(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149955
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】複合焼結体、ハニカム構造体、電気加熱触媒および複合焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05B 3/14 20060101AFI20220929BHJP
C04B 35/195 20060101ALI20220929BHJP
C04B 38/06 20060101ALI20220929BHJP
B01J 35/04 20060101ALI20220929BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
H05B3/14 D ZAB
C04B35/195
C04B38/06 D
B01J35/04 301F
B01D53/94 300
B01D53/94 280
B01D53/94 245
B01D53/94 222
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052319
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】阿閉 恭平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 慎司
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 真平
(72)【発明者】
【氏名】冨田 崇弘
【テーマコード(参考)】
3K092
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
3K092PP15
3K092QA07
3K092QB10
3K092QB74
3K092QC02
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4G169EB18Y
4G169EC17Y
4G169EC21Y
4G169EC26
4G169ED10
4G169EE03
(57)【要約】
【課題】低抵抗であって、かつ、高耐酸化性を有する複合焼結体を提供する。
【解決手段】複合焼結体は、主相であるシリコン相と、コージェライト相と、Siを含む非晶質相とを含む。また、室温における体積抵抗率は0.1Ω・cm以上かつ2.5Ω・cm以下である。これにより、複合焼結体が高温酸化雰囲気に曝露された場合であっても、シリコン粒子の酸化が抑制され、複合焼結体の体積抵抗率の変化が抑制される。したがって、低抵抗であって、かつ、高耐酸化性を有する(すなわち、高温酸化雰囲気下に曝露された後の抵抗変化率が小さい)複合焼結体を提供することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合焼結体であって、
主相であるシリコン相と、
コージェライト相と、
Siを含む非晶質相と、
を含み、
室温における体積抵抗率は、0.1Ω・cm以上かつ2.5Ω・cm以下であることを特徴とする複合焼結体。
【請求項2】
請求項1に記載の複合焼結体であって、
X線回折法により得られるシリコンの(111)面のピーク強度およびコージェライトの(110)面のピークの強度を、それぞれI1およびI2として、I1/(I1+I2)は、0.80以上かつ0.97以下であることを特徴とする複合焼結体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の複合焼結体であって、
ムライト相をさらに含むことを特徴とする複合焼結体。
【請求項4】
請求項3に記載の複合焼結体であって、
X線回折法により得られるシリコンの(111)面のピークの強度、コージェライトの(110)面のピークの強度およびムライトの(120)面のピークの強度を、それぞれI1、I2およびI3として、I3/(I1+I2+I3)は、0.001以上かつ0.006以下であることを特徴とする複合焼結体。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の複合焼結体であって、
気孔率は15%以上かつ40%以下であることを特徴とする複合焼結体。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載の複合焼結体であって、
気孔径は1.0μm以上かつ3.5μm以下であることを特徴とする複合焼結体。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1つに記載の複合焼結体であって、
嵩密度は1.4g/cm3以上かつ2.2g/cm3以下であることを特徴とする複合焼結体。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1つに記載の複合焼結体であって、
950℃の大気中に50時間曝露した後の体積抵抗率の変化率は100%以下であることを特徴とする複合焼結体。
【請求項9】
ハニカム構造体であって、
筒状外壁と、
前記筒状外壁の内部を複数のセルに仕切る格子状の隔壁と、
を備え、
前記筒状外壁および前記隔壁は、請求項1ないし8のいずれか1つに記載の複合焼結体を含んで構成されることを特徴とするハニカム構造体。
【請求項10】
エンジンから排出される排ガスの浄化処理を行う電気加熱触媒であって、
請求項9に記載のハニカム構造体と、
前記ハニカム構造体の外側面に固定されて前記ハニカム構造体に電流を付与する一対の電極部と、
を備えることを特徴とする電気加熱触媒。
【請求項11】
複合焼結体の製造方法であって、
シリコン原料およびコージェライト原料を含む原料粉末を成形して焼成することにより焼成体を得る工程と、
前記焼成体に酸化処理を施すことにより複合焼結体を得る工程と、
を備え、
前記複合焼結体は、
主相であるシリコン相と、
コージェライト相と、
Siを含む非晶質相と、
を含み、
室温における体積抵抗率は、0.1Ω・cm以上かつ2.5Ω・cm以下であることを特徴とする複合焼結体の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の複合焼結体の製造方法であって、
シリコン原料およびコージェライト原料の粒径をそれぞれd1およびd2として、d1/d2は、0.25以上かつ1.25以下であることを特徴とする複合焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合焼結体およびその製造方法、当該複合焼結体を含んで構成されるハニカム構造体、並びに、当該ハニカム構造体を備える電気加熱触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等のエンジンから排出される排ガス中に含まれるHC 、CO 、NOx等の有害物質の浄化処理のため、柱状のハニカム構造体等に触媒を担持させた触媒コンバータが使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、排ガスを浄化する排ガス浄化用のフィルタおよび触媒担体として利用可能なハニカム構造体が開示されている。当該ハニカム構造体は、主相としてシリコン相を60質量%以上含み、好ましくは70質量%以上含む。当該シリコン相におけるシリコン以外の金属、および、シリサイドを形成している金属の含有量は、シリコン100質量部に対して0.3質量部以下である。また、当該ハニカム構造体は、SiO2を含む酸化物を含んでいてもよく、当該酸化物の含有率は1質量%~30質量%である。これにより、ハニカム構造体の熱容量の低減、および、熱拡散率の増大が図られている。
【0004】
