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  • 特開-共鳴型吸音構造体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150416
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】共鳴型吸音構造体
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
G10K11/16 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053002
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】今給黎 孝允
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 幸樹
(72)【発明者】
【氏名】奥山 貴則
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061AA25
5D061BB02
5D061BB13
5D061CC04
(57)【要約】
【課題】適用する対象物に対して柔軟に変形して汎用性が高く、吸音性能も高い共鳴型吸音構造体を提供する。
【解決手段】本実施形態の共鳴型吸音構造体10は、板状の底部11、壁部12及び蓋部13を備える。壁部12は、底部11の一方の面から立ち上がっている。蓋部13は、底部11及び壁部12との間に音波が共鳴する共鳴空間15を形成し、共鳴空間15と底部11とは反対側の面21とを接続する接続孔部14を有する。これら底部11、壁部12及び蓋部13は、いずれも弾性を有する柔軟な材料で形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の底部と、
前記底部の一方の面から立ち上がる壁部と、
前記底部及び前記壁部との間に音波が共鳴する共鳴空間を形成し、前記共鳴空間と前記底部と反対側の面とを接続する接続孔部を有する蓋部と、を備え、
前記底部、前記壁部及び前記蓋部は、いずれも弾性を有する柔軟な材料で形成されている共鳴型吸音構造体。
【請求項2】
前記壁部は、前記底部と前記蓋部との間を少なくとも1つ以上の前記共鳴空間に区画している請求項1記載の共鳴型吸音構造体。
【請求項3】
前記壁部は、多角形柱状の前記共鳴空間に区画している請求項2記載の共鳴型吸音構造体。
【請求項4】
前記底部、前記壁部及び前記蓋部は、いずれもデュロメータA硬度が10~60である請求項1から3のいずれか一項記載の共鳴型吸音構造体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項記載の共鳴型吸音構造体と、
多孔質材料で形成され、前記共鳴型吸音構造体の前記蓋部の前記底部と反対側に設けられている多孔質型吸音構造体と、
を備える吸音構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、共鳴型吸音構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば機器や音声を遮音するために、各種の吸音体が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1は、主に木材を用いて吸音構造を構成している。特許文献1では、音が入力される側の開口率を調整することにより、中音域及び高音域で高い吸音性能を発揮する。また、他にも、例えばグラスウールなどの多孔性の材料を用いることにより、吸音性を向上することも提案されている。このような吸音体は、建築物の一部としても用いられることから、高い構造的な強度を有しているのが一般的である。一方、構造的な強度を増すと、柔軟性に欠けるという問題がある。そこで、特許文献1では、スリット加工などの機械的な構造を追加することによって可撓性を確保している。
【0003】
