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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150459
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】水性被覆材
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20220929BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220929BHJP
   C09D 7/41 20180101ALI20220929BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/41
C09D5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053072
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】599071496
【氏名又は名称】ベック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石田 哲也
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG141
4J038HA166
4J038HA286
4J038HA466
4J038KA08
4J038KA09
4J038LA06
4J038MA10
4J038MA13
4J038MA14
4J038NA01
4J038NA24
4J038PA01
4J038PB05
4J038PC04
(57)【要約】
【課題】艶消しの塗膜が形成可能な水性被覆材において、塗装作業性、仕上り性等の性能を改善する。
【解決手段】本発明は、合成樹脂エマルション、及び顔料を含む水性被覆材であって、上記水性被覆材は、顔料体積濃度が30~70%であり、上記顔料として、着色顔料(b)、吸油量50ml/100g未満の体質顔料(c)、及び吸油量50ml/100g以上の体質顔料(d)を含み、上記着色顔料(b)と上記体質顔料(c)との重量比が100:(20~500)、上記着色顔料(b)と上記体質顔料(d)との重量比が100:(5~100)であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂エマルション、及び顔料を含む水性被覆材であって、
上記水性被覆材は、顔料体積濃度が30~70%であり、
上記顔料として、着色顔料(b)、吸油量50ml/100g未満の体質顔料(c)、及び吸油量50ml/100g以上の体質顔料(d)を含み、
上記着色顔料(b)と上記体質顔料(c)との重量比が100:(20~500)、
上記着色顔料(b)と上記体質顔料(d)との重量比が100:(5~100)
であることを特徴とする水性被覆材。
【請求項2】
上記着色顔料(b)と上記体質顔料(c)と上記体質顔料(d)との総量中、上記体質顔料(d)の割合が4~40重量%であることを特徴とする請求項1記載の水性被覆材。
【請求項3】
動的粘弾性測定装置で測定したせん断速度1000s-1における粘度が0.5Pa・s以下、せん断速度0.1s-1における粘度が5~60Pa・sであることを特徴とする請求項1または2に記載の水性被覆材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な水性被覆材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物や土木構造物において、表面の美装と保護の目的で、各種被覆材を塗装することが行われている。これら塗装仕上げにおいては、種々の艶グレードの被覆材が提供されている。このうち、艶消しの塗膜が形成可能な被覆材は、落ち着きのある独特の質感が得られるものであり、このような被覆材としては、JIS K5663「合成樹脂エマルションペイント」に規定されている水性被覆材が一般的である。
【0003】
このような水性被覆材に関し、特許文献1には、水性樹脂、着色顔料、特定体質顔料等を含む水性被覆材について記載されている。このうち、着色顔料は、被膜に色味と隠蔽性を付与するための成分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-40349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述のような水性被覆材を被塗面に対してローラー等で塗装すると、ローラー等に滑りが生じたり、塗面に微細な凹凸が生じたりしてしまい、被膜の隠蔽性が不十分となり、仕上り性に悪影響が及ぶおそれがある。
