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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150098
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】タイプ14コラーゲン産生促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9728 20170101AFI20220929BHJP
   A61K 36/07 20060101ALI20220929BHJP
   A61K 36/258 20060101ALI20220929BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220929BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220929BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20220929BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220929BHJP
   C07K 14/78 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
A61K8/9728
A61K36/07
A61K36/258
A61P43/00 105
A61P17/00
A61P43/00 121
A61K8/9789
A61Q19/00
C07K14/78 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052537
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮地 克真
(72)【発明者】
【氏名】山口 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 靖司
(72)【発明者】
【氏名】大隅 和寿
(72)【発明者】
【氏名】坂井田 勉
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
4H045
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083BB51
4C083CC02
4C083EE12
4C083EE13
4C083FF01
4C088AA02
4C088AB18
4C088AC02
4C088AC16
4C088BA08
4C088CA03
4C088MA07
4C088MA63
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZB21
4C088ZC75
4H045AA50
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA20
4H045EA50
(57)【要約】
【課題】コラーゲン線維の形成促進に関与するタイプ14コラーゲンの発現を亢進する新たな因子を見出し、毛包周囲を含む真皮構造の形態変化や脆弱化に起因する皮膚や毛髪の疾患又は症状の治療、改善、及び/又は予防に有効な製剤を提供すること。
【解決手段】トリュフの抽出物及び/又は蒸気加熱処理後、加熱乾燥処理されたオタネニンジンの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、真皮線維芽細胞におけるタイプ14コラーゲン産生促進剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリュフの抽出物及び/又は蒸気加熱処理後、加熱乾燥処理されたオタネニンジンの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、真皮線維芽細胞におけるタイプ14コラーゲン産生促進剤。
【請求項2】
前記オタネニンジンが、乾燥又は生のオタネニンジンである、請求項1に記載のタイプ14コラーゲン産生促進剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のタイプ14コラーゲン産生促進剤を含む、真皮構造安定化用組成物。
【請求項4】
