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特開2022-149805リフティングマグネット制御システムおよびリフティングマグネット制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149805
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】リフティングマグネット制御システムおよびリフティングマグネット制御方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 1/08 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
B66C1/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052116
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002457
【氏名又は名称】弁理士法人広和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 大地
(72)【発明者】
【氏名】仲田 祐一
【テーマコード(参考)】
3F004
【Fターム(参考)】
3F004EA03
3F004EA37
3F004HB01
3F004HB10
3F004JA02
(57)【要約】
【課題】質量が大きい吊荷をリフティングマグネットで確実に吸着する。
【解決手段】リフティングマグネット制御システム15は、リフティングマグネット13に電力を供給するマグネット駆動回路17と、リフティングマグネット13に供給される電力の大きさを制御するコントローラ18と、リフティングマグネット13に吊荷が吸着された状態で前記吊荷の質量を検出する質量検出器25と、を備え、コントローラ18は、吊荷の質量が所定値よりも大きい場合にリフティングマグネット13に供給される電力を吊荷の質量に対応する大きさに増加させる吊荷飛散防止モードと、吊荷の質量に関わらずリフティングマグネット13に供給される電力を初期設定された大きさに維持する通常モードとを選択的に実行する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リフティングマグネットに電力を供給するマグネット駆動回路と、
前記リフティングマグネットに供給される電力の大きさを制御するコントローラと、
前記リフティングマグネットに吊荷が吸着された状態で前記吊荷の質量を検出する質量検出器と、を備え、
前記コントローラは、前記質量検出器により検出された前記吊荷の質量が所定値よりも大きい場合に前記リフティングマグネットに供給される電力を前記吊荷の質量に対応する大きさに増加させる吊荷飛散防止モードと、前記吊荷の質量に関わらず前記リフティングマグネットに供給される電力を初期設定された大きさに維持する通常モードとを選択的に実行することを特徴とするリフティングマグネット制御システム。
【請求項2】
前記吊荷の質量と前記リフティングマグネットに供給される電力の大きさとを対応させたデータを記憶する記憶装置を更に備え、
前記コントローラは、前記吊荷飛散防止モードにおいて前記記憶装置に記憶された前記データに基づいて前記リフティングマグネットに供給される電力を増加させることを特徴とする請求項1に記載のリフティングマグネット制御システム。
【請求項3】
リフティングマグネットに供給される電力の大きさを制御するリフティングマグネット制御方法であって、
初期設定された電力を前記リフティングマグネットに供給する初期電力供給ステップと、
前記リフティングマグネットに吊荷が吸着された状態で、前記吊荷の質量が所定値よりも大きい場合に前記リフティングマグネットに供給される電力を前記吊荷の質量に対応する大きさに増加させる吊荷飛散防止モード、および前記吊荷の質量に関わらず前記リフティングマグネットに供給される電力を前記初期設定された電力に維持する通常モードのうち一方のモードを操作者の選択に応じて実行するモード選択ステップと、を備えることを特徴とするリフティングマグネット制御方法。
【請求項4】