【0006】
本発明は、上述のような問題点に鑑みなされたものであり、艶消しの塗膜が形成可能な水性被覆材において、塗装作業性、仕上り性等の性能を改善することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、特定の顔料構成を有する水性被覆材に想到し、本発明を完成させるに到った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
1.合成樹脂エマルション、及び顔料を含む水性被覆材であって、
上記水性被覆材は、顔料体積濃度が30~70%であり、
上記顔料として、着色顔料(b)、吸油量50ml/100g未満の体質顔料(c)、及び吸油量50ml/100g以上の体質顔料(d)を含み、
上記着色顔料(b)と上記体質顔料(c)との重量比が100:(20~500)、
上記着色顔料(b)と上記体質顔料(d)との重量比が100:(5~100)
であることを特徴とする水性被覆材。
2.上記着色顔料(b)と上記体質顔料(c)と上記体質顔料(d)との総量中、上記体質顔料(d)の割合が4~40重量%であることを特徴とする1.記載の水性被覆材。
3.動的粘弾性測定装置で測定したせん断速度1000s-1における粘度が0.5Pa・s以下、せん断速度0.1s-1における粘度が5~60Pa・sであることを特徴とする1.または2.に記載の水性被覆材。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水性被覆材は、塗装作業性、仕上り性等において優れた性能を発揮することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0011】
本発明の水性被覆材は、合成樹脂エマルション、及び顔料を含むものである。
【0012】
このうち、合成樹脂エマルション(a)(以下「(a)成分」ともいう)は、顔料等を固定化する役割等を担う成分である。(a)成分における樹脂の種類としては、例えば、エチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂等、あるいはこれらの複合系等を挙げることができる。これらは1種または2種以上で使用することができる。また、これら結合材は、架橋反応性を有するもの、架橋反応性を有さないもののいずれであってもよい。
【0013】
(a)成分として、架橋反応性を有するものを使用した場合は、被膜の耐水性、耐久性、耐候性等を向上させることができる。このような架橋反応性は、例えば、カルボキシル基とカルボジイミド基、カルボキシル基とエポキシ基、カルボキシル基とアジリジン基、カルボキシル基とオキサゾリン基、水酸基とイソシアネート基、カルボニル基とヒドラジノ基、エポキシ基とヒドラジノ基、エポキシ基とアミノ基、アルコキシシリル基どうし等の反応性官能基を組み合わせることによって付与することができる。これらの組み合わせは1種または2種以上で使用することができる。
【0014】
(a)成分のガラス転移温度(以下「Tg」ともいう)は、好ましくは-50~80℃、より好ましくは-40~40℃である。(a)成分のTgが上記下限以上であることにより、耐汚染性、耐膨れ性等の点で有利となる。(a)成分のTgが上記上限以下であることにより、成膜性、耐割れ性等の点で有利となる。なお、ここに言うTgは、(a)成分を構成するモノマーの種類とその構成比率から、Foxの計算式によって求められる値である。本発明において「a~b」は「a以上b以下」と同義である。
【0015】
(a)成分の平均粒子径は、特に限定されないが、好ましくは300nm以下(より好ましくは20~280nm、さらに好ましくは30~260nm)である。平均粒子径がこのような範囲内であれば、耐久性、耐透水性、耐白華性等の性能向上化の点で好適である。なお、ここに言う平均粒子径は、動的光散乱法により測定される値である。
【0016】