前記組成物が、化粧品、医薬部外品、又は医薬品である、請求項3に記載の真皮構造安定化用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真皮線維芽細胞におけるタイプ14コラーゲン産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、大別すると表皮、真皮、皮下組織の3層構造をとっている。真皮層には真皮線維芽細胞が存在しており、真皮線維芽細胞から産生されるコラーゲンは、肌のハリや弾力を保つのに重要な成分として知られている。また、シワやタルミの原因として、老化や炎症によって、コラーゲンが減少することが挙げられている。ヒトの体内にはこれまで29種類のコラーゲンが存在することがわかっており、皮膚では、表皮と真皮の接合部である基底膜や真皮に存在し、真皮ではその70%以上を占めている。細胞外マトリックス(ECM)中でコラーゲンの三重らせん分子は、さらに自己集合し、超分子構造体を形成している。その形態によって、コラーゲンは、線維形成型コラーゲン(タイプI、II、III、V、XI等)、ネットワーク形成型コラーゲン(タイプIV、VIII、X等)、FACIT型コラーゲン(タイプIX、XII、XIV、XVI、XIX、XX等)、膜貫通型コラーゲン(タイプXIII、XXII、XXIII、XXV等)、ミクロフィブリルコラーゲン(タイプVI)などに分類される。真皮中のコラーゲンのうちタイプIコラーゲンは約80%、タイプIIIコラーゲンは約15%を占め、タイプVコラーゲンは、タイプIコラーゲン及びタイプIIIコラーゲンとハイブリッドをつくることにより細いコラーゲン線維を形成する。また、タイプIVコラーゲンは、基底膜コラーゲンとも呼ばれ、網目状の構造を形成する。タイプXIII及びタイプXXVは膜貫通型コラーゲンで、C末端側を細胞外に露出しており、細胞接着などに関与している。タイプVIコラーゲンは四量体を形成し、短いコラーゲンが数珠つなぎになったミクロフィブリルを形成する。FACIT(Fibril Associated Collagen with Interrupted Triple helix)型コラーゲンは、線維型コラーゲンに結合した状態で存在する。タイプ14(XIV)コラーゲンはこのFACITタイプ型コラーゲンであり、真皮のタイプIコラーゲンのような線維形成型コラーゲンと結合し、コラーゲン線維の形成促進、コラーゲン線維同士やコラーゲン線維と他の細胞外マトリックスの結合に関与していると考えられている。タイプ14コラーゲンをコードする遺伝子は、ヒトの場合COL14A1、UNDなどのシンボルで表され、この遺伝子の機能不全は、線維形成異常や生物力学的異常を引き起こすことが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
毛髪を形成している成長期毛包は2~6mmほどの長さがあり、表皮表面の毛穴から皮膚の深部まで達し、真皮や皮下組織を貫通している。毛包の外側は、基底膜によって包まれているが、それより外側の毛包と隣接する組織間の連結様式は不明な点が多い。これまでに、毛包の毛球部付近では基底膜が存在しているが、皮膚の表皮と真皮の連結部分とは異なって、ヘミデスモソームやアンカリング構造が存在しないことがわかっている。これは、毛周期に伴って成長と退縮を繰り返す必要性から、毛包と真皮の間にはしっかりとした連結構造が形成されないことによるものと考えられている(非特許文献2)。一方で、毛周期に影響されずに常に構造が維持されている毛包のバルジ領域よりも皮膚の表皮側(毛包上部)では、アンカリングプラークの構成成分であるタイプ7コラーゲンや基底膜成分であるラミニンなどが発現しており、毛包と真皮や立毛筋などとの間に連結構造が形成されている(非特許文献3)。しかしながら、毛包と真皮の連結構造が不安定になると、毛包が真皮によって固定されないために毛包が変形し、その結果、新生される毛髪の形状に異常が生じて、うねりやくせ毛が目立つようになる。
【0004】
よって、線維形成型コラーゲンと結合し、コラーゲン線維の形成促進に関与するタイプ14コラーゲンなどの構成成分が活性化されることによって、毛包と真皮の連結構造や、毛包周囲のコラーゲン線維の均一性が改善されて、真皮の構造が安定化することが期待できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Heather L. Ansorge,et al.,Type XIV Collagen Regulates Fibrillogenesis: PREMATURE COLLAGEN FIBRIL GROWTH AND TISSUE DYSFUNCTION IN NULL MICE, J.BIOL.CHEM.284(13),8427-8438(2009)
【非特許文献2】Michael Nutbrown and Valerie A. Randall, Differences Between Connective Tissue-Epithelial Junctions in Human Skin and the Anagen Hair Follicle, J.Invest.Dermatol.104,90-94(1995)
