(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149803
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】トーショナル・ベンディングダンパ
(51)【国際特許分類】
F16F 15/126 20060101AFI20220929BHJP
F16F 15/26 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F16F15/126 B
F16F15/26 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052112
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000136354
【氏名又は名称】株式会社フコク
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】特許業務法人ナガトアンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】杉江 広葵
(57)【要約】
【課題】軽量で且つクランクシャフトの多様な曲げモードにおいて曲げ方向の入力を効果的に制振することができるトーショナル・ベンディングダンパを提供する。
【解決手段】トーショナル・ベンディングダンパ1は、クランクシャフトの軸端に同芯で取り付けられ、クランクシャフトの捩り方向の入力を受けるとともに、クランクシャフトのクランク角度に対応するクランク相対角度においてクランクシャフトの曲げ方向の入力を受けるハブ2と、ハブ2の外周面2aに固着されるとともに捩り方向の入力を制振する弾性部材4と、弾性部材4の外周面4aに固着される慣性マス部材6とを備え、弾性部材4は、その周方向に亘って、曲げ方向の入力を制振する制振部20と、制振部20よりも曲げ方向の入力が小さい又は曲げ方向の入力を受けない非制振部22とを有し、制振部20の曲げ方向の入力に対する減衰率は、非制振部22に比して大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトの軸端に同芯で取り付けられ、前記クランクシャフトの捩り方向の入力を受けるとともに、前記クランクシャフトのクランク角度に対応するクランク相対角度において前記クランクシャフトの曲げ方向の入力を受けるハブと、
前記ハブの外周面に固着されるとともに前記捩り方向の入力を制振する弾性部材と、
前記弾性部材の外周面に固着される慣性マス部材と
を備え、
前記弾性部材は、その周方向に亘って、前記曲げ方向の入力を制振する制振部と、前記制振部よりも前記曲げ方向の入力が小さい又は前記曲げ方向の入力を受けない非制振部とを有し、
前記制振部の前記曲げ方向の入力に対する減衰率は、前記非制振部に比して大きい、トーショナル・ベンディングダンパ。
【請求項2】
前記弾性部材は、前記非制振部に中空部を有する、請求項1に記載のトーショナル・ベンディングダンパ。
【請求項3】
前記非制振部の径方向における厚みは、前記制振部に比して小さい、請求項1に記載のトーショナル・ベンディングダンパ。
【請求項4】
前記非制振部の剛性率は、前記制振部に比して小さい、請求項1に記載のトーショナル・ベンディングダンパ。
【請求項5】
前記弾性部材は、
前記ハブの外周面に固着されるとともに、前記捩り方向の入力を制振する第1弾性体と、
前記第1弾性体の外周面に固着されるスリーブと、
前記スリーブの外周面に固着されるとともに、前記慣性マス部材の内周面に固着され、前記制振部及び前記非制振部を有する第2弾性体と
を具備する、請求項2に記載のトーショナル・ベンディングダンパ。
【請求項6】
前記制振部は、前記弾性部材の周方向に亘って、前記クランク相対角度に応じた位置に複数設けられる、請求項1から5の何れか一項に記載のトーショナル・ベンディングダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トーショナル・ベンディングダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンなどの内燃機関においては、各気筒において、吸気、圧縮、燃焼(膨張)、排気の各行程が繰り返されることにより、クランクシャフトが駆動され、クランクシャフトに捩り振動が発生する。クランクシャフトの疲労破壊防止及び騒音低減のために、捩り振動を制振するトーショナルダンパが知られている。また、クランクシャフトには、燃焼行程において曲げ方向の入力が繰り返されることにより、曲げ振動も発生する。
