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特開2022-150461公差誤差推定装置、方法、プログラム、再構成装置および制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150461
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】公差誤差推定装置、方法、プログラム、再構成装置および制御装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/046 20180101AFI20220929BHJP
【FI】
G01N23/046
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053075
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100208605
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 龍一
(72)【発明者】
【氏名】太田 卓見
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA11
2G001CA01
2G001HA14
2G001JA08
2G001SA29
2G001SA30
(57)【要約】
【課題】駆動時間に対する駆動軸の基準位置からのずれを推定することができる公差誤差推定装置、方法、プログラム、再構成装置および制御装置を提供する。
【解決手段】X線分析装置の回転駆動軸の公差誤差を推定する公差誤差推定装置(処理装置300)であって、各回転駆動時間における標準試料のX線検出画像から特定位置を求める特定位置算出部320と、特定位置に基づいて、回転駆動軸に平行な方向を試料に固定された直交座標系のz方向としたときに各回転駆動時間における回転駆動軸の中心位置の基準位置からのx方向のずれ量Δxおよびy方向のずれ量Δyを算出するずれ量算出部330と、を備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線分析装置の回転駆動軸の公差誤差を推定する公差誤差推定装置であって、
X線検出画像から各回転駆動時間における標準試料の特定位置を求める特定位置算出部と、
前記特定位置に基づいて、試料に固定された直交座標系のz方向を回転駆動軸に平行な方向としたときに各回転駆動時間における回転駆動軸の中心位置の基準位置からのx方向のずれ量Δxおよびy方向のずれ量Δyを算出するずれ量算出部と、を備えることを特徴とする公差誤差推定装置。
【請求項2】
前記ずれ量算出部は、
各回転駆動時間に対する前記ΔxおよびΔyのそれぞれの関数形を仮定し、
前記仮定した関数形のパラメータを最適化することで前記Δxの算出に用いる関数Δx(t)および前記Δyの算出に用いる関数Δy(t)を決定し、
前記決定したΔx(t)およびΔy(t)を用いて各回転駆動時間における前記ΔxおよびΔyを算出することを特徴とする請求項1記載の公差誤差推定装置。
【請求項3】
前記ずれ量算出部は、
前記X線検出画像から求められた特定位置と前記仮定されたΔxおよびΔyのそれぞれの関数形を用いて算出された特定位置との一致度を表す評価関数を最小化するように、前記仮定された関数形のパラメータを最適化することを特徴とする請求項2記載の公差誤差推定装置。
【請求項4】
前記ずれ量算出部は、
前記ΔxおよびΔyのそれぞれの関数形を回転駆動を周期とする周期関数と仮定して前記ΔxおよびΔyを算出することを特徴とする請求項2または請求項3記載の公差誤差推定装置。
【請求項5】
前記X線検出画像は、50μm以下の検出素子を有する二次元検出器で取得されたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の公差誤差推定装置。
【請求項6】
前記算出されたΔxおよびΔyに基づく補正用のパラメータを含むテーブルを記憶するテーブル記憶部をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の公差誤差推定装置。
【請求項7】
前記ずれ量算出部によって算出された一回転にわたるΔxおよびΔyを公差誤差の軌跡として表示させる表示処理部をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の公差誤差推定装置。
【請求項8】
前記ΔxおよびΔyを適用する手段の指定を受け付ける指定受付部をさらに備え、
前記受け付けた指定に応じた再構成機能または制御機能を起動することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の公差誤差推定装置。
【請求項9】
前記X線分析装置は、X線CT装置であり、
請求項1から請求項8のいずれかに記載の公差誤差推定装置により算出されたずれ量を補正したCT投影像を用いて3次元画像の再構成を行う再構成部を備えることを特徴とする再構成装置。
