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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149978
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】冷却水処理方法及び冷却水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 5/00 20060101AFI20220929BHJP
   C02F 1/50 20060101ALI20220929BHJP
   F28G 13/00 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C02F5/00 610F
C02F5/00 620B
C02F1/50 510C
C02F1/50 520K
C02F1/50 531P
C02F1/50 531K
C02F1/50 532C
C02F1/50 532J
C02F1/50 532D
C02F1/50 532B
C02F1/50 540B
C02F1/50 550C
F28G13/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052355
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】松永 功
(72)【発明者】
【氏名】稲村 准一
(72)【発明者】
【氏名】林 秀明
(57)【要約】
【課題】装置の簡略化及び小型化が実現でき、開放型冷却塔の冷却水に冷却水処理薬剤を簡易かつ効率良く注入することが可能な冷却水処理方法及び冷却水処理装置を提供する。
【解決手段】冷却水処理薬剤を重力により滴下させ、開放型冷却塔内の冷却水に冷却水処理薬剤を注入する注入工程を有し、冷却水処理薬剤の滴下開始から滴下終了までの時間の半分が経過したときの冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度が、冷却水処理薬剤の薬剤効果を発揮する濃度以上となるように、冷却水処理薬剤を注入する冷却水処理方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水処理薬剤を重力により滴下させ、開放型冷却塔内の冷却水に前記冷却水処理薬剤を注入する注入工程を有し、
前記冷却水処理薬剤の滴下開始から滴下終了までの時間の半分が経過したときの前記冷却水中の前記冷却水処理薬剤の濃度が、前記冷却水処理薬剤の薬剤効果を発揮する濃度以上となるように、前記冷却水処理薬剤を注入することを特徴とする冷却水処理方法。
【請求項2】
前記冷却水処理薬剤の滴下開始から滴下終了までの時間をA日としたとき、滴下開始から(A/2)日経過したときの前記冷却水中の前記冷却水処理薬剤の濃度が、滴下開始から12時間経過したときの前記冷却水中の前記冷却水処理薬剤の濃度の115%以上となるように、前記冷却水処理薬剤を注入することを特徴とする請求項1に記載の冷却水処理方法。
【請求項3】
前記冷却水処理薬剤の滴下開始からA日後の濃度が、滴下開始から12時間経過したときの前記冷却水中の前記冷却水処理薬剤の濃度の115%以上となるように、前記冷却水処理薬剤を注入することを特徴とする請求項2に記載の冷却水処理方法。
【請求項4】
前記冷却水処理薬剤を収容する薬液バッグと、前記薬液バッグから前記冷却水へ前記冷却水処理薬剤を供給する薬剤供給管と、前記薬剤供給管に設けられ、前記冷却水処理薬剤の流量を調整する流量調整器とを備える重力式滴下装置を前記開放型冷却塔に配置することを特徴とする請求項1又は2に記載の冷却水処理方法。
【請求項5】
前記冷却水処理薬剤の滴下終了後に、前記重力式滴下装置を、新たな重力式滴下装置と交換し、滴下終了後、前記冷却水の薬剤濃度が100mg/L未満となる前に、前記新たな重力式滴下装置による前記冷却水処理薬剤の注入を開始することを更に含む請求項4に記載の冷却水処理方法。
【請求項6】
前記冷却水処理薬剤が、腐食防止剤、スケール防止剤、スライムコントロール剤のうちの1種以上を含有することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の冷却水処理方法。
【請求項7】
開放型冷却塔の冷却水に冷却水処理薬剤を注入する冷却水処理装置において、
前記冷却水処理薬剤を重力により滴下する重力式滴下装置を備え、
該重力式滴下装置が、
前記冷却水処理薬剤を収容するプラスチック製の薬液バッグと、
