(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149845
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】ポリエステル系繊維織編物
(51)【国際特許分類】
D06M 15/53 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
D06M15/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052169
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】樋口 眞矢
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 健二
(72)【発明者】
【氏名】高月 珠里
(72)【発明者】
【氏名】天満 悠太
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA07
4L033AB05
4L033AC07
4L033CA48
(57)【要約】
【課題】リサイクルポリエステル原料を高比率で含有する再生ポリエステル樹脂を少なくとも一部に使用した吸水剤が付着した織編物であって、バージンポリエステル樹脂のみを使用した吸水剤を用いたときと同様に、十分な吸水性及び防汚性を有するポリエステル系繊維織編物を提供する。
【解決手段】ポリエステル系繊維を50質量%以上含む織編物の少なくとも一方の面に吸水剤が付着しているポリエステル系繊維織編物であって、吸水剤は再生ポリエステル樹脂を含有し、前記再生ポリエステル樹脂がリサイクルポリエステル原料から由来する成分を含み、全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、ジエチレングリコールの含有量が6モル%以下であり、カルボキシル末端基濃度が55当量/t以下であることを特徴とするポリエステル系繊維織編物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系繊維を50質量%以上含む織編物の少なくとも一方の面に吸水剤が付着しているポリエステル系繊維織編物であって、吸水剤は再生ポリエステル樹脂を含有し、再生ポリエステル樹脂は、以下の(1)~(3)の全ての要件を満足するものであることを特徴とするポリエステル系繊維織編物。
(1)a)使用済ポリエステル製品及びb)ポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルの少なくとも1種のリサイクルポリエステル原料から由来する成分を含む
(2)全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、ジエチレングリコールの含有量が6モル%以下
(3)カルボキシル末端基濃度が55当量/t以下
【請求項2】
織編物に付着している再生ポリエステル樹脂の付着量が0.1~1質量%である、請求項1記載のポリエステル系繊維織編物。
【請求項3】
織編物中のリサイクルポリエステル原料の含有量が40質量%以上である、請求項1又は2に記載のポリエステル系繊維織編物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済ポリエステル製品やポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステル等に由来するリサイクルポリエステル原料を高比率で含有する再生ポリエステル樹脂を少なくとも一部に使用した吸水剤が付着したポリエステル系繊維織編物であって、十分な吸水性及び防汚性を発現し得るポリエステル系繊維織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
織編物に防汚性(織編物にいったん汚れが付着しても、洗濯により容易に汚れを落とすことができるという性能)を付与するために、従来から、種々の検討がなされている。一方、汎用されている織編物のなかでも、合成繊維からなる織編物は優れた強度的特性を有するものであるため、一般衣料用途においてはもちろんのこと、ユニフォーム衣料用途等にも広く用いられている。しかしながら、合成繊維からなる織編物のなかでも、ポリエステル系繊維からなる織編物は疎水性であるため、セルロース繊維等からなる織編物等と比較すると、防汚性を付与することが困難である。したがって、ポリエステル系繊維からなる織編物に対して防汚性を付与し、さらに種々の性能を維持させるために、種々の技術が検討されている。
【0003】
ポリエステル系繊維に対する防汚加工としては、親水基を有する化合物(吸水剤)をポリエステル系繊維表面に塗布や吸着、吸尽させることによってポリエステル系繊維表面において吸水性を向上させ、汚れを付きにくく、また落ちやすくさせることが求められる。そこで、このような防汚加工の例として、例えばポリエステル繊維に対して親和性を高めた水溶性ポリエステル樹脂を、染色機等を用いて吸尽、吸着させる方法(特許文献1)や、ポリエチレングリコール系樹脂を繊維に付与した後、低温プラズマ処理する方法(特許文献2)、ポリエステル系繊維織編物に対して、ポリアルキレングリコールと、芳香族ジカルボン酸及びアルキレングリコールのブロック共重合体と、変性オルガノシリケートと、アミノプラスト樹脂とを付着させる方法(特許文献3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭53-47437号公報
【特許文献2】特公昭51-2559号公報
【特許文献3】特開平9-268472号公報
【0005】
一方、近年、一度使用されたポリエステル製品のうち、ゴミとして捨てられたプラスチック容器等が河川を経由して海洋へ流出し、波又は潮流の作用で細かく破砕されてマイクロプラスチックとして海洋生物の体内に蓄積、食物連鎖で濃縮され海洋生物の生態系に悪影響が出ていること、プラスチックが海洋汚染の一大原因となっていることが問題視されていることから、その使用量の削減、生分解性プラスチックへの切り替え等の動きが全世界的に起きている。
【0006】
このような環境上の問題の観点から、資源を再利用するリサイクルが様々な方法で行われている。PETに代表されるポリエステル製品に関しても、その製造工程で発生したポリエステル屑をリサイクルする方法に加え、一度市場に出回って廃棄された製品を回収し、それを原料として再使用する方法が検討されている。特に、近年においては、繊維製品について、一定のリサイクル率を達成することで認定されるエコマークを付与した製品が普及している。
【0007】