前記モード選択ステップにより前記吊荷飛散防止モードが選択された場合には、前記吊荷の質量と前記リフティングマグネットに供給される電力の大きさとを対応させたデータに基づいて前記リフティングマグネットに供給される電力を増加させることを特徴とする請求項3に記載のリフティングマグネット制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば荷役作業において磁性体からなる吊荷を吸着して搬送するときに好適に用いられるリフティングマグネット制御システムおよびリフティングマグネット制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、荷役作業や車両の解体作業を行うときに、鉄片、鉄屑等の磁性体からなる吊荷を吸着して搬送する装置としてリフティングマグネットが知られている。このリフティングマグネットは、例えば荷役作業現場等で稼働する油圧ショベルの作業装置に搭載され、あるいは車両の解体工場等に設備として備えられている。リフティングマグネットは、電流を供給して励磁することにより磁性体からなる吊荷を吸着する。そして、吊荷を吸着したリフティングマグネットを所望の場所(鉄片の廃棄場所等)まで移動させた状態で、逆向きに電流を供給して消磁することにより、リフティングマグネットから吊荷が釈放され、吊荷を所望の場所に搬送することができる。
【0003】
ここで、リフティングマグネットを搭載したマグネット仕様の油圧ショベルは、下部走行体と、下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体と、上部旋回体に設けられた作業装置とを有し、作業装置のアーム先端にリフティングマグネットが取付けられている。このマグネット仕様の油圧ショベルを用いて吊荷作業を行う場合に、リフティングマグネットに吊荷を吸着した状態で上部旋回体の旋回動作を行うと、吊荷がリフティングマグネットから離脱して周囲に飛散してしまう。
【0004】
一方、リフティングマグネットに吸着された吊荷の質量が所定値よりも小さい場合に、リフティングマグネットに供給される電力を低下させるリフティングマグネット制御システムが提案されている。このリフティングマグネット制御システムによれば、吊荷の質量が小さい場合に必要以上の電力量が消費されるのを抑えることができる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-1369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1によるリフティングマグネット制御システムは、吊荷の質量が所定値よりも小さい場合に、リフティングマグネットに供給される電力を低下させることにより、消費電力を低減することを主眼としている。このため、リフティングマグネットに吸着した吊荷の質量が大きい場合には、リフティングマグネットに吸着した吊荷(鉄片)が周囲に飛散してしまい、飛散した吊荷を再度リフティングマグネットに吸着して収集する作業が追加されることにより、荷役作業の作業効率が低下してしまうという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、質量が大きい吊荷をリフティングマグネットで確実に吸着することができるようにしたリフティングマグネット制御システムおよびリフティングマグネット制御方向を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるリフティングマグネット制御システムは、リフティングマグネットに電力を供給するマグネット駆動回路と、前記リフティングマグネットに供給される電力の大きさを制御するコントローラと、前記リフティングマグネットに吊荷が吸着された状態で前記吊荷の質量を検出する質量検出器と、を備え、前記コントローラは、前記質量検出器により検出された前記吊荷の質量が所定値よりも大きい場合に前記リフティングマグネットに供給される電力を前記吊荷の質量に対応する大きさに増加させる吊荷飛散防止モードと、前記吊荷の質量に関わらず前記リフティングマグネットに供給される電力を初期設定された大きさに維持する通常モードとを選択的に実行することを特徴としている。
【0009】
