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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150381
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】眼内レンズ挿入器具
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
A61F2/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052960
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】紙谷 友章
(72)【発明者】
【氏名】菱田 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】井上 陽太
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA25
4C097BB04
4C097EE02
4C097MM09
(57)【要約】
【課題】患者眼に挿入する眼内レンズの度数によらず、患者眼に眼内レンズを好適に挿入できる眼内レンズ挿入器具を提供する。
【解決手段】度数によって光学部の厚さのみが異なる複数種類の眼内レンズのなかから1つの眼内レンズが予め充填される眼内レンズ挿入器具であって、眼内レンズが予め充填される筒状の挿入器具本体10と、挿入器具本体10の筒状内部に配置された眼内レンズを押出軸に沿って押し出すプランジャー12と、プランジャー12が挿入器具本体10の筒状内部を進行する進行軌跡を選択的に変更する変更手段30を備え、変更手段30によって予め充填される眼内レンズの度数に応じて進行軌跡が決定される。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
度数によって光学部の厚さのみが異なる複数種類の眼内レンズのなかから1つの前記眼内レンズが予め充填される眼内レンズ挿入器具であって、
前記眼内レンズが予め充填される筒状の挿入器具本体と、
前記挿入器具本体の筒状内部に配置された前記眼内レンズを押出軸に沿って押し出すプランジャーと、
前記プランジャーが前記挿入器具本体の筒状内部を進行する進行軌跡を選択的に変更する変更手段を備え、
前記変更手段によって予め充填される前記眼内レンズの度数に応じて進行軌跡が決定される眼内レンズ挿入器具。
【請求項2】
請求項1に記載の眼内レンズ挿入器具であって、
前記変更手段は、
前記プランジャーが前記挿入器具本体の筒状内部を進行する進行方向である押出軸上に偏向機構が配置され、
前記偏向機構による偏向角度が変化することで進行軌跡が変化する眼内レンズ挿入器具。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれかに記載の眼内レンズ挿入器具であって、
前記変更手段は、前記プランジャーの進行軌跡のうち前記眼内レンズにおける光軸に直交する左右方向の進行軌跡が変更される眼内レンズ挿入器具。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の眼内レンズ挿入器具であって、
前記眼内レンズは、前記度数によって光学面の曲率半径が異なっており、前記曲率半径は高度数よりも低度数の方が大きく、
前記変更手段は、前記眼内レンズの度数が高度数よりも低度数の方が、前記プランジャーの押し出す位置が前記押出軸に近い眼内レンズ挿入器具。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の眼内レンズ挿入器具であって、
前記眼内レンズは、前記光学部の外周部分から径方向外方に延びる一対の前方支持部と後方支持部を備え、
前記挿入器具本体には、予め充填された前記眼内レンズが前記プランジャーによって押し出される際に前記光学部の傾きを抑制する凸部が設けられており、
前記凸部は、前記光学部の外周部分に対向する位置のうち、前記光学部の光軸よりも前方側であって、前記押出軸から見て前記前方支持部が配設されない側に配設されており、
前記凸部は、前記挿入器具本体における底面から天井面に向かって山なり状に突出して前記光学部における後面光学面側の外周部分に近接する眼内レンズ挿入器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼内レンズを眼内に挿入する眼内レンズ挿入器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、白内障の手術方法の一つとして、水晶体の代わりに折り曲げ可能な軟性の眼内レンズを眼内に挿入する手法が一般的に用いられている。また、眼の屈折力を矯正するために、水晶体よりも前側に眼内レンズが挿入される場合もある。眼内レンズの眼内への挿入には、インジェクターと呼ばれる眼内レンズ挿入器具が用いられる場合がある。
