(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150117
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】着磁異物の少ない無機金属酸化物粉末、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
C01B33/18 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052572
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 孝治
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072AA28
4G072BB05
4G072BB07
4G072BB13
4G072CC18
4G072DD03
4G072GG01
4G072LL11
4G072MM28
4G072MM32
4G072MM40
4G072QQ06
4G072QQ07
4G072TT01
4G072UU01
4G072UU07
(57)【要約】
【課題】着磁異物の総数(平均値)が少なく、かつ凝集が抑制された無機金属酸化物粉末、及びその製造方法の提供。
【解決手段】下記測定方法により求められる凝集物の含有割合が30ppm(質量基準)以下であり、着磁異物の総数(平均値)が2,000個以下/100gである、無機金属酸化物粉末。
(測定方法)
無機金属酸化物粉末100gに、イオン交換水300gを投入して、超音波装置で5分間処理する。その後、JIS Z 8815-1994に従って、目開き150μmの篩に通してふるい分けを行う。篩上に残った無機金属酸化物粉末を60℃で4時間乾燥したのち、凝集物の質量:W(g)を測定する。また、下記式(1)で求められる値を凝集物の含有割合とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記測定方法により求められる凝集物の含有割合が30ppm(質量基準)以下であり、着磁異物の総数(平均値)が2,000個以下/100gである、無機金属酸化物粉末。
(測定方法)
無機金属酸化物粉末100gに、イオン交換水300gを投入して、超音波装置で5分間処理する。その後、JIS Z 8815-1994に従って、目開き150μmの篩に通してふるい分けを行う。篩上に残った無機金属酸化物粉末を60℃で4時間乾燥したのち、凝集物の質量:W(g)を測定する。また、下記式(1)で求められる値を凝集物の含有割合とする。
凝集物の含有割合(ppm)=(W(g)/100(g))×106 ・・・(1)
【請求項2】
体積基準累積径(D50)が1μm以下である、請求項1に記載の無機金属酸化物粉末。
【請求項3】
体積基準累積径(D50)が1μm超100μm以下である、請求項1に記載の無機金属酸化物粉末。
【請求項4】
シリカ粉末を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の無機金属酸化物粉末。
【請求項5】
炭素数1~3の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する一価アルコールを含む分散媒と、無機金属酸化物粉末とを含むスラリーを、スプレードライすることを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の無機金属酸化物粉末の製造方法。
【請求項6】
前記分散媒が、前記一価アルコールと水とを含み、前記一価アルコールと前記水との合計量(100質量%)に対する、前記一価アルコールの割合が50質量%以上である、請求項5に記載の無機金属酸化物粉末の製造方法。
【請求項7】
前記一価のアルコールが、イソプロピルアルコールを含む、請求項5または6に記載の無機金属酸化物粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着磁異物の少ない無機金属酸化物粉末、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体封止材等の分野においては、熱膨張率や、熱伝導率、難燃性等を向上させる目的でシリカやアルミナ等の無機金属酸化物粉末をフィラーとして充填している。このような無機金属酸化物粉末のうち、例えば、シリカ粉末は、高温の火炎中に原料粉末を投じて酸化させながらシリカ粉末を得る乾式法(溶融火炎法等)、または、原料粉末を水やアルコール等の媒体中に分散させてスラリーとし、このスラリーを火炎中に噴射してシリカ粉末を得る湿式法等により製造される。
【0003】
ところで、シリカ粉末等の無機金属酸化物粉末には、その製造過程において、微細な金属粒子が異物として混入することがある。これは、無機金属酸化物粉末の製造設備の一部が、一般には、鉄やステンレス鋼等の金属で作られており、無機金属酸化物を粉砕して粉末にする際や、気流で輸送する際、分級、篩分けを行う際、またはブレンドを行う際などに、設備表面が無機金属酸化物粉末により削られるためである。このような金属粒子の異物(以下、「着磁異物」と記載する)が混入した無機金属酸化物粉末をフィラーとして半導体封止材に充填した場合、半導体のワイヤー等の配線間の短絡(ショート)が引き起こされることがある。そのため、無機金属酸化物粉末から着磁異物を除去する試みが種々検討されている。