【請求項10】
請求項1記載から請求項8のいずれかに記載の公差誤差推定装置により算出されたずれ量に基づき、前記X線分析装置の補正制御を行う補正制御部を備えることを特徴とする制御装置。
【請求項11】
X線分析装置の回転駆動軸の公差誤差を推定する方法であって、
各回転駆動時間における標準試料のX線検出画像から特定位置を求めるステップと、
前記特定位置に基づいて、回転駆動軸に平行な方向を試料に固定された直交座標系のz方向としたときに各回転駆動時間における回転駆動軸の中心位置の基準位置からのx方向のずれ量Δxおよびy方向のずれ量Δyを算出するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
X線分析装置の回転駆動軸の公差誤差を推定するプログラムであって、
各回転駆動時間における標準試料のX線検出画像から特定位置を求める処理と、
前記特定位置に基づいて、回転駆動軸に平行な方向を試料に固定された直交座標系のz方向としたときに各回転駆動時間における回転駆動軸の中心位置の基準位置からのx方向のずれ量Δxおよびy方向のずれ量Δyを算出する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線分析装置における回転駆動軸の公差誤差を推定する公差誤差推定装置、方法、プログラム、再構成装置および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線CT装置では、ガントリ回転軸または試料回転軸(以下、「CT回転軸」と呼ぶ)が測定中にずれることで画像の劣化が生じる。このずれは、公差誤差と呼ばれており、従来、様々な方法により補正が試みられている。
【0003】
例えば、画像の位置合わせにより公差誤差を補正する方法が知られている(特許文献1参照)。この方法では、二次元投影像と三次元再構成像を重畳出力することで確認された位置ずれを補正する。その結果、センターシフトおよびSOD(線源試料間距離)の補正が可能である。この場合、繰り返し再構成し、再構成像の投影像と投影像の位置合わせを用いることで精度を高めることができる。
【0004】
また、センサを用いて公差誤差を補正する方法も知られている(特許文献2参照)。この方法により、距離センサを用いてラジアル方向およびスラスト方向のずれを補正することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-193965号公報
【特許文献2】特開2018-99175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、画像の位置合わせにより公差誤差を補正する場合、再構成画像が必要であり、再構成の処理に時間がかかる。また、センサを用いる場合には、誤差の確認に時間はかからないが、センサ自体に求められる測定精度やセンサの設置の仕方によって、製造コストが高くなる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、駆動時間に対する駆動軸の基準位置からのずれを推定することができる公差誤差推定装置、方法、プログラム、再構成装置および制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の公差誤差推定装置は、X線分析装置の回転駆動軸の公差誤差を推定する公差誤差推定装置であって、X線検出画像から各回転駆動時間における標準試料の特定位置を求める特定位置算出部と、前記特定位置に基づいて、試料に固定された直交座標系のz方向を回転駆動軸に平行な方向としたときに各回転駆動時間における回転駆動軸の中心位置の基準位置からのx方向のずれ量Δxおよびy方向のずれ量Δyを算出するずれ量算出部と、を備えることを特徴としている。このように、X線検出画像を用いて駆動時間に対する駆動軸の基準位置からのずれを算出することで低コストで高速に高品質なデータを得ることができる。
【0009】
(2)また、本発明の公差誤差推定装置は、前記ずれ量算出部が、各回転駆動時間に対する前記ΔxおよびΔyのそれぞれの関数形を仮定し、前記仮定した関数形のパラメータを最適化することで前記Δxの算出に用いる関数Δx(t)および前記Δyの算出に用いる関数Δy(t)を決定し、前記決定したΔx(t)およびΔy(t)を用いて各回転駆動時間における前記ΔxおよびΔyを算出することを特徴としている。これにより、回転角度によって変動するΔxおよびΔyを高い精度で推定することができる。
【0010】
(3)また、本発明の公差誤差推定装置は、前記ずれ量算出部が、前記X線検出画像から求められた特定位置と前記仮定されたΔxおよびΔyのそれぞれの関数形を用いて算出された特定位置との一致度を表す評価関数を最小化するように、前記仮定された関数形のパラメータを最適化することを特徴としている。これにより、X線検出画像を用いて容易にΔxおよびΔyを高い精度で推定することができる。
