(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149872
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
A61F 13/511 20060101AFI20220929BHJP
A61F 13/539 20060101ALI20220929BHJP
A61F 13/533 20060101ALI20220929BHJP
A61F 13/534 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
A61F13/511 300
A61F13/539
A61F13/533 100
A61F13/534
A61F13/511 400
A61F13/511 100
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052200
(22)【出願日】2021-03-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長島 啓介
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 湧太
【テーマコード(参考)】
3B200
【Fターム(参考)】
3B200BA05
3B200BB03
3B200DB05
3B200DC01
3B200DC04
3B200DC07
3B200EA24
(57)【要約】
【課題】表面シートに液が残りにくい上に、表面シートから液を素早く吸収体へと移行させることのできる、吸収性物品を提供すること。
【解決手段】本発明の吸収性物品は、液透過性の表面シート10と吸収体40との間に、表面シート10の非肌当接面側に隣接させて不織布製の中間シート30が配されており、表面シート10は、肌当接面側に配される上層と、非肌当接面側に配される下層とを備え、上層は、水との接触角が互いに異なる複数種の繊維を含んで構成されており、上層を構成する繊維の水との接触角が下層を構成する繊維の水との接触角よりも大きく、中間シート30は、エンボス部を有し、中間シート30の方が表面シート10よりもエンボス部15,31の面積率が大きく、中間シート30を構成する繊維の水との接触角が表面シート10を構成する繊維の水との接触角よりも大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液透過性の表面シート、裏面シート並びに該表面シート及び該裏面シートの間に位置する吸収体を有し、着用者の前後方向に対応する長手方向と該長手方向に直交する幅方向とを有する吸収性物品であって、
前記表面シートは、肌当接面側に配される上層と、非肌当接面側に配される下層とを備えており、
前記上層は、水との接触角が互いに異なる複数種の繊維を含んで構成されており、
前記上層を構成する繊維の水との接触角が、前記下層を構成する繊維の水との接触角よりも大きく、
前記表面シートと前記吸収体との間に、該表面シートに隣接させて不織布製の中間シートが配されており、
前記中間シートは、エンボス部を有し、前記中間シートの方が、前記表面シートよりも、シートの面積に対するエンボス部の合計面積の割合であるエンボス部の面積率が大きく、
前記中間シートを構成する繊維の水との接触角が、前記表面シートを構成する繊維の水との接触角よりも大きい、吸収性物品。
【請求項2】
前記上層は熱伸長性繊維を含む繊維集合体であり、
前記下層は熱伸長性繊維を含まないか、又は熱伸長性繊維を前記上層よりも低い質量割合で含む繊維集合体である、請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記上層は、水との接触角が互いに異なる複数種の繊維として、熱伸長性繊維と非熱伸長性の熱融着性繊維を含んでおり、
前記熱伸長性繊維の方が、前記非熱伸長性の熱融着性繊維よりも前記接触角が大きい、請求項1又は2に記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記上層を構成する各繊維の水との接触角がいずれも、前記下層を構成する繊維の水との接触角よりも大きい、請求項1~3のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記中間シートを構成する繊維の水との接触角が、前記表面シートの前記上層を構成する繊維の水との接触角よりも大きい、請求項1~4のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記水との接触角が、前記表面シートの前記下層を構成する繊維、前記表面シートの前記上層を構成する繊維、前記中間シートを構成する繊維の順に大きくなっている、請求項1~5のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【請求項7】
前記表面シートが、前記上層と前記下層とを互いに結合しているエンボス部を有し、該中間シートの方が、該表面シートよりも、前記エンボス部の面積率が大きい、請求項1~6のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【請求項8】
前記表面シートの構成繊維及び前記中間シートの構成繊維が、それぞれ、無機フィラーを繊維中に0.5質量%以上10質量%以下含んでいる、請求項1~7のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【請求項9】
前記表面シートと前記中間シートが、該表面シートと該中間シートとが一体的に圧搾された圧搾部又は接着剤により互いに接合されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
生理用ナプキン、失禁パット、パンティライナー等の、身体から排出される液の吸収に用いられる吸収性物品の肌当接面を形成する表面シートには、べたつきの抑制等の観点から、表層に液が残りにくいことが要求される。
表層に液が残りにくい表面シートとして、上層及び下層の二層構造の不織布からなる表面シートが知られている。
例えば、特許文献1には、肌と対向する第1繊維層と、第1繊維層に隣接する第2繊維層を有する吸収性物品用不織布を吸収性物品用表面シートとして用いることが記載されている。
また表面シートの下に、該表面シートに隣接させて、サブレイヤー、セカンドシートとも呼ばれる不織布製の中間シートを配することも行われている。斯かる中間シートは、平面方向への液の拡散性を向上させること等を目的として配されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
二層構造の表面シートにおいては、上層と下層との間に親水度勾配を設け、上層の繊維層よりも下層の繊維層の親水度を高めることで、下層への液の移行が促進され、表面シートの上層に液が残りにくくなる。より一層、表面シートの表面がべたつかないようにするためには、表面シートの上層のみならず、表面シートの全体から吸収体へと液を素早く移行することが望まれる。
【0005】
したがって、本発明は、表面シートに液が残りにくい上に、表面シートから液を素早く吸収体へと移行させることのできる、吸収性物品を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、液透過性の表面シート、裏面シート並びに該表面シート及び該裏面シートの間に位置する吸収体を有し、着用者の前後方向に対応する長手方向と該長手方向に直交する幅方向とを有する吸収性物品に関する。前記表面シートは、肌当接面側に配される上層と、非肌当接面側に配される下層とを備えていることが好ましい。前記上層は、水との接触角が互いに異なる複数種の繊維を含んで構成されていることが好ましい。前記上層を構成する繊維の水との接触角が、前記下層を構成する繊維の水との接触角よりも大きいことが好ましい。前記表面シートと前記吸収体との間に、該表面シートに隣接させて不織布製の中間シートが配されていることが好ましい。前記中間シートは、エンボス部を有し、前記中間シートの方が、前記表面シートよりも、シートの面積に対するエンボス部の合計面積の割合であるエンボス部の面積率が大きいことが好ましい。前記中間シートを構成する繊維の水との接触角は、前記表面シートを構成する繊維の水との接触角よりも大きいことが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の吸収性物品によれば、表面シートから液を素早く吸収体へと移行させることができ、表面シートに液を残りにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の吸収性物品に用い得る表面シートの一例の断面模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の吸収性物品に用い得る表面シートの一例を肌当接面側から視た状態を示す平面模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の吸収性物品に用い得る表面シートの一例の製造方法を示す模式図である。
