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特開2022-150374金属缶成形部材の検査装置、及び当該検査装置を備えた金属缶製造装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150374
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】金属缶成形部材の検査装置、及び当該検査装置を備えた金属缶製造装置
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/28 20060101AFI20220929BHJP
   B21D 51/26 20060101ALI20220929BHJP
   G01N 27/20 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B21D22/28 L
B21D51/26 X
G01N27/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052952
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城石 亮蔵
(72)【発明者】
【氏名】松本 尚也
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 拓甫
(72)【発明者】
【氏名】小川 智裕
(72)【発明者】
【氏名】三木 祥平
【テーマコード(参考)】
2G060
4E137
【Fターム(参考)】
2G060AA09
2G060AD01
2G060AE01
2G060AF02
2G060AF07
2G060AG03
2G060AG11
2G060EA04
2G060EA06
2G060HA01
2G060HC15
2G060KA11
4E137AA11
4E137BA01
4E137BA04
4E137BA05
4E137BA07
4E137BB04
4E137CA07
4E137CA09
4E137CA11
4E137CA24
4E137DA11
4E137EA01
4E137GA02
4E137GB17
4E137HA04
4E137HA10
(57)【要約】
【課題】金型に形成されたダイヤモンド膜やDLC膜の損傷を、より簡易な構成で早期に検知することが可能な金属缶成形部材の検査装置を提供する。
【解決手段】ダイとパンチとからなる一対の成形部材を含んで金属材料を成形する金属缶製造装置に取り付け可能な検査装置であって、前記ダイ又は前記パンチとの間を電気的に接続する接続部材と、前記接続部材に設けられて、前記接続部材を介した少なくとも前記ダイ又は前記パンチで構成された回路の抵抗値を検出する抵抗値検出手段と、を有することを特徴とする金属缶成形部材の検査装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイとパンチとからなる一対の成形部材を含んで金属材料を成形する金属缶製造装置に取り付け可能な検査装置であって、
前記ダイ及び前記パンチの少なくとも一方に対して電源と電気的な導通を確立する接続部材と、
前記接続部材と電気的に接続されて、前記接続部材を介して前記ダイ及び前記パンチの少なくとも一方を含んで構成された回路の抵抗値を検出する抵抗値検出手段と、
を有し、
検出された前記抵抗値に基づいて前記成形部材における損傷の有無が検知されることを特徴とする金属缶成形部材の検査装置。
【請求項2】
前記抵抗値検出手段により検出された前記抵抗値に基づいて、前記ダイの表面及び前記パンチの表面の少なくとも一部に形成された非導通性皮膜の損傷の有無が検知される、請求項1に記載の金属缶成形部材の検査装置。
【請求項3】
前記抵抗値検出手段は、前記ダイの表面及び前記パンチの表面の少なくとも一部に形成された非導通性皮膜の損傷が生じたことによる前記回路の抵抗値変化を検出する、請求項1又は2に記載の金属缶成形部材の検査装置。
【請求項4】
前記抵抗値検出手段により検出された抵抗値が予め検出された基準値より低いか否かに基づいて、前記非導通性皮膜の損傷の有無を判定する判定手段をさらに有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属缶成形部材の検査装置。
【請求項5】
複数の前記ダイを有し、
前記接続部材は、前記電源に対して前記複数のダイをそれぞれ電気的に並列接続する、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属缶成形部材の検査装置。
【請求項6】
