(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149960
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】トランスミッション用軸受構造
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20220929BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20220929BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20220929BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/06
F16C33/78 D
F16H57/04 K
F16H57/04 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052325
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 克明
(72)【発明者】
【氏名】坪田 英康
【テーマコード(参考)】
3J063
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J063AB21
3J063AC03
3J063BA11
3J063XD03
3J063XD43
3J063XD47
3J063XD73
3J216AA02
3J216AB04
3J216BA01
3J216CA01
3J216CA04
3J216CA05
3J216CB03
3J216CB12
3J216CC03
3J216CC17
3J216CC33
3J216DA01
3J216DA11
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA73
3J701CA11
3J701CA17
3J701FA31
3J701GA11
(57)【要約】
【課題】水素脆性剥離を抑制可能なトランスミッション用軸受構造を提供する。
【解決手段】トランスミッション用軸受構造は、回転軸と、転がり軸受と、ハウジング部材とを有している。転がり軸受は、回転軸を支持する。ハウジング部材には、転がり軸受が固定されている。回転軸には、潤滑油が通過可能な通油孔が設けられている。ハウジング部材には、通油孔に連通する空間が設けられている。トランスミッション用軸受構造は、潤滑油が、通油孔から空間へ流動し、空間から転がり軸受の内部を通過して排出されるように構成されている。転がり軸受は、転がり軸受の内部を通過する潤滑油の流量を抑制可能なシール部材を含んでいる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸を支持する転がり軸受と、
前記転がり軸受が固定されるハウジング部材と、を備えたトランスミッション用軸受構造であって、
前記回転軸には、潤滑油が通過可能な通油孔が設けられており、
前記ハウジング部材には、前記通油孔に連通する空間が設けられており、
前記トランスミッション用軸受構造は、前記潤滑油が、前記通油孔から前記空間へ流動し、前記空間から前記転がり軸受の内部を通過して排出されるように構成されており、
前記転がり軸受は、前記転がり軸受の内部を通過する前記潤滑油の流量を抑制可能なシール部材を含んでいる、トランスミッション用軸受構造。
【請求項2】
前記転がり軸受は、内輪と、前記内輪の外側に配置された外輪とを含み、
前記シール部材は、前記内輪に接触する、請求項1に記載のトランスミッション用軸受構造。
【請求項3】
前記シール部材は、前記潤滑油の流入側に配置された第1シール部と、前記潤滑油の流出側に配置された第2シール部とを含み、
前記第1シール部は、前記内輪に接触する、請求項2に記載のトランスミッション用軸受構造。
【請求項4】
前記第1シール部の締め代は、前記第2シール部の締め代よりも大きい、請求項3に記載のトランスミッション用軸受構造。
【請求項5】
