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  • 特開-有価金属の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149712
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】有価金属の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/00 20060101AFI20220929BHJP
   C22B 5/10 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051985
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】前場 和也
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄
(72)【発明者】
【氏名】永倉 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】富樫 亮
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA10
4K001AA19
4K001AA34
4K001BA22
4K001GA17
4K001HA01
4K001KA13
(57)【要約】
【課題】廃リチウムイオン電池を含む原料に対して還元熔融処理を行う工程において、還元熔融反応の終点を的確に判定することができる方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、少なくとも廃リチウムイオン電池を含む原料から有価金属を製造する方法であって、原料を熔融炉に装入し、炭素を含む還元剤を導入して還元熔融処理を施す熔融工程を含み、熔融炉にガス分析計を設け、その熔融炉から排出されるガス中の二酸化炭素(CO)濃度の経時変化をモニタリングして、還元熔融処理の反応終点を判定することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも廃リチウムイオン電池を含む原料から有価金属を製造する方法であって、
前記原料を熔融炉に装入し、炭素を含む還元剤を導入して還元熔融処理を施す熔融工程を含み、
前記熔融炉にガス分析計を設け、該熔融炉から排出されるガス中の二酸化炭素(CO)濃度の経時変化をモニタリングして、前記還元熔融処理の反応終点を判定する、
有価金属の製造方法。
【請求項2】
前記熔融炉から排出されるガス中のCO濃度が2%以下となったときに、前記還元熔融処理の反応が終了したと判定する、
請求項1に記載の有価金属の製造方法。
【請求項3】
前記還元熔融処理を開始するに先立ち、前記熔融炉内を不活性ガスにより置換して、該熔融炉内の酸素(O)濃度を1%以下とする、
請求項1又は2に記載の有価金属の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも廃リチウム電池を含む原料からの有価金属を分離回収する有価金属の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量で大出力の二次電池としてリチウム電池(「リチウムイオン電池」とも呼ばれる)が普及している。リチウム電池としては、アルミニウム(Al)や鉄(Fe)等の金属製の外装缶内に、銅箔からなる負極集電体に黒鉛等の負極活物質を固着した負極材、アルミニウム箔からなる正極集電体にニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウム等の正極活物質を固着した正極材、ポリプロピレンの多孔質樹脂フィルム等からなるセパレータ、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等の電解質を含む電解液等を封入したものが知られている。
【0003】
リチウムイオン電池の主要な用途の一つに、ハイブリッド自動車や電気自動車がある。そのため、自動車のライフサイクルにあわせて、搭載されたリチウムイオン電池が将来的に大量に廃棄される見込みとなっている。また、製造中に不良品として廃棄されるリチウムイオン電池がある。このような使用済み電池や製造中に生じた不良品の電池(以下、「廃リチウムイオン電池」と称する。)を資源として再利用することが求められている。
【0004】
再利用の手法として、廃リチウムイオン電池を高温炉で全量熔解する乾式製錬プロセスが提案されている。乾式製錬プロセスは、破砕した廃リチウムイオン電池を高温炉で熔融処理し、酸化還元をコントロールしながら、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)等の有価金属をメタルとして回収する乾式製錬プロセスが提案されている。