また、上述の触媒コンバータでは、排ガスの浄化処理の際に、触媒が活性温度まで昇温されている必要があるが、エンジンの始動直後等は触媒コンバータの温度が低いため、排ガスの浄化性能が低下するおそれがある。特に、プラグインハイブリッド車(PHEV)やハイブリッド車(HV)では、モータのみによる走行が行われることにより、触媒の温度が低下しやすい。そこで、導電性の触媒コンバータに一対の電極を接続し、通電によって触媒コンバータ自体を発熱させることにより触媒を予熱する電気加熱触媒(EHC:Electrically Heated Catalyst)が利用されている。
【0005】
特許文献2では、電気加熱触媒に利用されるハニカム構造体において、ハニカム構造体を構成する電気抵抗体のシリコン粒子同士を面接合し、当該シリコン粒子の連続体の周囲に、ホウケイ酸塩およびコージェライトを含むマトリックスを設ける技術が開示されている。これにより、ハニカム構造体が、1000℃の高温酸化雰囲気に曝された場合の電気抵抗の増加抑制が図られている。特許文献3でも同様に、シリコン、ホウケイ酸塩およびコージェライトを含む電気抵抗体により構成されるハニカム構造体を、電気加熱触媒に利用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6373781号公報
【特許文献2】特開2020-161413号公報
【特許文献3】特開2020-17584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1のハニカム構造体は、金属およびシリサイドを含むため熱膨張率が高い。また、当該ハニカム構造体の実施例では、気孔率が32%~46%であり、平均細孔径が5μm~8μmであるため、体積抵抗率が高く、強度は低い。さらに、当該ハニカム構造体では、気孔率が比較的大きいため、高温酸化雰囲気に曝された場合、シリコン、シリコン以外の金属、および、シリサイドが酸化されやすく、体積抵抗率が大きく増大するおそれがある。したがって、当該ハニカム構造体は、電気加熱触媒に転用することは難しい。
【0008】
特許文献2のハニカム構造体の実施例では、高温酸化雰囲気に曝される前の体積抵抗率が0.027Ω・m~2.8Ω・m(すなわち、2.7Ω・cm~280Ω・cm)と高い。また、特許文献3のハニカム構造体の実施例は、特許文献2の実施例の試料2と略同組成であるため、体積抵抗率は0.085Ω・m(すなわち、8.5Ω・cm)と高いものと推定される。
【0009】
さらに、特許文献2のハニカム構造体では、シリコン粒子同士が連続している部位が局所的な微構造であるため、ハニカム構造体の部位毎の体積抵抗率のばらつきが大きいと考えられる。当該局所的な微構造は、ホウケイ酸塩によってシリコン粒子同士の焼結が阻害されたことに起因すると考えられる。また、当該ハニカム構造体はホウケイ酸塩を含むため焼成収縮が大きくなり、ハニカム構造体を寸法精度良く形成することが難しい。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、低抵抗であって、かつ、高耐酸化性を有する複合焼結体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の好ましい一の形態に係る複合焼結体は、主相であるシリコン相と、コージェライト相と、Siを含む非晶質相と、を含む。前記複合焼結体の室温における体積抵抗率は、0.1Ω・cm以上かつ2.5Ω・cm以下である。
【0012】
好ましくは、X線回折法により得られるシリコンの(111)面のピーク強度およびコージェライトの(110)面のピークの強度を、それぞれI1およびI2として、I1/(I1+I2)は、0.80以上かつ0.97以下である。
【0013】
好ましくは、前記複合焼結体は、ムライト相をさらに含む。
【0014】
好ましくは、X線回折法により得られるシリコンの(111)面のピークの強度、コージェライトの(110)面のピークの強度およびムライトの(120)面のピークの強度を、それぞれI1、I2およびI3として、I3/(I1+I2+I3)は、0.001以上かつ0.006以下である。
【0015】
好ましくは、気孔率は15%以上かつ40%以下である。
【0016】
好ましくは、気孔径は1.0μm以上かつ3.5μm以下である。
【0017】
好ましくは、嵩密度は1.4g/cm3以上かつ2.2g/cm3以下である。
【0018】
好ましくは、950℃の大気中に50時間曝露した後の体積抵抗率の変化率は100%以下である。
【0019】
本発明は、ハニカム構造体にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係るハニカム構造体は、筒状外壁と、前記筒状外壁の内部を複数のセルに仕切る格子状の隔壁と、を備える。前記筒状外壁および前記隔壁は、上述の複合焼結体を含んで構成される。
【0020】
本発明は、エンジンから排出される排ガスの浄化処理を行う電気加熱触媒にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係る電気加熱触媒は、上述のハニカム構造体と、前記ハニカム構造体の外側面に固定されて前記ハニカム構造体に電流を付与する一対の電極部と、を備える。
【0021】
本発明は、複合焼結体の製造方法にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係る複合焼結体の製造方法は、シリコン原料およびコージェライト原料を含む原料粉末を成形して焼成することにより焼成体を得る工程と、前記焼成体に酸化処理を施すことにより複合焼結体を得る工程と、を備える。前記複合焼結体は、主相であるシリコン相と、コージェライト相と、Siを含む非晶質相と、を含む。前記複合焼結体の室温における体積抵抗率は、0.1Ω・cm以上かつ2.5Ω・cm以下である。
【0022】
好ましくは、シリコン原料およびコージェライト原料の粒径をそれぞれd1およびd2として、d1/d2は、0.25以上かつ1.25以下である。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、低抵抗であって、かつ、高耐酸化性を有する複合焼結体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】一の実施の形態に係る電気加熱触媒の断面図である。
【
図2】ハニカム構造体の製造の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る電気加熱触媒1(EHC:Electrically Heated Catalyst)を示す断面図である。電気加熱触媒1は、一方向に長い柱状部材であり、
図1では、電気加熱触媒1の長手方向に垂直な断面を示している。電気加熱触媒1は、自動車等のエンジンから排出される排ガスの浄化処理を行う。
【0026】
電気加熱触媒1は、ハニカム構造体2と、一対の電極層31と、一対の電極部41とを備える。ハニカム構造体2、一対の電極層31、および、一対の電極部41は導電性を有する。ハニカム構造体2は、ハニカム構造を有する略円柱状の部材であり、電気加熱触媒1において触媒を担持する担体である。一対の電極層31は、ハニカム構造体2の外側面に固定される。一対の電極層31は、ハニカム構造体2の長手方向に延びる中心軸J1を挟んで対向して配置される箔状または板状の部材である。各電極層31は、ハニカム構造体2の外側面に沿って設けられる。
【0027】
一対の電極部41は、接合部42により一つの電極層31の表面に固定される。換言すれば、一対の電極部41は、一対の電極層31を介してハニカム構造体2の外側面に間接的に固定される。電極部41は、例えば、略帯状の部材である。電極部41は、ハニカム構造体2に電力を供給する電極端子の一部である。電極部41は、図示省略の電源に接続される。当該電源から電極部41を介して一対の電極層31間に電圧が印加されると、ハニカム構造体2に電流が流れ、ハニカム構造体2はジュール熱により発熱する。これにより、ハニカム構造体2に担持されている触媒が予熱される。電気加熱触媒1に印加される電圧は、例えば12V~900Vであり、好ましくは64V~600Vである。なお、当該電圧は適宜変更されてよい。
【0028】
