(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149606
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】半導体素子接合部及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20220929BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20220929BHJP
H01L 25/07 20060101ALI20220929BHJP
H01B 5/00 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
H01L21/52 E
H01L21/52 A
H01L23/30 R
H01L25/04 C
H01B5/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051833
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】立岡 正明
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 隆
【テーマコード(参考)】
4M109
5F047
5G307
【Fターム(参考)】
4M109AA01
4M109BA03
4M109CA02
4M109DB10
4M109EA02
4M109EB02
4M109EB04
4M109EB12
4M109EB16
4M109FA07
4M109GA02
5F047AA14
5F047BA14
5F047BA15
5F047BA22
5F047BA51
5F047BA52
5F047BA53
5F047BB11
5F047BC12
5F047BC13
5F047CA01
5F047CA02
5G307AA04
(57)【要約】
【課題】 耐熱性が高く、接合材と封止樹脂との密着性が向上した、信頼性の高い半導体素子接合部及び半導体装置を提供する。
【解決手段】 半導体素子11と、導電性板123aとが接合層10により接合された半導体素子接合部であって、前記接合層10が、金属ナノ粒子焼結体101と、SH基を有するカップリング剤102とを含む、半導体素子接合部。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子と、積層基板とが接合層により接合された半導体素子接合部であって、
前記接合層が、金属ナノ粒子焼結体と、SH基を有するシランカップリング剤とを含む、半導体素子接合部。
【請求項2】
前記接合層において、前記金属ナノ粒子焼結体の周囲が前記シランカップリング剤により被覆されている、請求項1に記載の半導体素子接合部。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子が、銀ナノ粒子、銅ナノ粒子、金ナノ粒子から選択される1以上である、請求項1または2に記載の半導体素子接合部。
【請求項4】
前記半導体素子が、前記接合層との接触面に金電極を備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の半導体素子接合部。
【請求項5】
積層基板上に実装された半導体素子と導電性接続部材とを含む被封止部材を封止材にて封止してなる半導体装置であって、請求項1~4のいずれか1項に記載の半導体素子接合部を備える半導体装置。
【請求項6】
前記封止材が、熱硬化性樹脂硬化物を含む、請求項5に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記接合層、半導体素子及び前記導電性接続部材を含む被封止部材と、前記封止材との界面に、プライマー層をさらに備える、請求項5または6に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記半導体素子が、Siまたはワイドギャップ半導体素子である、請求項5~7のいずれか1項に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体素子接合部及び半導体装置に関する。本発明は、特には耐熱性が高く、接合層と封止材との密着性が向上した、信頼性の高い半導体素子接合部及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体モジュールは、効率的な電力変換が求められる分野に広く適用されている。例えば、産業機器、電気自動車、家電製品などのパワーエレクトロニクス分野に適用領域が拡大している。これらのパワー半導体モジュールには、スイッチング素子とダイオードが内蔵されており、素子にはSi(シリコン)半導体やSiC(シリコンカーバード)半導体が用いられている。
【0003】
従来、パワー半導体モジュールでの素子と積層基板の接合にははんだが使用されてきた。近年、パワー半導体モジュールの小型化、高電流密度化からモジュールへの耐熱化要求が高まっており、はんだに代わり、金属粒子焼結体を使用したモジュールが提案されている(例えば、特許文献1、2を参照)。
【0004】
