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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150430
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】回転電機に係る組立体
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/173 20060101AFI20220929BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20220929BHJP
   F16C 35/07 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
H02K5/173 Z
F16C19/06
F16C35/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053022
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】三治 広明
(72)【発明者】
【氏名】石田 三成
【テーマコード(参考)】
3J117
3J701
5H605
【Fターム(参考)】
3J117AA03
3J117CA06
3J117DA01
3J117DB03
3J701AA02
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA77
3J701FA04
3J701GA24
5H605BB05
5H605BB10
5H605EB10
5H605EB17
5H605EB19
(57)【要約】
【課題】回転電機に係る組立体においてベアリングが支持部材から抜け難くする。
【解決手段】ステータと、ロータと、ロータシャフトの軸方向一端側に設けられる第1ベアリングと、ロータシャフトの軸方向他端側に設けられる第2ベアリングと、ロータシャフトを第2ベアリングを介して回転可能に支持する支持部材と、支持部材に取り付けられ、支持部材に対する軸方向他端側への第2ベアリングの軸方向の変位を規制可能な規制部材とを備え、ロータシャフトは、軸方向他端側に、回転トルク伝達用の回転軸部材が挿入可能な中空内部を有するとともに、第2ベアリングに軸方向に当接することで第2ベアリングに対するロータシャフトの軸方向他端側への動きを規制可能な第1荷重受け部を有する、回転電機に係る組立体が開示される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータと、
ロータシャフトを有するロータと、
前記ロータシャフトの軸方向一端側に設けられる第1ベアリングと、
前記ロータシャフトの軸方向他端側に設けられる第2ベアリングと、
前記ロータシャフトを前記第2ベアリングを介して回転可能に支持する支持部材と、
前記支持部材に取り付けられ、前記支持部材に対する前記軸方向他端側への前記第2ベアリングの軸方向の変位を規制可能な規制部材とを備え、
前記ロータシャフトは、前記軸方向他端側に、回転トルク伝達用の回転軸部材が挿入可能な中空内部を有するとともに、前記軸方向他端側に、前記第2ベアリングに軸方向に当接することで前記第2ベアリングに対する前記ロータシャフトの前記軸方向他端側への動きを規制可能な第1荷重受け部を有する、回転電機に係る組立体。
【請求項2】
前記第2ベアリングの内輪は、前記軸方向一端側において、前記第1荷重受け部に軸方向に当接又は対向し、かつ、前記軸方向他端側において、前記中空内部に挿入された場合の前記回転軸部材に又は該回転軸部材と一体的に回転するように該回転軸部材に連結された部材に、軸方向に当接する、請求項1に記載の回転電機に係る組立体。
【請求項3】
前記支持部材は、前記第2ベアリングを介して前記軸方向一端側への軸方向荷重を受ける第2荷重受け部を有し、
前記第2ベアリングの外輪は、前記軸方向一端側において、前記第2荷重受け部に軸方向に当接し、かつ、前記軸方向他端側において、前記規制部材に軸方向に当接する、請求項1又は2に記載の回転電機に係る組立体。
【請求項4】
前記規制部材は、スナップリングであり、
