(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150240
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】板状樹脂成形体の製造方法、製造装置及び板状樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
B29C 48/885 20190101AFI20220929BHJP
B29C 48/07 20190101ALI20220929BHJP
B29C 48/92 20190101ALI20220929BHJP
B29C 59/04 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B29C48/885
B29C48/07
B29C48/92
B29C59/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052749
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000120010
【氏名又は名称】宇部エクシモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173646
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 桂子
(72)【発明者】
【氏名】槻川原 遼
【テーマコード(参考)】
4F207
4F209
【Fターム(参考)】
4F207AA16
4F207AF01
4F207AG01
4F207AG05
4F207AR06
4F207KA01
4F207KA17
4F207KK64
4F207KK65
4F207KM16
4F209AA16
4F209AF01
4F209AG01
4F209AG05
4F209AR06
4F209PA04
4F209PB02
4F209PG12
4F209PJ09
4F209PN04
4F209PN06
(57)【要約】
【課題】結晶化速度が速い熱可塑性樹脂を用いて、外観が良好で、厚さ精度が高い板状樹脂成形体を、連続して製造することが可能な板状樹脂成形体の製造方法、製造装置及び板状樹脂成形体を提供する。
【解決手段】融点と結晶化温度の差が50℃以下の熱可塑性樹脂を加熱溶融させてダイ5から水平方向又は斜め方向に押し出す工程と、ダイ5から押し出された樹脂溶融体を、直列に配置された複数対の冷却ロール3a,3bで上下から挟持して押出方向と同一方向に引き取りながら冷却し、引取方向に垂直な辺の長さが10~3000mm、厚さが1~50mmの樹脂原板6を得る工程とを行うにあたり、下流側の冷却ロール対3の温度を上流側の冷却ロール対3の温度よりも低くし、熱可塑性樹脂の融点をT
mp(℃)としたとき、ダイ5から数えて1対目の冷却ロール対3の温度T
1(℃)を0.2×T
mp(℃)以上かつT
mp(℃)未満にする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点と結晶化温度の差が50℃以下の熱可塑性樹脂を加熱溶融させてダイから水平方向又は斜め方向に押し出す工程と、
前記ダイから押し出された樹脂溶融体を、直列に配置された複数対の冷却ロールで上下から挟持して押出方向と同一方向に引き取りながら冷却し、引取方向に垂直な辺の長さが10~3000mm、厚さが1~50mmの樹脂原板を得る工程と
を有し、
下流側の冷却ロールの温度は上流側の冷却ロールの温度よりも低く、
前記熱可塑性樹脂の融点をT
mp(℃)としたとき、前記ダイから数えて1対目の冷却ロールの温度T
1(℃)は下記数式Iを満たす
板状樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂は、熱可塑性フッ素系樹脂である請求項1に記載の板状樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂原板は、曲げ弾性率が500MPa以上、硬度がデュロメータD硬さで56以上である請求項1又は2に記載の板状樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
