(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149766
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】表皮の保湿因子又はバリア機能因子の発現増強剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/16 20060101AFI20220929BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20220929BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20220929BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220929BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20220929BHJP
A61P 17/10 20060101ALI20220929BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20220929BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20220929BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220929BHJP
A23L 33/17 20160101ALI20220929BHJP
【FI】
A61K38/16
A61P11/02
A61P11/06
A61P17/00
A61P17/06
A61P17/10
A61P37/08
A61K8/64
A61Q19/00
A23L33/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052066
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 知宏
(72)【発明者】
【氏名】山本 周平
(72)【発明者】
【氏名】川井 淳
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C084
【Fターム(参考)】
4B018MD20
4B018ME07
4B018ME14
4C083AD411
4C083AD412
4C083CC02
4C083EE12
4C083EE13
4C083EE14
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084CA03
4C084CA59
4C084MA13
4C084MA16
4C084MA17
4C084MA22
4C084MA23
4C084MA28
4C084MA32
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA41
4C084MA43
4C084MA52
4C084MA63
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA341
4C084ZA342
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZB131
4C084ZB132
(57)【要約】
【課題】表皮の保湿因子又はバリア機能因子の発現増強剤の提供。
【解決手段】表皮の保湿因子又はバリア機能因子の発現増強剤は、ポリ-γ-L-グルタミン酸又はその塩を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ-γ-L-グルタミン酸又はその塩を含有する、表皮の保湿因子又はバリア機能因子の発現増強剤。
【請求項2】
前記保湿因子又はバリア機能因子が、フィラグリン、ロリクリン、トランスグルタミナーゼ、ケラチン1、ケラチン10、及びクローディン1からなる群より選択される、請求項1に記載の発現増強剤。
【請求項3】
表皮の保湿因子又はバリア機能因子の発現低下に関連する疾患又は症状を予防又は治療するための組成物であって、ポリ-γ-L-グルタミン酸又はその塩を含有する組成物。
【請求項4】
前記疾患又は症状が、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、乾癬、魚鱗癬、乾皮症、座瘡、アレルギー性鼻炎、及び喘息からなる群より選択される、請求項3に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
表皮の保湿因子又はバリア機能因子の発現増強剤に関する技術が開示される。
【背景技術】
【0002】
保湿剤とは、吸湿して角層に水分を付与するもの、或いは、皮膜を形成して角層からの水分揮散を防止するものをいう。保湿剤として、ポリ-γ-L-グルタミン酸を使用することが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
表皮の保湿因子又はバリア機能因子の発現増強剤の提供を主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリ-γ-L-グルタミン酸又はその塩の新たな用途として、ポリ-γ-L-グルタミン酸又はその塩が表皮の保湿因子又はバリア機能因子の発現を増強できることを見出した。斯かる知見に更なる研究を重ね本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、以下の態様を包含する。
項1.
ポリ-γ-L-グルタミン酸又はその塩を含有する、表皮の保湿因子又はバリア機能因子の発現増強剤。
項2.
前記保湿因子又はバリア機能因子が、フィラグリン、ロリクリン、トランスグルタミナーゼ、ケラチン1、ケラチン10、及びクローディン1からなる群より選択される、項1に記載の発現増強剤。
項3.
表皮の保湿因子又はバリア機能因子の発現低下に関連する疾患又は症状を予防又は治療するための組成物であって、ポリ-γ-L-グルタミン酸又はその塩を含有する組成物。
項4.