また、本発明によるリフティングマグネット制御方法は、初期設定された電力を前記リフティングマグネットに供給する初期電力供給ステップと、前記リフティングマグネットに吊荷が吸着された状態で、前記吊荷の質量が所定値よりも大きい場合に前記リフティングマグネットに供給される電力を前記吊荷の質量に対応する大きさに増加させる吊荷飛散防止モード、および前記吊荷の質量に関わらず前記リフティングマグネットに供給される電力を前記初期設定された電力に維持する通常モードのうち一方のモードを操作者の選択に応じて実行するモード選択ステップと、を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リフティングマグネットに吸着された吊荷の質量に応じて、リフティングマグネットに供給される電力が増加するので、リフティングマグネットに吊荷を確実に吸着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態によるリフティングマグネット制御システムを備えたマグネット仕様の油圧ショベルを示す左側面図である。
図2】リフティングマグネット制御システムを概略的に示すブロック図である。
図3】荷役作業時にリフティングマグネット制御システムが実行する制御処理の流れ図である。
図4】荷役作業時にリフティングマグネットに供給される電圧および電流の変化を示す特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るリフティングマグネット制御システムの実施形態を、マグネット仕様の油圧ショベルに適用した場合を例に挙げ、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、実施形態では、油圧ショベルの走行方向を前後方向とし、走行方向と直交する方向を左右方向として説明する。
【0013】
図1に示すマグネット仕様の油圧ショベル1は、例えばスクラップ処理場で鉄片等をトラックの荷台に搬送するために用いられる。この油圧ショベル1は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、下部走行体2上に旋回輪3を介して旋回可能に設けられた上部旋回体4と、上部旋回体4の前部に俯仰動可能に設けられた作業装置10とを備えている。
【0014】
上部旋回体4は、ベースとなる旋回フレーム5と、旋回フレーム5の左前側に設けられたキャブ6と、旋回フレーム5の後端側に取付けられたカウンタウエイト7とを含んで構成されている。キャブ6は、オペレータ(操作者)が油圧ショベル1を操縦する運転室を画成し、キャブ6内には、下部走行体2の走行動作を制御する走行用レバー・ペダル装置、上部旋回体4の旋回動作、作業装置10の動作を制御する操作レバー装置(いずれも図示せず)が設けられている。また、キャブ6内には、後述するタッチパネル19、操作装置22等が配置されている。
【0015】
カウンタウエイト7は、作業装置10との重量バランスを保っている。カウンタウエイト7の前側には外装カバー8が設けられ、外装カバー8によって覆われた機械室内には、原動機および油圧ポンプ(いずれも図示せず)が設けられている。油圧ポンプは、原動機によって駆動されることにより、油圧ショベル1に搭載された各種の油圧アクチュエータに作動油を供給する。また、機械室内には発電機9が設けられ、発電機9は原動機によって駆動されることにより、リフティングマグネット13に供給される電力を発生する。
【0016】
作業装置10は、旋回フレーム5の前側に取付けられたブーム11と、ブーム11の先端に取付けられたアーム12と、アーム12の先端に取付けられたリフティングマグネット13とを有し、アーム12とリフティングマグネット13との間にはリンク機構14が設けられている。リフティングマグネット13は、内部にコイル(図示せず)が設けられたマグネット本体13Aと、マグネット本体13A上に立設されたブラケット13Bとを有している。マグネット本体13Aは、後述のマグネット駆動回路17から供給される電流によってコイルが励磁されることにより磁化され、磁性体からなる吊荷を吸着する。ブラケット13Bの後端側は、アーム12の先端に回動可能にピン結合され、ブラケット13Bの前端側は、リンク機構14に回動可能にピン結合されている。
【0017】
旋回フレーム5とブーム11との間にはブームシリンダ11Aが設けられ、ブーム11は、ブームシリンダ11Aの伸縮動作に応じて旋回フレーム5に対して回動する。ブーム11とアーム12との間にはアームシリンダ12Aが設けられ、アーム12は、アームシリンダ12Aの伸縮動作に応じてブーム11に対して回動する。アーム12とリフティングマグネット13のブラケット13Bとの間には、リンク機構14と作業具シリンダ14Aとが設けられている。作業具シリンダ14Aの伸縮力は、リンク機構14を介してリフティングマグネット13のブラケット13Bに伝達され、リフティングマグネット13は、アーム12にピン結合されたブラケット13Bの後端側を支点として、上下方向に回動する。