前記薬液バッグに接続され、前記冷却水処理薬剤を前記冷却水へ供給する薬剤供給管と、
前記薬剤供給管に接続され、前記冷却水処理薬剤の滴下開始から滴下終了までの時間の半分が経過したときの前記冷却水中の前記冷却水処理薬剤の濃度が、前記冷却水処理薬剤の薬剤効果を発揮する濃度以上となるように、前記冷却水処理薬剤の滴下流量を調整する流量調整器と
を備えることを特徴とする冷却水処理装置。
【請求項8】
前記流量調整器が、クランプ式流量調整器又は静脈注射用流量調整器を備えることを特徴とする請求項7に記載の冷却水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却水処理方法及び冷却水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
開放冷却水系では、熱交換器で冷却を行って昇温した冷却水(循環水)を冷却塔に送り、その一部を蒸発させることにより冷却している。冷却した冷却水は、熱交換器に循環させて冷却を繰り返す。このような冷却水系では、冷却塔における水分の蒸発により、循環水が濃縮される。冷却水系の補給水または濃縮された循環水中に含まれるカルシウム、マグネシウム等の硬度成分その他のスケール成分は、熱交換器の伝熱面で析出してスケール化し、熱伝導率の低下などを引き起こすことが知られている。
【0003】
また、補給水や循環水は、大気中の炭酸ガスまたは工場排煙などの酸性ガスを吸収してpHが低下し、熱交換器の腐食及び熱伝導率の低下を招くことがある。各種微生物によってバイオフィルムが形成され、熱伝導率の低下やレジオネラ属菌の増殖などを引き起こすこともある。
【0004】
開放冷却水系におけるスケール防止、腐食、または細菌類の増殖を防止する方法としては、冷却水に薬剤を供給する薬剤処理方法がある。この方法では、リン酸塩、亜鉛塩、モリブデン酸塩、アゾール系化合物、ホスホン酸塩、水溶性ポリマー等から構成される冷却水処理薬剤が冷却水に添加される。冷却水の薬剤処理においては、薬剤濃度の管理が重要であり、ダイヤフラムポンプなどの薬剤注入用のポンプと、薬剤タンクと、薬剤注入配管とから構成される薬剤注入装置を使用し、薬剤を定量注入すること、あるいは補給水量に対して比例注入することが一般的である。
【0005】
冷却水に薬剤を供給する方法として、特開2010-247063号公報には、冷却塔と熱交換器とを循環水路で結んだ冷却水系への冷却水薬品の注入制御方法が記載されている。ここでは、冷却塔の入口及び出口の冷却水温度、又は、熱交換器の冷却水又は冷媒の入口及び出口の温度又は伝熱面の表面温度を測定し、その温度差から蒸発水量を求め、補給水量を算出し、算出した補給水量に基づいて、防食剤、防スケール剤、スライムコントロール剤を含む冷却水薬品を冷却水系に注入する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-247063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載される発明では、冷却水中の薬品濃度を安定して最適な薬品濃度に注入制御する点では一定の効果を奏する。しかしながら、注入制御装置の設置が煩雑であるばかりか、設置コストや動力コストがかかる。そのため、特に循環水量の少ない小型冷却塔に設置する場合には、費用対効果的に見合わないという課題がある。
【0008】
上記課題に鑑み、本発明は、装置の簡略化及び小型化が実現でき、開放型冷却塔の冷却水に冷却水処理薬剤を簡易かつ効率良く注入することが可能な冷却水処理方法及び冷却水処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討した結果、所定の注入方式を採用するとともに、冷却水処理薬剤の供給流量が所定の関係を有するように注入量を制御することが有効であることが分かった。
【0010】
以上の知見を基礎として完成した本発明の実施の形態は、一側面において、冷却水処理薬剤を重力により滴下させ、開放型冷却塔内の冷却水に冷却水処理薬剤を注入する注入工程を有し、冷却水処理薬剤の滴下開始から滴下終了までの時間の半分が経過したときの冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度が、冷却水処理薬剤の薬剤効果を発揮する濃度以上となるように、冷却水処理薬剤を注入する冷却水処理方法である。
【0011】
本発明の実施の形態に係る冷却水処理方法は一実施態様において、冷却水処理薬剤の滴下開始から滴下終了までの時間をA日としたとき、滴下開始から(A/2)日経過したときの冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度が、滴下開始から12時間経過したときの冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度の115%以上となるように、冷却水処理薬剤を注入する。
