IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立建機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-作業機械 図1
  • 特開-作業機械 図2
  • 特開-作業機械 図3
  • 特開-作業機械 図4
  • 特開-作業機械 図5
  • 特開-作業機械 図6
  • 特開-作業機械 図7
  • 特開-作業機械 図8
  • 特開-作業機械 図9
  • 特開-作業機械 図10
  • 特開-作業機械 図11
  • 特開-作業機械 図12
  • 特開-作業機械 図13
  • 特開-作業機械 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149973
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/20 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
E02F9/20 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052345
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】今井 勇佑
(72)【発明者】
【氏名】太田 泰典
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 巧磨
【テーマコード(参考)】
2D003
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB06
2D003BA05
2D003CA02
2D003DA04
2D003DB02
2D003DB03
2D003DB05
(57)【要約】
【課題】操作装置の操作中のパイロット流量を低減することで省エネルギー化を図ることができる作業機械を提供すること。
【解決手段】電動機85によって駆動されパイロット一次圧を出力するパイロットポンプ80と,パイロット一次圧を基に操作量に応じたパイロット二次圧を生成する操作レバー55と,パイロット二次圧に基づいて制御される方向制御弁60,65と,方向制御弁を通過した作動油によって駆動される油圧アクチュエータ15,16と,電動機の回転数を制御するコントローラ45とを備える。コントローラは,操作レバーの操作変化量が第1閾値α以上のとき,電動機の目標回転数を第1回転数N1に設定し,操作レバーが操作中であって操作レバーの操作変化量が第1閾値αより小さい第2閾値γ以下のとき,電動機の目標回転数を第1回転数N1より小さい第2回転数N2に設定する。
【選択図】 図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と,
前記電動機によって駆動されパイロット一次圧を出力するパイロットポンプと,
前記パイロット一次圧を基に操作量に応じたパイロット二次圧を生成する操作装置と,
前記パイロット二次圧に基づいて制御される方向制御弁と,
前記方向制御弁を通過した作動油によって駆動される油圧アクチュエータと,
前記電動機の回転数を制御するコントローラとを備えた作業機械において,
前記コントローラは,前記操作装置の操作変化量が第1閾値以上のとき,前記電動機の目標回転数を第1回転数に設定し,前記操作装置が操作中であって前記操作装置の操作変化量が前記第1閾値より小さい第2閾値以下のとき,前記電動機の目標回転数を前記第1回転数より小さい第2回転数に設定することを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1の作業機械において,
前記第1回転数は,前記操作装置の操作に応じて作動される前記方向制御弁の数の増加に応じて増加されることを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項1の作業機械において,
前記コントローラは,前記操作装置の操作変化量が前記第1閾値以上のときに前記電動機の目標回転数を前記第1回転数に設定した場合に,前記操作装置の操作変化量の大小に関わらず前記電動機の目標回転数を前記第1回転数に所定時間維持することを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項1の作業機械において,
前記コントローラは,前記操作装置が非操作中のとき,前記電動機の目標回転数を前記第1回転数より小さい第3回転数に設定することを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項4の作業機械において,
前記操作装置によるパイロット二次圧に基づく前記方向制御弁の制御を不能にするロック位置と,前記操作装置によるパイロット二次圧に基づく前記方向制御弁の制御を許可するロック解除位置とのいずれか一方に切り替えられるロックスイッチをさらに備え,
前記コントローラは,前記ロックスイッチがロック位置に切り替えられているとき,前記電動機の目標回転数を前記第3回転数より小さい第4回転数に設定することを特徴とする作業機械。
【請求項6】
請求項1の作業機械において,
前記電動機の目標回転数は,前記パイロット一次圧の減少に応じて増加するように補正されることを特徴とする作業機械。
【請求項7】
請求項1の作業機械において,
前記油圧アクチュエータに前記方向制御弁を介して作動油を供給するメインポンプと,
前記メインポンプを駆動する原動機とを備え,
前記コントローラは,前記原動機の回転数の増加に応じて前記電動機の回転数の制限値を増加することを特徴とする作業機械。
【請求項8】
請求項1の作業機械において,
前記操作装置は,操作信号を電気信号として出力する操作レバーであることを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,電動機で駆動されるパイロットポンプを備える作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機械の代表例である油圧ショベルには,複数の油圧アクチュエータと,当該複数の油圧アクチュエータに導入される作動油の流量や流通方向を制御する複数の方向制御弁が搭載されている。方向制御弁の駆動には油圧パイロット方式が用いられることがある。この方式はパイロットポンプで生成されるパイロット一次圧を操作レバー(操作装置)の操作量に応じて適宜減圧したものを作用させて方向制御弁を制御する方式である。パイロットポンプの駆動源にはエンジンが利用されることが一般的であり,この場合パイロットポンプとエンジンはギア等を介して直接接続される。そのため,エンジンの稼働中にはパイロットポンプも常に駆動され,その回転数はエンジン回転数に連動する。しかしながら,このような構成では油圧ショベルで作業を行っていない場合(つまり方向制御弁を動作させる必要がない場合)にもパイロットポンプを駆動させることになり,省エネルギーの観点からは改善の余地がある。