前記疾患又は症状が、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、乾癬、魚鱗癬、乾皮症、座瘡、アレルギー性鼻炎、及び喘息からなる群より選択される、項3に記載の組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、表皮の保湿因子又はバリア機能因子の発現増強剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】三次元培養表皮モデルにアミノピジェール(商標)(東洋紡株式会社製)を適用した場合のフィラグリンの発現上昇を示す図である。
【
図2】三次元培養表皮モデルにアミノピジェール(商標)を適用した場合のトランスグルタミナーゼの発現上昇を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ポリ-γ-L-グルタミン酸又はその塩
ポリ-γ-L-グルタミン酸は、下記式(1):
【化1】
(式中、nは2以上の整数である)
で表される単位を有することが好ましい。
【0010】
ポリ-γ-L-グルタミン酸の数平均分子量(Mn)は、特に制限されない。ポリ-γ-L-グルタミン酸のMnは、例えば1万以上、好ましくは10万以上、より好ましくは20万以上、更に好ましくは30万以上、更により好ましくは40万以上、特に好ましくは50万以上である。また、ポリ-γ-L-グルタミン酸のMnは、通常、1500万以下、1200万以下、又は1000万以下である。数平均分子量は、プルランを標準物質とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0011】
ポリ-γ-L-グルタミン酸の分子量分布(Mw/Mn)は、特に制限されない。ポリ-γ-L-グルタミン酸のMw/Mnは、通常、1.1以上又は1.2以上であり、例えば1.3以上、1.4以上、又は1.5以上であってもよい。また、ポリ-γ-L-グルタミン酸のMw/Mnは、好ましくは3以下、より好ましくは2.9以下、更に好ましくは2.8以下であり、例えば2.7以下、2.6以下、又は2.5以下であってもよい。
【0012】
ポリ-γ-L-グルタミン酸は、化学合成品であってもよいが、微生物により産生されたポリ-γ-L-グルタミン酸であることが好ましい。微生物としては、ポリ-γ-L-グルタミン酸を産生し得る限り、野生型であっても変異型であってもよい。変異型は、例えば、遺伝子組換えによる方法、細胞又は胞子にアルキル化剤等の変異原性薬剤を接触させる方法、放射線又は紫外線を照射する方法等により、ポリ-γ-L-グルタミン酸の産生能力が付与又は強化された微生物であってもよい。
【0013】
一実施形態において、微生物は、好塩菌又はその変異株であることが好ましい。好塩菌としての性質を有していれば、好熱菌、高度好熱菌、好冷菌、好酸菌、好圧菌、低温生育菌等を用いてもよい。好塩菌は、低度好塩菌(0.2~0.5MのNaCl濃度で生育)、中度好塩菌(0.5~2.5MのNaCl濃度で生育)、高度好塩菌(2.5~5.2MのNaCl濃度で生育)の3種類に分類され、いずれであってもよいが、高度好塩菌であることが好ましい。なお、好塩菌は、他の微生物が生育不可能な高塩条件下においても生育可能であることから、無菌操作無しで培養することができる。
【0014】
一実施形態において、微生物は、古細菌であることが好ましい。古細菌としては、上述の高度好塩菌に分類される高度好塩古細菌の他、好熱古細菌、メタン菌(メタン生成古細菌)等が挙げられる。古細菌の中でも高度好塩古細菌が好ましい。
【0015】
高度好塩古細菌としては、例えば、Halobacterium(ハロバクテリウム)属、Haloarcula(ハロアルクラ)属、Haloferax(ハロフェラックス)属、Halococcus(ハロコッカス)属、Halorubrum(ハロルブルム)属、Halobaculum(ハロバキュラム)属、Natrialba(ナトリアルバ)属、Natronomonas(ナトロノモナス)属、Natronobacterium(ナトロノバクテリウム)属、Natronococcus(ナトロノコッカス)属等が挙げられる。これらの中では、Natrialba属が好ましい。Natrialba属の中では、高分子量のポリ-γ-L-グルタミン酸を産生する点から、Natrialba aegyptiaca(ナトリアルバ エジプチアキア)が好ましい。また、N. aegyptiacaの中では、Natrialba aegyptiaca 0830-82株(受託番号:FERM P-20872)、Natrialba aegyptiaca 0830-243株(受託番号:FERM P-20873)、及びNatrialba aegyptiaca 0831-264株(受託番号:FERM P-20874)からなる群から選択される少なくとも一つの菌株が好ましい。これらの菌株は、いずれも数平均分子量130万以上のポリ-γ-L-グルタミン酸を液体培養条件下で合成することができる。
