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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149871
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 13/00 20060101AFI20220929BHJP
   B60C 15/06 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B60C13/00 G
B60C15/06 N
B60C13/00 E
B60C15/06 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052199
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋平
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BA03
3D131BB09
3D131BC13
3D131BC25
3D131GA19
3D131HA16
3D131HA24
3D131HA33
3D131HA45
(57)【要約】      (修正有)
【課題】リム組み時のビードトウの損傷を抑制しつつ、シビアな走行中でのリムずれを抑制するタイヤを提供する。
【解決手段】空気入りタイヤであって、トレッド部と、一対のサイドウォール部と、それぞれにビードコア5が埋設された一対のビード部4と、一対のビード部4の間に配されたトロイド状のカーカス6と、一対のサイドウォール部のそれぞれにおいて、カーカスのタイヤ軸方向外側に配されたサイドウォールゴム3Gとを備える。一対のビード部4のそれぞれは、リムRのビードシート面Rsに接触するビード底面40を備える。ビード底面40は、ビードトウBtを含むタイヤ軸方向の内側領域41と、ビードヒールBhを含むタイヤ軸方向の外側領域42とを含む。内側領域41は、キャンバスチェーファ45によって形成されている。外側領域42は、サイドウォール部からタイヤ半径方向内側に延在したサイドウォールゴム3Gによって形成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤであって、
トレッド部と、
一対のサイドウォール部と、
それぞれにビードコアが埋設された一対のビード部と、
前記一対のビード部の間に配されたトロイド状のカーカスと、
前記一対のサイドウォール部のそれぞれにおいて、前記カーカスのタイヤ軸方向外側に配されたサイドウォールゴムとを備え、
前記一対のビード部のそれぞれは、リムのビードシート面に接触するビード底面を備え、
前記ビード底面は、ビードトウを含むタイヤ軸方向の内側領域と、ビードヒールを含むタイヤ軸方向の外側領域とを含み、
前記内側領域は、キャンバスチェーファによって形成されており、
前記外側領域は、前記サイドウォール部からタイヤ半径方向内側に延在した前記サイドウォールゴムによって形成されている、
空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記内側領域のタイヤ軸方向の長さは、2mm以上である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記内側領域のタイヤ軸方向の長さは、前記ビードトウから前記ビードコアの中心までのタイヤ軸方向の長さをLc、前記ビードコアのタイヤ軸方向の幅をWbとしたときに、Lc+0.5Wb以下である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記キャンバスチェーファは、前記内側領域をタイヤ軸方向に延びる第1部分と、前記ビードトウからタイヤ半径方向外側に延びる第2部分とを含む、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記キャンバスチェーファは、前記外側領域において、前記サイドウォールゴムのタイヤ半径方向の外側に重ねられた第3部分を含む、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記キャンバスチェーファは、前記第3部分に連なって、タイヤ半径方向外側に延