【0003】
近年、クランクシャフトの細軸化と、各気筒における燃焼圧力の増大化が進んでいることから、クランクシャフトの曲げ振動を効果的に制振するベンディングダンパがトーショナルダンパに追加される形で組み合わされることがある。このようなトーショナル・ベンディングダンパは、クランクシャフトの軸端にハブが同芯で取り付けられる。
【0004】
ハブは、クランクシャフトの捩り振動によって捩り方向の入力を受けるとともに、クランクシャフトの曲げ振動によって曲げ方向の入力を受ける。曲げ振動の振幅は、各気筒の点火から膨張行程に移行する付近のクランク角で大きくなる。このため、例えば、エンジンが直列4気筒の場合には、クランク角度が0°及び180°となる位置において、クランクシャフトの曲げ変形が大きくなる。4気筒以外でも同様に、クランクピンの位相と一致する角度において、クランクシャフトの曲げ変形が大きくなる。
【0005】
この場合においては、ベンディングダンパを構成する弾性部材のクランク相対角度180°及び0°の位置において、クランクシャフトの軸線上の一点を中心とした円弧を描く方向、すなわちクランクシャフトの周方向(こじり方向)、又はクランクシャフトの径方向の共振周波数を調整する。これにより、ベンディングダンパが最大の制振性能を発揮し、クランクシャフトの曲げ振動を効果的に制振可能である。
【0006】
特許文献1には、トーショナルダンパ及びベンディングダンパの双方の機能を備えたトーショナル・ベンディングダンパが開示されている。このトーショナル・ベンディングダンパにおいては、トーショナルダンパを構成する環状エラストマー部材(弾性部材)において、捩り方向の入力が制振される。また、ベンディングダンパを構成する一対の柱状エラストマー部材(弾性部材)、又は円柱状エラストマー部材(弾性部材)において、ハブに対する曲げ方向の入力が制振される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のトーショナル・ベンディングダンパは、トーショナルダンパを構成する第一の質量体(慣性マス部材)と、ベンディングダンパを構成する第二の質量体(慣性マス部材)とを有するため、重量が大きくなる。トーショナル・ベンディングダンパの重量が大きいと、回転するクランクシャフトの軸端が遠心力により振り回され、クランクシャフトの曲げ振動がさらに大きくなるおそれがある。
【0009】
また、ベンディングダンパを構成する一対の柱状エラストマー部材は、ハブの径方向において180°対称の位置に配置されている。また、ベンディングダンパが円柱状エラストマー部材を有する形態の場合、円柱状エラストマー部材の径方向の厚みは周方向において一様である。
【0010】
クランク角度が0°及び180°以外の場合、或いは、クランクシャフトが複数の節(リンク)を有するクランク機構を構成し、ベンディングダンパが多数の方向から曲げ方向の入力を受ける場合には、クランクシャフトに多様な曲げモードが発生し得る。このような場合、特許文献1に記載のダンパでは、柱状エラストマー部材の位置は180°対称の位置に固定であり、また、円柱状エラストマー部材の径方向の厚みは一様であるため、曲げ方向の入力を効果的に制振することができないおそれがある。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、軽量で且つクランクシャフトの多様な曲げモードにおいて曲げ方向の入力を効果的に制振することができるトーショナル・ベンディングダンパを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するべく、本発明のトーショナル・ベンディングダンパは、クランクシャフトの軸端に同芯で取り付けられ、クランクシャフトの捩り方向の入力を受けるとともに、クランクシャフトのクランク角度に対応するクランク相対角度においてクランクシャフトの曲げ方向の入力を受けるハブと、ハブの外周面に固着されるとともに捩り方向の入力を制振する弾性部材と、弾性部材の外周面に固着される慣性マス部材とを備え、弾性部材は、その周方向に亘って、曲げ方向の入力を制振する制振部と、制振部よりも曲げ方向の入力が小さい又は曲げ方向の入力を受けない非制振部とを有し、制振部の曲げ方向の入力に対する減衰率は、非制振部に比して大きい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のトーショナル・ベンディングダンパによれば、軽量で且つクランクシャフトの多様な曲げモードにおいて曲げ方向の入力を効果的に制振することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態に係るトーショナル・ベンディングダンパの斜視図である。
