることにより、壁高欄11上に立設されている。このため、既設の支柱レス防音壁10は、アンカー等の施工誤差で、防音パネル12の取付角度がまちまちになり、防音パネル12の上端(先端)が図示Z方向においてずれていることが懸念されていた。
【0040】
そこで、本実施形態に係る吸音装置の取付構造を適用した防音壁1では、既設の支柱レス防音壁10の防音パネル12の上端付近に、山形鋼からなる横材2を複数枚の防音パネル12に亘って固定した上、後述の後付け吸音装置3を取り付ける。このため、複数の防音パネル12の上端同士に段差が生じていた場合でも後付け吸音装置3を取り付け易くなっている。
【0041】
つまり、図1に示すように、既設の支柱レス防音壁10に後付け吸音装置3を増設する本実施形態に係る吸音装置の取付構造を適用した防音壁1は、山形鋼からなる二条の横材2,2と、これらの横材2,2を介して取り付けられた後付け吸音装置3とを、備えている。
【0042】
なお、図2図3において、筐体120の側面には隣接する他の防音パネル12の筐体120と嵌合する段差が設けられた左右一対の段部12c,12dが形成されているが、筐体120の側面に段差が無くてもよい。また、図3において、支柱レス防音壁10は、防音パネル12の取付プレート12bを壁高欄11に削孔してあと施工したアンカー等で止め付けることにより、壁高欄11上に立設されているが、取付プレート12bを用いずに、ベースプレートを壁高欄11の上面に載せ、そのベースプレートに筐体120を取付けることでもよい。このように、図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するに当たって具体化した一実施形態を示したものに過ぎず、例示した実施形態によって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならない。
【0043】
(横材)
横材2は、図1に示すように、上下に間隔をあけて複数枚の防音パネル12,・・・,12に亘って上下二段に固定されており、防音パネル12の上端に沿って取り付けられるのが上横材21であり、この上横材21と所定の間隔をあけて防音パネル12の上部に取り付けられているのが、下横材22である。
【0044】
但し、横材2は、上横材21のみとすることもできる。横材2に取り付ける後付け吸音装置3は重量物であり、列車通過時の風荷重等では、上端さえ止め付ければ、下端が浮き上がるおそれは少ないからである。
【0045】
図1に示すように、上横材21は、防音パネル12の幅W1(図2参照)の4枚分程度の長さとなっており、下横材22は、防音パネル12の幅W1の3枚分程度の長さとなっている。勿論、横材2である上横材21及び下横材22の長さは、例示した長さに限られず、防音パネル12の複数枚に亘って取り付けられればよい。つまり、横材2の長さは、取り付ける後付け吸音装置3のX方向の長さに応じた幅W1の複数枚分以上(複数倍以上)であればよい。
【0046】
本実施形態に係る横材2(上横材21及び下横材22)は、等辺山形鋼からなる。勿論、本発明に係る横材は、山形鋼などの鋼材に限られず、列車通過時の風荷重に耐え得る強度を有した条材であればよい。但し、横材2は、山形鋼や溝形鋼などの直交する面同士を有する断面形状の条材からなることが好ましい。横材2の断面性能が向上し、所定の強度を有して軽量化を達成できるからである。また、後述の後付け吸音装置3の施工性が向上するからである。
【0047】
この横材2(上横材21及び下横材22)には、多数の長手方向に長い長孔21a,22aが多数穿設されている(図6、7も参照)。このため、本発明の吸音装置の取付構造を適用した防音壁1は、後述のように、X方向の防音パネル12の設置間隔Gの誤差に対応して長さ調節をして短時間に簡単に後付け吸音装置3を設置することができる。
【0048】
(後付け吸音装置:吸音装置)
次に、図4図8を用いて、本発明の実施形態に係る後付け吸音装置3について説明する。図4は、本発明の実施形態に係る後付け吸音装置3を示す斜視図である。また、図5は、後付け吸音装置3を示す右側面図であり、図6は、後付け吸音装置3を騒音側から見た正面図である。そして、図7は、後付け吸音装置3を示す平面図である。また、図8は、防音壁1の落下防止材付近を拡大して示す部分拡大斜視図である。
【0049】
図4図8に示すように、後付け吸音装置3は、上下方向に鉛直に延びる矩形板状の背面パネル30と、この背面パネル30から騒音源側に斜め上方に延び、背面パネル30と上端が離間して傾斜して設けられた矩形板状の正面パネル31と、を備え、鉛直断面形状が変形Y字型を呈する後付け吸音装置3である。この後付け吸音装置3は、既設の支柱レス防音壁10に後付けされることにより、変形Y字型の断面形状等により防音壁1の上端を回り込んで超える騒音に対して多重回折等による減衰効果で防音性能を向上させる吸音装置である。
【0050】
また、背面パネル30と正面パネル31との間には、側面を塞ぐ左右一対の三角形状の側面パネル32と、後付け吸音装置3の曲げ剛性を向上させる三角形状の複数枚の中間パネル33とが、設けられている。
【0051】
