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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149832
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 35/063 20060101AFI20220929BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20220929BHJP
   F16D 3/20 20060101ALI20220929BHJP
   B60B 35/14 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F16C35/063
F16C19/18
F16D3/20 Z
B60B35/14 U
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052152
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】船橋 雅司
(72)【発明者】
【氏名】藤尾 輝明
(72)【発明者】
【氏名】井上 昌矢
【テーマコード(参考)】
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3J117AA02
3J117DA02
3J117DB01
3J117DB08
3J117DB10
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA53
3J701BA56
3J701BA80
3J701FA60
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】高い曲げ剛性を有し、かつトルク伝達時の負荷容量を高めることができる車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】外側継手部材31とハブ輪16は、それぞれに設けたフェーススプライン51,52を噛み合せ、かつ両フェーススプライン51,52間に軸方向の緊締力を作用させることでトルク伝達可能に結合される。両フェーススプライン51,52を軸方向に接近させて互いに噛み合せる過程で、両フェーススプラインの噛み合い領域Xの外径部Eaと、内径部Ecと、外径部と内径部に挟まれた中間部Ebとのうち、外径部Eaと内径部Ecの何れか一方で両フェーススプライン51,52の歯面51a,51b同士が最初に接触し、次に他方で両フェーススプライン51,52の歯面51a,51b同士が接触するように両フェーススプライン51,52の歯面形状を定める。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複列の内側軌道面、およびホイールに取り付けるためのフランジ部を有する内方部材と、複列の外側軌道面を有する外方部材と、対向する内側軌道面と外側軌道面の間に配置された複数の転動体とを備えた車輪用軸受と、
外側継手部材を有する等速自在継手とを備え、
前記外側継手部材と前記内方部材とが、それぞれに設けたフェーススプラインを噛み合せ、かつ両フェーススプライン間に軸方向の緊締力を作用させることでトルク伝達可能に結合された車輪用軸受装置において、
両フェーススプラインを軸方向に接近させて互いに噛み合せる過程で、両フェーススプラインの噛み合い領域の外径部と、内径部と、前記外径部と前記内径部に挟まれた中間部とのうち、前記外径部と内径部の何れか一方で両フェーススプラインの歯面同士が最初に接触し、次に他方で両フェーススプラインの歯面同士が接触するように両フェーススプラインの歯面形状が定められていることを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
複列の内側軌道面、およびホイールに取り付けるためのフランジ部を有する内方部材と、複列の外側軌道面を有する外方部材と、対向する内側軌道面と外側軌道面の間に配置された複数の転動体とを備えた車輪用軸受と、
外側継手部材を有する等速自在継手とを備え、