本発明の水性被覆材は、上記(a)成分と顔料を必須成分として含み、その顔料体積濃度が30~70%(好ましくは35~65%、より好ましくは40~60%)である。顔料体積濃度が上記下限以上であることにより、艶低減化、被膜強度等の点で有利である。顔料体積濃度が上記上限以下であることにより、耐久性、耐透水性、耐割れ性等の点で有利であり、被膜からの顔料の脱離(色移り)等を防ぐこともできる。なお、本発明における顔料体積濃度は、乾燥被膜中に含まれる顔料の体積百分率であり、水性被覆材を構成する樹脂成分と顔料の重量部数及び比重から計算により求められる値である。なお、樹脂成分の比重は1とする。
【0017】
本発明では、顔料として、着色顔料(b)、吸油量50ml/100g未満の体質顔料(c)、及び吸油量50ml/100g以上の体質顔料(d)を含む。
【0018】
このうち、着色顔料(b)(以下「(b)成分」ともいう)は、被膜に色彩、隠蔽性等を付与する成分である。(b)成分としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、カーボンブラック、黒鉛、黒色酸化鉄、鉄‐マンガン複合酸化物、鉄‐銅‐マンガン複合酸化物、鉄‐クロム‐コバルト複合酸化物、銅‐クロム複合酸化物、銅‐マンガン‐クロム複合酸化物、酸化第二鉄(弁柄)、モリブデートオレンジ、パーマネントレッド、パーマネントカーミン、アントラキノンレッド、ペリレンレッド、キナクリドンレッド、黄色酸化鉄、チタンイエロー、ファーストイエロー、ベンツイミダゾロンイエロー、クロムグリーン、コバルトグリーン、フタロシアニングリーン、群青、紺青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、キナクリドンバイオレット、ジオキサジンバイオレット、アルミニウム顔料、パール顔料等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用できる。これら(b)成分の1種または2種以上を適宜使用することにより、被膜の色調を調整することができる。
【0019】
(b)成分の吸油量は、特に限定されず、好ましくは150ml/100g以下、より好ましくは5~120ml/100g、さらに好ましくは10~95ml/100gである。また、(b)成分の平均粒子径は、好ましくは10μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは0.01~0.9μmである。なお、顔料の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定されるメディアン径の値である。
【0020】
本発明では、顔料としてさらに、吸油量50ml/100g未満の体質顔料(c)(以下「(c)成分」ともいう)、及び吸油量50ml/100g以上の体質顔料(d)(以下「(d)成分」ともいう)を含む。そして、(b)成分と(c)成分との重量比{(b)成分:(c)成分}は、100:(20~500)、(b)成分と(d)成分との重量比{(b)成分:(d)成分}は、100:(5~100)とする。
【0021】
本発明では、着色顔料(b)に加え、このような2種の体質顔料(c)成分及び(d)成分を特定比で使用することにより、塗装作業性、仕上り性等において優れた性能を発揮することができ、十分に艶が低減された平坦な艶消し被膜が得られる。特に本発明では、ローラー等で塗装を行う際に、ローラー等に滑りが生じたり、塗面に微細な凹凸が生じたりすること等を抑制することができる。これにより、被膜の隠蔽性が高まり、優れた仕上り性が得られる。
【0022】
なお、吸油量(ml/100g)とは、JIS K5101-13-2:2004に規定されている方法によって求められる値であり、粉粒体100gに対する煮アマニ油のmlで表されるものである。
【0023】
(c)成分としては、上記物性を満たす限り、その材質は特に限定されず各種体質顔料を使用することができる。(c)成分としては、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、陶土、チャイナクレー、タルク、バライト粉、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、シリカ粉、水酸化アルミニウム等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。(c)成分の吸油量は、50ml/100g未満であり、好ましくは3~45ml/100g、より好ましくは5~40ml/100g、さらに好ましくは8~35ml/100gである。
【0024】