前記シール部材は、前記潤滑油の流入側にのみ配置されている、請求項1または請求項2に記載のトランスミッション用軸受構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トランスミッション用軸受構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、連続可変トランスミッション(CVT)用軸受において、特異剥離の一種である水素脆性剥離の改善が求められている。特開2000-282178号公報(特許文献1)は、クロム含有量が高い内輪および外輪を有する転がり軸受を開示している。当該転がり軸受によれば、軌道面または転動面にクロム酸化膜を形成することで、水素が内輪および外輪に侵入することを防止し、水素脆性剥離を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水素が鋼中に侵入するにためには、鋼表面の酸化膜を除去し、新生面を露出させる必要がある。大気中においては、新生面には酸化膜が瞬時に形成される。しかしながら、新生面が潤滑油に浸漬されている状況においては、新生面は、空気に晒されていない。そのため、新生面における酸化膜の形成が抑制される。そのため、新生面が露出した状態となった鋼においては、水素が侵入する確率は高くなる。
【0005】
近年、トランスミッションにおいては、軸受などの回転体に潤滑油を供給するオイルポンプが用いられている。潤滑油の流量は、回転体の回転数とともに上昇する。潤滑油は、軸受の内部を通過して排出され、オイルタンクに戻る。高速回転時においては、軸受に供給される潤滑油の流量は、軸受から排出される潤滑油の流量よりも大きくなる。そのため、軸受の内部は、長時間にわたり潤滑油に浸漬された状態が維持される。その結果、軸受の新生面が長時間露出することにより、軸受に水素が侵入しやすくなっていた。従って、トランスミッション用軸受構造においては、水素脆性剥離を抑制することが困難であった。
【0006】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、水素脆性剥離を抑制可能なトランスミッション用軸受構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係るトランスミッション用軸受構造は、回転軸と、転がり軸受と、ハウジング部材とを備えている。転がり軸受は、回転軸を支持する。ハウジング部材には、転がり軸受が固定されている。回転軸には、潤滑油が通過可能な通油孔が設けられている。ハウジング部材には、通油孔に連通する空間が設けられている。トランスミッション用軸受構造は、潤滑油が、通油孔から空間へ流動し、空間から転がり軸受の内部を通過して排出されるように構成されている。転がり軸受は、転がり軸受の内部を通過する潤滑油の流量を抑制可能なシール部材を含んでいる。
【0008】
上記のトランスミッション用軸受構造においては、転がり軸受は、内輪と、内輪の外側に配置された外輪とを含んでいてもよい。シール部材は、外輪および内輪の各々に接触していてもよい。
【0009】
上記のトランスミッション用軸受構造においては、シール部材は、潤滑油の流入側に配置された第1シール部と、潤滑油の流出側に配置された第2シール部とを含んでいる。第1シール部は、内輪に接触していてもよい。
【0010】
上記のトランスミッション用軸受構造においては、第1シール部の締め代は、第2シール部の締め代よりも大きくてもよい。
【0011】
上記のトランスミッション用軸受構造においては、シール部材は、潤滑油の流入側にのみ配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、水素脆性剥離を抑制可能なトランスミッション用軸受構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係るトランスミッション用軸受構造の構成を示す一部断面模式図である。
【
図2】
図1のII-II線に沿った断面模式図である。
【
図5】シールのトルクと、シールの締め代との関係を示す模式図である。
【
図6】第1実施形態に係るトランスミッション用軸受構造における潤滑油の流れを示す一部断面模式図である。
【
図7】第1実施形態に係るトランスミッション用軸受構造の転がり軸受における潤滑油の流れを示す一部断面模式図である。
【
図8】第2実施形態に係るトランスミッション用軸受構造の転がり軸受の構成を示す一部断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本開示の実施形態について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0015】
(第1実施形態)
まず、本開示の第1実施形態に係るトランスミッション用軸受構造の構成について説明する。
図1は、第1実施形態に係るトランスミッション用軸受構造の構成を示す一部断面模式図である。
図1に示されるように、第1実施形態に係るトランスミッション用軸受構造100は、たとえば連続可変トランスミッション(CVT)用軸受であり、回転軸1と、転がり軸受2と、ハウジング部材70と、プライマリプーリ10と、動力伝達ベルト4とを主に有している。回転軸1には、通油孔3が設けられている。通油孔3には、潤滑油が通過可能である。
