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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150363
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】樹脂シート及び防煙垂壁
(51)【国際特許分類】
   B29B 15/12 20060101AFI20220929BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
B29B15/12
B29K105:08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052937
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久木野 稔
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA07
4F072AB09
4F072AB15
4F072AB28
4F072AD34
4F072AE02
4F072AF24
4F072AG20
4F072AL09
4F072AL17
(57)【要約】
【課題】白化が生じにくい繊維強化樹脂シートを提供する。
【解決手段】樹脂シート10は、ガラスクロス12に樹脂を含侵した繊維強化樹脂層11を有する。ガラスクロス12を構成する経糸12a及び緯糸12bの織密度が、55本/25mm以下であり、経糸12a及び緯糸12bの直径Rが、80μm以下である。直径R=2×(100000000/(100×π×L×d))0.5(但し、L、dは、経糸12a及び緯糸12bに用いるガラス繊維の規格により定まる「単位重量当たりの長さ(g/m)」、「比重(g/cm3 )」を、πは、円周率を表す)である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスクロスに樹脂を含侵した繊維強化樹脂層を有する樹脂シートであって、
前記ガラスクロスを構成する経糸及び緯糸の織密度が、55本/25mm以下であり、
前記経糸及び前記緯糸の直径Rが、80μm以下であり、
前記直径R=2×(100000000/(100×π×L×d))0.5
(但し、L、dは、前記経糸及び前記緯糸に用いるガラス繊維の規格により定まる「単位重量当たりの長さ(g/m)」、「比重(g/cm3 )」を、πは、円周率を表す)である、
樹脂シート。
【請求項2】
全光線透過率Ttが85%以上であり、ヘーズHzが8%以下であり、
JIS K 5600-5-1:1999に準拠する耐屈曲性(円筒形マンドレル法)試験の前後における前記全光線透過率Tt及び前記ヘーズHzのそれぞれの変化量((試験後の値)-(試験前の値))をΔTt及びΔHzとすると、ΔTtが-0.5%以上0%以下であり、ΔHzが0%以上1.0%以下である、
請求項1に記載の樹脂シート。
【請求項3】
前記繊維強化樹脂層の体積に対する前記経糸及び前記緯糸の表面積の合計の比率が、8mm-1以上である、
請求項1又は2に記載の樹脂シート。
【請求項4】
前記比率が、9.5mm-1以上14.5mm-1以下である、
請求項3に記載の樹脂シート。
【請求項5】
前記繊維強化樹脂層の片面又は両面に積層された他の樹脂層をさらに備える、
請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂シート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂シートと、
前記樹脂シートを保持する枠体とを備える、
防煙垂壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガラスクロスに樹脂を含侵した繊維強化樹脂シート、及びそれを用いた防煙垂壁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラスクロスに樹脂を含侵した繊維強化樹脂シートは、火災などの高温にさらされても燃焼しにくい不燃性を有する。このため、繊維強化樹脂シートは、防煙垂壁や間仕切りシート等として用いられる(例えば特許文献1~3参照)。このような用途で繊維強化樹脂シートが用いられる場合、視界を妨げたり外観を損ねないように、透明性が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-9068号公報
