(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149621
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】スラスト軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 19/10 20060101AFI20220929BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F16C19/10
F16C33/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051856
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 拓史
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA53
3J701AA62
3J701BA51
3J701BA56
3J701BA69
3J701BA77
3J701DA14
3J701DA20
3J701EA31
3J701EA36
3J701FA46
3J701FA51
3J701GA01
3J701XB03
3J701XB11
3J701XB12
(57)【要約】
【課題】軽量で、かつ、容易に組み立てることができるスラスト軸受を提供する。
【解決手段】スラスト軸受1は、軌道溝2aを有する軸軌道盤2と、軌道溝3aを有するハウジング軌道盤3と、軌道盤2の軌道溝2aとハウジング軌道盤3の軌道溝3aとの間に介在する玉4とを備え、両軌道盤2、3が合成樹脂の成形体であるカバー6によって、分離不能にかつ相対回転可能にされており、カバー6は、軸方向一方の開口部6aから両軌道盤2、3が挿入される筒状のカバーであり、スラスト軸受1において、ハウジング軌道盤3は、カバー6の軸方向他方に位置する円環状の保持部7によって軸軌道盤2に対して相対回転可能に保持され、軸軌道盤2は、カバー6の周壁部8に嵌合され、かつ、周壁部8よりも小径の絞り部9によって抜け止めされている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道溝を有する軸軌道盤と、軌道溝を有するハウジング軌道盤と、前記軸軌道盤の軌道溝と前記ハウジング軌道盤の軌道溝との間に介在する転動体とを備えるスラスト軸受であって、
両軌道盤が、合成樹脂の成形体であるカバーによって、分離不能にかつ相対回転可能にされていることを特徴とするスラスト軸受。
【請求項2】
前記カバーは、軸方向一方の開口部から前記両軌道盤が挿入される筒状のカバーであり、
前記スラスト軸受において、前記ハウジング軌道盤は、前記カバーの軸方向他方に位置する円環状の保持部によって前記軸軌道盤に対して相対回転可能に保持され、前記軸軌道盤は、前記カバーの周壁部に嵌合され、かつ、前記周壁部よりも小径の絞り部によって抜け止めされていることを特徴とする請求項1記載のスラスト軸受。
【請求項3】
前記軸軌道盤の外径をD、前記開口部の内径をφa、前記絞り部の内径をφbとした場合、下記の式(1)および式(2)の関係式を満たすことを特徴とする請求項2記載のスラスト軸受。
φa≧D・・・(1)
0.95×φb≦D・・・(2)
【請求項4】
前記絞り部は、周方向に離間して設けられ、径方向内側に向かって突出した複数の突起で構成されることを特徴とする請求項2または請求項3記載のスラスト軸受。
【請求項5】
前記合成樹脂が、ポリアミド46またはポリアミド66であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載のスラスト軸受。
【請求項6】
前記軸軌道盤の背面側のスラスト受け面および前記ハウジング軌道盤の背面側のスラスト受け面が前記カバーに覆われていないことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項記載のスラスト軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラスト軸受に関し、特に、自動車、フォークリフトなどのサスペンション、ステアリングなどに用いられるスラスト軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、フォークリフトなどのサスペンションなどに用いられるキングピン部には、キングピンから負荷されるスラスト荷重を受け、このキングピンを回転可能に支持するスラスト軸受が適用されている。
【0003】
このようなスラスト軸受として、例えば特許文献1に記載のスラスト軸受が知られている。