【0018】
次に、油圧ショベル1に搭載されたリフティングマグネット制御システム15について説明する。図2に示すように、リフティングマグネット制御システム15は、マグネット制御装置16と、タッチパネル19と、操作装置22と、質量検出器25とを含んで構成されている。
【0019】
マグネット制御装置16は、マグネット駆動回路17と、コントローラ18とを含んで構成されている。マグネット駆動回路17は、リフティングマグネット13に励磁用の電力を供給する回路であり、マグネット駆動回路17からリフティングマグネット13に供給される電力は、コントローラ18によって制御される。また、マグネット駆動回路17は、リフティングマグネット13に供給される電流の向きを正逆方向に切換える回路を含んで構成されている。
【0020】
コントローラ18は、リフティングマグネット13に供給される電力の大きさを制御する。コントローラ18の入力側には、発電機9、タッチパネル19、操作装置22、質量検出器25等が接続されている。コントローラ18の出力側には、マグネット駆動回路17が接続されている。コントローラ18は、タッチパネル19から入力される電力のモードに関する情報、操作装置22から入力される吊荷の吸着または釈放に関する情報、質量検出器25から入力される吊荷の質量に関する情報等に基づいて、マグネット駆動回路17からリフティングマグネット13に供給される電力を制御する。
【0021】
タッチパネル19は、キャブ6内に設けられ、入力装置20と記憶装置21とを含んで構成されている。入力装置20は、リフティングマグネット13に供給される電力のモードを、吊荷の質量に対応する大きさに増加させる吊荷飛散防止モードと、吊荷の質量に関わらず初期設定された大きさに維持する通常モードとの何れかに選択してコントローラ18に入力するもので、オペレータによって操作される。
【0022】
記憶装置21には、吊荷の質量と、この吊荷を吸着するためにリフティングマグネット13に供給される電力の大きさとを対応させた複数のデータ(テーブル値)が記憶されている。また、記憶装置21には、吊荷の質量が大きいか小さいかの基準となる所定値が記憶されている。ここで、基準となる所定値とは、荷役作業時にリフティングマグネット13に吸着された吊荷が飛散する可能性が高いか低いかを判定するための基準(閾値)となるもので、かさ比重1.3の吸着可能な吊荷の最大質量の70%程度に設定されている。なお、基準となる所定値は、オペレータが入力装置20を操作することにより、作業内容(リフティングマグネット13によって吸着する吊荷の形状等)に応じて適宜に変更することができる。また、記憶装置21は、タッチパネル19に限らず、例えばマグネット制御装置16に設ける構成としてもよい。
【0023】
質量検出器25によって検出された吊荷の質量が所定値未満であれば、リフティングマグネット13に吸着された吊荷の質量が小さく、この吊荷が荷役作業時に飛散する可能性が低いと判定される。従って、吊荷の質量が所定値未満である場合には、コントローラ18は通常モードを実行し、マグネット駆動回路17からリフティングマグネット13に初期電力が供給されることにより、リフティングマグネット13は比較的小さい磁力を発生する。
【0024】
一方、質量検出器25によって検出された吊荷の質量が所定値以上であれば、リフティングマグネット13に吸着された吊荷の質量が大きく、この吊荷が荷役作業時に飛散する可能性が高いと判定される。従って、吊荷の質量が所定値以上である場合には、コントローラ18は吊荷飛散防止モードを実行し、記憶装置21に記憶された複数のデータ(テーブル値)からリフティングマグネット13に供給すべき電力(吊荷の質量に対応した電力)を選定する。これにより、マグネット駆動回路17からリフティングマグネット13に吊荷の質量に対応した電力が供給され、リフティングマグネット13は大きな磁力を発生する。
【0025】