【特許文献2】特開2016-198901号公報
【特許文献3】特開2014-201007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
防煙垂壁などの施工においては、取り付け用の枠体の形状に合わせて繊維強化樹脂シートを折り曲げることがある。また、施工時には、工具の鋭利な部分が繊維強化樹脂シートに接触することもある。
【0005】
しかしながら、従来の繊維強化樹脂シートでは、折り曲げたり、工具と接触したりすると、白化が生じて外観が悪くなるという問題が生じる。
【0006】
本開示は、白化が生じにくい繊維強化樹脂シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本開示に係る第1の態様は、ガラスクロスに樹脂を含侵した繊維強化樹脂層を有する樹脂シートであって、前記ガラスクロスを構成する経糸及び緯糸の織密度が、55本/25mm以下であり、前記経糸及び前記緯糸の直径Rが、80μm以下である。尚、直径R=2×(100000000/(100×π×L×d))0.5(但し、L、dは、前記経糸及び前記緯糸に用いるガラス繊維の規格により定まる「単位重量当たりの長さ(g/m)」、「比重(g/cm3 )」を、πは、円周率を表す)である。
【0008】
第1の態様によると、ガラスクロスを構成する経糸及び緯糸(以下、合わせてガラス糸ということもある)の織密度が低く、ガラス糸が細い。このため、シート内におけるガラス糸と樹脂との界面の面積が小さくなる。従って、折り曲げ時や工具との接触時などに、当該界面の剥離が抑制される結果、白化の発生が抑制されると推測される。
【0009】
本開示に係る第2の態様は、第1の態様において、全光線透過率Ttが85%以上であり、ヘーズHzが8%以下であり、JIS K 5600-5-1:1999に準拠する耐屈曲性(円筒形マンドレル法)試験の前後における前記全光線透過率Tt及び前記ヘーズHzのそれぞれの変化量((試験後の値)-(試験前の値))をΔTt及びΔHzとすると、ΔTtが-0.5%以上0%以下であり、ΔHzが0%以上1.0%以下である。
【0010】
第2の態様によると、高い透明性を有し且つ白化を十分に抑制可能な繊維強化樹脂シートを提供できる。
【0011】
本開示に係る第3の態様は、第1又は第2の態様において、前記繊維強化樹脂層の体積に対する前記経糸及び前記緯糸の表面積の合計の比率が、8mm-1以上である。
【0012】
第3の態様によると、良好な不燃性を有する繊維強化樹脂シートを提供できる。
【0013】
本開示に係る第4の態様は、第3の態様において、前記比率が、9.5mm-1以上14.5mm-1以下である。
【0014】
第4の態様によると、外観に優れ且つ良好な視認性を有する繊維強化樹脂シートを提供できる。
【0015】
本開示に係る第5の態様は、第1~第4の態様のいずれか1つにおいて、前記繊維強化樹脂層の片面又は両面に積層された他の樹脂層をさらに備える。
【0016】
第5の態様によると、樹脂シートに剛性(コシ)を付与できるので、施工性を向上させることができる。
【0017】
本開示に係る第6の態様は、第1~第5の態様のいずれか1つの樹脂シートを用いた防煙垂壁であって、前記樹脂シートを保持する枠体を備える。
【0018】
第6の態様によると、白化が生じにくい繊維強化樹脂シートを用いるため、外観に優れた防煙垂壁を提供することができる。
【発明の効果】
【0019】
本開示によると、白化が生じにくい繊維強化樹脂シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施形態に係る樹脂シートの断面構成の一例を示す図である。
図2図2は、実施形態に係る樹脂シートに用いられるガラスクロスの断面構成を模式的に示す図である。