また、パワー半導体モジュールへの信頼性要求も高まっている。信頼性向上には封止材とモジュール部材の密着性が重要であり、密着性を向上させるために封止材とモジュール部材との界面に、ポリイミド、ポリイミドアミド等のプライマーの使用が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。プライマーは低弾性材であり、封止材とモジュール部材との界面において応力緩和の効果があるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-164165号公報
【特許文献2】特開平6-244463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、接合材として金属粒子焼結体を用いるパワー半導体モジュールにおいては、封止材と接合材との間のワレや剥離、焼結体内部でのワレを生じる場合があった。特許文献1の技術では、プライマー層による応力緩和を試みている。しかし、プライマー層による応力緩和効果だけでは、上記ワレ等の問題を解決することができない場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、金属ナノ粒子焼結体を接合材として半導体素子と積層基板との間の接合部を形成するにあたって、金属ナノ粒子焼結体が特定のカップリング剤に被覆された構成とすることで、接合部の周囲に形成される封止材と接合層と間のワレや剥離、焼結体内部でのワレを抑制し、信頼性の高い接合部を形成することに想到し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、一実施形態によれば、半導体素子と、積層基板とが接合層により接合された半導体素子接合部であって、
前記接合層が、金属ナノ粒子焼結体と、SH基を有するシランカップリング剤とを含む、半導体素子接合部に関する。
【0009】
前記半導体素子接合部の前記接合層において、前記金属ナノ粒子焼結体が前記シランカップリング剤により被覆されていることが好ましい。
【0010】
前記半導体素子接合部において、前記金属ナノ粒子が、銀ナノ粒子、銅ナノ粒子、金ナノ粒子から選択される1以上であることが好ましい。
【0011】
前記半導体素子接合部において、前記半導体素子が、前記接合層との接触面に金電極を備えることが好ましい。
【0012】
本発明は、別の実施形態によれば半導体装置であって、積層基板上に実装された半導体素子と導電性接続部材とを含む被封止部材を封止材にて封止してなり、前述のいずれかに記載の半導体素子接合部を備える半導体装置に関する。
【0013】
前記半導体装置において、前記封止材が、熱硬化性樹脂硬化物を含むことが好ましい。
【0014】
前記半導体装置において、前記接合層、半導体素子及び前記導電性接続部材を含む被封止部材と、前記封止材との界面に、プライマー層をさらに備えることが好ましい。
【0015】
前記半導体装置において、前記半導体素子が、Siまたはワイドギャップ半導体素子であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高耐熱性であり、半導体素子と導電性板との間の接合層におけるワレや、周囲の封止材との間での剥離を抑制した、信頼性の高い半導体素子接合部並びにこれを備える半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による半導体装置の断面構造を示す概念的な断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のA部分の拡大断面図であって、本発明の一実施形態による半導体素子接合部の断面構造を示す概念的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0019】
本発明の実施形態は、半導体素子接合部並びにこれを備える半導体装置に関する。
図1は、本実施形態に係る半導体装置の一例である、パワー半導体モジュールの概念的な断面図であり、
図2は、
図1のA部分の拡大断面図である。
図1、2を参照すると、パワー半導体モジュールは、放熱板13上に半導体素子11及び積層基板12を、接合層10にて接合した半導体素子接合部を有する。放熱板13には、外部端子15を内蔵したケース16が接着されている。半導体素子11と積層基板12の第2導電性板123bは、接合層17を介してリードフレーム18で接続され、半導体素子11と外部端子15は、半導体素子11上部にて接合層17を介してアルミワイヤ14にて接続されている。また、ケース16内部には、封止材20が充填されている。
【0020】
半導体素子11は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)あるいはダイオードチップ等のパワーチップであり、Siデバイスであってもよく、SiCデバイス、GaNデバイス、ダイヤモンドデバイス、ZnOデバイスなどのワイドギャップ半導体デバイスであってもよい。また、これらのデバイスを組み合わせて用いてもよい。例えば、Si-IGBTとSiC-SBDを用いたハイブリッドモジュールなどを用いることができる。半導体素子の搭載数は、1つであってもよく、複数搭載することもできる。半導体素子11は、積層基板12と接合される裏面電極111と、おもて面電極(図示せず)を備えており、裏面電極111は金電極であることが好ましい。裏面電極111が接合層10と接触して本実施形態による半導体素子接合部を構成する。なお、裏面電極には金属層が形成される。TiやNiなども用いられるが、金属ナノ粒子焼結体との接合性からCu、Ag、Auが好ましく、Ag、Auがより好ましい。
【0021】