前記支持部材は、径方向内側に開口する溝部であって、前記スナップリングが嵌る溝部を周方向に沿って有する、請求項3に記載の回転電機に係る組立体。
【請求項5】
前記溝部は、径方向に視て、前記軸方向他端側の内壁において、径方向内側に向かうほど前記軸方向他端側に向かう傾斜を有し、
前記スナップリングは、前記溝部の前記傾斜に応じたテーパーを有する、請求項4に記載の回転電機に係る組立体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電機に係る組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータシャフトと、同ロータシャフトの軸方向端部に連結される回転軸部材とを、共通のベアリングを介して支持部材(ケース)に対して回転可能に支持する技術が知られている。このような技術では、2つのベアリングを用いる場合よりも部品点数の少ない効率的な支持構造を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-175261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような技術では、回転軸部材が連結される前の回転電機に係る組立体の状態(支持部材にロータ、ステータ及びベアリングを組み付けた組立体の状態)において、ベアリングが支持部材から抜けやすいという問題がある。これは、回転電機に係る組立体の単体状態では、回転軸部材による荷重受け部に代わる荷重受け部が存在しないためである。回転電機に係る組立体の状態でベアリングが支持部材から抜けやすい場合、回転軸部材を含む動力伝達機構と回転電機に係る組立体とを組み付ける際や、回転電機に係る組立体を搬送する際等において、不都合が生じやすい。
【0005】
そこで、1つの側面では、本開示は、回転電機に係る組立体においてベアリングが支持部材から抜け難くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、ステータと、
ロータシャフトを有するロータと、
前記ロータシャフトの軸方向一端側に設けられる第1ベアリングと、
前記ロータシャフトの軸方向他端側に設けられる第2ベアリングと、
前記ロータシャフトを前記第2ベアリングを介して回転可能に支持する支持部材と、
前記支持部材に取り付けられ、前記支持部材に対する前記軸方向他端側への前記第2ベアリングの軸方向の変位を規制可能な規制部材とを備え、
前記ロータシャフトは、前記軸方向他端側に、回転トルク伝達用の回転軸部材が挿入可能な中空内部を有するとともに、前記軸方向他端側に、前記第2ベアリングに軸方向に当接することで前記第2ベアリングに対する前記ロータシャフトの前記軸方向他端側への動きを規制可能な第1荷重受け部を有する、回転電機に係る組立体に係る組立体が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、回転電機に係る組立体においてベアリングが支持部材から抜け難くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】回転電機及び動力伝達機構を含む車両用駆動システムのスケルトン図である。
図2】車両駆動装置の要部を概略的に示す断面図である。
図3図2のQ1部の拡大図である。
図4図2のQ2部の拡大図である。
図5】比較例を説明する断面図である。
図6】本実施例による回転電機に係る組立体の単体状態の断面図である。
図7】本製造方法の主要な工程を説明するための断面図である。
図8】本製造方法の主要な工程を説明するための断面図である。
図9図8におけるスナップリングの配置されている部分の詳細を示す図である。
図10】本製造方法の主要な工程を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。
【0010】
以下では、まず、本実施例による回転電機1に係る組立体10が好適に適用可能な車両用駆動システム100について説明し、車両駆動装置17を説明してから、本実施例による回転電機1に係る組立体10について説明する。
【0011】
[駆動システム全体]
図1は、回転電機1及び動力伝達機構7を含む車両用駆動システム100のスケルトン図である。図1には、X方向と、X方向に沿ったX1側とX2側が定義されている。X方向は、第1軸A1の方向(以下、「軸方向」とも称する)に平行である。