その上、正面パネル31の騒音源側(正面側)には、吸音パネル34が装着されている。この吸音パネル34は、矩形箱状となっており、騒音源側(正面側)に多数の円形の孔34aが穿設されている。
【0052】
なお、本実施形態に係る背面パネル30、正面パネル31、側面パネル32、中間パネル33、及び吸音パネル34は、高耐候性めっき鋼板からなる。勿論、これらのパネル材は、高耐候性めっき鋼板に限られず、防錆処理が施された鋼板、ステンレス板、アルミニウム板などの金属板から構成されていればよい。
【0053】
また、吸音パネル34の内部には、吸音材(図示せず)が装填されている。この吸音材は、ポリエステル樹脂からなる繊維材である。勿論、吸音パネル34に装填された吸音材も、既設の支柱レス防音壁10と同様に、発泡ポリウレタンフォームなどの発泡樹脂やグラスウールなどの他の繊維材であっても構わない。要するに、吸音パネル34に装填された吸音材も、円形の孔34aを通過した騒音を乱反射等で減衰することにより吸音する材料であれば適宜用いられるものである。
【0054】
そして、図8に示すように、上横材21と後付け吸音装置3とは、ワイヤーからなる落下防止材4で連結されている。勿論、本発明に係る落下防止材は、ワイヤーに限られず、可撓性を有する線材などの線状又はチェーン状の後付け吸音装置3の落下の衝撃荷重に対抗できる所定の強度を有した部材であればよい。
【0055】
後付け吸音装置3は、図4図8に示すように、上下方向に鉛直に延びる矩形板状の背面パネル30と、この背面パネル30から騒音源側に斜め上方に延び、背面パネル30と上端が離間して傾斜して設けられた矩形板状の正面パネル31と、を備え、鉛直断面形状が変形Y字型を図示したが、望ましい実施形態を示したに過ぎない。後付け吸音装置3は、既設の支柱レス防音壁10の上部に後付けすることで防音性能を向上できるものであれば、例示した実施形態によって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならない。
【0056】
<後付け吸音装置の取付方法>
次に、図9図11図1図5図8を用いて、本発明の実施形態に係る後付け吸音装置の取付方法について説明する。前述の既設の支柱レス防音壁10に前述の後付け吸音装置3を取り付けて本発明の実施形態に係る吸音装置の取付構造を適用した防音壁1を構築する場合を例示して説明する。
【0057】
(横材設置工程)
図9は、本実施形態に係る後付け吸音装置の取付方法の横材設置工程を示す工程説明図であり、図10は、横材設置工程を示す図9の部分拡大図である。図9図10に示すように、本実施形態に係る後付け吸音装置の取付方法では、先ず、前述の横材2を既設の支柱レス防音壁10の複数枚の防音パネル12に亘って固定して取り付ける横材設置工程を行う。
【0058】
具体的には、本工程では、前述の防音パネル12の幅W1(図2参照)の4枚分程度の長さの等辺山形鋼かなる上横材21を、複数枚(図示形態では4枚)の防音パネル12に亘ってボルトやリベットなどの機械的接合手段で接合して固定する。
【0059】
また、本工程では、既設の支柱レス防音壁10の防音パネル12の上端付近に、上横材21を複数枚の防音パネル12に亘って固定する。このため、複数の防音パネル12の上端同士に段差が生じていた場合でも後工程で後付け吸音装置3を取り付け易くなる。
【0060】
要するに、本工程により、背景技術で述べた製品の製作誤差や設置時の施工誤差により、既設の支柱レス防音壁10の先端部同士に段差が生じ、後付け吸音装置3を取り付けにくいという問題を解消して、後付け吸音装置3の取付作業の施工効率を向上させることができる。
【0061】
また、本工程では、防音パネル12の騒音源側(正面側)に上横材21を取り付ける。防音パネル12の背面側に上横材21を取り付けることも可能であるが、後付け吸音装置3の吸音効率が低下することもあり、防音パネル12の騒音源側(正面側)に取り付ける方が好ましい。また、支柱レス防音壁10の外側は、民地であることが多く、仮設足場を組むことが困難である場合も多いからである。
【0062】
なお、本工程において、上横材21の下方に後付け吸音装置3の高さに応じた間隔をあけて下横材22を防音パネル12の騒音源側に取り付けても構わない。そうすることで、本工程で取り付けた下横材22の上に、後述の工程において後付け吸音装置3を載置して取り付けることができ、重量物である後付け吸音装置3を取付ける際の作業性が向上する。
【0063】
(後付け吸音装置設置工程)
図11は、本実施形態に係る後付け吸音装置の取付方法の後付け吸音装置設置工程を示す工程説明図である。図11に示すように、本実施形態に係る後付け吸音装置の取付方法では、次に、前工程で既設の支柱レス防音壁10に取り付けた上横材21に前述の後付け吸音装置3を固定する後付け吸音装置設置工程を行う。
【0064】
具体的には、図6に示したように、予め後付け吸音装置3の下端に、前述の下横材22をボルトやリベットなどの機械的接合手段で接合しておく。そして、前工程で既設の支柱レス防音壁10に取り付けた上横材21に、下横材22が接合された後付け吸音装置3を機械的接合手段で接合して設置する。
【0065】