【
図2】
図1のA-A方向から見たトーショナル・ベンディングダンパの縦断面図である。
【
図3】
図1のB-B方向から見たトーショナル・ベンディングダンパの縦断面図である。
【
図4】上下曲げ2節の曲げモードとなるクランク機構の模式図である。
【
図5】前後曲げ2節の曲げモードとなるクランク機構の模式図である。
【
図6】上下曲げ3節の曲げモードとなるクランク機構の模式図である。
【
図7】前後曲げ3節の曲げモードとなるクランク機構の模式図である。
【
図8】第2実施形態に係るトーショナル・ベンディングダンパの斜視図である。
【
図10】
図8のC-C方向から見たトーショナル・ベンディングダンパの縦断面図である。
【
図11】
図8のD-D方向から見たトーショナル・ベンディングダンパの縦断面図である。
【
図12】第3実施形態に係るトーショナル・ベンディングダンパの斜視図である。
【
図13】
図12のトーショナル・ベンディングダンパの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づき各実施形態に係るトーショナル・ベンディングダンパについて説明する。
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係るトーショナル・ベンディングダンパ1(以下、単にダンパ1ともいう)の斜視図を示す。ダンパ1は、ハブ2、弾性部材4、及び慣性マス部材6を備えている。なお、クランクシャフトの軸線方向をXとするXYZ軸を規定したとき、YZ軸平面に沿う方向が径方向である。
【0016】
ハブ2は、例えば金属製であり、径方向中央にボス8を備え、ボス8にはクランクシャフトの軸端が同芯で取り付けられる取付孔8aが形成されている。ボス8からは径方向に径方向部10が延設されている。径方向部10は、図示しないキーやノック孔等が形成され、クランクシャフトとダンパ1との周方向において生じる相対変位を規制する。径方向部10の外周には、筒状をなす外周部12が形成され、外周部12にはハブ2の外周面2aが形成されている。
【0017】
ハブ2は、クランクシャフトの捩り方向の入力を受けるとともに、クランクシャフトのクランク角度に対応するクランク相対角度において、クランクシャフトの曲げ方向の入力を受ける。弾性部材4は、筒状をなし、ハブ2の外周面2aに固着液を介して固着され、ハブ2及び慣性マス部材6に対しX軸方向において弾性的に連結されている。
【0018】
なお、固着液を介した固着は、圧着を伴っていても良いし、加硫成形による一体化であっても良い。以降の説明についても同様である。慣性マス部材6は、筒状をなし、弾性部材4の外周面4aに固着液を介して固着され、回転慣性モーメントによる慣性力を発生することにより、クランクシャフトに生じる振動の減衰に寄与する。
【0019】
ここで、本実施形態の弾性部材4は、第1弾性体14、スリーブ16、及び第2弾性体18から構成されている。第1弾性体14は、筒状をなし、ハブ2の外周面2aに固着される。スリーブ16は、筒状をなし、第1弾性体14の外周面14aに固着される。第2弾性体18は、筒状をなし、スリーブ16の外周面16aに固着されるとともに、慣性マス部材6の内周面6aに固着される。
【0020】
第1弾性体14及び第2弾性体18は、例えばゴムや樹脂から形成されている。弾性部材4は、第1弾性体14において、ハブ2が受けたクランクシャフトの捩り方向の入力を制振する。また、弾性部材4は、第2弾性体18において、ハブ2が受けたクランクシャフトの曲げ方向の入力を制振する。
【0021】
詳しくは、第2弾性体18は、その周方向に亘って、曲げ方向の入力を制振する制振部20と、制振部20よりも曲げ方向の入力が小さい又は曲げ方向の入力を受けない非制振部22とを有する。本実施形態の場合、非制振部22には中空部24が形成されている。非制振部22に中空部24を形成することにより、ダンパ1の軽量化を図りつつ、制振部20の曲げ方向の入力に対する減衰率が非制振部22に比して大きくなる。
【0022】
図2は、
図1のA-A方向から見たダンパ1の縦断面図を示し、
図3は、
図1のB-B方向から見たダンパ1の縦断面図を示す。
図2に示すように、非制振部22、すなわち中空部24はZ軸方向において対向する2か所に位置付けられている。一方、
図3に示すように、制振部20は、第2弾性体18の中実部であり、Y軸方向において対向する2か所に位置付けられている。
【0023】
以下、
図4から