ダイから数えてn対目の冷却ロールの温度をT
n(℃)、(n-1)対目の冷却ロールの温度をT
n-1(℃)としたとき、下記数式(II)を満たす請求項1~3のいずれか1項に記載の板状樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
表面に任意の形状及び/又はパターンの凹凸が形成された1又は2以上の冷却ロールを用いて樹脂溶融体を冷却し、得られる板状樹脂成形体の一方又は両方の面に凹凸形状を付与する請求項1~4のいずれか1項に記載の板状樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
更に、前記樹脂原板を所定のサイズに切断する工程を有する請求項1~5のいずれか1項に記載の板状樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
開口部が矩形状のダイから水平方向又は斜め方向に樹脂溶融体を押し出す押出機と、
前記押出機の直後に配置され、前記ダイから押し出された樹脂溶融体を、上下から挟持して押出方向と同一方向に引き取りながら冷却する複数対の冷却ロールと
を有し、
前記押出機及び各冷却ロール対は、前記樹脂溶融体の引き取り方向が一定になるよう直列に配置されている板状樹脂成形体の製造装置。
【請求項8】
押出成形により形成された板状の樹脂成形体であって、
融点と結晶化温度の差が50℃以下の熱可塑性樹脂からなり、
短辺が10~1500mm、長辺が10~3000mm、厚さが1~50mmであり、
曲げ弾性率が500MPa以上、硬度がデュロメータD硬さで56以上である板状樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂を押出成形して、板状樹脂成形体を製造する方法及び装置、並びにこれらの方法及び装置により製造される板状樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
板状樹脂成形体(樹脂板)は、一般に、溶融した熱可塑性樹脂をダイから下方に押し出した後、冷却ロールを用いて冷却することにより製造されている(例えば、特許文献1参照。)。また、冷却ロールと水冷を組み合わせて冷却する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2に記載の結晶性熱可塑性樹脂板の製造方法では、ダイの直下に冷却されたニップロールを配置し、ダイから溶融状態で押し出された板状の結晶性熱可塑性樹脂をニップロールで挟圧しながら一次冷却して、板状体の表面を硬化させた後、板状体をさらにニップロールの下方に設置された水槽に導いて冷却している。
【0003】
更に、フッ素系樹脂成形体では、押出成形では表面が荒れるという問題があり、表面がより平滑な成形体を得るため、平滑な成形型に挟み込み、成形温度270~340℃、成形圧力10kg/cm2以上、加圧時間2分間以上からなる成形条件で圧縮成形する方法が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-121142号公報
【特許文献2】特開2000-351148号公報
【特許文献3】特開平6-293069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2に記載の従来の製造方法は、硬度や曲げ弾性が高い樹脂を用いて成形する場合、冷却ロールや引取方向を転換するためのロールの直径を大きくしなければならず、適用できる樹脂が制限されるという問題がある。また、特許文献2に記載の製造方法は、連続して成形することができるため、長尺の成形品を製造することができるが、ニップロールの条件と使用する樹脂によっては、成形体に発泡や反りなどの外観不良が発生する虞がある。
【0006】
一方、特許文献3に記載の圧縮成形法は、硬度や曲げ弾性が高い樹脂にも適用することができ、反りも発生しにくいが、長尺の成形体の製造には不向きであり、また、加工時間が長いため生産性が劣る。
【0007】