前記非導通性皮膜がダイヤモンド皮膜である、請求項1~5のいずれか一項に記載の金属缶成形部材の検査装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の検査装置を備えた、金属缶製造装置。
【請求項8】
ダイとパンチとからなる一対の成形部材を含んで金属材料を成形する金属缶製造装置に用いられる前記成形部材の損傷有無を検査する方法であって、
前記ダイ及び前記パンチの少なくとも一方と電源とを電気的に接続する接続部材を介して電気的に接続された抵抗値検出手段により、前記接続部材を介して前記ダイ及び前記パンチの少なくとも一方を含んで構成された回路の抵抗値を検出する抵抗値検出ステップと、
前記抵抗値検出ステップで検出された前記抵抗値に基づいて、前記成形部材の損傷有無を検査する判定ステップと、
を有することを特徴とする金属缶成形部材の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属缶成形部材の検査装置に関し、より詳細には、ダイとパンチとからなる一対の成形部材を含んで金属材料を成形する金属缶製造装置に取り付け可能な、金属缶成形部材の検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製の有底筒状体、例えば、いわゆるシームレス缶体は、プレス加工用金型を用いて絞りしごき加工によって製造される。
【0003】
上記絞りしごき加工において使用されるパンチ及びダイは、一般的に過酷な加工環境下に置かれることから、例えば特許文献1~4に示されるような金型が提案されている。すなわち、加工表面にダイヤモンド膜やDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜などの炭素膜を被覆して、金型の耐久性を向上させることが提案されている。
【0004】
一方で従来、下記特許文献5において、切削工具の摩耗検知方法として、切削工具に導電性のワークを加工する加工機において、切削工具の切れ刃の部分に非導電性の材料によるコーティング層が設けられてなり、ワークの加工中にワークと切削工具との導電性の有無が逆転することを電気的に検知するようにした切削工具の摩耗検知方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-137861号公報
【特許文献2】特開平11-277160公報
【特許文献3】特開2013-163187号公報
【特許文献4】国際公開WO2017/033791号公報
【特許文献5】特開昭61-265242号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の発明者らは、上記特許文献1~4に開示されるような金型を使用して絞りしごき加工を繰り返すうちに、何らかの理由により、ダイヤモンド膜やDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜の損傷(剥離、摩耗等)が生じることに気がついた。これらの損傷を放置したまま成形加工を継続した場合、得られる成形体の表面には傷付が生じるおそれがあり、生産性の面、また意匠性あるいは耐食性等の観点から好ましくない。
【0007】
上記ダイヤモンド膜やDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜の損傷は、傷の形成された缶が多数発生する前に、できる限り早く検知される必要がある。しかしながら、損傷が微小である段階で、目視で損傷の有無を確認することは容易ではない。また、目視による上記損傷の有無を確認するために、定期的に金属缶の製造装置から金型を取り外すことは、製造効率の著しい低下に直結する。
【0008】
本発明者らは、上記のような金型の膜の損傷を、より簡易な構成で早期に検知するため鋭意検討し、本発明に至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一実施形態における金属缶成形部材の検査装置は、(1)ダイとパンチとからなる一対の成形部材を含んで金属材料を成形する金属缶製造装置に取り付け可能な検査装置であって、前記ダイ及び前記パンチの少なくとも一方に対して電源と電気的な導通を確立する接続部材と、前記接続部材と電気的に接続されて、前記接続部材を介して前記ダイ及び前記パンチの少なくとも一方を含んで構成された回路の抵抗値を検出する抵抗値検出手段と、を有し、検出された前記抵抗値に基づいて前記成形部材における損傷の有無が検知されることを特徴とする。
上記(1)において、(2)前記抵抗値検出手段により検出された前記抵抗値に基づいて、前記ダイの表面及び前記パンチの表面の少なくとも一部に形成された非導通性皮膜の損傷の有無が検知されることが好ましい。