【0004】
上述した乾式法は、純度が高く、より微細な無機金属酸化物粉末が得られ易いが、着磁異物が混入しやすい。一方、湿式法の場合、無機金属酸化物粉末に含まれるイオン性の不純物を除去しやすいというメリットがあるが、高濃度のスラリーでは原料粉末が凝集してしまい、微細な粉末を得ることが難しい。そのため、着磁異物が少なく、微細な無機金属酸化物粉末が求められている。
【0005】
係る課題に対し、例えば、特許文献1には、シリカ粉末やアルミナ粉末等の被処理物を分散媒中に分散させて懸濁液を作成し、この懸濁液に磁力をかけて着磁異物を除去する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法では、着磁異物除去中に被処理物であるシリカ粉末やアルミナ粉末同士が凝集してしまい、処理前と同程度の粒度分布、粒子径を有する無機金属酸化物粉末を得ることが難しい。
そこで本発明は、着磁異物の総数が少なく、かつ凝集が抑制された無機金属酸化物粉末、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、無機金属酸化物粉末と、特定のアルコールとを含むスラリーをスプレードライすることにより、粉末同士の凝集を抑制しつつ、着磁異物、特に粉末表面に付着した微細な着磁異物が効果的に除去された無機金属酸化物粉末が得られることを見出した。すなわち、本発明は以下の態様を有する。
[1]下記測定方法により求められる凝集物の含有割合が30ppm(質量基準)以下であり、着磁異物の総数(平均値)が2,000個以下/100gである、無機金属酸化物粉末。
(測定方法)
無機金属酸化物粉末100gに、イオン交換水300gを投入して、超音波装置で5分間処理する。その後、JIS Z 8815-1994に従って、目開き150μmの篩に通してふるい分けを行う。篩上に残った無機金属酸化物粉末を60℃で4時間乾燥したのち、凝集物の質量:W(g)を測定する。また、下記式(1)で求められる値を凝集物の含有割合とする。
凝集物の含有割合(ppm)=(W(g)/100(g))×106 ・・・(1)
[2]体積基準累積径(D50)が1μm以下である、[1]に記載の無機金属酸化物粉末。
[3]体積基準累積径(D50)が1μm超100μm以下である、[1]に記載の無機金属酸化物粉末。
[4]シリカ粉末を含む、[1]から[3]のいずれか一項に記載の無機金属酸化物粉末。
[5]炭素数1~3の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する一価アルコールを含む分散媒と、無機金属酸化物粉末とを含むスラリーを、スプレードライすることを含む、[1]から[4]のいずれか一項に記載の無機金属酸化物粉末の製造方法。
[6]前記分散媒が、前記一価アルコールと水とを含み、前記一価アルコールと前記水との合計量(100質量%)に対する、前記一価アルコールの割合が50質量%以上である、[5]に記載の無機金属酸化物粉末の製造方法。
[7]前記一価のアルコールが、イソプロピルアルコールを含む、[5]または[6]に記載の無機金属酸化物粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、着磁異物の総数(平均値)が少なく、かつ凝集が抑制された無機金属酸化物粉末及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の態様に限定されるものではない。本明細書において、「~」の記号は「以上以下」を意味する。例えば、「0.1~1」とは、「0.1以上1以下」を意味する。
[無機金属酸化物粉末]
本発明に係る無機金属酸化物粉末は、下記測定方法により求められる凝集物の含有割合が30ppm(質量基準)以下であり、着磁異物の総数(平均値)が2,000個以下/100gであることを特徴とする。
(測定方法)
無機金属酸化物粉末100gに、イオン交換水300gを投入して、超音波装置(アズワン(株)製、製品名:ASU CLEANER,型式:AUS-20M)で、出力500Wで5分間処理する。その後、JIS Z 8815-1994に従って、目開き150μmの篩に通してふるい分けを行う。篩上に残った無機金属酸化物粉末を60℃で4時間乾燥したのち、凝集物の質量:W(g)を測定する。また、下記式(1)で求められる値を凝集物の含有割合とする。
凝集物の含有割合(ppm)=(W(g)/100(g))×106 ・・・(1)
【0011】
本発明に係る無機金属酸化物粉末は、着磁異物の総数が少なく、かつ凝集が抑制されている。
なお、本発明において、「着磁異物」とは、無機金属酸化物粉末中の、磁石で回収可能な微細な磁性粒子を意味する。また、「着磁異物の総数(平均値)」は以下の方法で求めた値を意味する。
(着磁異物の総数(平均値))
A:無機金属酸化物粉末10gと、イオン交換水40mLとを遠心分離管に入れる。次に、遠心分離管内の水面と同じ高さになるように水を入れた、φ150mmの容器の中に遠心分離管を入れ、ホモジナイザー(SONICS(株)製、製品名:VC-505)で出力500Wとし2分間分散処理する。分散処理後のスラリーを、厚み0.2mmの樹脂トレイに投入し、磁力12,000ガウスの磁石で着磁異物を回収する。