そこで、本発明は、結晶化速度が速い熱可塑性樹脂を用いて、外観が良好で、厚さ精度が高い板状樹脂成形体を、連続して製造することが可能な板状樹脂成形体の製造方法及び製造装置、並びに結晶化速度が速い熱可塑性樹脂からなり、外観が良好で、厚さ精度が高い板状樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前述した課題を解決するために、鋭意検討を行った結果、以下に示す知見を得た。結晶性を有する熱可塑性樹脂を加工する際に着目する因子の1つに結晶化速度がある。結晶化速度が速い場合、溶融樹脂が固化するまでの時間が短くなる。固化途上で変形させると、その形状に固化してしまい、目的の寸法や形状を得られなくなる虞がある。その一方で、固化が進むと剛性が高くなるため、製造ライン内で方向転換することは困難となる。そこで、本発明者は、結晶化速度が速い樹脂においても有用な製造方法及び製造装置の構成を見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明に係る板状樹脂成形体の製造方法は、融点と結晶化温度の差が50℃以下の熱可塑性樹脂を加熱溶融させてダイから水平方向又は斜め方向に押し出す工程と、前記ダイから押し出された樹脂溶融体を、直列に配置された複数対の冷却ロールで上下から挟持して押出方向と同一方向に引き取りながら冷却し、引取方向に垂直な辺の長さが10~3000mm、厚さが1~50mmの樹脂原板を得る工程とを有し、下流側の冷却ロールの温度は上流側の冷却ロールの温度よりも低く、前記熱可塑性樹脂の融点をTmp(℃)としたとき、前記ダイから数えて1対目の冷却ロールの温度T1(℃)は下記数式1を満たす。
【0010】
【0011】
本発明の板状樹脂成形体の製造方法では、前記熱可塑性樹脂として、熱可塑性フッ素系樹脂を用いることができる。
また、前記樹脂原板は、例えば曲げ弾性率が500MPa以上、硬度がデュロメータD硬さで56以上である。
本発明の板状樹脂成形体の製造方法では、例えばダイから数えてn対目の冷却ロールの温度をTn(℃)、(n-1)対目の冷却ロールの温度をTn-1(℃)としたとき、下記数式2を満たすように、各冷却ロールの温度を設定することができる。
【0012】
【0013】
本発明の板状樹脂成形体の製造方法は、表面に任意の形状及び/又はパターンの凹凸が形成された1又は2以上の冷却ロールを用いて樹脂溶融体を冷却し、得られる板状樹脂成形体の一方又は両方の面に凹凸形状を付与してもよい。
本発明の板状樹脂成形体の製造方法は、更に、前記樹脂原板を所定のサイズに切断する工程を行ってもよい。
【0014】
本発明に係る板状樹脂成形体の製造装置は、開口部が矩形状のダイから水平方向又は斜め方向に樹脂溶融体を押し出す押出機と、前記押出機の直後に配置され、前記ダイから押し出された樹脂溶融体を、上下から挟持して押出方向と同一方向に引き取りながら冷却する複数対の冷却ロールとを有し、前記押出機及び各冷却ロール対は、前記樹脂溶融体の引き取り方向が一定になるよう直列に配置されている。
【0015】
本発明に係る板状樹脂成形体は、押出成形により形成された板状の樹脂成形体であって、融点と結晶化温度の差が50℃以下の熱可塑性樹脂からなり、短辺が10~1500mm、長辺が10~3000mm、厚さが1~50mmであり、曲げ弾性率が500MPa以上、硬度がデュロメータD硬さで56以上である。
【0016】
なお、本発明における「水平」には、「略水平」の場合も含まれ、以下の説明においても同様である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、結晶化速度が速い熱可塑性樹脂を用いて、外観が良好で、厚さ精度が高い、板状成形体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態の板状樹脂成形体の製造方法の各工程を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の実施形態の板状樹脂成形体の製造装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0020】
図1は本発明の実施形態に係る板状樹脂成形体の製造方法の各工程を示すフローチャートである。本実施形態の板状樹脂成形体の製造方法は、溶融押出成形法により板状の樹脂成形体を製造する方法であって、