積層基板12は、絶縁基板122とその一方の主面に形成される第1導電性板121と、他方の主面に形成される第2導電性板123a、bとから構成することができる。絶縁基板122としては、電気絶縁性、熱伝導性に優れた材料を用いることができる。絶縁基板122の材料としては、例えば、Al2O3、AlN、SiNなどが挙げられる。特に高耐圧用途では、電気絶縁性と熱伝導率を両立した材料が好ましく、AlN、SiNを用いることができるが、これらには限定されない。第1導電性板121、第2導電性板123a、bとしては、加工性に優れるCu、Alなどの金属材料を用いることができる。また、導電性板は、防錆などの目的で、Niめっきなどの処理を行ったCu、Alであってもよい。絶縁基板122上に導電性板121、123a、bを配設する方法としては、直接接合法(Direct Copper Bonding法)もしくは、ろう材接合法(Active Metal Brazing法)が挙げられる。図示する実施形態においては、絶縁基板122上に、非連続的に2つの第2導電性板123a、bが設けられ、一方123aが、半導体素子11と接合される電極、他方123bがリードフレーム18と接続される電極となる。図示するパワー半導体モジュールにおいては、第2導電性板123aが接合層10と接触して本実施形態による半導体素子接合部を構成する。
【0022】
リードフレーム18は、半導体素子11と第2導電性板123bとを接続する導電性接続部材である。リードフレーム18は、銅、または銅を含む合金などの金属であってよい。リードフレーム18の表面にはめっき法などにより、NiまたはNi合金層、あるいはCrまたはCr合金層を形成してもよい。この場合、NiまたはNi合金層、あるいはCrまたはCr合金層の膜厚は20μm以下程度とすることができる。
【0023】
放熱板13としては、熱伝導性に優れた銅やアルミニウムなどの金属が用いられる。また、腐食防止のために、放熱板13にNiおよびNi合金を被覆することもできる。
【0024】
ケース16は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)や、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等の熱可塑性樹脂であってよい。
【0025】
半導体素子11の裏面電極と第2導電性板123aとを接合する接合層10は、金属ナノ粒子焼結体と、SH基(メルカプト基、チオール基とも指称する)を有するシランカップリング剤とを含む。半導体素子11と積層基板12(第2導電性板123a)とこれらを接合する接合層10が、本発明に係る半導体素子接合部を構成する。
【0026】
金属ナノ粒子焼結体は、平均粒子径が約1~200nmの金属粒子群(金属ナノ粒子)が焼結され、粒子間が結合して連なった状態にある多孔質金属体をいう。焼結後の多孔質金属体には、空乏を有する場合もある。金属ナノ粒子は、銀、銅、金またはそれらの混合物からなる粒子であってよい。
【0027】
金属ナノ粒子のうち、銀ナノ粒子は250℃以下の低温で焼結しやすく汎用的に用いられ、密着性が高いため車載などの強度を求められる用途に特に用いられる。また、金ナノ粒子は、250℃以下の低温で焼結しやすく、酸化しにくいためより過酷な耐環境性を求められる半導体モジュールに用いられる。銅ナノ粒子は接合時の焼結温度が高く、デバイスの動作温度が200℃以上の高温使用の半導体モジュールの用途において特に好ましい。また、本発明によれば、被接合材、例えば裏面電極の表面金属層がAu、Agならば、金属ナノ粒子はAu、Ag、Cuが好ましく、Agがより好ましい。表面金属層上に表面金属と同一の結晶方位を有するように金属ナノ粒子が接合することができるからである。同じ金属同士が好ましいが、Au上にAgナノ粒子の場合でも良好に接合することができる。また、被接合材がCuの場合は、金属ナノ粒子がAu、Ag、Cuが好ましく、接合性の点からCu、Agがより好ましい。
【0028】
シランカップリング剤は、一分子内にSi原子に直接結合したアルコキシ基と、SH基を有するシランカップリング剤である。シランカップリング剤は、特には、SH-A-Si(OR1)n(R2)3-n(式中、Aは直鎖もしくは分枝状の飽和もしくは不飽和の炭化水素基であり、R1、R2は独立して炭素数1から3の直鎖もしくは分枝状の炭化水素基であり、nは1~3から選択される整数である)で表される化合物であってよい。Aは炭素数が1から6の直鎖状の炭化水素基であることが好ましく、炭素数が1から3の直鎖状の炭化水素基であることがより好ましい。R1、R2は独立してエチル基、メチル基であることが好ましい。
【0029】
シランカップリング剤の具体例としては、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられるが、これらには限定されない。異なる複数のシランカップリング剤を混合して用いることもできる。
【0030】
接合層10における、金属ナノ粒子焼結体と、10倍希釈したカップリング剤との混合比は、体積比が、例えば、1:0.7~1:1.3であってよく、1:0.9~1:1.1であることが好ましい。体積比は、接合層形成前、すなわち加熱前の体積比をいう。このような比率で金属ナノ粒子焼結体とカップリング剤とを混合することで、金属ナノ焼結体が形成する多孔質体の空隙及び周囲にカップリング剤が充填され、金属ナノ粒子焼結体の表面が実質的にカップリング剤に被覆された状態とすることができる。希釈倍率が異なる場合には、上記好ましい体積比の範囲に沿って、金属ナノ粒子焼結体と、カップリング剤とが所定の体積比となるように混合することができる。