図3図3は、実施形態に係る樹脂シートに用いられるガラスクロスを構成するガラス糸の断面構成を模式的に示す図である。
図4図4は、実施形態に係る樹脂シートを用いた防煙垂壁の構成の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施形態)
以下、本開示の一実施形態に係る樹脂シート及び防煙垂壁について、図面を参照しながら詳細に説明する。尚、本開示は、以下に示される実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。
【0022】
<樹脂シートの構成>
本実施形態の樹脂シート10は、例えば図1に示すように、ガラスクロス12に樹脂を含侵した繊維強化樹脂層11を有する。繊維強化樹脂層11の厚さは、例えば50μm~150μm程度であり、ガラスクロス12の厚さは、例えば25μm~60μm程度である。ガラスクロス12の単位面積当たりの質量は、例えば20g/m2 ~100g/m2 程度であり、より好ましくは35g/m2 ~50g/m2 程度である。ガラスクロス12に含侵させる樹脂の種類は、特に限定されないが、例えばビニルエステル、不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂や、例えばエポキシ、アクリル、ウレタン等の光硬化性樹脂などを用いてもよい。
【0023】
繊維強化樹脂層11は、公知の製造方法を利用して製造可能である。例えば、ガラスクロスを連続的に走行させると共に、当該ガラスクロスの一方の面に、未硬化の樹脂を塗布した第1のキャリアフィルムを連続的に走行させながら押し当てる。同時に、ガラスクロスの他方の面に第2のキャリアフィルムを連続的に走行させながら押し当てる。これにより、第1及び第2のキャリアフィルムの間にガラスクロス及び未硬化の樹脂を挟んで当該樹脂の含浸を行う。その後、当該樹脂を硬化させて繊維強化樹脂シートに成形することによって、繊維強化樹脂層11を連続成形方法によって製造することができる。
【0024】
本実施形態では、ガラスクロス12に含侵させた樹脂によって、繊維強化樹脂層11の両面に樹脂層13を構成しているが、樹脂層13は形成しなくてもよい。
【0025】
また、本実施形態では、樹脂シート10に剛性(コシ)を付与して施工性を向上させるために、繊維強化樹脂層11の両面に他の樹脂層14を形成しているが、他の樹脂層14は、繊維強化樹脂層11の片面のみに形成してもよいし、両面共に形成しなくてもよい。他の樹脂層14は、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート等からなる厚さ10μm~20μm程度の基材層と、例えばアクリル等からなる厚さ10μm~20μm程度の粘着層とから構成されてもよい。
【0026】
図2に示すように、ガラスクロス12は、複数の経糸12aと複数の緯糸12bとが組み合わされて構成される。すなわち、ガラスクロス12は、ガラス繊維を経糸12a及び緯糸12bに用いて織ったものである。ガラスクロス12の織組織は、例えば、平織、朱子織、綾織、斜子織、畦織等であってもよい。ガラスクロス12において、隣接する経糸12a同士の隙間、及び隣接する緯糸12b同士の隙間は、例えば0.5mm以下である。ガラスクロス12に用いられるガラス繊維は、特に限定されないが、例えば、汎用の無アルカリガラス繊維(Eガラス)、耐酸性の含アルカリガラス繊維(Cガラス)、耐アルカリ性ガラス繊維(ARガラス)等であってもよい。
【0027】
図3に示すように、ガラスクロス12の経糸12a及び緯糸12b(以下、合わせてガラス糸12a及び12bということもある)は、複数のフィラメント15が収束して構成される。フィラメント15の直径は、例えば1μm~20μm程度であり、より好ましくは3μm~7μm程度である。
【0028】
ガラスクロス12は、1種類のガラス繊維で織られていてもよいし、2種類以上のガラス繊維で織られていてもよい。例えば、経糸12a及び緯糸12bとして、異なるガラス繊維を用いてもよい。2種類以上のガラス繊維を用いる場合、各ガラス繊維のフィラメント直径及び番手は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、各ガラス繊維の組成は同じにして、フィラメント直径及び番手を変えてもよい。