【0003】
この点に関して特許文献1ではパイロットポンプの駆動源に電動機(パイロット油圧ポンプ用電動モータ)が採用されており,オペレータにより操作レバー(操作機構)が操作されている間に限って当該電動機でパイロットポンプを駆動させることで省エネルギー化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-214970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで,作業機械においてパイロット一次圧を維持するために必要なパイロット流量(パイロットポンプから吐出される作動油の流量)は,各方向制御弁の作動速度(単位時間当たりの方向制御弁の位置変化量)に依存し得る。つまり,操作レバーの操作中であっても方向制御弁の作動速度が小さい(操作レバーの操作量が一定値に近い)場合には,パイロット流量を低減しても支障がない場合がある。
【0006】
しかしながら特許文献1では,操作レバーが操作されている間の電動機の回転数を一定に保持しており,それによりパイロット流量も一定に保持されるため省エネルギーの観点からは更なる改善の余地がある。
【0007】
本発明の目的は,操作装置の操作中のパイロット流量を低減することで省エネルギー化を図ることができる作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが,その一例を挙げるならば,電動機と,前記電動機によって駆動されパイロット一次圧を出力するパイロットポンプと,前記パイロット一次圧を基に操作量に応じたパイロット二次圧を生成する操作装置と,前記パイロット二次圧に基づいて制御される方向制御弁と,前記方向制御弁を通過した作動油によって駆動される油圧アクチュエータと,前記電動機の回転数を制御するコントローラとを備えた作業機械において,前記コントローラは,前記操作装置の操作変化量が第1閾値以上のとき,前記電動機の目標回転数を第1回転数に設定し,前記操作装置が操作中であって前記操作装置の操作変化量が前記第1閾値より小さい第2閾値以下のとき,前記電動機の目標回転数を前記第1回転数より小さい第2回転数に設定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば,操作装置の操作変化量に基づいて電動機の目標回転数を制御することでパイロット流量を低減でき,それにより省エネルギー化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係る油圧ショベルの側面図。
図2図1に示す油圧ショベルに備えられる油圧システムの概略構成図。
図3】コントローラ45の構成図。
図4】方向制御弁動作数指標値演算部200の制御ブロック図。
図5】操作変化量演算部290の制御ブロック図。
図6】第1目標回転数演算部205の制御ブロック図。
図7】一定操作判定部215の制御ブロック図。
図8】第2目標回転数演算部210の制御ブロック図。
図9】第3目標回転数演算部220の制御ブロック図。
図10】本実施形態における操作レバー55の操作量,操作変化量,ロックスイッチ位置,電動機85の目標回転数のタイムチャート。
図11】操作レバーが操作されている間の電動機の回転数を一定に保持する技術の図10相当のタイムチャート。
図12】コントローラ45の変形例の構成図。
図13】第4目標回転数演算部225の制御ブロック図。
図14】第5目標回転数演算部235の制御ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下,本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。ここでは作業機械の具体例として油圧ショベルを挙げて説明する。
【0012】
図1は本発明の実施の形態に係る油圧ショベルの側面図である。なお,図1は油圧ショベル1の左側面を示しており,図1で隠れている右側面側に表れる部分(例えば右側の履帯)の符号(2)については,図1に表れている同じ部分(例えば左側の履帯)の符号(1)の後ろの括弧内に示すものとする。
【0013】
図1に示す油圧ショベルは,左右一対の履体1,2を備えた走行体3と,走行体3の上に左右に旋回可能に取り付けられた旋回体4と,旋回体4に基端が回転自在にピン結合されたブーム5と,ブーム5の先端に基端が回転自在にピン結合されたアーム6と,アーム6の先端に基端が回転自在にピン結合されたアタッチメント7(例えばバケット)とを備えている。
【0014】
さらに油圧ショベルは,旋回体4上に設けられた運転室8と,エンジン33や油圧ポンプ40,80(図2参照)等が格納された機械室9と,作業中の油圧ショベルのバランスを確保するための重りであるカウンタウエイト10と,履体1,2を駆動する左右一対の走行モータ(油圧モータ)11,12と,旋回体4を駆動する旋回モータ(油圧モータ(図示せず))と,ブーム5を駆動する左右一対のブームシリンダ(油圧シリンダ)13,14と,アーム6を駆動するアームシリンダ(油圧シリンダ)15と,アタッチメント7を駆動するアタッチメントシリンダ(油圧シリンダ)16とを備えている。
【0015】
ブーム5,アーム6,およびアタッチメント7は多関節型の作業装置(作業腕)20を構成し,ブームシリンダ13,14,アームシリンダ15,およびアタッチメントシリンダ16のそれぞれの伸縮量によって作業装置20(ブーム5,アーム6,アタッチメント7)の姿勢が決定される。
【0016】
図2図1に示す油圧ショベルに備えられる油圧システムの概略構成図である。図2の油圧システムは,エンジン33と,エンジン33と機械的に接続され発電機及び電動機の双方として動作可能な発電電動機35と,エンジン33及び発電電動機35と機械的に接続されエンジン33及び発電電動機35の少なくとも一方によって駆動されるメインポンプ40と,発電電動機35で発電された電力が蓄えられる蓄電池(バッテリ)100とを備えている。
【0017】
メインポンプ40は可変容量型の油圧ポンプであり,タンク63から作動油を汲み上げて吐出する。メインポンプ40の容量(容積)は後述するコントローラ45で演算された指令値に基づいて動作するポンプレギュレータ50によって制御される。メインポンプ40から吐出された作動油は操作レバー55の操作によって制御される方向制御弁60,65を介して,油圧アクチュエータ(例えばアームシリンダ15,バケットシリンダ16)に供給される。
【0018】