上記(1)又は(2)において、(3)前記抵抗値検出手段は、前記ダイの表面及び前記パンチの表面の少なくとも一部に形成された非導通性皮膜の損傷が生じたことによる前記回路の抵抗値変化を検出することが好ましい。
上記(1)~(3)のいずれかにおいて、(4)前記抵抗値検出手段により検出された抵抗値が予め検出された基準値より低いか否かに基づいて、前記非導通性皮膜の損傷の有無を判定する判定手段をさらに有することが好ましい。
上記(1)~(4)のいずれかにおいて、(5)複数の前記ダイを有し、前記接続部材は、前記電源に対して前記複数のダイをそれぞれ電気的に並列接続することが好ましい。
上記(1)~(5)のいずれかにおいて、(6)前記非導通性皮膜がダイヤモンド皮膜であることが好ましい。
また上記目的を達成するため、本発明の一実施形態における金属缶製造装置は、(7)上記(1)~(6)のいずれかの金属缶成形部材の検査装置を備えてなることを特徴とする。
本発明の一実施形態における金属缶成形部材の検査方法は、(8)ダイとパンチとからなる一対の成形部材を含んで金属材料を成形する金属缶製造装置に用いられる前記成形部材の損傷有無を検査する方法であって、前記ダイ及び前記パンチの少なくとも一方と電源とを電気的に接続する接続部材を介して電気的に接続された抵抗値検出手段により、前記接続部材を介して前記ダイ及び前記パンチの少なくとも一方を含んで構成された回路の抵抗値を検出する抵抗値検出ステップと、前記抵抗値検出ステップで検出された前記抵抗値に基づいて、前記成形部材の損傷有無を検査する判定ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の金属缶成形部材の検査装置と、その検査装置を備えた金属缶製造装置によれば、ダイとパンチとからなる一対の成形部材を含んで金属材料を成形する金属缶製造装置において、金型に形成されたダイヤモンド膜やDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜の損傷を、より簡易な構成で早期に検知することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態の全体構成を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態の全体構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態の検査装置を用いた検査の手順を説明するフローチャートである。
図4】本発明の他の実施形態の全体構成を示すブロック図である。
図5】本発明の他の実施形態の検査装置を用いた検査の手順を説明するフローチャートである。
図6】本発明の実施形態における変形例を示す模式図である。
図7(a)】本発明の実施形態における変形例を示す模式図である。
図7(b)】本発明の実施形態における変形例を示す模式図である。
図7(c)】本発明の実施形態における変形例を示す模式図である。
図7(d)】本発明の実施形態における変形例を示す模式図である。
図8】本発明の実施形態における変形例を示す模式図である。
図9】本発明の実施形態における変形例を示す模式図である。
図10】本発明の実施形態における変形例の全体構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の金属缶成形部材の検査装置について具体的に説明する。なお、以下の実施形態は本発明の一例を示してその内容について説明するものであり、本発明を意図的に限定するものではない。また、下記実施形態においては、金属缶としてシームレス缶体を挙げて説明するが、本発明を意図的に限定するものではない。
【0013】
[第1実施形態]
図1は本発明の実施形態の全体構成を示す模式図であり、図2は本発明の実施形態の全体構成を示すブロック図である。本実施形態における金属缶成形部材の検査装置100は、ダイDとパンチPとからなる一対の成形部材を含んで金属材料MTを成形する金属缶製造装置CMに取り付け可能な検査装置である。なお、金属材料MTの成形の種類としては、絞り成形、しごき成形、再絞り成形、絞りしごき成形、ストレッチ・ドロー成形、ストレッチ・アイアニング成形、等が挙げられる。
【0014】
そして本実施形態における検査装置100は、図1に示すように、ダイD及びパンチPと公知の測定用電源E(以下、電源Eと称する)の間を電気的に接続する接続部材10と、接続部材10に設けられて、この接続部材10を介した少なくともダイD及びパンチPを含んで構成された回路の抵抗値Rを検出する抵抗値検出手段20と、を有する。