【0031】
ある態様においては、接合層10には、熱硬化性樹脂は含まれないことが好ましい。接合層のワレを防止することができるためである。熱硬化性樹脂が金属ナノ粒子焼結体の内部(空乏)に入り込んだ状態で熱サイクルが加わると金属ナノ粒子焼結体からなる多孔質の金属体と封止材を構成する熱硬化性樹脂の間に熱応力が生じ、これらの界面で剥離してしまう場合がある。なお、本発明によれば、空乏にカップリング剤が入り込むため空乏は低減し、熱硬化性樹脂等は入り込みづらくなる。
【0032】
ある形態においては、接合層10は、金属ナノ粒子焼結体と所定のシランカップリング剤とからなる。このような構成とすることで、接合層の金属ナノ粒子焼結体からなる多孔質の金属体と、封止材を構成する熱硬化性樹脂との結合が向上する。また、金属ナノ粒子焼結体を構成する金属粒子同士の結合が強化され、被接合金属材表面(例えば半導体素子の裏面電極)と金属ナノ粒子の結合を強化することができるといった利点が得られる。
【0033】
接合層10の厚みは、10μm~300μmとすることが好ましく、15μm~60μmとすることがさらに好ましい。接合層10の厚みは、焼結後の厚みをいう。
【0034】
半導体素子11の裏面電極111に接する接合層10以外の接合層17も、接合層10と同じ構成とすることができる。あるいは、接合層17は、金属ナノ粒子焼結体に代えて、粒子径が0.5μm~100μm程度の金属粒子の導電性接着剤(例えば銀ペースト)やはんだ材等を使用することができるが、これらには限定されない。導電性接着剤とは、0.5μm~100μm程度の粒子径を有する銀などの金属粒子を熱硬化性樹脂中に分散させペースト状にしたもので、加熱焼結後は金属粒子の連結物の周囲を熱硬化性樹脂が囲む形態で導電性を有し、金属ナノ粒子焼結体より剛性は低い。半導体素子の裏面に、接合層10を用いた場合は、半導体素子の上部のリードフレームなどの接合には、上述のはんだや金属ペーストの焼結体のような剛性の低い接合材を用いることが好ましい。はんだや金属ペースト焼結体が熱応力によるひずみを緩和する作用があると推察されるためである。
【0035】
ケース16内には、封止材20が充填される。封止材20は、半導体素子11、接合層10、積層基板12、アルミワイヤ14、外部端子15、リードフレーム18を含む部材を絶縁封止する。封止材20は、熱硬化性樹脂組成物から構成することができ、特には高耐熱性の熱硬化性樹脂組成物から構成することが好ましい。熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂主剤を含み、任意選択的に、無機充填材、硬化剤、硬化促進剤、及び必要な添加剤を含んでいてもよい。
【0036】
熱硬化性樹脂主剤としては、特に限定されず、例えばエポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、マレイミド樹脂等を挙げることができる。中でも、1分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が、寸法安定性や耐水性・耐薬品性および電気絶縁性が高いことから、特に好ましい。具体的には、脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂またはこれらの混合物を用いることが好ましい。
【0037】
脂肪族エポキシ樹脂とは、エポキシ基が直接結合する炭素が、脂肪族炭化水素を構成する炭素であるエポキシ化合物をいうものとする。したがって、主骨格に芳香環が含まれている化合物であっても、上記条件をみたすものは、脂肪族エポキシ樹脂に分類される。脂肪族エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、3官能以上の多官能型エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらには限定されない。これらを単独で、または二種類以上混合して使用することができる。また、ナフタレン型エポキシ樹脂や3官能以上の多官能型エポキシ樹脂はガラス転移点温度が高いため、高耐熱性エポキシ樹脂とも指称する。これらの高耐熱性エポキシ樹脂を含むことで耐熱性を向上させることができる。
【0038】
脂環式エポキシ樹脂とは、エポキシ基を構成する2つの炭素原子が、脂環式化合物を構成するエポキシ化合物をいうものとする。脂環式エポキシ樹脂としては、単官能型エポキシ樹脂、2官能型エポキシ樹脂、3官能以上の多官能型エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらには限定されない。脂環式エポキシ樹脂も、単独で、または異なる二種以上の脂環式エポキシ樹脂を混合して用いることができる。なお、脂環式族エポキシ樹脂を酸無水物硬化剤と混合して硬化すると、ガラス転移温度が高くなるため、脂肪族エポキシ樹脂に脂環式族エポキシ樹脂を混合して用いると高耐熱化を図ることができる。
【0039】
熱硬化性樹脂組成物に用いる熱硬化性樹脂主剤は、上記の脂肪族エポキシ樹脂と脂環式エポキシ樹脂とを混合したものであってもよい。混合する場合の混合比は任意であってよく、脂肪族エポキシ樹脂と脂環式エポキシ樹脂との質量比が、2:8~8:2程度であってよいが、3:7~7:3程度であってもよく、特定の質量比には限定されない。好ましくは、熱硬化性樹脂主剤は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と脂環式エポキシ樹脂との質量比が、1:1~1:4である。