びる第4部分を含む、請求項5に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記サイドウォールゴムの複素弾性率が2~10MPaである、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記外側領域において、前記サイドウォールゴムの厚さが0.5~2.0mmである、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記一対のビード部のそれぞれには、前記サイドウォールゴムよりも複素弾性率が大きいクリンチゴムが配されており、
前記クリンチゴムは、前記サイドウォールゴムと、前記カーカスとの間に配された第1クリンチゴムを含む、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記一対のビード部のそれぞれには、前記サイドウォールゴムよりも複素弾性率が大きいクリンチゴムが配されており、
前記クリンチゴムは、前記内側領域において、前記キャンバスチェーファのタイヤ半径方向外側に重ねられた第2クリンチゴムを含む、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
前記サイドウォールゴムの複素弾性率E*sと、前記クリンチゴムの複素弾性率E*cとの比(E*s/E*c)は0.10~0.20以下である、請求項9又は10に記載の空気入りタイヤ。
【請求項12】
前記ビードコアのタイヤ半径方向の内側部分において、コンプレッションが10%~16%である、請求項1ないし11のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは、例えば、レース走行のように、高荷重や高シビアリティな状況で使用されると、リムに対して滑り(リムずれ)が発生することがある。
【0003】
従来、このようなリムずれを抑制するために、空気入りタイヤのビード底面に、特定の配合を有するゴムチェーファやクリンチゴムを配置することが提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-199465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、空気入りタイヤをリムに装着する際、ビード底面のタイヤ軸方向の内端であるビードトウは、リムと擦れ大きな力が加えられる。特に、サイド剛性が高められたレース車両用の空気入りタイヤではこの傾向が顕著である。そして、ビード底面がクリンチゴム等で構成された空気入りタイヤにあっては、リム組みの際に、ビードトウに欠けが生じやすく、ひいてはエアシール性が損なわるという問題があった。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、リム組み時のビードトウの損傷を抑制しつつ、シビアな走行でのリムずれを抑制することができる空気入りタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、空気入りタイヤであって、トレッド部と、一対のサイドウォール部と、それぞれにビードコアが埋設された一対のビード部と、前記一対のビード部の間に配されたトロイド状のカーカスと、前記一対のサイドウォール部のそれぞれにおいて、前記カーカスのタイヤ軸方向外側に配されたサイドウォールゴムとを備え、前記一対のビード部のそれぞれは、リムのビードシート面に接触するビード底面を備え、前記ビード底面は、ビードトウを含むタイヤ軸方向の内側領域と、ビードヒールを含むタイヤ軸方向の外側領域とを含み、前記内側領域は、キャンバスチェーファによって形成されており、前記外側領域は、前記サイドウォール部からタイヤ半径方向内側に延在した前記サイドウォールゴムによって形成されている。
【0008】
本発明の他の態様では、前記内側領域のタイヤ軸方向の長さは、2mm以上であっても良い。
【0009】
本発明の他の態様では、前記内側領域のタイヤ軸方向の長さは、前記ビードトウから前記ビードコアの中心までのタイヤ軸方向の長さをLc、前記ビードコアのタイヤ軸方向の幅をWbとしたときに、Lc+0.5Wb以下であっても良い。
【0010】