そして、一般的な繊維製品に関しては、その製造過程で加工剤を使用した様々な仕上げ・機能性付与加工がなされることが多く、このような加工剤においてもリサイクルポリエステル原料を高比率で含有したものと置き換えることができれば、さらなる環境配慮につながることになる。したがって、このようなリサイクルポリエステル原料を含有した吸水剤や防汚剤は市場からの要請も大きいといえるが、これまでにほとんど検討されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は、使用済ポリエステル製品やポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステル等に由来するリサイクルポリエステル原料を高比率で含有する再生ポリエステル樹脂を少なくとも一部に使用した吸水剤が付着した織編物であって、バージンポリエステル樹脂のみを使用した吸水剤を用いたときと同様に、十分な吸水性及び防汚性を有するポリエステル系繊維織編物を提供しようとするものである。また、さらなる環境配慮の観点から、リサイクルポリエステル原料を高比率で含むポリエステル繊維に前記再生ポリエステル樹脂を含有する吸水剤を付着させた織編物で、バージンポリエステル樹脂を用いたポリエステル系繊維に、バージンポリエステル樹脂を用いた吸水剤を付着した織編物と同様の吸水性及び防汚性を示すポリエステル系繊維織編物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記の課題を解決するために、鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、次の(イ)~(ハ)を要旨とするものである。
【0010】
(イ)ポリエステル系繊維を50質量%以上含む織編物の少なくとも一方の面に吸水剤が付着しているポリエステル系繊維織編物であって、吸水剤は再生ポリエステル樹脂を含有し、再生ポリエステル樹脂は、以下の(1)~(3)の全ての要件を満足するものであることを特徴とするポリエステル系繊維織編物。
(1)a)使用済ポリエステル製品及びb)ポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルの少なくとも1種のリサイクルポリエステル原料から由来する成分を含む
(2)全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、ジエチレングリコールの含有量が6モル%以下
(3)カルボキシル末端基濃度が55当量/t以下
(ロ)織編物に付着している再生ポリエステル樹脂の付着量が0.1~1質量%である、(イ)のポリエステル系繊維織編物。
(ハ)織編物中のリサイクルポリエステル原料の含有量が40質量%以上である、(イ)又は(ロ)のポリエステル系繊維織編物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、使用済みポリエステル製品に由来するリサイクルポリエステル原料、あるいはポリエステル樹脂及び製品を製造する工程で発生する屑等に由来するリサイクルポリエステル原料を原料とした再生ポリエステル樹脂を含有する吸水剤を、織編物の少なくとも一方の面に付着したポリエステル系繊維織編物を提供できる。
【0012】
特に、本発明では、前記再生ポリエステル樹脂が熱安定性に優れるため、該吸水剤をポリエステル繊維に付着させた本発明のポリエステル系繊維織編物は、バージンポリエステル樹脂を用いた吸水剤を用いたものと同様の優れた吸水性及び防汚性を発揮することができる。そのため、環境に配慮した製品として、衣料用途(作業服、スポーツウェア、インナーウェア、レディース衣料等)や、産業資材用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
[ポリエステル系繊維織編物]
本発明のポリエステル系繊維織編物(以下、「本発明織編物」と表記することがある)は、ポリエステル系繊維を50質量%以上含む。
【0014】
ポリエステル系繊維を構成するポリエステル樹脂の種類については、特に制限されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル;カチオン可染性ポリエステル、ポリ乳酸等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは芳香族ポリエステル、更に好ましくはポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
【0015】
ポリエステル系繊維の単繊維繊度については、特に制限されないが、例えば、0.1~10.0dtex、好ましくは0.3~8.0dtex、更に好ましくは0.3~6.0dtexが挙げられる。単繊維繊度が、0.1dtex以上であれば、適度な柔らかさとハリコシ感が付与され、衣料にした際に着用し易くなる。また、単繊維繊度が、10.0dtex以下であれば、硬くなり過ぎず、風合いが良好になる。
【0016】
ポリエステル系繊維の形態は特に限定されず、例えばモノフィラメント、マルチフィラメント等のいずれであっても良く、また長繊維、短繊維等のいずれであっても良い。また、短繊維を用いた紡績糸であっても良い。また、仮撚加工が施されていない原糸、仮撚加工糸、原糸や仮撚加工糸を撚糸したものであってもよい。
【0017】
本発明織編物の構成糸としてポリエステル系長繊維からなるマルチフィラメント糸を用いる場合、マルチフィラメント糸の総繊度については、特に制限されないが、例えば、10~350dtex、好ましくは30~250dtex、更に好ましくは50~180dtexが挙げられる。総繊度が50dtex以上であれば、織編物に十分な強度を付与することができ、また、総繊度が350dtex以下であれば、硬くなり過ぎず、風合いが良好になる。
また、本発明織編物の構成糸としてポリエステル系短繊維からなる紡績糸を用いる場合、紡績糸の番手は、例えば、英式綿番手で10~100番手、好ましくは20~80番手、更に好ましくは30~60番手が挙げられる。紡績糸の番手が10番手以上であれば、硬くなり過ぎず、風合いが良好になり、また、総繊度が100番手以下であれば、織編物に十分な強度を付与することができる。
【0018】
ポリエステル系繊維の構成フィラメント数については、使用する単繊維の単繊維繊度と総繊度に応じて定まるが、例えば、1~400本、好ましくは10~300本、更に好ましくは12~150本が挙げられる。
【0019】
ポリエステル系繊維の単繊維の断面形状については、特に制限されず、円形断面又は異形断面のいずれであってもよい。
【0020】
また、ポリエステル系繊維には、付与すべき特性等に応じて、二酸化チタン、二酸化ケイ素、顔料等が含まれていてもよい。
【0021】