B:Aの作業を10回行って、無機金属酸化物粉末100gに含まれる着磁異物を回収する。回収した着磁異物を含むスラリーをメンブレンフィルター(フィルター径:1μm、Millipore社製、型式:JAWP04700)を用いて吸引ろ過し、フィルター上の着磁異物を回収する。その後、光学顕微鏡(倍率:100倍)でフィルター上の全エリアを観察し、着磁異物の総数を数える。
C:A、Bを5回繰り返し、その平均値を、「着磁異物の総数(平均値)」とする。
【0012】
本発明に係る無機金属酸化物粉末において、前述の式(1)で算出される凝集物の含有割合(質量基準)は、30ppm以下であり、25ppm以下であることが好ましく、20ppm以下であることがより好ましい。また、生産性を考慮すると、上記含有割合は1ppm以上であってよく、3pmm以上であってよく、4ppm以上であってよい。すなわち、凝集物の含有割合(質量基準)は、1~30ppmであってもよく、3~25ppmであってもよく、4~20ppmであってもよい。
【0013】
無機金属酸化物粉末に含まれる着磁異物の総数は、少なければ少ないほど好ましい。一般に、無機金属酸化物粉末100g中に含まれる着磁異物の総数(平均値)が2,000個以下であれば、無機金属酸化物粉末をフィラーとして用いた際、半導体のワイヤー等の配線間の短絡(ショート)が起きにくい。また、無機金属酸化物粉末中の着磁異物の総数(平均値)は、1,800個以下/100gであることが好ましく、1,700個以下/100gであることがより好ましい。さらには、1,500個以下/100g以下、1,200個以下/100g、1,000個以下/100g以下、800個以下/100g以下であってよい。また、生産性を考慮すると50個以上/100gであってよく、100個以上/100gであってよく、150個以上/100gであってよい。すなわち、無機金属酸化物粉末100g中に含まれる着磁異物の総数(平均値)は、50~2,000個であってもよく、100~1,800個であってもよく、150~1,700個であってもよい。
【0014】
本発明に係る無機金属酸化物粉末には、無機酸化物粉末以外のその他の成分(添加剤等)を、本発明の効果を害さない範囲で含んでいてもよい。不純物を含むその他の成分の含有量は、無機金属酸化物粉末の総質量に対して、30質量%以下であってよく、20質量%以下であってよく、15質量%以下であってよく、10質量%以下であってよく、5質量%以下であってよく、3質量%以下であってよく、1質量%以下であってよい。また、下記の通り、本発明によれば、無機金属酸化物粉末に含まれるイオン性不純物量を低くすることができる。
【0015】
本発明に係る無機金属酸化物粉末に含まれるイオン性不純物の割合(質量基準)は、Feイオンが50ppm以下であることが好ましく、30ppm以下であることがより好ましい。さらに好ましくは20ppm以下であり、15ppm以下であってもよい。またNaイオンは10ppm以下であることが好ましい。さらに塩素イオンは2ppm以下であることが望ましく、1ppm以下であることがより好ましい。なお、無機金属酸化物粉末中のイオン性不純物の割合は下記の方法で測定することができる。
(Feイオンの測定方法)
濃硝酸と濃塩酸と水とを容積比で1:5:34になるように調整した王水30mLと、無機金属酸化物粉末の試料5gとを、100mLのビーカーに入れて加熱処理する。放冷後、遠心分離を行い、得られた上澄み液を測定液とする。この測定液を、空気-アセチレンの原子吸光光度計で測定し、248.3nmの吸光度を測定する。
(Naイオンの測定方法)
無機金属酸化物粉末の試料10gと、イオン交換水70mLをPE製容器に入れて1分間振とうする。その後乾燥機に入れ、95℃で20時間放置後、冷却する。蒸発した分の水を追加して定量とする。その後、遠心分離を行い、上澄み液を回収して測定液とする。この測定液を、空気-アセチレンの原子吸光光度計で測定し、589.0nmの吸光度を測定する。
(塩素イオンの測定方法)
無機金属酸化物粉末の試料10gと、イオン交換水70mLをPE製容器に入れて1分間振とうする。その後乾燥機に入れ、95℃で20時間放置後、冷却する。蒸発した分の水を追加して定量とする。その後、遠心分離を行い、上澄み液を回収して測定液とする。この測定液をイオンクロマトグラフで測定する。
なお、上記Feイオン、Naイオン及び塩素イオンは、それぞれの標準原液(1,000ppm)を調製し、これを希釈して標準液を作成する。それらの吸光度と各イオン濃度との関係から検量線を作成した。
【0016】
<無機金属酸化物>
無機金属酸化物としては、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、チタニア(TiO2)、マグネシア(MgO)、カルシア(CaO)等が挙げられる。本発明に係る無機金属酸化物粉末は、これらから選択される少なくとも1つの無機金属酸化物の粉末を含むことが好ましく、シリカ粉末を含むことがより好ましい。