前記外側継手部材と前記内方部材とが、それぞれに設けたフェーススプラインを噛み合せ、かつ両フェーススプライン間に軸方向の緊締力を作用させることでトルク伝達可能に結合された車輪用軸受装置において、
両フェーススプラインを軸方向に接近させて互いに噛み合せる過程で、両フェーススプラインの噛み合い領域の外径部と、内径部と、前記外径部と前記内径部に挟まれた中間部とのうち、前記外径部と内径部で両フェーススプラインの歯面同士が最初にかつ同時に接触するように両フェーススプラインの歯面形状が定められていることを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記両フェーススプライン同士の噛み合い領域のうち、何れか一方のフェーススプラインの歯先面の内径端を0%、外径端を100%として、70%から100%の領域を前記外径部とし、0%~50%の領域を前記内径部とした請求項1または2記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両において車輪を車体に対して回転自在に支持するための車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複列の転がり軸受(車輪用軸受)と等速自在継手とがユニット化された車輪用軸受装置として、ハブ輪と等速自在継手の外側継手部材との間のトルク伝達を、ハブ輪の端面および外側接手部材の端面にそれぞれ設けたフェーススプラインを介して行うものが知られている(特許文献1の図7等)。この車輪用軸受装置では、ハブ輪にボルト部材を挿通し、ボルト部材の座面をハブ輪の端面と係合させた状態で、ボルト部材を外側継手部材の椀形部の底部に設けたねじ孔に螺着することで、外側継手部材とハブ輪が結合される。
【0003】
このようにフェーススプラインを使用した車輪用軸受装置においては、フェーススプライン同士を噛み合わせる際に、最初に半径方向外側で両フェーススプラインの歯同士を接触させ、緊締が強まるにつれて半径方向内側でも歯同士を接触させるもの(特許文献2)と、最初に半径方向内側で歯同士を接触させ、緊締が強まるにつれて半径方向外側でも歯同士を接触させるもの(特許文献3)とが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-115292号公報
【特許文献2】特許第5039048号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2015/0021973号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2には、第1の歯と第2の歯とが、通常の緊締力のほぼ75%に到達した際に両歯の歯面の全長にわたって互いに接触する旨が記載されている(段落0028)。しかしながら、フェーススプラインの加工時には加工誤差が避けられず、そのため、歯面の形状を理想通りに製作することはできない。従って、所定の緊締力の付与後には、両歯の歯面の半径方向全長にわたって歯面同士を接触させることは、理論的にはともかく実際には困難であり、両フェーススプラインの歯面同士は、噛み合い領域の一部でしか接触させることはできない。
【0006】
また、フェーススプライン同士を噛み合わせる際には、その噛み合わせ作業の前半に相手側と接触する部位が、トルク伝達時における歯面同士の接触領域となることが多い。従って、緊締力の付与後は、特許文献2の構成では、歯面同士の半径方向の噛み合い領域のうち主に外径側が歯面同士の接触領域となり、特許文献3の構成では主に内径側が歯面同士の接触領域となる。
【0007】
車輪用軸受装置の等速自在継手が作動角をとった状態で、トルク伝達を行う場合、等速自在継手の外側継手部材とハブ輪の連結部には曲げモーメントが繰り返し作用する。従って、特許文献2のように歯面同士の接触領域が外径側に存在する場合、噛み合い領域の円周方向の一部領域(曲げモーメントを作用させた際に山折れとなる領域)では、ボルト部材の変形を通じてフェーススプライン同士の噛み合い領域の外径側で歯面同士が非接触となる。これにより噛み合い領域での接触領域の面積が大きく減少するため、フェーススプライン同士の噛み合いが外れる場合がある。特にフェーススプライン同士の噛み合い領域では、図10に示すように、トルク伝達中に、歯面151a,152a間に作用するトルク伝達力Fの歯面に沿う方向の分力Faが歯同士の噛み合いを外す方向に作用するため、フェーススプライン同士の噛み合いがより一層外れやすくなる。従って、特許文献2の構成では、車輪用軸受装置の曲げ剛性が低下する問題がある。