本発明織編物は、ポリエステル系繊維を50質量%以上含むものであり、65質量%以上であることが好ましくは、80質量%含むことが更に好ましい。最も好ましくは100質量%である。
ポリエステル系繊維の含有量を50質量%以上とすることで、後述する再生ポリエステル樹脂を含有する吸水剤を付着させた際に、優れた吸水性を示す織編物となる。
後述するが、環境面を考慮した場合、本発明織編物に含まれるポリエステル系繊維はリサイクルポリエステル原料を含む再生ポリエステル樹脂で構成されたものであることが好ましい。
本発明織編物に含まれるポリエステル系繊維以外の構成繊維としては、例えば、ナイロン、アクリル等の合成繊維;レーヨン等の再生繊維;アセテート等の半合成繊維;綿、羊毛等の天然繊維等が挙げられる。
【0022】
本発明織編物は、特に組織等限定されない。織物としては、平、綾、朱子、パイル及びこれらの変化組織等が挙げられる。編物としては、経編物又は緯編物のいずれであってもよい。経編物としては、例えば、デンビー編、コード編、アトラス編等が挙げられ、具体的にはトリコットハーフ、トリコットサテン等が挙げられる。また、緯編物としては、例えば、平編、ゴム編、パール編、スムース編等が挙げられ、具体的には、天竺、鹿の子、スムース等が挙げられる。
【0023】
本発明の織編物が織物である場合、織密度については、当該織物の用途等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、経糸密度が、30~250本/2.54cm、好ましくは50~200本/2.54cm、更に好ましくは60~150本/2.54cm;かつ緯糸密度が、30~250本/2.54cm、好ましくは50~200本/2.54cm、更に好ましくは55~150本/2.54cmが挙げられる。
【0024】
また、本発明の織編物が編物である場合、編密度については、当該編物の用途等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、30~100コース/2.54cm、好ましくは40~80コース/2.54cm;かつ20~80ウェール/2.54cm、好ましくは30~60ウェール/2.54cmが挙げられる。
【0025】
[吸水剤]
本発明織編物は、織編物の少なくとも一方の面に再生ポリエステル樹脂を含有する吸水剤が付着している。
【0026】
本発明で用いる吸水剤は、水溶性ポリエステル樹脂や共重合ポリエステル樹脂であることが好ましく、中でも吸水性の観点から、水溶性ポリエステル樹脂を含有することが好ましい。水溶性ポリエステル樹脂とは、この樹脂の製造時におけるジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコール等のジオールとをエステル化反応させる際に、親水性の置換基を導入したり、ポリエチレングリコール鎖の長いジオールを共重合させた化合物をさす。
【0027】
つまり、本発明で用いる吸水剤は、再生ポリエステル樹脂として、水溶性ポリエステル樹脂や共重合ポリエステル樹脂を含有することが好ましい。本発明における吸水剤中の再生ポリエステル樹脂の含有量は、5~20質量%であることが好ましく、中でも8~12質量%であることが好ましい。
また、本発明で用いる吸水剤は、再生ポリエステル樹脂を上記の含有量で含む水性分散体であることが好ましい。
【0028】
[再生ポリエステル樹脂]
本発明で用いる吸水剤に含有される再生ポリエステル樹脂(以下、「本発明樹脂」と表記することがある)について説明する。
本発明樹脂は、a)使用済ポリエステル製品及びb)ポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルの少なくとも1種のリサイクルポリエステル原料から由来する成分を含む。
上記a)の使用済みポリエステル製品としては、例えば一度市場に出回り、使用後に回収されたポリエステル成形品(繊維を含む。)等が挙げられる。その代表例としては、PETボトル等のような容器又は包装材料が挙げられる。
【0029】
上記b)のポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルは、製品化に至らなかったポリエステルであり、例えば規格を外れた樹脂ペレット、成形時に不要になった材料、成形時に切断された断片、成形時、加工時等に発生した屑、銘柄変更時に発生する移行品の裁断物、試作品・不良品の裁断物等が挙げられる。
上記a)及びb)は、その形態等は限定されず、必要に応じてさらに粉砕、切断等の加工を行うことによりペレット化されていても良いし、あるいは溶融してペレット化されていても良い。
【0030】
また、上記a)及びb)のリサイクルポリエステル原料としては、結晶質又は非晶質のいずれのものであっても良い。従って、例えば熱処理を行っていない非晶質のポリエステル屑のペレット、熱処理を施した結晶質ペレット、結晶質ペレットと非晶質ペレットとの混合品等を使用することができる。本発明では、特に缶内への投入や解重合反応時にペレット同士の融着を防止する目的で結晶性のリサイクルポリエステル原料を用いることが好ましい。従って、上記a)又はb)の材料を熱処理により結晶化したもの(結晶化ペレット等)を好適に用いることができる。
【0031】
本発明樹脂としては、前記リサイクルポリエステル原料を40質量%以上含有することが好ましく、中でも50質量%以上含有することが好ましい。リサイクルポリエステル原料の含有量が40質量%未満であると、環境問題に配慮するという目的を果たすことができないものとなる。リサイクルポリエステル原料の含有量の上限については、特に限定するものではないが、後述する再生ポリエステル樹脂の製造方法によれば、リサイクルポリエステル原料の含有量が40~80質量%の再生ポリエステル樹脂まで容易に得ることが可能である。
【0032】
本発明樹脂は、下記に示す(2)、(3)の特性値を同時に満足するものであり、かつ(4)の特性値を満足することが好ましい。つまり、本発明樹脂は、後述する製造方法を採用することにより、このような特性値を満足することが可能であり、バージンポリエステル樹脂と同等の特性を有するものを得ることができたものである。
(2)全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、ジエチレングリコールの含有量が6モル%以下。
(3)カルボキシル末端基濃度が55当量/t以下。
(4)平均昇圧速度が0.6MPa/h以下。
【0033】