【非特許文献3】Masashi Akiyama,et al., Characterization of hair follicle bulge in human fetal skin; The human fetal bulge is a pool of undifferentiated keratinocytes, J.Invest.Dermatol.105,844-850(1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した実情に鑑み、コラーゲン線維の形成促進に関与するタイプ14コラーゲンの発現を亢進する新たな因子を見出し、毛包周囲を含む真皮構造の形態変化や脆弱化による皮膚や毛髪の疾患又は症状の治療、改善、及び/又は予防に有効な製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究をした結果、トリュフの抽出物、所定の前処理をしたオタネニンジンの抽出物、及びこれらの混合物が、真皮線維芽細胞におけるタイプ14コラーゲンの産生を促進させる作用を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本願発明は、以下の発明を包含する。
(1)トリュフの抽出物及び/又は蒸気加熱処理後、加熱乾燥処理されたオタネニンジンの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、真皮線維芽細胞におけるタイプ14コラーゲン産生促進剤。
(2)前記オタネニンジンが、乾燥又は生のオタネニンジンである、(1)に記載のタイプ14コラーゲン産生促進剤。
(3)(1)又は(2)に記載のタイプ14コラーゲン産生促進剤を含む、真皮構造安定化用組成物。
(4)前記組成物が、化粧品、医薬部外品、又は医薬品である、(3)に記載の真皮構造安定化用組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、タイプ14コラーゲン産生促進剤が提供される。タイプ14コラーゲンは、真皮のタイプIコラーゲンのような線維形成型コラーゲンと結合し、コラーゲン線維の形成促進に関与している。よって、本発明のタイプ14コラーゲン産生促進剤は、加齢等による毛包周囲を含む真皮構造の形態変化や脆弱化によって生じるシワ、タルミ、ハリや弾力の低下、毛髪のうねりやくせ毛などの改善及び予防に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.タイプ14コラーゲン産生促進剤
本発明の真皮線維芽細胞におけるタイプ14コラーゲン産生促進剤は、トリュフの抽出物及び/又は蒸気加熱処理後、加熱乾燥処理されたオタネニンジン(以下、「修治オタネニンジン」と記載する場合がある)の抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。本発明における「タイプ14コラーゲン産生促進」とは、生体レベル又は培養レベルでタイプ14コラーゲンの産生を促進することをいう。
【0011】
「タイプ14コラーゲン」は、Fibril Associated Collagen with Interrupted Triple-helix(FACIT)に分類されるコラーゲンで、ヒトの場合COL14A1、UNDなどのシンボルで表される。
【0012】
本発明に用いるトリュフ(学名:Tuber spp.)は、セイヨウショウロ目(Tuberales)、セイヨウショウロ科(Tuberaceae)に属する子嚢菌であり、塊状で地中に発生し、子実層は外に開いていない。子実体の多くは強い香りを持ち、リスやウサギのような動物が掘り出して食用とする。トリュフは、世界3大珍味のひとつであり高級フランス料理に使用される。本発明に用いるトリュフの種類としては、白トリュフ(Tuber magnatum Pico)、黒トリュフ(Tuber melanosporum Vitt)が好ましい。
【0013】
本発明において、トリュフの抽出物は、子実体又は菌糸体の抽出物をいうが、子実体の抽出物が好ましい。また、抽出には、子実体又は菌糸体をそのまま使用してもよく、乾燥、粉砕、細切等の処理を行ってもよい。
【0014】