【0015】
図1に示されるように、本実施形態における検査装置100は、金属缶製造装置CMに取り付け可能である。金属缶製造装置CMとしては金属缶を製造可能な公知の装置が挙げられる。金属缶製造装置CMには上述したダイD及びパンチPが搭載されている。そして、金属缶を製造するための金属材料MTがダイDとパンチPとの間で塑性加工される。
【0016】
なお、ダイDとパンチPとの間で加工される金属材料MTとしては、一般的な金属プレス加工に供されるものであれば特に制限はない。例えば、アルミニウム、銅、鉄、鋼、チタン、さらに純金属だけでなく、それらの合金など公知の種々の金属板が適用できる。
【0017】
また、ダイD又はパンチPは、公知の素材よりなるものが挙げられ、具体的には、タングステンカーバイド(WC)とコバルト等の金属バインダーとの混合物を焼結して得られる超硬合金;炭化チタン(TiC)等の金属炭化物や炭窒化チタン(TiNC)等のチタン化合物とニッケルやコバルト等の金属バインダーとの混合物を焼結して得られるサーメット、ダイス鋼、ハイス鋼等を挙げることができる。
【0018】
図1に示されるように、ダイDの加工表面には、金型の耐久性や成形性の向上等を目的として、皮膜ILが形成されている。この皮膜ILの材料としては、上記耐久性や成形性の観点等から、例えば炭素膜、セラミック膜、フッ素樹脂膜、等を好ましく用いることができる。これらの皮膜材料としては、ダイDやパンチPの素材よりも電気抵抗率が高い材料が用いられる。以下、皮膜ILを非導通性皮膜ILと称する。
【0019】
非導通性皮膜ILの材料としての炭素膜としては、ビッカース硬度においてHv8000~12000程度のダイヤモンド膜(ダイヤモンド皮膜)や、ビッカース硬度においてHv3000~7000程度のDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜等を挙げることができる。これら炭素膜の形成方法には特に制限はなく、例えば化学蒸着(CVD)法や物理蒸着(PVD)法等を適用することが可能である。
【0020】
また前記セラミック膜としては例えば、炭化ケイ素(SiC)や窒化ケイ素(Si)、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、炭化チタン(TiC)、窒化チタン(TiC)といった硬質セラミック等を挙げることができる。
【0021】
また前記フッ素樹脂膜としては例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、等を挙げることができる。
【0022】
なお、図1ではパンチPの加工表面においてはこの非導通性皮膜ILが表示されていないが、ダイDとパンチPの両方の加工表面に非導通性皮膜ILが形成されていてもよい。また、ダイD又はパンチPの表面の全面に非導通性皮膜ILが形成されている必要はなく、加工表面の少なくとも一部、例えば金属材料MTと接触する部分に、非導通性皮膜ILが形成されていればよい。
【0023】
また、ダイD又はパンチPの表面に形成された非導通性皮膜ILは同じ種類のものであってもよいし、異なる種類のものであってもよい。例えば、ダイDとパンチPの両方の加工表面に炭素膜が形成されていてもよいし、ダイD又はパンチPの一方の加工表面に炭素膜が、一方の加工表面にセラミック膜が形成されていてもよい。
【0024】
なお、非導通性皮膜ILの厚みとしては、0.1μm~30μm程度である。また、金属缶製造時に、適宜公知の潤滑油やクーラントが使用されていてもよい。
【0025】
接続部材10は、本実施形態の検査装置100において、上述のダイD及びパンチPとの間を電気的に接続している。接続部材10としては公知の電線やワイヤーハーネス等を適用でき、接続のためのコネクタや固定具等を適宜有していてもよい。
【0026】
抵抗値検出手段20は、上記した接続部材10、ダイD、及びパンチPを含んで構成された回路ECに設置されて、当該回路ECにおける抵抗値Rを検出する機能を有する。すなわち抵抗値検出手段20は、金属缶製造装置の構成、加工される金属材料の種類等に応じて、測定レンジの設定・調整等が行われ、ダイDからパンチPの間に所定の電圧、例えば1~10Vを印加して通電した時の、ダイDからパンチPの間における抵抗値を検出する。抵抗値検出手段20としては、上記した抵抗値を検出可能な公知の抵抗値検出機器であれば特に制限はなく、例えば検電テスター、デジタルマルチメーター等を適用できる。なお、検出された抵抗値Rは必要に応じてディスプレイ60に表示されてもよい。
【0027】