ハニカム構造体2は、内部が複数のセル23に仕切られたセル構造体である。ハニカム構造体2は、筒状外壁21と、隔壁22とを備える。筒状外壁21は、長手方向(すなわち、
図1中の紙面に垂直な方向)に延びる筒状の部位である。長手方向に垂直な筒状外壁21の断面形状は、略円形である。当該断面形状は、楕円形や多角形等の他の形状であってもよい。
【0029】
隔壁22は、筒状外壁21の内部に設けられ、当該内部を複数のセル23に仕切る格子状の部材である。複数のセル23はそれぞれ、ハニカム構造体2の略全長に亘って長手方向に延びる空間である。各セル23は、排ガスが流れる流路であり、排ガスの浄化処理に利用される触媒は隔壁22に担持される。長手方向に垂直な各セル23の断面形状は、例えば、略矩形である。当該断面形状は、多角形または円形等の他の形状であってもよい。排ガスがセル23を流れる際の圧力損失低減の観点からは、当該断面形状は四角形または六角形であることが好ましい。また、ハニカム構造体2の構造強度向上および加熱均一性の観点からは、当該断面形状は長方形であることが好ましい。複数のセル23は、原則として同じ断面形状を有する。複数のセル23には、異なる断面形状のセル23が含まれてもよい。
【0030】
筒状外壁21の長手方向の長さは、例えば、30mm~200mmである。筒状外壁21の外径は、例えば、25mm~120mmである。ハニカム構造体2の底面の面積(すなわち、ハニカム構造体2の底面において筒状外壁21に囲まれる領域の面積)は、ハニカム構造体2の耐熱性向上の観点から、2000mm2~ 20000mm2であることが好ましく、5000mm2~ 15000mm2であることがさらに好ましい。筒状外壁21の厚さは、セル23を流れる流体の流出防止、ハニカム構造体2の強度向上、および、筒状外壁21と隔壁22との強度バランスの観点から、例えば0.1mm~1.0mmであり、好ましくは0.15mm~0.7mmであり、より好ましくは0.2mm~0.5mmである。
【0031】
隔壁22の長手方向の長さは、筒状外壁21と略同じである。隔壁22の厚さは、ハニカム構造体2の強度向上、および、排ガスがセル23を流れる際の圧力損失低減の観点から、例えば0.1mm~0.3mmであり、好ましくは0.15mm~0.25mmである。
【0032】
ハニカム構造体2のセル密度(すなわち、長手方向に垂直な断面における単位面積当たりのセル23の数)は、隔壁22の触媒担持面積の増大、および、排ガスがセル23を流れる際の圧力損失低減の観点から、例えば、40セル/cm2~150セル/cm2であり、好ましくは70セル/cm2~100セル/cm2である。当該セル密度は、ハニカム構造体2の底面における筒状外壁21の内周縁よりも内側の領域の面積により、ハニカム構造体2の全セル数を除算することにより求められる。セル23の大きさ、数、セル密度等は、様々に変更されてよい。
【0033】
ハニカム構造体2の筒状外壁21および隔壁22は、以下に説明する複合焼結体を含んで構成される。本実施の形態では、筒状外壁21および隔壁22は、実質的に当該複合焼結体のみにより構成される。
【0034】
当該複合焼結体は、シリコン相と、コージェライト相と、非晶質相とを含む多孔質セラミックスである。シリコン相は、複合焼結体の主相であり、複合焼結体の骨材である複数のシリコン粒子を含む。複合焼結体では、複数のシリコン粒子が連続することにより導通パスが形成される。本明細書では、「シリコン相」とは、主にシリコンにより構成される結晶相であり、シリコン以外の不純物(例えば、シリコン以外の金属)が含まれていてもよい。不純物の含有率は、シリコン100質量部に対して1質量部以下である。また、「シリコン」とは、Si元素からなる物質(単体)のことを意味する。
【0035】
コージェライト相は、主に、シリコン相の複数のシリコン粒子間に存在し、複数のシリコン粒子を結合させる結合材(すなわち、マトリックス)である。複合焼結体では、複数のシリコン粒子が、シリコン粒子間に細孔を形成するようにコージェライト相によって結合されていることが好ましい。複合焼結体では、熱膨張率が比較的低いコージェライト相が含まれることにより、複合焼結体の耐熱衝撃性が向上される。本明細書では、「コージェライト相」とは、主にコージェライトにより構成される結晶相であり、コージェライト以外の不純物が含まれていてもよい。当該不純物として、例えば、コージェライトの多形(同質異像ともいう。)であるインディアライトが挙げられる。
【0036】
非晶質相は、Siを含む非晶質の相であり、本実施の形態では、主に、非晶質シリカ(すなわち、非晶質の二酸化珪素(SiO2))により構成される酸化物相である。当該非晶質相は、主に、シリコン相のシリコン粒子の表面に存在し、当該シリコン粒子を部分的または全体的に被覆する。これにより、複合焼結体が高温酸化雰囲気に曝露された場合であっても、シリコン粒子の酸化が抑制され、複合焼結体の体積抵抗率の変化が抑制される。換言すれば、複合焼結体の耐酸化性が向上される。非晶質相に含まれる非晶質シリカは、例えば、シリコン相のシリコン粒子の表面が酸化されることにより生成される。なお、非晶質相は、非晶質シリカ以外の酸化物、および/または、酸化物以外の非晶質を含んでいてもよい。
【0037】
複合焼結体は、さらに、クリストバライト相を含んでいてもよい。本明細書では、「クリストバライト相」とは、主にクリストバライトにより構成される結晶相であり、クリストバライト以外の不純物が含まれていてもよい。クリストバライト相は、例えば、シリコン相のシリコン粒子の表面、並びに、シリコン粒子を被覆する非晶質相の膜の表面および内部等に存在する。クリストバライト相は、例えば、シリコン相のシリコン粒子の表面が酸化されることにより生成される。
【0038】
複合焼結体は、さらに、ムライト相を含んでいてもよい。本明細書では、「ムライト相」とは、主にムライトより構成される結晶相であり、ムライト以外の不純物が含まれていてもよい。ムライト相は、例えば、シリコン相のシリコン粒子の表面、並びに、シリコン粒子を被覆する非晶質相の膜の表面および内部等に存在する。ムライト相は、例えば、シリコン粒子の表面が酸化されて生成されたクリストバライトを材料として消費して反応焼成等により生成される。これにより、複合焼結体の緻密性が向上され、複合焼結体の耐酸化性および強度が向上される。また、クリストバライト相の減少によって複合焼結体の熱膨張率が低減されるため、複合焼結体の耐熱衝撃性も向上される。
【0039】
複合焼結体におけるシリコン相、コージェライト相およびムライト相の含有率は、X線回折法(XRD)により得られるシリコン、コージェライトおよびムライトのピーク強度を用いて規定することができる。以下の説明では、シリコンの(111)面のピーク強度をI1と呼び、コージェライトの(110)面のピーク強度をI2と呼び、ムライトの(120)面のピーク強度をI3と呼ぶ。
【0040】
シリコンおよびコージェライトのピーク比を示す「I1/(I1+I2)」は、好ましくは0.80以上かつ0.97以下である。I1/(I1+I2)を0.80以上とすることにより、導電パスを形成するシリコン相の含有率の過剰な低下が抑制され、複合焼結体の体積抵抗率が低くなる。また、複合焼結体の耐酸化性が向上され、複合焼結体が高温酸化雰囲気に曝露された場合であっても、複合焼結体の体積抵抗率の変化が抑制される。I1/(I1+I2)を0.97以下とすることにより、熱膨張率が低いコージェライト相の含有率の過剰な低下が抑制され、複合焼結体の熱膨張率が低くなるため、複合焼結体の耐熱衝撃性が向上される。I1/(I1+I2)は、0.85以上であることがより好ましい。また、I1/(I1+I2)は、0.95以下であることがより好ましい。
【0041】
ムライト、シリコンおよびコージェライトのピーク比を示す「I3/(I1+I2+I3)」は、好ましくは0.001以上かつ0.006以下である。I3/(I1+I2+I3)を0.001以上とすることにより、複合焼結体の耐酸化性、強度および耐熱衝撃性が好適に向上される。また、I3/(I1+I2+I3)を0.006以下とすることにより、体積抵抗率の増大が抑制される。I3/(I1+I2+I3)は、0.002以上であることがより好ましい。また、I3/(I1+I2+I3)は、0.003以下であることがより好ましい。