【0003】
このようなインジェクターとして、先端に切欠きが形成される挿入部において、先端に向かい内径が徐々に小さくなる中空部分にて眼内レンズを押し出すことで、眼内レンズを小さく折り畳んで先端から外部に射出する眼内レンズ挿入器具が知られている(例えば特許文献1)。この特許文献1の眼内レンズ挿入器具は、押出軸に沿って直進していたプランジャーの先端を内壁面に向けて斜行させることで前方支持部のタッキング不良を抑制する。ところで、患者眼の視度は個人差があるため、眼内レンズは選択的に使用される(例えば特許文献2)。つまり、所定モデル名の眼内レンズには、光学部の度数(屈折度数)のみ異なる複数の眼内レンズが用意されていることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-190023号公報
【特許文献2】特開2010-207279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、搭載する眼内レンズは、低度数になるほど光学部が薄くなり、光学部の剛性が低くなり易かった。従って、引用文献1の眼内レンズ挿入器具において、プランジャーの先端を内壁面に向けて一律に斜行させる態様であると、光学部が薄く剛性が低い低度数の眼内レンズを押し出す最中に光学部の意図せぬ変形が生じ易いという懸念があった。
【0006】
そこで、本開示は上記した問題点を解決するためになされたものであり、患者眼に挿入する眼内レンズの度数によらず、患者眼に眼内レンズを好適に挿入できる眼内レンズ挿入器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の典型的な実施形態が提供する眼内レンズ挿入器具は、度数によって光学部の厚さのみが異なる複数種類の眼内レンズのなかから1つの前記眼内レンズが予め充填される眼内レンズ挿入器具であって、前記眼内レンズ挿入器具は、前記眼内レンズが予め充填される筒状の挿入器具本体と、前記挿入器具本体の筒状内部に配置された前記眼内レンズを押し出すプランジャーと、前記プランジャーが前記挿入器具本体の筒状内部を進行する進行軌跡を選択的に変更する変更手段を備え、前記変更手段によって予め充填される前記眼内レンズの度数に応じて進行軌跡が決定される。
【0008】
本開示の眼内レンズ挿入器具によれば、患者眼に挿入する眼内レンズの度数によらず、患者眼に眼内レンズを好適に挿入できる眼内レンズ挿入器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】眼内レンズ挿入器具の平面図である。
図2】眼内レンズ挿入器具の側面図である。
図3】眼内レンズの平面図である。
図4】眼内レンズの右側面図である。
図5】低度数の眼内レンズの光学部の断面図。
図6】高度数の眼内レンズの光学部の断面図。
図7図2のVII-VII線断面図である。
図8図2のVIII-VIII線断面図である。
図9】低度数用のガイド機構を模式的に示した断面図である。
図10】高度数用のガイド機構を模式的に示した断面図である。
図11】眼内レンズが小さく折り畳まれた状態を示す断面図である。
図12】低度数用のガイド機構によって眼内レンズを光学部の周方向について回転させたときの状態を示す断面図である。
図13】高度数用のガイド機構によって眼内レンズを光学部の周方向について回転させたときの状態を示す断面図である。
図14】眼内レンズが折り畳まれて前方支持部が外周部分に載った直後の動きを模式的に示す平面図及び側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<概要>
本開示で例示する眼内レンズ挿入器具は、度数によって光学部の厚さのみが異なる複数種類の眼内レンズのなかから1つの眼内レンズが予め充填される眼内レンズ挿入器具である。眼内レンズ挿入器具は、挿入器具本体と、プランジャーと、変更手段を備える。挿入器具本体は、眼内レンズが予め充填される筒状である。プランジャーは、挿入器具本体の筒状内部に配置された眼内レンズを押出軸に沿って押し出すものである。変更手段は、プランジャーが挿入器具本体の筒状内部を進行する進行軌跡を選択的に変更するものである。この変更手段によって予め充填される眼内レンズの度数に応じて進行軌跡が決定される。
【0011】