【0012】
図1に示す例では、車両用駆動システム100は、車輪の駆動源となる回転電機1と、回転電機1と車輪Wとを結ぶ動力伝達経路に設けられた動力伝達機構7と、を備える。動力伝達機構7は、入力部材3と、カウンタギヤ機構4と、差動歯車機構5と、左右の出力部材6A、6Bと、を備える。
【0013】
入力部材3は、入力軸31と、入力ギヤ32とを有する。入力軸31は、第1軸A1まわりに回転する回転部材である。入力ギヤ32は、回転電機1からの回転トルク(駆動力)をカウンタギヤ機構4に伝達するギヤである。入力ギヤ32は、入力部材3の入力軸31と一体的に回転するように、入力部材3の入力軸31に設けられる。
【0014】
カウンタギヤ機構4は、動力伝達経路において、入力部材3と差動歯車機構5との間に配置される。カウンタギヤ機構4は、カウンタ軸41と、第1カウンタギヤ42と、第2カウンタギヤ43とを有する。
【0015】
カウンタ軸41は、第2軸A2まわりに回転する回転部材である。第2軸A2は、第1軸A1に平行に延在する。第1カウンタギヤ42は、カウンタギヤ機構4の入力要素である。第1カウンタギヤ42は、入力部材3の入力ギヤ32と噛み合う。第1カウンタギヤ42は、カウンタ軸41と一体的に回転するように、カウンタ軸41に連結される。
【0016】
第2カウンタギヤ43は、カウンタギヤ機構4の出力要素である。本実施例では、一例として、第2カウンタギヤ43は、第1カウンタギヤ42よりも小径に形成される。第2カウンタギヤ43は、カウンタ軸41と一体的に回転するように、カウンタ軸41に設けられる。
【0017】
差動歯車機構5は、その回転軸心としての第3軸A3上に配置される。第3軸A3は、第1軸A1に平行に延在する。差動歯車機構5は、回転電機1の側から伝達される駆動力を、左右の出力部材6A、6Bに分配する。差動歯車機構5は、差動入力ギヤ51を備え、差動入力ギヤ51は、カウンタギヤ機構4の第2カウンタギヤ43と噛み合う。また、差動歯車機構5は、差動ケース52を備え、差動ケース52内には、ピニオンシャフトや、ピニオンギヤ、左右のサイドギヤ等が収容される。左右のサイドギヤは、それぞれ、左右の出力部材6A、6Bと一体的に回転するように連結される。
【0018】
左右の出力部材6A、6Bのそれぞれは、左右の車輪Wに駆動連結される。左右の出力部材6A、6Bのそれぞれは、差動歯車機構5によって分配された駆動力を車輪Wに伝達する。なお、左右の出力部材6A、6Bは、2つ以上の部材により構成されてもよい。
【0019】
このようにして回転電機1は、動力伝達機構7を介して車輪Wを駆動する。ただし、他の実施例では、車両用駆動システム100は、動力伝達機構7を含まない構成であってよい。また、他の実施例では、遊星歯車機構のような他の動力伝達機構が利用されてもよい。
【0020】
[車両駆動装置]
図2は、車両駆動装置17の要部を概略的に示す断面図である。図3は、図2のQ1部の拡大図である。図4は、図2のQ2部の拡大図である。図3には、Z方向と、Z方向に沿ったZ1側とZ2側が定義されている。Z方向は軸方向に垂直な方向であり、上下方向に対応する。ここでは、Z1側を上側とし、Z2側を下側とする。ただし、Z方向は、重力方向に厳密に平行である必要はなく、重力方向に対して若干傾斜する方向であってもよい。
【0021】
車両駆動装置17は、ケース2内に収容される回転電機1及び動力伝達機構7を備える。
【0022】
ケース2は、例えばアルミ等により形成されてよい。ケース2は、鋳造等により形成できる。ケース2は、モータケース250と、カバー部材252と、ギヤケース部材254とを含む。
【0023】
モータケース250は、回転電機1を収容するモータ収容室SP1を形成する。なお、モータ収容室SP1は、回転電機1(及び/又は動力伝達機構7)を冷却及び/又は潤滑するための油を含む油密空間であってよい。モータケース250は、回転電機1の径方向外側を囲繞する周壁部を有する形態である。モータケース250は、複数の部材を結合して実現されてもよい。
【0024】
図2及び図3に示す例では、モータケース250は、モータ収容室SP1とギヤ収容室SP2とを軸方向に仕切る隔壁部2500を有する。隔壁部2500は、カバー部材252の底部2521(後述)と軸方向に対向する。