【0011】
(4)また、本発明の公差誤差推定装置は、前記ずれ量算出部が、前記ΔxおよびΔyのそれぞれの関数形を回転駆動を周期とする周期関数と仮定して前記ΔxおよびΔyを算出することを特徴としている。このようにΔxおよびΔyが一回転で同じ数値に戻ることを利用し、周期関数と仮定することで容易にΔxおよびΔyを推定できる。
【0012】
(5)また、本発明の公差誤差推定装置は、前記X線検出画像が、50μm以下の検出素子を有する二次元検出器で取得されたことを特徴としている。これにより、特にミクロン単位の精度のCT像が求められる工業製品の検査に応用できる。
【0013】
(6)また、本発明の公差誤差推定装置は、前記算出されたΔxおよびΔyに基づく補正用のパラメータを含むテーブルを記憶するテーブル記憶部をさらに備えることを特徴としている。これにより、データまたは駆動制御の補正時に、特定位置を再計算したり、補正後のSODを算出したりする必要を無くすことができる。
【0014】
(7)また、本発明の公差誤差推定装置は、前記ずれ量算出部によって算出された一回転にわたるΔxおよびΔyを公差誤差の軌跡として表示させる表示処理部をさらに備えることを特徴としている。これにより、ユーザーは、表示された軌跡の形状から、ずれ量算出に使用するデータを取得した時点のX線分析装置の状態を把握することができる。
【0015】
(8)また、本発明の公差誤差推定装置は、前記ΔxおよびΔyを適用する手段の指定を受け付ける指定受付部をさらに備え、前記受け付けた指定に応じた再構成機能または制御機能を起動することを特徴としている。これにより、ユーザーは、ソフトウェア上またはハードウェア上のいずれで公差誤差を補正するかを選ぶことができる。
【0016】
(9)また、本発明の再構成装置は、前記X線分析装置が、X線CT装置であり、上記(1)から(8)のいずれかに記載の公差誤差推定装置により算出されたずれ量を補正したCT投影像を用いて3次元画像の再構成を行う再構成部を備えることを特徴としている。これにより、特に光学系の調整等を必要とせず、公差誤差が含まれる投影像を用いて補正された再構成画像を生成することができる。
【0017】
(10)また、本発明の制御装置は、上記(1)から(8)のいずれかに記載の公差誤差推定装置により算出されたずれ量に基づき、前記X線分析装置の補正制御を行う補正制御部を備えることを特徴としている。これにより、測定時に試料の相対位置を調整しつつ撮像できるため、得られたX線検出画像を用い高精度な測定ができる。
【0018】
(11)また、本発明の方法は、X線分析装置の回転駆動軸の公差誤差を推定する方法であって、各回転駆動時間における標準試料のX線検出画像から特定位置を求めるステップと、前記特定位置に基づいて、回転駆動軸に平行な方向を試料に固定された直交座標系のz方向としたときに各回転駆動時間における回転駆動軸の中心位置の基準位置からのx方向のずれ量Δxおよびy方向のずれ量Δyを算出するステップと、を含むことを特徴としている。これにより、低コストで高速に高品質なデータを得ることができる。
【0019】
(12)また、本発明のプログラムは、X線分析装置の回転駆動軸の公差誤差を推定するプログラムであって、各回転駆動時間における標準試料のX線検出画像から特定位置を求める処理と、前記特定位置に基づいて、回転駆動軸に平行な方向を試料に固定された直交座標系のz方向としたときに各回転駆動時間における回転駆動軸の中心位置の基準位置からのx方向のずれ量Δxおよびy方向のずれ量Δyを算出する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴としている。これにより、低コストで高速に高品質なデータを得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、駆動時間に対する基準位置からの回転駆動軸のずれを推定することで、公差誤差の補正に対する負担を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】公差誤差が生じたX線CT装置の構成を示す概略図である。
図2】(a)(b)それぞれ公差誤差が生じたときに取得される投影像の模式図である。
図3】公差誤差による投影像の重心位置のu方向の変動を表すグラフである。
図4】(a)(b)それぞれ誤差が生じる前後の各座標系を示すz軸方向の投影図である。
図5】全体のシステムの構成を示す概略図である。
図6】処理装置(公差誤差推定装置、再構成装置および制御装置)の構成を示すブロック図である。
図7】本発明の公差誤差推定の方法を示すフローチャートである。
図8】テーブルのイメージを示す図である。
図9】回転角度に対する鋼球の投影像のu方向の重心位置を示すグラフである。
図10】回転角度に対するΔx、Δyおよび算出されたu方向の重心位置を示すグラフである。
図11】一回転にわたるΔxおよびΔyの軌跡を示すグラフである。
図12】回転角度に対するΔzを示すグラフである。