本発明樹脂は、全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、ジエチレングリコールの含有量が6モル%以下であり、その中でも5.5モル%以下であることが好ましい。特に、後述する製造方法により得られる本発明樹脂においては、エチレングリコールを原料の一つとして用いるが、その際の副生成物としてジエチレングリコールが生じ得る。本発明樹脂は、その副生するジエチレングリコールの量が少ないものであり、ジエチレングリコールの含有量が6モル%以下であることにより、熱安定性に優れており、このため、バージンポリエステルと同様に水等の溶媒や各種添加剤と混合性よく分散や乳化され、吸水性能に優れた吸水剤を生産性よく得ることが可能となる。なお、ジエチレングリコールの含有量の下限値は、例えば0.5モル%程度とすることができるが、これに限定されない。
【0034】
本発明樹脂は、カルボキシル末端基濃度が55当量/t以下であり、特に52当量/t以下であることが好ましく、その中でも51当量/t以下であることが最も好ましい。カルボキシル末端基濃度が55当量/t以下とすることにより、熱安定性に優れた性能を有しており、バージンポリエステルと同様に水等の溶媒や各種添加剤と混合性よく分散や乳化され、吸水性能に優れた吸水剤を生産性よく得ることが可能となる。なお、カルボキシル末端基濃度の下限値は、例えば5当量/t程度とすることができるが、これに限定されない。
【0035】
さらに、本発明樹脂は、次の方法により測定される平均昇圧速度が0.6MPa/h以下であることが好ましく、中でも0.5MPa/h以下であることが好ましく、さらには0.4MPa/h以下であることが好ましい。本発明における平均昇圧速度は、各種無機物に由来する異物や非ポリエステル樹脂に由来する異物の混入量の多さの指標となるものであり、平均昇圧速度が小さいほど異物の混入量が少ないことを示すものである。平均昇圧速度が0.6MPa/h以下であることにより、異物の混入量が少なく、バージンポリエステルと同様に水等の溶媒や各種添加剤と混合性よく分散や乳化され、吸水性能に優れた吸水剤を生産性よく得ることが可能となる。なお、平均昇圧速度の下限値は、例えば0.01MPa/h程度とすることができるが、これに限定されない。
【0036】
平均昇圧速度の測定方法は、エクストルーダー及び圧力センサを含む昇圧試験機を用い、エクストルーダーの先端に濾過粒度12μmのステンレス鋼製綾畳織フィルターをセットし、ポリエステル樹脂をエクストルーダーにて300℃で溶融し、前記フィルターからの吐出量29.0g/分で当該溶融物を押し出した時の前記フィルターにかかる圧力値として、押し出し開始時の圧力値を「初期圧力値(MPa)」とし、その後連続して12時間押し出しをした時点の圧力値を「最終圧力値(MPa)」とした場合、それらの圧力値に基づいて下記計算式Aにより上記平均昇圧速度を算出する:
平均昇圧速度(MPa/h)=(最終圧力値-初期圧力値)/12)・・・A)
という方法によるものである。
【0037】
本発明樹脂は、前記したように、共重合ポリエステル樹脂や水溶性ポリエステル樹脂であることが好ましいが、中でもグリコール成分としてエチレングリコール以外の成分が共重合成分として含まれている共重合ポリエステル樹脂であることが好ましい。
より具体的には、ポリエステルを構成する全酸成分の合計量を100モル%とするとき、80~99モル%がテレフタル酸であり、全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、70~85モル%がエチレングリコールであり、10~25モル%がポリエチレングリコールであり、ジエチレングリコールが0.5~6モル%含まれる共重合ポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0038】
本発明樹脂がグリコール成分としてポリエチレングリコールを含むことにより、水溶性ポリエステル樹脂とすることができる。ポリエチレングリコールの共重合量は中でも12~20モル%であることが好ましく、ポリエチレングリコールの数平均分子量は1000~10000であることが好ましい。
【0039】
本発明樹脂は、リサイクルポリエステル原料を用いて得られるものであり、リサイクルポリエステル原料において、エチレングリコールとテレフタル酸以外の成分が存在する際には、上記した共重合成分以外のものが含まれる場合もある。このため、本発明樹脂としては、酸成分又はグリコール成分として、以下に示す成分が共重合されていても良い。これらの成分は2種以上含まれていても良い。
【0040】
酸成分としては、例えばイソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、1、4-シクロヘキサンジカルボン酸、ドデカン二酸等、ダイマー酸、更には無水トリメリット酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、1、4-シクロヘキサンジカルボン酸、セバシン酸、ダイマー酸等が挙げられる。
グリコール成分としては、例えばネオペンチルグリコール、1、4-ブタンジオール、1、2-プロピレングリコール、1、5-ペンタンジオール、1、3-プロパンジオール、1、6-ヘキサメチレンジオール、1、4-シクロヘキサンジメタノール、ダイマージオール、ブチルエチルプロパンジオール、(2-メチル1、3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA又はビスフェノールSのエチレンオキシド付加体等を挙げることができる。
【0041】
本発明樹脂は、後述する製造方法の(5)の工程における重縮合反応後の極限粘度が0.38~0.70dl/gであることが好ましい。極限粘度をこのような範囲とすることで、吸水剤を得るために本発明樹脂とその他の溶媒や添加物とを混合する場合に分散性に優れたものとなる。
【0042】
[吸水剤が付着しているポリエステル系織編物]
本発明織編物は、前記した吸水剤を付着させることにより、織編物の少なくとも一方の表面に本発明樹脂が付着(コーティング)されたものとなる。
本発明織編物は、本発明樹脂が織編物の質量に対して0.1~1質量%付着していることが好ましく、中でも付着量は0.2~0.5質量%であることが好ましい。付着量が0.1質量%未満であると、吸水性が不足し、洗濯時の洗浄効率が低下し、好適な防汚効果が得られないおそれがある。一方、付着量が1質量%を超えると、得られる織編物の風合いが低下したり、粉吹き等の製造上のトラブルにつながるおそれがある。
【0043】
織編物に吸水剤を付与する方法としては、例えば、吸水剤を含有する処理液に、織編物を浸漬し、マングルで絞り、乾燥する方法(パディング法)や、液流染色機等を用いて、吸水剤を含有する浴中に、織編物を浸漬し、加熱処理する方法(吸尽法)が挙げられ、中でも生産効率がよいとの理由からパディング法や液流染色機を用いた方法が好ましい。