【
図4】
図4は、本発明の吸収性物品の一実施形態の排泄部対向部の幅方向に沿う断面模式図である。
【
図5】
図5は、本発明に吸収性物品に用い得る中間シートの一例を示す図であり、(a)は平面模式図、(b)は(a)のIII-III線断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
本発明の吸収性物品は一般に、着用者の腹側から股間部を介して背側に延びる方向に相当する長手方向と、これに直交する幅方向とを有する縦長の形状をしている。そして吸収性物品は、着用者の股間部に配される股下部並びにその前後に延在する前方部及び後方部を有する。股下部は、吸収性物品の着用時に、着用者の膣口等の排泄部に対向配置される排泄部対向部を含む排泄部対向領域を有しており、該排泄部対向領域は例えば、吸収性物品の長手方向の中央部及び幅方向の中央部並びにその近傍に位置している。
【0010】
吸収性物品は一般に、着用者の肌当接面側に位置する表面シートと、非肌当接面側に位置する裏面シートと、表面シート及び裏面シートの間に介在配置された吸収体とを備える。表面シートとしては、液透過性を有するシート、例えば不織布や穿孔フィルムなどを一枚又は複数枚用いることができる。表面シートは、その肌当接面側が凹凸形状になっていてもよい。例えば表面シートの肌当接面側に、散点状に複数の凸部を形成することができる。あるいは、表面シートの肌当接面側に、一方向に延びる畝部と溝部とを交互に形成することができる。そのような目的のために、二枚以上の不織布を剥離可能に又は剥離不能に積層して形成した複層シートを用いて表面シートを形成することもできる。表面シートに凹凸形状又は畝溝形状を形成する場合、凸部又は畝部は中実構造であってもよく、中空構造であってもよい。
【0011】
一方、裏面シートとしては、例えば液難透過性又は液不透過性のフィルムやスパンボンド・メルトブローン・スパンボンド不織布などを用いることができる。液難透過性又は液不透過性のフィルムに、複数の微細孔を設け、該フィルムに水蒸気透過性を付与してもよい。吸収性物品の肌触り等を一層良好にする目的で、裏面シートの外面に不織布等の風合いの良好なシートを積層してもよい。
【0012】
吸収体は、吸収性コアを備えている。吸収性コアは、例えばパルプをはじめとするセルロース等の親水性繊維の積繊体、該親水性繊維と吸収性ポリマーとの混合積繊体、吸収性ポリマーの堆積体、二枚の吸収性シート間に吸収性ポリマーが担持された積層構造体などから構成される。吸収性コアは、少なくともその肌当接面が液透過性のコアラップシートで覆われていてもよく、肌当接面及び非肌当接面を含む表面の全域がコアラップシートで覆われていてもよい。コアラップシートとしては、例えば親水性繊維からなる薄葉紙や、液透過性を有する不織布などを用いることができる。
【0013】
本明細書において、「肌当接面」は、吸収性物品又はその構成部材(例えば吸収体)における、吸収性物品の着用時に着用者の肌側に向けられる面、すなわち相対的に着用者の肌に近い側であり、「非肌当接面」は、吸収性物品又はその構成部材における、吸収性物品の着用時に肌側とは反対側、すなわち相対的に着用者の肌から遠い側に向けられる面である。なお、ここでいう「着用時」は、通常の適正な着用位置、すなわち当該吸収性物品の正しい着用位置が維持された状態を意味する。
【0014】
上述の表面シート、裏面シート及び吸収体に加え、吸収性物品の具体的な用途に応じ、肌当接面側の長手方向に沿う両側部に、長手方向に沿って延びる防漏カフが配される場合がある。防漏カフは一般に、基端部と自由端とを備えている。防漏カフは、吸収性物品の肌当接面側に基端部を有し、肌当接面側から起立している。防漏カフは、液抵抗性ないし撥水性で且つ通気性の素材から構成されている。防漏カフの自由端又はその近傍には、糸ゴム等からなる弾性部材を伸長状態で配してもよい。吸収性物品の着用状態においてこの弾性部材が収縮することによって、防漏カフが着用者の身体に向けて起立するようになり、表面シート上に排泄された液が、表面シート上を伝い吸収性物品の幅方向外方へ漏れ出すことが効果的に阻止される。また、吸収性物品は更に、非肌当接面の表面に粘着剤層を有していてもよい。粘着剤層は、吸収性物品の着用状態において、該吸収性物品を、下着や別の吸収性物品に固定するために用いられる。
【0015】
本発明の吸収性物品に用いられる表面シートの好ましい一例について
図1及び
図2を参照しながら説明する。
図1及び
図2に示す表面シート10は、上層11と、下層12とを備える液透過性且つ二層構造のシートである。表面シート10は、上層11が着用者の肌と当接する面である肌当接面側に配され、下層12が肌当接面とは反対側の面である非肌当接面側に配される。下層12は、表面シート10の非肌当接面側に隣接配置される中間シート30に当接した状態に配される(
図4参照)。
【0016】
図1に示すように、表面シート10は、境界面Fによって区分された上層11と下層12とを有する。同図に示す上層11と下層12とは、両層11,12が互いに接合された固着部15と、上層11と下層12とが固着部15によって接合されていない非固着部16とを有している。非固着部16には上層11と下層12との境界面Fが存在するが、固着部15には境界面Fが存在していない。本実施形態における固着部15は、上層11を構成する繊維集合体と、下層を構成する繊維集合体とを積層して積層体とし、その積層体にエンボス加工を施して形成されており、該固着部15が、表面シート10についてのエンボス部である。
【0017】
図1に示すように、上層11と下層12とを互いに接合する固着部15が形成されている場合、表面シート10は、上層11の肌当接面側が凹凸形状をなしている。表面シート10における固着部15には、上層11及び下層12それぞれに凹部17が形成されている。上層11の肌当接面における凹部17どうしの間は凸部18となっている。後述するとおり、凸部18は凹部17を構成する固着部15に囲まれた領域に存在している。
【0018】
図2に示すように、表面シート10は、固着部15として、X方向に対して互いに逆向きに傾斜した、固着部15を含んで構成される第1固着部列L1及び第2固着部列L2を有していることが好ましい。
図2に示す第1固着部列L1及び第2固着部列L2はそれぞれ、互いに平行に多数本形成されており、それぞれ、隣接する固着部列間の間隔が広い箇所と該間隔が狭い箇所とを交互に有している。
図2に示す第1固着部列L1及び第2固着部列L2を構成する固着部15は、不連続線となっている。
【0019】
第1固着部列L1及び第2固着部列L2において固着部15が形成されている部位は、各固着部列に沿って延びるように溝状の凹部17が複数形成されている。固着部15に囲まれた領域には、面積がそれぞれ異なる三種類の凸部18a,18b,18cが肌当接面側に突出するように形成されている。各凸部18a,18b,18cはそれぞれ、凸部の高さが異なっていてもよく、同じであってもよい。同図に示す第1凸部18a及び第3凸部18cは、いずれも菱形状であり、第1凸部18aは、第3凸部18cと比較して平面視面積が大きい。第2凸部18bは、平面視して平行四辺形状をなしており、第1凸部18aと第3凸部18cの中間の平面視面積を有している。固着部15はいずれも凹部17となっており、他の各凸部18a,18b,18cよりも厚みが薄い部位である。
図2に示す表面シート10は、固着部15で囲まれた、面積の異なる区画内に平面視面積の異なる凸部18a,18b,18cが形成されていることにより、表面シート10上に排泄された体液が一方向に拡散されにくくなるので好ましい。また、
図2に示す表面シート10では、固着部15で囲まれた領域のうち、最も大きな平面視面積を有する菱形状の区画が、この区画よりも小さい平面視面積を有する2種類の大きさの区画で囲まれているので、
図2に示す表面シート10を備える吸収性物品を着用したときに、着用者の肌で、最も大きな区画内に存在する第1凸部18aが潰れても、その周囲の小さい区画に存在する第2及び第3凸部18b,18cが残って体液の拡散を規制するのでより好ましい。
【0020】
表面シート10の上層11は、熱伸長性繊維を含む繊維集合体から構成されている。上層11は、熱伸長性繊維のみから構成されていてもよく、熱伸長性繊維に加えて、熱伸長性繊維とは別の第2繊維を更に含んでいてもよい。第2繊維の詳細は後述する。
【0021】
熱伸長性繊維としては、例えば加熱により樹脂の結晶状態が変化して伸長する繊維や、あるいは捲縮加工が施された繊維であって捲縮が解除されて見かけの長さが伸びる繊維が挙げられる。上層11に熱伸長性繊維を含むことによって、熱伸長性繊維の伸長に起因して、上層11及び表面シート10が嵩高く且つ立体的となり、良好な外観を呈することができる。
【0022】