【0012】
本発明の実施の形態に係る冷却水処理方法は別の一実施態様において、冷却水処理薬剤の滴下開始からA日後の濃度が、滴下開始から12時間経過したときの冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度の115%以上となるように、冷却水処理薬剤を注入する。
【0013】
本発明の実施の形態に係る冷却水処理方法は更に別の一実施態様において、冷却水処理薬剤を収容する薬液バッグと、薬液バッグから冷却水へ冷却水処理薬剤を供給する薬剤供給管と、薬剤供給管に設けられ、冷却水処理薬剤の流量を調整する流量調整器とを備える重力式滴下装置を開放型冷却塔に配置する。
【0014】
本発明の実施の形態に係る冷却水処理方法は更に別の一実施態様において、冷却水処理薬剤の滴下終了後に、重力式滴下装置を、新たな重力式滴下装置と交換し、滴下終了後、冷却水の薬剤濃度が100mg/L未満となる前に、新たな重力式滴下装置による冷却水処理薬剤の注入を開始する。
【0015】
本発明の実施の形態に係る冷却水処理方法は更に別の一実施態様において、冷却水処理薬剤が、腐食防止剤、スケール防止剤、スライムコントロール剤のうちの1種以上を含有する。
【0016】
本発明の実施の形態は別の一側面において、開放型冷却塔の冷却水に冷却水処理薬剤を注入する冷却水処理装置において、冷却水処理薬剤を重力により滴下する重力式滴下装置を備え、重力式滴下装置が、冷却水処理薬剤を収容するプラスチック製の薬液バッグと、薬液バッグに接続され、冷却水処理薬剤を冷却水へ供給する薬剤供給管と、薬剤供給管に接続され、冷却水処理薬剤の滴下開始から滴下終了までの時間の半分が経過したときの冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度が、冷却水処理薬剤の薬剤効果を発揮する濃度以上となるように、冷却水処理薬剤の滴下流量を調整する流量調整器とを備える冷却水処理装置である。
【0017】
本発明の実施の形態に係る冷却水処理方法は一実施態様において、流量調整器が、クランプ式流量調整器又は静脈注射用流量調整器を備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、装置の簡略化及び小型化が実現でき、開放型冷却塔の冷却水に冷却水処理薬剤を簡易かつ効率良く注入することが可能な冷却水処理方法及び冷却水処理装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の形態に係る冷却水処理装置の一例を表す概略図である。
図2図2(a)はクランプ式流量調整器の一例を示す概略図であり、図2(b)は、静脈注射用流量調整器の一例を示す概略図である。
図3】実施例1における冷却水中の冷却水処理薬剤の薬品濃度と経過時間との関係を表すグラフである。
図4】実施例2における冷却水中の冷却水処理薬剤の薬品濃度と経過時間との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。なお、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0021】
(冷却水処理装置)
本発明の実施の形態に係る冷却水処理装置1は、図1に示すように、開放型冷却塔10の冷却水に冷却水処理薬剤を注入する冷却水処理装置1において、冷却水処理薬剤を重力により滴下する重力式滴下装置2を備える。
【0022】
開放型冷却塔10は、向流型冷却塔または直向流型冷却塔などの一般的な装置を用いることができる。設置コストや動力コストを考慮すると、開放型冷却塔10は、冷却水の循環水量が500m3以下、更には300m3以下、より更には250m3以下となる小型の開放型冷却塔10であることが好ましい。
【0023】
開放型冷却塔10は、例えば、側面11及び上方12が、外気と通じるように開放されている。開放型冷却塔10の上方12には、ファンなどで構成される送風機3が配置されている。開放型冷却塔10の底部には、冷却水を収容するための冷却水槽6が設けられている。冷却水槽6には、冷却水槽6内の冷却水を循環させるためのポンプ等を備えた循環装置7が接続される。
【0024】
冷却水槽6の上部には、冷却水を散水させるための散水手段4が設けられている。散水手段4から散布された冷却水は、散水手段4の下部に設けられた通水手段5を通って下方へ流れ落ち、冷却水槽6内へ収容される。通水手段5には充填材が配置されており、充填材が配置された通水手段5内を冷却水が下方に向けて通って冷却水槽6内へと流れる。
