(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150387
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】超音波探触子および超音波探傷装置
(51)【国際特許分類】
G01N 29/24 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
G01N29/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052967
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(71)【出願人】
【識別番号】505204114
【氏名又は名称】東芝検査ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】仁村 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】小野 達也
(72)【発明者】
【氏名】菊池 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】川羽田 剛
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047BA01
2G047BB01
2G047BB06
2G047CA01
2G047DB17
2G047EA08
2G047GB12
2G047GB15
2G047GB18
(57)【要約】
【課題】被検査物の形状に拘わらず超音波探触子による探傷を行うことを容易にする。
【解決手段】凸面状に配置された振動子と、前記振動子に電圧を印加して振動子外周側に超音波を発生させる電極とを有する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸面状に配置された振動子と、前記振動子に電圧を印加して振動子外周側に超音波を発生させる電極とを有する超音波探触子。
【請求項2】
前記凸面状が弧面状である請求項1記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記弧面状が楕円面状または円弧面状である請求項2記載の超音波探触子。
【請求項4】
前記振動子は、180度超の角度範囲に配置されている請求項3に記載の超音波探触子。
【請求項5】
前記凸面状の振動子の後部側で、前記振動子の表面が後方側に向いている請求項1~4のいずれか1項に記載の超音波探触子。
【請求項6】
前記振動子が一体で形成されている請求項1~5のいずれか1項に記載の超音波探触子。
【請求項7】
前記振動子がフェーズドアレイである請求項1~5のいずれか1項に記載の超音波探触子。
【請求項8】
前記振動子は、前記凸面状の軸方向に沿った断面において、外面形状が凹部形状を有している請求項1~7のいずれか1項に記載の超音波探触子。
【請求項9】
前記凹部形状が弧状である請求項8記載の超音波探触子。
【請求項10】
前記振動子は、振動子の外方側に前記弧状の曲率中心を有する形状を有している請求項9記載の超音波探触子。
【請求項11】
内側に凹曲面を有する被検査物を探傷対象とする請求項1~10のいずれか1項に記載の超音波探触子。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の超音波探触子を先端側に有し、前記超音波探触子を被検査物の探傷面を基準にして移動させる探触子移動部を有する超音波探傷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被検査物の傷や欠陥などを検査することができる超音波探触子および超音波探傷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般の超音波探触子では、圧電素子(振動子)を平板状に薄くカットし、この圧電素子に電圧を与え振動させることで超音波を発生させる。具体的には、
図8A、8Bに示すように、被検査物の探傷面に対して、垂直方向や斜め方向 に振動子16A、16Bを配置し、振動子16A、16Bから1方向に 超音波を送信又は受信して被検査物の探傷を行っている。前者の器具は垂直探触子15Aと称され、後者の器具は斜角探触子15Bと称されている。
【0003】
この場合、超音波は、一定の方向に伝播して被検査物110の探傷を行う。被検査物110の他の領域に対しては、超音波探触子を移動させて所望の領域において探傷を行っている。