抽出方法は、特に限定されないが、水もしくは熱水、又は水と有機溶媒の混合溶媒を用い、攪拌又はカラム抽出する方法により行うことができる。有機溶媒としては、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール類(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)が挙げられる。なかでも、低級アルコール、液状多価アルコール等の極性溶媒が好ましく、エタノール、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール等の水溶性有機溶媒がより好ましく、これらの一種又は二種以上を用いてもよい。特に好ましい抽出溶媒としては、水、又は水-エタノール系の混合極性溶媒が挙げられる。溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えば上記トリュフ(乾燥重量)に対し、10倍以上、好ましくは20倍以上であればよいが、抽出後に濃縮を行ったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、用いる溶媒の種類によるが、例えば、10~100℃、好ましくは30~90℃で、30分~24時間、好ましくは1~10時間を例示することができる。また、抽出物は、抽出した溶液のまま用いてもよいが、必要に応じて、その効果に影響のない範囲で、濃縮(有機溶媒、減圧濃縮、膜濃縮などによる濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いてもよい。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いてもよい。
【0015】
本発明において用いるオタネニンジン(学名:Panax ginseng C.A.Mey、別名:高麗人参、朝鮮人参、薬用人参)は、ウコギ科(Araliaceae)トチバニンジン属(Panax)に属する多年草で、生薬の「ニンジン」(和名:人参、学名:Ginseng Radix)の基原植物である。オタネニンジンの根を乾燥させたものが生薬として用いられているが、その製造方法の違いから、根の皮を剥ぎ、乾燥させた「白参」と、皮を付けたまま蒸して乾燥させた「紅参」に大別される。
【0016】
本発明において、オタネニンジンは、その葉、茎、果実、果皮、花、花芽、種子、全草、根、根茎等の植物体の一部又は植物体全体、それらの混合物のいずれも用いることができるが、根が好ましく、根の側根部分がより好ましい。
【0017】
本発明においてオタネニンジンは、乾燥オタネニンジン又は生のオタネニンジンのいずれも用いることができるが、乾燥オタネニンジンが好ましい。乾燥オタネニンジンの場合、水分含量が20%以下、好ましくは10%以下となるまで乾燥させたものが好ましい。水分含量は、日本薬局方の乾燥減量などの方法を用いて測定することができる。乾燥方法としては、植物体の乾燥方法として通常用いられ、水分含量が上記の範囲となる方法であれば特に限定はされないが、例えば、自然乾燥(風乾)、天日乾燥、通風乾燥、熱風乾燥、噴霧乾燥、減圧乾燥、真空乾燥等が挙げられる。
【0018】
本発明において、上記の乾燥オタネニンジン又は生のオタネニンジンを抽出する前に、生薬の加工の際に行われる修治処理(蒸して乾かすという加工処理)に相当する蒸気加熱処理と加熱乾燥処理を行う。蒸気加熱処理は、熱水、飽和水蒸気、過熱蒸気、減圧(真空)蒸気等を熱媒体とし、高湿度雰囲気下、例えば、湿度80%以上の雰囲気下で対象物を加熱する処理をいう。蒸気加熱は熱媒体を対象物に直接接触させることによって行ってもよく、又は対象物を熱交換機を通じて間接的に加熱してもよい。また加熱は常圧下及び加圧下のいずれで行ってもよい。蒸気加熱処理の条件としては、温度は、70~180℃が好ましく、100~150℃がより好ましい。時間は、温度によって異なるが、1~15時間が好ましく、2~10時間がより好ましく、2~6時間がさらに好ましい。これらの温度及び時間の条件はあくまで例示であり、温度及び時間の相互の関係で適宜変更できる。また、本発明における蒸気加熱処理は、連続式又はバッチ式のスチーマー(蒸し機)やオートクレーブなどを用いて行えばよい。
【0019】
蒸気加熱処理されたオタネニンジンは、水分を含んでいるため、加熱乾燥処理を行う。加熱乾燥の温度としては、40~85℃が好ましく、50~70℃がより好ましい。乾燥方法としては、通風乾燥、熱風乾燥、マイクロ波乾燥等を用いることができる。乾燥時間(加熱時間)は、加熱温度、蒸気加熱処理後のオタネニンジンの水分含量、乾燥する総量によって異なり、特定はできないが、約6~24時間の範囲である。
【0020】
上記のようにして蒸気加熱処理後、加熱乾燥処理を施したオタネニンジンを抽出する。抽出方法は、前記のトリュフの抽出と同様にして行えばよく、抽出溶媒の種類、抽出温度・時間、抽出後の処理については、前記のトリュフの抽出方法に従えばよい。
【0021】