【0005】
例えば特許文献1には、廃電池から有価金属を回収する方法において、乾式工程に先行して酸化処理を行う予備酸化工程を設けることにより、従来困難であった熔融工程での安定した酸化度の制御が可能となり、安定的に高い回収率で有価金属を回収する方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、廃リチウムイオン電池の熔融処理する工程(熔融工程)では、高温での処理を要するため、エネルギー使用量が大きくなる。また、過剰に処理反応を進めると、炉内耐火物の溶損等の不具合が生じることもある。そのため、熔融処理における反応の終点を高い確度で判定して、エネルギー消費量の増加や耐火物の溶損等を防ぐ方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-172169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、廃リチウムイオン電池を含む原料に対して還元熔融処理を行う工程において、還元熔融反応の終点を的確に判定することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、廃リチウムイオン電池を含む原料を熔融炉に装入し、炭素を含む還元剤を導入して還元熔融処理を施す処理に際して、熔融炉から排出されるガス中の二酸化炭素(CO)濃度の経時変化をモニタリングすることによって、反応終点を的確に判定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
(1)本発明の第1の発明は、少なくとも廃リチウムイオン電池を含む原料から有価金属を製造する方法であって、前記原料を熔融炉に装入し、炭素を含む還元剤を導入して還元熔融処理を施す熔融工程を含み、前記熔融炉にガス分析計を設け、該熔融炉から排出されるガス中の二酸化炭素(CO)濃度の経時変化をモニタリングして、前記還元熔融処理の反応終点を判定する、有価金属の製造方法である。
【0011】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記熔融炉から排出されるガス中のCO濃度が2%以下となったときに、前記還元熔融処理の反応が終了したと判定する、有価金属の製造方法である。
【0012】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記還元熔融処理を開始するに先立ち、前記熔融炉内を不活性ガスにより置換して、該熔融炉内の酸素(O)濃度を1%以下とする、有価金属の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、廃リチウムイオン電池を含む原料に対して還元熔融処理を行う工程において、還元熔融反応の終点を的確に判定することができる方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】還元熔融反応に伴う排ガス中のCO濃度の推移を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施の形態」という)について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0016】
本実施の形態に係る有価金属の製造方法は、少なくとも廃リチウムイオン電池を含む原料から有価金属を分離回収する方法である。したがって、有価金属の回収方法とも言い換えることができる。本実施の形態に係る方法は、主として乾式製錬プロセスによる方法であるが、乾式製錬プロセスと湿式製錬プロセスとから構成されていてもよい。
【0017】
廃リチウムイオン電池は、リチウム(Li)及び有価金属(Cu、Ni、Co)を含むとともに、付加価値の低い金属(Al、Fe)や炭素成分を含んでいる。そのため、少なくとも廃リチウムイオン電池を含む原料を用いることで、有価金属を効率的に分離回収することができる。
【0018】
なお、廃リチウムイオン電池とは、使用済みのリチウムイオン電池のみならず、電池を構成する正極材等の製造工程で生じた不良品、製造工程内部の残留物、発生屑等のリチウムイオン電池の製造工程内における廃材を含む概念である。そのため、廃リチウムイオン電池をリチウムイオン電池廃材と言うこともできる。また、有価金属とは、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及びこれらの組み合わせからなるものであり、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属又は合金である。
【0019】