なお,メインポンプ40としては固定容量型を利用することもでき,エンジン33及び発電電動機35に連結されるメインポンプ40の数は複数でも構わない。図2のシステムでは,エンジン33と発電電動機35がメインポンプ40の原動機30として機能している。また,図2のシステムでは,エンジン33によって発電電動機35を駆動して得た電力を蓄電池100に蓄え,その電力で後述の電動機85を駆動する構成を採用するためにエンジン33に発電電動機35を連結したが,発電電動機35は省略しても良い。すなわちメインポンプ40の駆動源はエンジン33のみでも構わない。
【0019】
また,図2のシステムは,蓄電池100に蓄えられた電力によって駆動される電動機85と,電動機85によって駆動されパイロット一次圧を出力するパイロットポンプ80と,パイロット一次圧を基に操作量に応じたパイロット二次圧を電磁比例弁60a,60b,65a,65bで生成する操作レバー(操作装置)55と,操作レバー55の操作によって電磁比例弁60a,60b,65a,65bで生成されたパイロット二次圧に基づいて制御される複数の方向制御弁60,65と,メインポンプ40から吐出され複数の方向制御弁60,65を通過した作動油によって駆動される複数の油圧アクチュエータ(例えばアームシリンダ15,バケットシリンダ16)と,ロックバルブ130を制御するためのロックスイッチ135と,システム内の各部(例えば,発電電動機35,電動機85,ロックバルブ130,電磁比例弁60a,60b,65a,65b)に制御信号を出力して制御するコントローラ45とを備えている。
【0020】
パイロットポンプ80は方向制御弁60,65の制御に用いられるパイロット回路95の圧力(パイロット圧)を生成する装置である。パイロット回路95にはパイロットリリーフ弁90が設けられており,パイロット回路95の圧力が設定値(パイロットリリーフ圧)を超えた場合にはパイロットリリーフ弁90を介して作動油タンク63に作動油が戻され,パイロット回路95の圧力が当該設定値に保持される。
【0021】
ロックスイッチ135は,操作レバー55によるパイロット二次圧に基づく方向制御弁60,65の制御を不能にするロック位置と,操作レバー55によるパイロット二次圧に基づく方向制御弁60,65の制御を許可するロック解除位置とのいずれか一方に切り替えられるスイッチである。ロックスイッチ135は例えば運転室8内に設けられており,ロックスイッチ135の位置の切り替えはオペレータの操作によって行われる。ロックスイッチ135は,コントローラ45と通信可能に接続されており,ロックスイッチ135の切り替え位置(ロック位置及びロック解除位置のいずれか一方)をコントローラ45に出力している。
【0022】
ロックバルブ130は,ロックスイッチ135の位置に応じてコントローラ45が出力する制御信号によって制御される開閉弁(例えばシャットオフ電磁弁)であり,パイロット回路95における全ての電磁比例弁60a,60b,65a,65bの上流に設けられている。
【0023】
まず,ロックスイッチ135がロック位置にあるとき,パイロット回路95におけるロックバルブ130の上流と下流を連通する開位置(作動位置)にロックバルブ130を切り替える制御信号をコントローラ45が出力し,これによりロックバルブ130が開位置に切り替えられパイロットポンプ80から電磁比例弁60a,60b,65a,65bへの圧油の供給が許可される。この場合,操作レバー55による方向制御弁60,65の制御が可能になる。
【0024】
次に,ロックスイッチ135がロック解除位置にあるとき,パイロット回路95におけるロックバルブ130の上流と下流の連通を遮断する閉位置(遮断位置)にロックバルブ130を切り替える制御信号をコントローラ45が出力し,これによりロックバルブ130が閉位置に切り替えられパイロットポンプ80から電磁比例弁60a,60b,65a,65bへの圧油の供給が遮断される。この場合,操作レバー55による方向制御弁60,65の制御が不可能になる。
【0025】
操作レバー55は,操作信号を電気信号として出力する電気式の操作レバーであり,オペレータが操作レバー55に入力する操作量や操作方向に応じた操作信号Lvをコントローラ45に出力する。コントローラ45は,入力される操作信号Lvに基づいて電磁比例弁60a,60b,65a,65bに対する指令値(制御信号)を演算し,演算した指令値を対応する電磁比例弁60a,60b,65a,65bに出力する。これにより電磁比例弁60a,60b,65a,65bは操作レバー55の操作に応じてパイロット一次圧を適宜減圧し,それにより方向制御弁60,65の制御圧(パイロット二次圧)を生成(出力)する。各電磁比例弁60a,60b,65a,65bは,生成したパイロット二次圧を方向制御弁60,65の駆動部に作用させ,これにより方向制御弁60,65のスプールが動作する。メインポンプ40から吐出された作動油は方向制御弁60,65のスプールによって流れを適宜制御された後に油圧シリンダ15,16に供給され油圧シリンダ15,16を適宜動作させる。
【0026】
なお,本実施形態では操作レバー55は電気式であるが,油圧パイロット式の操作レバーに変更することも可能である。その場合の操作レバー55の操作量を検出するセンサとしては,操作レバー55の加速度や変位を検出可能な計測器を利用しても良い。
【0027】
メインポンプ40に接続された油路にはメインポンプ40の吐出圧を検出するための圧力センサ105が取り付けられている。圧力センサ105は検出信号をコントローラ45に出力しており,コントローラ45は当該検出信号に基づいてメインポンプ40の吐出圧を演算する。
【0028】
パイロットポンプ80に接続されたパイロット回路95を構成する油路にはパイロットポンプ80の吐出圧を検出するための圧力センサ110が取り付けられている。圧力センサ110は検出信号をコントローラ45に出力しており,コントローラ45は当該検出信号に基づいてパイロットポンプ80の吐出圧を演算する。
【0029】
原動機30(発電電動機35及びエンジン33)とメインポンプ40を連結する原動機30の出力軸には,原動機30の回転数を検出するための回転数センサ115が取り付けられている。回転数センサ115は検出信号をコントローラ45に出力しており,コントローラ45は当該検出信号に基づいて原動機30の回転数を演算する。
【0030】
電動機85とパイロットポンプ80を連結する電動機85の出力軸には,電動機85の回転数を検出するための回転数センサ120が取り付けられている。回転数センサ120は検出信号をコントローラ45に出力しており,コントローラ45は当該検出信号に基づいて電動機85の回転数を演算する。
【0031】
コントローラ45は,図2に示した各種機器(例えば,ロックスイッチ135,圧力センサ105,110,回転数センサ115,120,発電電動機35,電動機85,電磁比例弁60a,60b,65a,65b)が通信線を介して接続される入出力インターフェース(図示せず)と,各種演算を実行するCPU等のプロセッサ(図示せず)と,当該プロセッサによって実行され得るプログラムや各種データが記憶される記憶装置(例えば,ROMやRAM等の半導体記憶装置やHDD等の磁気記憶装置(いずれも図示せず))とを有している。コントローラ45としては例えばマイクロコンピュータが利用可能である。
