IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEスチール株式会社の特許一覧

特開2022-149622剛体トロリ用絶縁部材及び剛体トロリの絶縁構造、並びに剛体トロリ設備
<>
  • 特開-剛体トロリ用絶縁部材及び剛体トロリの絶縁構造、並びに剛体トロリ設備 図1
  • 特開-剛体トロリ用絶縁部材及び剛体トロリの絶縁構造、並びに剛体トロリ設備 図2
  • 特開-剛体トロリ用絶縁部材及び剛体トロリの絶縁構造、並びに剛体トロリ設備 図3
  • 特開-剛体トロリ用絶縁部材及び剛体トロリの絶縁構造、並びに剛体トロリ設備 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149622
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】剛体トロリ用絶縁部材及び剛体トロリの絶縁構造、並びに剛体トロリ設備
(51)【国際特許分類】
   B60M 1/18 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
B60M1/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051857
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】木村 祐貴
(57)【要約】      (修正有)
【課題】導電性の粉塵等により短絡が生じやすい環境下でも絶縁状態を安定的かつ確実に維持できる、剛体トロリ用絶縁部材及び剛体トロリの絶縁構造を提供する。
【解決手段】剛体トロリ4間に設置される剛体トロリの絶縁部材1であって、剛体トロリと間隔を空けて設置可能な形状を有する絶縁部材本体11と、絶縁部材本体が剛体トロリ間に設置された状態で、剛体トロリの端部の側面と間隔を空けながら剛体トロリの端部と長手方向に重なるように、絶縁部材本体から延設された乗り移り部12とを備えた、剛体トロリ用絶縁部材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛体トロリ間に設置される剛体トロリの絶縁部材であって、
前記剛体トロリと間隔を空けて設置可能な形状を有する絶縁部材本体と、
前記絶縁部材本体が前記剛体トロリ間に設置された状態で、前記剛体トロリの端部の側面と間隔を空けながら該剛体トロリの端部と長手方向に重なるように、前記絶縁部材本体から延設された乗り移り部とを備えた、剛体トロリ用絶縁部材。
【請求項2】
前記乗り移り部は、前記剛体トロリの端部の幅方向の片側又は両側に重なるように形成されている、請求項1に記載の剛体トロリ用絶縁部材。
【請求項3】
前記乗り移り部の上面の前記剛体トロリ側の先端には面取りが設けられている、請求項1又は2に記載の剛体トロリ用絶縁部材。
【請求項4】
前記間隔は1.05mm以上である、請求項1~3のいずれかに記載の剛体トロリ用絶縁部材。
【請求項5】
前記絶縁部材本体の下部の少なくとも一部には、前記剛体トロリの下部と同じ断面形状を有する支持部が設けられている、請求項1~4のいずれかに記載の剛体トロリ用絶縁部材。
【請求項6】
直列に配置される剛体トロリ間に、該剛体トロリを絶縁するように請求項1~5のいずれかに記載の剛体トロリの絶縁部材が設置されてなる剛体トロリの絶縁構造であって、
前記絶縁部材本体は、前記絶縁部材本体と前記剛体トロリとを同じ高さに支持可能な支持部材により支持されている、剛体トロリの絶縁構造。
【請求項7】
直列に配置される剛体トロリ間に、該剛体トロリを絶縁するように請求項5に記載の剛体トロリの絶縁部材が設置されてなる剛体トロリの絶縁構造であって、
前記絶縁部材本体は、前記剛体トロリを支持する支持部材と同じ支持構造を有する支持部材により支持されている、剛体トロリの絶縁構造。
【請求項8】
前記剛体トロリ用絶縁部材を取り外し、これに替えて前記剛体トロリを設置可能に構成されている、請求項6又は7に記載の剛体トロリ用絶縁構造。
【請求項9】