図4には、このスラスト軸受の軸方向断面図を示す。
図4に示すように、スラスト軸受21は、軌道溝22aを有する軸軌道盤22と、軌道溝23aを有するハウジング軌道盤23と、両軌道溝22a、23aの間に介在する玉24とを備える。このスラスト軸受21は、軸軌道盤22に金属製のカバー25が嵌合されている。カバー25は、端面部26と周壁部27を有しており、端面部26によって軸軌道盤22のスラスト受け面が覆われ、周壁部27によって両軌道盤22、23の外周面がカバーされている。周壁部27の周縁部には加締め部27aが設けられており、この加締め部27aによってハウジング軌道盤23の抜けが防止されている。また、カバー25とハウジング軌道盤23との間には隙間が形成されており、カバー25(および軸軌道盤22)とハウジング軌道盤23とが相対回転可能になっている。
【0004】
上記特許文献1のスラスト軸受21では、ハウジング軌道盤23の外周面の背面側に面取り部23bが設けられており、その面取り部23bとカバー25の加締め部27aとの間にOリング28が配置されている。また、ハウジング軌道盤23のスラスト受け面と、その面側に取り付けられる相手部材(図示省略)との間にOリング29が配置されている。このように、シール部材として個別のOリングを用いることで、スラスト軸受21を簡易な構造としつつ、シール性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1では、カバーとして金属製のカバーを用いており、スラスト軸受は、Oリングによって締結されている。そのため、両軌道盤および転動体の一体化に際して、カバー以外の構成部品が必要になる。また、両軌道盤および転動体をカバーに圧入した後、カバーの周壁部の一部を加締める作業も必要になり、組み立てに手間が掛かる。また、カバーが金属製であることから、重量増加に繋がるおそれがある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、軽量で、かつ、容易に組み立てることができるスラスト軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のスラスト軸受は、軌道溝を有する軸軌道盤と、軌道溝を有するハウジング軌道盤と、上記軸軌道盤の軌道溝と上記ハウジング軌道盤の軌道溝との間に介在する転動体とを備えるスラスト軸受であって、両軌道盤が、合成樹脂の成形体であるカバーによって、分離不能にかつ相対回転可能にされていることを特徴とする。
【0009】
上記カバーは、軸方向一方の開口部から上記両軌道盤が挿入される筒状のカバーであり、上記スラスト軸受において、上記ハウジング軌道盤は、上記カバーの軸方向他方に位置する円環状の保持部によって上記軸軌道盤に対して相対回転可能に保持され、上記軸軌道盤は、上記カバーの周壁部に嵌合され、かつ、上記周壁部よりも小径の絞り部によって抜け止めされていることを特徴とする。
【0010】
上記軸軌道盤の外径をD、上記開口部の内径をφa、上記絞り部の内径をφbとした場合、下記の式(1)および式(2)の関係式を満たすことを特徴とする。
φa≧D・・・(1)
0.95×φb≦D・・・(2)
【0011】
上記絞り部は、周方向に離間して設けられ、径方向内側に向かって突出した複数の突起で構成されることを特徴とする。
【0012】
上記合成樹脂が、ポリアミド46またはポリアミド66であることを特徴とする。
【0013】
上記軸軌道盤の背面側のスラスト受け面および上記ハウジング軌道盤の背面側のスラスト受け面が上記カバーに覆われていないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスラスト軸受は、軸軌道盤と、ハウジング軌道盤と、軸軌道盤の軌道溝とハウジング軌道盤の軌道溝との間に介在する転動体とを備え、両軌道盤が、合成樹脂の成形体であるカバーによって、分離不能にかつ相対回転可能にされているので、従来の金属製のカバーを使用したカバー付きスラスト軸受に比べて、加締め工程を削減できる。これにより軽量で、かつ、容易に組み立てることができるスラスト軸受になる。
【0015】
上記カバーは、軸方向一方の開口部から両軌道盤が挿入される筒状のカバーであり、スラスト軸受において、ハウジング軌道盤は、カバーの軸方向他方の円環状の保持部によって軸軌道盤に対して相対回転可能に保持され、軸軌道盤は、カバーの周壁部に嵌合され、かつ、周壁部よりも小径の絞り部によって抜け止めされているので、両軌道盤をカバーの開口部から挿入するだけで、転動体を介在した状態で両軌道盤を分離不能にかつ相対回転可能にすることができ、組み立て性を容易にできる。