具体的に、本実施の形態に係る方法は、少なくとも廃リチウムイオン電池を含む原料を熔融炉に装入し、炭素を含む還元剤を導入して還元熔融処理を施す熔融工程を含む。そして、熔融炉にガス分析計を設け、その熔融炉から排出されるガス中の二酸化炭素(CO)濃度の経時変化をモニタリングすることによって、還元熔融処理の反応終点を判定することを特徴としている。
【0020】
ここで、還元熔融処理を行う熔融工程では、熔融炉に原料を装入し、炭素を含む還元剤を導入して、原料中の廃リチウムイオン電池に含まれる正極材中のニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を、下記の還元反応を進行させることでメタルとして回収する。このとき、下記の反応式に示す反応が進行して二酸化炭素(CO)ガスや一酸化炭素(CO)ガスが発生する。なお、この還元反応は、急速に開始し、急速に終了する。
2LiCoO+2C → LiO+2Co+CO+CO
2LiNiO+2C → LiO+2Ni+CO+CO
【0021】
また、原料を熔融してメタルを回収するためには、不純物を酸化物として除去する必要があるが、それらを熔融スラグとして分離除去するためには、酸化カルシウム等のフラックスを添加して、メタルの熔融温度に近いレベルでスラグを熔融することが好ましくなる。フラックスの酸化カルシウムについては、炭酸カルシウムとして添加する方法が例えば安価であるという利点があり、その際には下記の分解反応を伴う。
CaCO → CaO+CO
【0022】
上述した反応は、いずれもCOが関与する反応であり、COガスの発生が殆どない状態になると、熔融炉内で進めるべき反応がほぼ終了した状態であるといえ、熔融処理も適切に行われていることを意味する。
【0023】
還元熔融処理について、熔融炉の形式やスラグ組成等によって操業温度は異なってくるが、例えばアーク炉や誘導炉を使用し、炭素を含む還元剤を用いて操業する場合では、スラグ及びメタルの融点が各々1350℃~1400℃近傍であることから、少なくとも1400℃以上に制御して熔融することが必要となる。
【0024】
従来、還元熔融処理における反応(還元熔融反応)が完了し、熔融状態になっているかどうかを判定するためには、熔融炉内を目視で確認して鋳造タイミングを見計らっていた。しかしながら、未熔解状態の場合には、さらに保持して熔融を促進させるため保持時間を過剰にしてしまうことがあり、熔融状態が過剰に保持されると熔融温度も上昇しやすくなるために、バッチ操業の操業時間を延ばすことがあった。また、操業時間が延びることで、エネルギー使用量が増加し、また熔融炉を構成する耐火物が溶損しやすくなる等の問題も生じていた。また、炉上部で監視する作業は、熔体の吹き上げリスクもあり、夏場は熱中症等のリスクも高くなる等、作業環境の欠点も孕んでいた。
【0025】
そこで、本実施の形態に係る方法では、熔融炉にガス分析計を設け、その熔融炉から排出されるガス中の二酸化炭素(CO)濃度の経時変化をモニタリングすることによって、還元熔融処理の反応終点を判定する。このように、排ガス中のCO濃度をモニタリングし、そのCO濃度やCOガスが発生してからの時間を確認することで、どの程度まで反応が進行しているかを的確に把握できる。そして最終的に、排ガス中のCO濃度が大幅に減少したことを以って、上述した反応の終了を判定することができる。
【0026】
図1は、後述する実施例にて測定した、還元熔融反応に伴う排ガス中のCO濃度の推移を示すグラフ図である。CO濃度の推移に関し、還元熔融反応は急速に始まって急速に終了するため、図1に示されるように、排ガス中のCO濃度は、反応開始から急速に増加し、反応界面での移動律速によりほぼ同じ値で推移した後、最後には急速に減少する。これにより、反応の終了を容易に判定することができる。
【0027】
また、図1に示されるように、還元熔融反応の開始によってCO濃度は急速に増加することから、排ガス中のCO濃度をモニタリングすることで、反応の開始時点についても的確に把握することができる。
【0028】
還元熔融反応の終点判定に関して、例えば、排ガス中のCO濃度が、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下になることをもって熔融炉での反応が終了したと判定することができる。図1を示して説明したように、CO濃度の経時変化は、反応が開始された時点で急速に増加した後、反応式の例示したようにLiCoO及びLiNiOの還元反応とCaCOの分解反応が進行する。この反応が進行する間において、生成するCOガスの濃度は概ね同じ値で変化がなく、その後、その還元反応と分解反応が終了したところで、COガスの濃度が2%以下のレベルまで急速に減少する。
【0029】