本発明において、トリュフの抽出物、修治オタネニンジンの抽出物は、いずれか1種を用いてもよいが、両者を併用すると真皮線維芽細胞におけるタイプ14コラーゲン産生促進効果が増強するので好ましい。トリュフの抽出物と修治オタネニンジンの抽出物を併用する場合、混合比率は限定されないが、好ましくは1:10~10:1であり、より好ましくは1:5~5:1であり、さらに好ましくは1:2~2:1であり、最も好ましくは1:1である。
【0022】
上記のトリュフの抽出物及び/又は修治オタネニンジンの抽出物は、真皮線維芽細胞におけるタイプ14コラーゲン産生を促進する作用を有する。本発明において、タイプ14コラーゲン産生促進とは、タイプ14コラーゲン遺伝子の発現を促進すること、及び/又はタイプ14コラーゲン遺伝子の発現を促進することによりタイプ14コラーゲンタンパク質の発現を促進することをいう。前述のとおり、タイプ14コラーゲンは、真皮のタイプIコラーゲンのような線維形成型コラーゲンと結合し、コラーゲン線維の形成を促進する作用を有するため、本発明のタイプ14コラーゲン産生促進剤は、毛包周囲を含む真皮構造の変化に起因する皮膚や毛髪の疾患又は症状の治療、改善、及び/又は予防するのに有効である。ここで、真皮構造の変化には、構造の形態異常、脆弱化、空洞化などが含まれる。真皮構造の変化に起因する皮膚や毛髪の疾患や症状としては、例えば、皮膚の場合は、シワ、タルミ、ほうれい線(鼻唇溝)、マリオネットライン、ハリや弾力の低下、ごわつき、くすみ、線状皮膚萎縮症(皮膚線条)、日光弾性線維症、強皮症、線維肉腫、色素性乾皮症、皮膚組織球腫などが挙げられ、毛髪の場合は、うねり、くせ毛、縮れ毛、細毛、切れ毛、ハリやコシの低下、ボリュームダウンなどが挙げられる。
【0023】
本発明に係るタイプ14コラーゲン産生促進剤におけるトリュフの抽出物及び/又は修治オタネニンジンの抽出物の含有量は、特に限定されないが、抽出物の性状(抽出液、濃縮物、又は乾燥物)により、例えば、当該薬剤全量に対して、0.00001~10重量%であることが好ましく、0.0001~1重量%であることがより好ましい。
【0024】
2.真皮構造安定化用組成物
本発明に係るタイプ14コラーゲン産生促進剤を生体内に投与する場合は、そのまま投与することも可能であるが、本発明の効果を損なわない範囲で適当な添加物とともに化粧品、医薬部外品、医薬品等の形態の各種組成物に配合し、真皮構造安定化用組成物として提供できる。特に、皮膚外用組成物(頭皮や毛髪に適用される毛髪用組成物を含む)の形態とするのが好ましい。
【0025】
本発明に係るタイプ14コラーゲン産生促進剤を化粧品や医薬部外品に配合する場合は、その剤形は、水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、粉末分散系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油二層系、又は水-油-粉末三層系等のいずれでもよい。また、当該化粧品や医薬部外品は、タイプ14コラーゲン産生促進剤とともに、皮膚外用組成物において通常使用されている各種の成分、添加剤、基剤等をその種類に応じて選択し、適宜配合し、当分野で公知の手法に従って製造することができる。その形態は、液状、乳液状、クリーム状、ゲル状、ペースト状、スプレー状等のいずれであってもよい。皮膚外用組成物に配合する成分、添加剤、基材としては、例えば、希釈剤(精製水、エタノール等)、油脂類(オリーブ油、ヤシ油、月見草油、ホホバ油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油等)、ロウ類(ラノリン、ミツロウ、カルナウバロウ等)、炭化水素類(流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、ワセリン等)、脂肪酸類(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等)、高級アルコール類(ミリスチルアルコール、セタノール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等)、エステル類(ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、トリオクタン酸グリセリン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル等)、有機酸類(クエン酸、乳酸、α-ヒドロキシ酢酸、ピロリドンカルボン酸等)、糖類(マルチトール、ソルビトール、キシロビオース、N-アセチル-D-グルコサミン等)、蛋白質及び蛋白質の加水分解物、アミノ酸類及びその塩、ビタミン類、植物・動物抽出成分、種々の界面活性剤、シリコーン油、保湿剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、安定化剤、防腐剤、殺菌剤、香料、着色料等が挙げられる。