図1に示すように、ダイから樹脂溶融体を水平方向又は斜め方向に押し出す押出工程S1と、樹脂溶融体を冷却ロールで冷却する冷却工程S2とを行う。また、本実施形態の板状樹脂成形体の製造方法では、必要に応じて、押出工程S1及び冷却工程S2により得た樹脂原板を切断する切断工程S3を行う。
【0021】
[押出工程S1]
押出工程S1では、押出成形機により、融点と結晶化温度の差が50℃以下の熱可塑性樹脂を加熱溶融させてダイから水平方向又は斜め方向に押し出す。熱可塑性樹脂における「融点」及び「結晶化温度」は、ASTM D3418に規定される方法で測定することができる。熱可塑性樹脂の加工において発生し得る問題の1つに「発泡」がある。樹脂成形体に発泡が生じる要因としては、樹脂溶融体が冷却されて固化する際、結晶化温度において、結晶化により体積が数%程度収縮することがある。樹脂溶融体の冷却は表面から行われるため、樹脂の固化は表面から内部に向かって進行し、樹脂溶融体の内部の樹脂が固化収縮する際の収縮代が足りなくなり、成形品内部に発泡が生じると考えられる。
【0022】
成形体に発泡が生じると、外観不良に伴う製品価値の喪失だけでなく、寸法のばらつき、変形といった他のトラブルを引き起こすこともしばしばある。これを防ぐには、結晶化速度や冷却速度を制御する必要があるが、一般的に融点と結晶化温度の差が小さくなる程、結晶化速度は大きくなり、制御することが難しくなる。世界中で広く使用されているポリプロピレンも、融点と結晶化温度の差が50℃程度であるが、その汎用的な便利さ故に加工ノウハウも蓄積が進んでいる。その一方で、ポリプロピレンほど使用量が多くない熱可塑性樹脂で、融点と結晶化温度の差が50℃以下のものの中には、発泡がより抑制しにくい材料があり、これらの材料について発泡などが発生せず外観に優れた成形品が得られれば、これらの樹脂の適用範囲を広げることが可能となる。
【0023】
融点と結晶化温度の差が50℃以下の熱可塑性樹脂としては、例えば脂肪族ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、LCP(液晶性ポリマー)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、熱可塑性フッ素系樹脂などが挙げられる。なお、前述した各樹脂は、単独で使用してもよく、また、複数の樹脂を混合して使用してもよい。
【0024】
前述した樹脂の中でも熱可塑性フッ素系樹脂は、従来、長尺の板状成形体を製造することが難しいとされていたが、本実施形態の製造方法を適用することで、外観及び厚み精度に優れる長尺の板状成型品が得られる。本実施形態の製造方法に用いられる熱可塑性フッ素系樹脂としては、例えばテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニルフルオライド(PVF)、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体(ECTFE)及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0025】
熱可塑性樹脂の押出条件は、特に限定されるものではなく、用いる樹脂の種類に応じて適宜設定することができる。また、押出成形に用いられるダイの種類も、特に限定されず、Tダイ、コートハンガーダイ、その他任意の開口部を有するダイを用いることができる。更に、ダイの開口部の高さは、製造される板状樹脂成形体(樹脂原板)の厚さの1.1~2.0倍とすることが好ましい。開口部の高さが板状樹脂成形体の厚さの1.1倍未満の場合、樹脂溶融体の幅方向における若干の流量分布の差で冷却ロールに接しない部分が生じる虞があり、また、ダイの開口部の高さが2.0倍を超えると、冷却ロールにより所定の厚さまで挟圧することが困難となる。
【0026】
なお、最終的に得られる板状樹脂成形体の厚さは、冷却ロール対の間隔でほぼ決定されるが、その後の引き取りによる伸長にも影響されるため、ダイの開口部の高さや冷却ロール対の間隔、各冷却ロールの温度、冷却ロールの設置数、押出機の温度は、引き取り速度を考慮して調整することが好ましい。