【0042】
室温における複合焼結体の体積抵抗率は、0.1Ω・cm以上かつ2.5Ω・cm以下である。本明細書では、「室温」とは20℃を意味し、「体積抵抗率」とは、特に断りがない限り、室温における体積抵抗率を意味する。複合焼結体の体積抵抗率が2.5Ω・cm以下とされることにより、電気加熱触媒1の通電性が向上され、電気加熱触媒1の迅速な昇温が実現される。また、複合焼結体の体積抵抗率が0.1Ω・cm以上とされることにより、複合焼結体に比較的高い電圧が付与された場合であっても、過剰に電流が流れて電気回路が損傷することが防止される。複合焼結体の体積抵抗率は、好ましくは1.0Ω・cm以下である。また、複合焼結体の体積抵抗率は、好ましくは0.15Ω・cm以上である。当該体積抵抗率は、四端子法(JIS C2525)により測定可能である。ハニカム構造体の体積抵抗率を測定する場合の断面積は、開口率を用いて補正した。
【0043】
複合焼結体を高温酸化雰囲気である950℃の大気中に50時間曝露した後の体積抵抗率の変化率(以下、「抵抗変化率」とも呼ぶ。)は、好ましくは100%以下である。当該変化率は、複合焼結体を950℃の大気中に50時間曝露した後の体積抵抗率を、当該曝露を行う前の複合焼結体の体積抵抗率(以下、「初期抵抗率」とも呼ぶ。)により除算した値から、1を減算した結果を百分率で表したものである。本明細書では、「抵抗変化率」とは、特に断りがない限り、950℃の大気中に50時間曝露した後の複合焼結体の体積抵抗率の変化率を意味する。
【0044】
複合焼結体の抵抗変化率が100%以下とされることにより、複合焼結体が高温酸化雰囲気に曝露された場合であっても、複合焼結体の体積抵抗率の変動が好適に抑制される。これにより、電気加熱触媒1の通電性能等の諸性能が所望の範囲内に維持される。複合焼結体の抵抗変化率は、より好ましくは50%以下であり、さらに好ましくは25%以下であり、より一層好ましくは5%以下である。なお、複合焼結体の体積抵抗率は、シリコン相やコージェライト相に含まれる不純物等の影響により低下する可能性がある。この場合、抵抗変化率は、-50%以上であることが好ましく、-25%以上であることが、より好ましい。複合焼結体の体積抵抗率は変動しないことが望ましいため、抵抗変化率は0%に近いことが望ましい。
【0045】
複合焼結体の気孔率は、15%以上かつ40%以下であることが好ましい。当該気孔率を15%以上とすることにより、複合焼結体のヤング率が低減され、熱衝撃性が向上される。また、当該気孔率を40%以下とすることにより、複合焼結体の緻密性が向上される。その結果、複合焼結体の体積抵抗率が低減されるとともに、耐酸化性および強度が向上される。当該気孔率は、例えば、水銀ポロシメータ等を用いて水銀圧入法(JIS R1655)により測定可能である。複合焼結体の気孔率は、17%以上であることがより好ましい。また、複合焼結体の気孔率は、30%以下であることがより好ましい。
【0046】
複合焼結体の気孔径は、1.0μm以上かつ3.5μm以下であることが好ましい。これにより、複合焼結体の緻密性が担保される。その結果、複合焼結体の体積抵抗率が低減されるとともに、耐酸化性および強度が向上される。本明細書では、「気孔径」とは、複合焼結体の平均細孔径を意味する。当該気孔径は、例えば、水銀ポロシメータ等を用いて水銀圧入法(JIS R1655)により測定可能である。複合焼結体の気孔径は、1.5μm以上であることがより好ましい。また、複合焼結体の気孔径は、3.0μm以下であることがより好ましい。
【0047】
複合焼結体の嵩密度は、1.4g/cm3以上かつ2.2g/cm3以下であることが好ましい。当該嵩密度を1.4g/cm3以上とすることにより、複合焼結体の体積抵抗率が低減されるとともに、複合焼結体の耐酸化性および強度が向上される。また、当該嵩密度を2.2g/cm3以下とすることにより、複合焼結体の熱容量が低減されて昇温されやすくなる。当該嵩密度は、例えば、水銀ポロシメータ等を用いて水銀圧入法(JIS R1655)により測定可能である。複合焼結体の嵩密度は、1.7g/cm3以上であることがより好ましい。また、複合焼結体の嵩密度は、2.0g/cm3以下であることがより好ましい。
【0048】
電極層31は、ハニカム構造体2の外側面に沿って長手方向に延びるとともに、中心軸J1を中心とする周方向(以下、単に「周方向」とも呼ぶ。)に広がる。電極層31は、電極部41からの電流を長手方向および周方向に広げ、ハニカム構造体2の発熱の均一性を向上させる。電極層31の長手方向の長さは、例えば、ハニカム構造体2の長手方向の長さの80%以上であり、好ましくは90%以上である。より好ましくは、電極層31は、ハニカム構造体2の全長に亘って延びる。
【0049】
電極層31の周方向の角度(すなわち、
図1において、電極層31の周方向両端から中心軸J1に延ばした2つの線分が成す角度)は、例えば30°以上であり、好ましくは40°以上であり、より好ましくは60°以上である。一方、一対の電極層31が近づきすぎてハニカム構造体2内部を流れる電流が減少することを抑制するという観点からは、電極層31の周方向の角度は、例えば140°以下であり、好ましくは130°以下であり、より好ましくは120°以下である。
【0050】
図1に示す例では、一対の電極層31の中心間の周方向の角度(すなわち、
図1において、2つの電極層31の周方向中心から中心軸J1に延ばした2つの線分が成す180°以下の角度)は180°であるが、当該角度は適宜変更されてよい。例えば、当該角度は150°以上であり、好ましくは160°以上であり、より好ましくは170°以上である。
【0051】
電極層31の厚さ(すなわち、径方向における厚さ)は、電気抵抗が過大となることを防止するとともに、ハニカム構造体2を容器内に収納する際の(すなわち、キャニング時の)破損を防止するという観点から、例えば0.01mm~5mmであり、好ましくは0.01mm~3mmである。
【0052】
電極層31の体積抵抗率は、ハニカム構造体2の体積抵抗率よりも低いことが好ましい。これにより、ハニカム構造体2に比べて電極層31に電流が流れやすくなり、ハニカム構造体2の長手方向および周方向に電流が広がりやすくなる。
【0053】
電極層31は、例えば、導電性セラミックス、金属、または、導電性セラミックスと金属との複合材により形成される。当該導電性セラミックスは、例えば、炭化珪素(SiC)、または、珪化タンタル(TaSi2)や珪化クロム(CrSi2)等の金属珪化物である。当該金属は、例えば、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、Siまたはチタン(Ti)である。電極層31の材質は、1種または2種以上の金属に、熱膨張率低減の観点から、アルミナ、ムライト、ジルコニア、コージェライト、窒化珪素および窒化アルミニウム等を添加した複合材であってもよい。
【0054】
電極層31の材質は、ハニカム構造体2と同時に焼成可能であるものが好ましい。電極層31の材質は、耐熱性と導電性との両立の観点から、SiCまたは珪素-炭化珪素(Si-SiC)複合材を主成分とする(具体的には、90質量%以上含有する)セラミックスであることが好ましく、SiCまたはSi-SiC複合材であることがより好ましい。Si-SiC複合材は、骨材としてのSiC粒子、および、SiC粒子を結合させる結合材としてのSiを含有するものであり、複数のSiC粒子が、SiC粒子間に細孔を形成するようにして、Siによって結合されていることが好ましい。
【0055】