【0016】
軸軌道盤の外径をD、開口部の内径をφa、絞り部の内径をφbとした場合、上記の式(1)の関係式などを満たすので、軸軌道盤をカバーに挿入しやすくなる。
【0017】
上記絞り部は、周方向に離間して設けられ、径方向内側に向かって突出した複数の突起で構成されるので、絞り部が全周にわたり形成される場合に比べて、軌道盤の挿入時の荷重を小さくできる。
【0018】
合成樹脂が、ポリアミド46またはポリアミド66であるので、強度、耐熱性、耐摩耗性、成形性などに優れ、かつ、低コスト化を図ることができる。
【0019】
軸軌道盤の背面側のスラスト受け面およびハウジング軌道盤の背面側のスラスト受け面がカバーに覆われておらず、スラスト荷重に対して両軌道盤が直接支持するので、樹脂製カバーによって一体化を可能としつつ、スラスト荷重を安定して支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明のスラスト軸受の一例の軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のスラスト軸受について
図1に基づいて説明する。
図1は、本発明のスラスト軸受の一例の軸方向断面図である。
図1に示すように、スラスト軸受1は、軸受部材として、軌道溝2aを有する軸軌道盤2と、軌道溝3aを有するハウジング軌道盤3と、軸軌道盤2の軌道溝2aとハウジング軌道盤3の軌道溝3aとの間に介在する玉(転動体)4と、この玉4を周方向に一定間隔で保持する保持器5とを備える。また、軸受内部にはグリースが供給などされて、グリースが玉4と両軌道溝2a、3aに介在して潤滑される。
【0022】
スラスト軸受1は、両軌道盤2、3が、筒状のカバー6によって分離不能にかつ相対回転可能にされている。つまり、
図1では、両軌道盤2、3の間に玉4および保持器5が介在した状態で保持されており、両軌道盤2、3が軸方向に抜けないようになっている。このようにカバーを設けることで、グリースの保持が可能となり、加えて両軌道盤と保持器および玉のアッシィとがばらけないようになるため、スラスト軸受を装置に組み込む際の組み立て性を向上できる。
【0023】
スラスト軸受1において、軸軌道盤2およびハウジング軌道盤3はいずれも鋼材からなっている。上記鋼材には、軸受材料として一般的に用いられる任意の材料を用いることができる。例えば、高炭素クロム軸受鋼(SUJ1、SUJ2、SUJ3、SUJ4、SUJ5など;JIS G 4805)、浸炭鋼(SCr420、SCM420など;JIS G 4053)、ステンレス鋼(SUS440Cなど;JIS G 4303)、冷間圧延鋼などを用いることができる。また、玉4には、上記の鋼材やセラミックス材料を用いることができる。一方、カバー6は、後述するように合成樹脂の成形体からなっている。
【0024】
軸軌道盤2は円環状部材からなり、軸方向一方の側面がスラスト荷重を支持するスラスト受け面2bである。このスラスト受け面2bと外周面の角部には面取り部2cが形成されている。
図1において、面取り部2cは、外周面に接続され、背面側に向かうにしたがって縮径する傾斜面を有する。この傾斜面は、カバー6の絞り部9の傾斜面と対向している。また、軸軌道盤2の軸方向他方の側面には、断面円弧状の軌道溝2aが形成されている。
【0025】
ハウジング軌道盤3は円環状部材からなり、軸方向一方の側面がスラスト荷重を支持するスラスト受け面3bである。スラスト受け面3bと外周面の角部には面取り部3cが形成されている。
図1において、面取り部3cは、外周面に接続され、背面側に向かうにしたがい縮径する傾斜面を有する。この傾斜面は、カバー6の保持部7の根元の湾曲部と対向している。また、ハウジング軌道盤3の軸方向他方の側面には、断面円弧状の軌道溝3aが形成されている。
【0026】
軌道溝2aおよび軌道溝3aは、玉4の球形に沿って形成されており、厳密には玉の直径よりも僅かに大きい曲率にて形成されている。
【0027】
保持器5は円環状部材からなり、複数のポケットが周方向に沿って形成されている。保持器5としては、金属製の打抜き保持器や、金属製のもみ抜き保持器、樹脂製保持器などを用いることができる。
【0028】
スラスト軸受1は、カバー6の軸方向一方の開口部6aから、ハウジング軌道盤3、保持器5および玉4のアッシィ、軸軌道盤2を順次挿入することなどで得られる。
【0029】
図1では、軸軌道盤2のスラスト受け面2bおよびハウジング軌道盤3のスラスト受け面3bはカバー6によって覆われておらず、露出した構成になっている。本発明ではカバー6が樹脂製であるため、カバー6がスラスト受け面2b、3bを覆う構成の場合、スラスト荷重によりクリープ変形が生じ、その結果、ガタツキなどが生じるおそれがある。そのため、