【0025】
重力式滴下装置2を、開放型冷却塔10に対して操作者が簡単に配置でき、開放型冷却塔10の冷却水槽6に対して冷却水を簡易かつ効率良く注入させるようにするためには、図2(a)または図2(b)に示すような、自然落下式の輸液構造を有する重力式滴下装置2を利用することが好ましい。重力式滴下装置2は、冷却水処理薬剤を収容するプラスチック製の薬液バッグ20と、薬液バッグ20に接続され、冷却水処理薬剤を開放型冷却塔10内の冷却水へ供給する薬剤供給管21と、薬剤供給管21に接続され、冷却水処理薬剤の滴下流量を調整する流量調整器22とを少なくとも備える。
【0026】
薬液バッグ20は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニルなどのプラスチック製で構成され、袋状又はボトル形状を有する軽量の密封容器等で構成される。薬液バッグ20は、例えば、開放型冷却塔10又は開放型冷却塔10にフックを設けて、このフックにぶら下げたり引っかけたりすることにより配置可能な係止部25を備える。薬液バッグ20は、例えば、冷却水処理薬剤を、最大で5L程度収容可能な程度の容量を有することが好ましい。これにより、薬液バッグ20を軽量化でき、開放型冷却塔10又は開放型冷却塔10の近傍に薬液バッグ20を用意に吊るすことができるため、滴下装置を設置するための追加的な工事等を必要とせず、薬液バッグ20の配置が容易となる。
【0027】
薬液バッグ20に収容される薬剤としては、腐食防止剤、スケール防止剤、スライムコントロール剤のうちの1種以上を含有することが好ましい。腐食またはスケールを防止する薬剤としては、リン酸塩、亜鉛塩、モリブデン酸塩、アゾール系化合物、ホスホン酸塩、水溶性ポリマー等を含むことが好ましい。
【0028】
スライムコントロール剤としては、次亜塩素酸塩、次亜臭素酸塩、グルタルアルデヒド、メチレンビスチオシアネート、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、イソチアゾリン系化合物(例えば、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、2-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン)、ピリジン-2-チオール-1-オキサイド、トリアジン化合物、塩化ベンザルコニウム等の四級アンモニウム塩等が利用できる。中でも特にアゾール化合物、水溶性ポリマー、イソチアゾリン化合物を必須成分として含有する薬剤を使用することが好ましい。
【0029】
薬剤供給管21は、可撓性を有するプラスチック製のチューブ等で構成されている。薬剤供給管21には流量調整器22が接続されている。流量調整器22としては、クランプ式流量調整器又は静脈注射用流量調整器を用いることが、装置の簡略化及び小型化の観点からより好ましい。図2(a)は、流量調整器22として静脈注射用流量調整器を利用する例を示している。図2(b)は、流量調整器22としてクランプ式流量調整器を利用する例を示している。図2(a)に示すクランプ式流量調整器の薬液バッグ20と流量調整器22との間の薬剤供給管21中には、薬剤供給管21内を流れる冷却水処理薬剤の流量(流速)を確認することが可能な点滴室23を備えていてもよい。
【0030】
開放型冷却塔10の腐食、スケールまたはスライムの発生をより簡易な装置で継続的且つ効率的に抑制するためには、冷却水中の薬剤濃度が一時的に高まるような特定の薬剤注入制御手法を採用することが好ましい。このような薬剤注入制御を容易に行うことができる装置としては、例えば、冷却水処理薬剤を重力により滴下させる重力式滴下装置2を利用することが好ましい。
【0031】
さらに、本実施形態では、重力式滴下装置2を用いて、冷却水処理薬剤の滴下開始から滴下終了までの時間の半分が経過したときの冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度が、冷却水処理薬剤の薬剤効果を発揮する濃度以上となるように、流量調整器22により薬剤の供給流量を制御する。冷却水処理薬剤の薬剤効果を発揮する濃度とは、使用する冷却水処理薬剤の種類等により若干の相違はあるが、一般的な冷却水処理薬剤の有効濃度とされる約100ppm/L程度であればよい。これにより、冷却水処理薬剤の滴下開始直後から急激に冷却薬品濃度を上げることができ、一時的に冷却薬品濃度が高い状態を容易に作り出すことができる。
【0032】