【0025】
隔壁部2500におけるX方向X1側には、ギヤケース部材254との結合部2502や、ベアリング241を支持するベアリング支持部2504等が形成されている。ベアリング支持部2504は、隔壁部2500におけるX方向X1側において、軸方向に視た中央部(第1軸A1を中心とした部分)に、X方向X1側に突出する態様で形成される。なお、ベアリング支持部2504は、第1軸A1を中心として同芯に形成される。
【0026】
ベアリング支持部2504は、軸方向に視て、第1軸A1を中心として環状の形態である。ベアリング支持部2504には、X方向X1側からベアリング241が嵌合される。ベアリング支持部2504は、図4に示すように、荷重受け部25041と、ベアリング嵌合部25042と、規制部材支持部25044とを有する。
【0027】
荷重受け部25041は、ベアリング241のアウタレース(外輪)2412のX方向X2側に軸方向に当接する。荷重受け部25041は、ベアリング241のアウタレース2412を介してX方向X2側に向かうスラスト荷重を受け持つ。
【0028】
ベアリング嵌合部25042は、ベアリング241のアウタレース2412の外周面に径方向に当接する。ベアリング嵌合部25042は、ロータシャフト314のベアリング嵌合部31412(後述)と径方向に対向する。この場合、ベアリング241は、ケース2のベアリング嵌合部25042とロータシャフト314のベアリング嵌合部31412との間に圧入等により嵌合される。ただし、ベアリング241は、ケース2のベアリング嵌合部25042とロータシャフト314のベアリング嵌合部31412との間に、いずれか一方に対して径方向の隙間を有する態様で嵌合されてもよい。
【0029】
規制部材支持部25044は、ベアリング嵌合部25042から連続する態様でX方向X1側に延在する。規制部材支持部25044は、径方向内側に開口する溝部25045を有する。
【0030】
規制部材支持部25044の溝部25045には、規制部材90が支持される。規制部材90は、ケース2に対するX方向X1側へのベアリング241の軸方向の変位を規制する機能(以下、「変位規制機能」と称する)を有する。規制部材90は、好ましくは、スナップリング(止め輪)91である。この場合、規制部材90として例えば既存のスナップリング91を利用できる。また、溝部25045を周方向全周にわたり形成することで、スナップリング91を容易に規制部材支持部25044に取り付けることができる。なお、スナップリング91は、周方向で不連続となる円環状の形態(C字状の形態)であり、閉じることで径方向の体格を一時的に小さくすることができ、溝部25045への組み付け性が良好である。
【0031】
規制部材90がスナップリング91である場合、スナップリング91は、好ましくは、テーパーを有し、溝部25045は、スナップリング91のテーパーに応じた傾斜250451を有する。具体的には、図4に示す例では、溝部25045は、X方向X1側の内壁において、径方向内側に向かうほどX方向X1側に向かう傾斜250451を有し、スナップリング91は、溝部25045の傾斜250451に応じたテーパー911を有する。この場合、溝部25045内のスナップリング91のガタツキ等を防止できるので、部品公差等に影響し難い態様で、スナップリング91による変位規制機能を実現できる。
【0032】
カバー部材252は、モータケース250のX方向X2側に結合される。カバー部材252は、モータ収容室SP1におけるX方向X2側を覆うカバーの形態である。この場合、カバー部材252は、モータケース250のX方向X2側の開口部を完全に又は略完全に閉塞する態様で覆ってもよい。なお、モータ収容室SP1のX方向X2側の一部は、カバー部材252により形成されてもよい。
【0033】
カバー部材252には、ロータ310を回転可能に支持するベアリング240が設けられる。すなわち、カバー部材252は、ベアリング240を支持するベアリング支持部2524を有する。
【0034】