操作装置22は、タッチパネル19と共にキャブ6内に設けられている。操作装置22は、吸着ボタン23と釈放ボタン24とを含んで構成され、オペレータによって操作される。吸着ボタン23がON操作されたときには、リフティングマグネット13が励磁されて吊荷を吸着する。一方、釈放ボタン24がON操作されたときには、リフティングマグネット13が消磁されて吊荷を釈放する。
【0026】
質量検出器25は、例えばリフティングマグネット13のブラケット13Bとアーム12との取付部に設けられている。質量検出器25は、例えばロードセルからなり、リフティングマグネット13によって吸着された吊荷の質量を電気信号に変換し、吊荷の質量に応じた検出信号としてコントローラ18に出力する。
【0027】
本実施形態によるマグネット仕様の油圧ショベル1は、上述の如きリフティングマグネット制御システム15を備えるもので、この油圧ショベル1は、例えばスクラップ処理場内を下部走行体2によって自走し、磁性体からなる吊荷をリフティングマグネット13によって吸着して吊上げ、上部旋回体4の旋回動作等によってトラックの荷台に搬送する作業(荷役作業)を行う。
【0028】
この荷役作業時において、吊荷として細断された鉄片を想定した場合、吊荷の質量の増加は吊荷の嵩(体積)の増加を意味する。リフティングマグネット13から吊荷に作用する磁力は距離に反比例するため、吊荷の嵩が増加するとリフティングマグネット13から離れた吊荷の外縁での磁力が弱くなり、吊荷の外縁側の鉄片が離脱して周囲に飛散し易くなる。これに対し、吊荷の質量の増加に応じてリフティングマグネット13に供給する電力を大きくすることにより、吊荷の外縁側の鉄片が飛散するのを防止することができる。
【0029】
本実施形態によるリフティングマグネット制御システム15は、吊荷の質量に応じた電力をリフティングマグネット13に供給して吊荷の飛散を防止する吊荷飛散防止モードと、吊荷の質量に関わらず、初期電力をリフティングマグネット13に供給する通常モードとの何れかのモードを選択的に実行することができる。
【0030】
次に、リフティングマグネット13を用いた荷役作業について、図3および図4を参照して詳細に説明する。
【0031】
リフティングマグネット13を用いた荷役作業を行うときには、オペレータがキャブ6内に配置されたタッチパネル19の入力装置20を操作し、リフティングマグネット13に供給される電力として吊荷飛散防止モードおよび通常モードの何れか一方を選択する。これにより、図3のステップS1において、入力装置20によって選択されたモードがコントローラ18に入力される。
【0032】
次に、オペレータが、例えばキャブ6内に設けられた荷役作業スイッチ(図示せず)をON操作することにより、ステップS2において荷役作業が開始される。続くステップS3では、予め設定された初期電力によってリフティングマグネット13を励磁する。これにより、リフティングマグネット13が磁化され、鉄片等の磁性体からなる吊荷がリフティングマグネット13に吸着される。ここで、本実施形態では、リフティングマグネット13に供給される電流の制御を、電圧の制御によって行っている。図4は、荷役作業時にリフティングマグネット13に供給される電圧と電流の変化を示し、破線の特性線26は通常モードを示し、実線の特性線27は吊荷飛散防止モードを示している。
【0033】
図4に示すように、例えば荷役作業が開始されて時点t1までの間は、PWM制御のデューティー比を上げて電圧を最大値V1に保持することにより、電流を短時間でI1まで上昇させることができる。そして、時点t1、時点t2において段階的にPWM制御のデューティー比を下げ、時点t2以降は電圧をV2に保持することにより、電流を定格値(定格電流)I2に保持することができる。このように、図4中の時点t2以降は、リフティングマグネット13に電流I2が安定的に供給され、リフティングマグネット13は、通常モード(特性線26)および吊荷飛散防止モード(特性線27)に関わらず、電流I2の初期電力によって励磁された状態で吊荷を吸着する。
【0034】
ステップS4では、入力装置20で入力したモードが、通常モードであるか吊荷飛散防止モードであるかを判定する。ステップS4で通常モードと判定した場合には、リフティングマグネット13が初期電力によって吊荷を吸着した状態で、後述するステップS10に移行する。ここで、通常モードを選択した場合には、吊荷の質量に関わらずリフティングマグネット13に常に初期電力が供給されるため、リフティングマグネット13に吸着された吊荷の外縁に作用する磁力が低くなる。しかし、通常モードを選択した場合でも、上部旋回体4の旋回速度を緩めることにより吊荷の飛散を抑えることができるので、通常モードを選択することにより、消費電力の低減を優先することができる。