しかしながら、特許文献1の場合、可撓性を与えることで材料や構造上の制限が生じる。そのため、比重の小さな材料を用いると、吸音性能が確保される帯域が縮小し、吸音性能が低下するという問題がある。また、可撓性を有していても、外部の形状に追従するほどの柔軟性は有していない。そのため、例えば壁面や管部材などのように吸音材を適用する対象物が曲面であるとき、対象に合わせた個別の設計が必要となり、汎用性が低いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-144295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、適用する対象物に対して柔軟に変形して汎用性が高く、吸音性能も高い共鳴型吸音構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために本実施形態では、共鳴空間を形成する底部、壁部及び蓋部は、弾性を有する柔軟な材料で形成され、全体として共鳴空間を維持したまま変形可能である。そのため、共鳴空間を形成する底部、壁部及び蓋部は、例えば曲面状の壁部や管部材のように複雑な形状を有する対象物に適用する場合でも、この対象物に対して柔軟に変形する。そのため、適用する対象物に応じた個別の設計は不要である。また、底部、壁部及び蓋部で形成される共鳴空間は、これらの構造体によって形状が維持される。そのため、接続孔部を通して共鳴空間に進入した音波は、共鳴空間における共鳴によって減衰する。そして、共鳴空間の体積を調整することにより、減衰する音波の周波数は容易に設定される。特に、上記の構造の場合、400Hz~500Hz程度の低音域においても、高い吸音性能を発揮する。したがって、適用する対象物に対して柔軟に変形して汎用性を高めることができるとともに、吸音性能も高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】一実施形態による共鳴型吸音構造体を示す模式的な分解斜視図
図2】一実施形態による共鳴型吸音構造体を示す模式的な分解斜視図
図3】一実施形態による共鳴型吸音構造体を示す模式的な平面図
図4図3のIV-IV線における断面図
図5】一実施形態による共鳴型吸音構造体と多孔質型吸音構造体とを組み合わせた複合型の吸音構造体を示す模式的な断面図
図6】一実施形態による共鳴型吸音構造体を適用した複合型の吸音構造体による吸音特性を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、吸音構造体の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1図4に示す一実施形態による共鳴型吸音構造体10は、底部11、壁部12、蓋部13及び接続孔部14を備えている。底部11は、板状に形成されている。壁部12は、底部11の一方の面から立ち上がっている。つまり、壁部12は、底部11から伸びる壁状に設けられている。蓋部13は、壁部12の底部11と反対側に設けられている。蓋部13は、図3及び図4に示すようにこれら底部11及び壁部12との間に共鳴空間15を形成する。つまり、蓋部13は、底部11との間に壁部12を挟み込んでいる。これにより、底部11と蓋部13との間には、壁部12に対応する距離が確保される。そして、底部11と蓋部13とは、それらの間に壁部12によって距離が確保された共鳴空間15を形成する。接続孔部14は、蓋部13を板厚方向へ貫いており、図4に示すように蓋部13の底部11側の面21と底部11と反対側の面22との間を接続している。
【0009】
壁部12は、図1図4に示すように底部11の外縁に沿って設けられ、底部11と蓋部13との間に共鳴空間15を区画している。つまり、壁部12は、底部11から壁状に蓋部13側へ立ち上がり、底部11及び蓋部13とともに接続孔部14を除き閉鎖された共鳴空間15を形成する。そして、この共鳴空間15は、蓋部13を貫く接続孔部14によって蓋部13の外側に接続している。本実施形態の場合、壁部12は、底部11と蓋部13との間に、6角形状の複数の共鳴空間15を区画する。共鳴空間15の平面形状を6角形とすることにより、単位面積あたりに収容される共鳴空間15の数を増加することができる。つまり、共鳴空間15の平面形状を6角形にすることにより、限りある底部11には強度を保ちつつより多くの共鳴空間が確保される。これにより、底部11と蓋部13との間に形成される共鳴空間15は、6角柱形状の空間となる。接続孔部14は、複数の共鳴空間15に対応してそれぞれ設けられている。つまり、接続孔部14は、1つの共鳴空間15に1つ接続している。
【0010】