ベアリング240は、図3に示すように、ロータシャフト314のX2側の端部における径方向外側に設けられる。具体的には、ベアリング240は、アウタレースの径方向外側がカバー部材252に支持され、インナレースの径方向内側がロータシャフト314の外周面に支持される。なお、変形例では、逆に、ベアリング240は、インナレースの径方向内側がカバー部材252に支持され、アウタレースの径方向外側がロータシャフト314の内周面に支持されてもよい。
【0035】
図2及び図3に示す例では、カバー部材252は、第1軸A1を中心とした円形状の底部2521と、底部2521の外周縁からX方向X1側へと突出する周壁部2522とを含み、周壁部2522のX方向X1側の端面がモータケース250に結合されている。底部2521におけるX方向X1側において、軸方向に視た中央部(第1軸A1を中心とした部分)には、X方向X1側に突出する円筒状のベアリング支持部2524が形成される。なお、ベアリング支持部2524は、第1軸A1を中心として同芯に形成される。
【0036】
また、底部2521におけるX方向X1側の中央部(第1軸A1を中心とした部分)には、図3に示すように、円筒状のベアリング支持部2524の径方向内側に、軸方向突出部2525が形成される。軸方向突出部2525は、底部2521におけるX方向X1側の中央部(第1軸A1を中心とした部分)に、X方向X1側に突出する態様で形成される。軸方向突出部2525には、ロータシャフト314の中空内部314A(軸心油路83)に油を供給する第1油路81及び第2油路82が形成されてよい。
【0037】
ギヤケース部材254は、動力伝達機構7を収容するギヤ収容室SP2を形成する。なお、ギヤ収容室SP2は、モータ収容室SP1と連通する油密空間であってよい。ギヤケース部材254は、モータケース250のX方向X1側に結合される。本実施例では、ギヤケース部材254は、隔壁部2500の結合部2502の合わせ面に軸方向に当接される態様で、モータケース250に結合される。ギヤケース部材254は、動力伝達機構7の径方向外側を囲繞する周壁部を有する態様で、ギヤ収容室SP2におけるX方向X1側を覆うカバーの形態である。ギヤケース部材254は、複数の部材を結合して実現されてもよい。なお、ギヤ収容室SP2のX方向X2側の一部は、モータケース250により形成されてもよい。
【0038】
ロータ310は、ロータコア312と、ロータシャフト314とを備える。
【0039】
ロータコア312は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなってよい。ロータコア312の内部には、永久磁石(図示せず)が埋め込まれてよい。あるいは、永久磁石(図示せず)は、ロータコア312の外周面に取り付けられてもよい。なお、永久磁石(図示せず)の配列等は任意である。ロータコア312は、ロータシャフト314の外周面に固定され、ロータシャフト314と一体となって回転する。
【0040】
ロータシャフト314は、回転電機1の回転軸である第1軸A1を画成する。ロータシャフト314は、ロータコア312が固定される部分よりもX2側において、カバー部材252にベアリング240を介して回転可能に支持される。また、ロータシャフト314は、回転電機1の軸方向他端側(X1側)において、モータケース250の隔壁部2500にベアリング241を介して回転可能に支持される。このようにして、ロータシャフト314が軸方向両端で回転可能にケース2に支持されてよい。
【0041】
本実施例では、ロータシャフト314は、ベアリング241を支持するベアリング支持部3141を有する。ベアリング支持部3141は、図4に示すように、荷重受け部31411と、ベアリング嵌合部31412とを有する。荷重受け部31411は、ベアリング241のインナレース(内輪)2411のX方向X2側に軸方向に当接する。荷重受け部31411は、ベアリング241のインナレース2411からX方向X2側に向かうスラスト荷重を受けることができる。換言すると、荷重受け部31411は、ベアリング241に軸方向に当接することでベアリング241に対するロータシャフト314のX方向X2側への動きを規制可能である。ベアリング嵌合部31412は、ベアリング241の径方向内側に配置され、上述したようにケース2のベアリング嵌合部25042と協動して、ベアリング241を嵌合する環状の空間を形成する。
【0042】