【0016】
回転軸1は、第3内周面23と、第3外周面20と、側端面24とを有している。第3外周面20は、第3内周面23の外側に位置している。第3内周面23は、通油孔3を構成する。通油孔3は、側端面24に開口している。側端面24は、第3内周面23および第3外周面20の各々に連なっている。
【0017】
第3外周面20は、第1外周面部21と、第2外周面部22とを有していてもよい。第1外周面部21の直径は、第2外周面部22の直径よりも大きい。第2外周面部22は、側端面24に連なっている。プライマリプーリ10は、回転軸1に取り付けられている。プライマリプーリ10は、回転軸1とともに回転する。プライマリプーリ10は、回転軸1と一体となっていてもよい。プライマリプーリ10は、第1外周面部21に接している。
【0018】
転がり軸受2は、回転軸1を支持している。転がり軸受2は、回転軸1の第2外周面部22に接している。転がり軸受2は、ハウジング部材70に固定されている。回転軸1は、中心軸Rの周りを回転可能に構成されている。回転軸1の中心軸Rは、転がり軸受2の中心軸Rと一致する。なお、本開示においては、回転軸1に沿った方向を軸方向Xとする。軸方向Xに垂直な方向を径方向Yとする。転がり軸受2の種類は、特に限定されない。転がり軸受2は、深溝玉軸受であってもよいし、アンギュラ玉軸受であってもよいし、円筒ころ軸受であってもよいし、円錐ころ軸受などであってもよい。
【0019】
ハウジング部材70には、通油孔3に連通する空間(第1空間61)が設けられている。ハウジング部材70は、たとえば、第1部材71と、第2部材72と、第3部材73とを有している。第1部材71は、回転軸1の側端面24に対向している。第1部材71は、板状部材である。第1部材71は、軸方向Xに沿った直線(中心軸R)と交差している。
【0020】
第2部材72は、第1部材71に連なっている。第2部材72は、中空筒状部材である。軸方向Xにおいて、第2部材72は、第1部材71と、プライマリプーリ10との間に位置している。第2部材72は、転がり軸受2に接している。第2部材72は、転がり軸受2を取り囲んでいる。第3部材73は、第2部材72に連なっている。径方向Yにおいて、第3部材73は、第2部材72の外側に位置している。第3部材73は、第2部材72を取り囲んでいる。
【0021】
第1空間61は、第1部材71と、第2部材72と、転がり軸受2と、回転軸1の側端面24とにより形成される空間である。軸方向Xにおいて、第1空間61は、転がり軸受2に対して第1部材71側に位置している。別の観点から言えば、軸方向Xにおいて、第1空間61は、第1部材71と、転がり軸受2の側端面24との間に位置している。
【0022】
第2空間62は、第2部材72と、第3部材73と、転がり軸受2と、回転軸1の第1外周面部21と、プライマリプーリ10とにより形成される空間である。軸方向Xにおいて、第2空間62は、転がり軸受2に対してプライマリプーリ10側に位置している。別の観点から言えば、軸方向Xにおいて、第2空間62は、プライマリプーリ10と、転がり軸受2との間に位置している。
【0023】
第1実施形態に係るトランスミッション用軸受構造100は、セカンダリプーリ(図示せず)を有していてもよい。動力伝達ベルト4は、プライマリプーリ10とセカンダリプーリとに掛け渡している。別の観点から言えば、プライマリプーリ10の回転力が、動力伝達ベルト4を介して、セカンダリプーリに伝達される。プライマリプーリ10は、たとえば駆動側プーリである。セカンダリプーリは、たとえば従動側プーリである。
【0024】
プライマリプーリ10は、第1シーブ11と、第2シーブ12とを有している。第1シーブ11および第2シーブ12の一方は、軸方向Xに沿って変位可能に構成されていてもよい。第1シーブ11および第2シーブ12の一方が軸方向Xに変位することにより、第1シーブ11と第2シーブ12との距離が変化してもよい。
【0025】
図2は、
図1のII-II線に沿った断面模式図である。
図2に示される断面は、軸方向Xに沿った直線(中心軸R)に垂直な断面である。
図2に示されるように、転がり軸受2は、内輪40と、外輪30と、シール部材50とを有している。内輪40は、第1内周面42と、第1外周面41とを有している。径方向Yにおいて、第1外周面41は、第1内周面42の外側に位置している。第1内周面42は、回転軸1の第3外周面20に接している。具体的には、第1内周面42は、回転軸1の第2外周面部22に接している。
【0026】