【0016】
微生物の培養条件は、微生物の種類に応じて適宜選択することができる。培地は、クエン酸塩等の炭素源と、NaCl、KCl、MgSO4等の無機塩とを含有することが好ましく、その他の成分を更に含有してもよい。その他の成分としては、例えば、カザミノ酸等のアミノ酸類;肉汁、ペプトン、大豆粉、酵母エキス等の栄養素等が挙げられる。
【0017】
培養は液体培養であっても固体培養であってもよい。液体培養の場合、培養温度は、例えば30~50℃、好ましくは35~45℃である。また、培地のpHは、例えば5~9、好ましくは6~8.5である。pHは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、塩酸、硫酸、これらの水溶液等によって調整できる。培地にNaClが含まれる場合、NaClの濃度は、例えば10~30w/v%、好ましくは15~25w/v%である。また、培地に酵母エキスが含まれる場合、酵母エキスの濃度は、例えば0.1~10w/v%、好ましくは0.5~5.0w/v%である。培養は、振とう培養、通気攪拌培養等、好気条件下で行うことが好ましい。培養期間は、通常、2~7日間程度である。
【0018】
固体培養の場合、培養温度は、液体培養の場合と同様の範囲から選択することができる。培地は、通常、寒天培地である。培地にNaCl及び/又は酵母エキスが含まれる場合、NaCl及び/又は酵母エキスの濃度は、液体培養の場合と同様の範囲から選択することができる。このようにして培養すると、ポリ-γ-L-グルタミン酸は、主として菌体外に蓄積されて培養物中に含まれる。
【0019】
培養物からポリ-γ-L-グルタミン酸を分離、回収する方法としては、例えば、(1)固体培養物から20w/v%以下の食塩水により抽出分離する方法(例えば特開平3-30648号公報を参照)、(2)硫酸銅による沈殿法(例えばThrone.B.C.ら, J.Bacteriol., 68巻, 307頁, 1954年を参照)、(3)アルコール沈殿法(例えばR.M.Vardら, Biotechnology and Bioengineering, 5巻, 41頁, 1963年を参照)、(4)架橋化キトサン成形物を吸着剤とするクロマトグラフィー法(例えば特開平3-244392号公報を参照)、(5)分子限外濾過膜を使用する分子限外濾過法、(6)上記(1)~(5)を適宜組み合わせた方法等が挙げられる。このようにして分離、回収したポリ-γ-L-グルタミン酸は、必要に応じて、スプレードライ、凍結乾燥等の方法で粉末にしてもよい。
【0020】
ポリ-γ-L-グルタミン酸の塩は、生理学的又は薬学的に許容し得るものである限り、特に制限されない。そのような塩としては、例えば、金属塩が挙げられる。金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;亜鉛塩;鉄塩;マンガン塩等が挙げられる。
【0021】
ポリ-γ-L-グルタミン酸又はその塩は、例えば、特開2007-314434号公報、特開2010-18585号公報等に記載の方法により製造することができる。
【0022】
表皮の保湿因子又はバリア機能因子
保湿因子又はバリア機能因子は、表皮中に存在するものである限り、特に制限されない。保湿因子又はバリア機能因子は、表層を構成する層、すなわち、角層、顆粒層、有棘層、及び基底層のいずれの層に存在するものであってもよい。一実施形態において、表皮の保湿因子又はバリア機能因子は、表皮の保湿又はバリア機能に関連する遺伝子又はそれにより発現するタンパク質であることが好ましく、具体例としては、プロフィラグリン、フィラグリン、ロリクリン、インボルクリン、トランスグルタミナーゼ、ケラチン(例えば、ケラチン1、ケラチン10)、クローディン(例えば、クローディン1)等が挙げられる。これらの中でも、フィラグリン、ロリクリン、ケラチン1、ケラチン10、及びクローディン1からなる群より選択される一種が好ましい。