ロータシャフト314は、X方向X1側で入力軸31に動力伝達可能に連結される。本実施例では、一例として、ロータシャフト314の内周面にはスプライン61が形成され、入力軸31の外周面に形成されるスプライン62と噛み合う態様で、スプライン嵌合される。
【0043】
ロータシャフト314は、例えば中空管の形態であり、中空内部314Aを有する。中空内部314Aは、ロータシャフト314の軸方向の全長にわたり延在してよい。本実施例では、一例として、ロータシャフト314の内周面は、スプライン61が形成される区間を除いて、一定の内径を有する。ただし、他の実施例では、ロータシャフト314は、軸方向両端又は一端において小径化される形態であってよく、この場合、ロータシャフト314の内周面は、軸方向両端又は一端において、低減された内径を有してもよい。
【0044】
ロータシャフト314の中空内部314Aは、軸心油路83として機能してよい。この場合、中空内部314Aには、カバー部材252の第1油路81及び第2油路82を介して油が供給されてよい。これにより、ロータシャフト314が冷却されることで、ロータコア312(及び永久磁石が設けられる場合は永久磁石)を径方向内側から冷却することが可能である。
【0045】
ロータシャフト314の中空内部314Aには、油溜め用の堰部89が形成されてもよい。すなわち、ロータシャフト314は、内周面に、周方向全周にわたって径方向内側に突出する堰部89を有してもよい。図2及び図3に示す例では、一例として、堰部89は、ロータシャフト314の中空内部314Aに嵌合される円環状のプラグにより形成されている。
【0046】
ロータシャフト314には、ステータ320のコイルエンド部322A、322Bにそれぞれ油を吐出する径方向の油孔831A及び油孔831Bが形成されてよい。
【0047】
油孔831Aは、コイルエンド部322Aに径方向に対向する開口を有し、軸心油路83内の油をコイルエンド部322Aに向けて供給する。なお、図2及び図3に示す例では、油孔831Aは、径方向に平行に直線状に延在するが、径方向に対して若干傾斜する斜め方向に直線状に延在してもよい。
【0048】
油孔831Bは、コイルエンド部322Bに径方向に対向する開口を有し、軸心油路83内の油をコイルエンド部322Bに向けて供給する。なお、図2及び図3に示す例では、油孔831Bは、径方向に平行に直線状に延在するが、径方向に対して若干傾斜する斜め方向に直線状に延在してもよい。
【0049】
ステータ320は、ステータコア321と、ステータコイル322とを備える。
【0050】
ステータコア321は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなってよい。ステータコア321の内周部には、径方向内側に突出するティース(図示せず)が放射状に形成される。
【0051】
ステータコイル322は、例えば断面平角状又は断面円形状の導体に絶縁被膜が付与された形態であってよい。ステータコイル322は、ステータコア321のティース(図示せず)まわりに巻装される。なお、ステータコイル322は、例えば、1つ以上の並列関係で、Y結線で電気的に接続されてもよいし、Δ結線で電気的に接続されてもよい。
【0052】
ステータコイル322は、ステータコア321のスロットから軸方向外側に突出する部分であるコイルエンド部322A、322Bを有する。コイルエンド部322Aは、X1側に位置し、コイルエンド部322Bは、X2側に位置する。
【0053】
動力伝達機構7は、ギヤ収容室SP2に配置される。動力伝達機構7の各構成要素は、図1を参照して上述した通りであるので、図2において同一の参照符号を付して、適宜、説明を省略する。
【0054】
本実施例では、動力伝達機構7の入力軸31は、X方向X1側では、ベアリング242を介してケース2(より詳細にはギヤケース部材254)に支持されるとともに、X方向X2側では、ベアリング241を介してケース2(より詳細にはベアリング支持部2504)に支持される。特に、X方向X2側では、入力軸31は、ロータシャフト314に直接的に設けられるベアリング241を介して、ケース2に対して間接的に回転可能に支持される。
【0055】