請求項6~8のいずれかに記載の剛体トロリ用絶縁構造を少なくとも一か所有する剛体トロリ設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剛体トロリ用絶縁部材及び剛体トロリの絶縁構造、並びに剛体トロリ設備に関する。
【背景技術】
【0002】
電車、クレーン、アンローダ等の大型で使用頻度が高い移動機器に、大電流を供給するための給電線として、剛体からなるトロリ線(剛体トロリ)を支持架台で支持して用いることが広く行われている。
【0003】
また、直列に配置される剛体トロリ間に絶縁部材を設置して、剛体トロリを複数の区間に区分絶縁することも行われている。これにより、クレーン等の移動機器の点検や修理等を実施する時に、修理対象となる移動機器が停止している区間のみを停電させ、他の区間は通常通り通電することで、他の移動機器は通常どおり使用することができる。
【0004】
例えば、特許文献1には、剛体トロリに側面側から嵌め込むことによりワンタッチで装着可能な絶縁部材が開示されている。また、特許文献2には、直列に配置されるトロリの一方から他方に集電子を乗り継ぎさせるスライダを設け、スライダ間の絶縁距離を確保することにより絶縁を確保する絶縁構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63-97441号公報
【特許文献2】特開平4-189632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示されるような絶縁部材を、例えば製鉄所の製鋼工場のクレーン等の剛体トロリに用いると、鉄粉等の導電性の粉塵が飛散する環境下で使用されることなるため、絶縁部材上に粉塵が堆積して短絡が発生し、絶縁部材による絶縁が損なわれてしまうことがある。
【0007】
一方、特許文献2のように、直列に配置されるトロリの一方から他方に集電子を乗り移らせるスライダ間に絶縁距離を確保する絶縁構造を剛体トロリに用いれば、スライダ間には粉塵が堆積することがなく、導電性の粉塵による短絡の発生を回避することができる。
【0008】
しかし、クレーン等の大型で使用頻度が高い移動機器に用いられる剛体トロリでは、摺動面の摩耗が激しいため、トロリ上を摺動する集電子の接触面積を大きくしても、トロリを定期的に、例えば3か月毎に交換する必要がある。したがって、特許文献2のような絶縁構造を剛体トロリに用いると、スライダ等の部品も同様の周期で交換する必要があり、交換が必要となる部材点数が増えてしまう。
【0009】
また、特許文献2のような絶縁構造を剛体トロリに用いると、剛体トロリの摩耗と同様にスライダの摩耗も激しいため、スライダの表層部が剥がれたヒゲと呼ばれる大きな剥離物により短絡が生じることもある。このような場合には、特許文献2のようにスライダ間に絶縁距離を確保する構造を採用しても、短絡の発生を回避することが困難である。
【0010】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、簡単な構造により、導電性の粉塵等により短絡が生じやすい環境下でも絶縁状態を安定的かつ確実に維持できる、剛体トロリ用絶縁部材及び剛体トロリの絶縁構造、並びに剛体トロリ設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 剛体トロリ間に設置される剛体トロリの絶縁部材であって、前記剛体トロリと間隔を空けて設置可能な形状を有する絶縁部材本体と、前記絶縁部材本体が前記剛体トロリ間に設置された状態で、前記剛体トロリの端部の側面と間隔を空けながら該剛体トロリの端部と長手方向に重なるように、前記絶縁部材本体から延設された乗り移り部とを備えた、剛体トロリ用絶縁部材。
[2] 前記乗り移り部は、前記剛体トロリの端部の幅方向の片側又は両側に重なるように形成されている、[1]に記載の剛体トロリ用絶縁部材。
[3] 前記乗り移り部の上面の前記剛体トロリ側の先端には面取りが設けられている、[1]又は[2]に記載の剛体トロリ用絶縁部材。
[4] 前記間隔は1.05mm以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の剛体トロリ用絶縁部材。