【0023】
発現増強剤
発現増強剤は、発現増強剤を表皮に適用した場合に、発現増強剤を表皮に適用していない場合と比べて、表皮の保湿因子又はバリア機能因子の発現が増強するものである限り、特に制限されない。発現増強の程度は、発現増強剤を表皮に適用した場合の発現量が、発現増強剤を表皮に適用していない場合の発現量に対して1倍を超える限り、特に制限されず、例えば1.5倍以上、好ましくは1.7倍以上、より好ましくは2倍以上、更に好ましくは2.2倍以上である。発現増強の有無及び程度は、三次元培養皮膚モデルを用いたマイクロアレイにより分析することができる。なお、発現増強剤は、表皮の保湿因子又はバリア機能因子の発現量の増加に伴い、天然保湿因子(NMF)の存在量も増加させることができる。天然保湿因子としては、例えば、グルタミン、ヒスチジン、アルギニン、シトルリン、オルニチンなどのアミノ酸;ピロリドンカルボン酸、ウロカニン酸などが挙げられる。
【0024】
発現増強剤は、ポリ-γ-L-グルタミン酸又はその塩を含有する限り、特に制限されない。ポリ-γ-L-グルタミン酸又はその塩の含有量は、発現増強効果を発揮する有効量である限り、特に限定されるものではないが、例えば0.00001質量%(又はw/v%)以上であり、好ましくは0.00005質量%(又はw/v%)以上、0.0001質量%(又はw/v%)以上、0.0005質量%(又はw/v%)以上、0.001質量%(又はw/v%)以上、0.005質量%(又はw/v%)以上、0.01質量%(又はw/v%)以上、又は0.05質量%(又はw/v%)以上である。ポリ-γ-L-グルタミン酸又はその塩の含有量は、100質量%以下であればよく、例えば50質量%(又はw/v%)以下であり、好ましくは30質量%(又はw/v%)以下、20質量%(又はw/v%)以下、10質量%(又はw/v%)以下、5質量%(又はw/v%)以下、又は1質量%(又はw/v%)以下である。なお、発現増強剤は、ポリ-γ-D-グルタミン酸、ポリ-γ-DL-グルタミン酸、及びこれらの塩を含有しないことが好ましい。
【0025】
発現増強剤は、ポリ-γ-L-グルタミン酸又はその塩に加えて、担体を含有することが好ましい。担体としては、生理学的又は薬学的に許容し得るものである限り、特に制限されず、例えば、水;リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水、HEPES緩衝液、トリス塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液等の緩衝液;カプリルアルコール、ラウリルアルコール、オレイルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、コレステロール、フィトステロール、セタノール、ステアリルアルコール、ヘキシルデカノール、オクチルドデカノール、エタノール、イソプロパノール等の高級又は低級アルコール類;カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、ラノリン脂肪酸、リノール酸、リノレン酸、ラウリン酸、オレイン酸、イソステアリン酸、ウンデシレン酸、イソノナン酸、カプロン酸等の高級脂肪酸又はそのエステル(アルキルエステル等);流動パラフィン、スクワラン、マイクロクリスタリンワックス、セレシンワックス、パラフィンワックス、ワセリン等の炭化水素類;アボガド油、アルモンド油、ウイキョウ油、エゴマ油、オリーブ油、オレンジ油、オレンジラファー油、ゴマ油、カカオ油、カミツレ油、カロット油、キューカンバー油、マカデミアナッツ油、ククイナッツ油、サフラワー油、大豆油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、パーシック油、ヒマシ油、綿実油、落花生油、タートル油、ミンク油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、グレープシード油、モクロウ、ホホバ油、牛脂、牛脂脂肪酸、豚油、卵黄油、硬化油等の油脂類;ラノリン(液状ラノリン、還元ラノリン、硬質ラノリン等)、ミツロウ、カルナバロウ、鯨ロウ、カンデリラロウ、モンタンロウ、セラックロウ等のロウ類;ジメチルポリシロキサン、メチフェニルシロキサン等のシリコーン類等が挙げられる。これらの担体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