図1に示すように、両軌道盤2、3がスラスト荷重を直接支持する構成にすることで、樹脂製カバーの使用を可能としつつ、スラスト荷重を安定して支持することができる。
【0030】
スラスト軸受1において、カバー6は周壁部8の一部で軸軌道盤2に嵌合一体化されている。一方、カバー6は、ハウジング軌道盤3に対しては相対回転可能になっている。このカバー6について、
図2を用いて説明する。
【0031】
図2は、カバー6の軸方向断面図である。
図2に示すように、カバー6は、軸方向一方に挿入口としての開口部6aを有する筒状部材であり、軸方向他方に位置する保持部7と、軸軌道盤が嵌め合わされる周壁部8と、周壁部8よりも小径の絞り部9とを有する。カバー6は合成樹脂の成形体であり、射出成形などによって各部が一体に成形される。
【0032】
保持部7は、周壁部8の軸方向端部が径方向内側に湾曲した形状を有している。湾曲形状にすることで、ハウジング軌道盤に対してカバー6が相対回転しやすくなる。また、保持部7は、平面視で円環状に形成されている(
図3参照)。これにより、
図1に示すように、保持部7がハウジング軌道盤3の面取り部3cを背面側から覆い、ハウジング軌道盤3を安定して保持できる。
【0033】
周壁部8は、円筒状に形成され、その一部に軸軌道盤が嵌め合わされる。また、周壁部8とハウジング軌道盤との間には径方向隙間が形成され、カバー6がハウジング軌道盤に対して相対回転可能になっている。なお、ハウジング軌道盤との径方向隙間の距離を調整するため、周壁部8の内周面を段付き形状にしてもよい。例えば、
図2に示すように、ハウジング軌道盤との対向面の内径寸法を、軸軌道盤との対向面の内径寸法よりも小径にした段付き形状にすることができる。径方向隙間の距離を調整することで、Oリングなどのシール部材を別途用いなくても、シール性を確保することができる。
【0034】
図2において、絞り部9は、周壁部8の内径寸法を狭めるように径方向内側に突出した突起で構成されている。この突起は断面略三角形に形成され、全周にわたり形成されている。絞り部9は、カバー6の内部に挿入される軸軌道盤の抜け止め部として機能する。一方、両軌道盤の外径寸法は、絞り部9の内径寸法φ
bよりも大きいため、両軌道盤を挿入する際に絞り部9は変形する。そのため、絞り部9を変形させやすくするため、例えば
図2に示すように、絞り部9の厚みが略均一になるよう、絞り部9の外周面に径方向内側に窪んだ凹溝9aを設けることが好ましい。
【0035】
続いて、カバー6の各部の内径寸法について説明する。
図2では、開口部6aの内径寸法をφ
a、絞り部9の内径寸法をφ
b、保持部7の内径寸法をφ
cと示す。
図2に示すように、開口部6aの内径寸法φ
aは、絞り部9の内径寸法φ
bよりも大きくなっている。また、開口部6aの内径寸法φ
aは、保持部7の内径寸法φ
cよりも大きくなっている。絞り部9の内径寸法φ
bと保持部7の内径寸法φ
cの大小は特に限定されないが、
図2に示すように、絞り部9の内径寸法φ
bが保持部7の内径寸法φ
cよりも大きいことが好ましい。つまり、
図2では、φ
c<φ
b<φ
aの関係になっている。
【0036】
カバー6は、下記の式(1)および式(2)の関係式を満たすことが好ましい。なお、式中のDは軸軌道盤の外径寸法を示す(
図1参照)。
φ
a≧D・・・(1)
0.95×φ
b≦D・・・(2)
上記式(1)などを満たすことで、軸軌道盤をカバーに挿入しやすくなる。
また、軸軌道盤をカバーに挿入する際の絞り部の変形をできるだけ抑えるために、軸軌道盤の外径寸法Dをφ
b×1.05の値よりも小さくしてもよい。
【0037】
また、保持部7の内径寸法φcは、軸軌道盤の外径寸法Dよりも小さくなっており、好ましくは、外径寸法D×0.95の値よりも小さくなっている。一方、保持部7の内径寸法φcは、外径寸法D×0.8の値よりも大きいことが好ましく、外径寸法D×0.9の値よりも大きいことがより好ましい。保持部7の内径寸法φcを、外径寸法D×0.8よりも大きく、かつ、外径寸法D×0.95よりも小さくすることで、ハウジング軌道盤の保持性を良好に維持しつつ、ハウジング軌道盤のスラスト受け面の面積を確保することでスラスト荷重を安定して支持できる。
【0038】
上記カバーを形成する合成樹脂は、特に限定されないが、射出成形可能な合成樹脂を用いることが好ましい。例えば、ポリアミド46、ポリアミド66などのポリアミド(PA)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ホリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂などが挙げられる。なお、これらの樹脂は単独で使用しても、2種類以上混合したポリマーアロイとしてもよい。特に、強度、耐熱性、耐摩耗性、成形性などに優れ、かつ、廉価であることから、ポリアミド46、ポリアミド66を用いることが好ましい。