また、被検査物の探傷面に振動子を密着させて探傷を行う技術分野では、探傷面が平面でない場合に探傷を行えるように、可撓性を有する振動子を用いることによって振動子の形状を探傷面に沿った形状に変形し、その位置に超音波探触子を固定させて探傷を行えるようにした技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、被検査物の探傷では超音波探触子を移動させながら所定の領域を対象にする場合があるが、特許文献1で提案されている技術では、被検査物の探傷面が平面であるか否かに拘わらず超音波探触子を移動させながら探傷を行うことができない。
また、垂直探触子や斜角探触子では、平面でない探傷面に対しても超音波探触子を探傷面に沿って移動させることによって所定の領域に対し探傷を行うことが可能になるが、
図9に示すように、探傷面に合わせて垂直探触子15Aなどの位置や角度を調整するように移動させようとすると、探触子を回転させるなどすることで移動器具や移動装置が被検査物に干渉して移動が困難になり、探傷を行えないという問題がある。
【0006】
本発明は上記事情を背景としてなされたものであり、被検査物の探傷面の形状に拘わらず、探傷を行うことが可能な超音波探触子および超音波探傷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の超音波探触子のうち第1の形態は、凸面状に配置された振動子と、前記振動子に電圧を印加して振動子外周側に超音波を発生させる電極とを有する。
【0008】
他の形態の超音波探触子の発明は、前記形態の発明において、前記凸面状が弧面状である。
【0009】
他の形態の超音波探触子の発明は、前記形態の発明において、前記弧面状が楕円面状または円弧面状である。
【0010】
他の形態の超音波探触子の発明は、前記形態の発明において、前記振動子は、180度超の角度範囲に配置されている。
【0011】
他の形態の超音波探触子の発明は、前記形態の発明において、前記凸面状の振動子の後部側で、前記振動子の表面が後方側に向いている。
【0012】
他の形態の超音波探触子の発明は、前記形態の発明において、前記振動子が一体で形成されている。
【0013】
他の形態の超音波探触子の発明は、前記形態の発明において、前記振動子がフェーズドアレイである。
【0014】
他の形態の超音波探触子の発明は、前記形態の発明において、前記振動子は、前記凸面状の軸方向に沿った断面において、外面形状が凹部形状を有している。
【0015】
他の形態の超音波探触子の発明は、前記形態の発明において、前記凹部形状が弧状である。
【0016】
他の形態の超音波探触子の発明は、前記形態の発明において、前記振動子は、振動子の外方側に前記弧状の曲率中心を有する形状を有している。
【0017】
他の形態の超音波探触子の発明は、前記形態の発明において、内側に凹曲面を有する被検査物を探傷対象とする。
【0018】
本発明の超音波探傷装置は、前記形態の超音波探触子を先端側に有し、前記超音波探触子を被検査物の探傷面を基準にして移動させる探触子移動部を有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、凸面状に配置された振動子により外方の広い範囲に超音波が伝播され、被検査物の広い範囲で探傷を行うことができる。さらには超音波探触子の移動範囲を簡略にして移動器具や移動装置が被検査物などに干渉するのを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1A】本発明の一実施形態の超音波探傷装置の一部を断面した正面図である。
【
図2】同じく、超音波探触子を移動装置に接続した状態を示す図である。
【
図3】同じく、超音波探触子からの超音波伝播を示す図である。
【
図4】同じく、被検査物に対する超音波探触子の配置状態を示す図である。
【
図5】同じく、被検査物に対する超音波探触子の使用状態を説明する図である。
【
図6】本発明の他の実施形態における超音波探傷装置の一部を断面した正面図である。
【
図7】本発明のさらに他の実施形態における超音波探傷装置の概略構造を示す正面図である。
【
図8A】関連技術における垂直探触子の概略構造を示す図である。
【
図8B】関連技術における斜角探触子の概略構造を示す図である。
【
図9】関連技術における使用状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
超音波探触子1では、
図1A~