【0040】
熱硬化性樹脂組成物には、任意選択的な成分として無機充填材を含んでもよい。無機充填材は、金属酸化物もしくは金属窒化物であってよく、例えば、溶融シリカ、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、チタニア、ジルコニア、窒化アルミニウム、タルク、クレー、マイカ、ガラス繊維等が挙げられるが、これらには限定されない。これらの無機充填材により、硬化物の熱伝導率を高め、熱膨張率を低減することができる。これらの無機充填材は、単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの無機充填材は、マイクロフィラーであってもよく、ナノフィラーであってもよく、粒径及びまたは種類が異なる2種以上の無機充填材を混合して用いることもできる。特には、平均粒径が、0.2~20μm程度の無機充填材を用いることが好ましい。無機充填材の添加量は、熱硬化性樹脂主剤と任意選択的に含まれ得る硬化剤との総質量を100質量部としたとき、100~600質量部であることが好ましく、200~400質量部であることがさらに好ましい。無機充填材の配合量が100質量部未満であると封止材の熱膨張係数が高くなって剥離やクラックが生じ易くなる場合がある。配合量が600質量部よりも多いと組成物の粘度が増加して押出し成形性が悪くなる場合がある。
【0041】
熱硬化性樹脂組成物には、任意選択的な成分として、熱硬化性樹脂主剤に加えて、あるいは熱硬化性樹脂主剤及び無機充填材に加えて硬化剤を含んでもよい。硬化剤としては、熱硬化性樹脂主剤、好ましくはエポキシ樹脂主剤と反応し、硬化しうるものであれば特に限定されないが、酸無水物系硬化剤を用いることが好ましい。酸無水物系硬化剤としては、例えば芳香族酸無水物、具体的には無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸等が挙げられる。あるいは、環状脂肪族酸無水物、具体的にはテトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸等、もしくは脂肪族酸無水物、具体的には無水コハク酸、ポリアジピン酸無水物、ポリセバシン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物等を挙げることができる。硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂主剤100質量部に対し、50質量部以上であって170質量部以下程度とすることが好ましく、80質量部以上であって150質量部以下程度とすることがより好ましい。硬化剤の配合量が50質量部未満であると架橋不足からガラス転移温度が低下する場合があり、170質量部より多くなると耐湿性、高熱変形温度、耐熱安定性の低下を伴う場合がある。なお、熱硬化性樹脂主剤として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を単独で、またはビスフェノールA型エポキシ樹脂と先に例示した高耐熱性エポキシ樹脂との混合物を用いる場合は、硬化剤を用いない方が、耐熱性が向上するため好ましい場合がある。高耐熱性エポキシ樹脂の配合比は、例えば、熱硬化性樹脂主剤の総質量を100%とした場合に、10質量%以上であって50質量%以下であってよく、より好ましくは10%以上であって25質量%以下である。この範囲であれば、耐熱性も向上し、また増粘することもないため好ましい。
【0042】
熱硬化性樹脂組成物には、さらに、任意選択的な成分として、硬化促進剤を添加することができる。硬化促進剤としては、イミダゾールもしくはその誘導体、三級アミン、ホウ酸エステル、ルイス酸、有機金属化合物、有機酸金属塩等を適宜配合することができる。硬化促進剤の添加量は、エポキシ樹脂主剤100質量部に対して、0.01質量部以上であって50質量部以下とすることが好ましく、0.1質量部以上であって20質量部以下とすることがより好ましい。
【0043】
熱硬化性樹脂組成物は、また、その特性を阻害しない範囲で、任意選択的な添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、難燃剤、樹脂を着色するための顔料、耐クラック性を向上するための可塑剤やシリコンエラストマーが挙げられるが、これらには限定されない。これらの任意成分、およびその添加量は、半導体装置及び/または封止材に要求される仕様に応じて、当業者が適宜決定することができる。
【0044】
ケース内に充填される封止材20は、半導体素子11、接合層10、17、積層基板12、リードフレーム18を含む部材と接触した状態で硬化され、これらの部材を絶縁封止する。
図2を参照すると、半導体素子11、接合層10、導電性板123aを含む半導体素子接合部においても、接合層10と封止材20とが接触する。本実施形態によれば、接合層10を構成する金属ナノ粒子焼結体101は、カップリング剤102に実質的に被覆された状態で存在する。そのため、封止材20との界面に位置するのは、主にカップリング剤102である。そして、カップリング剤102に存在する反応性の官能基と、封止材20を構成する熱硬化性樹脂が有する官能基の間で共有結合を形成することができる。これにより、接合層10と封止材20との間の密着性を確保し、剥離やワレを防止することができる。
【0045】
本実施形態において、半導体素子11、接合層10、17、積層基板12、リードフレーム18を含む部材を、被封止部材とも指称する。