発現増強剤は、さらに添加剤を含有してもよい。添加剤としては、生理学的又は薬学的に許容し得るものである限り、特に制限されず、形態や使用態様等に応じて適宜選択することができ、例えば、溶剤、分散剤、乳化剤、pH調整剤、増粘剤、防腐剤、安定剤、界面活性剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、甘味剤、香料、着色剤、アミノ酸、ビタミン等が挙げられるが、これらに限定されない。添加剤は、1種類を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
発現増強剤は、例えば、医薬、試薬、食品、化粧料(医薬部外品を含む)、又はこれらに使用するための組成物の形態であってもよい。医薬の場合、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、エリキシル剤、乳剤、軟膏剤、注射剤、貼付剤等であってもよい。食品の場合、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料;アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、中華麺、即席麺等の麺;飴、キャンディー、ガム、チョコレート、ゼリー、ジャム、クリーム、スナック菓子、焼き菓子、パン等の菓子;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;粉乳、加工乳、発酵乳等の乳製品;マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;レトルトパウチ食品等であってもよい。また、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、機能性表示食品、栄養補助食品、サプリメント等であってもよい。化粧料の場合、化粧水、乳液、ゲル、クリーム、軟膏、ローション、オイル、パック等の基礎化粧料;洗顔料;皮膚洗浄料;シャンプー、リンス、ヘアートリートメント、ヘアクリーム、整髪料、パーマ剤、ヘアートニック、染毛料、育毛養毛料等の頭髪化粧料;ファンデーション、白粉、おしろい、口紅、頬紅、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ等のメークアップ化粧料;美爪料等の仕上げ用化粧料;サンスクリーン等であってもよい。
【0028】
発現増強剤が、食品等の製品形態である場合、製品本体又はその容器もしくは包装等に、例えば、表皮の保湿因子又はバリア機能因子の発現増強のために用いられる旨の表示、表皮の保湿因子又はバリア機能因子の発現低下に関連する症状の予防、改善、緩和、進行遅延、進行抑制等のために用いられる旨の表示、これらに類する使用態様に関する表示を付してもよく、製品の説明書に、上記表示に対応する記載を含めてもよい。
【0029】
発現増強剤は、表皮の保湿因子又はバリア機能因子の発現低下に関連する疾患又は症状の予防又は治療(改善、緩和、進行遅延、進行抑制等を含む)、或いは、表皮の保湿因子又はバリア機能因子の発現が低下している対象への適用に好適に用いることができる。そのような疾患又は症状は、フィラグリン、ロリクリン、ケラチン1、ケラチン10、及びクローディン1からなる群より選択される一種の発現低下に関連する疾患又は症状であることが好ましく、具体例としては、肌荒れ、乾燥肌等の皮膚老化症状;アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、乾癬、魚鱗癬、乾皮症、座瘡等の皮膚疾患;アレルギー性鼻炎;喘息等が挙げられる。
【0030】
発現増強剤の適用方法は、発現増強効果を発揮する限り、特に制限されず、経口投与であってもよく非経口投与であってもよい。当該適用方法は、局所投与であることが好ましく、皮膚への直接塗布、散布、注射、又は噴霧であることが好ましい。
【0031】