電極部41は、例えば、単体金属または合金により形成される。電極部41の材質は、高耐食性と、適切な体積抵抗率および熱膨張率とを有するという観点から、Cr、Fe、Co、Ni、Tiおよびアルミニウム(Al)のうち少なくとも1種を含む合金であることが好ましい。電極部41は、好ましくはステンレス鋼であり、Alを含むことがより好ましい。また、電極部41は、金属-セラミックス混合部材により形成されてもよい。当該金属-セラミックス混合部材に含まれる金属は、例えば、Cr、Fe、Co、Ni、SiまたはTiの単体金属、あるいは、これらの金属よりなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有する合金である。当該金属-セラミックス混合部材に含まれるセラミックスは、例えば、炭化珪素(SiC)、または、金属珪化物(例えば、珪化タンタル(TaSi2)や珪化クロム(CrSi2))等の金属化合物である。当該セラミックスとして、サーメット(すなわち、セラミックスと金属との複合材)が用いられてもよい。当該サーメットは、例えば、金属珪素と炭化珪素の複合材、金属珪化物と金属珪素と炭化珪素の複合材、または、上述の1種以上の金属に、アルミナ、ムライト、ジルコニア、コージェライト、窒化珪素および窒化アルミ等の絶縁性セラミックスを1種以上添加した複合材である。
【0056】
接合部42はそれぞれ、例えば、金属および酸化物を含む複合材料により形成される。当該金属は、例えば、ステンレス鋼、Ni-Fe系合金およびSiのうち1種以上である。当該酸化物は、コージェライト系ガラス、二酸化珪素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、および、これらの複合酸化物のうち1種以上である。
【0057】
接合部42は、金属以外の導電性物質を、上記金属に代えて、あるいは、上記金属に加えて含んでいてもよい。当該導電性物質は、例えば、ホウ化亜鉛やホウ化タンタル等のホウ化物、窒化チタンや窒化ジルコニウム等の窒化物、および、炭化珪素や炭化タングステン等の炭化物のうち1種以上である。
【0058】
次に、
図2を参照しつつ、ハニカム構造体2の製造の流れの一例について説明する。まず、シリコン原料およびコージェライト原料を含む原料粉末(すなわち、シリコン相およびコージェライト相の原料粉末)、並びに、バインダや造孔剤等が、所定の組成になるように秤量され、乾式ミキサにより乾式混合されることにより、混合粉末が得られる。なお、焼結体にコージェライトを複合化する場合、原料粉末は、コージェライト自体ではなく、焼成過程における反応によりコージェライトを生成する原料(例えば、カオリン、タルク、アルミナ、シリカ、マグネシア、フォルステライト、エンスタタイト等から選択された1種以上の物質)を含んでいてもよい。また、当該原料粉末およびバインダ等の混合は、溶媒(例えば、イオン交換水または有機溶媒等)を用いた湿式混合により行われてもよい。
【0059】
上記混合粉末には、主原料であるシリコン原料およびコージェライト原料に加えて、助剤が添加されてもよい。当該助剤は、例えば、上述のクリストバライト相からのムライト相の生成時に利用される。当該助剤は、例えば、シリカ+アルミナ系の様な、焼成後にムライトが生成するムライト系酸化物の助剤である。
【0060】
なお、上記混合粉末には、ホウ素(B)は含まれないことが好ましい。これにより、複合焼結体の製造の際に、ホウケイ酸塩に起因するシリコン粒子同士の焼結阻害が生じず、ハニカム構造体2の部位毎の体積抵抗率のばらつきが抑制される。また、ハニカム構造体2の製造時における焼成収縮が低減されるため、ハニカム構造体2の寸法精度が向上される。
【0061】
続いて、上述の混合粉末と適量の水等とがニーダーにより混練され、得られた混練物から土練機により坏土が作製される。そして、当該坏土が押出成形されることにより、ハニカム構造を有する成形体(以下、「ハニカム成形体」とも呼ぶ。)が作製される(ステップS11)。次に、ハニカム成形体に対して、マイクロ波乾燥が行われた後、100℃にて熱風乾燥が行われる。さらに、乾燥後のハニカム成形体に対して、大気雰囲気下にて450℃で脱脂が行われる。
【0062】
脱脂後のハニカム成形体は、アルゴン(Ar)雰囲気等の不活性ガス雰囲気下にて1375℃にて0.5時間~10時間焼成される。これにより、ハニカム構造を有する焼成体(以下、「ハニカム焼成体」とも呼ぶ。)が作製される(ステップS12)。
【0063】
その後、ハニカム焼成体の酸化処理が行われることにより、上述のハニカム構造体2が作製される(ステップS13)。ステップS13の酸化処理は、ハニカム構造体2が使用時に酸化雰囲気に曝露される前に行われる予備的な酸化処理であり、以下、「予備酸化処理」とも呼ぶ。当該予備酸化処理は、例えば、大気雰囲気下においてハニカム焼成体が1250℃にて5時間~10時間加熱されることにより行われる。当該予備酸化処理は、酸化エージングとも呼ばれる。ハニカム焼成体に対して予備酸化処理が行われることにより、シリコン相のシリコン粒子の表面に非晶質シリカが生成され、シリコン粒子の表面が非晶質シリカ(すなわち、非晶質相)により被覆される。なお、予備酸化処理の際の温度、時間および雰囲気等は、様々に変更されてよい。また、上述のハニカム成形体の乾燥、脱脂および焼成の際の温度、時間および雰囲気等も、様々に変更されてよい。
【0064】
ハニカム構造体2の製造では、コージェライト原料の粒径に対するシリコン原料の粒径の割合は、所定の範囲内に含まれることが好ましい。具体的には、シリコン原料の粉末のメディアン径(D50)をd1とし、コージェライト原料の粉末のメディアン径(D50)をd2とすると、粒径比d1/d2は0.25以上かつ1.25以下であることが好ましい。d1/d2が0.25以上とされることにより、ハニカム成形体の焼成時において、コージェライト粒子がシリコン粒子に対して過剰に大きくなって導通パスを阻害することが抑制される。また、d1/d2が1.25以下とされることにより、ハニカム成形体の焼成時において、コージェライトの焼結が先行してシリコンの焼結が阻害されることが抑制される。このため、シリコンの焼結粒子の分布の均一性が向上される。その結果、ハニカム構造体2の緻密性が向上されるとともに、体積抵抗率が低減される。
【0065】
電気加熱触媒1は、上述のように製造されたハニカム構造体2に、一対の電極層31、および、一対の電極部41が固定されることにより製造される。電気加熱触媒1では、ハニカム構造体2の複数のセル23の内側面(すなわち、隔壁22の側面)に触媒が担持さされる。なお、一対の電極層31は、ハニカム構造体2の前駆体であるハニカム成形体に電極層31の原料である電極層ペーストが付与され、ハニカム成形体および電極層ペーストが共に焼成されることにより、ハニカム構造体2と同時に形成されてもよい。
【0066】
次に、表1~表3を参照しつつ、本発明に係るハニカム構造体2の実施例、および、ハニカム構造体2と比較するための比較例について説明する。表1は、実施例のハニカム構造体2および比較例のハニカム構造体の作製条件を示し、表2~表3は、実施例のハニカム構造体2および比較例のハニカム構造体の組成および特性を示す。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
表1に示すように、実施例1~11および比較例1では、シリコン原料およびコージェライト原料のメディアン径(D50)(以下、単に「粒径」とも呼ぶ。)および組成、並びに、助剤の有無および組成を変更している。
【0071】
実施例1~11のハニカム構造体2は、上述のステップS11~S13により製造した。比較例1のハニカム構造体についても同様である。上述のように、原料粉末の混合は、乾式ミキサにより行った。ハニカム成形体の乾燥、脱脂および焼成の際の温度、時間および雰囲気等、並びに、予備酸化処理の際の温度、時間および雰囲気等は、上記のものから変更していない。
【0072】