共鳴型吸音構造体10を構成する底部11、壁部12及び蓋部13は、例えばシリコーンゴムやウレタンゴムなどの弾性を有する柔軟な材料で形成されている。底部11、壁部12及び蓋部13を形成する材料は、上記した材料に限らず、例えば天然ゴムやエラストマー樹脂など、伸縮する柔軟なゴム状の材料であれば任意に適用することができる。このような材料で形成される底部11、壁部12及び蓋部13は、そのデュロメータA硬度が10~60であることが好ましい。このデュロメータA硬度は、ヤング率に換算すると、2.2MPa~25.0MPaである。底部11、壁部12及び蓋部13のデュロメータA硬度をこのような範囲に設定することにより、底部11、壁部12及び蓋部13で構成された共鳴型吸音構造体10は、適用される対象物の表面形状に追従して自由に変形する。これとともに、デュロメータA硬度を設定することにより、共鳴型吸音構造体10が変形しても、壁部12によって底部11と蓋部13との間に形成される共鳴空間15はその形状を維持することができる。
【0011】
本実施形態の場合、底部11及び壁部12は、例えば3Dプリンタを用いることにより、全体が継ぎ目なく一体に形成されている。つまり、3Dプリンタを用いることにより、複雑な凹凸を有する底部11及び壁部12は、継ぎ目なく一体に形成される。このような本実施形態の場合、蓋部13は、底部11及び壁部12とは別部材として構成され、例えば接着剤やホットメルトなどを用いて底部11及び壁部12と接合される。また、蓋部13は、底部11及び壁部12とともに3Dプリンタで継ぎ目なく一体に形成してもよい。これにより、共鳴空間15の密閉度がより向上し、吸音性能のさらなる向上と、共鳴空間15の形状精度の向上が図られる。
【0012】
共鳴型吸音構造体10は、図1及び図3などに示すように平面形状が6角形の共鳴空間15の集合体として、いわゆるハニカム構造とすることができる。この他にも、共鳴型吸音構造体10は、図2に示すように矩形の板状の部材に複数の共鳴空間15を含む構造としてもよい。この図2に示すような板状の共鳴型吸音構造体10は、全体が柔軟な材料で形成されている。そのため、適用する対象物が例えば管部材などの場合、共鳴型吸音構造体10はこの管部材に巻き付けることができる。また、適用する対象物が例えば凹凸形状や曲面を有している場合、共鳴型吸音構造体10はこの凹凸形状や曲面にあわせて変形させつつ取り付けることができる。
【0013】
共鳴型吸音構造体は、上記のような構成により、接続孔部14から導入された音を減衰する。音は、空気の振動として、共鳴型吸音構造体10へ入力される。このとき、入力される音つまり空気の振動は、接続孔部14を通して共鳴空間15へ進入する際に、接続孔部14を形成する蓋部13の内壁との間で摩擦を生じる。これにより、入力される音のエネルギーは、蓋部13の内壁との摩擦によって減衰される。そして、接続孔部14を通過する空気の振動が接続孔部14よりも広く体積の大きな共鳴空間15へ進入することにより、音のエネルギーは共鳴空間15における共鳴によって減衰される。このように、空気の振動による音のエネルギーは、接続孔部14における摩擦、及び共鳴空間15における共鳴によって減衰される。その結果、共鳴型吸音構造体10に入力される音は、共鳴型吸音構造体10を通過することにより音圧が低減される。また、共鳴型吸音構造体10で減衰される音の周波数は、共鳴空間15の体積に相関する。そのため、共鳴空間15の形状や体積を調整することにより、共鳴型吸音構造体10に入力される音の周波数帯域にあわせて音の減衰を図ることができる。
【0014】
共鳴型吸音構造体10は、他の形式の吸音構造体と組み合わせて、図5に示すように複合型の吸音構造体30とすることができる。一実施形態の場合、共鳴型吸音構造体10は、多孔質型吸音構造体31と組み合わせて吸音構造体30を構成している。多孔質型吸音構造体31は、図5に示すように共鳴型吸音構造体10に音が入力される蓋部13側に設けられている。共鳴型吸音構造体10と多孔質型吸音構造体31との間は、図5のように密着していてもよく、任意の距離を確保してもよい。多孔質型吸音構造体31は、例えば発泡ポリウレタンなどの発泡材料、又はポリエステルなどの樹脂繊維で形成した不織布など、内部に微細な空間を形成する多孔質の材料で形成されている。多孔質型吸音構造体31は、上記の例示の他、紙などでもよく、樹脂に限らず金属やセラミックスなどを用いてもよい。このように、多孔質型吸音構造体31は、吸音性を有する多孔質の材料で形成されている。
【0015】