径方向Yにおいて、外輪30は、内輪40の外側に配置されている。外輪30は、第2内周面31と、第2外周面32とを有している。径方向Yにおいて、第2外周面32は、第2内周面31の外側に位置している。径方向Yにおいて、シール部材50は、外輪30と内輪40との間に位置している。シール部材50は、外輪30および内輪40の各々に接触していてもよい。具体的には、シール部材50は、外輪30の第2内周面31および内輪40の第1外周面41の各々に接触していてもよい。
【0027】
図3は、転がり軸受2の構成を示す断面模式図である。
図3に示されるように、転がり軸受2は、たとえば、複数の転動体5と、保持器6とをさらに有している。複数の転動体5は、内輪40と外輪30との間に設けられている。保持器6は、複数の転動体5の各々が互いに接触しないように、複数の転動体5を保持している。保持器6は、内輪40と外輪30との間に設けられている。
【0028】
シール部材50は、たとえば第1シール部50aと、第2シール部50bとを有している。第1シール部50aは、潤滑油の流入側に配置されている。第2シール部50bは、潤滑油の流出側に配置されている。第1シール部50aおよび第2シール部50bの各々は、たとえば、第1シールリップ51と、第2シールリップ52と、外側端部54と、本体部53と、芯部55とを有している。第1シールリップ51、第2シールリップ52、外側端部54および本体部53の各々は、弾性部材(たとえばゴム)である。芯部55は、たとえば金属である。芯部55の剛性は、第1シールリップ51、第2シールリップ52、外側端部54および本体部53の各々の剛性よりも大きい。
【0029】
第1シールリップ51は、たとえばラジアルシールである。第1シールリップ51は、アキシャルシールであってもよい。第2シールリップ52は、たとえばアキシャルシールである。第2シールリップ52は、ラジアルシールであってもよい。
【0030】
径方向Yにおいて、第1シールリップ51および第2シールリップ52の各々は、本体部53に対して内側に位置している。径方向Yにおいて、外側端部54は、本体部53に対して外側に位置している。本体部53は芯部55に接している。軸方向Xにおいて、保持器6は、第1シール部50aと、第2シール部50bとの間に位置している。同様に、軸方向Xにおいて、複数の転動体5の各々は、第1シール部50aと、第2シール部50bとの間に位置している。
【0031】
内輪40の第1外周面41は、第1転走面44と、第1凹部43と、第1端面45とを有している。第1転走面44は、複数の転動体5の各々が転走する面である。第1転走面44は、凹状の面である。軸方向Xにおいて、第1凹部43は、第1転走面44の両側に設けられている。軸方向Xにおいて、第1端面45は、第1凹部43の外側に位置している。別の観点から言えば、軸方向Xにおいて、第1凹部43は、第1端面45と、第1転走面44との間に位置している。
【0032】
外輪30の第2内周面31は、第2転走面34と、第2凹部33とを有している。第2転走面34は、複数の転動体5の各々が転走する面である。第2転走面34は、凹状の面である。軸方向Xにおいて、第2凹部33は、第2転走面34の両側に設けられている。
【0033】
図3に示されるように、第1シールリップ51は、第1端面45に接していてもよい。第2シールリップ52は、第1凹部43内に位置していてもよい。第2シールリップ52は、第1凹部43を構成する面に接していてもよい。外側端部54は、第2凹部33内に配置されている。外側端部54は、第2凹部33を構成する面に接している。
【0034】
図4は、シール部の締め代を示す断面模式図である。
図4の左側の状態は、締め代が「負」の状態を示している。
図4の中央の状態は、締め代が「正」または「0」の状態を示している。
図4の右側の状態は、締め代が「正」の場合において、シール部が外力によって変形していない自然状態を示している。シール部が、内輪40の第1外周面41に押し当てられることにより、シール部は、弾性変形する。これにより、シール部は、第1外周面41を緊迫する力を生じる。
【0035】
図4に示される例の場合、シール部は、径方向Yにおいて、シール部と第1外周面41との間の密封作用を有する。径方向Yにおいて、締め代とは、自然状態におけるシール部の下端と、弾性変形した状態におけるシール部の下端との距離である。シール部が第1外周面41によって緊迫されている場合は、締め代は正である。シール部が第1外周面41によって緊迫されていない場合は、締め代は負である。
【0036】
なお、シール部は、軸方向Xにおいて、シール部と第1外周面41との間の密封作用を有していてもよい。この場合は、軸方向Xにおいて締め代が定義される。軸方向Xにおいて、締め代Tとは、自然状態におけるシール部の側端と、弾性変形した状態におけるシール部の側端との距離である。