【0029】
本実施形態において、ガラス糸12a及び12bの織密度は、55本/25mm以下である。ガラス糸12a及び12bの織密度の下限は、例えば25本/25mmである。ガラス糸12a及び12bの直径は、80μm以下であり、より好ましくは75μm以下である。ガラス糸12a及び12bの直径の下限は、例えば30μmである。
【0030】
尚、本開示において、「ガラス糸の直径R(μm)」とは、多数のフィラメントが収束してなるガラス糸を、便宜的に断面真円状の1本の繊維と見なし、ガラス糸の単位重量当たりの長さをL(kg/km(つまりg/m))、ガラス糸の比重をd(g/cm3 )、円周率をπとして、R=2×(100000000/(100×π×L×d))0.5により算出される値を意味する。尚、L、dは、ガラス繊維の規格により定められる。例えばEガラスの比重dは、2.55(g/cm3 )である。また、Lの逆数1/L(m/g)は、ガラス糸の単位長さ当たりの重量を表す。
【0031】
直径Rの計算式は、以下のように導出したものである。ガラス糸(単糸1本)の断面形状が直径R(半径r)の円形であるとして、ガラス糸1cmの重量A(g)は、Lを用いて、A[g]=1[cm]×1/100L[g/cm]で表され、dを用いて、A[g]=r[cm]×r[cm]×π×1[cm]×d[g/cm3]で表される。これにより、1/100L=r2 ×π×dが成り立つので、r2 =1/(100×π×L×d)[cm2]=100000000/(100×π×L×d)[μm2]が導かれる。従って、半径r=(100000000/(100×π×L×d))0.5[μm]であるので、直径R=2×(100000000/(100×π×L×d))0.5[μm]が導出される。
【0032】
また、本実施形態において、繊維強化樹脂層11の質量(ガラスクロス12及びその含侵樹脂の合計質量)に対するガラスクロス12の質量の比率は、55%以下であり、好ましくは46%以下である。当該比率が55%を超えると、つまり、ガラスクロス12の割合が多いと、ガラス繊維が見えやすくなり、外観が悪くなりやすい。当該比率は、不燃性の観点で28%以上であることが好ましく、視認性の観点で33%以上であることが好ましい。ガラスクロス12の割合が少ないと、つまり、含侵樹脂の割合が多いと、ヘーズ(視認性)が悪くなりやすいからである。
【0033】
また、本実施形態において、繊維強化樹脂層11の体積(mm3 )に対するガラス糸12a及び12bの表面積(経糸12a及び緯糸12bの表面積の合計)(mm2 )の比率は、20mm-1以下であり、外観の観点で14.5mm-1以下であることが好ましい。当該比率は、7mm-1以上であり、不燃性の観点で8mm-1以上であることが好ましく、視認性の観点で9.5mm-1以上であることが好ましい。当該比率の算出方法の一例は、以下の通りである。
(1)ガラス糸の表面積S(mm2 )を、S=((経糸の織密度[本/25mm]×経糸の直径[mm])+(緯糸の織密度[本/25mm]×緯糸の直径[mm]))×π×25[mm]により算出する。すなわち、織密度の単位に合わせて、単位面積(25mm四方)当たりの表面積を算出する。ここで、経糸及び緯糸の両端面の面積は、十分小さいものとして、計算に含めない。
(2)繊維強化樹脂層の体積V(mm3 )を、V=厚み[mm]×25[mm]×25[mm]により算出する。
(3)繊維強化樹脂層の体積Vに対するガラス糸の表面積Sの比率S/V(mm-1)を算出する。
【0034】
また、本実施形態において、樹脂シート10の全光線透過率Ttは、85%以上であり、好ましくは88%以上であり、より好ましくは90%以上である。樹脂シート10のヘーズHzは、8%以下であり、好ましくは7%以下であり、より好ましくは5%以下である。全光線透過率Tt及びヘーズHzを以上の範囲とすることにより、樹脂シート10の視認性が良好になり、樹脂シート10を用いて防煙垂壁等を施工した際に樹脂シート10を目立たないようにすることが可能となる。尚、JIS K 5600-5-1:1999に準拠する耐屈曲性(円筒形マンドレル法)試験の前後における全光線透過率Tt及びヘーズHzのそれぞれの変化量((試験後の値)-(試験前の値))をΔTt及びΔHzとすると、ΔTtが-0.5%以上0%以下であり、ΔHzが0%以上1.0%以下であることが好ましい。