制御部1は、例えばCPUを有するPCなど公知のコンピューターの演算手段であり、本実施形態の検査装置100の各部を制御する機能を有する。なお、制御部1は図示しない記憶手段(RAMやROM、ハードディスク等)を有していてもよい。制御部1には、上述の抵抗値検出手段20が接続されている。また、制御部1には、後述の操作部50及びディスプレイ60が具備されていたり接続可能とされていてもよい。
【0028】
操作部50は、本実施形態の検査装置100において、駆動開始の指示や、電圧、電流等の値を入力するための入力手段である。操作部50としては公知の入力装置(キーボード等)を適用可能である。
【0029】
ディスプレイ60は、本実施形態の検査装置100において、上述したように抵抗値検出手段20により検出された抵抗値R等を表示する手段である。なお、ディスプレイ60には、必要に応じて、入力された電圧値、電流値等を併せて表示することも可能である。ディスプレイ60としては、液晶式やLED式等の公知の表示装置を適用できる。
【0030】
次に図3のフローチャートを用いて、本実施形態の検査装置100を用いた検査の手順を説明する。
図3は、本実施形態の検査装置100が、金属缶製造装置CMにおいて、ダイD又はパンチPの少なくとも一部に形成された非導通性皮膜ILの損傷(剥離、摩耗、等)の有無を検査する手順を説明するフローチャートである。
なお、図1(a)に示した金属缶製造装置CMでは、例えば金属材料MTの成形時又は非成形時に、電源E、ダイD、パンチP、及び抵抗値検出手段20が接続部材10により接続されて回路ECが構成されているものとする。
【0031】
まず、操作部50に入力された駆動開始の指示に基づき、回路ECに設けられた電源Eがオン状態となると、回路EC中に電流Iが流れようとする(スタート)。
【0032】
S10は、この回路ECに電流Iを流した場合における抵抗値を検出するステップである。このステップS10において、制御部1は、抵抗値検出手段20に上記した抵抗値を検出するように指令し、回路ECにおける抵抗値Rの情報を得る。抵抗値Rは、公知の方法に従って、回路EC中の電流Iと電圧Vより算出されてもよい。
【0033】
図1(a)に示されるように、ダイDの表面に設けられた非導通性皮膜ILに損傷が生じていない場合、上記回路ECに電流Iは、非導通性皮膜ILが抵抗となって通電が阻害される。一方で図1(b)に示されるように、仮にダイDの表面において、金属材料MTと接する箇所の非導通性皮膜ILに損傷(摩耗又は損傷)が生じた場合、当該損傷箇所Xでは導電性が向上することから、回路ECの電流Iは非導通性皮膜ILの上記損傷箇所Xを通じて流れやすくなる。すなわち、非導通性皮膜ILの損傷が生じた場合には、この非導通性皮膜ILが形成されたダイD、パンチP及び金属材料MTのいずれかの間で電気的な導電性が向上されるといえる。
【0034】
S20は、上記のように検出された抵抗値Rに基づいて成形部材における損傷の有無が検知されるステップである。非導通性皮膜ILに損傷が生じていない場合の抵抗値は、非導通性皮膜ILに損傷が生じている場合の抵抗値に対して、相対的に高い値となる。具体的な一例としては、非導通性皮膜ILに剥離が生じている場合の抵抗値が0Ωに近いのに対して、非導通性皮膜ILに損傷が生じていない場合の抵抗値は、少なくとも1~10kΩは検出される。よって、抵抗値検出手段20で検出された抵抗値Rの大小により、非導通性皮膜ILの少なくとも一部に損傷が生じたか否かを判断することができる。
【0035】
この場合、抵抗値Rがあらかじめ設定された所定値より低くなった場合に、検査人によって上記損傷が生じたと判断することも可能である。すなわち、あらかじめ非導通性皮膜ILに損傷が生じたと判断すべき抵抗閾値Rを設定しておき、当該抵抗閾値Rと、回路ECで検出された抵抗値Rとを比較して、R<Rとなった場合に、上記損傷が生じたと判断してもよい。あるいはR<Rとなった場合に、ディスプレイ60に警告を表示したり、金属缶製造装置CMの駆動を停止したりしてもよい。
【0036】
ステップS20により成形部材における損傷の有無が検知された後は、検査手順を終了してもよいし(エンド)、所定期間が経過した後に上記手順を再度繰り返してもよい。
【0037】
[第2実施形態]
次に、以下の第2実施形態にかかる検査装置200により本発明をさらに詳細に説明する。なお以下の第2実施形態は、制御部1が判定手段30と停止信号送信手段40を含む点において上述の第1実施形態と相違する。そのため、当該相違点について詳細に説明すると共に、共通点に関しては同一の符号を付してその説明を省略する。
【0038】