本開示の眼内レンズ挿入器具は、プランジャーが挿入器具本体の筒状内部を進行する進行軌跡を選択的に変更する変更手段を備えている。この変更手段によって予め充填される眼内レンズの度数に応じて進行軌跡が決定される。光学部が薄く剛性が低い低度数の眼内レンズであっても、このレンズ剛性に応じてプランジャーの進行奇跡が決定されるため、タッキング不良などを抑制し好適に折り畳むことができる。そのため、患者眼に挿入する眼内レンズの度数によらず、患者眼に眼内レンズを好適に挿入できる眼内レンズ挿入器具を提供することができる。
【0012】
また、上記眼内レンズ挿入器具における変更手段は、プランジャーが挿入器具本体の筒状内部を進行する進行方向である押出軸上に偏向機構が配置され、偏向機構による偏向角度が変化することで進行軌跡が変化するものでもよい。偏向機構による偏向角度を変化させることでプランジャーの進行軌跡が変化するため、偏向量を細かく設定することができる。これにより、例えば、偏向機構は、低度数帯用、中度数帯用、高度数帯用など複数種類の設定が容易となる。
【0013】
また、上記眼内レンズ挿入器具の変更手段は、プランジャーの進行軌跡のうち眼内レンズにおける光軸に直交する左右方向の進行軌跡が変更されるものでもよい。これにより、眼内レンズは、その光学部に周方向の回転が付与されつつ、度数に応じたレンズ剛性を考慮して進行奇跡が決定されるため、タッキング不良などを抑制し好適に折り畳むことができる。
【0014】
また、上記眼内レンズ挿入器具において、眼内レンズは、度数によって光学面の曲率半径が異なっており、曲率半径は高度数よりも低度数の方が大きく、変更手段は、眼内レンズの度数が高度数よりも低度数の方が、プランジャーの押し出す位置が押出軸に近くてもよい。これにより、低度数の眼内レンズの光学部の方が薄く剛性が低い傾向にあることから、プランジャーの押し出す位置を押出軸に近くすることで眼内レンズの意図せぬ変形を抑制することができる。また、光学部が薄く剛性が低い低度数の眼内レンズであってもタッキング不良などを抑制し好適に折り畳むことができる。
【0015】
また、上記眼内レンズ挿入器具において、眼内レンズは、光学部の外周部分から径方向外方に延びる一対の前方支持部と後方支持部を備え、挿入器具本体には、予め充填された眼内レンズがプランジャーによって押し出される際に光学部の傾きを抑制する凸部が設けられており、凸部は、光学部の外周部分に対向する位置のうち、光学部の光軸よりも前方側であって、押出軸から見て前方支持部が配設されない側に配設されており、凸部は、挿入器具本体における底面から天井面に向かって山なり状に突出して光学部における後面光学面側の外周部分に近接する。係る凸部により、眼内レンズがプランジャーによって押し出される際に光学部の傾きを抑制することができ、眼内レンズにおける前方支持部が意図せぬタッキングとなるいわゆる「裏タッキング状態」の発生を抑制することができる。
【0016】
<第1実施形態>
以下、本開示における典型的な実施形態の1つである第1実施形態について図を参照して説明する。
【0017】
眼内レンズ挿入器具であるインジェクター1の構造について説明する。図1図2に示すように、本実施形態のインジェクター1(眼内レンズ挿入器具)は、挿入器具本体10と、プランジャー12などから構成されている。挿入器具本体10は、挿入部20と載置部22などを備えている。このようなインジェクター1は、例えば、樹脂材料(例えば、ポリプロピレン)等を用いた射出成形などによって形成される。また、インジェクター1は、樹脂の削り出しによって形成されたものであってもよい。なお、インジェクター1は、挿入部20が交換可能なカートリッジタイプのものであってもよい。なお本実施形態のインジェクター1は、いわゆるプリロードタイプ型であり眼内レンズ100が予め充填された状態で出荷されるものである。本実施形態のインジェクター1はモデル名MDLの眼内レンズを充填可能であり、モデル名MDLの眼内レンズはレンズ度数1D~30Dの範囲を0.5D刻みでカバーしている。つまり換言するなら、本実施形態のインジェクター1は、充填可能な眼内レンズ100の度数の範囲として1D~30Dに対応しており、眼内レンズ100を0.5D刻みで揃えている。
【0018】
<眼内レンズ100>
図3、4を参照して、インジェクター1(眼内レンズ挿入器具)によって眼内に挿入される眼内レンズ100の一例について説明する。図3図4に示すように、本実施形態で使用される眼内レンズ100は、光学部110と、一対の支持部である前方支持部112Aおよび後方支持部112Bと、が柔軟な素材で一体成形されたワンピースタイプの眼内レンズである。眼内レンズ100は、柔軟な素材の材料として、例えば、BA(ブチルアクリレート)、HEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)等の単体、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの複合材料等の種々の軟性の樹脂材料を採用できる。なお、第1実施形態では所謂ワンピースタイプの眼内レンズ100を例示したが、本開示で例示する技術の少なくとも一部は、光学部110と一対の支持部(前方支持部112Aおよび後方支持部112B)が別部材で形成された、所謂3ピース型の眼内レンズにも適用できる。