好ましい熱伸長性繊維としては、第1樹脂成分と、第1樹脂成分の融点より低い融点又は軟化点を有する第2樹脂成分とからなり、第2樹脂成分が繊維表面の一部又は全体に連続して存在する複合繊維が挙げられる。また、熱伸長時に他の繊維との熱融着が起こる繊維であることも好ましい。熱伸長性繊維における第1樹脂成分は、典型的には繊維の熱伸長性を発現する成分であり、第2樹脂成分は、典型的には熱融着性を発現する成分である。このような成分で構成された繊維は、第1樹脂成分の融点よりも低い温度を付与することによって、伸長可能に構成されている。
【0023】
このような熱伸長性繊維としては、例えば特開2004-218183号公報、特開2005-350836号公報、特開2007-303035号公報、特開2007-204899号公報、特開2007-204901号公報及び特開2007-204902号公報、又は特開2008-101285号公報等に記載の繊維を用いることができる。
【0024】
詳細には、第1樹脂成分としては、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン樹脂を除く)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル系樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
また、第2樹脂成分としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、及び直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等のポリエチレン樹脂が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。またポリエチレン樹脂に加えて、PP、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)等の他の樹脂を混合して用いてもよい。繊維どうしが熱融着した熱接着点を形成して、嵩高で、且つ風合い及び強度に優れた表面シートを得る観点から、第2樹脂成分としてポリエチレン樹脂のみを用いることが好ましい。
【0026】
第1樹脂成分と第2樹脂成分との組み合わせとしては、第1樹脂成分としてPP又はPETを用い、第2樹脂成分としてHDPEを用いることが、熱融着性が付与された熱伸長性繊維が容易に得られる点で好ましい。
【0027】
第1樹脂成分及び第2樹脂成分の融点は、示差走査型熱量計(セイコーインスツルメンツ株式会社製DSC6200)を用いて測定する。細かく裁断した繊維試料(サンプル質量2mg)の熱分析を昇温速度10℃/minで行い、各樹脂の融解ピーク温度を測定する。融点は、その融解ピーク温度で定義される。樹脂成分の融点がこの方法で明確に測定できない場合、この樹脂を「融点を持たない樹脂」と定義する。この場合、樹脂成分の分子の流動が始まる温度として、繊維の融着点強度が計測できる程度に樹脂どうしが融着する温度を軟化点とする。
【0028】
熱伸長性繊維は、第1樹脂成分と第2樹脂成分とを含む好適な態様において、第2樹脂成分の融点又は軟化点よりも10℃高い温度での熱伸長率が、好ましくは0.5%以上、より好ましくは3%以上、更に好ましくは5%以上であり、好ましくは20%以下である。
【0029】
繊維の熱伸長率は、例えば以下の方法で測定することができる。測定装置として、セイコーインスツルメンツ株式会社製の熱機械的分析装置TMA/SS6000を用いる。試料として、繊維長さが10mm以上の繊維を、繊維長さ10mm当たりの合計質量が0.5mgとなるように複数本採取したものを用意する。これらの繊維を平行に並べた後、繊維がたるまないように、繊維の両端を前記装置のチャックに装着する。チャック間の距離は、10mmに設定する。そして、測定開始温度を25℃とし、0.73mN/dtexの一定荷重を繊維長さ方向に負荷した状態で5℃/minの昇温速度で昇温させる。その際の繊維の伸び量を測定し、第2樹脂成分の融点又は軟化点より10℃高い温度での伸び量C(mm)を測定する。伸び量C(mm)は、測定後の繊維長さから測定前の繊維長さを差し引くことで算出することができる。
繊維の熱伸長率(%)は、「(C[mm]/チャック間距離[mm])×100」から算出する。
【0030】
表面シート10の下層12は、上述した熱伸長性繊維を含まないか、又は熱伸長性繊維を上層11よりも低い質量割合で含む繊維集合体から構成されている。詳細には、下層12は、熱伸長性繊維以外の他の繊維のみで構成されているか、熱伸長性繊維に加えて、他の繊維を含んで構成されている。
表面シート10の上層11が熱伸長性繊維を含む繊維集合体であり、表面シート10の下層は熱伸長性繊維を含まないか、又は熱伸長性繊維を前記上層よりも低い質量割合で含む繊維集合体であることによって、表面シート10に液が一層残りにくくなる。すなわち、表面シート10の表面に液が残りにくく、液吸収後であっても肌触りが良好な吸収性物品用表面シートが提供される。
【0031】
表面シート10は、上層11を構成する繊維の水との接触角が、下層12を構成する繊維の水との接触角よりも大きくなるように構成されている。繊維の水との接触角は、繊維の親水性の指標の一つであり、繊維の水との接触角が小さいほど親水性が高いことを示す。すなわち、表面シート10は、下層12の構成繊維が、上層11の構成繊維よりも親水性が高くなるように構成されている。
【0032】
上層11を構成する繊維の水との接触角は、下層12を構成する繊維の水との接触角よりも大きくなることを条件として、好ましくは60°以上、より好ましくは65°以上、更に好ましくは70°以上であり、また、好ましくは95°以下、より好ましくは90°以下、更に好ましくは85°以下である。同様に、下層12を構成する繊維の水との接触角は、好ましくは55°以上、より好ましくは60°以上、更に好ましくは65°以上であり、また、好ましくは90°以下、より好ましくは85°以下、更に好ましくは80°以下である。繊維の水との接触角は、例えば繊維の原材料を変更したり、繊維表面に親水化処理又は疎水化処理を施したりすることによって適宜調整することができる。繊維の水との接触角を上述の範囲に調整することによって、上層11と下層12との間に、下層12の親水性が上層11よりも大きい親水勾配ができるので、上層11側に排泄された体液を、親水性の高い下層12側に浸透させやすくすることができる。
【0033】
〔水との接触角の測定方法〕
繊維の水との接触角は、例えば以下の方法で測定することができる。すなわち、表面シート10を構成する上層11の外面(肌当接面)に位置する繊維と、下層12の外面(非肌当接面)に位置する繊維とを、繊維長1mmとなるようにそれぞれ裁断して測定サンプルとし、これらの測定サンプルに対する水の接触角を測定する。測定装置として、協和界面科学株式会社製の自動接触角計MCA-Jを用いる。接触角の測定には蒸留水を用いる。
測定サンプルを接触角計のサンプル台に載せて、水平に維持する。インクジェット方式水滴吐出部(クラスターテクノロジー社製、吐出部孔径が25μmのパルスインジェクターCTC-25)から吐出される液量を10ピコリットルに設定して、測定サンプルの繊維の真上に水滴を滴下する。滴下の様子を水平に設置されたカメラに接続された高速度録画装置に録画する。録画装置は後に画像解析や画像解析をする観点から、高速度キャプチャー装置が組み込まれたパーソナルコンピュータが望ましい。本測定では、17msec毎に画像が録画される。録画された映像において、不織布から取り出した繊維に水滴が着滴した最初の画像を、付属ソフトFAMAS(ソフトのバージョンは2.6.2、解析手法は液滴法、解析方法はθ/2法、画像処理アルゴリズムは無反射、画像処理イメージモードはフレーム、スレッシホールドレベルは200、曲率補正はしない、とする)にて画像解析を行い、水滴の空気に触れる面と繊維のなす角を算出し、接触角とする。測定サンプル1本につき異なる2箇所の接触角を測定する。
上層11の肌当接面に位置する繊維から得た5本の測定サンプル(N=5本)の接触角を小数点以下1桁まで計測し、合計10箇所の測定値を算術平均した値(小数点以下第2桁で四捨五入)を、表面シートの上層を構成する繊維の水との接触角と定義する。下層12の非肌当接面に位置する繊維から得た5本の測定サンプル(N=5本)の接触角を小数点以下1桁まで計測し、合計10箇所の測定値を算術平均した値(小数点以下第2桁で四捨五入)を、表面シートの下層を構成する繊維の水との接触角と定義する。上層11と下層12との境界は、例えば、表面シート10の上層11及び下層12の各繊維集合体の存在領域を、各繊維の接触角によって画定し、繊維の接触角が異なる境界を境界面Fとすることができる。
【0034】
図1に示すように、表面シート10の上層11は、上述した繊維の水との接触角が互いに異なる複数種の繊維を含んで構成されている。例えば、上層11は、熱伸長性繊維と、該熱伸長性繊維とは別の第2繊維とを含み、各繊維の親水性が異なるように構成された繊維集合体であることが好ましい。