【0027】
[冷却工程S2]
冷却工程S2では、ダイから押し出された樹脂溶融体を、直列に配置された複数対の冷却ロールで上下から挟持して押出方向と同一方向に引き取りながら冷却し、引取方向に垂直な辺の長さが10~3000mm、厚さが1~50mmの樹脂原板を得る。このように、上下1対の冷却ロールで挟持して冷却することで、樹脂溶融体の賦形と冷却を同時に、かつ、連続的に行うことができ、生産性を向上させることができる。
【0028】
また、本実施形態の板状樹脂成形体の製造方法では、冷却ロールの設置数や温度を任意に設定することで、使用する樹脂に最適な冷却速度に調整することができるため、板状樹脂成形体に発泡などの外観不良が発生することを防止できる。更に、ローラーのような回転体を用いることで、樹脂溶融体が通過する際の抵抗を極力抑制し、板状樹脂成形体の表面の疵を防止すると共に寸法安定性の向上を図れる。
【0029】
各冷却ロールの温度は、特に限定されるものではないが、下流側の冷却ロールの温度が上流側の冷却ロールの温度よりも低くなるようにし、更に、熱可塑性樹脂の融点をTmp(℃)としたとき、ダイから数えて1対目の冷却ロールの温度T1(℃)が下記数式3を満たすようにする。これにより、発泡や反り、疵がなく、外観が良好な樹脂原板が得られる。
【0030】
【0031】
各冷却ロールの温度は、ダイから数えてn対目の冷却ロールの温度をTn(℃)、(n-1)対目の冷却ロールの温度をTn-1(℃)としたとき、下記数式4を満たすように設定することが好ましい。
【0032】
【0033】
これにより、徐冷による発泡防止と、効果的な冷却による生産安定性及び反り抑制を、両立することができる。樹脂成形体の製造工程において発泡を防ぐための徐冷としては、一般的に、温水や熱伝達係数の小さい冷却媒体(例えば空気など)を用いる方法が知られているが、温水を用いる方法は、100℃以上での使用が難しいため、適用できない。また、蒸気を用いる方法は、水滴が樹脂溶融体に付着することでウォーターマークと呼ばれる外観不良を引き起こすため、好ましくない。
【0034】
空気を用いる方法は、加熱装置を用いるとその風量や風速によって樹脂溶融体が変形するため、好ましくない。一方、オイルであれば、100℃以上に加熱して使用することが可能となるが、樹脂溶融体が膨潤などを引き起こす可能性があり、適用材料に制約がある。更に、冷却後の板状樹脂成形体(樹脂原板)を洗浄する工程が必要となり、工数が増加するため好ましくない。これに対して、熱媒などにより温度調整した冷却ロールを用いれば、これらの課題を解決して樹脂溶融体を徐冷することが可能となる。
【0035】
なお、冷却ロールの温度は、樹脂溶融体から得る熱を利用したり、外部から熱媒などを利用して加温したりすることもできる。また、冷却ロールを複数対用いることにより、樹脂溶融体に、冷却に伴う収縮が発生した場合でも、任意のタイミングで間隔を調整することができるため、樹脂溶融体と冷却ロールとの接触を保つことができ、効果的な徐冷及び賦形を実施することができる。
【0036】
冷却工程S2により得られる樹脂原板は、例えば曲げ弾性率が500MPa以上、硬度がデュロメータD硬さで56以上である。本実施形態の板状樹脂成形体の製造方法では、引き取り方向が一定であるため、このような曲げ弾性率や硬度が高い樹脂材料を用いた場合でも、樹脂溶融体や樹脂原板に負荷をかけずに安定して冷却することができる。
【0037】
更に、本実施形態の板状樹脂成形体の製造方法では、表面に任意の形状及び/又はパターンの凹凸が形成された1又は2以上の冷却ロールを用いて樹脂溶融体を冷却してもよい。これにより、一方又は両方の面に凹凸形状が形成された板状樹脂成形体が得られる。このように、冷却ロールに凹凸などを設けることにより、樹脂溶融体表面に任意の形状を連続的かつ一定に付与でき、表面に凹凸のある板状樹脂成形体を、安価に量産することが可能となる。なお、板状樹脂成形体に付与される凹凸は、上下非対称な形状であってもよく、その場合でも、本実施形態の板状樹脂成形体の製造方法では、冷却ロールの温度を調整することによって反りの発生を抑制できる。
【0038】