特に、スライム処理においては、一時的に冷却水中の薬剤濃度を高め、スライムを発生させる微生物や細菌類にショックを与え、成長を阻害することが好ましい。本発明の実施の形態に係る冷却水処理方法によれば、重力式滴下装置2を用いて、その注入量を適正に制御することにより、薬品濃度を一定値に制御する従来手法に比べて、より効果的にスライムの発生を抑制できる。
【0033】
具体的には、冷却水処理薬剤の滴下開始から滴下終了までの時間をA日としたときに、滴下開始から(A/2)日経過したときの冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度が、滴下開始から12時間経過したときの冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度の115%以上となるように、冷却水処理薬剤を注入する。濃度が115%未満の場合は薬剤の効果が適切に得られず、腐食、スケールまたはスライムの発生抑制効果が十分に得られないことがある。
【0034】
より好ましくは、冷却水処理薬剤の滴下開始から(A/2)日経過したときの冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度が、滴下開始から12時間経過したときの冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度に対して115%以上、更には140%以上となるように、更なる一実施態様では300%以上となるように、冷却水処理薬剤の注入量を制御する。
【0035】
冷却水処理薬剤の供給流量は多いほど好ましいが、供給流量が大きすぎると、冷却水処理薬剤の薬剤量が多くなるため、経済的とはいえない場合がある。以下に制限されるものではないが、冷却水処理薬剤の滴下開始から(A/2)日経過したときの冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度の上限は、700%以下、より好ましくは500%以下、より好ましくは200%以下となるように、冷却水処理薬剤の注入量を制御することができる。
【0036】
上記注入条件に加えて、滴下開始からA日後の濃度が、滴下開始から12時間経過したときの冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度の115%以上となるように、冷却水処理薬剤を注入することがより好ましい。滴下開始からA日後の濃度が、滴下開始から12時間経過したときの冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度の115%以上となるように、更には130%以上となるように、より更には200%以上となるように流量調整器22により供給流量を制御することで、より長期間、より確実に、開放型冷却塔10の腐食、スケールまたはスライムの発生を抑制できる。
【0037】
冷却水処理薬剤の滴下開始からA日後の濃度が、滴下開始から12時間経過したときの冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度の上限は、以下に制限されるものではないが、700%以下、より好ましくは500%以下となるように、冷却水処理薬剤の注入量を制御することができる。
【0038】
冷却水処理薬剤の濃度は、開放型冷却塔10の冷却水系の保有水量によって異なる。例えば、冷却水系の保有水量が少ないと、冷却水処理薬剤の濃度が急激に上昇するが、冷却水系の保有水量が多い時には、冷却水処理薬剤の濃度がゆっくりと上昇する。これらの濃度上昇の影響を考慮した結果において、滴下開始から12時間後程度経過後の冷却水中の冷却水処理薬剤を基準と設定することで、薬剤の有効濃度とされる100ppm/L付近にまでの安定的な上昇が見込まれ、これにより、冷却水への薬剤注入による効果をより適切に評価することができる。
【0039】
重力式滴下装置2を用いた場合、滴下開始から12時間以内は、冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度が急激に上昇し、冷却水中の濃度が安定しない場合もある。薬剤の種類にもよるが、滴下開始から12時間程度経過した後からは、徐々に冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度の上昇幅が小さくなる。本実施形態では、滴下開始から12時間後の冷却水中の冷却水処理薬剤を基準とすることにより、冷却水への薬剤注入による効果をより適切に評価することができる。
【0040】