【0035】
<実施形態の効果>
以上に説明した本実施形態の樹脂シート10によると、ガラスクロス12に樹脂を含侵した繊維強化樹脂層11を有し、ガラスクロス12を構成するガラス糸(経糸12a及び緯糸12b)の織密度が、55本/25mm以下であり、ガラス糸12a及び12bの直径Rが、80μm以下である。このように、ガラス糸12a及び12bの織密度が低く、ガラス糸12a及び12bが細いため、樹脂シート10内におけるガラス糸12a及び12bと樹脂との界面の面積が小さくなる。従って、折り曲げ時や工具との接触時などに、当該界面の剥離が抑制される結果、白化の発生を抑制することができると推測される。
【0036】
本実施形態の樹脂シート10において、全光線透過率Ttが85%以上であり、ヘーズHzが8%以下であり、JIS K 5600-5-1:1999に準拠する耐屈曲性(円筒形マンドレル法)試験の前後における全光線透過率Tt及びヘーズHzのそれぞれの変化量をΔTt及びΔHzとして、ΔTtが-0.5%以上0%以下であり、ΔHzが0%以上1.0%以下であってもよい。このようにすると、高い透明性を有し且つ白化を十分に抑制可能な樹脂シート10を提供できる。
【0037】
本実施形態の樹脂シート10において、繊維強化樹脂層11の体積に対するガラス糸の表面積(経糸12a及び緯糸12bの表面積の合計)の比率が、8mm-1以上であると、良好な不燃性を有する樹脂シート10を提供できる。この場合、当該比率が、9.5mm-1以上14.5mm-1以下であると、外観に優れ且つ良好な視認性を有する樹脂シート10を提供できる。
【0038】
本実施形態の樹脂シート10において、繊維強化樹脂層11の片面又は両面に積層された他の樹脂層14をさらに備えると、樹脂シート10に剛性(コシ)を付与できるので、施工性を向上させることができる。
【0039】
本実施形態の樹脂シート10において、ガラスクロス12に含侵させる樹脂として、ビニルエステルを用いると、白化が生じにくい樹脂シート10を提供することができる。
【0040】
本実施形態の樹脂シート10において、JIS L 1906(一般不織布試験方法)に準拠して測定される剛軟度が、1.5mN以上であると、白化が生じにくく、剛性が良好で施工性の良い樹脂シート10を提供することができる。
【0041】
<実施例>
以下、樹脂シート10の実施例について、不燃性試験や耐屈曲性(折り曲げ白化性)試験等の性能評価を行った結果について説明する。
【0042】
表1は、性能評価を行った実施例(1~7)及び比較例(1~7)の各樹脂シートのガラスクロス及び繊維強化樹脂層の構成を示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すように、実施例1~7では、ガラス糸として、経糸及び緯糸ともに、日東紡績社製の製品記号ECD 450 1/0を用いて同じガラスクロスを構成した。当該ガラス糸を構成するフィラメントの直径は、経糸及び緯糸ともに、5μmであり、当該ガラス糸の直径は、経糸及び緯糸ともに、74.8μmであり、当該ガラス糸の単位長さ当たりの重量は、経糸及び緯糸ともに、11.2texであり、当該ガラス糸の織密度は、経糸及び緯糸ともに、53.0本/25mmであった。尚、ガラス糸の直径Rは、「単位重量当たりの長さL(g/m)」を経糸及び緯糸ともにECD 450 1/0の規格数値89.2m/gとし、「比重d(g/cm3 )」を経糸及び緯糸ともにEガラスの比重2.55(g/cm3 )として、下記の計算式
R=2×(100000000/(100×π×L×d))0.5
を用いて算出した。
【0045】
また、表1に示すように、実施例1~7では、ガラスクロスの厚さは、45μmであり、単位面積当たりのガラスクロスの質量は、47.5g/m2 であり、ガラスクロス25mm角中でのガラス糸の表面積は、経糸及び緯糸ともに、311.4m2 であり、合計すると、622.7m2 であった。