これらの方法で吸水剤を付与する際には、処理液中の吸水剤の含有量は、1.0質量%~10.0質量%が好ましい。処理液中の吸水剤の含有量が1.0質量%未満では吸水剤による効果がほとんど期待できず、一方、10.0質量%より多く入れても効果は頭打ちとなり、コスト高となる。
【0044】
本発明織編物は、付与する吸水剤を構成する本発明樹脂が異物の混入量が少なく、かつ熱安定性に優れるため、バージンポリエステル樹脂を用いた吸水剤を用いたものと同様の優れた吸水性と防汚性を発揮することができる。吸水性の指標としては、下記試験方法で測定される初期の吸水性が20秒以下であることが好ましく、より好ましくは10秒以下、特に好ましくは5秒以下が挙げられる。
【0045】
<吸水性の試験方法>
織編物から、縦20cm×横20cmの試験片を作成する。試験片に、JIS L-1907:2010の「7.1.1 滴下法」に規定されている方法により測定する。
【0046】
防汚性の指標としては、防汚性の等級が3-4級以上であることが好ましい。防汚性は5等級で評価され、1級が最も劣る評価であり5級が最も優れる評価である。防汚性の等級が3-4級未満であると、洗濯後も汚れが残留したり、洗濯槽に残留する油汚れ等が再付着したりして、徐々に黒ずんでいくという問題が発生する。
【0047】
<防汚性の試験方法>
JIS L 1912:2012 C法の人工汚染剤(組成:オリーブ油61.7質量%、オレイン酸38.2質量%及びオイルレッド0.1質量%)2g/Lとノニオン系界面活性剤2g/Lの溶液中にて、浴比1:100とし、80℃浴中で5分間処理する。次いで、JIS L 0217 103法に従って織編物を1回洗濯し、乾燥する。その後、JIS L 0805の汚染用グレースケールを用いて、汚染レベルの等級を判定する。
【0048】
[製造方法]
次に、本発明樹脂の製造方法について説明する。本発明樹脂の製造方法においては、(1)~(5)に示す工程を順に行うことが重要である。
(1)エチレングリコールとテレフタル酸のスラリーを添加し、エチレンテレフタレートオリゴマーを得る。
(2)(1)で得られたオリゴマーに対して、エチレングリコールを添加する。
(3)(2)で得られたエチレングリコールを添加したオリゴマー中に、常圧下、撹拌しながらリサイクルポリエステル原料を、全グリコール成分/全酸成分のモル比が1.08~1.35となるように投入し、245~280℃の熱処理条件下で解重合を行う。
(4)(3)で得られた解重合体を濾過粒度10~25μmの金属製のフィルターを通過させて異物を濾過する。
(5)(4)で得られた異物濾過後の解重合体に、重合触媒を添加し、温度260℃以上、1.0hPa以下の減圧下で重縮合反応を行う。
【0049】
まず、(1)の工程においては、リサイクルポリエステル原料〔a)使用済ポリエステル製品及びb)ポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルの少なくとも1種〕を解重合する前段階として、エチレングリコールとテレフタル酸のスラリーを添加し、エステル化反応物(エチレンテレフタレートオリゴマー)を得る。エチレンテレフタレートオリゴマーの量は、最終的に得られる再生ポリエステル樹脂100質量%中の20~80質量%とすることが好ましく、30~70質量%とすることがより好ましい。
エチレンテレフタレートオリゴマーの量が上記より少ない場合(3)の工程においてリサイクルポリエステル原料を投入した際に、リサイクルポリエステル原料同士がブロッキングを起こしやすくなり、攪拌機に過大な負荷がかかるため好ましくない。
一方、エチレンテレフタレートオリゴマーの量が上記範囲より多い場合は解重合反応に特に問題は起きないが、最終的に得られる再生ポリエステル樹脂のリサイクル率が低くなり好ましくない。
【0050】
(2)の工程においては、(1)で得られたエチレンテレフタレートオリゴマーに対して、エチレングリコールを添加する。
このときのエチレングリコールの添加量は、(3)の工程における解重合反応を十分に進行させるため、エチレンテレフタレートオリゴマーを100質量%に対して、5~15質量%とすることが好ましく、中でも10~15質量%とすることがより好ましい。エチレングリコールの添加量が15質量%を超えると、反応器内でエチレンテレフタレートオリゴマーが固化しやすくなり、以後の反応が継続できなくなる場合があり、好ましくない。
エチレンテレフタレートオリゴマー中にエチレングリコールを投入する際は、オリゴマーの固化を防ぐ目的で、攪拌機を回しながら内容物の温度を均一にし、投入することが好ましい。
【0051】
なお、本発明樹脂を共重合樹脂とする際には、ポリエチレングリコール等の共重合成分を(2)の工程において、エチレンテレフタレートオリゴマー中にエチレングリコールとともに投入し、混合物を得ることが好ましい。なお、(1)~(5)の工程を経て共重合成分を含有しない再生ポリエステル樹脂を得た後、再生ポリエステル樹脂を解重合することにより、ポリエチレングリコール等の成分を共重合させる方法等も挙げられる。
【0052】
(3)の工程においては、(2)で得られたエチレングリコールを添加したオリゴマー中(もしくは混合物中)に、撹拌しながらリサイクルポリエステル原料を投入する。このとき、全グリコール成分/全酸成分のモル比が1.08~1.35となるように投入し、245~280℃の熱処理条件下で解重合を行う。
本発明の製造方法においては、この工程が重要である。つまり、リサイクルポリエステル原料を利用した従来の方法においては、リサイクルポリエステル原料のみを用いて解重合を行っているが、本発明においては、エチレンテレフタレートオリゴマーとエチレングリコールの存在下でリサイクルポリエステル原料の解重合を行い、かつオリゴマー、エチレングリコール、リサイクルポリエステル原料、共重合成分の全ての成分を、全グリコール成分/全酸成分のモル比が1.08~1.35となるようにしてリサイクルポリエステル原料を投入し、解重合を行うものである。全グリコール成分/全酸成分のモル比は、中でも1.10~1.33であることが好ましく、さらには、1.12~1.30であることが好ましい。
上記したような(1)~(3)の工程を行うことにより、各種の無機物のみならず、非ポリエステル樹脂由来の異物の析出が効率よく行われるため、(4)の工程において、これらの異物をもれなく濾過することができる。そして、(5)の工程の重縮合反応において、本発明の特性値として、ジエチレングリコールの含有量やカルボキシル末端基濃度が特定量以下のものであり、かつ異物の混入量が少ない再生ポリエステル樹脂を得ることが可能となる。