[5] 前記絶縁部材本体の下部の少なくとも一部には、前記剛体トロリの下部と同じ断面形状を有する支持部が設けられている、[1]~[4]のいずれかに記載の剛体トロリ用絶縁部材。
[6] 直列に配置される剛体トロリ間に、該剛体トロリを絶縁するように[1]~[5]のいずれかに記載の剛体トロリの絶縁部材が設置されてなる剛体トロリの絶縁構造であって、
前記絶縁部材本体は、前記絶縁部材本体と前記剛体トロリとを同じ高さに支持可能な支持部材により支持されている、剛体トロリの絶縁構造。
[7] 直列に配置される剛体トロリ間に、該剛体トロリを絶縁するように[5]に記載の剛体トロリの絶縁部材が設置されてなる剛体トロリの絶縁構造であって、
前記絶縁部材本体は、前記剛体トロリを支持する支持部材と同じ支持構造を有する支持部材により支持されている、剛体トロリの絶縁構造。
[8] 前記剛体トロリ用絶縁部材を取り外し、これに替えて前記剛体トロリを設置可能に構成されている、[6]又は[7]に記載の剛体トロリ用絶縁構造。
[9] [6]~[8]のいずれかに記載の剛体トロリ用絶縁構造を少なくとも一か所有する剛体トロリ設備。
【発明の効果】
【0012】
本発明の剛体トロリ用絶縁部材及び剛体トロリの絶縁構造、並びに剛体トロリ設備によれば、導電性の粉塵等により短絡が生じやすい環境下でも剛体トロリの絶縁状態を安定的かつ確実に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1(a)~(f)は、本発明の剛体トロリ用絶縁部材及び剛体トロリの絶縁構造の一例を示す図である。
図2図2は、本発明の剛体トロリ設備の一例を示す模式図である。
図3図3は、本発明の剛体トロリ用絶縁部材及び剛体トロリの絶縁構造の他の一例を示す図である。
図4図4は、本発明の剛体トロリ用絶縁部材及び剛体トロリの絶縁構造のさらに他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の剛体トロリ用絶縁部材及び剛体トロリの絶縁構造、並びに剛体トロリ設備の実施形態について、具体的に説明する。
【0015】
図1(a)及び図1(b)に、本発明の一実施形態に係る剛体トロリ用絶縁部材1及び剛体トロリの絶縁構造の側面図及び平面図を、それぞれ示す。また、図1(c)~図1(f)に、図1(b)におけるC-C断面図、D-D断面図、E-E断面図、F-F断面図をそれぞれ示す。また、図2に、本実施形態の剛体トロリ用絶縁部材1及び剛体トロリの絶縁構造を用いた剛体トロリ設備を模式的に示す。
【0016】
図2に示すように、剛体トロリ4は、製鉄所の製鋼工場において、原料ヤードと溶銑ヤードとの間で移動する原料クレーン91~93及び溶銑ヤード内で移動する溶銑クレーン94、95に高圧(例えば3.15kV)で電力を供給するために、原料ヤードから溶銑ヤードにかけて敷設されている。原料クレーン91~93及び溶銑クレーン94、95の各々には、パンタグラフ式の集電子(図示せず)が設けられており、この集電子が、図1(a)~図1(f)に示す剛体トロリ4の上面を摺動することで、剛体トロリ4から原料クレーン91~93及び溶銑クレーン94、95の各々に電力が供給される。
【0017】
図2に示すように、原料ヤードと溶銑ヤードとの間において、剛体トロリ4には剛体トロリ用絶縁部材1が2箇所設けられている。これにより、剛体トロリ4は、2箇所の剛体トロリ用絶縁部材1に挟まれた区間C、原料ヤード側の区間A、溶銑ヤード側の区間Bに区分されている。
【0018】
溶銑ヤード側の区間Bにおいて、剛体トロリ4には給電線6が接続されており、この給電線6を介して電源装置7から区間Bの剛体トロリ4に電力が供給される。
【0019】
また、区間Bの剛体トロリ4と区間Aの剛体トロリ4との間にも給電線6が接続され、さらにこの給電線6は途中で分岐して区間Cの剛体トロリ4にも接続され、この給電線6を介して区間Aの剛体トロリ4及び区間Cの剛体トロリ4にも電力が供給される。区間Bの剛体トロリ4と区間Aの剛体トロリ4との間の給電線6には、遮断機8A、8Bが設けられており、これら遮断機8A、8Bの間で給電線6が分岐して区間Cの剛体トロリ4へと延びている。遮断機8Aを遮断することで、区間Aの剛体トロリ4及び区間Cの剛体トロリ4への電力供給を同時に停止することができる。また、遮断機8Bのみを遮断することで、区間Cの剛体トロリ4への電力供給を継続しつつ、区間Aの剛体トロリ4への電力供給のみを停止することができるようになっている。