本発明の他の態様では、前記キャンバスチェーファは、前記内側領域をタイヤ軸方向に延びる第1部分と、前記ビードトウからタイヤ半径方向外側に延びる第2部分とを含んでも良い。
【0011】
本発明の他の態様では、前記キャンバスチェーファは、前記外側領域において、前記サイドウォールゴムのタイヤ半径方向の外側に重ねられた第3部分を含んでも良い。
【0012】
本発明の他の態様では、前記キャンバスチェーファは、前記第3部分に連なって、タイヤ半径方向外側に延びる第4部分を含んでも良い。
【0013】
本発明の他の態様では、前記サイドウォールゴムの複素弾性率が2~10MPaであっても良い。
【0014】
本発明の他の態様では、前記外側領域において、前記サイドウォールゴムの厚さが0.5~2.0mmであっても良い。
【0015】
本発明の他の態様では、前記一対のビード部のそれぞれには、前記サイドウォールゴムよりも複素弾性率が大きいクリンチゴムが配されており、前記クリンチゴムは、前記サイドウォールゴムと、前記カーカスとの間に配された第1クリンチゴムを含んでも良い。
【0016】
本発明の他の態様では、前記一対のビード部のそれぞれには、前記サイドウォールゴムよりも複素弾性率が大きいクリンチゴムが配されており、前記クリンチゴムは、前記内側領域において、前記キャンバスチェーファのタイヤ半径方向外側に重ねられた第2クリンチゴムを含んでも良い。
【0017】
本発明の他の態様では、前記サイドウォールゴムの複素弾性率E*sと、前記クリンチゴムの複素弾性率E*cとの比(E*s/E*c)は0.10~0.20以下であっても良い。
【0018】
本発明の他の態様では、前記ビードコアのタイヤ半径方向の内側部分において、コンプレッションが10%~16%であっても良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明の空気入りタイヤは、上記の構成を採用したことにより、リム組み時のビードトウの損傷を抑制しつつ、シビアな走行でのリムずれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態を示す空気入りタイヤの右半分断面図である。
図2図1のビード部の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1には、本実施形態の空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある。)1の断面図が示されている。図1において、タイヤ1は、正規状態とされている。
【0022】
[定義]
本明細書において、タイヤ1の「正規状態」とは、タイヤ1が正規リムRに組み込まれ、内圧が正規内圧に調整され、しかも、タイヤ1に荷重がかけられていない無負荷の状態を意味する。本明細書において、特に言及がない限り、タイヤ1の各部の寸法は、この正規状態で測定された値を意味する。
【0023】
本明細書において、「正規リム」とは、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えば、JATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0024】
本明細書において、「正規内圧」とは、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、例えば、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0025】
図1に示されるように、タイヤ1は、トレッド部2と、一対のサイドウォール部3と、それぞれにビードコア5が埋設された一対のビード部4と、タイヤ内腔面に配された空気非透過性のインナーライナーゴム10とを備える。なお、図1では、タイヤ1の右半分のみを示すが、その左半分も右半分と同様の構造を備える。
【0026】
本実施形態のタイヤ1は、例えば、高荷重や高シビアリティな状況で使用されるレース車両用タイヤが示されている。レース車両用タイヤは、サーキット走行を目的とした空気入りタイヤである。レース車両用タイヤは、タイヤの規格が存在していない場合がある。このような場合、当該タイヤの走行性能が最も適正に発揮されるであろうリム及び内圧が、それぞれ正規リム及び正規内圧として決められる。その際、タイヤメーカー等による推奨値やレースレギュレーション等が考慮され得る。
【0027】