無機金属酸化物粉末は、球状の無機金属酸化物粉末であることが好ましく、球状シリカ粉末であることがより好ましい。半導体チップと液状封止材との熱膨張率を近づけるという点、半田耐熱性、耐湿性、金型の低摩耗性という観点において、結晶質シリカを高温で溶融する方法で製造された非晶質シリカ粉末がより好ましい。
【0017】
無機金属酸化物粉末は、上述の通り、球状であることが好ましい。無機金属酸化物粉末の球形度は、0.70以上であることが好ましく、0.85以上であることがより好ましい。なお、前記球形度はシスメックス社製フロー式粒子形状・粒子径分析装置(FPIA-3000)を使用して、純水で測定した平均球形度の値を指す。具体的には、無機金属酸化物粉末の試料を純水に分散させたのち、液体を平面伸張流動セル内に流し、セル内を移動する無機金属酸化物粉末を100個以上、対物レンズにて画像として記録し、この記録画像及び下記式(2)から平均円形度を算出する。
平均円形度=π・HD/PM ・・・(2)
式(2)中、HDは円相当径を表し、対象粒子の投影面積と真円の面積比から求める。PMは対象粒子の投影周囲長を表す。このようにして算出された無機金属酸化物粉末200個の平均値を平均円形度とする。また、この平均円形度から、式:平均球形度=(平均円形度)2により平均球形度を求める。
【0018】
本発明に係る無機金属酸化物粉末の1つの態様において、無機金属酸化物粉末の体積基準累積径(D50)(以下、「D50粒子径」と記載する)は1μm以下であることが好ましく、0.1~1.0μmであることがより好ましく、0.2~0.7μmであることがさらに好ましい。以下、D50粒子径が1μm以下の無機金属酸化物粉末を、「第1の態様の無機金属酸化物粉末」と記載する。第1の態様の無機金属酸化物粉末は、例えば、基板等の分野で用いられる。このような分野に用いられる無機金属酸化物粉末において、凝集物の含有割合が30ppm(質量基準)以下であり、かつ着磁異物の総数が2,000個以下/100gであれば、耐電圧向上効果が得られやすくなる。なお、本明細書において、無機金属酸化物粉末のD50粒子径とは、レーザー回折散乱法(屈折率:1.50)により測定される体積基準の累積粒度分布において、累積値が50%に相当する粒子径のことを指す。累積粒度分布は、横軸を粒子径(μm)、縦軸を累積値(%)とする分布曲線で表される。レーザー回折散乱法(屈折率:1.50)により測定される体積基準の累積粒度分布は、レーザー回折散乱式粒度分布測定機(ベックマンコールター社製、製品名:LS-230)を用いて、溶媒に水(屈折率:1.33)を用い、前処理として2分間、(株)トミー精工製、「超音波発生器UD-200(超微量チップTP-040装着)」を用いて200Wの出力をかけて分散処理して測定する。
【0019】
第1の態様の無機金属酸化物粉末において、BET法により測定した比表面積は、4~35m2/gであることが好ましく、4~12m2/gであることがより好ましく、5.5~12m2/gであることがさらに好ましい。本発明に係る無機金属酸化物粉末は凝集が抑制されているため、十分に高い比表面積を実現しやすい。なお、本明細書において、BET法による比表面積の測定は、「Macsorb HM model-1208」(マウンテック社製)により行った。
【0020】
本発明に係る無機金属酸化物粉末のその他の態様において、D50粒子径は1μm超100μm以下であることが好ましく、1μm超55μm以下であることがより好ましく、5~50μmであることがさらに好ましい。以下、D50粒子径が1μm超100μm以下の無機金属酸化物粉末を、「第2の態様の無機金属酸化物粉末」と記載する。第2の態様の無機金属酸化物粉末は、例えば、半導体封止材等の分野で用いられる。このような分野に用いられる無機金属酸化物粉末において、凝集物の含有割合が30ppm(質量基準)以下であり、かつ着磁異物の総数(平均値)が2,000個以下/100gであれば、半導体のショート不良率低減の効果が得られ易くなる。
【0021】
第2の態様の無機金属酸化物粉末は、シリカ粉末を含むことが好ましく、球状シリカ粉末を含むことがより好ましい。第2の態様において、無機金属酸化物粉末がシリカ粉末を含む場合、乾式法及び湿式法のいずれの方法で製造されたシリカ粉末であってもよい。生産性が高く、より安価である点から、溶融火炎法で製造されたシリカ粉末であることが好ましい。
【0022】
第2の態様において、無機金属酸化物粉末100gに含まれる、粒径が45μm以上の着磁異物(以下、「大粒径の着磁異物」と記載することもある)の総数(平均値)は、無機金属酸化物粉末100g中に含まれる着磁異物の総数(平均値)に対して、10%未満であることが好ましく、8.0%以下であることがより好ましく、7.0%以下であることが特に好ましい。大粒径の着磁異物の総数(平均値)が上記範囲であれば、着磁異物を起因とするショートがより起きにくい。本明細書において、着磁異物の粒径とは、着磁異物を光学顕微鏡で撮影して測定した、着磁異物の直径のことを指す。
【0023】
第2の態様の無機金属酸化物粉末において、BET法により測定した比表面積は、0.1~4m2/gであることが好ましく、0.5~4m2/gであることがより好ましく、1~4m2/gであることがさらに好ましい。本発明に係る無機金属酸化物粉末は凝集が抑制されているため、十分に高い比表面積を実現しやすい。
【0024】