表2中の構成相のうち結晶相は、ハニカム構造体2の隔壁22から切り出された試験片の研磨面を、X線回折装置により測定して同定した。X線回折装置としては、封入管式X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製 D8-ADVANCE)を使用した。測定条件は、CuKα,40kV,40mA、一次検出器を用い集中光学系で、発散スリットは0.3°、ソーラースリットは4.1°、ステップ幅は0.02°、スキャン速度は0.2s/step、試料回転速度は15rpmとして、2θ=10°~70°を測定した。また、所定の角度で検出されるピークの高さをピーク強度と定義し、シリコンの2θ=28.44°に検出される(111)面のピーク強度I1、コージェライトの2θ=10.48°に検出される(110)面のピーク強度をI2、および、ムライトの2θ=26.27°に検出される(120)面のピーク強度I3も、上述のX線回折装置を用いて求めた。また、非晶質相の有無については、X線回折パターン中のハローの有無で判断し、その構成成分はEDS(エネルギー分散型X線分光解析)によって析出した。非晶質相の有無の判断手法は上記に限定されるものではなく、例えば、透過電子顕微鏡(TEM)または走査型透過顕微鏡(STEM)から得られる電子回折図形のハローの有無からも、非晶質相の有無の判断が可能である。
【0073】
表3中の気孔率、気孔径および嵩密度は、上述のように、水銀ポロシメータを用いて水銀圧入法(JIS R1655)により測定した。また、表3中の初期抵抗率は、四端子法(JIS C2525)により測定した体積抵抗率である。抵抗変化率は、上述の方法により求めた。具体的には、ハニカム構造体2の隔壁22から切り出された試験片を950℃の大気中に50時間曝露した後、当該試験片の体積抵抗率(以下、「曝露後抵抗率」とも呼ぶ。)を四端子法により測定した。そして、曝露後抵抗率を初期抵抗率により除算した値から、1を減算した結果を百分率で表したものを抵抗変化率とした。
【0074】
実施例1では、ハニカム構造体2の主原料であるシリコン原料およびコージェライト原料について、シリコン原料の粒径(D50)d1は、2.0μmであり、コージェライト原料の粒径(D50)d2は、8.0μmである。したがって、粒径比d1/d2は0.25である。また、主原料中のシリコン原料の含有率は80.0質量%であり、コージェライト原料の含有率は20.0質量%である。なお、助剤であるムライト系酸化物は添加されていない。
【0075】
実施例1のハニカム構造体2の構成相は、シリコン相、コージェライト相、クリストバライト相および非晶質シリカであった。シリコンおよびコージェライトのピーク比I1/(I1+I2)は、0.95であった。なお、上記構成相にムライト相は含まれていないため、ムライト、シリコンおよびコージェライトのピーク比I3/(I1+I2+I3)は算出していない。ハニカム構造体2の気孔率、気孔径および嵩密度は、20.8%、3.4μm、および、1.87g/cm3であった。また、ハニカム構造体2の初期抵抗率は、0.15Ω・cmと低く、抵抗変化率は20%と小さかった。
【0076】
実施例2では、主原料中のシリコン原料およびコージェライト原料の含有率をそれぞれ、65.0質量%および35.0質量%に変更した点を除き、ハニカム構造体2の作製条件は実施例1と同じである。ハニカム構造体2の構成相は、実施例1と同じであった。
図3は、実施例2のハニカム構造体2の研磨断面を示すSEM(走査型電子顕微鏡)画像である。
図3中の白色部81はシリコン相であり、白色部81の周囲の灰色部82はコージェライト相であり、黒色部83は気孔である。シリコンおよびコージェライトのピーク比I
1/(I
1+I
2)は、0.91であった。ハニカム構造体2の気孔率、気孔径および嵩密度は、22.4%、2.6μm、および、1.85g/cm
3であった。また、ハニカム構造体2の初期抵抗率は、0.18Ω・cmと低く、抵抗変化率は24%と小さかった。
【0077】
実施例3では、主原料中のシリコン原料およびコージェライト原料の含有率をそれぞれ、50.0質量%および50.0質量%に変更した点を除き、ハニカム構造体2の作製条件は実施例1と同じである。ハニカム構造体2の構成相は、実施例1と同じであった。シリコンおよびコージェライトのピーク比I1/(I1+I2)は、0.84であった。ハニカム構造体2の気孔率、気孔径および嵩密度は、24.3%、1.9μm、および、1.83g/cm3であった。また、ハニカム構造体2の初期抵抗率は、0.35Ω・cmと低く、抵抗変化率は40%と小さかった。
【0078】
比較例1では、主原料中のシリコン原料およびコージェライト原料の含有率をそれぞれ、40.0質量%および60.0質量%に変更した点を除き、ハニカム構造体の作製条件は実施例1と同じである。ハニカム構造体の構成相は、実施例1と同じであった。シリコンおよびコージェライトのピーク比I1/(I1+I2)は、0.77であった。ハニカム構造体2の気孔率、気孔径および嵩密度は、25.4%、1.7μm、および、1.81g/cm3であった。また、ハニカム構造体の初期抵抗率は、2.80Ω・cmと高かった。ハニカム構造体の抵抗変化率は51%であった。
【0079】
実施例4では、主原料中のシリコン原料の粒径d1を6.0μmに変更した点を除き、ハニカム構造体2の作製条件は実施例2と同じである。粒径比d1/d2は0.75である。ハニカム構造体2の構成相は、実施例2と同じであった。シリコンおよびコージェライトのピーク比I1/(I1+I2)は、0.93であった。ハニカム構造体2の気孔率、気孔径および嵩密度は、38.4%、2.2μm、および、1.47g/cm3であった。また、ハニカム構造体2の初期抵抗率は、0.34Ω・cmと低く、抵抗変化率は39%と小さかった。
【0080】
実施例5では、主原料中のシリコン原料の粒径d1を10μmに変更した点を除き、ハニカム構造体2の作製条件は実施例2と同じである。粒径比d1/d2は1.25である。ハニカム構造体2の構成相は、実施例2と同じであった。シリコンおよびコージェライトのピーク比I1/(I1+I2)は、0.92であった。ハニカム構造体2の気孔率、気孔径および嵩密度は、39.8%、2.6μm、および、1.44g/cm3であった。また、ハニカム構造体2の初期抵抗率は、1.03Ω・cmと低く、抵抗変化率は63%と小さかった。
【0081】
実施例6では、主原料中のコージェライト原料の粒径d2を15μmに変更した点を除き、ハニカム構造体2の作製条件は実施例2と同じである。粒径比d1/d2は0.13である。ハニカム構造体2の構成相は、実施例2と同じであった。シリコンおよびコージェライトのピーク比I1/(I1+I2)は、0.89であった。ハニカム構造体2の気孔率、気孔径および嵩密度は、24.0%、2.9μm、および、1.80g/cm3であった。また、ハニカム構造体2の初期抵抗率は、0.58Ω・cmと低く、抵抗変化率は30%と小さかった。
【0082】
実施例7では、主原料中のコージェライト原料の粒径d2を20μmに変更した点を除き、ハニカム構造体2の作製条件は実施例2と同じである。粒径比d1/d2は0.10である。ハニカム構造体2の構成相は、実施例2と同じであった。シリコンおよびコージェライトのピーク比I1/(I1+I2)は、0.89であった。ハニカム構造体2の気孔率、気孔径および嵩密度は、25.1%、3.0μm、および、1.78g/cm3であった。また、ハニカム構造体2の初期抵抗率は、0.65Ω・cmと低く、抵抗変化率は34%と小さかった。
【0083】
実施例8では、主原料中のコージェライト原料の粒径d2を30μmに変更した点を除き、ハニカム構造体2の作製条件は実施例2と同じである。粒径比d1/d2は0.07である。ハニカム構造体2の構成相は、実施例2と同じであった。シリコンおよびコージェライトのピーク比I1/(I1+I2)は、0.90であった。ハニカム構造体2の気孔率、気孔径および嵩密度は、26.0%、3.1μm、および、1.76g/cm3であった。また、ハニカム構造体2の初期抵抗率は、0.86Ω・cmと低く、抵抗変化率は38%と小さかった。
【0084】