(d)成分についても、上記物性を満たす限り、その材質は特に限定されず各種体質顔料を使用することができる。(d)成分としては、例えば、シリカゲル、ゼオライト、硫酸ナトリウム、珪酸アルミニウム、アロフェン、焼成クレー、焼成カオリン、珪藻土、珪質頁岩、バーミキュライト、パーライト、大谷石粉、活性白土、炭、活性炭、木粉、シラスバルーン等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。(d)成分の吸油量は、好ましくは55~400ml/100g、より好ましくは60~300ml/100gである。本発明では、(d)成分として少なくとも、吸油量80~400ml/100gの体質顔料を1種以上含む態様が望ましく、吸油量100~300ml/100gの体質顔料を1種以上含む態様がより望ましい。このような態様によれば、艶低減効果、艶ムラ抑制効果等をいっそう高めることができ、被塗面の状態等が異なる場合であっても一定の艶消し感を得ることができる。
【0025】
(c)成分、(d)成分の平均粒子径は、好ましくは0.5~50μm、より好ましくは0.8~40μm、さらに好ましくは1~30μmである。(c)成分、(d)成分がこのような平均粒子径を有するものであることにより、被膜の艶低減化、平坦化等の点で好適である。
【0026】
本発明において、(b)成分:(c)成分の重量比は、100:(20~500)であり、好ましくは100:(40~400)であり、より好ましくは100:(50~300)であり、さらに好ましくは100:(60~250)である。(b)成分:(d)成分の重量比は、100:(5~100)であり、好ましくは100:(8~80)であり、より好ましくは100:(10~60)であり、さらに好ましくは100:(15~45)である。これにより、塗装作業性に優れるとともに、発色性、隠蔽性、艶低減化、艶ムラ抑制等に優れ、十分な仕上り性を得ることができる。さらに、耐割れ性、耐透水性等においても優れた性能が得られる。(c)成分の重量比が上記下限を下回る場合は、艶低減化等の点で不利となる。(c)成分の重量比が上記上限を超える場合は、耐割れ性、耐透水性等の点で不利となり、また(b)成分の割合が相対的に小さくなり、発色性、隠蔽性等の点でも不利となる。(d)成分の重量比が上記下限を下回る場合は、艶低減化、塗装作業性、仕上り性等の点で不利となり、艶ムラ等も生じやすくなる。(d)成分の重量比が上記上限を超える場合は、塗装作業性、仕上り性、耐割れ性、耐透水性等の点で不利となる。
【0027】
本発明では、着色顔料(b)と体質顔料(c)と体質顔料(d)との総量中、体質顔料(d)の割合が4~40重量%(より好ましくは5~30重量%、さらに好ましくは6~25重量%)となるように設定することが望ましい。このような態様は、上述の効果発現の点でより望ましいものである。
【0028】
本発明においては、上述の成分の他に、各種添加剤等を混合することもできる。このような添加剤としては、例えば、顔料分散剤、乳化剤、粘性調整剤、造膜助剤、レベリング剤、カップリング剤、湿潤剤、可塑剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、消泡剤、吸着剤、脱臭剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、触媒、架橋剤、溶剤、水等が挙げられる。粒径の大きな粉粒体(例えば、平均粒子径80μm以上の充填材等)は、被膜の平坦化に不利となるため混合しないことが望ましい。
【0029】
上記添加剤のうち、粘性調整剤としては、例えば、会合性粘性調整剤、アルカリ膨潤型粘性調整剤、水溶性高分子型粘性調整剤、無機系粘性調整剤等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用できる。
【0030】
具体的に、会合性粘性調整剤としては、例えば、疎水変性エトキシ化ウレタン(HEUR)、疎水変性アルカリ膨潤性/可溶性エマルション(HASE)、疎水変性ヒドロキシエチルセルロース(HMHEC)、疎水化ポリアクリルアミド等が挙げられる。アルカリ膨潤型粘性調整剤(ASE)としては、例えば、アルカリ膨潤型アクリルエマルション等が挙げられる。水溶性高分子型粘性調整剤としては、例えば、セルロース、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、酸化セルロース等)、ポリビニルアルコール、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、バイオガム、デンプン、デンプン誘導体(カルボキシアルキルデンプン、アルキルデンプン、ヒドロキシアルキルデンプン、酸化デンプン等)、キサンタンガム、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、トラガカンドガム、ゼラチン、寒天、カゼイン、サイリウムシートガム、タマリンドシートガム等が挙げられる。