[無機金属酸化物粉末からの着磁異物の除去方法]
上述の無機金属酸化物粉末は、乾式法または湿式法により得られた無機金属酸化物粉末から、以下に示す方法で着磁異物を除去することにより製造することができる。
本発明に係る着磁異物の除去方法は、炭素数1~3の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する一価アルコールを含む分散媒と、無機金属酸化物粉末とを含むスラリーを、スプレードライすることを含むことを特徴とする。本発明に係る着磁異物の除去方法によれば、粉末同士の凝集を抑制しつつ、粉末の表面に付着した着磁異物を効果的に除去できる。
【0025】
<スラリー>
本発明に係る着磁異物の除去方法において、スラリーは、無機金属酸化物粉末と、分散媒とを含む。スラリー濃度(無機金属酸化物粉末の濃度)は、粘度の観点から、スラリーの総質量に対して、30~70質量%であることが好ましい。無機金属酸化物粉末の凝集等をより効果的に抑制しやすい観点からは、スラリー濃度は低い方が好ましい。
【0026】
(分散媒)
本発明に係る着磁異物の除去方法において、分散媒は、炭素数1~3の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する一価アルコールを含む。このような一価アルコールとしては、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコールが挙げられる。このうち、無機金属酸化物粉末の凝集等をより効果的に抑制しやすい観点から、イソプロピルアルコールが好ましい。
無機金属酸化物粉末の凝集等を抑制しやすい観点から、分散媒中の一価アルコールの割合は、分散媒の総質量に対して、50質量%以上が好ましい。また、50~75質量%であることがより好ましく、75~100質量%であることがさらに好ましい。また、分散媒は、イソプロピルアルコールのみで構成されていてもよい。
分散媒には、一価アルコール以外の成分が含まれていてもよい。その他の成分としては、例えば、水(純水、イオン交換水等)が挙げられる。分散媒がその他の成分を含む場合、分散媒の総質量に対して、50質量%以下の割合で配合することができる。また、分散媒が水と一価アルコールとを含む場合、水と一価アルコールとの合計量(100質量%)に対する、一価アルコールの割合は、50質量%以上が好ましく、50~75質量%がより好ましい。
【0027】
本発明に係る着磁異物の除去方法は、前述のスラリーをスプレードライすることを含む。スプレードライ時の温度(噴霧入口温度)は、溶媒の沸点以上であることが好ましく、溶媒の沸点+20℃以上であることがより好ましい。また、本発明に係る着磁異物の除去方法は、必要に応じて、スプレードライ後の無機金属酸化物粉末を回収する工程を含んでいてもよい。この回収工程は、サイクロン回収工程であってもよい。
【0028】
また、本発明に係る着磁異物の除去方法は、必要に応じて、磁石による脱鉄工程を含んでいてもよい。脱鉄工程は、例えば、回収後の無機金属酸化物粉末から、天然磁石や電磁石の方法で着磁異物を除去する工程であってもよい。または、フィルトレーションで大粒径の着磁異物を磁石で除去した後、スプレードライしてもよい。脱鉄工程を含む場合、より効果的に大粒径の着磁異物を除去することができる。
【0029】
本発明に係る着磁異物の除去方法は、湿式法でありながら、無機金属酸化物粉末の凝集を効果的に抑制することができる。前述の通り、湿式法で着磁異物を除去する方法の場合、処理中に粉末同士の凝集が生じてしまい、処理前と同程度の粒度分布やBETを有する無機金属酸化物粉末を得ることは難しい。本発明に係る着磁異物の除去方法において、処理後、すなわち、着磁異物を除去した後の無機金属酸化物粉末のBETは、処理前の無機金属酸化物粉末のBETと同程度の値を有する。すなわち、処理前の無機金属酸化物粉末のBETに対する、処理後の無機金属酸化物粉末のBETの変化率(処理後のBET/処理前のBET)は、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、1.0%~5%であることがさらに好ましい。
【0030】
本発明に係る着磁異物の除去方法は、無機金属酸化物粉末と、特定のアルコールを含むスラリーをスプレードライすることで、無機酸化物粉末中の着磁異物の量を半減することができる。すなわち、下記式(3)で算出されるスプレードライ後の着磁異物の除去率は50%以上であることが好ましい。
(着磁異物の除去率)
(X-Y)/X × 100(%) ・・・(3)
X:処理前の無機金属酸化物粉末100g中の着磁異物の総数(平均値)
Y:スプレードライ後の無機金属酸化物粉末100g中の着磁異物の総数(平均値)
【0031】
また、本発明に係る着磁異物の除去方法は、無機金属酸化物粉末の表面に付着している、微細な着磁異物を除去できる。例えば、D50粒子径が1μm以下の無機金属酸化物粉末の場合、平均粒径が50~200nm程度の超微粉が粉末表面に付着しやすいが、この超微粉を効果的に除去できる。D50粒子径が1μm以下の無機金属酸化物粉末からの、超微粉の除去率は、50%以上であることが好ましく、60~95%であることが好ましい。