図4は、第2実施形態における検査装置200の全体構成を示すブロック図である。本実施形態における検査装置200において、制御部1は判定手段30と停止信号送信手段40を含む。また、制御部1は図示しない記憶手段(RAMやROM等)を有しており、非導通性皮膜ILに損傷が生じたと判断すべき抵抗値の値(抵抗閾値R)が記憶されている。
【0039】
判定手段30は、抵抗値検出手段20により検出された抵抗値Rに基づいて、予め設定され記憶された抵抗閾値Rに照らして、非導通性皮膜ILの損傷(剥離、摩耗、等)の有無を自動判定する機能を有している。かような判定手段30は、例えば上記した公知のコンピューターの演算手段における一つの機能として実装されていてもよい。
【0040】
停止信号送信手段40は、上記判定手段30により、非導通性皮膜ILに損傷(剥離、摩耗、等)があると判定された場合に、金属缶製造装置CMの駆動を停止するための停止信号を送信する機能を有している。かような停止信号送信手段40は、上記と同様にコンピューターの演算手段における一つの機能として実装されていてもよい。なお、本実施形態の検査装置200においては判定手段30と停止信号送信手段40の双方を具備する例を説明しているが、この形態に限られず停止信号送信手段40は適宜省略してもよい。
【0041】
次に図5のフローチャートを用いて、本実施形態の検査装置200を用いた検査の手順を説明する。
図5は、本実施形態の検査装置200が、金属缶製造装置CMにおいて、ダイD又はパンチPの少なくとも一部に形成された非導通性皮膜ILの損傷(剥離、摩耗、等)の有無を検査する手順を説明するフローチャートである。
【0042】
上記第1実施形態と同様に、まず操作部50に入力された駆動開始の指示に基づき、回路ECに設けられた電源がオン状態となると、回路EC中に電流Iが流れようとする(スタート)。
【0043】
ステップS10は、回路ECに電流Iを流した場合における抵抗値を検出するステップである。このステップS10において、制御部1は、抵抗値検出手段20に上記した抵抗値を検出するように指令し、回路ECにおける抵抗値Rの情報を得る。抵抗値Rは、公知の方法に従って、回路EC中の電流Iと電圧Vより算出されてもよい。
【0044】
ステップS20は、上記のように検出された抵抗値Rに基づいて成形部材における損傷の有無を判定するステップである。このステップS20では、上記ステップS10において得られた抵抗値Rに基づき、非導通性皮膜ILの少なくとも一部に損傷(剥離、摩耗等)が発生しているかが判定手段30によって判定される。具体的に判定手段30により、ステップS10において得られた抵抗値Rと、上述の記憶手段において記憶された抵抗閾値Rと、が比較されて、R<Rである場合には「損傷有」と判定される。
【0045】
「損傷有」と判定された場合には、後述のステップS30に進んでもよいし、検査手順を終了してもよい(エンド)。また、ディスプレイ60に「金型皮膜に損傷発生」又は「金型交換時期」等の警告を表示したりしてもよい。さらには、金属缶製造装置CMの駆動を手動で停止したりしてもよい。
【0046】
一方で「損傷有」と判定されなかった場合(R>Rの場合)は、この段階で検査手順を終了してもよいし(エンド)、所定期間が経過した後に上記手順を再度繰り返してもよい。
【0047】
ステップS30は、金属缶製造装置CMの駆動を停止する信号を送信する手段である。このステップS30においては、上記ステップS20での「損傷有」との判定に基づいて、制御部1(停止信号送信手段40)により、金属缶製造装置CMに対して停止信号が送信される。すなわち、上記ステップS20において「損傷有」と判定された場合には、金属缶製造装置CMにより製造される金属缶は表面に傷を有している可能性がある。そのため、この段階で金属缶製造装置CMを停止することにより、実用に適さない缶の製造を早期に停止し損害を最小限に抑えることができるというメリットがある。
【0048】
なお、本実施形態において、図示しない記憶手段に記憶される抵抗閾値Rとしては、複数段階で設定されていてもよい。例えば、抵抗閾値RS1、抵抗閾値RS2、抵抗閾値RS3(RS1>RS2>RS3>0)の三段階で設定されていてもよい。この場合、ステップS10において得られた抵抗値Rとの関係において、例えば以下のような手順とすることも可能である。
【0049】
(1)RS1>R>RS2である場合・・・ステップS20で「損傷有」とは判定されないが、ディスプレイ60に警告が表示される。(表示例:「金型皮膜が損傷している可能性があります」)
【0050】
(2)RS2>R>RS3である場合・・・ステップS20で「損傷有」と判定されるが、ステップS30には進まず、ディスプレイ60の警告表示が変更される。(表示例:「金型交換時期を過ぎています」)
【0051】