【0020】
例えば、原料クレーン91~93及び溶銑クレーン94、95のうちのいずれかの点検や修理を行う場合に、このクレーンを区間Cよりも区間A側に移動させ、遮断機8Bのみを遮断すれば、区間Cと区間Bへの給電は継続されるので、他のクレーンをそのまま稼働させることができる。
【0021】
本実施形態の剛体トロリ用絶縁部材1は、直列に配置される剛体トロリ4、4間(区間Cの剛体トロリ4と区間Bの剛体トロリ4との間、及び区間Bの剛体トロリ4と区間Aの剛体トロリ4との間)に配置されて、剛体トロリ4、4を互いに絶縁するものである。
【0022】
図1(a)~図1(c)に示すように、剛体トロリ4は、ハット形鋼からなる支持架台40の上面に銅製のトロリ線41が、クリップ42により所定間隔で固定されて構成されている。また、剛体トロリ4の支持架台40の足43が、クリップ51により支持碍子(支持部材)5に固定されている。
【0023】
剛体トロリ用絶縁部材1は、図1(f)に示すように長方形状の断面を有し、図1(b)に示すように剛体トロリ4、4と間隔G1を空けて設置可能な形状を有する絶縁部材本体11と、この絶縁部材本体11の両端部から剛体トロリ4、4側に延設された乗り移り部12とを有している。具体的には、図1(d)に示すように、絶縁部材本体11が剛体トロリ間4、4に設置された状態で、剛体トロリ4、4の端部の側面と間隔G2を空けながらこの剛体トロリ4、4の端部と長手方向に重なるように、絶縁部材本体11の両端部から乗り移り部12が延設されている。
【0024】
剛体トロリ用絶縁部材1の素材としては、FRP(繊維強化プラスチック)等の絶縁性及び強度に優れた素材を用いることができる。具体的には、例えば、日本産業規格JIS K6912「熱硬化性樹脂積層板」に規定される記号EL-GEF(ガラス布基材エポキシ樹脂積層板、長繊維ガラス布基材:電気及び耐燃用)等を用いることが好ましい。
【0025】
図1(a)、図1(b)及び図1(e)に示すように、剛体トロリ用絶縁部材1の絶縁部材本体11部分の下部の両側面には、L形断面の金具(支持部)10がボルト(図示せず)により取り付けられている。剛体トロリ用絶縁部材1の絶縁部材本体11部分に取り付けられた一対の金具10の断面形状は、剛体トロリ4の支持架台40の足43の断面形状と同じ寸法に設定されている。そして、剛体トロリ用絶縁部材1の絶縁部材本体11部分に取り付けられた一対の金具10が、クリップ51により支持碍子(支持部材)5に固定されている。このような構造により、剛体トロリ4と剛体トロリ用絶縁部材1とを、同じ支持構造を有する支持碍子5により支持できるので、部品の種類を削減できる。また、剛体トロリ4に剛体トロリ用絶縁部材1を設ける必要がなくなった場合には、剛体トロリ用絶縁部材1を剛体トロリ4と入れ替えることにより、簡単に絶縁をなくすことができる。
【0026】
図1(b)及び図1(d)に示すように、絶縁部材本体11から延設された乗り移り部12は、剛体トロリ4の端部の幅方向Wの両側に間隔G2を空けながら重なるように形成されている。
【0027】
剛体トロリ用絶縁部材1の高さは、剛体トロリ4の高さと同じ寸法に設定されており、剛体トロリ用絶縁部材1の上面は、剛体トロリ4のトロリ線41の上面と同じ高さに設置される。また、図1(a)に示すように、乗り移り部12の上面の剛体トロリ4側の先端には、面取り12aが設けられている。これにより、剛体トロリ4のトロリ線41の上面を摺動する集電子が、剛体トロリ4から剛体トロリ用絶縁部材1の乗り移り部12に円滑に乗り移り、さらに剛体トロリ用絶縁部材1の反対側の乗り移り部12から他の剛体トロリ4に円滑に乗り移るようになっている。したがって、剛体トロリ4に剛体トロリ用絶縁部材1を設けても、区間A~Cの間での原料クレーン91~93及び溶銑クレーン94、95の移動が妨げられることがない。
【0028】