冷却ロールによって冷却された樹脂溶融体は、例えば冷却ロールの後方(下流側)に設置された引取機によって引取られる。樹脂溶融体は、適切に温度制御された冷却ロールを通過することで、引取機に接するまでにその表面状態が固定化され、発泡、反り、厚み変動の少ない板状樹脂成形体(樹脂原板)を得ることができる。なお、冷却ロールによる冷却を行わずに引き取ると、引取機において変形や疵が生じる虞がある。また、冷却ロールでの冷却が徐冷でない場合は、板状樹脂成形体(樹脂原板)に発泡が生じる。更に、冷却ロールを1対しか設置しないと、冷却不足により板状樹脂成形体に反りなどが発生する。
【0039】
[切断工程S3]
切断工程S3は、冷却工程S2で樹脂溶融体を冷却して得た樹脂原板を、所定のサイズに切断する工程であり、必要に応じて実施される。例えば、必要とされる長さよりも長尺の樹脂原板を作製し、それを任意の長さで切断して板状樹脂成形体としてもよい。切断工程S3は、冷却工程S2から連続して行ってもよいが、押出工程S1や冷却工程S2とは別工程で行ってもよい。いずれの場合でも、所定のサイズで1枚ずつ成形するよりも製造効率が向上し、製造コストを低減することができる。
【0040】
[製造装置]
次に、前述した板状樹脂成形体の製造方法を実施するための装置、即ち、板状樹脂成形体の製造装置について説明する。
図2は本実施形態の板状樹脂成形体の製造装置の構成を模式的に示す図である。
図2に示すように、本実施形態の製造装置1は、押出機2と、複数の冷却ロール対3と引取機4とを備えている。
【0041】
<押出機2>
押出機2は、Tダイ、コートハンガーダイ又は任意の開口部を有するダイなどのダイ5を備えており、ダイ5の開口部が水平方向、斜め上方向又は斜め下方向を向くように配置されている。そして、本実施形態では、押出機2により、熱可塑性樹脂を加熱しながら混錬し、開口部が矩形状のダイ5から水平方向又は斜め方向に樹脂溶融体を押し出す。
【0042】
<冷却ロール対3>
冷却ロール対3は、上下1対の冷却ロール3a,3bで構成されており、ダイ5から押し出された樹脂溶融体を、上下から挟持して押出方向と同一方向に引き取りながら冷却を行う。押出機2と各冷却ロール対3は、樹脂溶融体の引き取り方向が一定になるよう直列に配置されている。具体的には、押出機2のダイ5の開口部の中心点と冷却ロール対3の間隔(隙間)の中心点が同一直線上に位置するよう、即ち、樹脂溶融体の引取方向が一定になるようダイ5の下流側に、複数対配置されている。
【0043】
冷却ロール対3の各冷却ロール3a,3bは、樹脂溶融体を上下で挟み込みつつ回転できる機構を有し、内部若しくは外部のいずれか又はその両方から加温される構造となっている。例えば、内部から加温するものとしては、内部に熱媒を強制循環させる構造のものがある。また、冷却ロール3a,3bの表面には、クロムなどの金属材料がメッキされているか、又はフッ素樹脂コーティングが施されていてもよい。フッ素樹脂コーティングを施すことにより、粘着性の高い樹脂を用いる場合に、貼り付きによる表面ムラを低減させることができる。
【0044】
<引取機4>
引取機4は、板状樹脂成形体(樹脂原板)を把持し、一定速度で引き取ることが可能な装置であればよい。引取機4は、冷却ロール対3の後方(下流側)に、樹脂溶融体の引取方向が一定になるよう配置されている。
【0045】
<動作>
前述した製造装置を用いて、板状樹脂成形体を製造する際は、冷却ロール対3の各冷却ロール3a,3bの温度を予め調整しておく。そして、押出機2により溶融された樹脂溶融体をダイ5から水平方向又は斜め方向に押し出し、それを冷却ロール対3の各冷却ロール3a,3bで上下から挟持し、押出方向と同一方向に引き取りながら冷却する。このとき、1対目の冷却ロール対3の温度T1(℃)を、熱可塑性樹脂の融点Tmp(℃)の0.2倍以上で融点Tmp(℃)未満の温度にし、更に、下流側になるに従い冷却ロール対3の温度が低くなるようにする。これにより、冷却ロール対3で徐冷され、樹脂溶融体の表面が硬化し、所定の厚さで、表面状態が良好な板状樹脂成形体(樹脂原板)が製造される。
【0046】
[板状樹脂成形体]