【0046】
実施例1~7では、表1に示すガラスクロスにそれぞれ、ビニルエステル樹脂を含侵させて繊維強化樹脂層を構成した。繊維強化樹脂層におけるガラス繊維の比率(重量比率)は、実施例1が23%、実施例2が32%、実施例3が34%、実施例4が38%、実施例5が43%、実施例6が50%、実施例7が38%であった。繊維強化樹脂層(ガラスクロス面に形成される樹脂層を含む)の厚みは、実施例1が140μm、実施例2が110μm、実施例3が97μm、実施例4が85μm、実施例5が73μm、実施例6が60μm、実施例7が85μmであった。繊維強化樹脂層の各厚みにおける「ガラス糸(ガラス繊維)の表面積/繊維強化樹脂層(ガラスクロス面に形成される樹脂層を含む)の体積」は、実施例1が7.12mm-1、実施例2が9.06mm-1、実施例3が10.27mm-1、実施例4が11.72mm-1、実施例5が13.65mm-1、実施例6が16.61mm-1、実施例7が11.72mm-1であった。
【0047】
尚、実施例1~7では、ガラスクロスに含侵させる樹脂として、昭和電工社製のビニルエステル樹脂SSP50C-06Pを用いた。詳しくは、具体的には、ビニルエステル樹脂SSP50C-06Pの100重量部に対して、硬化剤として、化薬アクゾ社製のパーカドックスP16を0.5重量部、及び日本油脂社製のパーオクタO-70を0.5重量部それぞれ混合して、スターラーを用いて約20分間攪拌した後、得られた混合物を約30分間、温度30度のオーブン内に静置して脱気し、得られた未硬化の樹脂組成物をガラスクロスに含侵させた。
【0048】
また、実施例7では、以上のようにガラスクロスに樹脂を含侵させて得た繊維強化樹脂層の両面にそれぞれ、アクリルからなる厚さ15μmの樹脂粘着層を介して、ポリエチレンテレフタレートからなる厚さ16μmの樹脂基材層を形成した。
【0049】
一方、比較例1~5では、ガラス糸として、経糸に日東紡績社製の製品記号ECE 225 1/0 1.0Z、緯糸に日東紡績社製の製品記号ECD 450 1/0 0.8Zを用いて同じガラスクロスを構成した。当該ガラス糸を構成するフィラメントの直径は、経糸が7μm、緯糸が5μmであり、当該ガラス糸の直径は、経糸が105.8μm、緯糸が74.8μmであり、当該ガラス糸の単位長さ当たりの重量は、経糸が22.5tex、緯糸が11.2texであり、当該ガラス糸の織密度は、経糸が72.0本/25mm、緯糸が65.0本/25mmであった。尚、ガラス糸の直径Rは、「単位重量当たりの長さL(g/m)」を経糸はECE 225 1/0の規格数値44.6m/g、緯糸はECD 450 1/0の規格数値89.2m/gとし、「比重d(g/cm3 )」を経糸及び緯糸ともにEガラスの比重2.55(g/cm3 )として、下記の計算式
R=2×(100000000/(100×π×L×d))0.5
を用いて算出した。
【0050】
また、表1に示すように、比較例1~5では、ガラスクロスの厚さは、82μmであり、単位面積当たりのガラスクロスの質量は、94g/m2 であり、ガラスクロス25mm角中でのガラス糸の表面積は、経糸が598.2m2 、緯糸が381.9m2 であり、合計すると、980.0m2 であった。
【0051】
比較例1~5では、表1に示すガラスクロスにそれぞれ、実施例1~7と同様にビニルエステル樹脂を含侵させて繊維強化樹脂層を構成した。繊維強化樹脂層におけるガラス繊維の比率(重量比率)は、比較例1が40%、比較例2が43%、比較例3が45%、比較例4が49%、比較例5が53%であった。繊維強化樹脂層(ガラスクロス面に形成される樹脂層を含む)の厚みは、比較例1が154μm、比較例2が145μm、比較例3が132μm、比較例4が120μm、比較例5が108μmであった。繊維強化樹脂層の各厚みにおける「ガラス糸(ガラス繊維)の表面積/繊維強化樹脂層(ガラスクロス面に形成される樹脂層を含む)の体積」は、比較例1が9.50mm-1、比較例2が10.81mm-1、比較例3が11.88mm-1、比較例4が13.07mm-1、比較例5が14.52mm-1であった。