図1に示す被封止部材上には、プライマー層が形成されていてもよい。プライマー層は、ポリアミド、ポリイミド、またはポリアミドイミドを含む樹脂からなる層であってよい。プライマー層は、接合層10、17、リードフレーム18やアルミワイヤ14などの導電性接続部材や積層基板12(特に導電性板123a、b)、放熱板13、ケース16(内面)と封止材の界面の密着性を向上させ、応力を緩和させることができるため、有利に用いられる場合がある。プライマー層の厚みは、密着性を付与し、応力を緩和させることができる厚みであれば特には限定されない。プライマー層の厚みは、例えば、1~15μm程度とすることができ、2~10μmとすることが好ましい。プライマー層を設ける場合には、上記部材の表面全体を被覆するように設けることができる。接合層10に接してプライマー層が設けられる場合には、プライマー層を構成する樹脂と、カップリング剤102との間で共有結合を形成することができる。これにより、接合層10と、プライマー層間の密着性、並びにプライマー層と封止材20との間の密着性を確保し、剥離やワレを防止することができる。
【0046】
上記態様のパワー半導体モジュールの製造について説明する。まず、半導体素子接合部は、半導体素子11と積層基板12とを接合層10にて接合することにより製造する。以下に、半導体素子接合部の形成方法の例を挙げて説明する。
【0047】
ある態様によれば、半導体素子接合部の形成方法は、以下の工程を含む。
1.積層基板12の導電性板123a上に金属ナノ粒子焼結体を形成するための材料である金属接合材を設置する。
2.金属接合材にカップリング剤を滴下する。
3.金属接合材とカップリング剤とが接触した状態にて静置する。
4.金属接合材とカップリング剤の上に半導体素子11の裏面電極が接触する状態にて焼結する。
【0048】
工程1においては、金属ナノ粒子焼結体を形成する金属接合材を準備する。金属接合材としては、金属ナノ粒子接合材もしくは酸化銀マイクロ粒子接合材を使用することができる。
【0049】
銀、金、銅などの金属微粒子の粒径がナノサイズになると、各金属のバルク材の融点より低い概ね400℃以下で接合することができ、これをナノ粒子接合法という。ナノ粒子接合法を用いて金属ナノ粒子焼結体を形成する場合、金属接合材として金属ナノ粒子接合材を用いることができる。金属ナノ粒子接合材は、ナノサイズの金属粒子表面を有機物で覆って凝集を防止し、溶媒中への分散性を向上させペースト化した接合材であってよい。したがって、金属ナノ粒子接合材は金属ナノ粒子と有機溶媒を含む。金属ナノ粒子接合材は、シート状の接合材を用いることができる。シート状の接合材は市販のものを用いることができる。あるいは、シート状の接合材は、ペースト状の金属ナノ粒子焼結層用の接合材を印刷法やディスペンサにより塗布することで、所定の形状、厚さに形成したものであってもよく、100℃から150℃で0.5時間から2時間程度乾燥・仮硬化させたものであってもよい。
【0050】
金属接合材としては、酸化銀マイクロ粒子接合材を使用することもできる。マイクロサイズの酸化銀粒子と、還元作用を有する還元溶剤をペースト状にした接合材に、アルコール系溶媒を添加することにより400℃以下程度の比較的低い温度で酸化銀を還元し、ナノサイズの銀粒子からなる焼結体を製造することができる。これはナノ粒子接合法と同様の接合の形態であって、出発材料及び反応のメカニズムは異なるが、最終的に金属ナノ粒子焼結体を得ることができる点では共通する。酸化銀マイクロ粒子接合材もシート状にして用いることができる。
【0051】
工程2において、工程1で形成された金属接合材にシランカップリング剤を滴下する。シランカップリング剤は流体状で滴下することができる。シランカップリング剤は必要に応じてエタノール、メタノール、水等にて希釈して用いることができ、1から50mPa・s程度の粘度とすることが好ましい。この粘度範囲であれば、シランカップリング剤が金属ナノ粒子接合材中に行き渡るように含侵することでき、シランカップリング剤を滴下した際に拡がらないため好ましい。滴下時の環境は、常温、常圧の大気中で、湿度が40%RHから70%RH程度とすることが好ましい。
【0052】
工程3においては、金属接合材とシランカップリング剤とをなじませるために5~20分程度、好ましくは10分程度静置する。環境条件は、工程2と同様とすることができる。
【0053】
工程4においては、無加圧もしくは加圧下で焼結を行う。例えば、無加圧の場合、大気下、N2下、またはH2やギ酸等の還元雰囲気下で、200℃~350℃にて、30~120分程度加熱することができる。あるいは、5~40MPaの加圧下にて、無加圧の場合と同様の雰囲気、温度にて、1~10分程度といった短時間で接合することもできる。これにより、半導体素子11と接合層10と積層基板12とから構成される半導体素子接合部が得られる。その後、接合層10の周囲にはプライマーや封止樹脂が形成される。このような工程で形成された接合層10は、シランカップリング剤により、金属ナノ粒子からなる多孔質金属体と封止樹脂は良好に結合し、金属ナノ粒子同士が結合し、さらに、被接合材である半導体素子裏面の金属(AuやAg)と金属ナノ粒子が良好に結合することができる。
【0054】