次に、前述した方法及び装置により製造される板状樹脂成形体について説明する。本実施形態の板状樹脂成形体は、押出成形により形成された板状の樹脂成形体であって、融点と結晶化温度の差が50℃以下の熱可塑性樹脂からなり、短辺が10~1500mm、長辺が10~3000mm、厚さが1~50mmであり、曲げ弾性率が500MPa以上、好ましくは500~20000MPa、硬度がデュロメータD硬さで56以上、好ましくはデュロメータD硬さで56以上かつロックウェルR硬さで130以下である。
【0047】
以上詳述したように、本実施形態の板状樹脂成形体の製造方法では、ダイから水平方向又は斜め方向に押し出された樹脂溶融体を、複数対の冷却ロールで上下から挟持した状態で押出方向と同一方向に引き取りながら冷却しているため、引き取り方向が一定になり、樹脂溶融体を変形させずに冷却できる。その結果、曲げ弾性率や硬さが高い樹脂を用いても、目的とする厚さで、疵や変形のない板状樹脂成形体を製造することができる。
【0048】
また、下流側の冷却ロールの温度を上流側の冷却ロールの温度よりも低くし、かつ、ダイから数えて1対目の冷却ロールの温度T1(℃)が上記数式3を満たすようにしているため、使用する熱可塑性樹脂の熱特性に応じて樹脂溶融体を適温で徐冷することができ、板状樹脂成形体に発泡が発生することを防止できる。
【0049】
一方、従来の製造方法のように、冷却ロールに樹脂溶融体をS字状やU字状に通過させると、板状樹脂成形体に曲げ癖による変形が発生することがあり、また、捻じりながら通過させると、板状樹脂成形体に捻転による変形が発生することがある。更に、使用する樹脂材料の種類、製造する成形体の寸法や構造によって、板状樹脂成形体(樹脂原板)の剛性は変わる。例えば、剛性の高い成型体は一般的に最小曲げ半径が大きくなり、従来の製造方法の装置構成では、冷却ロールのロール径を大きくしなければ対応できず、設備コストの増大や設置スペースの増大を招く。また、無理やり曲げれば成型体に損傷を与え、製品としての特性(透明性、耐屈曲性、平坦性など)を損ないかねない。
【0050】
これに対して、本実施形態の板状樹脂板の製造方法では、設置スペースを小さくすることが可能であり、剛性の高い板状樹脂成形体を、発泡や変形、疵などを発生させずに、成型することが可能となる。
【実施例0051】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、以下に示す方法で、実施例及び比較例の板状樹脂成形体を作製し、厚さの精度及び外観について評価した。
【0052】
<実施例1>
図1に示す製造装置1を用いて、冷却ロール3a,3bは5対設置し、引取速度を4cm/分にして、PFA(Solvay社製 Hyflon P420,融点315℃,結晶化温度275℃)からなり、厚さ10mm、長さ(カット長)2000mm、幅1000mmの板状樹脂成形体を製造した。その際、ダイ5は幅1100mmのコートハンガーダイを使用し、ダイリップ間隔(ダイ開口部の高さ)は13mmとした。押出条件は、ダイ温度を420℃、回転数を50rpm(40kg/h相当)とした。また、各冷却ロール3a,3bの温度は65~25℃の範囲で上流から下流に向かって順次低くなるようにした。
【0053】
<実施例2>
各冷却ロール3a,3bの温度を250~50℃の範囲で上流から下流に向かって順次低くなるようにした以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、PFAからなる厚さ10mmの板状樹脂成形体を製造した。
【0054】
<実施例3>
各冷却ロール3a,3bの温度を250~170℃の範囲で上流から下流に向かって順次低くなるようにした以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、PFAからなる厚さ10mmの板状樹脂成形体を製造した。
【0055】
<実施例4>
ダイリップ間隔(ダイ開口部の高さ)を1.3mmにし、冷却ロール3a,3bの数を3対にして、各冷却ロール3a,3bの温度を250~210℃の範囲で上流から下流に向かって順次低くなるようにし、引取速度を40cm/分にした以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、PFAからなる厚さ1mmの板状樹脂成形体を製造した。
【0056】
<比較例1>