【0019】
光学部110は、患者眼に所定の屈折力を与える。光学部110は、円盤形状に形成されている。光学部110の光軸Lは、光学部110の中心を通り、且つ上下方向(光学部110の厚み方向)に延びる。また、前方支持部112Aと後方支持部112Bは、光学部110の外周部分110a(辺縁)から径方向外方(外側)に湾曲して延び、光学部110の中心である光軸Lを基準として点対称の位置に形成されている。そして、前方支持部112Aは、根元部分116Aが接続部分114Aを介して光学部110の外周部分110aに接続されており、周方向に湾曲したループ形状であり、先端部分118Aが開放されている。(つまり、先端部分118Aは自由端となっている)。また、後方支持部112Bは、根元部分116Bが接続部分114Bを介して光学部110の外周部分110aに接続されており、周方向に湾曲したループ形状であり、先端部分118Bが開放されている(つまり、先端部分118Bは自由端とされている)。光学部110は、光軸L方向の端面として、後述するように載置部22の天井面22bと対面する前面光学面110cと、前面光学面110cの反対側であり、載置部22における底面22cと対面する後面光学面110bとを備えている。
【0020】
本実施形態の眼内レンズ100は、レンズの度数に応じて光学部110の厚さのみ異なるが、光軸方向から見た光学部110の輪郭形状、前方支持部112Aおよび後方支持部112Bの形状は変わらない。すなわち、前面光学面110c、後面光学面110bの曲率半径、及び外周部分110a(コバとも言う)の厚さが度数に応じて変化し、光学部110の厚さが変わる。
【0021】
図5には、度数が1Dの眼内レンズ100の光学部110の断面図を示している。図6には、度数が30Dの眼内レンズ100の光学部110の断面図を示している。なお図5図6は、光軸Lの位置での断面図である。眼内レンズ100における光学面(前面光学面110c、後面光学面110b)の曲率半径は、相対的に高度数よりも低度数方が大きい。すなわち、度数が1Dの眼内レンズ100と、度数が30Dの眼内レンズ100とを比べると、前面光学面110c、後面光学面110bの曲率半径が異なっている。それに伴い、1Dの眼内レンズ100の光学部110の厚さT1の方が30Dの眼内レンズ100の光学部110の厚さT2よりも薄い。
【0022】
<挿入器具本体10について>
図7、8を参照して、挿入器具本体10の詳細について説明する。挿入器具本体10は、挿入部20と載置部22などを備えている。挿入部20、載置部22は、中空の筒形状に形成されている。また、筒状の挿入器具本体10の内壁にはプランジャー12の前進をガイドするためのガイド機構30が設けられている。本実施形態のインジェクター1は器具本体にガイド機構30を着脱可能であり、形状が異なる複数種類のガイド機構30のなかから1つのガイド機構30を選択して装着できる。
【0023】
挿入部20は、図7、8に示すように、通路20b(前方通路)を備えている。通路20bは、眼内レンズ100を折り畳むために挿入部20の先端20aに向かうに従って、眼内レンズ100が通過する空間が狭くなっている。すなわち、先端20aに向かうにつれて通路面積が徐々に小さくなっている。なお、通路面積とは、眼内レンズ100の押し出し方向(図7の左方向)に直交する断面における通路20bの断面積である。
【0024】
また、挿入部20の先端20aには、眼内レンズ100を外部に送出するための切欠き(ベベル)が形成されている。そして、通路20b内を通過した眼内レンズ100は、内壁面20c(前方内壁面)に沿って小さく折り畳まれて、先端20aの切欠きから外部に送出され、眼内に挿入される。なお、内壁面20c(第1内壁面24aと第2内壁面24b)は、通路20bの中心軸Lt方向に直交する方向であって、通路20b内に眼内レンズ100が配置されたときの光学部110の径方向に平行な方向について両側に形成されている。第1内壁面24aと第2内壁面24bは、通路20bの中心軸Ltに対して対称な形状(傾き)に形成されている。
【0025】