接合層の形成方法の別の例としては、金属ナノ粒子焼結体を先に形成し、形成した焼結体にシランカップリング剤を充填する方法が挙げられる。手順としては、工程1と同様にして金属接合材を配置した後、工程4と同様の焼結条件で金属接合材を完全に焼結させ、金属ナノ粒子焼結体を形成することができる。その後、工程2と同様の方法で金属ナノ粒子焼結体にカップリング剤を滴下し、半導体素子を配置し、シランカップリング剤を反応させることができる。シランカップリング剤の反応条件は、1から10MPaで加圧しながら、100℃から200℃で、0.5時間から2時間程度とすることができる。この方法では、上記工程1から4を順次行う方法と比べて、半導体素子と接合層10の密着強度は劣る場合がある。半導体素子裏面の金属(被接合材)と金属ナノ粒子焼結体の結合は主としてシランカップリング剤によるものであり、また、結合点が少ないからである。
【0055】
接合層の形成方法のさらに別の例として、工程1の後、工程4と同様に、半導体素子11と積層基板12の導電性板123aとを、金属接合材にて接合し、金属ナノ粒子焼結体からなる接合層を形成する方法がある。その後、金属ナノ粒子焼結体からなる多孔質性の接合層の周囲からシランカップリング剤を塗布し、空乏にシランカップリング剤を含侵させて、反応させてもよい。その際の反応条件は、1から10MPaで加圧しながら、100℃から200℃で、0.5時間から2時間程度の条件とすることができる。
【0056】
パワー半導体モジュールの製造については、さらに、半導体素子11にリードフレーム18を搭載し、積層基板12と放熱版13を接合し、ケース16を取り付けた後、アルミワイヤ14にてワイヤボンディングを行う。次いで、封止材による封止を行うことができる。
【0057】
プライマー層を備える半導体モジュールにおいては、ワイヤボンディング後に、プライマー層を形成する。プライマー層は、半導体素子11、接合層10、積層基板12、リードフレーム18、アルミワイヤ14及びケース16に、例えばスプレー塗布等により設けることができる。
【0058】
封止は、ケース16内に、封止材を構成する熱硬化性樹脂組成物を注入し、加熱硬化することにより行う。加熱硬化の工程は、例えば、二段階硬化とすることができ、熱硬化性樹脂主剤としてエポキシ樹脂を用いる場合には、80~120℃で1~2時間、120~160℃で1~2時間、170~190℃で1~2時間加熱して、三段階で実施することができる。しかし、特定の温度、時間には限定されず、三段階硬化とする必要がない場合もある。この封止工程により、カップリング剤102と金属ナノ粒子焼結体101の間、カップリング剤102と封止材20もしくはプライマー層の間に共有結合を形成することができ、かつ、カップリング剤102と半導体素子11の裏面電極111との間にも共有結合を形成することができ、各部材間の密着性を高めることができる。
【0059】
なお、図示したパワー半導体モジュールの構成は、一例であって、本発明は当該構成に限定されるものではない。例えば、任意の導電性接続部材を用いてもよく、インプラントピンを用いることもできる。また、導電性接続部材が、リードフレームのみ、あるいはワイヤのみの構成もありうる。導電性接続部材としてインプラントピンを備えるモジュールにおいては、インプラントピン表面にプライマー層を形成することができ、導電性接続部材がワイヤのみの構成のモジュールにおいては、ワイヤ表面にプライマー層を形成することができるが、いずれの構成においてもプライマー層を形成しない場合もある。さらに、ケースを備えておらず、その外形が成型された封止材から構成されるパワー半導体モジュールであってもよい。
【0060】
ケースレスのパワー半導体モジュールの構造としては、図示はしないが、例えば
図1のアルミワイヤに替えて、インプラントピンと、インプラントピンに接合されたプリント基板を含み、これらを含む部材が封止材により封止された構造が挙げられる。プリント基板としては、ポリイミドフィルム基板やエポキシフィルム基板にCu、Alなどの導電層が形成されているものを用いることができる。インプラントピンとしては、銅を用いた銅ピンを用いることができる。プリント基板の導電層も、インプラントピンも、CuやAlに、防錆などの目的でNiめっきなどの処理を施したものであってもよい。このプリント基板とインプラントピンは、半導体素子どうし、もしくは、半導体素子と積層基板の間を電気的に接続する。インプラントピンと積層基板もしくは半導体素子とは、金属粒子焼結体やはんだ接合層により接合することができる。また、積層基板上からインプラントピンを封止材の外部にまで引き出すことにより、インプラントピンを外部接続端子とすることができる。かかる態様のパワー半導体モジュールの製造は、積層基板、半導体素子、インプラントピン、並びにプリント基板を含む被封止部材を組み立て、任意選択的にインプラントピン表面にスプレー塗布等の方法によりプライマー層を形成した後、被封止部材を適切な金型に載置し、封止材を金型に充填して加熱硬化する。このような封止体の成形法としては、真空注型、トランスファー成形、液状トランスファー成形が挙げられるが、所定の成形法には限定されない。
【0061】
本実施形態による半導体素子接合部を備えることで、パワー半導体モジュールの構造によらず、封止材との間での剥離やワレを防止し、信頼性の高い半導体装置を製造することができる。
【実施例0062】
以下に、本発明の実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例の範囲に限定されるものではない。
【0063】
(1)パワー半導体モジュールの製造