【0037】
図5は、シールのトルクと、シールの締め代との関係を示す模式図である。縦軸は、シールのトルクである。横軸は、シールの締め代である。シールのトルクは、シール部が内輪40の第1外周面41を摺動する際に発生する引き摺り抵抗である。シール部がタイトに緊迫されている場合、シールの締め代は、正の値である。反対に、シール部が緩く緊迫されている場合、シールの締め代は、負の値である。
【0038】
図5に示されるように、締め代が大きくなるに従って、シールのトルクは大きくなる。潤滑油の流入側に配置されている第1シール部50aの締め代は、潤滑油の流出側に配置されている第2シール部50bの締め代よりも大きくてもよい。第1シール部50aの締め代は、正の値である。第2シール部50bの締め代は、負の値であってもよいし、正の値であってもよいし、0であってもよい。
【0039】
第1シール部50aの第1シールリップ51の径方向Yにおける締め代は、第2シール部50bの第1シールリップ51の径方向Yにおける締め代よりも大きくてもよい。第1シール部50aの第2シールリップ52の軸方向Xにおける締め代は、第2シール部50bの第2シールリップ52の軸方向Xにおける締め代よりも大きくてもよい。
【0040】
第1シール部50aの第1シールリップ51の径方向Yにおける締め代は、正の値である。第2シール部50bの第1シールリップ51の径方向Yにおける締め代は、負の値であってもよいし、正の値であってもよいし、0であってもよい。第1シール部50aの第2シールリップ52の軸方向Xにおける締め代は、正の値である。第2シール部50bの第2シールリップ52の軸方向Xにおける締め代は、負の値であってもよいし、正の値であってもよいし、0であってもよい。
【0041】
図6は、第1実施形態に係るトランスミッション用軸受構造100における潤滑油の流れを示す一部断面模式図である。矢印Dは、潤滑油の流れを示している。潤滑油は、回転軸1の通油孔3において、軸方向Xに沿って第1部材71に向かって流れる。通油孔3から出た潤滑油は、ハウジング部材70に形成された第1空間61に流動する。次に、潤滑油は、転がり軸受2の内部に流入する。転がり軸受2から出た潤滑油は、ハウジング部材70に形成された第2空間62へ排出される。つまり、トランスミッション用軸受構造100は、潤滑油が、通油孔3から第1空間61へ流動し、第1空間61から転がり軸受2の内部を通過して第2空間62へ排出されるように構成されている。
【0042】
図7は、第1実施形態に係るトランスミッション用軸受構造100の転がり軸受2における潤滑油の流れを示す一部断面模式図である。
図7に示されるように、潤滑油は、転がり軸受2の内部を通過する。具体的には、潤滑油は、内輪40の第1外周面41と、外輪30の第2内周面31との間の空間を通過する。
【0043】
潤滑油の大部分(たとえば90%)は、第1シール部50aによって転がり軸受2の内部に侵入することが阻害される。別の観点から言えば、潤滑油の大部分は、第1シール部50aによって弾かれる(矢印A参照)。つまり、シール部材50は、転がり軸受2の内部を通過する潤滑油の流量を抑制可能である。潤滑油の一部(たとえば10%)は、第1シール部50aと内輪40との間を通過し、転がり軸受2の内部に入り込む(矢印B参照)。潤滑油は、第2シール部50bと内輪40との間を通過して、転がり軸受2の内部から排出される(矢印C参照)。潤滑油の一部は、転がり軸受2の内部を通過することなく、転がり軸受2とハウジング部材70との隙間を通って、第1空間61から第2空間62へ流れてもよい。
【0044】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係るトランスミッション用軸受構造100について説明する。第2実施形態に係るトランスミッション用軸受構造100は、主に、シール部材50が潤滑油の流入側にのみ配置されている点において、第1実施形態に係るトランスミッション用軸受構造100と異なっており、その他の構成については、第1実施形態に係るトランスミッション用軸受構造100と同様である。以下、第1実施形態に係るトランスミッション用軸受構造100と異なる構成を中心に説明する。
【0045】
図8は、第2実施形態に係るトランスミッション用軸受構造100の転がり軸受2の構成を示す一部断面模式図である。
図8に示されるように、シール部材50は、潤滑油の流入側にのみ配置されている。言い換えれば、シール部材50は、潤滑油の流出側には配置されていない。シール部材50は、第1シール部50aのみを有している。シール部材50は、第2シール部50bを有していない。
【0046】