実施例9では、ハニカム構造体2の作成時に助剤としてムライト系酸化物を添加した点を除き、ハニカム構造体2の作製条件は実施例2と同じである。ムライト系酸化物は、主原料(すなわち、シリコン原料およびコージェライト原料)100質量部に対して、3質量部を添加している。ハニカム構造体2の構成相は、実施例2のシリコン相、コージェライト相、クリストバライト相および非晶質シリカに加えて、ムライト相を含んでいた。シリコンおよびコージェライトのピーク比I1/(I1+I2)は、0.90であった。ムライト、シリコンおよびコージェライトのピーク比I3/(I1+I2+I3)は0.0011であった。ハニカム構造体2の気孔率、気孔径および嵩密度は、18.7%、1.9μm、および、1.92g/cm3であった。また、ハニカム構造体2の初期抵抗率は、0.15Ω・cmと低く、抵抗変化率は2.7%と小さかった。
【0085】
実施例10では、助剤の添加量を変更した点を除き、ハニカム構造体2の作製条件は実施例9と同じである。助剤であるムライト系酸化物は、主原料(すなわち、シリコン原料およびコージェライト原料)100質量部に対して、6質量部を添加している。ハニカム構造体2の構成相は、実施例9と同じであった。シリコンおよびコージェライトのピーク比I1/(I1+I2)は、0.90であった。ムライト、シリコンおよびコージェライトのピーク比I3/(I1+I2+I3)は0.0023であった。ハニカム構造体2の気孔率、気孔径および嵩密度は、17.6%、1.7μm、および、1.97g/cm3であった。また、ハニカム構造体2の初期抵抗率は、0.15Ω・cmと低く、抵抗変化率は2.3%と小さかった。
【0086】
実施例11では、助剤の添加量を変更した点を除き、ハニカム構造体2の作製条件は実施例9と同じである。助剤であるムライト系酸化物は、主原料(すなわち、シリコン原料およびコージェライト原料)100質量部に対して、12質量部を添加している。ハニカム構造体2の構成相は、実施例9と同じであった。シリコンおよびコージェライトのピーク比I1/(I1+I2)は、0.89であった。ムライト、シリコンおよびコージェライトのピーク比I3/(I1+I2+I3)は0.0053であった。ハニカム構造体2の気孔率、気孔径および嵩密度は、15.3%、1.2μm、および、2.06g/cm3であった。また、ハニカム構造体2の初期抵抗率は、0.14Ω・cmと低く、抵抗変化率は2.1%と小さかった。
【0087】
上述のように、実施例1~3および比較例1では、主原料中のシリコン原料およびコージェライト原料の含有率を変更している。その結果、主原料中のシリコン原料の含有率が40質量%である比較例1では初期抵抗率が2.80Ω・cm(すなわち、2.50Ω・cmよりも大)と高かったのに対し、当該含有率が50質量%~80質量%である実施例1~3では、初期抵抗率は0.15Ω・cm~0.35Ω・cmと低かった。また、実施例1~3の抵抗変化率は20%~40%であり、比較例1の抵抗変化率(51%)よりも小さかった。したがって、初期抵抗率を2.50Ω・cm以下まで低くするという観点からは、主原料中のシリコン原料の含有率は40質量%よりも大きいことが好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。
【0088】
また、実施例1~3に注目すると、主原料中のシリコン原料の含有率が50質量%である実施例3では初期抵抗率が0.35Ω・cmであったのに対し、当該含有率が65質量%~80質量%である実施例1~2では、初期抵抗率は0.15Ω・cm~0.18Ω・cmとさらに低かった。また、実施例3の抵抗変化率は40%であったのに対し、実施例1~2の抵抗変化率は20%~24%とさらに小さかった。
【0089】
したがって、初期抵抗率をさらに低くする(例えば、0.20Ω・cm以下まで低くする)という観点からは、主原料中のシリコン原料の含有率は50質量%よりも大きいことが好ましく、65質量%以上であることがさらに好ましい。また、抵抗変化率をさらに小さくする(例えば、25%以下まで小さくする)という観点からも、主原料中のシリコン原料の含有率は50質量%よりも大きいことが好ましく、65質量%以上であることがさらに好ましい。
【0090】
上述のように、実施例2および実施例4~5では、シリコン原料の粒径d1を2.0μm~10μmの範囲で変更しており、粒径比d1/d2は0.25~1.25の範囲で変化している。その結果、粒径比d1/d2が1.25である実施例5では初期抵抗率が1.03Ω・cmであったのに対し、粒径比d1/d2が0.25~0.75である実施例2,4では、初期抵抗率は0.18Ω・cm~0.34Ω・cmとさらに低かった。また、実施例2,4の抵抗変化率は24%~39%であり、実施例5の抵抗変化率(63%)よりもさらに小さかった。
【0091】
したがって、初期抵抗率をさらに低くする(例えば、0.50Ω・cm以下まで低くする)という観点からは、粒径比d1/d2は1.25未満であることが好ましく、0.75以下であることがさらに好ましい。また、抵抗変化率をさらに小さくする(例えば、50%以下まで小さくする)という観点からも、粒径比d1/d2は1.25未満であることが好ましく、0.75以下であることがさらに好ましい。
【0092】
上述のように、実施例2および実施例6~8では、コージェライト原料の粒径d2を8.0μm~30μmの範囲で変更しており、粒径比d1/d2は0.07~0.25の範囲で変化している。その結果、粒径比d1/d2が0.07である実施例8では初期抵抗率が0.86Ω・cmであったのに対し、粒径比d1/d2が0.10~0.25である実施例2,6~7では、初期抵抗率は0.18Ω・cm~0.65Ω・cmとさらに低かった。また、実施例2,6~7の抵抗変化率は24%~34%であり、実施例8の抵抗変化率(38%)よりもさらに小さかった。
【0093】
したがって、初期抵抗率をさらに低くする(例えば、0.75Ω・cm以下まで低くする)という観点からは、粒径比d1/d2は0.07よりも大きいことが好ましく、0.10以上であることがさらに好ましい。また、抵抗変化率をさらに小さくする(例えば、35%以下まで小さくする)という観点からも、粒径比d1/d2は0.07よりも大きいことが好ましく、0.10以上であることがさらに好ましい。さらには、初期抵抗率をより一層低くする(例えば、0.50Ω・cm以下まで低くする)という観点からは、粒径比d1/d2は0.13よりも大きいことが好ましく、0.25以上であることがさらに好ましい。また、抵抗変化率をより一層小さくする(例えば、25%以下まで小さくする)という観点からも、粒径比d1/d2は0.13よりも大きいことが好ましく、0.25以上であることがさらに好ましい。
【0094】
上述のように、実施例2と実施例9~11とでは、ムライト系酸化物の添加の有無が異なる。実施例2では、ムライト相は生成されておらず、初期抵抗率は0.18Ω・cmであったのに対し、ムライト系酸化物を添加した実施例9~11では、ムライト相が生成されており、初期抵抗率は0.14Ω・cm~0.15Ω・cmとさらに低かった。また、実施例9~11の抵抗変化率は2.1%~2.7%であり、実施例2の抵抗変化率(24%)よりもさらに小さかった。なお、実施例9~11では、気孔率および気孔径は実施例2よりも小さく、嵩密度は実施例2よりも大きかった。すなわち、実施例9~11では、実施例2に比べてハニカム構造体2の緻密性が向上していた。
【0095】
したがって、初期抵抗率をさらに低くする(例えば、0.15Ω・cm以下まで低くする)という観点からは、ムライト系酸化物等の助剤を添加し、ムライト相を生成することが好ましい。また、抵抗変化率をさらに小さくする(例えば、5%以下まで小さくする)という観点からも、ムライト系酸化物等の助剤を添加し、ムライト相を生成することが好ましい。さらには、嵩密度を増大させて緻密性を向上させる(例えば、嵩密度を2.00g/cm3以上まで増大させる)という観点からは、ムライト系酸化物の添加量はそれぞれ、主原料(すなわち、シリコン原料およびコージェライト原料)100質量部に対して、12質量部以上であることがさらに好ましい。
【0096】