図1Cに示すように、ステンレス製の筒体形状からなる本体10の先端側に、支持部材11を介して、曲率を持つ断面円弧状とした、セラミックス製の振動子2(圧電子素子)が配置されている。この例では、振動子2は、曲面成形品として一体に形成されている。
振動子2は、180度超の角度範囲に亘る形状を有しており、一部は開口した形状からなる。振動子2の開口側は本体10側に位置させており、超音波探触子の前方側および側面側は振動子2の円弧で覆われている。側面側ではやや後方に振動子2が延長している。
振動子2の内部側には、エポキシ樹脂からなる吸音材3が流し込み充填されて円柱状の形状を有している。なお、上記した本体10の形状や材質は上記に限定されるものではなく、振動子2、吸音材3の材質も上記に限定されない。
【0022】
振動子2の表面側には、エポキシ樹脂により薄板の整合層4が振動子2の表面に沿って配置されており、被検査物に対する超音波の透過性を高めている。振動子2に接している整合層4は、振動子2と同様に、180度超の角度範囲で先方側および側方側に露出しており、基端側では、対向する振動子間の間隔が前方よりも狭くなり、後方側では斜め後ろ方向に振動面が向いている。整合層4の材質は上記に限定されない。
振動子2、吸音材3、整合層4の軸方向両側には、ダンパ5を介して本体10に連なる支持部11の側板部が位置して振動子2、吸音材3、整合層4、ダンパ5を、両側方から支持している。
なお、本実施形態では、振動子2を必須の構造としているが、上記したその他の部材は任意に選択することができる。
【0023】
振動子2には、
図1Bに示すように電極7、8が接続されており、電極7が本体10(接地側)に接続され、電極8は、本体10の外部に伸張して図示しない電源に接続されている。
本体10の基端側には、ねじ込み接続部12が形成されており、
図2に示すように、移動装置20に接続されている。移動装置20では、例えば、被検査物100と振動子2との距離が一定に保たれるように、超音波探触子1をX方向およびY方向に移動させることができる。移動装置20では、図示しない駆動部と、駆動部を制御する制御部によって移動及び移動の制御を行うことができる。また、移動装置や移動器具では、手動により移動を行うものとしてもよい。移動装置20は、本発明の探触子移動部に相当する。
超音波探触子1と移動装置20により本実施形態の超音波探傷装置30が構成されている。
【0024】
超音波探触子1では、電極7、8間に電圧を印加すると振動子2で振動が発生し、
図3に示すように、外面側において前方側全面および後方側の一部面において180度超の範囲で超音波が発生し伝播する。
この超音波探触子1を、
図5に示すように内面が凹曲面である被検査物100の内側に配置することで、広い範囲に亘って均等に超音波を伝播することができる。超音波の探傷を透過型で使用する場合、被検査物に対し、超音波を適正な位置と角度で照射することが重要になるが、本実施形態の超音波探触子では、被検査物の探傷位置が変わっても超音波が適正な角度で照射するものとすることが可能になる。
【0025】
実際の測定では、被検査物100の外側に受信探触子40を配置し、この受信探触子40を移動可能とする。受信探触子40では、受信用の移動装置(図示しない)により移動可能とされている。この例では、被検査物100の外側では、受信探触子40の移動の制約は殆どない。
【0026】
この際に、被検査物100に対して超音波探触子1から超音波を垂直に入射し、受信探触子40で被検査物100を透過した超音波を受信する。検査に際しては、超音波の伝播をよくするように水中で行う透過法により行うことができる。すなわち、この実施形態では、水浸法の透過法により探傷を行うものとしているが、超音波を通す媒体は水に限定されず、油などを用いるものであってもよい。なお、浸漬を行わない方法を排除するものではない。
この実施形態では、
図4に示すように、放射状に広い範囲で超音波が伝播されるので、移動装置20では、X方向とY方向の移動により、被検査物100に対し、適切な位置に移動することができる。また、受信探触子40では、超音波探触子1の位置と、被検査物100の探傷したい位置に応じて位置を定めれば、被検査物100をほぼ垂直に透過した超音波を受信して探傷を行うことが可能になる。
【0027】
本実施形態では、超音波探触子1を移動させるための移動装置20を簡略(例えばX方向およびY方向)に移動させることができ、移動装置20と、被検査物100との干渉を回避することが可能になり、干渉を考慮しないで所望の位置において探傷を行うことが可能になる。移動の制約がない受信探触子40では、回転を伴う移動によって適正な角度で超音波の入射を行うことができる。