天井面20d(図7参照)と底面20e(図8参照)は、通路20bの中心軸Lt方向に直交する方向であって、通路20b内に眼内レンズ100が配置されたときの光学部110の中心軸(光軸)L方向に平行な方向について、両側に形成されている。そして、底面20eは、通路20bの外側(図8の紙面奥側)に凹状に湾曲している。すなわち、底面20eは、後述するガイド機構30の第1レール32、第2レール34及び偏向部36に対向する面であり、ガイド機構30の突出方向に凹んでいる。
【0026】
ここで、図7、8などに示すように、互いに直交するX軸とY軸とZ軸を想定し、眼内レンズ100の押し出し方向に平行な方向(通路20bと通路22aの中心軸Lt方向、押出軸Lp方向)をX軸方向と定義する。すると、通路20bは、Y軸方向の両側に形成される2つの内壁面20c(第1内壁面24aと第2内壁面24b)と、Z軸方向の両側に形成される天井面20d(図7参照)と底面20e(図8参照)などに囲まれて形成されている。通路20bの中心軸Ltは、押出軸Lpと一致している。
【0027】
載置部22は、図7、8に示すように、挿入部20よりもプランジャー12の押し出し方向の後方(図7、8の右方向)の位置に形成されている。そして、載置部22の内部に形成される通路22a(後方通路)内に、プランジャー12により押し出される前の眼内レンズ100が予め充填(配置)されている(図8参照)。載置部22は、通路22aと、天井面22bと、底面22cなどを備えている。
【0028】
ガイド機構30(変更手段)は、天井面20dおよび天井面22b側に形成され、プランジャー12の押し出し方向を案内する部分である。ガイド機構30は、中心軸Ltに平行に伸びる一対のレール部として、第1レール32(第1案内突起)と、第2レール34(第2案内突起)と、第1レール32の先端側に形成される偏向部36などを備えている。
【0029】
第1レール32と第2レール34は、中心軸Lt(プランジャー12の押し出し方向の押出軸Lpでもある)に沿って平行に形成されている。第1レール32は、ガイド機構30の一方(図7の上側)の壁面を構成しており、天井面20d(図7参照)および天井面22b(図7参照)から、底面20e(図8参照)および底面22c(図8参照)側に突出している(図7の紙面手前側)。第2レール34は、ガイド機構30の他方(図7の下側)の壁面を構成しており、天井面22b(図7参照)から底面22c側(図8参照)に突出している(図7の紙面手前側)。
【0030】
図7に示すように、本実施形態では、第1レール32は、偏向部36(偏向機構)を備えている。偏向部36は、第1レール32における挿入部20の先端20a側の位置に形成されている。偏向部36は、挿入部20の通路20b(図7参照)内において、天井面20d(図7参照)側から底面20e(図8参照)側に向かって突出している。なお、偏向部36は、載置部22の通路22a(図7参照)内においても、天井面22b(図7参照)側から底面22c(図8参照)側に向かって突出している。
【0031】
偏向部36は、第1レール32が第2レール34と対面するレール面32bよりも第2レール34側に傾斜するようにガイド面36aが形成されている。そして、偏向部36は、ガイド面36aが挿入部20の先端20a側に向かうにつれて徐々に傾斜するように、傾斜形状(テーパ形状)に形成されている。すなわち、偏向部36のガイド面36aの傾斜量は、挿入部20の先端20a側に向かうにつれて徐々に増加している。なお、ガイド面36aは、後述するように、プランジャー12を偏向して案内する面となる。また、偏向部36は、第1レール32とは別に(分離して)形成されていてもよい。また、本実施形態では、図7に示すように、第2レール34における挿入部20の先端20a側の前端部34aは、第1レール32における挿入部20の先端20a側の前端部32aよりも眼内レンズ100の押し出し方向の後方の位置に形成されている。
【0032】
本実施形態では、ガイド機構30の選択と装着はインジェクター1の製造工程で行われ、予め充填する眼内レンズ100の度数を考慮して選択されたガイド機構30が本体に装着された状態でインジェクター1が出荷される。例えば、充填する眼内レンズ100の度数が1D以上9D以下(低度数帯と称する)の場合にガイド機構30A(図9参照)が用いられ、度数が9Dより大きく30D以下(高度数帯と称する)の場合にガイド機構30B(図10参照)が用いられる。インジェクター1の製造方法を例えば、充填する眼内レンズの度数を決定する第1ステップと、形状が異なる複数のガイド機構の中から第1ステップで決定した度数に対応するガイド機構を選択する第2ステップと、第1ステップで決定した度数の眼内レンズと第2ステップで選択したガイド機構とを用いてインジェクター1を組み立てる第3ステップとしてもよい。第2ステップの際に製造工程の作業者が、眼内レンズの度数とガイド機構の種類との組合せの関係を示す表を参照してガイド機構を選択してもよい。ガイド機構30Aと、ガイド機構30Bは、偏向部36の形状が異なっている。中心軸Ltに沿って前進するプランジャー12は、偏向部36に接触すると、その先端が中心軸Ltから遠ざかる方向に偏向して前進する。本実施形態では、ガイド機構30Aとガイド機構30Bとでは、偏向量(すなわち、ガイド面36aが中心軸Ltに対して傾斜する角度量)が異なる。すなわち、偏向量はガイド機構30Aよりもガイド機構30Bの方が大きい。