【0052】
また、比較例6では、ガラス糸として、経糸に日東紡績社製の製品記号ECE 225 1/0、緯糸に日東紡績社製の製品記号ECD 450 1/0を用いてガラスクロスを構成した。当該ガラス糸を構成するフィラメントの直径は、経糸が7μm、緯糸が5μmであり、当該ガラス糸の直径は、経糸が105.8μm、緯糸が74.8μmであり、当該ガラス糸の単位長さ当たりの重量は、経糸が22.5tex、緯糸が11.2texであり、当該ガラス糸の織密度は、経糸が59.0本/25mm、緯糸が57.0本/25mmであった。尚、ガラス糸の直径Rは、「単位重量当たりの長さL(g/m)」を経糸はECE 225 1/0の規格数値44.6m/g、緯糸はECD 450 1/0の規格数値89.2m/gとし、「比重d(g/cm3 )」を経糸及び緯糸ともにEガラスの比重2.55(g/cm3 )として、下記の計算式
R=2×(100000000/(100×π×L×d))0.5
を用いて算出した。
【0053】
また、表1に示すように、比較例6では、ガラスクロスの厚さは、90μmであり、単位面積当たりのガラスクロスの質量は、104g/m2 であり、ガラスクロス25mm角中でのガラス糸の表面積は、経糸が490.2m2 、緯糸が334.9m2 であり、合計すると、825.0m2 であった。
【0054】
比較例6では、表1に示すガラスクロスに、実施例1~7と同様にビニルエステル樹脂を含侵させて繊維強化樹脂層を構成した。繊維強化樹脂層におけるガラス繊維の比率(重量比率)は、49%であった。繊維強化樹脂層(ガラスクロス面に形成される樹脂層を含む)の厚みは、120μmであった。繊維強化樹脂層の各厚みにおける「ガラス糸(ガラス繊維)の表面積/繊維強化樹脂層(ガラスクロス面に形成される樹脂層を含む)の体積」は、11.00mm-1であった。
【0055】
また、比較例7では、ガラス糸として、経糸及び緯糸ともに、日東紡績社製の製品記号ECDE 300 1/0を用いてガラスクロスを構成した。当該ガラス糸を構成するフィラメントの直径は、経糸及び緯糸ともに6μmであり、当該ガラス糸の直径は、経糸及び緯糸ともに91.9μmであり、当該ガラス糸の単位長さ当たりの重量は、経糸及び緯糸ともに16.9texであり、当該ガラス糸の織密度は、経糸が60.5本/25mm、緯糸が61.5本/25mmであった。尚、ガラス糸の直径Rは、「単位重量当たりの長さL(g/m)」を経糸及び緯糸ともにECDE 300 1/0の規格数値59.2m/gとし、「比重d(g/cm3 )」を経糸及び緯糸ともにEガラスの比重2.55(g/cm3 )として、下記の計算式
R=2×(100000000/(100×π×L×d))0.5
を用いて算出した。
【0056】
また、表1に示すように、比較例7では、ガラスクロスの厚さは、73μmであり、単位面積当たりのガラスクロスの質量は、82g/m2 であり、ガラスクロス25mm角中でのガラス糸の表面積は、経糸が436.3m2 、緯糸が443.5m2 であり、合計すると、879.8m2 であった。
【0057】
比較例7では、表1に示すガラスクロスに、実施例1~7と同様にビニルエステル樹脂を含侵させて繊維強化樹脂層を構成した。繊維強化樹脂層におけるガラス繊維の比率(重量比率)は、49%であった。繊維強化樹脂層(ガラスクロス面に形成される樹脂層を含む)の厚みは、120μmであった。繊維強化樹脂層の各厚みにおける「ガラス糸(ガラス繊維)の表面積/繊維強化樹脂層(ガラスクロス面に形成される樹脂層を含む)の体積」は、11.73mm-1であった。
【0058】
表2は、以上に説明した実施例(1~7)及び比較例(1~7)の各樹脂シートに対して、不燃性試験、及び耐屈曲性(折り曲げ白化性)試験を行った結果を示す。
【0059】
【表2】
【0060】
不燃性試験は、ISO 5660-1:2002に準拠し、東洋精機製作所製のコーンカロリーメーターC3タイプを用いて発熱性試験を行った。その結果、表2に示すように、実施例1及び比較例1を除いて、良好な不燃性を有していた。すなわち、実施例については、繊維強化樹脂層の体積に対するガラス糸の表面積(経糸及び緯糸の表面積の合計)の比率が、8mm-1以上であると、良好な不燃性を有することが分かった。