滴下終了後は、一定期間薬剤を供給しない無滴下期間を設けることにより、冷却水処理薬剤の使用量を少なくできる。但し、無滴下期間は、冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度が100mg/L以上となるように維持されることが好ましい。冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度が100mg/L未満となると、薬剤添加による効果が不十分となる場合がある。
【0041】
滴下終了後は、無滴下期間における冷却水処理薬剤の冷却水中の濃度を濃度計8で測定することができる。そして、冷却水処理薬剤の滴下終了後は、重力式滴下装置2を新たな重力式滴下装置2と交換し、濃度計8の測定結果に応じて、冷却水の薬剤濃度が100mg/L未満になる前に、新たな重力式滴下装置2を用いた冷却水処理薬剤の滴下を開始する。これにより、より長期間、より確実に、開放型冷却塔10の腐食、スケールまたはスライムの発生を抑制できる。
【0042】
冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度の測定位置は限定されない。典型的には、冷却水を収容する冷却水槽6内に濃度計8を配置し、冷却水槽6内の冷却水の濃度を測定することが好ましい。より好ましくは、循環装置7の循環ポンプの出口側、または図示しない熱交換器の出口側の配管部から冷却水を分取し、測定することが好ましい。これにより、冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度をより正確に測定することができるため、開放型冷却塔の冷却水に冷却水処理薬剤を簡易かつ効率良く注入することが可能となる。
【0043】
薬剤供給管21の先端は、冷却水の水面よりも上方に配置することが好ましい。薬剤供給管21の先端を水中に浸漬すると、冷却水処理薬剤の残量が少なくなった場合に、水圧により滴下が停止する可能性がある。一方で、開放型冷却塔10内は送風機3により外気を取り込んでいるため、送風機3による風の影響を受ける場合がある。以下に限定されるものではないが、薬剤供給管21の先端は、冷却水の水面に極力近い位置から冷却水へ滴下させることが好ましい。
【0044】
上述したように、冷却水処理薬剤の補給は、使用後の重力式滴下装置2を開放型冷却塔10から取り外し、新たな重力式滴下装置2と交換するだけでよいため、取り扱いが非常に容易である。また、重力式滴下装置2は、重力を利用した自然落下式の輸液構造を備えるため、薬液供給のためのポンプ等の動力を設置する必要がなく、全体としてより簡易な装置が提供できる。
【0045】
(冷却水処理装置)
図1に示す冷却水処理装置1を用いた冷却水処理方法の例を説明する。本発明の実施の形態に係る冷却水処理方法は、冷却水処理薬剤を重力により滴下させ、開放型冷却塔10の冷却水に冷却水処理薬剤を注入する注入工程を有する。
【0046】
注入工程では、流量調整器22により、冷却水処理薬剤の滴下開始から滴下終了までの時間をA日としたとき、滴下開始から(A/2)日経過したときの冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度が、滴下開始から12時間経過したときの冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度の115%以上となるように、冷却水処理薬剤を注入することが好ましい。
【0047】
注入工程では、冷却水処理薬剤を収容する薬液バッグ20と、薬液バッグ20から冷却水へ冷却水処理薬剤を供給する薬剤供給管21と、薬剤供給管21に設けられ、冷却水処理薬剤の流量を調整する流量調整器22とを備える重力式滴下装置2を、開放型冷却塔10に配置する。そして、薬剤供給管21の先端を開放型冷却塔10の冷却水槽6内の冷却水面へ近づけて冷却水処理薬剤を注入する。重力式滴下装置2は、軽量で小型であるため、開放型冷却塔10へ容易に設置することができる。
【0048】
冷却水処理薬剤の滴下終了後は、重力式滴下装置2を新たな重力式滴下装置2と交換する。そして、滴下終了後は、冷却水の薬剤濃度が100mg/L未満になる前に、新たな重力式滴下装置2を用いた冷却水処理薬剤の滴下を開始することが好ましい。これにより冷却水処理薬剤の薬剤効果をより安定的に効率良く得ることができる。
【0049】
本発明の実施の形態に係る冷却水処理装置1及び処理方法によれば、重力式滴下装置2を用いて、一時的に冷却水中の薬剤濃度を高めるような冷却水処理薬剤の供給処理を行う。これにより、装置の簡略化及び小型化が実現でき、開放型冷却塔10の冷却水に冷却水処理薬剤を簡易かつ効率良く注入することが可能な冷却水処理方法及び冷却水処理装置1が提供できる。