上層11を構成する繊維の方が、水との接触角が、下層12を構成する繊維よりも大きいことによって、表面シート10の表層での液残りを一層軽減させることができるという利点がある。また、表面シート10の上層11を構成する繊維が、水との接触角が互いに異なる複数種の繊維を含んでいることによって、液が表面シート10上を拡散することを抑制しながら、液が表面シート10の厚み方向へ透過しやすくなるため、より一層表面シート10に液が残りにくいという利点がある。
なお、上層11を構成する繊維が異なる接触角を有する複数種の繊維を含んで構成される場合には、本発明の効果を一層発現しやすくする観点より、上層11が、下層12を構成する繊維よりも水との接触角が大きい繊維を、50%以上含むことが好ましく、90%以上含むことがより好ましい。
【0035】
上層11を構成する繊維のうち、下層12を構成する繊維よりも水との接触角が大きい繊維の含有率は、以下の方法により測定することができる。
〔上層を構成する繊維のうち、下層を構成する繊維よりも水との接触角が大きい繊維の含有率の測定方法〕
表面シート10を肌当接面側から視た平面視において、排泄部対向領域から所定の範囲(例えば、3cm×3cmの正方形で囲まれる範囲)を決め、上層の肌当接面から厚さ方向に1mmの範囲に含まれる繊維5本と、下層に含まれる繊維5本を取り出す。各々の繊維について上述の〔水との接触角の測定方法〕記載の方法にて水との接触角を測定する。
測定サンプル1本につき異なる6箇所の接触角を測定する。上層11に含まれる繊維を各々測定した合計30箇所の水との接触角と、下層12に含まれる繊維を各々測定した合計30箇所の水との接触角との大小を比較する。
具体的には、上層11から取り出した繊維の水との接触角(各N=30)を大きい順に並べる。同様に、下層12から取り出した繊維の水との接触角(各N=30)を大きい順に並べる。「上層11を構成する繊維のうち、下層12を構成する繊維よりも水との接触角が大きい繊維の含有率」の算出方法は以下のとおりである。
上層11から取り出した繊維の水との接触角と、下層12から取り出した繊維の水との接触角とを比較し、上層11を構成する繊維の接触角が、下層12を構成する繊維の接触角よりも、15個以上大きい場合を、前記含有率が50%以上であると定義する。上層11から取り出した繊維の水との接触角の値30個がすべて、下層12から取り出した繊維の水との接触角よりも大きい場合は、前記含有率は100%である。
なお、上層11及び下層12から繊維を取り出す位置については、吸収性物品の中央領域(排泄部対向領域)を選択することが望ましい。
【0036】
下層12を構成する繊維が2種類以上である場合には、上層11を構成する繊維が、下層12を構成する繊維のうち最も含有量が多い繊維よりも水との接触角が大きい繊維を、50%以上含むことが好ましく、90%以上含むことがより好ましい。更に、下層12の「最も含有量が多い繊維」とは下層12を構成する繊維の本数が最も多い繊維のことを指し、「最も含有量が多い繊維」の含有量は、下層12を構成する繊維中50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0037】
表面シート10に液が残りにくいという効果を一層顕著にする観点から、上層11は、熱伸長性繊維と、該熱伸長性繊維とは別の第2繊維とを含み、熱伸長性繊維の方が第2繊維よりも接触角が大きいことが好ましい。
【0038】
上層11と下層12との親水勾配を発現させて、上層11の肌当接面に残存する体液の下層12側への引き込み性を更に高める観点から、上層11を構成する各繊維の水との接触角がいずれも、下層12を構成する繊維の水との接触角よりも大きくなっていることが好ましい。下層12が複数種の繊維を含んで構成される場合、上層11の構成繊維のうち最も接触角が大きい繊維における水との接触角が、下層12の構成繊維のうち最も含有量が多い繊維の水との接触角よりも大きいことが好ましく、上層11を構成する各繊維の水との接触角がいずれも、下層12の構成繊維のうち最も含有量が多い繊維の水との接触角よりも大きいことがより好ましく、上層11を構成する各繊維の水との接触角がいずれも、下層12を構成する各繊維の水との接触角よりも大きいことが更に好ましい。
【0039】
上層11が熱伸長性繊維に加えて、熱伸長性繊維とは別の第2繊維を含む場合、第2繊維としては、例えば、融点の異なる二種の成分を含み、加熱によって繊維が伸長しない非熱伸長性の熱融着性繊維を用いることができる。詳細には、例えば高融点成分と該高融点成分の融点より低い融点を有する低融点成分とを含み、該低融点成分が繊維表面の少なくとも一部を長さ方向に連続して存在している複合繊維を用いることができる。熱融着性複合繊維の形態としては、芯鞘型やサイド・バイ・サイド型など種々の形態が挙げられ、芯部が高融点成分で構成され、鞘部が低融点成分で構成されている同芯型又は偏芯型の芯鞘型繊維を用いることが好ましい。また、第2繊維における熱融着性を効率的に発現させる観点から、第2繊維を構成する高融点成分及び低融点成分は、いずれも樹脂成分であることが好ましい。
【0040】
第2繊維として非熱伸長性の熱融着性繊維を用いる場合、高融点成分と低融点成分との好ましい組み合わせは、以下のとおりである。詳細には、高融点成分としてPPを用い、低融点成分としてHDPE、LDPE及びLLDPE等のポリエチレン、エチレンプロピレン共重合体、並びにポリスチレン等のうち一種又は二種以上を用いることができる。
また、高融点成分と低融点成分との好適な組み合わせの別の例としては、高融点成分としてPET及びPBT等のポリエステル系樹脂を用い、低融点成分としてHDPE、LDPE及びLLDPE等のポリエチレン、エチレンプロピレン共重合体、ポリスチレン、PP、並びに共重合ポリエステル等のうち一種又は二種以上を用いることができる。
高融点成分と低融点成分との好適な組み合わせの更に別の例としては、高融点成分としてポリアミド系重合体や上述した高融点成分の2種以上の共重合体のうち一種又は二種以上を用い、低融点成分としては上述した低融点成分の2種以上の共重合体のうち一種又は二種以上を用いることができる。
上述した各組み合わせに加えて、コットンやパルプ等の天然繊維、並びに、レーヨンやアセテート繊維等の熱融着性を有さず且つ非熱伸長性の繊維を更に含んでいてもよい。
【0041】
表面シート10における上層11に熱伸長性繊維が含まれているか否かは、表面シート10から取り出した繊維について、以下の方法で熱伸長率を測定することで判定することができる。
〔熱伸長性繊維の判別方法〕
まず、表面シートから繊維を10本採取する。採取する繊維の長さは1mmとする。採取した繊維をプレパラートに挟み、挟んだ繊維の全長を測定する。測定には、KEYENCE社製デジタルマイクロスコープVHX-6000を用いる。測定は50~100倍の倍率で前記繊維を観察し、その観察像に対して装置に組み込まれた計測ツールを用いて行った。前記測定で得られた長さを「表面シートから採取した繊維の全長」F1とする。全長を測定した繊維を、エスアイアイナノテクノロジー株式会社製のDSC6200用の試料容器(品名:ロボット用容器52-023P、15μL、アルミ製)に入れる。前記繊維の入った容器を、予め繊維の低融点成分(第2樹脂成分)の融点又は軟化点より10℃低い温度にセットされたDSC6200の加熱炉中の試料置き場に置く。DSC6200の試料置き場直下に設置された熱電対で測定された温度(計測ソフトウェア中の表示名:試料温度)が低融点成分(第2樹脂成分)の融点又は軟化点より10℃高い温度±1℃の範囲になってから、60秒間加熱し、その後素早く取り出す。加熱処理後の繊維をDSCの試料容器から取り出しプレパラートに挟み、挟んだ繊維の全長を測定する。測定には、KEYENCE製のマイクロスコープVHX-900、レンズVH-Z20Rを用いた。測定は50~100倍の倍率で前記繊維を観察し、その観察像に対して装置に組み込まれた計測ツールを用いて行った。前記、測定で得られた長さを「加熱処理後の繊維の全長」F2とする。熱伸長率(%)は以下の式から算出する。この熱伸長率が0%より大きい場合、測定対象の繊維は熱伸長性繊維であると判定し、熱伸長率が0%以下である場合は、測定対象の繊維は熱伸長性繊維でない、すなわち非熱伸長性であると判定する。熱伸長率が0%以下である繊維は、本発明における第2繊維とする。なお、「伸長率が0%以下」とは加熱前後で繊維の全長が変わらないこと、又は加熱によって繊維の全長が短くなること(熱収縮性)を意味する。
繊維の熱伸長率(%)=100×(F2-F1)/F1
また上述の方法にて、上層11が熱伸長性繊維に加えて第2繊維を含むと判定された場合は、各繊維につきそれぞれ独立して、上述した方法で接触角を測定する。
【0042】