このように、排ガス中のCO濃度が、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下になることをもって反応の終点判定を行うようにすることで、一律な判定を行うことができる。また、このような排ガス中のCO濃度を基準として反応終点と判定して回収されたメタルでは、有価金属を高い分配率で含むものとなる。
【0030】
ここで、還元熔融処理においては、その処理を開始するに先立ち、熔融炉内を不活性ガスにより置換することで、熔融炉内の酸素(O)濃度を1%以下とすることが好ましい。還元熔融処理において、還元度を正確に制御するためには、例えば酸化性ガス等による酸化の影響を減らすことが重要となる。この点、還元熔融反応の開始までに不活性ガスで熔融炉内を置換することで、熔融炉のシール性を維持して外気による酸素の流入を抑制することができる。これにより、還元度をより正確に制御することが可能となる。
【0031】
不活性ガスとしては、特に限定されず、窒素、アルゴン等を用いることができる。また、不活性ガスの供給量についても、特に限定されず、熔融炉内を置換して酸素の流入を抑制できるシール性を確保できればよい。
【0032】
また、不活性ガスの供給は、還元熔融反応の開始に先立って行うことに限られず、還元温度まで昇温する際や、反応開始後においても継続的に行うようにしてもよい。
【0033】
以上のように、本実施の形態に係る有価金属の製造方法では、廃リチウムイオン電池を含む原料を熔融炉に装入して炭素を含む還元剤により還元熔融処理を施すにあたり、熔融炉にガス分析計を設け、熔融炉から排出されるガス中の二酸化炭素(CO)ガス濃度の経時変化をモニタリングして、還元熔融処理の反応終点を判定する。
【0034】
このような方法によれば、還元熔融反応の終了を適切に判定しながら高濃度の有価金属を製造することができ、保持時間を過剰にしてしまうことによる操業時間の延長を防ぐことができる。そして、これにより、エネルギー使用量を有効に抑制でき、また熔融炉内の耐火物の熔損等を防ぐこともできる。また、従来では、反応終点の判定において頻回な目視確認や検尺棒を使った熔融状況確認等を行っていたが、これらの作業が不要となり、高い安全性で効率的に終点判定を行うことができ、作業性を著しく向上させる。
【0035】
なお、上述の説明では、排ガス中のCO濃度をモニタリングして反応の終点判定を行う態様について説明したが、排ガス中の一酸化炭素(CO)ガス濃度をモニタリングして判定するようにしてもよい。具体的には、上述したように、LiCoOやLiNiOの還元熔融反応では、COガスも発生する。COガスの一部は、LiCoO及びLiNiOの還元反応に還元剤として寄与する一方で、還元反応に寄与しないものは排ガス中に分配されることになる。したがって、排ガス中に分配されるCOガスの濃度の経時変化をモニタリングすることによっても、熔融炉での還元熔融反応の開始や終了の判定を行うことが可能である。
【実施例0036】
以下に、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0037】
[実施例、比較例]
外側に黒鉛坩堝を配置した外熱式の高周波誘導炉を用い、黒鉛坩堝内に設けたMgO系耐火物坩堝に、主な元素の質量比が下記表1に示す酸化物粉粒体50kgを装入し、還元剤とフラックスを添加して、還元熔融試験を実施した。具体的に、還元剤としては、Cu、Ni、及びCoを還元するための適当量の還元剤、すなわちNiO、CoOを還元するための1.1倍当量の黒鉛粉2.35kgを添加した。また、フラックスとしては、試料中のアルミナ量を共晶化によって熔融するための適当量、すなわちモル比でCaCO3:Al=1:1となる9.63kgの量の炭酸カルシウムを添加した。
【0038】
【表1】
【0039】
誘導炉上部には、外部からフリーエアーが流入しないように蓋を設けるとともに、内径5mm、外径8mmのアルミナ製のNガス供給配管をその端部がMgO系坩堝の深さ100cmに対して上端から5cm程度入った位置となるように取り付け、Nガスを流量30L/min.に設定して昇温時から出湯時まで坩堝内に継続して供給した。これにより、不活性雰囲気を保てるようにした。なお、Nガスの供給量は、MgO系耐火物坩堝の容量90Lに対して、3min.で内部の気体を入れ替えることができるように30L/min.と設定した。
【0040】
また、反応で発生する排ガスを吸引できるように、吸引管をその端部がMgO系坩堝の上端から20~30cm入った位置となるように炉内に差し込み、ガス分析装置(PG330P,堀場製作所社製)に連結して、常時その変動が分かるように1L/min.で吸引する状態とした。炉内制御用の温度計は、黒鉛坩堝外側に接するように配置した。
【0041】