【0032】
なお,説明を簡略化するために図2ではメインポンプ40が吐出する作動油によって駆動される油圧アクチュエータとしてアームシリンダ15とアタッチメントシリンダ16のみを示したが,実際には油圧アクチュエータとして2本のブームシリンダ13,14と,旋回モータと,左右の走行モータとが少なくとも設けられている。
【0033】
(コントローラ45の機能的側面からの説明)
図3はコントローラ45の構成図を示す。コントローラ45は,操作レバー55の操作量とロックスイッチ135の位置とに基づいて電動機85の目標回転数(本実施形態では第3目標回転数270)を演算し,電動機85の実際の回転数が当該目標回転数に近づくように電動機85に対して制御信号を出力する。図3のコントローラ45内には,コントローラ45が実行する処理のうち電動機85の回転数制御に係る処理を機能的側面から複数のブロックに分類してまとめた機能ブロック図を示している。図に示すようにコントローラ45になされる処理は,方向制御弁動作数指標値演算部200と,操作変化量演算部290と,第1目標回転数演算部205と,一定操作判定部215と,第2目標回転数演算部210と,第3目標回転数演算部220とに区分できる。次に各部200,290,205,215,210,220の詳細について図面を用いて説明する。
【0034】
(方向制御弁動作数指標値演算部200)
図4に方向制御弁動作数指標値演算部200の制御ブロック図を示す。
方向制御弁動作数指標値演算部200は,オペレータが操作レバー55に入力する操作量(本実施形態ではアーム操作量とバケット操作量(アタッチメント操作量))に基づいて,オペレータによる操作レバー55の操作により動作している方向制御弁60,65の数の指標値である方向制御弁動作数指標値(以下,「動作数指標値」と略することがある)を演算する。
【0035】
方向制御弁動作数指標値演算部200は,第1動作数指標値演算部355と,第2動作数指標値演算部360とを備えている。
【0036】
第1動作数指標値演算部355は,オペレータのアーム操作量に基づいて,オペレータのアーム操作に関する動作数指標値を演算する。ここではアームシリンダを伸ばす方向のアーム操作量を正,アームシリンダを縮める方向のアーム操作量を負と規定する。図4に示すように,第1動作数指標値演算部355は,アーム操作量の大きさがゼロから最大値まで増加するにつれて動作数指標値がゼロから最大値(1とする)に向かって単調に増加するように両者の関係を規定しており,アーム操作量を入力するとそれに対応する第1動作数指標値370を出力する。
【0037】
第2動作数指標値演算部360は,オペレータのバケット操作量に基づいて,オペレータのバケット操作に関する動作数指標値を演算する。図4に示すように,第2動作数指標値演算部360は,バケット操作量の大きさがゼロから最大値まで増加するにつれて動作数指標値がゼロから最大値(1とする)に向かって単調に増加するように規定しており,バケット操作量を入力するとそれに対応する第2動作数指標値375を出力する。
【0038】
方向制御弁動作数指標値演算部200は,第1動作数指標値370と第2動作数指標値375の合計値を動作数指標値合計値250として出力する。本実施形態では動作数指標値合計値250は0以上かつ2以下の数値となる。なお,合計される動作数指標値の数は本実施形態では2つであるが,操作レバー55で操作可能な方向制御弁の数に応じて変化し得る。
【0039】
(操作変化量演算部290)
操作変化量演算部290は,各アクチュエータに対する操作レバー55の操作量に基づいて操作変化量295を演算する。図5に操作変化量演算部290の制御ブロック図を示す。
【0040】
操作変化量演算部290は,アーム操作量の現在値を入力し,当該現在値からアーム操作量の前回値(Z-1)903を減じた値を操作レバー55に入力したアーム操作に係る操作変化量905として演算する。同様に操作変化量演算部290は,バケット操作量の現在値を入力し,当該現在値からバケット操作量の前回値(Z-1)908を減じた値を操作レバー55に入力したバケット操作に係る操作変化量910として演算する。次に,操作変化量演算部290は,複数の操作変化量905,910の絶対値(abs)915,920をそれぞれ演算し,演算した複数の絶対値915,920における最大値を操作レバー55による操作変化量295として出力する。
【0041】
なお,ここで演算される操作変化量905,910は,各アクチュエータ15,16に係る操作量の前回値を取得した時刻から同操作量の現在値を取得した時刻までの時間Tにおける操作量の差分としたが,操作変化量905,910として当該差分を当該時間Tで除した数値を利用しても良い。すなわち所定の時間Tにおけるアーム操作の変化量を示す指標値であれば操作変化量905,910として適宜利用可能である。
【0042】
また,本実施形態では,操作変化量演算部290が出力する操作変化量を選択するために2つの操作変化量905,910を演算したが,出力する操作変化量を選択するために操作変化量演算部290が演算する操作変化量の個数は操作レバー55の操作対象となるアクチュエータの数だけ存在し得る。但し,当該個数は1つでも良く,その場合には操作変化量演算部290が出力する操作変化量の絶対値(すなわち操作変化量の大きさ)は1つになる。
【0043】
(第1目標回転数演算部205)
第1目標回転数演算部205は,動作数指標値合計値250と,操作変化量295とに基づいて電動機85の第1目標回転数255を演算する。
【0044】
図6に第1目標回転数演算部205の制御ブロック図を示す。第1目標回転数演算部205は,第1回転数演算部400と,操作変化量判定部410と,選択判定部420とを備えている。
【0045】
第1回転数演算部400には,図6中のグラフに示すように,方向制御弁動作数指標値演算部200で演算される動作数指標値合計値250の増加に応じて電動機85の回転数(第1回転数N1)が最大値まで単調に増加するように,動作数指標値合計値250と電動機85の第1回転数N1の関係が規定されている。第1回転数演算部400は,方向制御弁動作数指標値演算部200から動作数指標値合計値250を入力し,当該入力した動作数指標値合計値250と,上記の動作数指標値合計値250と電動機85の第1回転数N1との関係とに基づいて第1回転数N1を演算する。
【0046】
操作変化量判定部410は,操作変化量演算部290から入力される操作変化量295が第1閾値α以上か否かを判定して判定値411を出力する。判定値411としては1と0があり,操作変化量295が第1閾値α以上のときには1(TRUE)が,操作変化量295が第1閾値α未満のときには0(FALSE)が判定値411として出力される。