【0035】
一方、ステップS4で吊荷飛散防止モードと判定した場合には、ステップS5に移行する。ステップS5では、リフティングマグネット13に吸着された吊荷を持上げる。即ち、リフティングマグネット13が初期電力によって吊荷を吸着した状態で、作業装置10のアーム12の先端を上昇させ、リフティングマグネット13と一緒に吊荷をリフティングマグネット13と一緒に持上げる。
【0036】
続くステップS6では、リフティングマグネット13に吸着された吊荷を質量検出器25によって測定する。即ち、図4中の時点t3において、リフティングマグネット13に吸着された吊荷の質量が測定され、吊荷の質量に応じた検出信号が質量検出器25からコントローラ18に出力される。続くステップS7では、測定された吊荷の質量が、記憶装置21に記憶された基準となる所定値以上であるか否かを判定する。ステップS7でNOと判定した場合にはステップS10に移行し、ステップS7でYESと判定した場合には、ステップS8に移行する。
【0037】
ステップS8では、質量検出器25によって測定された吊荷の質量に応じてリフティングマグネット13に供給する電力を選定する。即ち、吊荷の質量が所定値以上である場合には、コントローラ18は、記憶装置21に記憶された複数のデータ(テーブル値)からリフティングマグネット13に供給すべき電力(吊荷の質量に対応した電力)を呼び出す。そして、続くステップS9において、マグネット駆動回路17からリフティングマグネット13に吊荷の質量に応じて選定された電力が供給され、リフティングマグネット13が励磁される。これにより、リフティングマグネット13に吸着された吊荷の質量が所定値よりも大きく、体積が大きい(嵩張る)場合でも、リフティングマグネット13の磁力を吊荷の外縁まで作用させることができ、吊荷の一部がリフティングマグネット13から離脱して周囲に飛散するのを防止することができる。
【0038】
このように、ステップS7でNOと判定した場合には、吊荷の質量が所定値未満であり、荷役作業時に吊荷が飛散する可能性が低いため、リフティングマグネット13が初期電力で励磁された状態で吊荷を吸着する通常モードが実行される。一方、ステップS7でYESと判定した場合には、吊荷の質量が所定値以上であり、荷役作業時に吊荷が飛散する可能性が高いため、リフティングマグネット13を吊荷の質量に応じた電力で励磁した状態で吊荷を吸着する吊荷飛散防止モードが実行される。
【0039】
即ち、入力装置20で通常モードが選択された場合、および吊荷の質量が所定値未満である場合には、図4中の特性線26で示すように、時点t2から荷役作業が終了する時点t5までの間、電圧V2および電流I2が一定に保持され、リフティングマグネット13は、初期電力によって吊荷を吸着する。一方、吊荷飛散防止モードが選択されている状態で吊荷の質量が所定値以上である場合には、図4中の特性線27で示すように、時点t2から時点t4までは初期電力で吊荷を吸着するが、時点t4において吊荷の質量に応じた電力が選定されて電圧および電流が上昇し、時点t4から時点t5までの間は選定された電力によって吊荷を吸着する。
【0040】
このようにして、リフティングマグネット13に吊荷を吸着した状態で、上部旋回体4の旋回動作や作業装置10によってリフティングマグネット13を移動させ、例えばトラックの荷台の上方まで移動させる。この場合、吊荷の質量が所定値以上であったとしても、リフティングマグネット13に供給される電力は吊荷の質量に対応する大きさに増加している。この結果、上部旋回体4の旋回動作や作業装置10によってリフティングマグネット13を移動させ、トラックの荷台等に搬送する間に、吊荷の一部がリフティングマグネット13から離脱して周囲に飛散するのを防止することができる。
【0041】
続くステップS10では、オペレータが、キャブ6内に配置された操作装置22の釈放ボタン24をON操作したか否かを判定する。ステップS10でNOと判定している間はこの判定を繰返し、YESと判定した場合にはステップS11に移行する。ステップS11では、コントローラ18が、マグネット駆動回路17からリフティングマグネット13に流れる電流の向きを逆方向に切換えることにより、リフティングマグネット13が逆励磁(消磁)される。これにより、リフティングマグネット13から吊荷が離脱し、トラックの荷台等の所望の廃棄場所に吊荷を廃棄することができる。