多孔質型吸音構造体31は、共鳴型吸音構造体10の入力側に設けることにより、音が共鳴型吸音構造体10に進入する前に音のエネルギーを吸収する。共鳴型吸音構造体10と多孔質型吸音構造体31とは、その吸音機構が異なる。そのため、共鳴型吸音構造体10と多孔質型吸音構造体31とは、減衰する音の周波数帯域が異なっている。そこで、共鳴型吸音構造体10と多孔質型吸音構造体31とを組み合わせて複合型の吸音構造体30を構成することにより、吸音構造体30はより幅広い周波数帯域で音の減衰を達成することができる。
【0016】
上記の構成による吸音構造体30の性能について説明する。
共鳴型吸音構造体10及び多孔質型吸音構造体31を備える複合型の吸音構造体30は、図6に示すように400Hzを超える周波数帯域で高い吸音率を発揮する。特に、吸音構造体30は、500Hzを超える周波数帯域で高い吸音率を発揮する。吸音率は、一般的な垂直入射吸音率を測定した。図6における実施例1は、多孔質型吸音構造体31としてポリエステル繊維の不織布を適用した例である。また、実施例2は、多孔質型吸音構造体31として発泡ポリウレタンを適用した例である。これら実施例1及び実施例2における共鳴型吸音構造体10は、図1などに示す形状であり、シリコーンゴムで形成している。これら実施例1及び実施例2は、いずれも400Hz~500Hzを超える周波数帯域において高い吸音率を示している。また、多孔質型吸音構造体31を構成する材料を変更することにより、吸音性能の特性が異なることが分かる。
【0017】
共鳴型吸音構造体10における周波数ごとの吸音率は、共鳴空間15の体積に相関する。そのため、共鳴空間15の体積を適切に設定することにより、特定の周波数帯域において高い吸音率を達成することができる。また、共鳴型吸音構造体10と多孔質型吸音構造体31とは、吸音率の特性つまり吸音率が高くなる周波数に差がある。そこで、例えば素材によって決定される多孔質型吸音構造体31の周波数特性にあわせて共鳴型吸音構造体10の周波数特性を調整することにより、幅広い周波数帯域で入力される音の吸音率を高めることができる。
【0018】
以上説明した一実施形態による共鳴型吸音構造体10では、共鳴空間15を形成する底部11、壁部12及び蓋部13は、弾性を有する柔軟な材料で形成され、全体として共鳴空間15を維持したまま変形可能である。そのため、共鳴空間15を形成する底部11、壁部12及び蓋部13は、例えば曲面状の壁部や管部材のように複雑な形状を有する対象物に適用する場合でも、この対象物に対して柔軟に変形する。そのため、適用する対象物に応じた個別の設計は不要である。また、底部11、壁部12及び蓋部13で形成される共鳴空間15は、これらの構造体によって形状が維持される。そのため、接続孔部14を通して共鳴空間15に進入した音波は、共鳴空間15における共鳴によって減衰する。そして、共鳴空間15の体積を調整することにより、減衰する音波の周波数は容易に設定される。特に、上記の構造の場合、400Hz~500Hz程度の低音域においても、高い吸音性能を発揮する。したがって、適用する対象物に対して柔軟に変形して汎用性を高めることができるとともに、吸音性能も高めることができる。
【0019】
また、複合型の吸音構造体30は、それぞれ吸音特性の異なる共鳴型吸音構造体10と多孔質型吸音構造体31とを組み合わせることにより、幅広い周波数帯域で吸音性能を発揮する。つまり、共鳴型吸音構造体10の吸音特性は、共鳴空間15の体積を調整することにより、素材によって吸音性能を発揮する周波数帯域が限定される多孔質型吸音構造体31にあわせて調整される。したがって、これらの組み合わせによって、幅広い周波数帯域で入力される音の吸音率を高めることができる。
【0020】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
上記の一実施形態では、共鳴空間15を平面視が6角形の6角柱形状に形成する例について説明した。しかし、共鳴空間15は、平面視における形状を6角形に限らず、多角形や円形状など任意の形状としてもよい。
【符号の説明】
【0021】
図面中、10は共鳴型吸音構造体、11は底部、12は壁部、13は蓋部、14は接続孔部、15は共鳴空間、21は面、22は面、30は吸音構造体、31は多孔質型吸音構造体を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6