【0047】
第1閾値αの目安について触れる。操作レバー55の変化量が第1閾値α未満の場合には,第1回転数N1は後述する所定の回転数Ncが選択されるため,後述する所定の回転数Ncが選択された時に,油圧アクチュエータの応答低下が発生しない領域内に第1閾値αを設定することが好ましい。
【0048】
選択判定部420は,操作変化量判定部410が出力する判定値411に応じて選択部425の切り替え制御を行い,それにより外部に出力される第1目標回転数255の切り替えを行う。具体的には,選択判定部420は,判定値411が1のときには第1回転数N1を第1目標回転数255として出力し,判定値411が0のときには所定の回転数Nc(例えば,スタンバイ回転数(第3回転数)N3)を出力する。なお,回転数Ncは第3回転数N3以上で第1回転数N1以下の値に設定することが可能であり,例えば後述の第2回転数N2(N3<N2<N1)にも設定できる。
【0049】
(一定操作判定部215)
一定操作判定部215は,操作レバー55が操作中であって操作変化量295が第1閾値α以上の状態から第2閾値γ(但し,α>γ)以下に変化したか否かを判定する部分である。ここでは操作レバー55が操作中であって操作変化量295が第2閾値γ以下の状態を,操作レバー55により操作量が概ね一定の操作が行われているという意味を込めて「一定操作」と称することがある。すなわち一定操作判定部215は,操作レバー55に入力される操作が,操作変化量295が第1閾値α以上の状態から「一定操作」の状態に変化したか否かを判定する部分である。
【0050】
図7に一定操作判定部215の制御ブロック図を示す。一定操作判定部215は,操作変化量判定部520と,選択判定部530と,最大値選択部550と,判定部515と,選択判定部517とを備えている。
【0051】
操作変化量判定部520は,操作変化量295を入力し,その操作変化量295が第1閾値α以上の値から第2閾値γ以下の値に変化したか否かを判定し,その判定結果を判定値540として出力する部分である。操作変化量判定部520は,操作変化量295が第1閾値α以上の値から第2閾値γ以下の値に変化したと判定した場合には判定値540として1(TRUE)を,それ以外の場合には判定値540として0(FALSE)を出力する。
【0052】
第2閾値γの目安について触れる。オペレータの操作の振れやセンサ誤差等による誤判定を防止するために,第2閾値γはオペレータの操作の振れやセンサ誤差の変動を考慮した第1閾値α以下の値に第2閾値γを設定することが好ましい。
【0053】
選択判定部530は,操作変化量判定部520からの判定値540を入力値とし,その判定値540に基づいて選択部510の切換制御を行う。具体的には,判定値540が1の場合には1を選択・出力し,判定値540が0の時には0を選択・出力する。但し,判定値540が0から1に変化したとき(すなわち,操作変化量295が第1閾値α以上の値から第2閾値γ以下の値に変化したとき)には,車体制御系への影響(方向制御弁の駆動やコントローラ45内のその他の演算とのタイミングずれ等)を考慮して,選択部510の0から1への選択切換をΔT秒遅らせることが好ましい(これにより電動機85の目標回転数が変化するタイミングをΔT秒遅らすことができる)。このように選択された演算結果(0又は1)は判定値511として出力される。なお,ΔTとしては例えば1秒未満の値を設定することができる。
【0054】
最大値選択部550は,アーム操作量(アームレバー操作量)の絶対値544と,バケット操作量(バケットレバー操作量)の絶対値546とを入力し,その中から最大のものを選択して最大操作量551として判定部515に出力する。
【0055】
判定部515は,最大操作量551が第3閾値β以上か否か判定し,その判定結果として操作有無判定値516を出力する。操作有無判定値516は0か1である。最大操作量551が第3閾値β以上の場合には操作有無判定値516として操作レバー55の操作が有ることを示す1(TRUE)が選択判定部517に出力され,最大操作量551が第3閾値β未満の場合には操作有無判定値516として操作レバー55の操作が無いことを示す0(FALSE)が選択判定部517に出力される。
【0056】
但し,最大操作量551が第3閾値β以上の値から第3閾値β未満の値に変化したとき(すなわち,操作レバー55に対する操作入力が有る状態から実質的に無い状態に変化したとき)には,車体制御系への影響(コントローラ45内のその他の演算とのタイミングずれ等)を考慮して,判定部515が操作有無判定値516を1から0に切り替えるタイミングをΔt秒遅らせることが好ましい(これにより電動機85の目標回転数が第2回転数N2(後述)から第3回転数N3(後述)に変化するタイミングをΔt秒遅らすことができる)。そこで本実施形態でもそのような構成を採用している。
【0057】
第3閾値βの目安について触れる。第3閾値βは操作レバー55に対する実質的な操作入力が有るか否かを判定するための値である。そのため第3閾値βは操作レバー55の不感帯から方向制御弁が駆動する変化点に設定することが好ましい。
【0058】
選択判定部517は,判定部515からの操作有無判定値516を入力値とし,その操作有無判定値516に基づいて選択部570の切換制御を行う。具体的には,操作有無判定値516が1の場合には1を選択・出力し,操作有無判定値516が0の時には0を選択・出力する。このように選択された演算結果(0又は1)は判定値575として出力される。
【0059】
最後に一定操作判定部215は,上記のように演算した判定値511,575の論理積を演算し,その演算結果を一定操作判定値265として出力する。具体的には,2つの判定値511,575がともに1の場合には一定操作判定値265として1が出力され,2つの判定値511,575がそれ以外の値の場合には一定操作判定値265として0が出力される。一定操作判定値265として1が出力されたということは,操作レバー55が操作中であって操作変化量295が第1閾値α以上の状態から第2閾値γ(但し,α>γ)以下に変化した(操作量が急激に変化した後に操作量が実質的に一定に変化した)ということである。
【0060】
(第2目標回転数演算部210)
第2目標回転数演算部210は,第1目標回転数255と,一定操作判定値265とに基づいて第2目標回転数260を演算する。
【0061】
図8に第2目標回転数演算部210の制御ブロック図を示す。第2目標回転数演算部210は,一定操作判定値265が1の場合には第2回転数N2を選択し,一定操作判定値265が0の場合(例えば,レバー操作量の増加時,減少時,待機時)には第1目標回転数255を選択し,その選択した回転数を第2目標回転数260として出力する。
【0062】