表面シート10は、上層11を構成する繊維のうち最も平均繊維径が小さい繊維の平均繊維径が、下層12を構成する繊維の平均繊維径よりも大きいことが好ましい。このような構成になっていることによって、下層12の繊維密度が、上層11の繊維密度と比較して密になるので、下層12に強い毛管力が発現し、上層11から下層12への体液の引き込み性に優れたものとなる。その結果、吸収した体液を非肌当接面側に効率よく移行させて、液残りを知覚しにくい肌触りが良好なシートとなる。下層12の構成繊維は、一種又は二種以上の繊維を用いることができ、下層12に複数種の繊維を含む場合には、上層11の構成繊維の繊維径は、下層12を構成する繊維のうち最も平均繊維径が大きい繊維の繊維径と比較する。
【0043】
上層11を構成する繊維のうち、最も平均繊維径が小さい繊維の平均繊維径は、繊維の繊度(デシテックス:dtex)で表したときに、好ましくは2.0dtex以上、より好ましくは2.5dtex以上、更に好ましくは3.0dtex以上であり、好ましくは8.0dtex以下、より好ましくは7.0dtex以下、更に好ましくは6.0dtex以下である。同様に、下層12の構成繊維の繊維径は、繊度で表して、好ましくは1.0dtex以上、より好ましくは1.2dtex以上、更に好ましくは1.5dtex以上であり、好ましくは5.0dtex以下、より好ましくは4.0dtex以下、更に好ましくは3.0dtex以下である。下層12に複数種の繊維を含む場合には、下層12を構成する繊維のうち最も平均繊維径が大きい繊維が上述の範囲であればよい。
【0044】
繊維の繊度は、以下の方法で測定することができる。すなわち、荷重が加わっていない状態の表面シート10から、表面シート10を50mm×100mm(面積5000mm2)の長方形状に切り出して測定用サンプルを作製する。次いで、上層11の繊維の繊度に関しては、測定用サンプルを断面視して、測定用サンプルの上層11の外面(肌当接面)に位置する標準的な繊維10本を対象として、電子顕微鏡を用いて繊維太さを実測し、繊維太さの算術平均値Dn(μm)を算出する。次いで、示差走査熱量測定器(DSC)を用いて、前記肌当接面から10mm間隔を空けた位置での標準的な繊維の構成樹脂を特定し、理論繊維密度Pn(g/cm3)を求める。得られた繊維太さの算術平均値Dn(μm)及び理論繊維密度Pn(g/cm3)から、繊維長さ10000m当たりの重さ(g)を算出して、この算出された値を上層11の繊維の繊度(dtex)とする。下層12の繊維の繊度に関しては、測定用サンプルを断面視して、測定用サンプルの外面(非肌当接面)に位置する標準的な繊維10本を対象として、肌当接面側の繊維の繊度と同様にして測定する。
【0045】
図1及び
図2に示すように、上層11と下層12とを互いに接合する固着部15が形成されている場合、固着部15は、
図2に示すように、表面シート10の平面視において、直線状の第1固着部15a及び第2固着部15bが交互に且つ一方向に沿って配置された固着部列からなる巨視的パターンが形成されていることが好ましい。
【0046】
詳細には、
図2に示すように、表面シート10は、直線状の第1固着部15aと、第1固着部15aよりも長さが短い直線状の第2固着部15bとが、交互に且つ一方向(
図2の紙面上、左上から右下)に延びるように複数個配置された第1固着部列L1を有している。第1固着部列L1は、隣り合う第1固着部列L1どうしの間隔が異なるように複数列形成されている。第1固着部列L1は同図中X方向に対して傾斜しており、且つ各第1固着部列L1どうしは交差しておらず、互いに平行となって配されている。同様に、第2固着部列L2は、第1固着部15aと第2固着部15bとが交互に且つ一方向(
図2の紙面上、右上から左下)に延びるように複数個配置されている。第2固着部列L2は、隣り合う第2固着部列L2どうしの間隔が異なるように複数列形成されている。第2固着部列L2は同図中X方向に対して傾斜しており、且つ各第2固着部列L2どうしは交差しておらず、互いに平行となって配されている。各第2固着部列L2は、各第1固着部列L1と交差する方向に延びるように配されている。このように第1固着部列L1と第2固着部列L2とを配することによって、表面シート10上を体液が一方向に拡散しにくくなるので好ましい。
【0047】
また
図2に示すように、第1固着部列L1における第1固着部15a及び第2固着部15bと、第2固着部列L2における第1固着部15a及び第2固着部15bとは、いずれも互いに交差しないように配されていることも好ましい。第1固着部列L1に着目すると、第1固着部列L1の延在方向において前後に隣り合う第1固着部15aと第2固着部15bとの間には、第2固着部列L2を構成する第1固着部15a及び第2固着部15bがいずれも通過しないように配置されている。また、第2固着部列L2に着目すると、第2固着部列L2の延在方向において前後に隣り合う第1固着部15aと第2固着部15bとの間には、第1固着部列L1を構成する第1固着部15a及び第2固着部15bがいずれも通過しないように配されている。
【0048】
第1固着部列L1と第2固着部列L2との交点を含む領域は、各固着部15a,15bによって接合されていない非接合領域N1となっている。非接合領域N1は、第1固着部列L1において列方向の前後に隣り合う第1固着部15aと第2固着部15bとの間に位置する第1非固着領域と、第2固着部列L2において列方向の前後に隣り合う第1固着部15aと第2固着部15bとの間に位置する第2非固着領域とで形成されている。非接合領域N1は、X方向及びX方向に直交するY方向に隣り合う第1凸部18aと第3凸部18cとの間にそれぞれ形成されており、非接合領域N1によって、各凸部18a,18b,18cはそれぞれ連続している。第1固着部15a及び第2固着部15bはいずれも凹部17となっており、各凸部18及び非接合領域N1よりも厚みが薄い部位となっている。
【0049】
以上のとおり、
図2に示すように、二種類の固着部15a,15bを有する第1固着部列L1及び第2固着部列L2が非接合領域N1を形成するように配置されることによって、各固着部15間に形成された非接合領域N1を介して、シート平面方向に体液を効率的に拡散させながら下層12側に吸収させることができるので、その結果、シート表面での液残りが一層効果的に低減される。
【0050】
上層11における熱伸長性繊維の含有割合は、上層11の全質量中、好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。また、第2繊維の含有割合は、上層11の全質量中、好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。
【0051】
下層12を構成する繊維としては、例えば、融点の異なる2成分を含み、加熱によって繊維が実質的に伸長しない非熱伸長性の熱融着性繊維を用いることができる。非熱伸長性の熱融着性繊維としては、上述した上層11の第2繊維と同様の繊維を使用することができる。また、コットンやパルプ等の天然繊維、並びに、レーヨンやアセテート繊維等の熱融着性を有さず且つ非熱伸長性の繊維を更に含んでいてもよい。
【0052】
以下に、この熱伸長性複合繊維を用いた表面シート10の好ましい製造方法を、
図3を参照しながら説明する。
図3には、本製造方法に好適に用いられる製造装置の一実施形態が示されている。まず、所定のウエブ形成手段(図示せず)を用いて下層12の原反となる下層ウエブ12Aを作製する。下層ウエブ12Aは、熱伸長性繊維を含まないか、又は熱伸長性繊維を上層11より低い割合で含むように構成されている。また下層ウエブ12Aとは別に、所定のウエブ形成手段(図示せず)を用いて、上層11の原反となる上層ウエブ11Aを作製する。上層ウエブ11Aは、熱伸長性繊維を含むものである。ウエブ形成手段としては、特に制限はなく、例えばカード法やエアレイ法等を用いることができる。
【0053】
次いで、上層ウエブ11Aと、下層ウエブ12Aとを一方向Rに搬送しながら重ねて積層体10Aとし、この積層体を搬送して、ヒートエンボス装置21に導入する。ヒートエンボス装置21は、周面に固着部15に対応する形状の凸部が形成されている彫刻ロール22と、周面が平滑となっている平滑ロール23とを備えており、各ロール22,23は所定温度に加熱可能になっている。積層体10Aを各ロール22,23間に導入することによって、積層体10Aに一体的にヒートエンボス加工が施される。ヒートエンボス加工によって、上層ウエブ11Aと、下層ウエブ12Aとが剥離不能に接合された固着部15が形成された加工積層体10Bとなる。
【0054】
ヒートエンボス加工は、上層ウエブ11A及び下層ウエブ12Aの少なくとも一方を構成する成分が溶融し、各ウエブ11A,12Aが熱融着する温度で好適に行われる。ヒートエンボス加工の加工温度は、上層ウエブ11A中の熱伸長性繊維における低融点成分の融点以上で且つ高融点成分の融点未満の温度で行われることが好ましい。
【0055】