以上に説明したように、複合焼結体は、主相であるシリコン相と、コージェライト相と、Siを含む非晶質相とを含む。また、室温における体積抵抗率(上記例では、初期抵抗率)は0.1Ω・cm以上かつ2.5Ω・cm以下である。当該複合焼結体では、非晶質相によりシリコン相のシリコン粒子が被覆され、シリコン粒子により形成される導通パスが酸化雰囲気に対して保護される。これにより、複合焼結体が高温酸化雰囲気に曝露された場合であっても、シリコン粒子の酸化が抑制され、複合焼結体の体積抵抗率の変化が抑制される。したがって、低抵抗であって、かつ、高耐酸化性を有する(すなわち、高温酸化雰囲気下に曝露された後の抵抗変化率が小さい)複合焼結体を提供することができる。また、複合焼結体に比較的高い電圧が付与された場合であっても、過剰に電流が流れて電気回路が損傷することが防止される。
【0097】
上述のように、当該複合焼結体では、X線回折法により得られるシリコンの(111)面のピーク強度およびコージェライトの(110)面のピークの強度を、それぞれI1およびI2として、I1/(I1+I2)は、0.80以上かつ0.97以下であることが好ましい。これにより、シリコン粒子によって導通パスが好適に形成されて体積抵抗率が低減されるとともに、熱膨張率が比較的低いコージェライトによって複合焼結体の熱膨張率が低減されて耐熱衝撃性が向上される。すなわち、複合焼結体の低抵抗と耐熱衝撃性とを好適に両立することができる。
【0098】
複合焼結体は、ムライト相をさらに含むことが好ましい。上述のように、複合焼結体を作製する際に不可避的に生成される可能性が高いクリストバライト相を消費してムライト相を生成することにより、複合焼結体の緻密性を向上させることができ、その結果、複合焼結体の耐酸化性および強度を向上することができる。また、熱膨張率が比較的高いクリストバライト相を減少させることにより、複合焼結体の熱膨張率を低減することができ、その結果、複合焼結体の耐熱衝撃性を向上することもできる。
【0099】
上述のように、当該複合焼結体では、X線回折法により得られるシリコンの(111)面のピークの強度、コージェライトの(110)面のピークの強度およびムライトの(120)面のピークの強度を、それぞれI1、I2およびI3として、I3/(I1+I2+I3)は、0.001以上かつ0.006以下であることが好ましい。これにより、実施例9~11に示すように、複合焼結体の耐酸化性、強度および耐熱衝撃性を好適に向上することができる。
【0100】
上述のように、複合焼結体の気孔率は15%以上かつ40%以下であることが好ましい。これにより、複合焼結体のヤング率が低減され、熱衝撃性が向上される。また、複合焼結体の体積抵抗率を好適に低減することができるとともに、耐酸化性および強度を好適に向上することができる。
【0101】
上述のように、複合焼結体の気孔径は1.0μm以上かつ3.5μm以下であることをが好ましい。これにより、複合焼結体の体積抵抗率を好適に低減することができるとともに、耐酸化性および強度を好適に向上することができる。
【0102】
上述のように、複合焼結体の嵩密度は1.4g/cm3以上かつ2.2g/cm3以下であることが好ましい。これにより、複合焼結体の体積抵抗率を好適に低減することができるとともに、耐酸化性および強度を好適に向上することができる。また、複合焼結体の熱容量が好適に低減され、昇温されやすくなる。
【0103】
上述のように、複合焼結体では、950℃の大気中に50時間曝露した後の体積抵抗率の変化率は100%以下であることが好ましい。これにより、より高い耐酸化性を有する複合焼結体を提供することができる。
【0104】
上述のハニカム構造体2は、筒状外壁21と、格子状の隔壁22とを備える。隔壁22は、筒状外壁21の内部を複数のセル23に仕切る。筒状外壁21および隔壁22は、上述の複合焼結体を含んで構成される。これにより、低抵抗であって、かつ、高耐酸化性を有するハニカム構造体2を実現することができる。また、複合焼結体がホウケイ酸塩を含まない場合、作製時の焼成収縮を低減し、ハニカム構造体2を寸法精度良く作製することができる。
【0105】
上述の電気加熱触媒1は、エンジンから排出される排ガスの浄化処理を行う。電気加熱触媒1は、上述のハニカム構造体2と、ハニカム構造体2の外側面に固定されてハニカム構造体2に電流を付与する一対の電極部41と、を備える。上述のようにハニカム構造体2は低抵抗であるため、電気加熱触媒1を迅速に昇温することができる。また、ハニカム構造体2は高耐酸化性を有するため、電気加熱触媒1による排ガスの浄化処理を効率良く長期間に亘って行うことができる。
【0106】
上述の複合焼結体の製造方法は、シリコン原料およびコージェライト原料を含む原料粉末を成形して焼成することにより焼成体を得る工程(ステップS11~S12)と、当該焼成体に酸化処理を施すことにより複合焼結体を得る工程(ステップS13)と、を備える。当該複合焼結体は、主相であるシリコン相と、コージェライト相と、Siを含む非晶質相と、を含む。複合焼結体の室温における体積抵抗率は0.1Ω・cm以上かつ2.5Ω・cm以下である。これにより、上述のように、低抵抗であって、かつ、高耐酸化性を有する複合焼結体を提供することができる。
【0107】
上述のように、当該複合焼結体の製造方法では、シリコン原料およびコージェライト原料の粒径をそれぞれd1およびd2として、d1/d2は、0.25以上かつ1.25以下であることが好ましい。これにより、複合焼結体の体積抵抗率を好適に低減することができる。
【0108】
上述の複合焼結体、ハニカム構造体2および電気加熱触媒1では、様々な変更が可能である。
【0109】
例えば、上述の複合焼結体では、嵩密度は1.4g/cm3未満であってもよく、2.2g/cm3よりも大きくてもよい。また、気孔率は15%未満であってもよく、40%よりも大きくてもよい。気孔径は1.0μm未満であってもよく、3.5μmよりも大きくてもよい。
【0110】
上述の複合焼結体では、抵抗変化率(すなわち、950℃の大気中に50時間曝露した後の体積抵抗率の変化率)は、100%よりも大きくてもよく、-50%未満であってもよい。
【0111】
上述の複合焼結体では、シリコンおよびコージェライトのピーク比I1/(I1+I2)はは、0.80未満であってもよく、0.97よりも大きくてもよい。また、ムライト、シリコンおよびコージェライトのピーク比I3/(I1+I2+I3)は、0.001未満であってもよく、0.006よりも大きくてもよい。なお、当該複合焼結体は、ムライト相を含んでいなくてもよい。また、当該複合焼結体は、クリストバライト相を含んでいなくてもよい。
【0112】
上述の複合焼結体では、非晶質相は、Siを含んでいるのであれば、必ずしも非晶質シリカを含んでいなくてもよい。
【0113】
上述の複合焼結体の製造方法では、シリコン原料およびコージェライト原料の粒径比d1/d2は0.25未満であってもよく、1.25よりも大きくてもよい。また、当該複合焼結体は、上記以外の製造方法により作製されてもよい。
【0114】
電気加熱触媒1では、ハニカム構造体2の外形は略円柱状には限定されず、様々に変更されてよい。また、電極層31および電極部41の数および配置も様々に変更されてよい。なお、電気加熱触媒1では、電極層31が省略され、電極部41がハニカム構造体2に直接的に固定されてもよい。
【0115】
ハニカム構造体2は、電気加熱触媒以外の用途(例えば、セラミックスヒータ)に利用されてもよい。
【0116】
上述の複合焼結体は、ハニカム構造体2以外の構造体に利用されてもよい。例えば、略円筒状または略平板状等の様々な形状の構造体が、当該複合焼結体を含んで構成されてもよい。
【0117】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明は、自動車等のエンジンからの排ガスの浄化処理に用いられる電気加熱触媒等に利用可能である。
【符号の説明】
【0119】
1 電気加熱触媒
2 ハニカム構造体
21 筒状外壁
22 隔壁
41 電極部
S11~S13 ステップ