図7を参照して、クランクシャフトに発生し得る多様な曲げモードについて説明する。
図4は、上下曲げ2節の曲げモードとなるクランク機構の模式図を示す。クランクシャフト26の一端側の軸端にフライホイール28が連結され、他端側の軸端にダンパ1が連結されている。この曲げモードにおいては、クランクシャフト26の両軸端にそれぞれ節、すなわちリンク30が形成されている。各リンク30間には、エンジンを構成する4つのピストン32が配置され、各ピストン32は、それぞれ上下方向(Z軸方向)に延びるコンロッド34を介してクランクシャフト26に連結されている。
【0024】
図5は、前後曲げ2節の曲げモードとなるクランク機構の模式図を示す。この曲げモードにおいては、クランクシャフト26の両軸端にそれぞれリンク30が形成されている。各リンク30間には、エンジンを構成する4つのピストン32が配置され、各ピストン32は、それぞれ前後方向(Y軸方向)に延びるコンロッド34を介してクランクシャフト26に連結されている。
【0025】
図6は、上下曲げ3節の曲げモードとなるクランク機構の模式図を示す。この曲げモードにおいては、クランクシャフト26の両軸端と、クランクシャフト26の中央とにそれぞれリンク30が形成されている。隣り合うリンク30間には、エンジンを構成するピストン32が2つずつ配置され、各ピストン32は、それぞれ上下方向(Z軸方向)に延びるコンロッド34を介してクランクシャフト26に連結されている。
【0026】
図7は、前後曲げ3節の曲げモードとなるクランク機構の模式図を示す。この曲げモードにおいては、クランクシャフト26の両軸端と、クランクシャフト26の中央とにそれぞれリンク30が形成されている。隣り合うリンク30間には、エンジンを構成するピストン32が2つずつ配置され、各ピストン32は、それぞれ前後方向(Y軸方向)に延びるコンロッド34を介してクランクシャフト26に連結されている。
【0027】
図4から
図7に示したように、エンジン及びクランク機構の構成は多様であり、クランクシャフト26に発生し得る曲げモードも多様である。しかし、本実施形態においては、中空部24の位置及び数を変更するだけで、
図1から
図3に示した形態に限定されることなく、第2弾性体18において中実に形成した制振部20を弾性部材4の周方向に亘ってクランク相対角度に応じた位置に適宜複数設けることが可能である。
【0028】
以上のように、本実施形態のダンパ1は、弾性部材4に第1弾性体14と第2弾性体18とを有し、第1弾性体14においてクランクシャフト26の捩り方向の入力を制振し、さらに、第2弾性体18においてクランクシャフト26の曲げ方向の入力を制振する。クランクシャフト26のクランク角度に対応するクランク相対角度において、クランクシャフト26の曲げ方向の入力を弾性部材4がハブ2を介して受けたときを想定する。
【0029】
この場合、曲げ方向の入力を積極的に制振すべき第2弾性体18の周方向における任意の箇所に、曲げ方向の入力に対する減衰率が大きな中実の制振部20が位置付けられる。一方、第2弾性体18の周方向における制振部20の形成位置以外の箇所に、非制振部22となる中空部24が位置付けられる。例えば
図1から
図3に示す形態の場合、中空部24を形成したことにより、ダンパ1のXZ軸平面のこじり方向(XZ軸平面をダンパ1の周方向に回転させる方向)の弾性率、及びZ軸方向の弾性率は、XY軸平面のこじり方向(XY軸平面をダンパ1の周方向に回転させる方向)の弾性率及びY軸方向の弾性率よりも低下する。
【0030】
この結果、XZ軸平面のこじり方向の共振周波数は、XY軸平面のこじり方向の共振周波数よりも低下する。また、Z軸方向の共振周波数は、Y軸方向の共振周波数よりも低下する。
図4から
図7に示したクランクシャフト26の多様な曲げモードにおいても、曲げ振動の主要な入力方向に制振部20の位置を合致させ、それ以外の箇所に非制振部22の位置を合致させることが可能である。
【0031】
すなわち、制振部20を弾性部材4の周方向に亘ってクランク相対角度に応じた位置に複数設けることにより、捩り方向の共振周波数を適正範囲に収めた状態で、特定のクランク相対角度に対して、こじり方向又は径方向の共振周波数を最適化することができる。これにより、クランクシャフト26の曲げ振動の共振周波数に、クランクシャフト26のこじり方向の共振周波数、又はクランクシャフト26の径方向の共振周波数を選択的に合致させることができるため、クランクシャフト26の曲げ振動を効果的に制振することができる。
【0032】