本発明の他の形態では、タイヤ1は、例えば、乗用車用タイヤや小型トラック用の空気入りタイヤとして実施されても良い。
【0028】
また、タイヤ1は、一対のビード部4,4の間に配されたトロイド状のカーカス6と、カーカス6のタイヤ半径方向外側に配されたベルト層7とを備える。
【0029】
本実施形態において、カーカス6は、例えば、複数のカーカスコードがトッピングゴムで被覆された1ないし複数枚のカーカスプライ6Aを含む。カーカスコードは、例えば、タイヤ赤道Cに対して、例えば、80~90度の角度で配向されている。カーカスコードとしては、例えば、有機繊維コードが好適に使用される。
【0030】
カーカスプライ6Aは、例えば、一対のビードコア5の間を延びる本体部6aと、一対のビードコア5の周りをそれぞれタイヤ軸方向の内側から外側に折り返された一対の折返し部6bとを含む。好ましい態様として、各ビード部4には、本体部6aと折返し部6bとの間に、ビードコア5からタイヤ半径方向外側にテーパー状に延びる硬質ゴムからなるビードエーペックス8が配される。
【0031】
ベルト層7は、複数(本実施形態では2層)のベルトプライ7A、7Bから構成されている。各ベルトプライ7A、7Bは、タイヤ赤道Cに対して、例えば15~40度の角度で配向されたスチールコードを含む。このようなベルト層7は、カーカス6をタガ締めし、トレッド部2の剛性を高める。
【0032】
本実施形態のタイヤ1には、さらに、ベルト層7のタイヤ半径方向外側に、バンド層9が配されている。バンド層9は、1ないし複数枚のバンドプライを含む。各バンドプライは、タイヤ周方向に対して5°以下の角度で配向されたバンドコードを備える。バンドコードとしては、例えば、有機繊維コードが好適に使用される。
【0033】
本実施形態のバンドプライは、バンドコードがタイヤ周方向に螺旋状に巻きつけられたいわゆるジョイントレス構造を備える。また、本実施形態のバンド層9は、ベルト層7をその略全幅で覆うフルバンドプライ9Aと、ベルト層7のタイヤ軸方向の外端部のみを覆うエッジバンドプライ9Bとを含む。以上のようなバンド層9は、高速走行時のトレッド部2のせり上がりを抑制し、高速走行時の操縦安定性及び耐久性を向上させる。
【0034】
トレッド部2には、本実施形態では、バンド層9のタイヤ半径方向の外側にトレッドゴム2Gが配されている。トレッドゴム2Gは、少なくとも路面に接地する部分に配される。
【0035】
一対のサイドウォール部3のそれぞれにおいて、カーカス6のタイヤ軸方向外側には、サイドウォールゴム3Gが配されている。サイドウォールゴム3Gは、走行中のサイドウォール部3の屈曲性を維持するために、比較的柔らかいゴム材料で形成される。
【0036】
サイドウォールゴム3Gは、カーカス6に沿ってタイヤ半径方向に延びている。サイドウォールゴム3Gのタイヤ半径方向の外端は、トレッドゴム2Gに接続されている。サイドウォールゴム3Gのタイヤ半径方向の内端は、ビード部4へと延びている。これについては、後述する。
【0037】
図2には、図1のビード部4の部分拡大図を示す。
図2に示されるように、一対のビード部4のそれぞれは、ビード底面40を備える。ビード底面40は、正規リム(以下、単に「リム」という場合がある。)Rのビードシート面Rsに接触する部分である。本明細書において、リムRのビードシート面Rsは、図2に示されるように、リム径Drの位置よりもリム幅方向の内側部分でタイヤ半径方向内側からビード部4を支える部分を意味する。
【0038】
ビード底面40は、ビードトウBtを含むタイヤ軸方向の内側領域41と、ビードヒールBhを含むタイヤ軸方向の外側領域42とを含む。
【0039】
本明細書において、ビードトウBtは、ビード底面40においてタイヤ軸方向の最も内側の端を意味する。また、ビードヒールBhは、便宜上、リム径Drに対応するビード底面40の位置を意味する。
【0040】
本実施形態のタイヤ1は、ビード底面40の内側領域41は、キャンバスチェーファ45によって形成されている。また、外側領域42は、サイドウォール部3からタイヤ半径方向内側に延在したサイドウォールゴム3Gによって形成されている。そして、ビード底面40では、キャンバスチェーファ45とサイドウォールゴム3Gとが接続される界面Fが形成されている。
【0041】