第1シール部50aの締め代は、正の値であってもよいし、負の値であってもよいし、0であってもよい。具体的には、第1シール部50aの第1シールリップ51の径方向Yにおける締め代は、正の値であってもよいし、負の値であってもよいし、0であってもよい。第1シール部50aの第2シールリップ52の軸方向Xにおける締め代は、正の値であってもよいし、負の値であってもよいし、0であってもよい。
【0047】
次に、上記実施形態に係るトランスミッション用軸受構造100の作用効果について説明する。
【0048】
本実施形態に係るトランスミッション用軸受構造100においては、潤滑油が、通油孔3から第1空間61へ流動し、第1空間61から転がり軸受2の内部を通過して排出されるように構成されている。転がり軸受2は、転がり軸受2の内部を通過する潤滑油の流量を抑制可能なシール部材50を含んでいる。シール部材50によって、転がり軸受2の内部に供給される潤滑油の量が低減される。そのため、高速回転時においても、転がり軸受2の内部が長時間にわたり潤滑油に浸漬することを抑制することができる。従って、転がり軸受2の転走面が摩耗することにより新生面が形成された後、酸化膜が新生面上に迅速に形成される。結果として、水素が転がり軸受2を構成する部材に侵入することを抑制することができる。これにより、トランスミッション用軸受構造100において、水素脆性剥離を抑制することができる。
【0049】
本実施形態に係るトランスミッション用軸受構造100においては、転がり軸受2は、内輪40と、内輪40の外側に配置された外輪30とを含んでいる。シール部材50は、内輪40に接触している。これにより、シール部材50が内輪40に接触していない場合と比較して、潤滑油が転がり軸受2の内部に供給されることを抑制することができる。そのため、水素が外輪30および内輪40の各々に侵入することを抑制することができる。結果として、水素脆性剥離をさらに抑制することができる。
【0050】
本実施形態に係るトランスミッション用軸受構造100においては、シール部材50は、潤滑油の流入側に配置された第1シール部50aと、潤滑油の流出側に配置された第2シール部50bとを含んでいる。第1シール部50aは、内輪40に接触している。これにより、潤滑油が転がり軸受2の内部に供給されることを抑制することができる。そのため、水素が外輪30および内輪40の各々に侵入することを抑制することができる。結果として、水素脆性剥離をさらに抑制することができる。
【0051】
本実施形態に係るトランスミッション用軸受構造100においては、第1シール部50aの締め代は、第2シール部50bの締め代よりも大きい。これにより、転がり軸受2の内部から排出される潤滑油の流量を、転がり軸受2の内部に供給される潤滑油の流量よりも大きくすることできる。そのため、転がり軸受2の内部において、空気の層を確保することができる。結果として、転がり軸受2の新生面上において酸化膜を迅速に形成することができる。従って、水素脆性剥離をさらに抑制することができる。
【0052】
本実施形態に係るトランスミッション用軸受構造100においては、シール部材50は、潤滑油の流入側にのみ配置されている。これにより、転がり軸受2の内部から排出される潤滑油の流量をさらに大きくすることできる。そのため、転がり軸受2の内部において、空気の層を長時間確保することができる。結果として、転がり軸受2の新生面上において酸化膜をさらに迅速に形成することができる。従って、水素脆性剥離をさらに抑制することができる。
【0053】
以上のように本開示の実施の形態について説明を行ったが、上述の実施の形態を様々に変形することも可能である。また本発明の範囲は上述の実施の形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。
【符号の説明】
【0054】
1 回転軸、2 軸受、3 通油孔、4 動力伝達ベルト、5 転動体、6 保持器、10 プライマリプーリ、11 第1シーブ、12 第2シーブ、20 第3外周面、21 第1外周面部、22 第2外周面部、23 第3内周面、24 側端面、30 外輪、31 第2内周面、32 第2外周面、33 第2凹部、34 第2転走面、40 内輪、41 第1外周面、42 第1内周面、43 第1凹部、44 第1転走面、45 第1端面、50 シール部材、50a 第1シール部、50b 第2シール部、51 第1シールリップ、52 第2シールリップ、53 本体部、54 外側端部、55 芯部、61 第1空間、62 第2空間、70 ハウジング部材、71 第1部材、72 第2部材、73 第3部材、100 トランスミッション用軸受構造、A,B,C,D 矢印、R 中心軸、T 締め代、X 軸方向、Y 径方向。