無機系粘性調整剤としては、例えば、ベントナイト、スメクタイト、シリカ、モンモリロナイト等の等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用できる。本発明では、粘性調整剤として、少なくとも会合性粘性調整剤を含むことが望ましく、少なくとも疎水変性エトキシ化ウレタン(HEUR)を含むことがより望ましい。
【0031】
本発明では、2種以上の粘性調整剤を含むことができる。このような態様は、水性被覆材の粘度調整の点でより好適である。このような粘性調整剤の組み合わせとしては、例えば、会合性粘性調整剤とアルカリ膨潤型粘性調整剤、会合性粘性調整剤と水溶性高分子型粘性調整剤、会合性粘性調整剤と無機系粘性調整剤、等が挙げられる。また、会合性粘性調整剤を2種以上組み合わせることもでき、その組み合わせとしては、例えば、疎水変性エトキシ化ウレタン(HEUR)と疎水変性アルカリ膨潤性/可溶性エマルション(HASE)、疎水変性エトキシ化ウレタン(HEUR)と疎水変性ヒドロキシエチルセルロース(HMHEC)、疎水変性エトキシ化ウレタン(HEUR)と疎水化ポリアクリルアミド、疎水変性エトキシ化ウレタン(HEUR)どうし、等が挙げられる。
【0032】
粘性調整剤の比率は、(A)成分の固形分100重量部に対し、固形分換算で、好ましくは0.5~20重量部であり、より好ましくは1~15重量部である。粘性調整剤の比率がこのような範囲内であれば、水性被覆材の粘度調整の点でより好適である。
【0033】
本発明の水性被覆材は、上述の(a)成分、(b)成分、(c)成分、(d)成分、及び必要に応じ各種添加剤を常法により均一に混合することにより製造することができる。
【0034】
本発明の水性被覆材は、媒体として水を含む水性の材料である。媒体は、水の他に、必要に応じ水溶性溶剤を含むものであってもよい。水溶性溶剤としては、例えば、アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類等が挙げられる。
【0035】
本発明の水性被覆材は、動的粘弾性測定装置で測定したせん断速度1000s-1における粘度が0.5Pa・s以下(より好ましくは0.05~0.4Pa・s)、せん断速度0.1s-1における粘度が5~60Pa・s(より好ましくは8~55Pa・s、さらに好ましくは10~50Pa・s)であることが望ましい。本発明の水性被覆材が、このような粘度条件を満たすことにより、塗装作業性、発色性、隠蔽性、仕上り性等において、よりいっそう優れた効果を得ることができる。このような粘度条件を満たす水性被覆材は、顔料構成を上述の態様とし、必要に応じ粘性調整剤、溶剤、水等から選ばれる1種以上を混合して微調整を行うこと等によって得ることができる。本発明では、塗装時の水性被覆材(希釈する場合は希釈後の水性被覆材)が、上記粘度条件を満たすことが望ましい。なお、動的粘弾性測定装置としては、MCR302ST(株式会社アントンパール・ジャパン製)等が使用でき、測定温度は23℃である。
【0036】
本発明の水性被覆材は、その加熱残分が、好ましくは40~90重量%であり、より好ましくは50~80重量%である。加熱残分が上記範囲内であることにより、塗装作業性、発色性、隠蔽性、仕上り性等を高めることができ、粘度調整の点でも好適である。
【0037】
本発明の水性被覆材は、例えば、建築物や土木構築物等の被塗面に対する表面仕上げ等に適用できる。被塗面を構成する基材としては、例えば、コンクリート、モルタル、磁器タイル、繊維混入セメント板、セメント珪酸カルシウム板、スラグセメントパーライト板、セメント板、ALC板、サイディング板、石膏ボード、合板、押出成形板、鋼板、プラスチック板等が挙げられる。これら基材の表面は、何らかの表面処理(例えば、パテ、シーラー、サーフェーサー、フィラー等による処理)が施されたものでもよく、既に塗膜が形成されたものや、壁紙等が貼着されたもの等であってもよい。
【0038】
本発明の水性被覆材を塗装する際には、例えば、スプレー、ローラー、刷毛等の各種塗装器具を使用することができる。特に、ローラー、及び/または刷毛を用いた場合に有利な効果を奏することができる。このうち、ローラーとしては、例えば、短毛、中毛、または長毛の繊維質ローラー(ウールローラー等)が使用できる。