なお、本発明の製造方法においては、上記の解重合反応により、リサイクルポリエステル原料をモノマーにまで分解されずに、繰り返し単位が5~20程度のオリゴマーまで分解されることが望ましい。このように制御することにより、各種の無機物のみならず、非ポリエステル樹脂由来の異物の析出が効率良く行われる結果、より多くの異物を取り除くことが可能となる。
解重合反応を行う際の全グリコール成分/全酸成分のモル比が上記範囲外であると、得られる再生ポリエステル樹脂は、本発明で規定する、カルボキシル末端基濃度、ジエチレングリコールの含有量の少なくとも一方を満足しないものとなり、また、平均昇圧速度が高いものとなる。これは、解重合反応を行う際の全グリコール成分/全酸成分のモル比が上記範囲外である場合、各種の無機物や非ポリエステル樹脂由来の異物の析出が効率よく行われないため、(4)の工程において、これらの異物をもれなく濾過することができず、(5)の工程の重縮合反応後に異物が析出し、その結果、平均昇圧速度が高い再生ポリエステル樹脂となる。
【0053】
本発明の製造方法で用いる反応器は、容量や攪拌翼の形状は、一般的に使用されているエステル化反応器で特に問題ないが、解重合反応を効率的に進めるため、エチレングリコールを系外に溜出させない蒸留塔を併設している構造となっていることが好ましい。
リサイクルポリエステル原料を投入する際には、常圧下で撹拌しながら行うことが好ましく、少量の不活性ガス(一般的には窒素ガスを使用)でパージした状態で投入することがより好ましい。
【0054】
(3)の工程で行う解重合時の反応温度は、反応器の内温を245~280℃の範囲に設定して行うことが好ましく、中でも内温を255~280℃の範囲に設定して行うことがより好ましい。解重合時の反応温度が245℃未満になる場合には、反応物が固化し、操業性が悪化するとともに、再生ポリエステル樹脂が得られたとしても、ジエチレングリコールの含有量やカルボキシル末端基濃度が高くなりすぎる。反応温度が280℃を超える場合は、得られる再生ポリエステル樹脂のジエチレングリコールの含有量やカルボキシル末端基濃度が高くなりすぎる。
また、解重合の反応時間(リサイクルポリエステル原料の投入終了後からの反応時間)は、4時間以内が好ましく、ジエチレングリコールの副性量を抑えること、ポリエステルの色調悪化を抑える観点から、2時間以内とすることがより好ましい。
【0055】
(4)の工程においては、(3)の工程で解重合反応を行った解重合体を、濾過粒度10~25μmの金属製のフィルターを通過させて異物を濾過する。上記したように、(3)の工程の条件で解重合反応を行うことにより、各種の無機物のみならず、非ポリエステル樹脂由来の異物の析出が効率よく行われるため、濾過粒度10~25μmの金属製のフィルターを通過させることにより、析出した異物を濾過し、異物の混入量の少ない解重合体を得ることができる。
濾過粒度が25μmより大きい金属製のフィルターを使用すると、ポリマー中の異物を十分に除去できず、得られる再生ポリエステル樹脂中の異物が多くなる。このため、このような樹脂を用いて紡糸を行うと、ノズルパックの昇圧や切糸が生じる。一方、濾過粒度が10μmよりも小さい金属フィルターを使用すると、異物による目詰まりが生じやすく、フィルターライフが短くなることにより、コスト的に不利となり、また、操業性も悪化する。
【0056】
また、本発明の(4)の工程で使用できる金属製のフィルターとしては、一般的なもので特に問題ないが、スクリーンチェンジャー式のフィルターやリーフディスクフィルターやキャンドル型焼結フィルター等が挙げられる。
【0057】
そして、本発明の製造方法においては、(5)の工程として、上記の工程(4)を経て得られた異物濾過後の解重合体に、重合触媒を添加し、温度260℃以上、1.0hPa以下の減圧下で重縮合反応を行う。重合触媒としては、例えば、ゲルマニウム、アンチモン、チタン及びコバルト化合物等の1種以上を用いることができるが、好ましくはゲルマニウムまたはアンチモン化合物を使用する。さらに、得られる再生ポリエステル樹脂の透明性を重視する場合においては、ゲルマニウム化合物を使用することが好ましい。ゲルマニウムまたはアンチモンの化合物としては、それらの酸化物、無機酸塩、有機酸塩、ハロゲン化物、硫化物等が例示される。これらの重縮合触媒は、生成するポリエステル樹脂の酸成分1モルに対し5×10-5モル/unit以上とすることが好ましいが、中でも6×10-5モル/unit以上とすることがより好ましい。
なお、リサイクルポリエステル原料中に含まれる重合触媒も重縮合反応時に触媒として作用する場合もあるため、(4)の工程で重合触媒を添加する際には、リサイクルポリエステル原料中に含まれる重合触媒の量や種類を考慮することが好ましい。
【0058】
そして、重縮合反応槽において、温度260℃以上、1.0hPa以下の減圧下で重縮合反応を行う。重縮合反応温度が260℃未満であったり、重縮合反応時の圧力が1.0hPaを超えると、重縮合反応時間が長くなるため、生産性に劣るものとなる。
重縮合反応温度は、中でも270℃以上とすることがより好ましい。ただし、重縮合反応温度が高過ぎると熱分解によりポリマーが着色し、色調が悪化すること、同じく熱分解により末端基量(COOH)が高くなるため、本発明においては、重縮合反応温度の上限は、285℃以下とすることが好ましい。
【0059】
次に、本発明で用いる再生ポリエステル樹脂を含有する吸水剤、及び本発明のポリエステル系繊維織編物の製造方法を説明する。
【0060】
まず、本発明における吸水剤の製造方法について説明する。
本発明における吸水剤は本発明樹脂を含有する共重合ポリエステル樹脂や水溶性ポリエステル樹脂から構成されるが、共重合ポリエステル樹脂や水溶性ポリエステル樹脂の合成方法は特に制限はなく、前述したようにリサイクルポリエステル原料を用いて公知の方法を採用することで得ることができる。
得られた共重合ポリエステル樹脂や水溶性ポリエステル樹脂には、必要に応じて、芳香族化合物や乳化剤・分散剤等の界面活性剤等を添加することができる。
【0061】
次に、本発明のポリエステル系繊維織編物の製造方法について説明する。
本発明織編物は、ポリエステル系繊維を製織編して生機を得た後、染色加工及び前述のような吸水剤を用いて吸水加工することにより得ることができる。前述したように、本発明織編物はポリエステル系繊維を50質量%以上含むものであるが、環境面を考慮した場合、ポリエステル系繊維はリサイクルポリエステル原料を含むポリエステル樹脂で構成されたものであることが好ましい。リサイクルポリエステル原料は、a)使用済ポリエステル製品、b)ポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルのいずれであってもよい。
【0062】