各冷却ロール3a,3bの温度を50~20℃の範囲で上流から下流に向かって順次低くなるようにした以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、PFAからなる厚さ10mmの板状樹脂成形体を製造した。
【0057】
<比較例2>
冷却ロールを1対とし、各冷却ロール3a,3bの温度を250℃にした以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、PFAからなる厚さ10mmの板状樹脂成形体を製造した。
【0058】
<比較例3>
冷却ロール3a,3bの代わりに、サイジングにより賦形・冷却を行った以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、PFAからなる厚さ10mmの板状樹脂成形体を製造した。なお、サイジング温度は80℃とした。
【0059】
[評価]
次に、前述した方法で製造した各実施例及び比較例の板状樹脂成形体を、以下の方法で評価した。
【0060】
(1)厚さ
シクネスゲージなどの計測機器を用いて各板状樹脂成形体の厚さを計測した。具体的には、各板状樹脂成形体について任意の場所を選択し、幅方向にて全幅の1/10間隔で計測した。測定位置については、各板状樹脂成形体の引取方向から見て、中央から右側をR1,R2,R3,R4,R5とし、左側をL1,L2,L3,L4,L5とした。
【0061】
(2)厚さ精度
前述した方法で計測した厚さの最大値から最小値を引いて算出した。
【0062】
(3)曲げ弾性率
ASTM D790に規定される方法により測定した。測定回数は3回とし、その平均値をとった。
【0063】
(4)硬さ
ASTM D790に規定される方法によりデュロメータD硬度を測定した。測定回数は3回とし、その平均値をとった。
【0064】
(5)外観
各板状樹脂成形体の外観を目視により観察し、発泡、反り、疵の有無を以下の基準で評価した。
「発泡」は、内部及び表面に、中空部又は中空部により引き起こされた凹凸が存在する場合を×(不合格)、存在しない場合を○(合格)とした。
「反り」は、机などの水平な面上に、長さを50cmにカットした板状樹脂成形体を静置し、水平な面と板状樹脂成形体の底面との距離をマイクロスコープなどで測定し、その最大値を反り量とした。そして、反り量が0.1mm未満だったものを○(合格)、0.1mmを超えていたものを×(不合格)とした。
【0065】
「疵」は、板状樹脂成形体の加工及び使用において想定されていない有害な擦り疵、引っ掻き跡の大きさで評価した。具体的には、疵がない又は疵の幅の最大値が0.05mm未満かつ疵の長さの最大値が1.0mm未満の疵の場合は○(合格)、疵の幅の最小値が0.05mm以上又は疵の長さの最小値が1mm以上である場合は×(不合格)とした。
総合評価は、3つの評価項目をすべて合格であるものを○(合格)、1つでも不合格があるものを×(不合格)とした。
【0066】
以上の結果を、下記表1にまとめて示す。なお、表1に示す冷却ロールの温度は温度調節機器の設定温度であり、サイジング温度は金型温調器の設定温度である。また、下記表1の備考には、上記以外に発見された欠陥を記載した。
【0067】
【0068】
上記表1及び表2に示すように、本発明の範囲内で作製した実施例1~4の板状樹脂成形体は、厚みの変動が小さく、発泡、反り、疵といった外観不良がない良好なものであった。一方、本発明の範囲から外れる比較例1の板状樹脂成形体は、冷却ロールの温度が低かったため、発泡と反りが発生しており、厚み精度も低下した。また、比較例2の板状樹脂成形体は、冷却ロールの数が少なく、冷却時間が十分でなかったため、反りや変形が見られ、厚み精度も低下した。更に、比較例3の板状樹脂成形体は、樹脂溶融体がサイジングと接触することによる抵抗と引取による張力のため、反り、表面の疵が見られ、厚み精度も低下した。
【0069】
以上の結果から、本発明によれば、曲げ弾性率が500MPa、硬さがデュロメータD硬度で56以上の高剛性な材料を用いて、厚さ1mm程度の薄いシートから厚さ10mm程度の厚い板まで、外観に発泡、反り及び疵などがなく、厚さ精度にも優れた板状樹脂成形体を製造できることが確認された。