図13】回転角度に対するSODの変化割合を示すグラフである。
図14】(a)、(b)それぞれ補正無しおよび補正有りの鋼球の再構成画像である。
図15】(a)、(b)それぞれ補正無しおよび補正有りのX線テストチャートの再構成画像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0023】
[原理]
X線CT装置は、あらゆる角度からコーン状または平行ビームのX線を試料に照射し、検出器によりX線の吸収係数の分布、すなわち投影像を取得する。あらゆる角度からX線を照射するために、X線CT装置は、固定されたX線源および検出器に対して、試料台を回転させるか、X線源と検出器が一体となったガントリを回転させるように構成されている。回転は相対的であり、回転角度はガントリと試料との間に生じる角度を指し、投影角度とも呼ばれる。なお、回転角度は基本的に回転駆動時間に比例する。
【0024】
X線CT装置は、X線分析装置の一種であり、回転駆動軸としてCT回転軸を備え、X線検出画像としてX線CT投影像を取得する。X線CT装置の公差誤差を推定する場合、X線検出画像の取得に用いる標準試料は一様な密度の球体であり、ずれ量の算出に用いる特定位置は吸収係数の重心位置である。
【0025】
このようにして様々な角度から投影を行い、得られた試料の投影像の濃淡で試料の線吸収係数の分布を推測できる。そして、2次元的な投影像から3次元的な線吸収係数分布を求めることを再構成という。基本的には投影像の逆投影を行う。
【0026】
上記のようなX線CT装置においては、線源と検出器の中心を結ぶ直線上に設置された試料の基準位置にCT回転軸が位置するように調整を行う。測定中にCT回転軸を回転させると、CT回転軸が試料の基準位置からずれること(公差誤差)がある。図1は、公差誤差が生じたX線CT装置の構成を示す概略図である。CT回転軸を回転角度θ(ガントリ回転角度)だけ回転させると、ガントリに取り付けられたX線源F0と検出器0は、F1とD1の位置へ移動する。この時、CT回転軸(ガントリ回転軸)は、最初は試料の基準位置と位置P0で一致しているが、CT回転軸回転に伴いP0からP1へCT回転軸の位置がずれる。このずれが公差誤差である。
【0027】
図2(a)(b)は、公差誤差が生じたときに取得される投影像の模式図である。矩形の枠は、検出面で検出される投影像全体の領域を示している。投影像において、CT回転軸に平行な方向をv、vに直交する方向をuと定義する。標準試料として一様な密度の球体を用いた場合の試料の投影像の外形と重心位置(u0,v0)を示す。試料の基準位置にCT回転軸が位置するように調整されたときの投影像を破線で示す。
【0028】
図3は、公差誤差による投影像の重心位置のu方向の変動を表すグラフである。投影像の重心位置は、検出器の中心位置に対して、移動の方向と量が回転駆動時間(t)に対して変化する。CT回転軸に生じる検出器平面と平行な方向(u方向)のずれとSOD方向に対するずれでは、投影像への影響が異なる。
【0029】
CT回転軸が検出面に対して平行にずれるような場合(図2(a))には、投影像の外形は変化せず、重心位置だけが検出器平面上を移動する。SOD方向へのずれもある場合(図2(b))には、重心位置の移動量が同じだったとしても、SOD方向にずれが生じると拡大率が変化するため、投影像の外形の大きさもそれに伴い変化する。そのため、投影像の重心位置の移動量を公差誤差として補正した場合には、SOD方向のずれが残るため、このような投影像を用いて再構成を行っても再構成画像には公差誤差に起因するブレが残る。そのため、補正をする際には、回転駆動時間に対してCT回転軸がどちらの方向へどのくらい移動するかを考慮する必要がある。
【0030】
本発明では、試料を設置した位置を基準位置として、CT回転軸の中心位置が基準位置からどのくらいずれるかを、回転駆動時間(t)に関する関数で表すことを特徴としている。仮定した関数の最適なパラメータを決定することで、各回転駆動時間における基準位置からのCT回転軸の中心位置のずれ量(Δx,Δy,Δz)を推定することができる。
【0031】
関数のパラメータを最適化する際には、標準試料として一様な密度の球体を用いてCT測定を行い、取得したCT投影像に写る球体の投影像の吸収係数の重心位置を利用する。一様な密度の球体は、金属製の球体であることが好ましく、鋼球であることがさらに好ましい。駆動時間に対するずれ量に再現性がある場合、駆動時間に対するずれ量を信頼性の高いデータから見積もることで、実測定のずれ補正に反映することができる。また、鋼球のように投影像のコントラストが明確で、等方的な形状の試料であれば、重心位置の計算が単純になる。
【0032】
図4(a)(b)は、それぞれ誤差が生じる前後の各座標系を示すz軸方向の投影図である。図4(a)(b)は、X線CT装置におけるずれ量の推定の原理を表している。試料を設置した位置に基準となる座標をとり、原点位置を(0,0,0)とする。CT回転軸の中心位置を原点とする座標をとると、回転駆動の初期時刻では、試料の基準位置とCT回転軸の中心位置は一致している。投影像上の、検出器の中心位置と投影像の重心位置も一致している。