また、D50粒子径が1μm超100μm以下の無機金属酸化物粉末からの、平均粒径が45μm以上の着磁異物の除去率は50%以上であることが好ましく、55~98%であることがより好ましい。なお、超微粉の除去率、及び平均粒径が45μm以上の着磁異物の除去率は、前記式(3)の着磁異物の除去率を用いて算出した値である。
【0032】
[無機金属酸化物粉末の製造方法]
本発明に係る無機金属酸化物粉末は、例えば、従来公知の乾式法、又は湿式法で無機金属酸化物の粉末を得たのち、前述の着磁異物の除去方法による異物の除去工程を経て製造することができる。
無機金属酸化物の粉末を得るための乾式法としては、例えば、市販の鉱石を必要に応じて粉砕及び分級した後、高温火炎中に供給して微細な球状粉末とする方法が挙げられる。
また、湿式法としては、例えば、原料粉末を含むスラリーを火炎中に噴霧して溶媒を除去して、無機金属酸化物の粉末とする方法が挙げられる。
【0033】
本発明に係る無機金属酸化物粉末の製造方法は、例えば、以下の工程を有していてもよい。
(i)必要に応じて、鉱石を粉砕及び分級して原料粉末を得る工程;
(ii)原料粉末を反応容器内の高温火炎中に供給して微細球状粉末(溶融粉)とする工程;
(iii)必要に応じて、微細球状粉末を分級及び捕集し、所定のD50粒子径を有する無機金属酸化物粉末を得る工程;及び
(iv)(iii)で得られた無機金属酸化物粉末と、炭素数1~3の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する一価アルコールを含む分散媒とを含むスラリーを、スプレードライする工程。
【0034】
<工程(i)>
工程(i)において用いる鉱石は、高純度(例えば、95%以上の純度)の鉱石であることが好ましい。鉱石としては、珪石、チタン鉱石、マグネシウム鉱石、カルシウム鉱石等が挙げられ。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、珪石を含むことがより好ましい。粉砕は、振動ミル、ボールミル等の粉砕機で粉砕することで、所望の平均粒子径の鉱石粉末を適宜選択することができる。
なお、第1の態様の無機金属酸化物粉末を調製する場合、工程(i)で調製される原料粉末のD50粒子径は、0.1~5μmが好ましく、0.2~1μmがより好ましい。また、第2の態様の無金属酸化物粉末を調製する場合、工程(i)で調製される原料粉末のD50粒子径は、0.5~90μmが好ましく、1~70μmがより好ましい。なお、原料粉末は、粒径が異なる複数種類の原料粉末を混合して用いることもできる。
【0035】
<工程(ii)>
工程(ii)では、工程(i)で得られた原料粉末を、バーナーを用いて可燃ガスと助燃ガスとによって形成される高温火炎中に噴射して原料粉末の融点以上の温度(例えば、シリカ(珪石)の場合は、2,000℃以上の温度)で溶融球状化し、冷却しながら分級及び捕集し、球状化された粉末(微細球状粉末)を得る。可燃ガスとしては、アセチレン、エチレン、プロパン、ブタン等の炭化水素系ガス;LPG、LNG等の気体燃料;灯油、重油等の液体燃料;が使用できる。助燃ガスとしては、酸素、酸素リッチ冷却ガス、空気が使用できる。
【0036】
工程(ii)において、粉体を補集する際の吐出速度(例えば、空気分級機等)を調整することにより、微細球状粉末のD50粒子径を調整してもよい。
【0037】
<工程(iii)>
工程(iii)では、工程(ii)で得られた微細球状粉末を、必要に応じて更に篩分け操作等により分級して捕集し、所定のD50粒子径を有する無機金属酸化物粉末を得る。
【0038】
<工程(iv)>
工程(iv)は、前述の着磁異物の除去方法による、無機金属酸化物粉末からの着磁異物の除去工程である。すなわち、工程(iii)で得られた無機金属酸化物粉末と、炭素数1~3の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する一価アルコールを含む分散媒とを含むスラリーを、スプレードライする。工程(iv)の好ましい態様は、前述の着磁異物の除去方法と同じである。
また、工程(iv)の前工程、もしくは後工程に、前述の脱鉄工程、すなわち、磁石を用いた着磁異物の除去工程を含んでいてもよい。1つの態様においては、工程(iv)の前工程に脱鉄工程を含むことが好ましい。また、前記脱鉄工程は、湿式脱鉄であることがより好ましい。「湿式脱鉄」としては、工程(iii)で得られた無機金属酸化物粉末をフィルトレーションして大粒径の着磁異物を磁石で除去する方法であることが好ましい。
【0039】
工程(iv)のあと、無機金属酸化物粉末を回収することで、所定の物性及びD50粒子径を有する無機金属酸化物粉末を得ることができる。
【0040】
[用途]
本発明に係る無機金属酸化物粉末は、半導体封止材料等の製造に用いることができる。特に、粉末同士の凝集が抑制され、着磁異物除去前と同程度のBETを有しているため、本発明に係る無機金属酸化物粉末を含む樹脂組成物は、着磁異物に由来する不具合を抑制しつつ、流動性、バリ、成形性等の諸物性が低下しにくい。そのため、電子機器用の半導体封止材の製造に好ましく用いることができる。
【0041】
<樹脂組成物>
本発明に係る樹脂組成物は、上述の無機金属酸化物粉末を含む。