【0008】
その一方で、特許文献3のように、トルク伝達中における歯面同士の接触領域が内径側となる構成では、外径側に接触領域を持たないため、曲げモーメントが車輪用軸受装置の曲げ剛性に与える影響は少なくなるが、接触領域の回転半径が小さいため、トルク伝達時の負荷容量が低下し、高トルクの伝達が難しくなる問題がある。
【0009】
以上に鑑み、本発明は、高い曲げ剛性を有し、かつトルク伝達時の負荷容量を高めることができる車輪用軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、複列の内側軌道面、およびホイールに取り付けるためのフランジ部を有する内方部材と、複列の外側軌道面を有する外方部材と、対向する内側軌道面と外側軌道面の間に配置された複数の転動体とを備えた車輪用軸受と、外側継手部材を有する等速自在継手とを備え、前記外側継手部材と前記内方部材とが、それぞれに設けたフェーススプラインを噛み合せ、かつ両フェーススプライン間に軸方向の緊締力を作用させることでトルク伝達可能に結合された車輪用軸受装置において、両フェーススプラインを軸方向に接近させて互いに噛み合せる過程で、両フェーススプラインの噛み合い領域の外径部と、内径部と、前記外径部と前記内径部に挟まれた中間部とのうち、前記外径部と内径部の何れか一方で両フェーススプラインの歯面同士が最初に接触し、次に他方で両フェーススプラインの歯面同士が接触するように両フェーススプラインの歯面形状が定められていることを特徴とする。
【0011】
両フェーススプラインを軸方向に接近させて互いに噛み合せる過程において、初期の段階で歯面同士が接触する領域では、噛み合わせの進行に伴って双方の歯面が弾性変形し、その接触状態を維持する。そのため、初期の段階で歯面同士が接触した領域は、歯面に多少の加工誤差があったとしても、トルク伝達中は歯面同士が接触した接触領域となる。上記構成によれば、少なくとも外径部と内径部に歯面同士の接触領域が形成されるため、作動角をとった等速自在継手のトルク伝達により曲げモーメントが作用し、そのために外径側で両フェーススプラインの噛み合いが外れそうになったとして、内径部では歯面同士の接触領域が維持される。そのため、両フェーススプラインの噛み合いが外れることはない。また、外径部に歯面同士の接触領域が存在することで、接触領域の回転半径が総じて大きくなるため、トルク伝達時の負荷容量を十分に確保することが可能となる。
【0012】
この作用効果は、両フェーススプラインを軸方向に接近させて互いに噛み合せる過程で、両フェーススプラインの噛み合い領域の外径部と、内径部と、前記外径部と前記内径部に挟まれた中間部とのうち、前記外径部と内径部で両フェーススプラインの歯面同士が最初にかつ同時に接触するように両フェーススプラインの歯面形状を定めた場合にも同様に得ることができる。
【0013】
前記両フェーススプライン同士の噛み合い領域のうち、何れか一方のフェーススプラインの歯先面の内径端を0%、外径端を100%として、70%から100%の領域を前記外径部とし、0%~50%の領域を前記内径部とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、高い曲げ剛性を有し、かつトルク伝達時の負荷容量を高めることができる車輪用軸受装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】車輪用軸受装置を軸方向に沿う断面で見た断面図である。
図2】外側継手部材をアウトボード側から見た正面図である。
図3図1に示す車輪用軸受装置において、フェーススプライン同士を軸方向に接近させて互いに噛み合せる過程を示す断面図である。
図4】フェーススプラインの噛み合い領域を円周方向に沿う断面で見た断面図である。
図5】フェーススプラインの噛み合い領域を軸方向から見た正面図である。