【0050】
本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。即ち、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を相互に組み合わせ、変形して具体化できることは勿論である。
【実施例0051】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0052】
(実施例1)
冷却水処理薬剤を1L収容した薬液バッグを備える重力式滴下装置を開放型冷却塔に配置し、薬剤供給管を介して冷却水槽内に滴下した。開放型冷却塔の運転条件は、循環水量2.3m3/h、保有水量250L、水温差3℃とし、冷却水の濃縮倍数を2倍とした。冷却水処理薬剤としては、防食及びスライム抑制効果を有するアゾール化合物、イソチアゾリン化合物を有効成分とする薬剤を使用した。薬剤滴下条件は、流量調整器としてクランプ式流量調整器を利用し、開始滴下量を24mL/hに設定して滴下を開始した。冷却水中の薬品濃度は、冷却水槽内に濃度計を配置して測定した。滴下開始からの経過時間と薬品濃度との関係を図3に示す。
【0053】
冷却水処理薬剤の滴下開始から滴下終了までの時間Aは4日であった。滴下開始から12時間経過したときの薬剤濃度は628mg/Lであり、滴下開始から(A/2)日である2日経過したときの薬剤濃度は935mg/Lであった。即ち、滴下開始から(A/2)日経過したときの冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度が、滴下開始から12時間経過したときの冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度の149%であった。また、滴下開始から4日後(A)の薬剤濃度は727mg/Lであり、滴下開始12時間後の薬剤濃度の116%であった。薬剤効果が有効とされる濃度:100mg/L以上が保持された期間は11.9日であった。
【0054】
(実施例2)
冷却水処理薬剤を3L収容した薬液バッグを備える重力式滴下装置を開放型冷却塔に配置し、薬剤供給管を介して冷却水槽内に滴下した。開放型冷却塔の運転条件は、循環水量2.3m3/h、保有水量250L、水温差3℃とし、冷却水の濃縮倍数を2倍とした。冷却水処理薬剤としては、防食及びスライム抑制効果を有するアゾール化合物、イソチアゾリン化合物を有効成分とする薬剤を使用した。薬剤滴下条件は流量調整器として静脈注射用流量調整器を利用し、開始滴下量を10mL/hに設定して滴下を開始した。冷却水中の薬品濃度は、冷却水槽内に濃度計を配置して測定した。滴下開始からの経過時間と薬品濃度との関係を図4に示す。
【0055】
冷却水処理薬剤の滴下開始から滴下終了までの時間Aは10.4日であった。滴下開始から12時間経過したときの薬剤濃度は608mg/Lであった。滴下開始から5.2日(A/2)経過したときの薬剤濃度が1994mg/Lであった。即ち、滴下開始から(A/2)日経過したときの冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度が、滴下開始から12時間経過したときの冷却水中の冷却水処理薬剤の濃度の328%であった。また、滴下開始から10.4日後(A)の薬剤濃度は1910mg/Lであり、滴下開始12時間後の薬剤濃度の314%であった。薬剤効果が有効とされる濃度:100mg/L以上が保持された期間は19.2日であった。
【0056】
(防食効果及びスライム抑制効果について)
実施例1及び2ともに、試験期間中の防食効果及びスライム抑制効果について、冷凍空調機器用水質ガイドライン(JRA-GL02:1994)に準じて評価した。防食効果は銅(C1100P)の腐食検査を行ったところ、実施例1では1.2mg/dm2・Day、実施例2では0.8mg/dm2・Dayであり、実用上十分な耐食性があるとされる2.5mg/dm2・Dayを大きく下回った。スライム抑制効果は、実施例1及び2ともにスライムの発生が認められず、冷凍空調機器用水質ガイドラインに基づいてスライム障害が発生しにくいとされる103個/mL以下であり、優れた防食及びスライム抑制効果が得られた。
【符号の説明】
【0057】
1…冷却水処理装置
2…重力式滴下装置
3…送風機
4…散水手段
5…通水手段
6…冷却水槽
7…循環装置
8…濃度計
10…開放型冷却塔
11…側面
12…上方
20…薬液バッグ
21…薬剤供給管
22…流量調整器
23…点滴室
25…係止部
図1
図2
図3
図4