【0028】
なお、この実施形態では、内部に曲面を有する被検査物100に対し、探傷を行うものとして説明しており、当該形状の被検査物において本実施形態では顕著な効果が得られる。しかし、本実施形態としては被検査物の形状が特定のものに限定されるものではなく、平面形状の被検査物に対しても適用することが可能である。その際に、超音波が広範囲角度で伝播されるので、探傷を一度に広い範囲で行うことも可能になる。
また、上記実施形態では、一つの方向にのみ湾曲面を有し、湾曲面の軸方向に直交する外面は平坦な面を有するものとして説明したが、軸方向に交差する外面においても凸面状の形状を有するものとしてもよい。
また、この実施形態では、凸面が円弧面で形成されているものとして説明したが、その他の楕円面や湾曲面としてもよく、また凸面となる輪郭で、多角形形状を一部または全部に有するものとしてもよい。これらの変更例においても振動子の基端側が先端側よりも振動子同士の間隔を小さくして、後方側の振動子面が後方側を向くようにして放射範囲を広くするのが望ましい。
【0029】
上記実施形態では、超音波を透過させて探傷を行うものについて説明したが、超音波を反射させて受信する反射型とすることも可能であり、超音波探触子1、1A、1Bにおいて受信できるものであればよい。
【0030】
(実施形態2)
次に、他の実施形態を
図6に基づいて説明する。
上記実施形態では、振動子は軸方向において平坦な面を有する弧面状の形状を有するものとしたが、この実施形態の超音波探触子1Aでは、軸方向に沿った断面における外面形状が弧状となる形状を有する振動子2Aを用いている。弧状の面は、被検査物との距離などを考慮して適宜の面で構成することができる。外面形状が弧状である形状は、外面形状が凹部形状であるものの一形態である。
振動子2Aは、上記実施形態1と同様に、ステンレス製の筒体形状からなる本体10Aの先端側に、軸方向と直交する断面において曲率を持つ断面円弧状とした、セラミックス製により構成されている。
【0031】
振動子2Aは、180度以上の角度範囲を有し、振動子2Aの内部側には、エポキシ樹脂からなる吸音材3Aが充填されている。
振動子2Aの表面側には、エポキシ樹脂により薄板の整合層4Aが振動子2Aの表面に沿って配置されている。
振動子2A、吸音材3A、整合層4Aの両側には、ダンパ5Aが位置して、ダンパ5Aの外側で本体10Aに連なる支持板11Aの側板で振動子2A、吸音材3A、整合層4A、ダンパ5Aが支持されている。
【0032】
振動子2Aには、図示しない電極が接続され、電極を介して振動子2Aに電圧を印加することで超音波が発生する。
本体10Aの基端側には、ねじ込み接続部12Aが形成され、図示しない移動装置に接続される。
超音波探触子1Aと移動装置により本実施形態の超音波探傷装置が構成される。
【0033】
超音波探触子1Aでは、軸方向に沿った断面で振動子2Aの形状が弧状になっており、振動子で発生する超音波が軸方向においては前方内側に集束する。したがって、超音波探触子1Aの前方では、軸方向において超音波が分散するのを回避して被検査物上で高い放射密度で超音波を入射して探傷を行うことができ、探傷精度が向上する。例えば、弧状となる曲率中心付近で探傷を行うものとすれば、超音波の伝播密度を最大にすることができる。
【0034】
(実施形態3)
また、上記各実施形態では、振動子を一体で成形したものとして説明したが、
図7に示すように、フェーズドアレイの振動子2Bを用い、複数の振動子2Bを凸面状に配置した超音波探触子1Bによって探傷を行うことができる。
各振動子2Bにそれぞれ電極を接続し、必要な振動子2Bにおいて超音波を発生させるようにしてもよく、一部の振動子2Bをグループ化して超音波を発生させるようにしてもよい。また、複数の振動子全体で超音波のオンオフを行うようにしてもよい。
【0035】
以上、本発明について上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りは上記実施形態に対する適宜の変更が可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 超音波探触子
1A 超音波探触子
1B 超音波探触子
2 振動子
2A 振動子
2B 振動子
3 吸音材
3A 吸音材
4 整合層
4A 整合層
5 ダンパ
5A ダンパ
10 本体
11 支持部
12 ねじ込み接続部
20 移動装置
30 超音波探傷装置
40 受信探触子
100 被検査物