図6】(a)図および(b)図とも、図1に示す車輪用軸受装置の第一フェーススプラインを拡大して示す断面図である。
図7】(a)図および(b)図とも、図1に示す車輪用軸受装置の第一フェーススプラインを拡大して示す断面図である。
図8】(a)図および(b)図とも、図1に示す車輪用軸受装置の第一フェーススプラインを拡大して示す断面図である。
図9】(a)図および(b)図とも、図1に示す車輪用軸受装置の第一フェーススプラインを拡大して示す断面図である。
図10】フェーススプラインの噛み合い領域を円周方向に沿う断面で見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施形態に係る車輪用軸受装置を図1図9(a)(b)に基づいて説明する。なお、以下の説明では、車体に取り付けた際に車幅方向の外側となる方向をアウトボード側と呼び、車幅方向の内側となる方向をインボード側と呼ぶ。
【0017】
この実施形態に係る車輪用軸受装置1は、図1に示すように、車輪用軸受2と等速自在継手3とをユニット化した構造を有する。
【0018】
車輪用軸受2は、複列の内側軌道面5,6を有する内方部材7と、内方部材7の外径側に配置され、複列の外側軌道面10,11を有する外方部材12と、半径方向で対向する内側軌道面5,6と外側軌道面10,11の間に配置された複数の転動体13と、転動体13を円周方向で等間隔に保持する保持器(図示省略)とを主要な構成要素とする。
【0019】
内方部材7は、ハブ輪16と、ハブ輪16の外周に固定された内輪17とを有する。ハブ輪16の外周面に複列の内側軌道面5,6のうちの一方の内側軌道面5が形成され、内輪17の外周面に他方の内側軌道面6が形成されている。
【0020】
ハブ輪16は、車両のホイールに取り付けられるフランジ部18と、円筒状の筒部19とを備える。ハブ輪16のフランジ部18にはボルト装着孔20が設けられる。ホイールおよびブレーキロータをこのフランジ部18に固定するためのハブボルトがこのボルト装着孔20に固定される。筒部19のインボード側端部に小径部21が形成され、この小径部21の外周面に内輪17が圧入固定されている。ハブ輪16の筒部19のインボード側の端部には、内輪17の小径部21への圧入後に加締めにより外径側に塑性変形させた加締め部22が形成されている。加締め部22は内輪17のインボード側端面に密着している。この加締め部22により内輪17の位置決めがなされると共に、車輪用軸受2の内部に所定の予圧が付与される。ハブ輪16の筒部19のアウトボード側の内周面には、内径側に突出する内壁部23が設けられる。内壁部23は、その軸心上に、軸方向の貫通穴24を有する。貫通穴24には、そのアウトボード側からボルト部材26が挿入される。
【0021】
等速自在継手3は、角度変位のみを許容し、軸方向変位を許容しない固定式等速自在継手で構成される。この等速自在継手3は、カップ状のマウス部30を有する外側継手部材31と、外側継手部材31のマウス部30の内径側に収容された内側継手部材32と、内側継手部材32と外側継手部材31との間に配設されるトルク伝達部材としてのボール33とを主要な構成要素とする。内側継手部材32の中心孔の内周面には雌スプライン34が形成され、この雌スプライン34に、図示しない中間シャフトの端部に形成された雄スプラインが挿入される。これにより、内側継手部材32と中間シャフトとがトルク伝達可能に結合される。
【0022】
マウス部30の球面状の内周面には、軸方向に延びるトラック溝35が円周方向の複数個所に形成され、内側継手部材32の球面状の外周面には、軸方向に延びるトラック溝36が円周方向の複数個所に形成される。半径方向で対向する外側継手部材31のトラック溝35と内側継手部材32のトラック溝36が対をなし、各対のトラック溝35,36で形成される複数のボールトラックに1個ずつボール33が転動可能に組み込まれている。各ボール33は、ケージ37によって円周方向の等配位置に保持されている。ケージ37の球面状の外周面は外側継手部材31の球面状の内周面と接し、ケージ37の球面状の内周面は内側継手部材32の球面状の外周面と接している。
【0023】