本発明は、表皮の保湿因子又はバリア機能因子の発現低下に関連する疾患又は症状を予防又は治療するため、或いは、表皮の保湿因子又はバリア機能因子の発現が低下している対象に適用するための組成物であって、ポリ-γ-L-グルタミン酸又はその塩を含有する組成物も包含する。当該組成物の構成は、発現増強剤で述べた構成と同様の構成である。
【実施例0032】
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
(1) DNAマイクロアレイ
三次元培養表皮モデル(SkinEthic(商標) RHE、以下「RHE」と称する)を増殖培地にて一晩馴化した。馴化後、増殖培地を1mL分注した6穴プレートにRHEを移し、RHEの角層側に試験試料(東洋紡株式会社製「アミノピジェール(商標)」、L-ポリクルタミン酸ナトリウム塩)を100μL適用した。24時間培養後、試験試料を除去しPBS(-)にて洗浄した。
【0034】
RNA回収前のRHEの生存率を、アラマーブルー法を用いて評価した。10%アラマーブルー試薬を含有した維持培地を12穴プレートに分注した。RHEをこのプレートに移し、2時間培養し、培養上清の蛍光強度(Ex./Em.= 544 nm/590 nm)を測定した。細胞生存率は、試験試料未処理群の蛍光強度に対するIndex(%)として算出した。
【0035】
蛍光強度を測定後、トランスウェルよりRHEをパンチで外しQIAzol(商標) Lysis reagent(QIAGEN社製)に浸漬した状態で-80℃にて凍結保管した。細胞生存率が90%以上となる高濃度側の条件を選定し、選定したRHEをTissue Lyser(QIAGEN社製)を用いて細胞を破砕した。破砕液からmiRNeasy(商標) Mini Kit(QIAGEN社製)を用いて精製したRNAを回収した。回収したRNAについて、mRNA発現解析チップを用いて、DNAマイクロアレイを実施した。得られた結果を解析し、各種遺伝子発現解析の結果は、コントロール(PBS(-)適用)の補正値を1とした比で表し、Student t検定を用いて有意差検定を行った。
【0036】
フィラグリンについて2.36倍の発現上昇、ロリクリンについて3.04倍の発現上昇、ケラチン1及び10について2.99~3.99倍の発現上昇、クローディン1について1.6倍の発現上昇が見られた。
【0037】
(2) 免疫染色
RHEの培養
RHEを増殖培地にて一晩馴化した。翌日、6穴プレートの各ウェルに新しい維持培地1mLを添加し、RHEを設置した。RHEの角層側に、PBS(-)で所定濃度に調製した試験試料(東洋紡株式会社製「アミノピジェール(商標)」、L-ポリクルタミン酸ナトリウム塩)を100 μL適用し、2日間培養した。
【0038】
RHEの生存率の測定
培養後のRHEの細胞生存率は、アラマーブルー法を用いて評価した。10%アラマーブルー試薬を含有した維持培地を24穴プレートに300μL分注した。RHEをこのプレートに移し、2時間培養後、培養上清の蛍光強度(Ex./Em.= 544 nm/590 nm)を測定した。生存率は、PBS(-)適用(コントロール)群に対するIndex(%)として算出した。
【0039】
組織染色(フィラグリン、トランスグルタミナーゼ)
生存率の測定終了後のRHE(n=4)は、凍結用包埋剤に包埋し液体窒素により凍結した。凍結したRHEをクリオスタットにて10μm厚に薄切し、N.C.、0.1%および1.0%の被検試料の切片を1セットとして同一のスライドガラス上に貼付した。
【0040】
4%パラホルムアルデヒドによりスライドグラス上で固定し、1%スキムミルクによるブロッキング(室温、30分)を行った後、一次抗体として各標的タンパク質に対する抗体をRHE切片上に添加した。室温にて反応させた後、PBS(-)にて洗浄した。その後、二次抗体として蛍光ラベルされた抗一次抗体のホスト-IgGをRHE切片上に添加し、遮光した状態の室温で反応させた。使用した二次抗体の蛍光ラベルは、フィラグリン用にAlexa Fluor Plus 594(赤色)、トランスグルタミナーゼ用に、Alexa Fluor 488(緑色)を使用した。PBS洗浄の後、精製水にて洗浄し、顕微鏡観察し赤色蛍光のフィラグリン画像および緑色蛍光のトランスグルタミナーゼ画像を取得した。
【0041】
結果を
図1及び2に示す。
図1及び2に示されるように、アミノピジェール(商標)をRHEに適用した場合、フィラグリン及びトランスグルタミナーゼの発現増強が見られた。