樹脂組成物中の無機金属酸化物粉末の含有量は特に限定されず、目的に応じて適宜調整し得る。例えば、第1の態様の無機金属酸化物粉末を含む樹脂組成物の場合、樹脂組成物中の第1の態様の無機金属酸化物粉末の割合は、樹脂組成物の総質量に対して、5~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましい。
また、第2の態様の無機金属酸化物粉末を含む樹脂組成物の場合、樹脂組成物中の第2の態様の無機金属酸化物粉末の割合は、樹脂組成物の総質量に対して、40~95質量%が好ましく、70~93質量%がより好ましい。
【0042】
(樹脂)
樹脂としては、半導体封止材の分野に通常用いられているものであれば、特に限定されない。例えばエポキシ樹脂;シリコーン樹脂;フェノール樹;メラミン樹脂;ユリア樹脂;不飽和ポリエステル;フッ素樹脂;ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のポリイミド;ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリフェニレンスルフィド;全芳香族ポリエステル;ポリスルホン;液晶ポリマー;ポリエーテルスルホン;ポリカーボネート;マレイミド変成樹脂;ABS樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン-プロピレン-ジエンゴム・スチレン)樹脂等;を挙げることができる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、エポキシ樹脂を含むことがより好ましい。
【0043】
エポキシ樹脂としては、特に限定されず、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノール類とアルデヒド類のノボラック樹脂をエポキシ化したもの、ビスフェノールA、ビスフェノールF及びビスフェノールSなどのグリシジルエーテル、フタル酸やダイマー酸などの多塩基酸とエポクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエステル酸エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、アルキル変性多官能エポキシ樹脂、β-ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、1,6-ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、2,7-ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ビスヒドロキシビフェニル型エポキシ樹脂、更には難燃性を付与するために臭素などのハロゲンを導入したエポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂及び脂環式エポキシ樹脂から選択される少なくとも1つのエポキシ樹脂を含むことがより好ましい。
【0044】
(硬化剤)
樹脂としてエポキシ樹脂を含む場合、樹脂組成物はさらに硬化剤を含むことが好ましい。硬化剤としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシノール、クロロフェノール、t-ブチルフェノール、ノニルフェノール、イソプロピルフェノール、オクチルフェノール等の群から選ばれた1種又は2種以上の混合物をホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド又はパラキシレンとともに酸化触媒下で反応させて得られるノボラック型樹脂、ポリパラヒドロキシスチレン樹脂、ビスフェノールAやビスフェノールS等のビスフェノール化合物、ピロガロールやフロログルシノール等の3官能フェノール類、無水マレイン酸、無水フタル酸や無水ピロメリット酸等の酸無水物、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族アミン等を挙げることができる。
【0045】
硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂のエポキシ当量1に対して、硬化剤の活性水素当量(又は酸無水物当量)が0.01~1.25になるように配合することが好ましい。
【0046】
(その他の添加剤)
樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、硬化促進剤、離型剤、カップリング剤、着色剤等を配合することができる。
硬化促進剤としては、硬化促進剤としては、特に限定されず、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7,トリフェニルホスフィン、ベンジルジメチルアミン、2-メチルイミダゾール等が挙げられる。
離型剤としては、天然ワックス類、合成ワックス類、直鎖脂肪酸の金属塩、酸アミド類、エステル類、パラフィン等が挙げられる。
カップリング剤としては、シランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン等の疎水性シラン化合物やメルカプトシラン等が挙げられる。
【0047】
<樹脂組成物の製造方法>