続いて、固着部15が形成された加工積層体10Bは、熱風吹き付け装置25に導入される。加工積層体10Bは、熱風吹き付け装置25に導入された後、所定温度に加熱された熱風を吹き付けられて、エアスルー加工が施される。エアスルー加工は、加工積層体10B中の熱伸長性繊維が伸長する温度で、且つ熱伸長性繊維の低融点成分の融点以上で且つ高融点成分の融点未満の温度で好適に行うことができる。
【0056】
加工積層体10Bにエアスルー加工を施すことによって、上層11に含まれる熱伸長性繊維が、固着部15以外の部分において伸長する。伸長した熱伸長性繊維の伸長分は、加工積層体10Bの厚み方向外方へ移動し、上層11における固着部15に囲まれた領域内に凸部18が形成される。このようにして、不織布からなる目的とする表面シート10が得られる。
【0057】
なお、このように製造された表面シート10は、エアスルー加工によって熱伸長させた熱伸長性繊維が熱伸長可能になっており、依然として熱伸長性繊維である。つまり、表面シート10に存在する熱伸長性繊維は、熱伸長可能な状態で存在している。エアスルー加工後も熱伸長可能な繊維とするためには、例えば、エアスルー加工において加工積層体10Bに対して吹き付ける熱風の温度を、加工積層体10B中の熱伸長性繊維を構成する第2樹脂成分の融点又は軟化点以上とし、第2樹脂成分の融点又は軟化点+10℃以下の範囲に設定し、且つ第1樹脂成分の融点又は軟化点未満の温度に設定すればよい。表面シート10を製造する際に、このような条件で熱処理することによって、低融点の第2樹脂成分を溶融させて、繊維どうしの融着点を形成させることができるので、嵩高で、且つ風合い及び強度に優れた表面シート10を得ることができる。これに加えて、熱伸長性繊維が過度に溶融してしまうことに起因するシートの風合い悪化やシートの強度低下を防ぐことができる。
【0058】
本発明の吸収性物品は、
図4に示すように、表面シート10と吸収体40との間に、不織布からなる中間シート30が、該表面シート10に隣接させて配されている。
図5(a)は、本発明の吸収性物品に好ましく用いられる中間シート30の好ましい一例を示す中間シートの平面図である。
中間シート30を構成する不織布は、不織布又は繊維ウエブからなる繊維層にエンボス加工を施して形成されたエンボス部31を有している。エンボス部31においては、中間シート30を構成する繊維層が部分的に圧密化されている。中間シート30において、エンボス部31は、非エンボス部32に比して圧密化されており、非エンボス部32に比して厚みが小さくなっている。
図5(b)に示すように、中間シート30におけるエンボス部31は、肌当接面側の面及び非肌当接面側の面のいずれもが凹部となっていてもよく、また肌当接面側の面及び非肌当接面側の面のいずれか一方の面のみが凹部となっていてもよい。
【0059】
図5(a)に示すように、中間シート30の平面視において、エンボス部31は、非エンボス部32を挟んで相互に分離した状態に複数形成されていることが好ましい。
図5(a)に示す中間シート30には、エンボス部31が、一方向XY1に延びる互いに平行な複数本の第1のエンボス部列R3と、該一方向と交差する他方向XY2に延びる互いに平行な複数本の第2のエンボス部列R4とを形成するように配置されている。
中間シート30は、エンボス部31の面積率が、上述した表面シート10の固着部15の面積率よりも大きくなっている。上述した表面シート10における固着部15は、本発明における表面シートのエンボス部に相当するため、以下、表面シート10の固着部15を、表面シート10のエンボス部15ともいう。
【0060】
エンボス部の面積率(エンボス化率)とは、シート全体の面積に対するエンボス部の合計面積の割合であり、以下のようにして測定される。
〔エンボス部の面積率の測定方法〕
測定対象である表面シート又は中間シートから、吸収性物品の長手方向に沿う長さが50mm、幅方向に沿う長さが40mmの矩形状のサンプルを切り出す。
次に、マイクロスコープ(KEYENCE製のマイクロスコープVHX-900、レンズVH-Z20R)を用いて、切り出したサンプルの表面拡大写真を得、この表面拡大写真にスケールを合わせ、視野内の全体面積Tにおける、エンボス部の寸法を測定し、エンボス部面積Uを算出する。
エンボス部の面積率(エンボス化率)は、計算式(U/T)×100、によって算出することができる。
エンボス部とそれ以外の部分との境界が不明瞭な場合は、測定対象である表面シート又は中間シートの拡大写真から判断することができる。エンボス部は繊維が潰れた状態又はフィルム状になっているため、シートの拡大写真からエンボス部を判断し、エンボス部とそれ以外の部分との境界を見極めることができる。
また、吸収性物品が生理用ナプキンの場合には防漏溝として表面シートから吸収体まで至る圧搾溝を配することが一般的であるが、サンプルは防漏溝が配されていない箇所から切り出す。なお、防漏溝以外に表面シートから中間シート又は吸収体まで至るエンボスが存在し、該エンボスを含まないようにサンプルを切り出すことができない場合には、該エンボスを含むようにサンプルを切り出して、前記面積率を測定してもよい。防漏溝以外の、表面シートから吸収体まで至るエンボスとしては、例えば、平面視において表面シートの全域に形成された、ピンエンボス等が挙げられる。
【0061】
また本発明においては、中間シート30として、該中間シート30を構成する繊維の水との接触角が、表面シート10を構成する繊維の水との接触角よりも大きいものを用いる。
表面シート及び中間シートそれぞれを構成する繊維の水との接触角は、それぞれのシートについて、上述した接触角の測定方法と同様にして、表面シートの肌当接面に位置する繊維から5本の測定サンプル、中間シートの非肌当接面に位置し、非エンボス部32に位置する繊維から5本の測定サンプルを取り出し、これら10本の測定サンプル(N=10本)の接触角を小数点以下1桁まで計測し、それぞれ10箇所の測定値を算術平均した値(小数点以下第2桁で四捨五入)を、表面シート又は中間シートを構成する繊維の水との接触角とする。
【0062】
なお、中間シート30を構成する繊維各々が異なる接触角を有する複数種の繊維を含んで構成される場合には、中間シート30が、表面シートの下層12を構成する繊維よりも水との接触角が大きい繊維を、少なくとも50%含むことが好ましく、80%以上含むことがより好ましい。中間シート30を構成する繊維のうち、表面シートの下層12を構成する繊維よりも水との接触角が大きい繊維の含有率は、上述した〔上層を構成する繊維のうち、下層を構成する繊維よりも水との接触角が大きい繊維の含有率の測定方法〕において、上層11に代えて中間シート30から繊維を取り出すこと以外は同様にして測定することができる。また、下層12が繊維を複数種含んでいる場合には、中間シート30が、下層12を構成する繊維のうち最も含有量が多い繊維よりも水との接触角が大きい繊維を、少なくとも50%含むことが好ましく、80%以上含むことがより好ましい。また、中間シート30を構成する繊維の接触角としては97°以下であることが好ましく、90°以下がより好ましく、一方、75°以上が好ましく、78°以上がより好ましい。
【0063】
中間シート30を構成する繊維と表面シート10を構成する繊維の接触角との、水との接触角の差は、前者-後者として、2°以上が好ましく、5°以上がより好ましく、また、15°以下が好ましく、10°以下がより好ましい。なお、この接触角の差の好ましい範囲は、表面シート10の上層11と中間シート30との関係にも適用される。
【0064】
本発明の吸収性物品によれば、表面シートの下層12を構成する繊維の親水性が、上層11を構成する繊維の親水性よりも高いので、上層11側に排泄された体液は、親水性の高い下層12側に移行しやすくなる。これに加えて、中間シート30として、表面シート10よりもエンボス部の面積率が大きく、且つ表面シート10の下層よりも、水との接触角が大きいものを用いることで、表面シート10及び中間シート30を液が通過する速度が速くなり、排泄量が多い場合や排泄速度が速い場合等においても、表面シートから吸収体へと液が素早く移行し、表面シートの表面がべたつくこと等による不快感を一層確実に防止することができる。その理由は、中間シートのエンボス部の面積率が高いと、表面シートから中間シートのエンボス部又はその近辺への液の引き込み性は高くなる一方、それ以外の部分に液が残りやすくなるところ、中間シートを構成する繊維の接触角を大きくし撥水性の程度を高めると、当該部分に液が保持されにくくなり、エンボス部及びその近辺を通じて、吸収体40へと液がスムーズに移行することにあると推定される。なお、本発明の構成は少なくとも排泄部対向領域(又は股下部)に存在すればよく、これに加えて後方部にも存在することが好ましく、更に、前方部にも存在することが好ましい。
【0065】
斯かる効果が一層確実に奏されるようにする観点から、中間シート30を構成する繊維の水との接触角は、表面シート10の上層を構成する繊維の水との接触角よりも大きいことが好ましい。
【0066】