また、入力軸31は、パーキングロック機構のパーキングギヤ36が取り付けられる。なお、パーキングロック機構は、パーキングギヤ36を回転可能な状態と回転不能な状態とで切り替える機構(図示せず)を含む。なお、パーキングロック機構は、電動式であるが、手動式であってもよい。パーキングギヤ36は、第1軸A1まわりに回転する回転部材である。パーキングギヤ36は、入力部材3の入力軸31と一体的に回転するように、入力部材3の入力軸31に連結される。
【0056】
パーキングギヤ36は、X方向X2側がベアリング241のインナレース2411のX方向X1側に軸方向に当接する。また、パーキングギヤ36は、X方向X1側が入力軸31の入力ギヤ32のX方向X2側に軸方向に当接する。この場合、入力軸31とロータシャフト314との間の軸方向の位置関係は、パーキングギヤ36のX方向X2側がベアリング241のインナレース2411のX方向X1側に軸方向に当接することで、定まる。また、この場合、入力軸31に発生するスラスト荷重(X2側に向かうスラスト荷重)は、パーキングギヤ36及びベアリング241を介して、ケース2で受けられる。
【0057】
なお、変形例では、パーキングギヤ36に代えて、入力軸31に形成又は係合される径方向の凸部のX方向X2側が、ベアリング241のインナレース2411のX方向X1側に軸方向に当接してもよい。
【0058】
ここで、図5に示す比較例を参照して、上述した本実施例による車両駆動装置17の効果について説明する。
【0059】
図5は、比較例によるベアリング支持構造を説明する図であり、本実施例のベアリング支持構造を示す図4に対応した部分の断面図である。
【0060】
比較例によるベアリング支持構造は、2つのベアリング241A、241Bを利用して、ロータシャフト314’のX方向X1側の端部と入力軸31’のX方向X2側の端部とを、ケース2’に対して回転可能に支持している。この場合、ロータシャフト314’を回転可能に支持するベアリング241Aは、ケース2’の荷重受け部25’により軸方向荷重(X方向X1側に向かう軸方向荷重)を受けられる。
【0061】
このような比較例によるベアリング支持構造は、2つのベアリング241A、241Bを利用することから、コスト面で不利である。
【0062】
これに対して、本実施例によれば、ロータシャフト314のX方向X1側の端部と入力軸31のX方向X2側の端部とが、共通のベアリング241によりケース2に対して回転可能に支持されるので、ベアリングに係る部品数を低減してコスト低減を図ることができる。
【0063】
[回転電機に係る組立体]
次に、図6以降を参照して、回転電機1に係る組立体10について説明する。
【0064】
図6は、本実施例による回転電機1に係る組立体10の単体状態の断面図である。
【0065】
本実施例による回転電機1に係る組立体10は、図6に示すように、モータケース250と、カバー部材252と、ロータ310と、ステータ320とを、組み付けてなる。これらの各部は、上述した通りである。
【0066】
また、回転電機1に係る組立体10は、更に、ベアリング240、241、規制部材90としてのスナップリング91等が組み付けられている。なお、回転電機1に係る組立体10は、他の部材が組み付けられた形態であってもよい。例えば、図6に示す例では、回転電機1に係る組立体10は、更にレゾルバ11が組み付けられた形態である。
【0067】
このような回転電機1に係る組立体10によれば、上述したようにベアリングに係る部品数を低減できるとともに、単体状態においてもベアリング241をモータケース250から抜け難くすることができる。
【0068】
具体的には、例えば図6に矢印F60で模式的に示すように、ベアリング241のインナレース2411にX方向X1側に向かう軸方向荷重が作用した場合でも、上述した規制部材90(本実施例では、スナップリング91)による変位規制機能によって、ベアリング241がモータケース250から脱落してしまう可能性を低減できる。なお、図6に矢印F60で模式的に示すような軸方向荷重は、X方向X1側を下側にすると、ロータ310の重力によって生じる。また、図6に矢印F60で模式的に示すような軸方向荷重は、不意な衝撃や振動等に起因して生じうる。
【0069】
これにより、例えば、工場等において回転電機1に係る組立体10の搬送時等に、ベアリング241に矢印F60で模式的に示すような軸方向荷重が作用した場合でも、ベアリング241がモータケース250から脱落する可能性が低減される。この結果、単体状態での組立体10の扱いが容易となる。