【0026】
また毛髪用組成物とする場合には、本発明の効果に悪影響を及ぼさない限り、育毛料・養毛料の成分として従来より知られている成分を含めてもよい。例えば、センブリエキス、柑橘類エキス等の植物抽出エキス、ビタミンB、ビタミンE及びその誘導体、ビオチン等のビタミン類、パントテン酸及びその誘導体、グリチルリチン酸及びその誘導体、ニコチン酸エステル、セリン、メチオニン等のアミノ酸類、セフォランチン、塩化カプロニウム、ミノキシジル、ニコランジル、アセチルコリン誘導体、サイクロスポリン類、及びエストラジオール等の女性ホルモン剤等、ならびにこれらの混合物が挙げられる。
【0027】
化粧品や医薬部外品の種類としては、例えば、化粧水、乳液、ジェル、美容液、一般クリーム、日焼け止めクリーム、パック、マスク、洗顔料、化粧石鹸、ファンデーション、おしろい、浴用剤、ボディローション、ボディシャンプー、ヘアシャンプー、ヘアリンス、ヘアトリートメント、ヘアコンディショナー、スカルプトリートメント、ヘアスプレー、ヘアパック、ヘアエッセンス、ヘアトニック、ヘアリキッド、ヘアムースなどが挙げられる。
【0028】
本発明に係るタイプ14コラーゲン産生促進剤を医薬品に配合する場合は、薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物と混合し、患部に適用するのに適した製剤形態の各種製剤に製剤化することができる。薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、その剤形、用途に応じて、適宜選択した製剤用基材や担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、増量剤、分散剤、湿潤化剤、緩衝剤、溶解剤又は溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、噴射剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、香料等を適宜添加し、公知の種々の方法にて経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる各種製剤形態に調製すればよい。本発明の医薬品を上記の各形態で提供する場合、通常当業者に用いられる製法、たとえば日本薬局方の製剤総則[2]製剤各条に示された製法等により製造することができる。
【0029】
本発明の医薬品の形態としては、特に制限されるものではないが、例えば錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、トローチ剤、顆粒剤、散剤、液剤、丸剤、乳剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤などの経口剤、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、座剤、軟膏剤、ローション剤、噴霧剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤などの非経口剤などが挙げられる。また、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよく、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
【0030】
本発明に係るタイプ14コラーゲン産生促進剤を、前記皮膚の疾患や症状を治療、改善、及び/又は予防するための医薬品として用いる場合に適した形態は外用製剤であり、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、液剤、貼付剤(パップ剤、プラスター剤)、フォーム剤、スプレー剤、噴霧剤などが挙げられる。軟膏剤は、均質な半固形状の外用製剤をいい、油脂性軟膏、乳剤性軟膏、水溶性軟膏を含む。ゲル剤は、水不溶性成分の抱水化合物を水性液に懸濁した外用製剤をいう。液剤は、液状の外用製剤をいい、ローション剤、懸濁剤、乳剤、リニメント剤等を含む。
【0031】
経口投与用製剤には、例えば、デンプン、ブドウ糖、ショ糖、果糖、乳糖、ソルビトール、マンニトール、結晶セルロース、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、又はデキストリン等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプン、又はヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール、又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0032】