このとき、後付け吸音装置3は、等辺山形鋼からなる上横材21の防音パネル12と当接する面と直交する面に取り付けられ、防音パネル12に取り付けられた上横材21に吊り上げ支持されている。
【0066】
また、後付け吸音装置3の下端に取り付けられた下横材22は、後付け吸音装置3と当接する面と直交する面が防音パネル12に取り付けられる。このため、後付け吸音装置3の下部は、下横材22に載置されて固定されていることとなる。
【0067】
よって、後付け吸音装置3は、上下二段の上横材21と下横材22により、防音パネル12に強固に固定することができ、耐久性が向上する。このため、既設の支柱レス防音壁10に取り付けた後付け吸音装置3を恒久構造物として機能させることができる。
【0068】
また、前述のように、横材2の上横材21及び下横材22には、長孔21a,22aが形成されている。このため、既設の支柱レス防音壁10のX方向に沿った防音パネル12の設置間隔Gの誤差に対応して長さ調節し、短時間で簡単に後付け吸音装置3を設置することができる。
【0069】
なお、前工程で、既設の支柱レス防音壁10に上横材21のみを取り付け、本後付け吸音装置設置工程で、上横材21に後付け吸音装置3を固定した後、下横材22を既設の支柱レス防音壁10の防音パネル12に取り付けることもできる。最終的には、後付け吸音装置3を既設の支柱レス防音壁10に強固に固定できるからである。
【0070】
また、図11に示すように、横材2及び後付け吸音装置3を既設の支柱レス防音壁10の騒音源側に取り付けることにより、脚立を使って後付け吸音装置3の取付やメンテナンスを軌道側や車道側から行うことができ、橋梁の外部や民地側に仮設足場を設置することが不要となり、工期を短縮して設置コストを低減することができる。
【0071】
(後付け吸音装置連結工程)
図8に示すように、本実施形態に係る後付け吸音装置の取付方法では、次に、前述の落下防止材4で上横材21と後付け吸音装置3とを連結する後付け吸音装置連結工程を行う。後付け吸音装置3が万が一に上横材21から脱落した場合であっても、後付け吸音装置3が鉄道や車道に落下して事故を誘発することがないようにするためである。本工程を行うことにより、支柱が無いため落下防止ワイヤーを留めるところがないという背景技術で述べた問題を解決して、後付け吸音装置3の落下防止対策を講じることができる。
【0072】
以上説明した、本発明の実施形態に係る後付け吸音装置の取付方法及び吸音装置の取付構造によれば、防音性能を向上させる後付け吸音装置3を既設の支柱レス防音壁10に後付けして安価に防音性能を向上させることができる。
【0073】
また、本実施形態に係る後付け吸音装置の取付方法及び吸音装置の取付構造によれば、横材2及び後付け吸音装置3が既設の防音パネル12にボルトやリベットなどの機械的接合手段で接合されているので、特許文献3に記載の工事現場用仮囲いの防音構造のような仮設構造物と相違して後付け吸音装置の固定度が高く、長年恒久的に設置される恒久構造物として機能させることができる。
【0074】
その上、本実施形態に係る後付け吸音装置の取付方法及び吸音装置の取付構造によれば、防音パネル12の幅W1の複数枚分以上の長さを有する横材2を複数枚の防音パネル12に亘って固定して取り付けるので、既設の防音パネル12の設置時の施工誤差による防音壁1のパネル面外方向の段差を矯正して横長な後付け吸音装置3を短時間で容易に取り付けることができる。
【0075】
それに加え、本発明の実施形態に係る後付け吸音装置の取付方法及び吸音装置の取付構造によれば、後付け吸音装置3を直接防音パネル12に取り付けることができるので、既設の防音パネル12の幅W1や割付、種類に限定されることなく、共通の後付け吸音装置3を設置することができ、部品点数を削減してコストダウンを図ることができる。
【0076】
また、本実施形態に係る後付け吸音装置の取付方法及び吸音装置の取付構造によれば、横材2が防音パネルに上下に間隔をあけて上下二段に設けられるので、後付け吸音装置3をより強固に固定することができ、耐久性が向上し、恒久構造物として機能させることができる。
【0077】
以上、本発明の実施形態に係る後付け吸音装置の取付方法及び吸音装置の取付構造について詳細に説明した。しかし、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎず、例示した実施形態によって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【符号の説明】
【0078】
1:防音壁(吸音装置の取付構造)
2:横材
21:上横材(横材)
21a:長孔
22:下横材(横材)
22a:長孔
3:後付け吸音装置(吸音装置)
30:背面パネル
31:正面パネル
32:側面パネル
33:中間パネル
34:吸音パネル
34a:円形の孔
4:落下防止材
10:支柱レス防音壁(既設防音壁)
11:壁高欄(基礎構造物)
12:防音パネル
120:筐体
12a:孔
12b:取付プレート
12c,12d:段部
G:設置間隔
W1:防音パネルの幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11