【0033】
図8に示すように、載置部22の内部に形成される通路22aにおける底面22cには、眼内レンズ100がプランジャー12により挿入部20の先端20a側に向かって押し出されて移動する際の、光学部110の傾きを抑制する凸部22fが設けられている。凸部22fは、眼内レンズ100の光学部110の縁である外周部分110aに対向する位置であって次のような部位に配設される。凸部22fは、眼内レンズ100の光学部110の光軸Lよりも前方(挿入部20の先端20a)側(図8の左方向)であって、中心軸Lt(プランジャー12の押し出し方向の押出軸Lpでもある)から見て眼内レンズ100の前方支持部112Aが配設されない側(図8において中心軸Ltよりも下方側)に配設される。凸部22fは、底面22cから天井面22bに向かって山なり状に突出して光学部110における後面光学面110b側の外周部分110aに近接している。凸部22fは、突出する方向に向かって先細った形状であり先端部が丸みを帯びたフィレット加工が施されている。この凸部22fにより、眼内レンズ100がプランジャー12によって押し出される際に光学部110の傾きを抑制することができ、眼内レンズ100における前方支持部112Aが意図しないで後面光学面110b側にタッキングされるいわゆる「裏タッキング状態」の発生を抑制することができる。
【0034】
なお、「天井面20d」、「底面20e」、「天井面22b」、「底面22c」等の名称は便宜的なものであり、インジェクター1の上下方向を厳密に規定するものではない。例えば、底面20eは眼内レンズ100の下方に常に位置するわけではない。つまり、運搬時、インジェクター1への粘弾性物質の充填時、眼内への眼内レンズ100の挿入時等の各々において、インジェクター1の上下方向は変化し得る。
【0035】
本実施形態のインジェクター1(眼内レンズ挿入器具)の使用方法を説明する。使用方法を説明するにあたり、インジェクター1には低度数の眼内レンズ100が充填され、且つガイド機構30Aが装着されている態様として説明する。使用者がプランジャー12の基端に形成されている押出部を押してプランジャー12全体を前進させると、後方支持部112Bがタッキングされた眼内レンズ100が中心軸Lt(プランジャー12の押し出し方向の押出軸Lpでもある)に沿って押し出されてゆく。
【0036】
図11に示すように、プランジャー12を更に押し出してゆくと前方支持部112Aも光学部110の前面光学面110c上にタッキングした後、光学部110全体がロール状に変形されて挿入口から眼内レンズ100が射出される。
【0037】
図12は、ガイド機構30Aを用いた場合の光学部110の変形状態である。図12に示すように、前方支持部112Aが光学部110上にタッキングされるときプランジャー12の先端12a(図7、8参照)は偏向部36のガイド面36aに接触し、プランジャー12の先端12aは中心軸Ltから離れつつ前進する。プランジャー12の先端12aが前進しつつ中心軸Ltから離れてゆくことで光学部110には周方向の回転が付与され、前方支持部112Aの先端が光学部110の中心付近まで達し易くなる(特開2016-190023号公報を合わせて参照されたし)。
【0038】
ここで、ガイド機構30Aの代わりにガイド機構30Bを装着した場合を比較用のインジェクター1として説明する。図13は比較用のガイド機構30Bを用いた場合の光学部110の変形状態である。比較用のインジェクター1はガイド機構30Aによる偏向量がガイド機構30Aよりも大きいため、低度数の眼内レンズ100を押し出すときに光学部110の変形が大きくなり易い。すなわち、眼内レンズ100は度数が低くなるほど光学部110の厚さが薄くなり、これに伴い、光学部110の剛性が低くなり易い。よって、プランジャー12の先端12aを中心軸Ltから遠ざけるほど光学部110の剛性が低い箇所を押すことになり、光学部110に意図しない大きな変形が生じ易い。
【0039】
ここで、発明者は実験を積み重ね、低度数の眼内レンズ100は意図しない大きな変形が生じ易い一方、光学部110が薄いため前方支持部112Aをタッキングし易いという相関関係を見出した。この見識により、低度数の眼内レンズ100ではガイド機構30Aによる偏向量を小さくしても前方支持部112Aを好適にタッキングできる技術思想に到達した。