非経口投与用製剤には、蒸留水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、マクロゴール、ミョウバン水、植物油等の溶剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D-マンニトール等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0033】
本発明の医薬品は、上記皮膚疾患や症状を抑制する予防薬として、及び/又は、正常な状態に改善する治療薬として機能する。本発明の医薬品の有効成分は、天然物由来であるため、非常に安全性が高く副作用がないため、前述の疾患の治療、改善、及び/又は予防用医薬として用いる場合、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等の哺乳動物に対して広い範囲の投与量で経口的に又は非経口的に投与することができる。
【0034】
本発明の化粧品、医薬品、医薬部外品におけるタイプ14コラーゲン産生促進剤の含有量は特に限定されないが、製剤(組成物)全重量に対して、上記の抽出物の乾燥物に換算して、0.001~30重量%が好ましく、0.01~10重量%がより好ましい。上記の量はあくまで例示であって、組成物の種類や形態、一般的な使用量、効能・効果などを考慮して適宜設定・調整すればよい。また、製剤化における有効成分の添加法については、予め加えておいても、製造途中で添加してもよく、作業性を考えて適宜選択すればよい。
【実施例0035】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
[実施例1]トリュフ、オタネニンジンの抽出物の製造例
トリュフ、オタネニンジンの抽出物を以下のとおり製造した。
【0037】
(製造例1)トリュフの熱水抽出物の調製
トリュフの粉砕物100gに精製水1Lを加え、90~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してトリュフの熱水抽出物を5.1g得た。
【0038】
(製造例2)生オタネニンジンの根(蒸気加熱:105℃、加熱乾燥:50℃)の熱水抽出物の調製
収穫後の生のオタネニンジン(水分量80%)を105℃で8時間蒸した後、50℃で乾燥させた(日本薬局方の「紅参」に適合)。このオタネニンジンの乾燥物40gに精製水800mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、蒸気加熱処理(105℃)された生オタネニンジンの根の熱水抽出物を17.5g得た。
【0039】
(製造例3)乾燥オタネニンジンの根(蒸気加熱:105℃、加熱乾燥:50℃)の熱水抽出物の調製
乾燥したオタネニンジンの根(水分量9%)を105℃で8時間蒸した後、50℃で乾燥させた。このオタネニンジンの乾燥物40gに精製水800mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して蒸気加熱処理(105℃)された乾燥オタネニンジンの根の熱水抽出物を18.7g得た。
【0040】
(製造例4)乾燥オタネニンジンの根(蒸気加熱:121℃、加熱乾燥:60℃)の熱水抽出物の調製
乾燥したオタネニンジンの根(水分量7%)を121℃で4時間蒸した後、60℃で乾燥させた。このオタネニンジンの乾燥物40gに精製水800mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して蒸気加熱処理(121℃)された乾燥オタネニンジンの根の熱水抽出物を16.2g得た。
【0041】
(比較製造例1)生オタネニンジンの根(蒸気加熱処理なし)の熱水抽出物の調製
収穫後の生のオタネニンジンの根を65℃で乾燥させたもの40gに精製水800mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して生オタネニンジンの根の熱水抽出物を12.5g得た。
【0042】
[実施例2]タイプ14コラーゲン産生促進試験
ヒト由来正常線維芽細胞(クラボウ社製)を用いて、トリュフの抽出物及び/又は蒸気加熱処理後、加熱乾燥処理されたオタネニンジンによるタイプ14コラーゲンの産生促進効果を下記の条件にて測定した。また、細胞種の比較としてヒト由来正常ケラチノサイト(クラボウ社製)、ヒト毛乳頭細胞、ヒト毛包幹細胞についても同時に試験を行った。毛乳頭細胞と毛包幹細胞については被験者より毛包を採取し、下記の方法にて培養を行った。
【0043】
(ヒト毛乳頭細胞の培養)