また、本実施形態の剛体トロリの絶縁構造は、直列に配置される剛体トロリ4、4間に、剛体トロリ4、4を絶縁するように上記剛体トロリの絶縁部材1が設置されて構成される。具体的には、図1(b)に示すように、剛体トロリ用絶縁部材1が剛体トロリ4、4間に設置された状態で、剛体トロリ4、4の端部とこれに対向する絶縁部材本体11の端部との間には、間隔G1が形成される。そして、この状態で、図1(d)に示すように、剛体トロリの絶縁部材1の乗り移り部12が、剛体トロリ4、4の端部の側面と間隔G2を空けながらこの剛体トロリ4、4の端部と長手方向に重なることで、剛体トロリの絶縁構造が構成される。
【0029】
ここで、乾燥空気の絶縁耐力は3kV/mmであるので、剛体トロリ4に供給される電力の電圧が3.15kVである場合には、剛体トロリ4の端部とこれに対向する絶縁部材本体11の端部との間隔G1及び剛体トロリ4の端部と剛体トロリ用絶縁部材1の乗り移り部12との間隔G2が1.05mm以上確保されていれば、剛体トロリ用絶縁部材1の上面が導電性の粉塵で完全に覆われている状態であっても、剛体トロリ4、4間の絶縁が損なわれることは無い。
【0030】
しかし、間隔G1及びG2の間隔が1.05mmである場合には、粉塵、特に導電性の粉塵が多い環境下では隙間に粉塵が入り込んで短絡する場合もあり得る。そこで、本実施形態では間隔G1及び間隔G2をより大きくして導電性粉塵による短絡を防ぐようにしている。例えば、剛体トロリ4の端部とこれに対向する絶縁部材本体11の端部との間隔G1及び剛体トロリ4の端部と剛体トロリ用絶縁部材1の乗り移り部12との間隔G2の一方又は両方を5mm以上に設定すると、剛体トロリ4、4間の絶縁を確保する上で好ましく、間隔G1及び間隔G2の一方又は両方を10mm以上とすると更に好ましい。また、剛体トロリ4と剛体トロリ用絶縁部材1との間での集電子の円滑な乗り移りを確保する上で、間隔G1及び間隔G2の一方又は両方を30mm以下とすることが好ましい。
【0031】
剛体トロリ4の端部と剛体トロリ用絶縁部材1の乗り移り部12との間隔G1及び剛体トロリ4の端部と対面する絶縁部材本体11の端部との間隔G2が10mm以上確保されていれば、剛体トロリ4及び剛体トロリ用絶縁部材1の上に導電性の粉塵が堆積しても、剛体トロリ4の端部と剛体トロリ用絶縁部材1の乗り移り部12との間に落下した粉塵はそのまま下方に落下し、剛体トロリ4の端部と剛体トロリ用絶縁部材1の乗り移り部12との間に挟まってそのままとどまることが無い。よって、剛体トロリ4、4間の絶縁を安定的かつ確実に確保できる。
【0032】
本実施形態の剛体トロリの絶縁構造は、剛体トロリ用絶縁部材1を支持碍子5から取り外し、これに替えて剛体トロリ4を設置可能に構成されている。具体的には、上述のとおり、剛体トロリ用絶縁部材1の絶縁部材本体11部分に取り付けられた一対の金具10の断面形状は、剛体トロリ4の支持架台40の足43の断面形状と同じ寸法に設定されており、剛体トロリ4と剛体トロリ用絶縁部材1とが、同じ支持構造を有する支持碍子5により支持されている。そして、剛体トロリ用絶縁部材1の高さは、剛体トロリ4の高さと同じ寸法に設定されており、剛体トロリ用絶縁部材1の上面は、剛体トロリ4のトロリ線41の上面と同じ高さに設置される。よって、剛体トロリ用絶縁部材1を支持碍子5から取り外し、これに替えて剛体トロリ4を簡単に設置でき、剛体トロリ4のトロリ線41の上面の高さも変わらない。
【0033】
このような構成とすることにより、原料クレーン91~93及び溶銑クレーン94、95の使用状況や点検、修理状況等に応じて、剛体トロリ用絶縁部材1を剛体トロリ4に交換して、通電範囲(区間)を適宜変更できる。本実施形態の剛体トロリ用絶縁部材1は十分な耐久性を有するとともに、集電子の円滑な乗り移りを確保できるものであるため、剛体トロリ用絶縁部材1を剛体トロリ4に交換せずにそのまま使用しても良いが、長期間に亘って絶縁の必要が無くなった場合等に、剛体トロリ用絶縁部材1を剛体トロリ1に交換することにより、更に安定した操業が可能となる。このように、様々な状況の変化に応じて、剛体トロリ設備の構成を自在に変更できる。
【0034】