キャンバスチェーファ45は、布をゴムで被覆した布・ゴム複合体であり、ゴム単体のいわゆるラバーチェーファに比べると、優れた耐外傷性を備える。本実施形態では、ビード底面40の内側領域41がキャンバスチェーファ45で形成されることにより、リム組み時等におけるビードトウBtの損傷が抑制される。したがって、本実施形態のタイヤ1は、ビードトウBtの損傷に起因したエアシール性の低下が抑制される。
【0042】
一方、キャンバスチェーファ45は、変形量が小さいことや布の一部が露出すること等から、ラバーチェーファに比べると、リムRのビードシート面Rsとの間の接触面積が低下する傾向がある。これは、リムずれを防ぐ観点では好ましくない。そこで、本実施形態のタイヤ1では、柔らかいサイドウォールゴム3Gを、ビード底面40の外側領域42に配置している。このような態様では、ビード底面40の外側領域42では、サイドウォールゴム3Gは、自らの圧縮変形によってリムRのビードシート面Rsと密着し、ひいてはビードシート面Rsとの接触面積が増加する。ゴムの摩擦係数は、圧力依存性があることから、上述のようなサイドウォールゴム3Gは、その接触面積の増加と圧力分布の均一化によって、ビード底面40とビードシート面Rsとの間に高い摩擦力を発生させ得る。
【0043】
以上のように、本実施形態のタイヤ1のビード底面40は、その内側領域41に耐外傷性に優れたキャンバスチェーファ45を、また、その外側領域42にビードシート面Rsとの間で高い摩擦力を発生させるサイドウォールゴム3Gをそれぞれ配置したことで、リム組み時のビードトウBtの損傷を抑制しながら、シビアな走行中でのリムずれを抑制することができる。
【0044】
また、本実施形態のタイヤ1では、外側領域42にサイドウォールゴム3Gを延在させて配置したことにより、上記の課題解決のために、新たなゴム部材を用いる必要がない。したがって、本実施形態のタイヤ1は、例えば、製造工程や部品点数を増加させることなく製造することが可能である。
【0045】
リム組み時のビードトウBtの損傷を抑制しながら、シビアな走行中でのリムずれを抑制するという上述の作用をより効果的に発現させるために、内側領域41のタイヤ軸方向の長さLiは、好ましくは2mm以上とされ、より好ましくは3mm以上とされる。
【0046】
一方、内側領域41のタイヤ軸方向の長さLiが大きくなると、ビード底面40における外側領域42のタイヤ軸方向の長さLoが小さくなり、ひいては、シビアな走行中でのリムずれ抑制効果が低下するおそれがある。このような観点では、内側領域41のタイヤ軸方向の長さLiは、例えば、ビードトウBtからビードコア5の中心5cまでのタイヤ軸方向の長さをLc、ビードコア5のタイヤ軸方向の幅をWbとしたときに、Lc+0.5Wb以下、より好ましくはLc+0.5Wb未満とされるのが望ましい。
【0047】
好ましい態様では、リムRのビードシート面Rsに対する接触圧が高くなるビードコア5のタイヤ半径方向の内側の領域(ビードコア5の幅Wbの内側の領域)に、サイドウォールゴム3Gの少なくとも一部を存在させることが望ましい。すなわち、ビードコア5のタイヤ半径方向の内側の領域に、前記界面Fが位置するのが望ましい。
【0048】
特に好ましい態様では、本実施形態のように、リムRのビードシート面Rsに対する接触圧が最も高くなるビードコア5の中心5cのタイヤ半径方向の内側の位置に、サイドウォールゴム3Gを存在させることが望ましい。これらにより、リムずれ抑制効果がさらに向上する。
【0049】
[キャンバスチェーファの実施形態]
本実施形態のキャンバスチェーファ45は、例えば、内側領域41をタイヤ軸方向に延びる第1部分45aと、ビードトウBtからタイヤ半径方向外側に延びる第2部分45bとを含む。このようなキャンバスチェーファ45は、ビードトウBtをタイヤ軸方向及びタイヤ半径方向の両方向から補強することができ、リム組時のビードトウBtの損傷がより一層確実に抑制される。
【0050】
本実施形態のキャンバスチェーファ45は、さらに、外側領域42において、前記サイドウォールゴムのタイヤ半径方向の外側に重ねられた第3部分45cを含んでも良い。第3部分45cは、第1部分45aと連続している。キャンバスチェーファ45の第3部分45cは、ビードコア5による締め付け力を、そのタイヤ半径方向内側に位置するサイドウォールゴム3Gに効果的に伝達し、ひいては、ビードシート面Rsに対する外側領域42の摩擦力をさらに高めるのに役立つ。