ヒトの毛髪を毛抜きで採取し、メス等を用いて毛包組織の毛乳頭を含む組織を回収した。PBS(-)にて洗浄した後、ピンセット等を用いて毛母に包まれている毛乳頭を摘出した。摘出した毛乳頭を培養プレートにスクラッチし、その後、10%FBS含有DMEM培地(SIGMA社製)を用いてコンフルエントになるまで維持した。コンフルエントになった細胞を回収し、同培養プレートに再び播種し、その後生着し、増殖している細胞を毛乳頭細胞として以下の試験に用いた。
【0044】
(ヒト毛包幹細胞の培養)
ヒトの毛髪を毛抜きで採取し、メス等を用いて毛包組織のバルジ領域を含む組織を回収した。PBS(-)にて洗浄した後、トリプシン(BD Biosciences社製)処理を行った。その後、セルストレイナー(FALCON社製)を用いて、細胞を単離し、回収した。回収した細胞を培養プレートに播種し、KG2培地(KURABO社製)を用いてコンフルエントになるまで維持した。コンフルエントになった細胞を回収し、同培養プレートに再び播種し、その後生着し、増殖している細胞を毛包幹細胞として以下の試験に用いた。
【0045】
上記の各種細胞(真皮線維芽細胞、表皮角化細胞(ケラチノサイト)、毛乳頭細胞、毛包幹細胞)を12ウェルプレートの1ウェル当たり5×10個で播種し24時間培養した。その後、上記製造例で得られた各抽出物を最終濃度が100μg/mlとなるように添加した。ただし、トリュフ抽出物とオタネニンジン抽出物の混合抽出物については2種の抽出物を50μg/mlずつ添加し、混合抽出物の最終濃度が100μg/mlとなるようにした。抽出物を添加して、48時間後の細胞を回収し、Trizol Reagent(Invitrogen社製)によって各区画の細胞からRNAを抽出した。2-STEPリアルタイムPCRキット(Applied Biosystems社製)を用いて、抽出したRNAをcDNAに逆転写した後、ABI7300(Applied Biosystems社製)により、下記のプライマーセットを用いてリアルタイムPCR(95℃:15秒間、60℃:30秒間、40cycles)を実施し、タイプ14コラーゲンの発現を確認した。その他の操作は定められた方法に従って実施した。
【0046】
タイプ14コラーゲン用のプライマーセット:
5’-GATCAGTGGCGCGTCAAGT-3’(配列番号1)
5’-GCTGGGAATCTGGTTGAGGAT-3’(配列番号2)
GAPDH用のプライマーセット:
5’-TGCACCACCAACTGCTTAGC-3’(配列番号3)
5’-TCTTCTGGGTGGCAGTGATG-3’(配列番号4)
【0047】
タイプ14コラーゲンの発現は、抽出物を添加していないタイプ14コラーゲンmRNAの発現量を内部標準であるGAPDHの発現量に対する割合として算出したタイプ14コラーゲン遺伝子相対発現量(タイプ14コラーゲン遺伝子発現量/GAPDH遺伝子発現量)の値を1とし、これに対し、抽出物を添加した場合のタイプ14コラーゲン遺伝子相対発現量の値を算出し、評価した。これらの試験結果を以下の表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示すように、トリュフ抽出物(製造例1)、蒸気加熱処理後、加熱乾燥処理を行った(修治)オタネニンジン抽出物(製造例2~4)は、蒸気加熱処理を行っていないオタネニンジンの抽出物(比較製造例1)に比べ、ヒト真皮線維芽細胞におけるタイプ14コラーゲン遺伝子の発現量が増加し、タイプ14コラーゲン産生促進効果が認められた。また、蒸気加熱処理前に乾燥させたオタネニンジン(製造例3、4)を用いたほうが、生のオタネニンジン(製造例2)を用いるよりも当該効果が高かった。さらに、製造例3(蒸気加熱温度:105℃)と製造例4(蒸気加熱温度:121℃)を比較するとより高温で蒸気加熱処理した製造例4の方が効果が高かった。また、トリュフ抽出物(製造例1)と修治オタネンジン抽出物(製造例2~4)を併用すると、格別に効果が高まることが確認され、製造例1と製造例4の組み合わせが最も高い効果を示した。一方、このようなタイプ14コラーゲン遺伝子の発現促進効果は、線維芽細胞以外の細胞(表皮角化細胞、毛乳頭細胞、毛包幹細胞)においては認められないか、認められても低かった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、加齢等による真皮構造の変化に起因するシワやたるみ、うねりやくせ毛といった皮膚や毛髪のトラブルの治療、改善、及び/又は予防を目的とした化粧品、医薬部外品、又は医薬品の製造分野において利用できる。
【配列表】
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