本発明織編物は、製織編は、公知の織機、編機を用いて行えばよく、製織編に先立つ準備工程も公知の設備を使用すればよい。また、染色加工では、まず、生機を精練・リラックスする。精練・リラックスは、80~130℃の温度下で連続方式またはバッチ方式により行えばよい。通常は、100℃以下で行うのが好ましく、ジェットノズルを備えた高圧液流染色機や拡布精練機を用いて行うのが好ましい。
【0063】
精練・リラックスした後、織編物をプレセットすることが好ましい。プレセットは、通常、ピンテンターを用いて、170~200℃で30~120秒間乾熱処理する。プレセットを行うことによって目ヨレを防止することができ、耐水圧を高くすることに効果的である。生地の設計によっては、精練・リラックスの前にプレセットをしても構わない。プレセット後は常に基づいて染色、脱水、乾燥を行う。
【0064】
染色加工した後は、織編物を吸水加工する。吸水加工では、まず、前述したような再生ポリエステル樹脂を含有する吸水剤を含む水溶液を調製する。次に、パディング法、吸尽法、スプレー法、キスロールコータ法、スリットコータ法等のいずれかを採用し、上記後加工後の織編物に上記水溶液を付与し、105~190℃で30~150秒間乾熱処理すればよい。上記水溶液には、必要に応じて架橋剤、柔軟剤、帯電防止剤等を併せて含ませてもよい。
【実施例0065】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。実施例中の水溶性ポリエステル樹脂に関する各種の特性値等の測定、評価方法は次の通りである。
【0066】
(a)組成
重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比が1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA-400型NMR装置にて1H-NMRを測定し、得られたチャートの各成分のプロトンのピークの積分強度から、共重合成分の種類と含有量を求めた。
(b)カルボキシル末端基濃度
得られた再生ポリエステル樹脂0.1gをベンジルアルコール10mlに溶解し、この溶液にクロロホルム10mlを加えた後、1/10規定の水酸化カリウムベンジルアルコール溶液で滴定して求めた。
(c)昇圧試験機により測定した平均昇圧速度
前記の方法で測定した。
【0067】
〔水溶性ポリエステル樹脂の製造〕
水溶性ポリエステル樹脂A
エステル化反応器に、テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)のスラリー(TPA/EGモル比=1/1.6)を供給し、温度250℃及び圧力50hPaの条件で反応させ、エステル化反応率95%のエチレンテレフタレートオリゴマー(数平均重合度:5)を得た。
エチレンテレフタレートオリゴマー45.0質量部をエステル化反応器に仕込み、続いてエステル化反応器の撹拌機を回した状態でエチレングリコールを10.0質量部と数平均分子量6000のポリエチレングリコールを260質量部投入した。エステル化反応器(以後「ES缶」と表記する。)の内温降下が止まったところより、55.0質量部のリサイクルポリエステル原料(ポリエステル樹脂を製造する工程で発生するポリエステル屑のペレット状のもの)をロータリーバルブを介して約2時間かけて定量投入した。このとき、リサイクルポリエステル原料を、全グリコール成分/全酸成分のモル比(以下「G/A」と表記することがある。)が1.20となるように投入した。
その後、270℃の熱処理条件下で1時間解重合反応を行った。そして、得られた解重合体を、エステル化反応器と重縮合反応器との間に目開き20μmのキャンドルフィルターをセットして重縮合反応器(以後PC缶と表記)へ圧送した後、重合触媒として三酸化アンチモンを1.0×10-4mol/unitとなるよう加え、PC缶を減圧にして60分後に最終圧力0.5hPa及び温度275℃で4時間、溶融重合反応を行い、水溶性ポリエステル樹脂Aを得た。
【0068】
水溶性ポリエステル樹脂B
水溶性ポリエステル樹脂Aと同様にして、エステル化反応率95%のエチレンテレフタレートオリゴマー(数平均重合度:5)を得た。
エチレンテレフタレートオリゴマー30.0質量部をES缶に仕込み、続いてES缶の撹拌機を回した状態でエチレングリコールを7.0質量部と数平均分子量6000のポリエチレングリコールを260質量部投入した。ES缶の内温降下が止まったところより、70.0質量部のリサイクルポリエステル原料(実施例1と同様のもの)をロータリーバルブを介し約2時間かけて定量投入した。
このとき、リサイクルポリエステル原料をG/Aが1.10となるように投入した。その後、270℃の熱処理条件下で1時間解重合反応を行った。そして、得られた解重合体を、ES缶とPC缶との間に目開き20μmのキャンドルフィルターをセットしてPC缶へ圧送した後、重合触媒として三酸化アンチモンを1.0×10-4mol/unitとなるよう加え、PC缶を減圧にして60分後に最終圧力0.5hPa、温度275℃で5時間、溶融重合反応を行い、水溶性ポリエステル樹脂Bを得た。
【0069】
水溶性ポリエステル樹脂C
水溶性ポリエステル樹脂Aと同様にして、エステル化反応率95%のエチレンテレフタレートオリゴマー(数平均重合度:5)を得た。
エチレンテレフタレートオリゴマー30.0質量部をES缶に仕込み、続いてES缶の撹拌機を回した状態でエチレングリコール2.5質量部と数平均分子量6000のポリエチレングリコールを260質量部を投入した。ES缶の内温降下が止まったところより、70.0質量部のリサイクルポリエステルをロータリーバルブを介して約2時間かけて定量投入した。このとき、リサイクルポリエステル原料(実施例1と同様のもの)をG/Aが1.06となるように投入した。
その後、270℃の熱処理条件下で1時間解重合反応を行った。そして、得られた解重合体を、ES缶とPC缶との間に目開き20μmのキャンドルフィルターをセットしてPC缶へ圧送した後、重合触媒として三酸化アンチモンを1.0×10-4mol/unit、酢酸コバルトを0.5×10-4mol/unitとなるよう加え、PC缶を減圧にして60分後に最終圧力0.5hPa、温度275℃で4時間、溶融重合反応を行い、水溶性ポリエステル樹脂Cを得た。
【0070】
バージン水溶性ポリエステル樹脂
エステル化反応器に、テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)のスラリー(TPA/EGモル比=1/1.6)を供給し、温度250℃、圧力50hPaの条件で反応させ、エステル化反応率95%のエチレンテレフタレートオリゴマー(数平均重合度:5)を得た。