また水との接触角が、表面シートの下層を構成する繊維、表面シートの上層を構成する繊維、及び中間シートを構成する繊維の順に大きくなっていることが、表面シートからの液の移行性の向上の観点から好ましい。中間シートを構成する繊維が、表面シートの下層を構成する繊維よりも水との接触角が大きいことにより、吸収体に移行した液の逆戻りを防ぐことも期待できる。
【0067】
表面シート10からの液の移行性の向上の観点から、中間シート30のエンボス部の面積率(%)は、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上であり、また好ましくは40%以下、より好ましくは35%以下であり、好ましくは15%以上40%以下、より好ましくは20%以上35%以下である。
同様の観点から、中間シート30のエンボス部の面積率と、表面シート10のエンボス部の面積率との差は、好ましくは2%ポイント以上、より好ましくは5%ポイント以上であり、また好ましくは40%ポイント以下、より好ましくは35%ポイント以下であり、好ましくは2%ポイント以上40%ポイント以下、より好ましくは5%ポイント以上35%ポイント以下である。
一方、表面シート10の表面液残りや肌触りの観点から、表面シート10のエンボス部の面積率(%)は、好ましくは5%以上、より好ましくは7%以上であり、また好ましくは13%以下、より好ましくは11%以下であり、好ましくは5%以上13%以下、より好ましくは7%以上11%以下である。
【0068】
本発明における表面シート10は、上層と下層とを互いに結合している固着部(エンボス部)を有するものに限定されないが、表面シート10が、上層と下層とを互いに結合している固着部(エンボス部)を有しており、且つ中間シート30の方が、表面シート10よりもエンボス部の面積率が大きいことが好ましい。このような構成になっていることによって、表面シート10に液残りしにくいことに加えて蒸れやかぶれが効果的に防止される。
【0069】
中間シート30を構成する繊維としては、例えば、融点の異なる2成分を含み、加熱によって繊維が実質的に伸長しない非熱伸長性の熱融着性繊維を用いることができる。非熱伸長性の熱融着性繊維としては、上述した上層11の第2繊維と同様の繊維を使用することができる。また、コットンやパルプ等の天然繊維、並びに、レーヨンやアセテート繊維等の熱融着性を有さず且つ非熱伸長性の繊維を更に含んでいてもよい。
【0070】
中間シート30の坪量は、表面シート10から吸収体40への液の移行性の向上の観点や吸収体40からの液の逆戻りを防ぐ観点から、好ましくは15g/m2以上、更に好ましくは17.5g/m2以上であり、好ましくは40g/m2以下、更に好ましくは37.5g/m2以下であり、また好ましくは15g/m2以上40g/m2以下、更に好ましくは17.5g/m2以上37.5g/m2以下である。
中間シート30の坪量は、表面シート10の坪量より大きくても低くてもよいが、表面シート10の坪量と同程度であることが好ましい。
【0071】
本発明において、表面シート10と中間シート30との間が接合されていることは必須ではない。しかし、表面シート10と中間シート30とが、例えば、
図4に示すように、表面シート10と該中間シート30とが一体的に圧搾された圧搾部35により互いに接合されていることが好ましい。また、それに代えて、又はそれとともに、表面シート10と中間シート30とが接着剤により互いに接合されていることも好ましい。表面シート10と中間シート30との間が接合されていることによって、表面シート10から中間シート30への液の移行性が一層向上する。
【0072】
本発明の吸収性物品において、表面シート10及び中間シート30は、それぞれの構成繊維が無機フィラーを含んでいることが好ましい。無機フィラーとしては、二酸化チタン等の酸化チタン、シリカ、炭酸カルシウム等が挙げられる。本発明においては、これらの無機フィラーの1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの無機フィラーの中でも、特に酸化チタン、とりわけ二酸化チタンが、不織布の隠蔽性の点で好ましい。
表面シート10又は中間シート30の構成繊維に含まれる無機フィラーの含有量は、経血等の吸収した液の色の隠蔽性の向上の観点から、構成繊維中、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上である。一方、表面シート及び中間シート30それぞれの構成繊維中、無機フィラーの含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは9.0質量%以下であり、また好ましくは0.5質量%以上10質量%以下、より好ましくは1.0質量%以上9.0質量%以下である。
【0073】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。
例えば、中間シート30の個々のエンボス部の平面視形状は、正方形に代えて長方形でもよく、円形、三角形、楕円形等の他の任意の形状とすることもできる。またエンボス部は、個々独立した複数のエンボス部に限定されず、格子状に連続するエンボス部等であってもよい。
【0074】
上述した本発明の実施形態に関し、更に以下の吸収性物品を開示する。
<1>
液透過性の表面シート、裏面シート並びに該表面シート及び該裏面シートの間に位置する吸収体を有し、着用者の前後方向に対応する長手方向と該長手方向に直交する幅方向とを有する吸収性物品であって、
前記表面シートは、肌当接面側に配される上層と、非肌当接面側に配される下層とを備えており、
前記上層は、水との接触角が互いに異なる複数種の繊維を含んで構成されており、
前記上層を構成する繊維の水との接触角が、前記下層を構成する繊維の水との接触角よりも大きく、
前記表面シートと前記吸収体との間に、該表面シートに隣接させて不織布製の中間シートが配されており、
前記中間シートは、エンボス部を有し、前記中間シートの方が、前記表面シートよりも、シートの面積に対するエンボス部の合計面積の割合であるエンボス部の面積率が大きく、
前記中間シートを構成する繊維の水との接触角が、前記表面シートを構成する繊維の水との接触角よりも大きい、吸収性物品。
【0075】
<2>
前記上層は熱伸長性繊維を含む繊維集合体であり、
前記下層は熱伸長性繊維を含まないか、又は熱伸長性繊維を前記上層よりも低い質量割合で含む繊維集合体である、前記<1>に記載の吸収性物品。
<3>
前記上層は、水との接触角が互いに異なる複数種の繊維として、熱伸長性繊維と非熱伸長性の熱融着性繊維を含んでおり、
前記熱伸長性繊維の方が、前記非熱伸長性の熱融着性繊維よりも前記接触角が大きい、前記<1>又は<2>に記載の吸収性物品。
<4>
前記上層を構成する各繊維の水との接触角がいずれも、前記下層を構成する繊維の水との接触角よりも大きい、前記<1>~<3>のいずれか一に記載の吸収性物品。
<5>
前記中間シートを構成する繊維の水との接触角が、前記表面シートの前記上層を構成する繊維の水との接触角よりも大きい、前記<1>~<4>のいずれか一に記載の吸収性物品。
<6>
前記水との接触角が、前記表面シートの前記下層を構成する繊維、前記表面シートの前記上層を構成する繊維、前記中間シートを構成する繊維の順に大きくなっている、前記<1>~<5>のいずれか一に記載の吸収性物品。
【0076】
<7>
前記表面シートが、前記上層と前記下層とを互いに結合しているエンボス部を有し、該中間シートの方が、該表面シートよりも、前記エンボス部の面積率が大きい、前記<1>~<6>のいずれか一に記載の吸収性物品。
<8>
前記表面シートの構成繊維及び前記中間シートの構成繊維が、それぞれ、無機フィラーを繊維中に0.5質量%以上10質量%以下含んでいる、前記<1>~<7>のいずれか一に記載の吸収性物品。
<9>
前記表面シートと前記中間シートが、該表面シートと該中間シートとが一体的に圧搾された圧搾部又は接着剤により互いに接合されている、前記<1>~<8>のいずれか一に記載の吸収性物品。
<10>
前記表面シートが、前記上層と前記下層とを互いに結合しているエンボス部を有し、該エンボス部に囲まれた領域に凸部が形成され、該エンボス部が凹部を形成しており、これによって該上層の肌当接面側が凹凸形状を形成している、前記<1>~<9>のいずれか一に記載の吸収性物品。
【0077】
<11>
前記表面シートは、前記上層と前記下層とを互いに結合しているエンボス部を有し、
前記エンボス部は、一方向に対して互いに逆向きに傾斜した第1固着部列及び第2固着部列を構成しており、
第1固着部列及び第2固着部列はそれぞれ、互いに平行に多数本形成されており、
多数本の第1固着部列及び第2固着部列はそれぞれ、隣接する固着部列間の間隔が広い箇所と該間隔が狭い箇所とを交互に有している、前記<1>~<10>のいずれか一に記載の吸収性物品。
<12>
第1固着部列及び第2固着部列を構成するエンボス部は、不連続線である、前記<11>に記載の吸収性物品。
<13>