【0042】
続くステップS12では、リフティングマグネット13を用いた荷役作業を終了するか否かを判定する。この判定は、例えばキャブ6内に設けられた荷役作業スイッチ(図示せず)をオペレータがOFF操作したか否かによって行われ、ステップS12でNOと判定したときには、ステップS5以降の処理を繰り返し、ステップS12でYESと判定したときには一連の荷役作業が終了する。
【0043】
かくして、本実施形態によるリフティングマグネット制御システム15は、リフティングマグネット13に電力を供給するマグネット駆動回路17と、リフティングマグネット13に供給される電力の大きさを制御するコントローラ18と、リフティングマグネット13に吊荷が吸着された状態で前記吊荷の質量を検出する質量検出器25と、を備え、コントローラ18は、質量検出器25により検出された前記吊荷の質量が所定値よりも大きい場合にリフティングマグネット13に供給される電力を前記吊荷の質量に対応する大きさに増加させる吊荷飛散防止モードと、前記吊荷の質量に関わらずリフティングマグネット13に供給される電力を初期設定された大きさに維持する通常モードとを選択的に実行する。
【0044】
この構成によれば、吊荷飛散防止モードを選択した場合には、吊荷の質量が所定値以上であったとしても、リフティングマグネット13に供給される電力が増加することにより、吊荷の一部がリフティングマグネット13から離脱して周囲に飛散するのを防止することができる。この結果、リフティングマグネット13を用いた荷役作業の作業性を高めることができる。
【0045】
実施形態では、前記吊荷の質量とリフティングマグネット13に供給される電力の大きさとを対応させたデータを記憶する記憶装置21を更に備え、コントローラ18は、吊荷飛散防止モードにおいて記憶装置21に記憶されたデータに基づいてリフティングマグネット13に供給される電力を増加させる。この構成によれば、記憶装置21に記憶されたデータから吊荷の質量に応じた最適な電力が選定されるので、質量の大きな吊荷もリフティングマグネット13によって確実に吸着することができる。
【0046】
実施形態によるリフティングマグネット制御方法は、初期設定された電力をリフティングマグネット13に供給する初期電力供給ステップS3と、リフティングマグネット13に吊荷が吸着された状態で、前記吊荷の質量が所定値よりも大きい場合にリフティングマグネット13に供給される電力を前記吊荷の質量に対応する大きさに増加させる吊荷飛散防止モード、および前記吊荷の質量に関わらずリフティングマグネット13に供給される電力を初期設定された電力に維持する通常モードのうち一方のモードを操作者の選択に応じて実行するモード選択ステップS5と、を備える。
【0047】
この構成によれば、操作者が通常モードと吊荷飛散防止モードとを選択することができるので、例えば荷役作業時にリフティングマグネット13から吊荷が飛散するのを防止したい場合には、吊荷飛散防止モードを選択し、消費電力を抑えたい場合には通常モードを選択することができる。
【0048】
実施形態では、モード選択ステップS5により吊荷飛散防止モードが選択された場合には、前記吊荷の質量とリフティングマグネット13に供給される電力の大きさとを対応させたデータに基づいてリフティングマグネット13に供給される電力を増加させる。この構成によれば、吊荷の質量に応じた最適な電力をリフティングマグネット13に供給することができ、リフティングマグネット13によって吊荷を確実に吸着することができる。
【0049】
なお、実施形態では、マグネット仕様の油圧ショベル1に設けられたリフティングマグネット13を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば工場設備として用いられるガントリークレーン等のクレーン装置に設けられたリフティングマグネット等に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
13 リフティングマグネット
15 リフティングマグネット制御システム
17 マグネット駆動回路
18 コントローラ
20 入力装置
21 記憶装置
25 質量検出器
図1
図2
図3
図4