樹脂組成物の製造方法は、特に限定されず、各材料の所定量を撹拌、溶解、混合、分散させることにより製造することができる。これらの混合物の混合、撹拌、分散等の装置は特に限定されないが、撹拌、加熱装置を備えたライカイ機、3本ロール、ボールミル、プラネタリーミキサー等を用いることができる。またこれらの装置を適宜組み合わせて使用してもよい。
【実施例0048】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
乾式法(火炎溶融法)で製造された球状非晶質シリカ粉末(デンカ(株)製、製品名:FB-950FD)を準備し、以下の方法で処理前の着磁異物の総数(平均値)を測定したところ、3,683個/100gであった。
その後、シリカ粉末を、イソプロピルアルコール中に分散させてスラリーを作成した(スラリー濃度:20質量%)。このスラリーを湿式脱鉄してシリカ粉末に含まれる着磁異物を除去し、スプレードライヤー機(ヤマト科学(株)製、製品名:GB-210+GAS410型)に投入し、噴霧入口温度220℃(最高温度)、混合溶媒の蒸発量1300mL/hr(最大値)でスプレードライして乾燥させ、シリカ粉末を得た。着磁異物除去工程後、シリカ粉末を回収し、以下の方法で、凝集物の含有割合、着磁異物の総数(平均値)、D50粒子径及び比表面積を測定した。結果を表1に示す。
【0050】
(凝集物の含有割合)
シリカ粉末100gに、イオン交換水300gを投入して、超音波装置(アズワン(株)製、製品名:ASU CLEANER,型式:AUS-20M)で、出力500Wで5分間処理した。その後、JIS Z 8815-1994に従って、目開き150μmの篩に通してふるい分けを行った。篩上に残ったシリカ粉末を60℃で4時間乾燥したのち、その質量:W(g)を測定した。また、下記式(1)に沿って、凝集物の含有割合を求めた。
凝集物の含有割合(ppm)=(W(g)/100(g))×106 ・・・(1)
【0051】
(着磁異物の総数(平均値))
A:シリカ粉末10gと、イオン交換水40mLとを遠心分離管に入れた。次に、遠心分離管内の水面と同じ高さになるように水を入れた、φ150mmの容器の中に遠心分離管を入れ、ホモジナイザー(SONICS(株)製、製品名:VC-505)で出力500Wとし2分間分散処理した。分散処理後のスラリーを、厚み0.2mmの樹脂トレイに投入し、磁力12,000ガウスの磁石で着磁異物を回収した。
B:Aの作業を10回行って、シリカ粉末100gに含まれる着磁異物を回収した。回収した着磁異物を含むスラリーをメンブレンフィルター(フィルター径:1μm、Millipore社製、型式:JAWP04700)を用いて吸引ろ過し、フィルター上の着磁異物を回収する。その後、光学顕微鏡(倍率;100倍)でフィルター上の全エリアを観察し、着磁異物の総数を数えた。
C:A、Bを5回繰り返し、その平均値を、「着磁異物の総数(平均値)」とした。
【0052】
(D50粒子径の測定)
レーザー回折散乱式粒度分布測定機(ベックマンコールター社製、製品名:LS-230)を用いて、溶媒に水(屈折率:1.33)を用い、前処理として2分間、(株)トミー精工製、「超音波発生器UD-200(超微量チップTP-040装着)」を用いて200Wの出力をかけて分散処理したのち、シリカ粉末の体積基準累積径を測定した。
【0053】
(比表面積の測定)
全自動比表面積測定装置(マウンテック社製、製品名:Macsorb HM model-1208」)用いて、BET法によりシリカ粉末の比表面積を測定した。
【0054】
[実施例2]
スラリー濃度を50質量%とした以外は、実施例1と同様の方法でシリカ粉末(FB-950FD)の着磁異物を除去した。また、着磁物処理後の凝集物の含有割合、着磁異物の総数(平均値)、D50粒子径及び比表面積を測定した。結果を表1に示す
【0055】
[実施例3]
分散媒を、イソプロピルアルコール及び水の混合溶媒(イソプロピルアルコールの割合:50質量%)とした以外は、実施例2と同様の方法でシリカ粉末(FB-950FD)の着磁異物を除去した。また、着磁物処理後の凝集物の含有割合、着磁異物の総数(平均値)、D50粒子径及び比表面積を測定した。結果を表1に示す。
【0056】
[比較例1]
分散媒を水に変更した以外は、実施例2と同様の方法でシリカ粉末(FB-950FD)の着磁異物を除去した。また、着磁物処理後の凝集物の含有割合、着磁異物の総数(平均値)、D50粒子径及び比表面積を測定した。結果を表1に示す。
【0057】
【0058】
表1に示す通り、本発明に係る、着磁異物の除去工程を含む製造方法により得られた実施例1~3のシリカ粉末は、凝集物の割合が30ppm以下であり、着磁異物の総数(平均値)が2,000個以下/100gとなっていた。一方、分散媒として水のみを用いて着磁異物を除去した比較例1のシリカ粉末では、凝集物の割合が30ppmよりも高く、また着磁異物の総数(平均値)も高かった。これらの結果より、本発明によれば、凝集物が少なく、着磁異物の総数が少ない無機金属酸化物粉末と、その製造方法を提供できることが分かった。
なお、実施例1~3のイオン性不純物量を測定したところ、Feイオンが50ppm以下であり、Naイオンが10ppm以下であり、塩素イオンが2ppm以下であった。