第2回転数N2は,一定操作判定値265が1の場合(すなわち,操作レバー55の操作量が急激に変化した後に操作量が実質的に一定に変化した場合)に選択される電動機85の回転数であり,第1目標回転数演算部205で演算される第1回転数N1より小さい値に設定されている。
【0063】
(第3目標回転数演算部220)
第3目標回転数演算部220は,第2目標回転数260と,操作有無判定値516と,ロックスイッチ135の位置とに基づいて,第3目標回転数270を演算する。
【0064】
図9に第3目標回転数演算部220の制御ブロック図を示す。
【0065】
第3目標回転数演算部220は,操作有無判定値516が1の場合(操作レバー55の操作有りの場合)には第2目標回転数260を選択して選択回転数266として出力し,操作有無判定値516が0の場合(操作レバー55の操作無しの場合)には第3回転数N3を選択して選択回転数266として出力する。
【0066】
第3回転数N3は操作レバー55が非操作状態(操作レバー55の中立状態に同じで,操作レバー55が操作されていない状態)にある時の電動機85(パイロットポンプ80)のスタンバイ回転数で,非操作状態から操作レバー55が急操作された時にも十分な応答性が確保できる回転数として設定されている。第3回転数N3は第2目標回転数演算部210で演算される第2回転数N2より小さい値に設定されている。
【0067】
また,第3目標回転数演算部220は,ロックスイッチ135がロック解除位置に位置する場合には選択回転数266を第3目標回転数270として選択・出力し,ロックスイッチ135がロック位置に位置する場合には第4回転数N4を第3目標回転数270として選択・出力する。
【0068】
第4回転数N4はロックスイッチ135がロック位置に在る時の電動機85(パイロットポンプ80)のスタンバイ回転数として最小の値が設定されている。第4回転数N4は第3目標回転数N3より小さい値に設定されている。
【0069】
(動作)
上記のように構成される油圧ショベルの動作について図10を用いて説明する。図10は本実施形態における操作レバー55の操作量,操作変化量,ロックスイッチ位置,電動機85の目標回転数のタイムチャートである。
【0070】
時刻T0より前の状態では,ロックスイッチ135はロック位置にあり,操作レバー55の操作量はゼロである。この場合,第3目標回転数演算部220は第4回転数N4(最小スタンバイ回転数)を第3目標回転数270として出力し,それにより電動機85の回転数が第4回転数N4(最小スタンバイ回転数)に設定されている。
【0071】
時刻T0でロックスイッチ135がロック位置からロック解除位置に変更されると,第3目標回転数演算部220は第3目標回転数270として第3回転数N3(スタンバイ回転数)を出力し,電動機85の目標回転数は最小スタンバイ回転数(第4回転数)N4からスタンバイ回転数(第3回転数)N3に増速する。
【0072】
時刻T1でオペレータが操作レバー55にアーム操作を比較的短時間のうちに入力すると,当該アーム操作の操作変化量295が第1閾値α以上に達し,これにより第1目標回転数演算部205で演算される第1回転数N11が第3目標回転数270として出力され,電動機85の目標回転数がスタンバイ回転数(第3回転数)N3から第1回転数N11に増速する。
【0073】
第1回転数N11は,操作レバー55にアーム操作は入力されているがバケット操作の入力がないときの第1回転数であり,後述する操作レバー55にアーム操作とバケット操作が共に入力されているときの第1回転数N12よりも小さな値になる。これは第1回転数N11が演算されるときの動作数指標値合計値250は,第1回転数N12が演算されるときの動作数指標値合計値250よりも小さいからである。
【0074】
時刻T2でオペレータが操作レバー55のアーム操作量を最大の状態で保持すると(すなわちアーム操作量は第3閾値β以上),操作変化量295が第1閾値α以上の状態から第2閾値γ以下の状態に移行する。このとき一定操作判定部215(図7)の操作変化量判定部520が出力する判定値540は0から1に変化するが,選択判定部530が判定値511として1を出力する時刻は時刻T2からΔT秒だけ遅れるため,一定操作判定部215が出力する一定操作判定値265は時刻T2からΔT秒が経過するまでの間は0のまま保持される。そして,時刻T2からΔT秒が経過した時刻T3に達したとき,一定操作判定部215は一定操作判定値265として1を第2目標回転数演算部210に出力し,これにより第2目標回転数演算部210で演算された第2回転数N2が第3目標回転数270として出力される。つまり電動機85の目標回転数は,時刻T2からΔT秒が経過するまでの間は第1回転数N11に維持され,その後,時刻T3で第1回転数N11から第2回転数N2に減速される。
【0075】
時刻T4でオペレータが操作レバー55にバケット操作を比較的短時間のうちに入力すると,当該バケット操作の操作変化量295が第1閾値α以上に達し,これにより第1目標回転数演算部205で演算される第1回転数N12が第3目標回転数270として出力され,電動機85の目標回転数が第2回転数N2から第1回転数N12に増速する。
【0076】
時刻T5でオペレータが操作レバー55のバケット操作量を最大の状態で保持すると(すなわちバケット操作量は第3閾値β以上),操作変化量295が第1閾値α以上の状態から第2閾値γ以下の状態に移行する。このとき一定操作判定部215(図7)の操作変化量判定部520が出力する判定値540は0から1に変化するが,選択判定部530が判定値511として1を出力する時刻は時刻T5からΔT秒だけ遅れるため,一定操作判定部215が出力する一定操作判定値265は時刻T5からΔT秒が経過するまでの間は0のまま保持される。そして,時刻T5からΔT秒が経過した時刻T6に達したとき,一定操作判定部215は一定操作判定値265として1を第2目標回転数演算部210に出力し,これにより第2目標回転数演算部210で演算された第2回転数N2が第3目標回転数270として出力される。つまり電動機85の目標回転数は,時刻T5からΔT秒が経過するまでの間は第1回転数N12に維持され,その後,時刻T6で第1回転数N12から第2回転数N2に減速される。
【0077】
時刻T7でオペレータがアーム操作量とバケット操作量をともに0に変更すると,アーム操作量とバケット操作量がともに第3閾値β未満の状態に移行する。このとき一定操作判定部215(図7)の判定部515が操作有無判定値516を1から0に変更する時刻は時刻T7からΔt秒だけ遅れるため,一定操作判定部215が出力する操作有無判定値516は時刻T7からΔt秒が経過するまでの間は1のまま保持される。そして,時刻T7からΔt秒が経過した時刻T8に達したとき,一定操作判定部215は操作有無判定値516として0を第3目標回転数演算部220に出力し,これにより第3目標回転数演算部220で選択された第3回転数N3が第3目標回転数270として出力される。つまり電動機85の目標回転数は,時刻T7からΔt秒が経過するまでの間は第2回転数N2に維持され,その後,時刻T8で第2回転数N2からスタンバイ回転数(第3回転数)N3に減速される。