また、トーショナルダンパ及びベンディングダンパの双方における慣性力を1つの慣性マス部材6で発生させ、また、第2弾性体18に中空部24を形成したことにより、ダンパ1の軽量化が促進され、質量に対するダンパ性能が向上する。これにより、軽量で且つクランクシャフト26の多様な曲げモードにおいて曲げ方向の入力を効果的に制振することができるトーショナル・ベンディングダンパ1を実現することができる。
【0033】
<第2実施形態>
図8は、第2実施形態に係るダンパ1の斜視図を示す。なお、第1実施形態と同様の構成については図面に同じ符号を付して説明を省略し、主として第1実施形態と異なる構成について説明する。後述する第3実施形態の説明についても同様である。
【0034】
本実施形態のダンパ1の弾性部材4は、スリーブ16を備えておらず、第1実施形態における第1弾性体14及び第2弾性体18として機能する1つの弾性体36から構成されている。弾性体36は、例えばゴムや樹脂から形成され、弾性部材4は、弾性体36において、ハブ2が受けたクランクシャフト26の捩り方向の入力を制振するとともに、ハブ2が受けたクランクシャフト26の曲げ方向の入力を制振する。
【0035】
図9は、弾性体36の斜視図を示す。弾性体36は、その周方向に亘って、曲げ方向の入力を制振する制振部20と、制振部20よりも曲げ方向の入力が小さい又は曲げ方向の入力を受けない非制振部22とを有する。本実施形態の場合、非制振部22の径方向における厚みは、制振部20に比して小さく形成されている。
【0036】
図10は、
図8のC-C方向から見たダンパ1の縦断面図を示し、
図11は、
図8のD-D方向から見たダンパ1の縦断面図を示す。
図10に示すように、非制振部22はZ軸方向において対向する2か所に形成されている。各非制振部22は、慣性マス部材6の内周面6aとハブ2の外周面2aとの間にそれぞれ隙間38を存して位置付けられている。
【0037】
各隙間38を形成したことにより、非制振部22には圧縮反力が生じず、非制振部22は制振部20に比して相対的に弾性率が低下する。一方、
図11に示すように、制振部20は、Y軸方向において対向する2か所に隙間38を生じることなく位置付けられている。非制振部22の径方向における厚みを制振部20に比して小さくし、非制振部22に各隙間38を形成したことにより、制振部20の曲げ方向の入力に対する減衰率が非制振部22に比して大きくなる。
【0038】
以上のように、本実施形態のダンパ1は、弾性部材4は弾性体36のみから構成され、弾性体36においてクランクシャフト26の捩り方向及び曲げ方向の双方の入力を制振する。クランク相対角度においてクランクシャフト26の曲げ方向の入力を弾性部材4がハブ2を介して受けた場合、曲げ方向の入力を積極的に制振すべき弾性体36の周方向における任意の箇所に、曲げ方向の入力に対する減衰率が大きな制振部20が位置付けられる。
【0039】
一方、弾性体36の周方向における制振部20の形成位置以外の箇所に、制振部20に比して径方向における厚みが小さな非制振部22が位置付けられる。非制振部22においては、慣性マス部材6の内周面6aとハブ2の外周面2aとの間にそれぞれ隙間38が形成される。例えば
図8から
図11に示す形態の場合、隙間38を形成したことにより、ダンパ1のZ軸方向においては圧縮反力が生じないため、第1実施形態の場合と同様に、XZ軸平面のこじり方向の共振周波数は、XY軸平面のこじり方向の共振周波数よりも低下する。また、Z軸方向の共振周波数は、Y軸方向の共振周波数よりも低下する。
【0040】
図4から
図7に示した多様な曲げモードにおいても、制振部20を弾性部材4の周方向に亘ってクランク相対角度に応じた位置に複数設けることにより、捩り方向の共振周波数を適正範囲に収めた状態で、特定のクランク相対角度に対して、こじり方向又は径方向の共振周波数を最適化可能である。これにより、クランクシャフト26の曲げ振動の共振周波数に、クランクシャフト26のこじり方向の共振周波数、又はクランクシャフト26の径方向の共振周波数を選択的に合致させることができるため、クランクシャフト26の曲げ振動を効果的に制振することができる。
【0041】
また、第1実施形態の場合と同様に、トーショナルダンパ及びベンディングダンパの双方における慣性力を1つの慣性マス部材6で発生させることができる。特に本実施形態の弾性部材4は、第1実施形態のようなスリーブ16を備えておらず、1つの弾性体36によりクランクシャフト26の曲げ振動及び捩り振動の双方を制振可能である。
【0042】
さらに、弾性体36は径方向において非制振部22が減肉されている。従って、ダンパ1の軽量化をより一層促進することができ、より一層軽量で且つクランクシャフト26の多様な曲げモードにおいて曲げ方向の入力を効果的に制振することができるダンパ1を実現することができる。