図3に、本発明の他の実施形態に係る剛体トロリ用絶縁部材2及び剛体トロリの絶縁構造の平面図を示す。また、図4に、本発明のさらに他の実施形態に係る剛体トロリ用絶縁部材3及び剛体トロリの絶縁構造の平面図を示す。
【0035】
図3に示す剛体トロリ用絶縁部材2では、絶縁部材本体21から延設される乗り移り部22は、剛体トロリ4の端部の幅方向Wの両側ではなく、幅方向Wの片側のみに形成されている。その他の点については、図3に示す剛体トロリ用絶縁部材2は、図1(a)~図1(f)に示す剛体トロリ用絶縁部材1と同様に構成されている。
【0036】
また、図4に示す剛体トロリ用絶縁部材3では、図3に示す剛体トロリ用絶縁部材2と同様に、絶縁部材本体31から延設される乗り移り部32は、剛体トロリ4の端部の幅方向Wの両側ではなく、幅方向Wの片側のみに形成されている。さらに、乗り移り部32は、絶縁部材本体31と同一直線上に延設されており、剛体トロリ用絶縁部材3全体が極めて単純な形状となっている。このように、乗り移り部32が絶縁部材本体31と同一直線上に延設されている場合も、本発明の範囲に含まれる。なお、図4に示す剛体トロリ用絶縁部材3を、剛体トロリ4の幅方向Wの片側のみでなく両側に設置して、直線状の絶縁部材本体31及び乗り移り部32を剛体トロリ4の幅方向Wの両側に設けるようにしても良い。この場合、絶縁部材本体31は2つあることになる。絶縁部材本体31及び乗り移り部32が剛体トロリ4の幅方向Wの両側に設けられる場合、片側だけの場合に比べて、パンタグラフ側との接触部分が長期間にわたって偏るということもないので、剛体トロリ用絶縁部材3の摩耗を最低限のものとすることができる。
【0037】
剛体トロリ用絶縁部材2、3の長さが短い場合等には、図3及び図4に示す剛体トロリ用絶縁部材2、3のように、絶縁部材本体21、31から延設される乗り移り部22、32を、剛体トロリ4の端部の幅方向Wの片側のみに形成しても、剛体トロリ4と剛体トロリ用絶縁部材1の乗り移り部12との間で集電子が乗り移るときに、集電子に傾きが生じにくい。そこで、図3及び図4に示す剛体トロリ用絶縁部材2、3のように、剛体トロリ用絶縁部材2、3の構造を単純にしても良い。
【0038】
上記各実施形態の剛体トロリ用絶縁部材1~3及び剛体トロリの絶縁構造によれば、製鉄所の製鋼工場のように導電性の粉塵が多量に発生して短絡が生じやすい環境下でも、高圧電流が供給される剛体トロリ4の絶縁状態を安定的かつ確実に維持できる。
【0039】
また、上記各実施形態の剛体トロリ用絶縁部材1~3及び剛体トロリの絶縁構造は、絶縁部材本体11、21、31と、絶縁部材本体11、21、31から延設された乗り移り部12、22、32とを有する単純な構造であるので、絶縁部材本体11、21、31に耐摩耗性を有するFRP等の素材を用いることで、部材の交換頻度を抑えることができる。上記各実施形態の剛体トロリ用絶縁部材1~3及び剛体トロリの絶縁構造は、特許文献2に開示されるようなスライダを用いないので、スライダの表層部が剥がれたヒゲと呼ばれる大きな剥離物により短絡が生じることもない。
【0040】
そして、剛体トロリ4に剛体トロリ用絶縁部材1を設置して、剛体トロリ4を複数区間に絶縁区分することで、原料クレーン91~93及び溶銑クレーン94、95のうちのいずれかの点検や修理を行う場合に、このクレーンを区間Cに移動させ、遮断機8Aを遮断すれば、区間C及び区間Aの剛体トロリ4への給電はそのまま継続され、区間Bの剛体トロリ4への給電のみを停止させることができる。剛体トロリ4の全区間を停電させる必要がなく、他のクレーンをそのまま稼働させることができ、製鋼工場の生産効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0041】
1~3 剛体トロリ用絶縁部材
10 金具(支持部)
11、21、31 絶縁部材本体
12、22、32 乗り移り部
12a 面取り
4 剛体トロリ
40 支持架台
41 トロリ線
42 クリップ
43 支持架台の足
5 支持碍子(支持部材)
51 クリップ
6 給電線
7 電源装置
8A、8B 遮断機
91~93 原料クレーン
94、95 溶銑クレーン
G1、G2 間隔
W 剛体トロリの幅方向
L 剛体トロリの長手方向
図1
図2
図3
図4