【0078】
時刻T9でロックスイッチ135がロック解除位置からロック位置に操作されると,第3目標回転数演算部220は第3目標回転数270として第4回転数N4(最小スタンバイ回転数)を出力し,電動機85の目標回転数はスタンバイ回転数(第3回転数)N3から最小スタンバイ回転数(第4回転数)N4に減速する。
【0079】
(効果)
上記のように構成される本実施形態の油圧ショベルの効果について図10図11を参照しながら説明する。図11は,操作レバーが操作されている間の電動機(パイロット油圧ポンプ用電動モータ)の回転数を一定に保持する特許文献1(特開2008-214970号公報)の技術の図10相当のタイムチャートである。図10に示した本実施形態のタイムチャートと比較し易いように,図11では操作レバーが操作されている間の電動機の目標回転数は第1回転数N12に保持されるものとした。
【0080】
(1)本実施形態のコントローラ45は,操作レバー55の操作変化量295が第1閾値α以上のとき(時刻T1),電動機85の目標回転数270を第1回転数N11に設定することで電動機85を増速し,その後,操作レバー55が操作中であって操作レバーの操作変化量295が第1閾値αより小さい第2閾値γ以下のとき(時刻T3から時刻T4),電動機85の目標回転数270を第1回転数N11より小さい第2回転数N2に設定することで電動機85を減速している。図11に示した例では時刻T10から時刻T4までの間,電動機の回転数は第1回転数N12に保持されるが,本実施形態は図10に示すように操作レバー55の操作変化量295の減少に応じて時刻T3にて電動機85の回転数を第2回転数N2まで減少しているため,図11の例に比較して操作レバー55操作中の電動機85によるエネルギー消費を抑えることができる。
【0081】
すなわち,本実施形態によれば,操作レバー55の操作変化量295に基づいて電動機85の目標回転数を制御することでパイロット流量を低減でき,それにより省エネルギー化を図ることができる。なお,言うまでもないが,本実施形態は図10に示すように時刻T4でバケット操作を入力した後に時刻T6で目標回転数270を再び第2回転数N2に設定する場面においても上記と同様の効果を得ることができる。
【0082】
(2)コントローラ45は,第1目標回転数演算部205において,方向制御弁の動作数指標値合計値250の増加に応じて第1回転数N1が増加するように第1回転数N1を演算している。すなわち,本実施形態の第1回転数N1は,操作レバー55の操作に応じて作動される方向制御弁60,65(油圧アクチュエータ15,16)の数の増加に応じて増加される。具体的には2つの方向制御弁60,65のいずれか一方が作動している場合には第1回転数N11が演算され,2つの方向制御弁60,65の両方が作動している場合には第1回転数N12(N12>N11)が演算される。
【0083】
作業機械においてパイロット一次圧を維持するためのパイロット流量は,操作レバーの操作に応じて作動する方向制御弁の総数(油圧アクチュエータを駆動させるために作動する方向制御弁の総数)に依存する。そこで本実施形態のように第1回転数N1を演算すると,作動される方向制御弁60,65の数が少ないときのパイロット流量を抑制でき,電動機85で消費されるエネルギーを抑制できる。
【0084】
なお,本実施形態は掘削作業をはじめとして様々な作業で効果を発揮する。例えば,均し作業では,主にブーム,アーム,バケットが単独で又は複合的に操作されるが,操作レバー55により操作している油圧アクチュエータの数に応じて電動機85の目標回転数となる第1回転数N1が変化するので無駄なエネルギー消費が抑制できる。
【0085】
(3)コントローラ45は,操作レバー55の操作変化量295が第1閾値α以上のときに電動機85の目標回転数270を第1回転数N11,N12に設定したら,操作レバー55の操作変化量の大小に関わらず電動機85の目標回転数270を第1回転数N11,N12に所定時間ΔT維持することとした。これにより電動機85の目標回転数270が頻繁に変化することを防止できたり,また,電動機85の目標回転数270を変更するタイミングを例えばコントローラ45で行われるその他の制御のタイミングに合わせることができたりするので車体制御を安定させることができる。
【0086】
(4)コントローラ45は,操作レバー55が非操作中のとき(最大操作量が第3閾値β未満のとき),電動機85の目標回転数270を第1回転数N1(N11,N12)より小さいスタンバイ回転数(第3回転数)N3に設定することとした。図11の例では操作レバーが非操作の状態では電動機の回転数はゼロに保持されているので,時刻T1でアーム操作を入力すると電動機の回転数に応答性遅れが生じ,時刻T10で電動機の回転数が第1回転数N12に達する。これに対して本実施形態では操作レバー55が非操作の状態でも電動機85の回転数がスタンバイ回転数N3に保持されているため,時刻T1で急なアーム操作が入力されても電動機85の回転数を遅滞なく目標の第1回転数N11まで増速することができる。
【0087】
(5)上記(4)において,コントローラ45は,ロックスイッチ135がロック位置に切り替えられているとき,電動機85の目標回転数270をスタンバイ回転数(第3回転数)N3よりも小さい最小スタンバイ回転数(第4回転数)N4に設定することとした。これによりロックスイッチ135がロック位置にあり操作レバー55による油圧アクチュエータの操作が不可能な場合に電動機85で消費されるエネルギーを抑制できる。
【0088】
<変形例>
図12はコントローラ45の変形例の構成図を示す。図示したコントローラ45でなされる処理は,図3で符号45Aを付した点線の四角内に含まれる演算部200,290,205,215,210,220に加えて,第4目標回転数演算部225と,第5目標回転数演算部235とに区分される。ここでは既に説明した図3内の各演算部200,290,205,215,210,220の説明は省略し,新たに加わる2つの演算部225,235の詳細について図面を用いて説明する。
【0089】
(第4目標回転数演算部225)
第4目標回転数演算部225は,第3目標回転数演算部220で演算された第3目標回転数270と,圧力センサ110を利用して検出されたパイロットポンプ80の吐出圧(パイロット一次圧)とに基づいて,第4目標回転数275を演算する。
【0090】
図13に第4目標回転数演算部225の制御ブロック図を示す。第4目標回転数演算部225が備える演算部650には,パイロット一次圧に対する電動機補正回転数が規定されており,圧力センサ110の検出信号から演算されるパイロット一次圧に基づいて電動機補正回転数655を演算する。図13における演算部650内のグラフに示すように,電動機補正回転数655はパイロット一次圧の減少に応じて増加するように設定されている。パイロット一次圧に基づいて演算部650で演算された電動機補正回転数655は第3目標回転数270に加算され,その加算後の回転数は第4目標回転数275として出力される。