エチレンテレフタレートオリゴマー100.0質量部と数平均分子量6000のポリエチレングリコールを260質量部をPC缶に仕込み、重合触媒として三酸化アンチモンを1.0×10-4mol/unitとなるよう加え、PC缶を減圧にして60分後に最終圧力0.5hPa、温度275℃で3時間、溶融重合反応を行い、バージンポリエステル樹脂を得た。
【0071】
水溶性ポリエステル樹脂A~C及びバージン水溶性ポリエステル樹脂の特性値を表1に示す
【0072】
【0073】
表1から明らかなように、前述した工程(1)~(5)を順に行なって得られた水溶性ポリエステル樹脂A及びBは、カルボキシル末端基量、ジエチレングリコールの含有量が本発明で規定する範囲内のものであり、平均昇圧速度も低いものであった。
一方、水溶性ポリエステル樹脂Cでは、前述した工程(3)の解重合反応時のG/Aが低いため、カルボキシル末端基濃度が高く、平均昇圧速度も高いものであり、熱安定性に劣るものであった。
【0074】
次に、実施例中の吸水剤及び吸水剤を付与した織編物に関する各種の特性値等の測定、評価方法は以下の通りである。
【0075】
(d)吸水性
以下の手順に従って、吸水性を評価した。
20cm×20cmの本発明の織編物を試験片とし、試験片の吸水速度をJIS L-1907:2010の「7.1.1 滴下法」に規定されている方法により測定した。
(e)防汚性
試験片(実施例及び比較例で得られた織物)を、JIS L 1912:2012 C法の人工汚染剤(組成:オリーブ油61.7質量%、オレイン酸38.2質量%及びオイルレッド0.1質量%)2g/Lとノニオン系界面活性剤2g/Lの溶液中にて、浴比1:100とし、80℃浴中で5分間処理した。次いで、JIS L 0217 103法に従って織編物を1回洗濯し、乾燥した。その後、JIS L 0805の汚染用グレースケールを用いて、汚染レベルの等級を判定した。
【0076】
実施例1
(吸水剤)
得られた水溶性ポリエステル樹脂Aに乳化剤、分散剤、水を添加し、水溶性ポリエステル樹脂Aの含有量が10質量%の吸水剤Aを得た。
(織物)
経糸として総繊度167dtex/48フィラメントのポリエステル仮撚単糸を用い、緯糸として総繊度167dtex/48フィラメント2本からなるポリエステル仮撚双糸(344dtex/96フィラメント)を用い、経糸密度128本/2.54cm、緯糸密度58本/2.54cmの2/2綾織物の生機を製織した。
次に、液流染色機を使用して、上記のようにして得られた綾織物の生機を、日華化学社製の精練剤「サンモールFL(商品名)」を含む浴(浴比1:30)で、80℃で30分間精練した。その後、昭和化学工業株式会社製の蛍光染料「Hakkol STR(商品名)」を1.0%o.m.f、酢酸(48%)を0.2cc/L、及び上記で得られた吸水剤Aを3.0%o.m.f含む浴(浴比1:50)で、135℃で20分間の条件で処理し、水溶性ポリエステル樹脂Aの付着量が0.3質量%となるように綾織物に吸水加工及び染色加工を施した。その後、ピンテンターを使用して綾織物を170℃1分間で仕上げセットし、実施例1のポリエステル系繊維織物を得た。
【0077】
実施例2
(吸水剤)
実施例1と同様にして、織物に付与する吸水剤Aを得た。
(織物)
特願2020-059233の実施例1で得られた再生ポリエステル樹脂(リサイクルポリエステル原料の含有量:55質量%)をエクストルーダー型溶融紡糸機によって、樹脂温度290℃、濾過粒度20μmのフィルターを備えた紡糸ノズル(孔径0.25mm、孔数48ホール)より紡出し、3500m/分の紡糸速度で巻き取った。続いて、得られたPOYを供給糸とし、仮撚機を使用して延伸及び仮撚加工を施し、総繊度167dtex/48フィラメントのポリエステル仮撚単糸と総繊度167dtex/48フィラメント2本からなるポリエステル仮撚双糸(344dtex/96フィラメント)を得た。経糸として前記ポリエステル仮撚単糸を用い、緯糸として前記ポリエステル仮撚双糸を用いて、経糸密度128本/2.54cm、緯糸密度58本/2.54cmの2/2綾織物の生機を製織した。
次に、得られた綾織物に実施例1と同様にして吸水加工及び染色加工を施し、実施例2のポリエステル系繊維織物を得た。
【0078】
実施例3
(吸水剤)
吸水剤に含有する水溶性ポリエステル樹脂として、水溶性ポリエステル樹脂Bを用いた以外は実施例1と同様にして吸水剤Bを得た。
(織物)
実施例1と同様にして、織物を製織した。次いで、吸水剤として吸水剤Bを用いた以外は実施例1と同様にして織物に吸水加工及び染色加工を施し、実施例3のポリエステル系繊維織物を得た。
【0079】
実施例4
(吸水剤)
実施例3と同様にして、織物に付与する吸水剤Bを得た。
(織物)
実施例2と同様にして、織物を製織した。次いで、吸水剤として吸水剤Bを用いた以外は実施例1と同様にして織物に吸水加工及び染色加工を施し、実施例4のポリエステル系繊維織物を得た。
【0080】
比較例1
(吸水剤)
吸水剤に含有する水溶性ポリエステル樹脂として、水溶性ポリエステル樹脂Cを用いた以外は実施例1と同様にして吸水剤Cを得た。
(織物)
実施例1と同様にして、織物を製織した。次いで、吸水剤として吸水剤Cを用いた以外は実施例1と同様にして織物に吸水加工及び染色加工を施し、比較例1のポリエステル系繊維織物を得た。
【0081】
比較例2
(吸水剤)
比較例1と同様にして、織物に付与する吸水剤Cを得た。
(織物)
実施例2と同様にして、織物を製織した。次いで、吸水剤として吸水剤Cを用いた以外は実施例1と同様にして織物に吸水加工及び染色加工を施し、比較例2のポリエステル系繊維織物を得た。
【0082】
参考例1
(吸水剤)
吸水剤に含有する水溶性ポリエステル樹脂として、バージン水溶性ポリエステル樹脂を用いた以外は実施例1と同様にして吸水剤Dを得た。
(織物)
実施例1と同様にして、織物を製織した。次いで、吸水剤として吸水剤Dを用いた以外は実施例1と同様にして織物に吸水加工及び染色加工を施し、参考例1のポリエステル系繊維織物を得た。
【0083】
実施例1~2、比較例1~2、参考例1で得られた織物の特性値、物性等の結果を表2に示す。
【0084】
【0085】
表2から明らかなように、実施例1~4で得られた吸水剤は水溶性ポリエステル樹脂A又はBを含有するものであったため、バージンの水溶性ポリエステル樹脂を用いたものと同様に織編物に付着させることができた。そのため、実施例1~4で得られた織物は、吸水剤にバージン水溶性ポリエステル樹脂を用いたものと遜色がない、優れた吸水性及び防汚性を有するものであった。
一方、比較例1及び2で得られた吸水剤は、ポリエステル樹脂として熱安定性が不安定な水溶性ポリエステル樹脂Cを含有したものであったことにより、織編物の表面に十分に付着させることができなかったためと推定されるが、結果として、該吸水剤を付着させて得られた比較例1、2の織物は、吸水性及び防汚性ともに不十分なものであった。