図1では、マウス部30の開口側端部で外側継手部材31のトラック溝35の溝底を直線状とし、マウス部30の奥側端部で内側継手部材32のトラック溝36の溝底を直線状としているが(アンダーカットフリー型)、外側継手部材31のトラック溝35および内側継手部材32のトラック溝36の双方の溝底全体を曲線状に形成することもできる。
【0024】
外側継手部材31と内側継手部材32との間に作動角が付与されると、ケージ37に保持されたボール33はどのような作動角においても、常にその作動角の二等分面内に維持される。これにより、外側継手部材31と内側継手部材32との間での等速性が確保される。外側継手部材31と内側継手部材32との間では、等速性が確保された状態で回転トルクがボール33を介して伝達される。
【0025】
マウス部30は、軸心を中心とする雌ねじ部38が形成された底部39を有する。ボルト部材26の先端に形成された雄ねじ部27を雌ねじ部38に螺合させることで、ボルト部材26の座面26aが内壁部23のアウトボード側端面23aと軸方向で係合する。さらにボルト部材26をねじ込むことで、外側継手部材31とハブ輪16の間に、両者を接近させる方向の軸方向の緊締力が付与される。
【0026】
車輪用軸受2の内方部材7と外側継手部材31のマウス部30の底部39との間にはトルク伝達部50が設けられる。このトルク伝達部50は、継手3側に形成された第一フェーススプライン51と、軸受2側に形成された第二フェーススプライン52とを篏合させることで構成される。
【0027】
本実施形態では、第一フェーススプライン51がマウス部30の底部39のアウトボード側端面に形成され、第二フェーススプライン52がハブ輪16の加締め部22のインボード側端面に形成されている。図2は第一フェーススプライン51を軸方向から見た図を示す。図2に示すように、第一フェーススプライン51は、半径方向に延びる複数の凸条53と半径方向に延びる複数の凹条54とを円周方向で交互に配置した形態を有する。図示は省略するが、第二フェーススプライン52も、第一フェーススプライン51と同様に、半径方向に延びる複数の凸条と半径方向に延びる複数の凹条とを円周方向で交互に配置した形態を有する。第一フェーススプライン51と第二フェーススプライン52を噛み合わせ、さらにボルト部材26の雌ねじ部38へのねじ込みにより軸方向の緊締力を両フェーススプライン51,52間に作用させることで、外側継手部材31とハブ輪16とがトルク伝達可能に結合される。
【0028】
図3に示すように、第一フェーススプライン51と第二フェーススプライン52を噛み合せる際には、ボルト部材26(図1参照)の緊締力の作用下で、両フェーススプライン51,52を軸方向に接近させる。図3中のハッチングを付した領域が最終的に一方のフェーススプラインの凸条と他方のフェーススプラインの凹条とが噛み合う噛み合い領域Xを表す。以下では、この噛み合い領域Xのうち、何れか一方のフェーススプラインに設け
られた各凸条の歯先を含む面55を「歯先面」と称し、噛み合い領域Xの歯先面55の外径端を含む領域を外径部Eaと称し、噛み合い領域Xの歯先面55の内径端を含む領域を内径部Ecと称し、外径部Eaと内径部Ecに挟まれた領域を中間部Ebと称する。
【0029】
本実施形態においては、第一フェーススプライン51と第二フェーススプライン52を軸方向に接近させて互いに噛み合せる過程において、外径部Eaと内径部Ecで両フェーススプライン51,52の歯面同士が最初に接触するように、両フェーススプライン51,52の各歯面の形状が定められる。
【0030】
これを図4に基づいて具体的に説明する。なお、図4中のI列~III列は、両フェー
ススプライン51,52の噛み合せ過程を時系列で示すもので、I列が噛み合わせの初期段階を示し、II列が中間段階を示し、III列が最終段階を示す。また、図4中のA行が外径部Eaの断面形状を表し、B行が中間部Ebの断面形状を表し、C行が内径部Ecの断面形状を表す。
【0031】
図4に示すように、噛み合せ過程の初期段階の外径部Ea(I-A)および内径部Ec(I-C)では第一フェーススプライン51の歯面51aと第二フェーススプライン52の歯面52aとが接触する。この時、内径部Eb(I-B)では、歯面51a,52a間に隙間δがある。なお、歯先面55から、歯面のうちで最初に相手側の歯面と接触した部分までの深さを接触開始深さと称する。図4中のLaは外径部Eaにおける接触開始深さを示し、Lcは内径部Ecにおける接触開始深さを示す。