(3)RS3>Rである場合・・・ステップS20で「損傷有」と判定され、ステップS30において金属缶製造装置CMに対して停止信号が送信される。ディスプレイ60の警告表示が変更される。(表示例:「金型皮膜が損傷したため運転を停止しました」)
【0052】
ステップS30において金属缶製造装置CMに対して停止信号が送信され、金属缶製造装置CMの駆動が停止した後は、検査手順は終了する(エンド)。
【0053】
[変形例1]
次に、以下の変形例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
図6は、ダイD及びパンチPの双方の表面に非導通性皮膜ILが形成されている場合を示す模式図である。図6(a)は、ダイD及びパンチPの双方の表面に形成された非導通性皮膜ILはいずれの箇所においても損傷を生じていないことを示す。一方で図6(b)では、ダイDの非導通性皮膜ILは損傷箇所Xにおいて損傷を生じているが、パンチPの非導通性皮膜ILは損傷を生じていないことを示す。一方で図6(c)では、ダイDの非導通性皮膜ILは損傷を生じていない一方で、パンチPの非導通性皮膜ILは損傷箇所Xにおいて損傷を生じていることを示す。
【0054】
本変形例において、図6(a)に示すようにダイDの非導通性皮膜IL、及びパンチPの非導通性皮膜IL、の双方において損傷が発生していない場合には、回路EC上に流れようとする電流Iは非導通性皮膜ILに阻まれる。一方で、図6(b)又は図6(c)の状態では、電流Iは損傷箇所Xにより、図6(a)の状態より相対的に流れやすくなる。よって、抵抗値検出手段20により検出される抵抗値Rとしては、図6(b)又は図6(c)における抵抗値Rよりも図6(a)における抵抗値Rのほうが高くなる。このように、抵抗値検出手段20により検出される抵抗値Rの低下を確認することにより非導通性皮膜ILの損傷を検知することが可能である。また、図6(b)又は図6(c)で示す状態の抵抗値Rよりもさらに抵抗値Rの低下が確認された場合には、図示はしないが、ダイD及びパンチPの双方において、非導通性皮膜ILに損傷が発生している、あるいは、ダイD又はパンチPのいずれで、表面の複数箇所において損傷が発生している、等の状態が予測できる。
【0055】
[変形例2]
図7は、回路ECに関しての変形例を示す模式図である。上述した第1実施形態及び第2実施形態における回路ECにおいては、金属材料MTを介在させてダイDとパンチPとの間を接続部材10が電気的に接続していたが、本発明はこの構成に限られるものではない。すなわち図7(a)では、ダイDは回路ECを構成せず、パンチPと金属材料MTとの間を接続部材10が電気的に接続して回路ECが構成されている。この場合、抵抗値検出手段20により検出された抵抗値Rにより、パンチPの表面に形成された非導通性皮膜ILの損傷を検知することが可能となる。
【0056】
一方で、図7(b)では、パンチPは回路ECを構成せず、ダイDと金属材料MTとの間を接続部材10が電気的に接続して回路ECが構成されている。この場合、抵抗値検出手段20により検出された抵抗値Rにより、ダイDの表面に形成された非導通性皮膜ILの損傷を検知することが可能となる。
【0057】
さらに図7(c)、(d)に示すように、回路EC上に複数の抵抗値検出手段20を設置してもよい。すなわち図7(c)に示すように、図(a)及び(b)に示す回路を別個に並行して構成してもよい。又は図7(d)に示すように、パンチP及び金属材料MTとの間を接続部材10が電気的に接続して回路EC1と、ダイD、パンチP及び金属材料MTとの間を接続部材10が電気的に接続して構成された回路EC2と、が並列に配置されていてもよい。図7(d)に示される回路構成によれば、例えば非導通性皮膜ILにおける損傷が生じた場合には、当該損傷が生じる前と比較して相対的に抵抗値検出手段により検知される抵抗値が小さくなる。そのため、抵抗値検出手段20dによれば抵抗値の低下が観察されている一方で抵抗値検出手段20pにより検知される抵抗値に変化がない場合には、ダイDにおける非導通性皮膜ILの損傷が生じた可能性があると判断できる。一方で抵抗値検出手段20dによる抵抗値の低下は観察されない一方で抵抗値検出手段20pにより検知される抵抗値は低下が観察された場合には、パンチPの非導通性皮膜ILに損傷が発生した可能性があると判断できる。このように図7(d)に示される回路構成によれば、ダイDとパンチPのどちらの非導通性皮膜ILに損傷が生じているかを検知できる点において好ましい。
【0058】
[変形例3]