第1固着部列及び第2固着部列に囲まれた領域には、面積がそれぞれ異なる三種類の凸部が肌当接面側に突出するように形成されている、前記<11>又は<12>に記載の吸収性物品。
<14>
前記面積が異なる3種類の各凸部はそれぞれ、凸部の高さが異なっている、前記<13>に記載の吸収性物品。
<15>
前記表面シートが有する前記エンボス部は、直線状の第1固着部と、該第1固着部よりも長さが短い直線状の第2固着部とを有し、
第1固着部列及び第2固着部列はそれぞれ、第1固着部と第2固着部とが交互に且つ一方向に延びるように配置されて形成されており、
第1固着部列における第1固着部及び第2固着部と、第2固着部列における第1固着部及び第2固着部とは、いずれも互いに交差しないように配されている、前記<11>~<14>のいずれか一に記載の吸収性物品。
<16>
第1固着部列と第2固着部列との交点を含む領域は、前記表面シートが有する前記エンボス部によって接合されていない非接合領域となっている、前記<11>~<15>のいずれか一に記載の吸収性物品。
【0078】
<17>
前記中間シートのエンボス部の面積率は、15%以上40%以下である、前記<1>~<16>のいずれか一に記載の吸収性物品。
<18>
前記表面シートが、前記上層と前記下層とを互いに結合しているエンボス部を有し、
前記中間シートのエンボス部の面積率と、前記表面シートのエンボス部の面積率との差は、好ましくは2%ポイント以上である、前記<1>~<17>のいずれか一に記載の吸収性物品。
<19>
前記表面シートが、前記上層と前記下層とを互いに結合しているエンボス部を有し、
前記中間シートのエンボス部の面積率と、前記表面シートのエンボス部の面積率との差は、2%ポイント以上40%ポイント以下である、前記<1>~<18>のいずれか一に記載の吸収性物品。
<20>
前記表面シートが、前記上層と前記下層とを互いに結合しているエンボス部を有し、
前記表面シートのエンボス部の面積率は、5%以上13%以下である、前記<1>~<19>のいずれか一に記載の吸収性物品。
<21>
前記上層を構成する繊維が異なる水との接触角を有する複数種の繊維を含んで構成されており、該上層が、前記下層を構成する繊維よりも水との接触角が大きい繊維を、少なくとも50%含んでいる、前記<1>~<20>のいずれか一に記載の吸収性物品。
【実施例0079】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、斯かる実施例に制限されない。
【0080】
〔実施例1〕
図3に示す製造装置を用いて、熱伸長性繊維(芯樹脂:PP(融点164℃)/鞘樹脂:HDPE(融点126℃))と、第2繊維として熱融着性繊維(芯樹脂:PET(融点251℃)/鞘樹脂:HDPE(融点126℃))との二種類の繊維のみからなる上層11(坪量12.5g/m
2)と、熱融着性繊維(芯樹脂:PET(融点251℃)/鞘樹脂:HDPE(融点126℃))のみからなる下層12(坪量12.5g/m
2)とを備える表面シート10を作製した。上層11における熱伸長性繊維の含有割合は、上層11の全質量中50質量%であり、熱融着性繊維の含有割合は、上層11の全質量中50質量%であった。
この表面シート10には、
図2で示すパターンからなる固着部15がヒートエンボス加工によって形成されており、各固着部列L1,L2における第1固着部15aの長さが8.1mm、第2固着部15bの長さが5.6mm、一つの固着部列における第1固着部15aと第2固着部15bとの間隔が2.0mmとなるように配置したものである。両層11,12の構成繊維における接触角及び繊度、並びに作製した表面シート10の固着部(エンボス部)の面積率を表1に示した。
また表面シートの構成繊維中の無機フィラー(酸化チタン)の含有率(%)を表1に示した。作製した表面シート10の坪量は25g/m
2であった。
【0081】
中間シートとしては、熱融着性繊維(芯樹脂:PET(融点251℃)/鞘樹脂:HDPE(融点126℃))100質量%からなる不織布であって、ヒートエンボス加工により、
図3に示すパターンでエンボス部31を設けたものを用いた。中間シート30の接触角及び平均繊維径を表1に併せて示した。第1のエンボス部列R3及び第2のエンボス部列R4のいずれについても、列に沿うエンボス部の長さL3を0.77mm、列に沿うエンボス部の配置ピッチL4を1.4mmとした。作成した中間シート30の構成繊維における接触角及び平均繊維径、並びに作製した中間シート30のエンボス部の面積率を表1に示した。
また中間シートの構成繊維中の無機フィラー(酸化チタン)の含有率(%)を表1に示した。作製した中間シート30の坪量は25g/m
2であった。
得られた表面シート10及び中間シート30を配した吸収性物品(生理用ナプキン)を製造した。表面シート10及びそれに隣接する中間シート30以外の吸収性物品の構成は、花王株式会社製の生理用ナプキン(ロリエ スリムガード(登録商標)特に多い昼用羽つき)と同一とした。
【0082】
〔参考例1〕
無機フィラーの量を代えた以外は実施例1と同様にして、実施例1と同一パターンのエンボス部を有する中間シートを得た。この中間シートを用いる以外は、実施例1と同様にして、生理用ナプキンを製造した。中間シート30の接触角及び平均繊維径を表1に併せて示した。
〔比較例1〕
花王株式会社製の生理用ナプキン(ロリエ スリムガード(登録商標)特に多い昼用羽つき)を比較例1とした。
【0083】
〔液通液時間の評価〕
実施例1、参考例1で作製した生理用ナプキン及び比較例1の生理用ナプキンの液通液時間を調べた。この液通液時間は、該液通液時間が短いほど、生理用ナプキンの液透過性がよく、表面シートに液が残りにくいことを示す指標である。液通液時間の測定には、LenzingTechnik社製の試験機LISTERを使用して、この試験機の測定部の上に、実施例1、参考例1及び比較例1の生理用ナプキンを置き、試験溶液(擬似血液)を5g注入したときの液透過時間をそれぞれ調べた。試験溶液には、下記の調整を行った溶液を使用した。2Lのビーカーにイオン交換水1500gを入れ、マグネティックスターラーで撹拌しながら、カルボキシメチルセルロースナトリウム〔関東化学株式会社製、CMC-Na〕5.3gを入れた(この溶液を「A」とする。)。次に、1Lのビーカーにイオン交換水556gを入れ、スターラーで撹拌しながら塩化ナトリウム〔関東化学株式会社製〕27.0g、炭酸水素ナトリウム〔NaHCO3、関東化学株式会社製〕12gを入れ、完全に溶解させた(この溶液を「B」とする。)。更に、3Lのビーカーにグリセリンを900g量り取り、上記(A)及び(B)を加えて撹拌した。更に、ノニオン系の界面活性剤「エマルゲン935」〔製造販売元花王株式会社〕の濃度(界面活性剤/水)=1g/Lの水溶液15mlと、食用赤色2号〔発売元:アイゼン株式会社、保土ヶ谷化学工業株式会社、製造元:ダイワ化成株式会社〕0.3gを加え、撹拌した。このようにして得られた溶液を、ガラス濾過器を用いて吸引濾過し、その濾液を擬似血液とした。なお、擬似血液の調整の際には、上述した界面活性剤に代えて、他のノニオン系の界面活性剤を用いることもでき、この場合も同様の結果を得ることができる。
表1に、液通液時間を示した。
【0084】
〔隠蔽性(赤色板隠蔽率)の評価〕
実施例1、参考例1で作製した表面シート及び中間シートを重ね合わせたシートを用意し、隠蔽性の評価サンプルとした。隠蔽性は、下記に示す赤色板隠蔽率の値で示す。赤色板隠蔽率は、日本電色株式会社製の色差計(品番SZ-Σ80)を用いて次のようにして求める。
初めに、付属の赤色板(赤色面を測定面とする)の分光カーブを測定する。得られた吸収波長の中でも特に500cm-1を選択し、この際の反射率を記録する(Ra)。次に赤色板を外して、試料台にサンプルを置き、更にサンプル裏面(測定面とは逆の面)と赤色板の赤色面が向き合うように赤色板を置く。測定は1サンプルについて異なる部位で計5回測定し、500cm-1の反射率の平均値(Rb)を算出する。得られたRa、Rbの値より、赤色板隠蔽率は次式(1)により求められる。
赤色板隠蔽率(%)=〔(Rb-Ra)/(100-Ra)〕×100
表1に、赤色板隠蔽率を示した。
【0085】
【0086】
表1に示すように、実施例1の生理用ナプキンは、中間シートの接触角が表面シートよりも高いことによって、参考例1の生理用ナプキンと比較して液透過性が向上している。また、中間シートの無機フィラーの含有量が、参考例1よりも実施例1の方が多いことによって、赤色板隠蔽率が向上している。
つまり、実施例1と参考例1の結果の対比から、中間シートの構成繊維の接触角を表面シートよりも大きくすることにより、液透過性の向上を図ることができ、中間シートの構成繊維の無機フィラーの含有量を表面シートよりも大きくすることにより、赤色板隠蔽率の向上を図ることができることが判る。
また、実施例1と比較例1の結果の対比から、中間シートのエンボス部の面積率を表面シートよりも大きくすることにより、液透過性の更なる向上を図ることができることが判る。