【0032】
噛み合せ過程が進んで中間段階(II列)に至ると、中間部Eb(II-B)でも歯面51a,52a同士が接触する。中間部Ebにおける接触開始深さLbは、外径部Eaにおける接触開始深さLaおよび内径部Ecにおける接触開始深さLcよりも深い位置となる。その後、噛み合せ過程がさらに進んで最終段階(III列)に至る。歯面51a,52a同士の接触後、最終段階(III列)に至るまでは、外径部Ea、中間部Eb、および内径部Ecの何れの部位でも、歯面51a,52aが弾性変形し、両歯面51a,52aの接触状態が維持される。この時、最初に接触する外径部Eaおよび内径部Ebでの歯面51a,52bの弾性変形量は、他所(中間部Eb)の弾性変形量よりも大きくなる。
【0033】
なお、図3において、噛み合い領域Xにおける歯先面55の内径端を0%、外径端を100%として、70%~100%の領域および0%~50%の領域を最初に歯面同士が接触する外径部Eaおよび内径部Ecとするのが好ましい。特に外径部Eaのうちの20%~50%の領域および内径部Ecのうちの20%~50%の領域で最初に歯面51a,52a同士を接触させるのが好ましい。以上の構成から、トルク伝達中の歯面同士の接触領域Y(図9(b)参照)が総じて外径側に形成されるため、トルク伝達時の負荷容量を大きくすることができる。
【0034】
以上に述べた接触順序は、図5に示すように、例えば、一方のフェーススプライン(例えば第一フェーススプライン51)の凸条53の歯面間距離(歯幅)が外径部Eaおよび内径部Ecで理想輪郭(二点鎖線で示す)の歯面間距離よりも大きくなるように歯面51aの形状を定めることで実現することができる。なお、図5では、凸条53と噛み合う凹条54が理想輪郭(破線で示す)で形成された場合を示しているが、同様の効果は、他方のフェーススプライン(例えば第二フェーススプライン52)の凹条54の歯面間距離(歯隙間の幅)が外径部Eaおよび内径部Ecで理想輪郭の歯面間距離よりも小さくなるように歯面52aの形状を定めることでも実現することができる。これらを組み合わせて、外径部Eaおよび内径部Ecで凸条53の歯面間距離を大きくし、凹条54の歯面間距離を小さくしてもよい。ここでいう理想輪郭とは、噛み合い領域Xの半径方向全域で両フェーススプライン51,52の歯面51a,52a同士が同時に接触するような、加工誤差のない理想的な歯形輪郭を意味する。
【0035】
なお、図5では、理解の容易化のため、外径部Eaおよび内径部Ecにおける歯面間距離を誇張して拡大させているが、実際の拡大量は、歯面51a,51bで生じ得る最大の加工誤差を超える程度であり、肉眼で判別することは困難な程度となる。図5中の符号Oは車輪用軸受装置1の回転中心を表す。
【0036】
図6(a)は、両フェーススプライン51,52の各歯面が理想輪郭で形成されている時の歯面51a,52a同士の接触開始深さLa,Lb,Lcを破線で示している。この場合、噛み合い領域Xの半径方向全域で歯面51a,52a同士が同時に接触するため、接触開始深さは、半径方向で均一な深さとなる。そのため、図6(b)に示すように、トルク伝達中における歯面同士の接触領域Y(ハッチングで示す)の幅は、半径方向で変化せず一定の幅となる。その一方で、加工誤差が不可避であるため、このような均一な接触開始深さや均一幅の接触領域を実現することは困難である。
【0037】
図7(a)(b)は特許文献2に記載のように、歯面同士を外径部Eaから接触させるようにした場合の接触開始深さLa,Lb,Lcと接触領域Yを示している。この場合、噛み合い領域の外径端が接触してから内径側に向けて徐々に接触領域が広がるため、図7(b)に示すように、トルク伝達中の歯面51a,52a同士の接触領域Yは外径側で広く、内径側で狭くなる。そのため、等速自在継手3が作動角をとってトルク伝達する際に曲げモーメントが生じると、トルク伝達部50の円周方向の一部領域(山折りとなる領域)では、外径側の接触領域Yが消失し、接触領域Yの総面積が大きく減少するため、歯面51a,52a同士の噛み合いが外れやすくなる。そのため、車輪用軸受装置1の曲げ剛性が低下する。
【0038】