実施例1では、還元熔融処理において、ガス分析装置により測定される、炉から排出されるガス中の二酸化炭素(CO)濃度をモニタリングし、その経時変化から還元熔融反応の終点を判定するようにした。一方で、比較例1では、同様の装置を用いて熔融試験を行ったがガス分析装置を設けない状態とし、炉の状態を目視で判断して還元熔融反応の終点を判定した。
【0042】
[結果]
図1に、実施例1での炉内温度と排ガス中のCO濃度の経時変化を示す。また、下記表2に、実施例1における特定の熔融時間での排ガス中のCO濃度の測定値とそのときの炉内状態の目視確認結果、及び、比較例1における各熔融時間での炉内状態の目視確認結果を示す。目視での状態確認に関して、未熔解の状態を『×』、熔解不十分の状態を『△』、熔融がほぼ終了している状態を『○』、完全熔融の状態を『◎』として示す。
【0043】
【表2】
【0044】
図1に示すように、800℃に昇温された時点から排ガス中にCOが発生し、CO濃度が急上昇するこの時点から反応が開始されたことが分かる。また、排ガス中のCO濃度がほぼ一定となる時間が継続した後、徐々に減少して1%以下にまで低下した。なお、炉内のO濃度は、熔融時間0.0h後に17.8%、0.5h後に8.9%、1.0h後に1.6%であり、反応が始まる1.5h前には1%を下回ってほぼ0%となっていた。
【0045】
また、図1のグラフ図に示すようなCO濃度の推移のもと、表2に示されるように、実施例1においては、排ガス中のCO濃度と炉内の目視確認の結果は対応しており、したがって、排ガス中のCO濃度のモニタリングにより、適切に反応の終点を判定できることがわかった。
【0046】
ここで、実施例1では、排ガス中のCO濃度のモニタリング結果に基づき、CO濃度が1%以下となった熔融処理開始後10.5hのタイミングで処理を終了し、熔湯の鋳込み作業を開始した。一方で、比較例1では、実施例1とは異なり、炉内状態の目視確認のみで反応終点を判定したため、最終的に完全熔融したと判断できたタイミングは実施例1において排ガス中のCO濃度が1%以下になった時間タイミングと比べて0.5h遅くなり(比較例1では熔融処理開始後11.0hのタイミングで処理を終了し、熔湯の鋳込み作業を開始)、その間炉内温度等の条件を保持する必要が生じた。
【0047】
また、下記表3に、実施例1及び比較例1において、熔融処理の終了後(実施例1:熔融時間10.5h、比較例1;溶融時間11.0h)に熔融物を鋳込み、その後に得られた固形物について、上面にあるスラグを取り除いて得られたメタルを分析し、メタル回収量(メタル分配率)を求めた結果を示す。メタル回収量は、回収したメタル中のCu、Ni、Coの量と、還元熔融試験の前に坩堝に入れた原料中の各元素の量とを比較することで求めたメタルへの分配率を示したものである。
【0048】
なお、表3には、参考例1として、実施例1の試験における熔融時間9.5hの時点でのメタルの分析値を併せて示す。参考例1の結果については、熔湯に鉄製の棒を入れることでスラグをサンプリングし、得られたスラグについて分析して、その分析結果からメタル回収量を求めることで同様にしてメタル分配率を算出した。
【0049】
【表3】
【0050】
表3に示されるように、排ガス中のCO濃度により反応終点を判定した実施例1と、その実施例1よりも長い処理時間で反応を終了させた比較例1とで、同等の回収率で効果的に有価金属を回収することができた。この結果から、CO濃度のモニタリングによって、還元熔融反応の終点を的確に判定できることがわかった。
【0051】
また、参考例1の結果は、上述したように、熔融時間9.5h後の時点での分析値であり、目視確認でも完全熔融の状態とはなっていない時点での結果であるが、Cu、Ni、及びCoのすべての元素において、実施例1よりも回収量が少ない結果となった。このことは、目視確認でも確認できたように還元熔融反応が完全には終了していないことを示している。表2に示したように、熔融時間9.5hでの排ガス中のCO濃度は濃度減少の途中段階にあるものであり、つまり、この参考例1の結果も踏まえても、排ガス中のCO濃度のモニタリングによって還元熔融反応の終点を的確に判定でき、そのような判定によって高い回収割合で有価金属を回収できることがわかる。
【0052】
なお、この結果から、排ガス中のCO濃度が、好ましくは2%以下、より好ましくは1%となることを閾値として反応終点を判定することで、より正確に判定でき、有価金属を効率的に回収できることがわかる。
【0053】
以上の実施例からも、炭素を含む還元剤を導入して還元熔融処理を施すにあたり、排ガス中のCO濃度のモニタリングすることで、その経時変化から還元熔融反応の終点を確度よく判定することがわかった。これにより、操業時間、すなわち熔融時間を過剰にしてしまうことによる操業時間の延長や、これによるエネルギー使用量の増加、さらには耐火物の溶損を抑えることができ、効率的に有価金属を製造できることがわかった。
図1