【0051】
本実施形態のキャンバスチェーファ45は、さらに、第3部分45cに連なって、タイヤ半径方向外側に延びる第4部分45dを含んでも良い。本実施形態の第4部分45dは、サイドウォールゴム3Gとカーカス6との間をタイヤ半径方向に延びている。このような第4部分45dは、ビード部4の曲げ剛性を高めるのに役立つ他、サイドウォールゴム3Gをリムフランジにも密着させ、ひいては、リムずれがさらに抑制され得る。
【0052】
[サイドウォールゴム]
サイドウォールゴム3Gの複素弾性率は、好ましくは10MPa以下、より好ましくは8MPa以下、さらに好ましくは6MPa以下とされる。このようなサイドウォールゴム3Gは、リム装着時、ビード底面40のビードシート面Rsとの間で十分に圧縮変形することが可能であり、ひいては、ビードシート面Rsとの間で高い摩擦力を発生させ、リムずれをより効果的に抑制することができる。
【0053】
一方、サイドウォールゴム3Gの複素弾性率が過度に小さくなると、タイヤ走行中に、外側領域42の変形量が大きくなり、ひいては操縦安定性が悪化するおそれがある。このような観点では、サイドウォールゴム3Gの複素弾性率は、好ましくは2MPa以上、より好ましくは3MPa以上、さらに好ましくは4MPa以上とされる。
【0054】
本明細書において、ゴムの複素弾性率は、対象部位から長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmの粘弾性測定用のゴムサンプルを採取し、GABO社製のイプレクサーシリーズを用いて、温度100℃、初期歪5%、動歪1%、周波数10Hz、伸長モードの条件下で測定されるものとする。サイドウォールゴム3Gの場合、ゴムサンプルの長辺が、タイヤ周方向となるように採取される。
【0055】
ビード底面40の外側領域42において、サイドウォールゴム3Gの厚さは、0.5~2.0mmの範囲とされるのが望ましい。サイドウォールゴム3Gの厚さが0.5mm以上とされることで、タイヤ半径方向においてサイドウォールゴム3Gの圧縮変形領域を十分に得ることができ、ビードシート面Rsとの間に高い摩擦力を生成することができる。また、サイドウォールゴム3Gの厚さが2.0mm以下とされることで、外側領域42での過度のゴム変形量を抑制し、操縦安定性の悪化が防止される。なお、上記のサイドウォールゴム3Gの厚さは、ビード底面40と直交する方向の厚さである。
【0056】
[クリンチゴム]
好ましい態様では、一対のビード部4のそれぞれには、サイドウォールゴム3Gよりも複素弾性率が大きいクリンチゴム4Gが配されても良い。
【0057】
本実施形態では、クリンチゴム4Gは、ビード部4において、サイドウォールゴム3Gとカーカス6との間に配された第1クリンチゴム4G1を含むことができる。第1クリンチゴム4G1は、サイドウォール部3からビード部4にかけて配されることにより、タイヤサイド部の曲げ剛性等を高める。したがって、本実施形態のタイヤ1は、レース車両用タイヤとして、優れた操縦安定性を発揮することができる。
【0058】
本実施形態では、クリンチゴム4Gとして、内側領域41において、キャンバスチェーファ45のタイヤ半径方向外側に重ねられた第2クリンチゴム4G2を含むことができる。本実施形態の第2クリンチゴム4G2は、キャンバスチェーファ45の第1部分45a及び第2部分45bに隣接して配されている。このような第2クリンチゴム4G2は、ビード部4のビードトウBt側をさらに効果的に補強することから、ビードトウBtの損傷がより一層抑制される。
【0059】
クリンチゴム4Gの複素弾性率は、サイドウォールゴム3Gの複素弾性率よりも大きければ特に限定されるものではない。好ましい態様では、タイヤ1の高速走行時の操縦安定性を損ねずに、リムずれ防止効果を発揮させるためには、内側領域41の剛性と外側領域42の剛性とを関連付け、これらの間に一定の剛性差を設けることが有効である。より具体的には、サイドウォールゴム3Gの複素弾性率E*sと、クリンチゴム4Gの複素弾性率E*cとの比(E*s/E*c)は、好ましくは0.20以下とされる。他方、サイドウォールゴム3Gの複素弾性率E*sと、クリンチゴム4Gの複素弾性率E*cとの比が過度に小さくなると、高速走行時の操縦安定性とリムずれ防止効果との両立が困難なおそれがある。このような観点では、前記比(E*s/E*c)は、好ましくは0.10以上とされる。