図8(a)(b)は特許文献3に記載のように、歯面同士を内径部Ecから接触させるようにした場合の接触開始深さLa,Lb,Lcと接触領域Yを示している。この場合、噛み合い領域の内径端が接触してから外径側に向けて徐々に接触領域が広がるため、図8(b)に示すように、トルク伝達中の歯面51a,52a同士の接触領域Yは内径側で広く、外径側で狭くなる。この場合、接触領域Yの回転半径が小さくなるため、車輪用軸受装置1におけるトルク伝達時の負荷容量が不十分となる。
【0039】
図9(a)(b)は本実施形態のように、歯面同士を外径部Eaおよび内径部Ecから接触させるようにした場合の接触開始深さLa,Lb,Lcと接触領域Yを示している。この場合、噛み合い領域の外径部Eaおよび内径部Ecが接触してから中間部Ebに向けて徐々に接触領域が広がる。この場合、トルク伝達中は、外径部Eaおよび内径部Ecで広範囲にわたって接触領域Yが形成される。この場合、等速自在継手3が作動角をとってトルク伝達する際に、トルク伝達部50に曲げモーメントが作用したとしても、少なくとも内径部Ecの接触領域Yは維持されるため、接触領域Yの総面積が極端に減少することはなく、歯面同士の噛み合いの外れを防止することができる。また、接触領域Yの回転半径が総じて大きくなるため、トルク伝達時の負荷容量を十分に確保することが可能となる。従って、曲げ剛性が高くかつトルク伝達時の負荷容量が高い車輪用軸受装置1を提供することが可能となる。
【0040】
このように本実施形態では、外径部Eaおよび内径部Ecで最初に歯面51a,52a同士を接触させている。外径部Eaおよび内径部Ecで同時に歯面51a,52aを接触させるのが好ましいが、量産時の加工誤差を考えると、同時接触を実現することは難しい。従って、両フェーススプラインを噛み合せる過程で、外径部Eaおよび内径部Ecでの歯面51a,52a同士の接触に多少のタイムラグがあっても構わない。すなわち、外径部Eaと内径部Ecの何れか一方で歯面51a,52a同士が最初に接触し、次に他方で歯面51a,52a同士が接触するものであっても構わない。何れにせよ、中間部Ecで歯面51a,52a同士の接触が開示されるより前に、外径部Eaと内径部Ecで歯面51a,52a同士の接触が開始されることが必要とされる。なお、特許文献2では歯面同士の接触が外径側から内径側に徐々に移行し、特許文献3では歯面同士の接触が内径側から外径側に徐々に移行するので、本実施形態とは各部での歯面同士の接触タイミングが異なる。
【0041】
本発明の実施形態は上記に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については説明を省略する。
【0042】
以上に述べた実施形態では、軸受2側の第二フェーススプライン52をハブ輪16の加締め部22の端面に設けているが、加締め部22を有しない車輪用軸受2を使用する場合は、第二フェーススプライン52を内輪17のアウトボード側端面に形成することもできる。この場合、内輪17とハブ輪16との間には、セレーション等の回り止めを設けて両者をトルク伝達可能に結合するのが望ましい。
【0043】
また、以上に述べた実施形態では、ハブ輪16と外側継手部材31の間に軸方向の緊締力を与える機構として、外側継手部材31に雌ねじ部38を設け、この雌ねじ部38に螺合する雄ねじ部を有する部材(ボルト部材26)をハブ輪16と軸方向で係合させる場合を例示したが、緊締力の付与構造は任意であり、上記以外にも、例えば外側継手部材31に雄ねじ部27を設け、この雄ねじ部に螺合する雌ねじ部を有する部材(例えばナット部材)をハブ輪16と軸方向で係合させることで、緊締力を与えることもできる。
【符号の説明】
【0044】
1 車輪用軸受装置
2 車輪用軸受
3 等速自在継手
5,6 内側軌道面
7 内方部材
10,11 外側軌道面
12 外方部材
13 転動体
16 ハブ輪
17 内輪
18 フランジ部
26 ボルト部材
31 外側継手部材
51 第一フェーススプライン
51a 歯面
52 第二フェーススプライン
52a 歯面
Ea 外径部
Eb 中間部
Ec 内径部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10