図1に示すパワー半導体モジュールを製造した。金属ナノ粒子焼結体の製造には、金属ナノ粒子接合材として、MacDermid社 ALPHA Argomax8050の厚さ75μmのシート材を用いた。金属ナノ粒子接合材を、導電性板の半導体素子を配置する箇所に配置した。金属ナノ粒子接合材に含まれる金属の種類は表1に示す。シランカップリング剤は、信越化学工業株式会社製の表1に示す型番のものを用い、エタノールを用いて、10倍に希釈した。焼結体と同体積の希釈したシランカップリング剤を、金属ナノ粒子接合材シートに滴下し、10分静置した。次いで、金属ナノ粒子接合材シートとなじませたシランカップリング剤上に半導体素子を載置し、10MPaの加圧下、250℃で、5分加熱して焼結し、接合した。焼結後の接合層の厚さは、25μmとなるように接合層を形成した。
【0064】
なお、比較例1では、シランカップリング剤を用いず、金属ナノ粒子接合材シート上に半導体素子を載置して焼結した。実施例5では、シランカップリング剤KBM-803を添加したエポキシ樹脂を金属ナノ粒子接合材のシートに含浸させ、実施例と同じ条件にて加熱し、焼結した。エポキシ樹脂の組成は、下記の封止材の組成と同じとした。
【0065】
パワー半導体モジュールの封止材としては、以下のものを用いた。エポキシ樹脂主剤としては、エポキシ樹脂ME-276(ペルノックス(株)社製)を用い、酸無水物系硬化剤として、MV-138(ペルノックス(株)社製)を主剤100質量部に対して、121質量部添加した。無機充填材は、平均粒子径が10μmの球状シリカ(AGC(株)社製)を用い、エポキシ樹脂の主剤と硬化剤の総質量を100質量部とした場合に、270質量部添加した。これらを100℃で1時間、140℃で1時間、180℃で1時間加熱して硬化し、パワー半導体モジュールを製造した。
【0066】
(2)ヒートショック試験
上記(1)で製造したパワー半導体モジュールに対して、ヒートショック試験を行い、信頼性を確認した。ヒートショック試験は、パワー半導体モジュールをマイナス40℃の槽で15分保持後、炉に入れて125℃まで急加熱し、125℃で15分保持し、マイナス40℃の槽に戻す操作を1サイクルとし、信頼性の判定は、2000サイクルにおいて行った。剥離は、超音波探傷装置(SAT)及び断面の光学顕微鏡観察により確認した。電気特性に異常を生じず、剥離がない場合を「〇」、電気特性に異常があり、剥離が生じた場合は「×」とした。電気特性には異常がないが、30μm以下の微小剥離が観察されたものを「△」とした。
【0067】
【0068】
表1から、ナノAg、Cu、Au焼結体にメルカプト基を有するシランカップリング剤を充填した接合層により、半導体素子と積層基板を接合した半導体素子接合部を備える半導体装置においては、ヒートショックを与えても、半導体素子周辺(焼結体内部、周辺)でワレや剥離は生じなかった。また、Ag、Cu、Au焼結体に酸化は見られなかった。シランカップリング剤によって、封止樹脂と金属の結合が向上し、ナノ金属焼結体の酸化が抑制されたため、焼結体内部のワレも減少したと考えられる。
【0069】
理論に拘束される意図はないが、実施例において用いたメルカプト基を有するシランカップリング剤と、金属ナノ粒子焼結体、封止材を構成する成分、半導体素子の裏面電極との間の反応について補足する。メルカプトシラン(KBM-803)は、接合層内では焼結時に、接合層と封止材との間では封止材の加熱硬化時において、以下の反応を生ずる。メルカプト基SHのHが外れて、Ag、Cu、Auのそれぞれとチオール結合を生成する。また、アルコキシ基が加水分解し、OH基となった後、2以上のメルカプトシラン由来の分子間にて、OH基が脱水縮合してシラノール結合を生成する。また、メルカプト基のHが外れた-S-部分は負電荷を持ち、エポキシ樹脂のエポキシ基と反応して架橋構造を形成する。これらの反応により、金属ナノ粒子焼結体、カップリング剤、封止材の主成分となる熱硬化性樹脂間に共有結合が形成され、接合層と封止材との間の密着性に寄与する。封止材がシリカやアルミナなどの無機充填材を含む場合には、これらの金属酸化物表面に存在するOH基と、アルコキシ基が加水分解して、OH基となったメルカプトシラン由来の分子との間で脱水縮合し、カップリング剤と無機充填材の間でも共有結合を形成する。なお、上記反応がすべての分子間において生じるわけではない。したがって、封止材を構成する熱硬化性樹脂としては、カップリング剤のメルカプト基と反応し結合する上記のエポキシ基やアミノ基、ビニル基、メタクリル基、メルカプト基などの官能基を有することが好ましいといえる。
【0070】
また、金属ナノ粒子と、半導体素子のAuやAuなどの裏面電極や積層基板の導電性板(Cu、Alなど)との間では、次に示す反応が推定される。上述のように、金属ナノ粒子はカップリング剤のメルカプト基とチオール結合し、カップリング剤の一方の末端には水酸基が形成される。半導体素子のAuやAuなどの裏面電極や積層基板の導電性板(Cu、Alなど)の表面にも水酸基が生成するので、これらの水酸基とカップリング剤の水酸基との間で脱水縮合し、裏面電極や積層基板の導電性板とカップリング剤との間でも共有結合を形成すると考えられる。
ある形態においては、接合層10は、金属ナノ粒子焼結体と所定のシランカップリング剤とからなる。このような構成とすることで、接合層の金属ナノ粒子焼結体からなる多孔質の金属体と、封止材を構成する熱硬化性樹脂との結合が向上する。また、金属ナノ粒子焼結体を構成する金属粒子同士の結合が強化され、被接合材金属表面(例えば半導体素子の裏面電極)と金属ナノ粒子の結合を強化することができるといった利点が得られる。