【0039】
塗装の際には、水を用いて希釈することも可能である。水の混合量は、塗装器具の種類、被塗面の状態、塗装時の温度等を勘案して適宜設定すればよいが、水性被覆材全体に対し、好ましくは0~20重量%程度である。
【0040】
水性被覆材の塗付け量は、好ましくは0.1~0.8kg/m、より好ましくは0.12~0.6kg/m、さらに好ましくは0.15~0.4kg/mである。このような塗付け量で水性被覆材の塗装を行うことにより、発色性、隠蔽性等に優れた艶消しで平坦な薄い被膜を形成することができる。
【0041】
水性被覆材を塗装した後の乾燥は、好ましくは常温(5~40℃)で行えばよいが、必要に応じ加熱することも可能である。乾燥時間は、好ましくは常温で0.5~4時間程度である。塗り回数は、1回または2回以上(好ましくは1~2回)とすることができる。塗り回数が2回以上の場合は、合計の塗付け量が上記範囲内とすることが望ましい。
【0042】
本発明では、艶が低減された被膜、すなわち艶消し被膜を形成することができる。なお、ここで言う「艶消し」とは、一般に艶消しと呼ばれるものの他に、3分艶、5分艶等と呼ばれるものも包含する。具体的に、艶消しの程度は、鏡面光沢度によって規定することができる。本発明水性被覆材の鏡面光沢度は、好ましくは40以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは0.1~10である。なお、鏡面光沢度は、ガラス板の片面に、すきま150μmのフィルムアプリケータを用いて被覆材を塗り、塗面を水平に置いて標準状態(気温23℃、相対湿度50%)で48時間乾燥したときの鏡面光沢度(測定角度60度)を測定することによって得られる値である。
【実施例0043】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0044】
○水性被覆材の製造
表1に示す混合量にて各原料を常法により混合し、各水性被覆材を製造した。原料としては以下に示すものを使用した。各水性被覆材の特性は表1に示す通りである。
・合成樹脂エマルション1:アクリル樹脂エマルション(ガラス転移温度-18℃、固形分50重量%、平均粒子径150nm)
・着色顔料1:酸化チタン(平均粒子径0.3μm、比重4.2、吸油量22ml/100g)
・体質顔料1:重質炭酸カルシウム(平均粒子径8μm、比重2.7、吸油量24ml/100g)
・体質顔料2:珪酸アルミニウム(平均粒子径4μm、比重2.6、吸油量70ml/100g)
・体質顔料3:珪藻土(平均粒子径10μm、比重2.3、吸油量180ml/100g)
・界面活性剤1:アニオン性界面活性剤
・界面活性剤2:ノニオン性界面活性剤
・粘性調整剤1:会合性粘性調整剤(疎水変性ポリオキシエチレンウレタン樹脂、固形分30重量%)
・粘性調整剤2:水溶性高分子型粘性調整剤(ヒドロキシエチルセルロース水溶液、固形分3重量%)
・消泡剤:シリコーン系消泡剤
【0045】
○試験1
ガラス板の片面に、すきま150μmのフィルムアプリケータを用いて各水性被覆材を塗り、塗面を水平に置いて標準状態(気温23℃、相対湿度50%)で48時間乾燥したときの鏡面光沢度(測定角度60度)を測定した。評価基準は、鏡面光沢度5以下のものを「A」、5超10以下のものを「B」、10超のものを「C」とした。
【0046】
○試験2
予め右半面にのみ黒色下塗材被膜が形成された石膏ボードに対し、繊維質ローラーを用いて塗付け量0.12kg/mで各水性被覆材を塗装し、そのときの塗装作業性を評価した。試験2では、ローラー塗装時の滑り状態に応じ、滑りが認められないものを「A」、滑りが認められるものを「C」とし、3段階(優:A>B>C:劣)で評価した。なお、塗装は標準状態にて行った。
【0047】
○試験3
試験2の試験板を標準状態で48時間乾燥した後、試験板の外観を観察して被膜の仕上り性を評価した。試験3では、凹凸があまり認められず隠蔽性が高いものを「A」、凹凸が認められ隠蔽性が低いものを「C」とし、3段階(優:A>B>C:劣)で評価した。
【0048】
○試験4
試験3の試験板について、試験板左右の艶の差異を評価した。試験4では、艶の差異が目立たないものを「A」、艶の差異が目立つものを「C」とし、3段階(優:A>B>C:劣)で評価した。
【0049】
○試験結果
試験結果を表1に示す。実施例1~7ではいずれも良好な結果であった。
【0050】
【表1】