【0060】
[コンプレッション]
好ましい態様では、ビードコア5のタイヤ半径方向の内側部分において、コンプレッションが10%~16%であるのが望ましい。本明細書において、前記コンプレッションは、ビードコア5のタイヤ半径方向内側に位置するコア下部分46の厚さを、リム組み前の厚さで除した値である。本明細書では、コンプレッションは、便宜上、ビードコア5の中心5cを通るタイヤ半径方向線CL上で特定されるものとする。
【0061】
ゴムの静止摩擦係数は、上述の通り圧力依存性がある。したがって、コア下部分46の圧力を最適化することで、摩擦力を最大にすることができる。種々の実験の結果、本発明のタイヤ1のビード構造を前提とした場合、リム組時のコア下部分46のコンプレッションが10%~16%のときに、ビードシート面Rsとの間に摩擦力が最大化され、ひいてはより高いリムずれ抑制効果が得られる。
【0062】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な開示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、種々変更して実施することができる。
【実施例0063】
以下、本発明のより具体的かつ非限定的な実施例が説明される。
図1及び図2に示した基本構造を有するレース車両用の空気入りタイヤが試作され、以下のテストが行われた。また、比較のために、ビード底面の全域がキャンバスチェーファで形成された比較例1、及び、ビード底面の全域がラバーチェーファで形成された比較例2についても同様のテストが行われた。
【0064】
[耐ビードトウ損傷性]
試作タイヤをリムへ装着した後、再び取り外す作業を繰り返し3回行い、ビードトウを含むビード部の損傷の有無が確認された。表1において、結果は、損傷がなかった場合を100とする評点であり、損傷があったものについては、損傷度合いに応じた点数を100から減点した。
【0065】
[操縦安定性]
試作タイヤを、リムずれ防止剤を塗布することなく、リム(サイズ:18×13.0J)に装着し、このタイヤに空気を充填して、内圧が180kPaに調整された。このタイヤ・リム組立体は、レース用車両(FIA-GT3車両)の全輪に装着された。そして、プロドライバーがこの車両をレーシングサーキットで全開走行させ、ドライバーの官能により操縦安定性が評価された。表1において、結果は評点で示されており、数値が大きいほど良好であることを示す。
【0066】
[耐リムずれ性能]
上記操縦安定性の試験走行後、タイヤとリムとのタイヤ周方向のずれ量が測定された。測定は、予めリムとタイヤとにマーキングし、走行後のそれらのマーキングの位置ずれ量が測定された。表1において、結果は、指標で表示されており、数値が大きいほど良好であることを示す。
テストの結果が、表1に示される。
【0067】
【表1】
【0068】
表1から明らかなように、実施例のタイヤは、比較例1及び2のタイヤに比べて、リム組み時のビードトウの損傷を抑制しつつ、シビアな走行中でのリムずれを抑制することができることが確認できた。
【0069】
次に、本発明タイヤについて、タイヤの仕様を変えて同様のテストが行われた(実施例1ないし8)。テストの結果が、表2に示される。
【0070】
【表2】
【0071】
表2から明らかなように、実施例1ないし8のタイヤは、良好な性能を発揮していることが確認できる。
【0072】
さらに、本発明タイヤについて、コンプレッションを変えて同様のテストが行われた(実施例9ないし11)。テストの結果が、表3に示される。
【0073】
【表3】
【0074】
表3から明らかなように、実施例9ないし11のタイヤは、良好な性能を発揮していることが確認できる。
【符号の説明】
【0075】
1 タイヤ
2 トレッド部
3 サイドウォール部
3G サイドウォールゴム
4 ビード部
4G クリンチゴム
4G1 第1クリンチゴム
4G2 第2クリンチゴム
5 ビードコア
40 ビード底面
41 内側領域
42 外側領域
45 キャンバスチェーファ
45a 第1部分
45b 第2部分
45c 第3部分
45d 第4部分
Bt ビードトウ
Bh ビードヒール
R リム
Rs ビードシート面
図1
図2