【0061】
耐屈曲性(折り曲げ白化性)試験は、JIS K 5600-5-1:1999に準拠し、耐屈曲性(円筒形マンドレル法)評価装置を用いて、直径がそれぞれ60mm、50mm、40mm、30mm、25mm、20mm、10mm、6mm、3mmの試験円筒に樹脂シートを押し当て、白化の有無を観察することによって行った。試験片となる樹脂シートのサイズは20mm×100mmとし、試験体数Nは3とした。耐屈曲性試験の結果、表2に示すように、実施例1~7では、最小直径3mmの試験円筒でも白化を生じなかったのに対して、比較例1~7では、最小直径3cmの試験円筒で白化を生じた。尚、いずれの実施例、比較例でも、直径60mm、50mm、40mm、30mm、25mm、20mm、10mm、6mmの試験円筒では白化を生じなかった。
【0062】
また、耐屈曲性試験の前後における全光線透過率Tt及びヘーズHzを、JIS K 7375に準拠し、日本電色工業社製のヘーズメータNDH-4000型を用いて測定し、Tt、Hzのそれぞれの変化量ΔTt、ΔHz((試験後の値)-(試験前の値))を算出した。その結果、表2に示すように、実施例1~7では、ΔTtが-0.5%以上0%以下、ΔHzが0%以上1.0%以下にそれぞれ抑制されており、高い透明性を有し且つ白化を十分に抑制可能な樹脂シートが得られた。一方、比較例1~7では、ΔTtは-0.5%よりも悪化し、ΔHzは1.0%以上増大した。
【0063】
その他、表1、表2から、以下のことが確認された。
(1)ガラス糸(経糸及び緯糸)の織密度が55本/25mm以下であり、ガラス糸(経糸及び緯糸)の直径Rが80μm以下であると、白化の発生を抑制することができる。
(2)繊維強化樹脂層の体積に対するガラス糸の表面積(経糸及び緯糸の表面積の合計)の比率が、9.5mm-1以上14.5mm-1以下である(実施例3~5、7)と、外観に優れ(高Tt)且つ良好な視認性(低Hz)を有する樹脂シートが得られた。
【0064】
尚、JIS L 1906(一般不織布試験方法)に準拠し、東洋精機社製のガーレー柔軟度試験機(ガーレーステフネステスタ)を用いて、実施例1~7及び比較例1~7の各樹脂シートの剛軟度を測定したところ、実施例1~6では1.5mN未満であったのに対して、実施例7及び比較例1~7では1.5mN以上であった。
【0065】
(その他の実施形態)
前記実施形態(実施例を含む。以下同じ。)の樹脂シート10は、例えば、不燃性が必要とされる防煙垂壁、間仕切りシート、シャッター材等として用いることができる。
【0066】
図4は、前記実施形態の樹脂シート10を用いた防煙垂壁100の構成例を示す。図4に示すように、防煙垂壁100は、樹脂シート10と、樹脂シート10を保持する枠体20とを備える。枠体20は、樹脂シート10同士を中継する中継部材21や、樹脂シート10の張りを調整する調整部材22を有してもよい。図4の構成例では、枠体20が樹脂シート10の周辺を囲う態様を示しているが、枠体20の構造は、この態様に限定されず、例えば、樹脂シート10の上辺のみ、又は上辺及び両側辺の3辺に、枠体20が取り付けられた態様であってもよい。白化が生じにくい前記実施形態の樹脂シート10を用いることにより、外観に優れた防煙垂壁100を提供できる。
【0067】
尚、前記実施形態の樹脂シート10は、不燃性を必要としない用途、例えばクリアパーテーションや飛沫防止シートなどにも用いることができる。
【0068】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。さらに、以上に述べた「第1」、「第2」、…という記載は、これらの記載が付与された語句を区別するために用いられており、その語句の数や順序までも限定するものではない。
【符号の説明】
【0069】
10 樹脂シート
11 繊維強化樹脂層
12 ガラスクロス
12a 経糸
12b 緯糸
13 樹脂層
14 他の樹脂層
15 フィラメント
20 枠体
21 中継部材
22 調整部材
100 防煙垂壁
図1
図2
図3
図4