【0070】
図7から図10は、本実施例による回転電機1に係る組立体10の製造方法(組立体10を製造するための組み付け方法)の説明図である。
【0071】
図7図8、及び図10は、本製造方法の主要な工程を説明するための断面図であり、図9は、スナップリング91による変位規制機能の説明図であり、図8におけるスナップリング91の配置されている部分の詳細を示す図である。
【0072】
本製造方法は、まず、図7に示すように、ステータ320、ベアリング241及びスナップリング91が組み付けられたモータケース250に、ロータ310を第1軸A1に沿って軸方向に組み付けるロータ組付工程を含む。
【0073】
このロータ組付工程において、ロータ310を第1軸A1に沿って軸方向に移動させる際に、ロータ310のロータシャフト314の荷重受け部31411がベアリング241のインナレース2411に軸方向に当接すると(図8参照)、図9に矢印F90で模式的に示すように、ベアリング241のインナレース2411にX方向X1側に向かう軸方向荷重が作用する。この場合も、上述したように、スナップリング91による変位規制機能によって、ベアリング241がモータケース250から脱落してしまう可能性を低減できる。
【0074】
ついで、本製造方法は、図10に示すように、ロータ310、ステータ320、ベアリング241及びスナップリング91が組み付けられたモータケース250に、ベアリング240が組み付けられたカバー部材252を、第1軸A1に沿って軸方向に組み付けるカバー組付工程を含む。このようなカバー組付工程においても、ベアリング240がロータシャフト314に圧入される際に、図9に矢印F90で模式的に示したような、ベアリング241のインナレース2411にX方向X1側に向かう軸方向荷重が作用する。この場合も、上述したように、スナップリング91による変位規制機能によって、ベアリング241がモータケース250から脱落してしまう可能性を低減できる。
【0075】
このようにして、本実施例によれば、回転電機1に係る組立体10の製造中において各種段階でベアリング241のインナレース2411にX方向X1側に向かう軸方向荷重が作用した場合でも、スナップリング91による変位規制機能によって、ベアリング241がモータケース250から脱落してしまう可能性を低減できる。これにより、回転電機1に係る組立体10の製造中に特別な抜け止め対策を行う必要がなくなり、生産性が向上する。
【0076】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。また、各実施例の効果のうちの、従属項に係る効果は、上位概念(独立項)とは区別した付加的効果である。
【0077】
例えば、上述した実施例では、ロータシャフト314の荷重受け部31411は、軸方向でベアリング241のインナレース2411に当接しているが、荷重受け部31411は、ベアリング241のインナレース2411に軸方向で隙間を介して対向する関係であってもよい。この場合も、上述した図6及び図9に示すような力が発生するような状況では、当該隙間が無くなった後に図6及び図9に示すような力が発生することでベアリング241がロータシャフト314から軸方向に抜けうるが、本実施例によれば、上述したように、スナップリング91による変位規制機能によって、ベアリング241がモータケース250から脱落してしまう可能性を低減できる。
【符号の説明】
【0078】
1・・・回転電機、10・・・組立体、31・・・入力軸(回転軸部材)、36・・・パーキングギヤ(回転軸部材に連結された部材)、320・・・ステータ、310・・・ロータ、314・・・ロータシャフト、314A・・・中空内部、31411・・・荷重受け部(第1荷重受け部)、240・・・ベアリング(第1ベアリング)、241・・・ベアリング(第2ベアリング)、2411・・・インナレース(内輪)、2412・・・アウタレース(外輪)、250・・・モータケース(支持部材)、25041・・・荷重受け部(第2荷重受け部)、25045・・・溝部、250451・・・傾斜、90・・・規制部材、91・・・スナップリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10