【0040】
換言すると、図14に示すように、高度数の眼内レンズ100は前方支持部112Aの先端部分118Aが光学部110の縁である外周部分110aに載ったとしても、光学部110の中央部が低度数の眼内レンズ100の中央部(図5参照)よりも盛り上がっているため前方支持部112Aの先端部分118Aは縁である外周部分110aから中央部に移動し難い(図6参照)。そのため、前方支持部112Aのタッキングが浅い事象が発生し易いため、光学部110を周方向に回転させることで前方支持部112Aのタッキング性を改善している。一方、低度数の眼内レンズ100は光学部110の中央部が高度数の眼内レンズ100の中央部(図6参照)よりも盛り上がっていないため(図5参照)、前方支持部112Aの先端部分118Aが光学部110の縁である外周部分110aに載れば、先端部分118Aは外周部分110aから中央部に移動し易い。したがって、光学部110の周方向の回転を少なくしても前方支持部112Aのタッキングが浅くなり難い。
【0041】
このように本実施形態のインジェクター1は、度数と光学部110の厚さの関係に着目し、度数に応じて偏向量を変えることで低度数から高度数まで前方支持部112Aを好適にタッキングできる。なお本実施形態は一例であり、例えば選択可能なガイド機構30の種類を、低度数帯用、中度数帯用、高度数帯用の3種類にして、偏向角度を3種類から選択可能としてもよい。
【0042】
このように、本開示の第1実施形態に係るインジェクター1(眼内レンズ挿入器具)によれば、プランジャー12が挿入器具本体10の筒状内部を進行する進行軌跡を選択的に変更するガイド機構30(変更手段)を備えている。このガイド機構30によって予め充填される眼内レンズ100の度数に応じて進行軌跡が決定される。光学部110が薄く剛性が低い低度数の眼内レンズ100であっても、このレンズ剛性に応じてプランジャー12の進行軌跡が決定されるため、タッキング不良などを抑制し好適に折り畳むことができる。そのため、患者眼に挿入する眼内レンズ100の度数によらず、患者眼に眼内レンズ100を好適に挿入できるインジェクター1(眼内レンズ挿入器具)を提供することができる。
【0043】
また、偏向部36(偏向機構)による偏向角度を変化させることでプランジャー12の進行軌跡が変化するため、偏向量を細かく設定することができる。これにより、例えば、偏向部36は、低度数帯用、中度数帯用、高度数帯用など複数種類の設定が容易となる。
【0044】
また、眼内レンズ100は、その光学部110に周方向の回転が付与されつつ、度数に応じたレンズ剛性を考慮して進行奇跡が決定されるため、タッキング不良などを抑制し好適に折り畳むことができる。
【0045】
また、低度数の眼内レンズ100の光学部110の方が薄く剛性が低い傾向にあることから、プランジャー12の押し出す位置を押出軸に近くすることで眼内レンズ100の意図せぬ変形を抑制することができる。また、光学部110が薄く剛性が低い低度数の眼内レンズ100であってもタッキング不良などを抑制し好適に折り畳むことができる。
【0046】
また、凸部22fにより、眼内レンズ100がプランジャー12によって押し出される際に光学部110の傾きを抑制することができ、眼内レンズ100における前方支持部112Aが意図せぬタッキングとなるいわゆる「裏タッキング状態」の発生を抑制することができる。
【0047】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示の眼内レンズ挿入器具は、上記実施形態に限定されず、その他各種の形態で実施することができるものである。
【符号の説明】
【0048】
1 インジェクター(眼内レンズ挿入器具)
10 挿入器具本体
12 プランジャー
12a 先端
20 挿入部
20a 先端
20b 通路
20c 内壁面
20d 天井面
20e 底面
24a 第1内壁面
24b 第2内壁面
22 載置部
22b 天井面
22c 底面
22f 凸部
30 ガイド機構(変更手段)
30A ガイド機構
30B ガイド機構
32 第1レール(第1案内突起)
32a 前端部
32b レール面
34 第2レール(第2案内突起)
34a 前端部
36 偏向部(偏向機構)
36a ガイド面
100 眼内レンズ
110 光学部
110a 外周部分
110b 後面光学面
110c 前面光学面
112A 前方支持部
112B 後方支持部
114A 接続部分
116A 根元部分
118A 先端部分
114B 接続部分
116B 根元部分
118B 先端部分
L 光軸
Lp 押出軸
Lt 中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14