図8は、接続部材10とパンチPとの配線の変形例を示す図である。金属缶製造装置CMにより金属材料MTから金属缶が製造される際には、パンチPはダイDに対して缶底方向(紙面左方向)に移動して金属材料MTに塑性変形を付与する。そのため、接続部材10がこの移動の妨げとならないように配線が行われることが好ましい。より具体的に変形例3のパンチPは、軸方向に沿って中空の空間が形成されて当該空間内に絶縁材料を介して接続部材10が設置される構造となっていてもよい。同図に示されるように、パンチP内に配置された絶縁性の中空部材Yの内部に接続部材10を通すことにより、缶高さの長い缶を製造する際等にも接続部材10がパンチPと移動を妨げることがなく好ましい。
【0059】
[変形例4]
図9は、金属缶製造装置CMにおいて複数個のダイDが含まれる場合の、検査装置300を含む全体構成例を示す模式図である。また図10は本変形例にかかる検査装置300の全体構成を示すブロック図である。図9に示されるように、金属缶の製造においてダイDによるしごき加工が複数段において行われる際には、一台の金属缶製造装置CMにおいて複数個のダイDが含まれる場合がある。この場合における抵抗値検出手段20の数は、図9及び図10に示されるようにダイDの数と等しくてもよい。この場合、ダイDと抵抗値検出手段20との対応関係に応じて、どの箇所のダイDが損傷を生じているかを検知することができる。また、複数の抵抗値検出手段20において、抵抗値Rの低下が確認された場合には、パンチPの損傷が生じた可能性についても検知できる。なお図9においてダイD及びパンチPにおける非導通性皮膜ILは、その記載を省略する。
【0060】
本変形例では、図9(a)に示されるように、4個のダイ(Da、Db、Dc、及びDd)と、それに各々対応する4台の抵抗値検出手段20a、20b、20c及び20dが並列配置され、金属材料MTを介して回路ECが構成される。
【0061】
金属材料MTが1段目のダイDaで成形加工される際、ダイDaとパンチPに対して接続部材10を介して電源と電気的な導通が確立される。そして、ダイDa又はパンチPのいずれかの非導通性皮膜ILに損傷が生じていた場合には、抵抗値検出手段20aにより抵抗値Rの低下が検知される。
【0062】
次に、金属材料MTが2段目のダイDbで成形加工される際、ダイDbとパンチPに対して接続部材10を介して電源と電気的な導通が確立される。そして、ダイDb又はパンチPのいずれかの非導通性皮膜ILに損傷が生じていた場合には、抵抗値検出手段20bにより抵抗値Rの低下が検知される。
【0063】
同様に図9(b)に示されるように、金属材料MTが3段目のダイDcで成形加工される際、ダイDcとパンチPに対して接続部材10を介して電源と電気的な導通が確立される。そして、ダイDc又はパンチPのいずれかの非導通性皮膜ILに損傷が生じていた場合には、抵抗値検出手段20cにより抵抗値Rの低下が検知される。
【0064】
次いで金属材料MTが4段目(最終段)のダイDdで成形加工される際、ダイDdとパンチPに対して接続部材10を介して電源と電気的な導通が確立される。そして、ダイDd又はパンチPのいずれかの非導通性皮膜ILに損傷が生じていた場合には、抵抗値検出手段20dにより抵抗値Rの低下が検知される。
【0065】
本変形例の検査装置300によれば、金属缶製造装置CMに複数個のダイDが含まれる場合に、損傷したダイの特定を容易にすることができる点において好ましい。また、複数台の抵抗値検出手段において抵抗値の低下が検知された場合、パンチPが損傷した可能性もあると判断できる点において、損傷箇所の特定をより容易に行うことができる。
【0066】
なお言うまでもなく、本発明においては抵抗値検出手段20の数をダイDの数と等しくすることに限られるものではない。すなわち抵抗値検出手段20の数とダイDの数とが異なる個数であってもよい。また、複数個のダイDが含まれる場合であっても抵抗値検出手段20の数を一つ配置するものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、高効率で金属缶等の塑性加工による成形体を製造する分野において、好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0068】
100 検査装置
200 検査装置
10 接続部材
20 抵抗値検出手段
30 判定手段
40 停止信号送信手段
50 操作部
60 ディスプレイ
S10 ステップ
S20 ステップ
S30 ステップ
抵抗閾値
D ダイ
P パンチ
IL 非導通性皮膜
MT 金属材料
CM 金属缶製造装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7(a)】
図7(b)】
図7(c)】
図7(d)】
図8
図9
図10