【0043】
<第3実施形態>
図12は、第3実施形態に係るダンパ1の斜視図を示し、
図13は、
図12のダンパ1の平面図を示す。本実施形態のダンパ1の弾性部材4は、第2実施形態の場合と同様に、スリーブ16を備えておらず、第1実施形態における第1弾性体14及び第2弾性体18として機能する1つの弾性体40から構成されている。
【0044】
弾性体40は、例えばゴムや樹脂から形成され、弾性部材4は、弾性体40において、ハブ2が受けたクランクシャフト26の捩り方向の入力を制振するとともに、ハブ2が受けたクランクシャフト26の曲げ方向の入力を制振する。また、弾性体40は、その周方向に亘って、曲げ方向の入力を制振する制振部20と、制振部20よりも曲げ方向の入力が小さい又は曲げ方向の入力を受けない非制振部22とを有する。
【0045】
本実施形態の場合、弾性体40は、制振部20と非制振部22とは異なる組成のゴム又は樹脂を一体に加硫成形することにより形成され、非制振部22の剛性率は、制振部20に比して小さく形成されている。これにより、制振部20の曲げ方向の入力に対する減衰率が非制振部22に比して大きくなる。
【0046】
以上のように、本実施形態のダンパ1は、弾性部材4は弾性体40のみから構成され、弾性体40においてクランクシャフト26の捩り方向及び曲げ方向の双方の入力を制振する。クランク相対角度においてクランクシャフト26の曲げ方向の入力を弾性部材4がハブ2を介して受けた場合、曲げ方向の入力を積極的に制振すべき弾性体36の周方向における任意の箇所に、曲げ方向の入力に対する減衰率が大きな制振部20が位置付けられる。
【0047】
一方、弾性体40の周方向における制振部20の形成位置以外の箇所に、制振部20に比して剛性率が小さな非制振部22が位置付けられる。例えば
図12及び
図13に示す形態の場合、非制振部22の剛性率が制振部20に比して小さいため、第1及び第2実施形態の場合と同様に、XZ軸平面のこじり方向の共振周波数は、XY軸平面のこじり方向の共振周波数よりも低下する。また、Z軸方向の共振周波数は、Y軸方向の共振周波数よりも低下する。
【0048】
図4から
図7に示した多様な曲げモードにおいても、第1及び第2実施形態の場合と同様に、捩り方向の共振周波数を適正範囲に収めた状態で、特定のクランク相対角度に対して、こじり方向又は径方向の共振周波数を最適化可能である。これにより、クランクシャフト26の曲げ振動の共振周波数に、クランクシャフト26のこじり方向の共振周波数、又はクランクシャフト26の径方向の共振周波数を選択的に合致させることができるため、クランクシャフト26の曲げ振動を効果的に制振することができる。
【0049】
また、第1実施形態の場合と同様に、トーショナルダンパ及びベンディングダンパの双方における慣性力を1つの慣性マス部材6で発生させることができる。また、第2実施形態の場合と同様に、本実施形態の弾性部材4は、第1実施形態のようなスリーブ16を備えておらず、1つの弾性体40によりクランクシャフト26の曲げ振動及び捩り振動の双方を制振可能である。
【0050】
従って、ダンパ1の軽量化を促進することができ、軽量で且つクランクシャフト26の多様な曲げモードにおいて曲げ方向の入力を効果的に制振することができるダンパ1を実現することができる。
【0051】
以上で本発明の各実施形態についての説明を終えるが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができるものである。
例えば、軽量で且つクランクシャフトの多様な曲げモードにおいて曲げ方向の入力を効果的に制振することができるトーショナル・ベンディングダンパを実現するために、トーショナルダンパ及びベンディングダンパの双方における慣性力を1つの慣性マス部材6で発生させる。
【0052】
また、弾性部材4の周方向に亘って、曲げ方向の入力を制振する制振部20と、制振部20よりも曲げ方向の入力が小さい又は曲げ方向の入力を受けない非制振部22とを形成する。そして、制振部20の曲げ方向の入力に対する減衰率が非制振部に比して大きくなるのであれば、上記各実施形態に厳密に限定されない。
【符号の説明】
【0053】
1 トーショナル・ベンディングダンパ
2 ハブ
2a ハブの外周面
4 弾性部材
4a 弾性部材の外周面
6 慣性マス部材
6a 慣性マス部材の内周面
20 制振部
22 非制振部
24 中空部
14 第1弾性体
14a 第1弾性体の外周面
16 スリーブ
16a スリーブの外周面
18 第2弾性体