【0039】
上記合成樹脂にはエラストマーを配合してもよい。エラストマーを配合することで靱性が向上し、軌道盤挿入時の絞り部の塑性変形などを防止しやすくなる。また、エラストマーを配合することでカバーの柔軟性が向上し、軌道盤をカバーに挿入しやすくなる。エラストマーとしては、熱硬化性エラストマー、熱可塑性エラストマーのいずれでもよいが、熱可塑性エラストマーが好ましい。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマーなどが挙げられる。
【0040】
エラストマーを配合する場合、その配合量は樹脂組成物全体に対して1~30体積%であることが好ましい。より好ましくは、1~20体積%である。エラストマーの配合割合が30体積%をこえると、成形収縮率が大きくなり十分な寸法精度が得られないおそれがある。
【0041】
必要に応じて、上記合成樹脂に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、グラファイト、二硫化タングステン、二硫化モリブデン、窒化ホウ素などの固体潤滑剤、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムなどの摺動補強材、炭素粉末、酸化鉄、酸化チタンなどの着色剤などを配合してもよい。これらは単独で配合することも、組み合わせて配合することもできる。
【0042】
本発明に用いるカバーは、射出成形などによって成形される。樹脂組成物を構成する各材料を、必要に応じて、ヘンシェルミキサー、ボールミキサー、リボンブレンダーなどにて混合した後、二軸混練押出し機などの溶融押出し機にて溶融混練し、成形用ペレットを得ることができる。なお、充填材の投入は、二軸押出し機などで溶融混練する際にサイドフィードを採用してもよい。
【0043】
本発明のスラスト軸受は、
図1の構成に限られない。例えば、
図1のカバー6では、絞り部9を全周にわたり形成された突起で構成したが、
図3に示すように、絞り部を周方向に離間した複数の突起で構成してもよい。
図3は、該カバーの平面図を示す。カバー6’において、絞り部10は、周方向に離間して設けられ、径方向内側に向かって突出した3つの突起10aで構成されている。各突起10aはそれぞれ独立して周壁部から突出している。なお、絞り部として突起を複数設ける構成では、各突起が周方向に等間隔に配置されるように形成することが好ましい。
図3の構成では、カバー6’の円中心に対して120°の角度間隔で、突起10aが形成されている。
【0044】
また、
図3の構成では、複数の突起10aの先端を通る仮想円Cの直径が、絞り部10の内径寸法φ
bに相当する。この内径寸法φ
bについても、上記の式(1)および式(2)などを満たすことが好ましい。
【0045】
図1ではスラスト軸受としてスラスト玉軸受について例示したが、本発明のスラスト軸受は、スラスト円筒ころ軸受、スラスト円すいころ軸受、スラスト針状ころ軸受などとしても使用できる。
【0046】
本発明のスラスト軸受は、自動車、フォークリフトなどのサスペンション、ステアリングなどに用いられるキングピンなどに適用される。また、本発明では、樹脂製のカバーを用いているため、該カバーと、スラスト軸受が組み込まれるハウジングとが嵌め合い関係でない部位に組み込まれることが好ましい。このような部位として、例えばボールスクリュー機構などに用いられる。
【0047】
ボールスクリュー機構は、例えば、電動モータが出力する回転方向の駆動力を直線方向の駆動力に変換して出力する機構であり、第1スクリューのネジ溝と第2スクリューのネジ溝との間に複数のボールが循環するように構成される。本発明のスラスト軸受は、例えば、ボールスクリュー機構において第1スクリューに設けられたフランジ部を支持するスラスト軸受などとして使用される。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のスラスト軸受は、合成樹脂製のカバーを用いて軸受部材を一体化させており、軽量で、かつ、容易に組み立てることができるので、カバー付きスラスト軸受として広く利用できる。
【符号の説明】
【0049】
1 スラスト軸受
2 軸軌道盤
3 ハウジング軌道盤
4 玉(転動体)
5 保持器
6、6’ カバー
6a 開口部
7 保持部
8 周壁部
9 絞り部
10 絞り部