【0091】
パイロットポンプ80の吐出圧(パイロット一次圧)は外乱により減少することがある。この「外乱」としては,例えば,温度変化による作動油の粘性変化の発生,システムの故障,油圧アクチュエータ数が当初の数よりも増えたとき(例えば2以上の油圧シリンダが必要なアタッチメントへの交換)などがある。しかし,本実施形態のようにパイロット一次圧の減少に応じて電動機85の目標回転数を増加する補正を加えれば,低下したパイロット一次圧を補償することができる。
【0092】
(第5目標回転数演算部235)
第5目標回転数演算部235は,第4目標回転数演算部225で演算された第4目標回転数275と,回転数センサ115を利用して検出された原動機30の回転数(原動機回転数)とに基づいて,第5目標回転数280を演算する。
【0093】
図14に第5目標回転数演算部235の制御ブロック図を示す。第5目標回転数演算部235が備える演算部700には,原動機回転数に対する電動機85の回転数の制限値(電動機回転数制限値)が規定されており,回転数センサ115の検出信号から演算される原動機回転数に基づいて電動機回転数制限値705を演算する。図14における演算部700内のグラフに示すように,電動機回転数制限値705は原動機回転数の増加に応じて,最大値に至るまで単調に増加するように設定されている。原動機回転数に基づいて演算部700で演算された電動機回転数制限値705は第4目標回転数275と大小が比較され,小さい方が第5目標回転数280として出力される。すなわち第4目標回転数275が電動機回転数制限値705を超える場合には,電動機85の目標回転数は電動機回転数制限値705に設定される。つまり電動機回転数制限値705は電動機85の目標回転数の上限値である。
【0094】
このように電動機85の回転数に制限をかけると,例えば電動機の回転数に全く制限をかけていなかった特許文献1の技術よりも電動機85で消費されるエネルギーを低減できる。
【0095】
なお,図12に示した変形例では,第4目標回転数演算部225と第5目標回転数演算部235の双方をコントローラ45に備えたが,いずれか一方を設けるだけでも良い。
【0096】
<その他>
上記の実施形態では,操作レバー55の操作量から方向制御弁60,65の動作数指標値合計値250を演算したが,方向制御弁60,65の変位センサを利用して動作数指標値合計値250を演算してもよい。
【0097】
また,上記では油圧ショベルを例に挙げて説明したが,電動機で駆動されるパイロットポンプを備える作業機械であればホイールローダやクレーン,道路機械などにも本発明は適用可能である。
【0098】
なお,本発明は,上記した実施形態に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例が含まれる。例えば,本発明は,上記の実施形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず,その構成の一部を削除したものも含まれる。また,ある実施の形態に係る構成の一部を,他の実施の形態に係る構成に追加又は置換することが可能である。
【0099】
また,上記のコントローラ45に係る各構成や当該各構成の機能及び実行処理等は,それらの一部又は全部をハードウェア(例えば各機能を実行するロジックを集積回路で設計する等)で実現しても良い。また,上記のコントローラ45に係る構成は,演算処理装置(例えばCPU)によって読み出し・実行されることで当該コントローラ45の構成に係る各機能が実現されるプログラム(ソフトウェア)としてもよい。当該プログラムに係る情報は,例えば,半導体メモリ(フラッシュメモリ,SSD等),磁気記憶装置(ハードディスクドライブ等)及び記録媒体(磁気ディスク,光ディスク等)等に記憶することができる。
【0100】
また,上記の各実施形態の説明では,制御線や情報線は,当該実施形態の説明に必要であると解されるものを示したが,必ずしも製品に係る全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。
【符号の説明】
【0101】
1,2…履体,3…走行体,4…旋回体,5…ブーム,6…アーム,7…アタッチメント,8…運転室,9…機械室,10…カウンタウエイト,11,12…走行モータ(油圧モータ),12…走行モータ(油圧モータ),13…ブームシリンダ(油圧シリンダ),13…ブームシリンダ,14…ブームシリンダ(油圧シリンダ),15…アームシリンダ(油圧シリンダ),16…アタッチメントシリンダ(油圧シリンダ),20…作業装置,30…原動機,33…エンジン,35…発電電動機,40…油圧ポンプ,40…メインポンプ,45…コントローラ,50…ポンプレギュレータ,55…操作レバー(操作装置),60…方向制御弁,60a…電磁比例弁,60b…電磁比例弁,63…作動油タンク,65…方向制御弁,65a…電磁比例弁,65b…電磁比例弁,80…パイロットポンプ,85…電動機,90…パイロットリリーフ弁,95…パイロット回路,100…蓄電池(バッテリ),105…圧力センサ,110…圧力センサ,115…回転数センサ,120…回転数センサ,130…ロックバルブ,135…ロックスイッチ,200…方向制御弁動作数指標値演算部,205…第1目標回転数演算部,210…第2目標回転数演算部,215…一定操作判定部,220…第3目標回転数演算部,225…第4目標回転数演算部,235…第5目標回転数演算部,250…動作数指標値合計値,255…第1目標回転数,260…第2目標回転数,265…一定操作判定値,266…選択回転数,270…第3目標回転数,275…第4目標回転数,280…第5目標回転数,290…操作変化量演算部,295…操作変化量,355…第1動作数指標値演算部,360…第2動作数指標値演算部,370…第1動作数指標値,375…第2動作数指標値,400…第1回転数演算部,410…操作変化量判定部,411…判定値,420…選択判定部,425…選択部,510…選択部,511…判定値,515…判定部,516…操作有無判定値,517…選択判定部,520…操作変化量判定部,530…選択判定部,540…判定値,544…絶対値,546…絶対値,550…最大値選択部,551…最大操作量,570…選択部,575…判定値,650…演算部,655…電動機補正回転数,700…演算部,705…電動機回転数制限値,903…前回値,905…操作変化量,908…前回値,910…操作変化量,915…絶対値(abs),920…絶対値(abs)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14