【0033】
CT測定時において、CT回転軸のある回転駆動時間における回転角度(θ(t))の配置では、CT回転軸の中心位置(座標の原点)は(-Δx(t),-Δy(t),-Δz)だけずれる。このとき、CT回転軸の中心位置のずれは、ベクトルβ(t)で表される。また、検出面に平行なu方向の単位ベクトルを関係(1)のように表すと、u0(t)は関係(2)の通りとなる。
【0034】
【数1】
【数2】
【0035】
検出面に平行なv方向の長さv0(t)は、CT回転軸の中心位置のz方向のずれと一致する。これらの関係は、下記の数式で表される(Helgason-Ludwig条件)。
【数3】
【数4】
【0036】
(1)Δx(t)、Δy(t)の関数形を仮定する
公差誤差の要因は、駆動軸の組み立てや材質などによって異なる。そのため、ずれる方向と量の傾向から関数を特定する。例えば、温度等の環境による駆動軸の部材の膨張・収縮や、一方向にかかる応力の影響を受け場合など、ずれる方向と量が一定になる場合には、1次関数など単純な関数形で置くことができる。X線CT装置の場合、CT回転軸の軸周りのある範囲に対して、一定の量あるいは回転の周期ごとに同じ量のずれが繰り返されることが予想されるため、周期関数を仮定することが好ましい。
【0037】
ある回転駆動時間(t)におけるずれΔx(t)、Δy(t)をある回転駆動時間の回転角度(θ(t))の周期関数とすると、フーリエ級数展開により下記の式で表される。
【数5】
【数6】
【0038】
パラメータ{ai}{bj}をΔx、Δyに対してそれぞれ定義することによって、直交する2方向に対して経時的なずれ量の変化を再現することができる。また、パラメータimax、jmaxは、高次までとることでより厳密な関数を規定することができる。
【0039】
(2)評価関数を用いて仮定された関数形のパラメータを最適化する
各回転駆動時間におけるΔxおよびΔyを算出するためには、上記で仮定した関数形のパラメータ{ai}{bj}を最適化する。仮定された関数形のパラメータ{ai}{bj}は、任意定数であり、このパラメータは、X線検出画像の特定位置とΔx(t)、Δy(t)を表す関数を用いて算出される特定位置が一致するように最適化される。最適化指標として、各々の特定位置の一致度を表す評価関数を定義することが好ましい。
【0040】
例えばX線CT装置の公差誤差の推定では、k番目の投影像に対応する回転駆動時間(tk)において、Helgason-Ludwig条件を満たすようにパラメータ{ai,bj}を最適化することが好ましい。パラメータが最適化されると、(3)式の左辺を標準試料のCT投影像の吸収係数の重心位置としたときに、右辺との差が最小になる。
【0041】
左辺と右辺の残差二乗を全ての投影数(k)に対して足し合わせた値を評価関数として用いる。評価関数は、下記の式で表される。勾配法によってこの評価関数を最小化するようなパラメータ{ai,bj}を決定する。
【数7】
【0042】
(3)テーブルを作ってずれ量を関連情報と共に記憶し、記憶された値を参照して補正を行う
最適化されたパラメータ{ai,bj}をΔx(t)((5)式),Δy(t)((6)式)に代入し、Δx、Δy、SOD'aの算出を行うための関数Δx(t)、Δy(t)、SODa(t)を決定する。これにより、各回転駆動時間tに対して、Δx、Δy、SODaを算出することができる。
【0043】
さらに、補正に利用される算出値をt、θ(t)、Δx(t)、Δy(t)、u0(t)、v0(t)、SODa(t)として一つのテーブルにして記憶させることが好ましい。その場合には、tとθ(t)の組み合わせごとに記憶させておく。これにより、補正方法に合わせて、使用する補正量を選択できる。
【0044】
回転駆動時間tおよび回転角度θに対するずれ量として記憶しておくことで、例えば、スキャン時間を変えたときの公差誤差の変化を織り込んで補正ができる。u0(t)、v0(t)、SODa(t)も合わせて記憶させておく。
【0045】
このようにずれ量の推定に利用した標準試料の投影像の吸収係数の重心位置を記憶しておくことで、再構成の補正時に直接値を参照することができる。その結果、再構成装置または制御装置が、標準試料の投影像の吸収係数の重心位置を再計算したり、補正後のSODであるSODaの算出する必要を無くしたりすることができる。また、装置の出荷検査やメンテナンスなどの装置点検時の点検結果や、例えば、1か月に一度などの定期的な点検結果として記憶させておくことが好ましい。記憶されたデータテーブルから、CT測定時の一回転にわたるΔxおよびΔyをプロットして、軌跡を示すグラフを出力させてもよい。
【0046】
この軌跡は、試料の基準位置とCT回転軸の中心位置が一致した状態を基準として、回転駆動軸が一回転する間にx方向およびy方向にどのくらい移動したかを表している。この軌跡の形状からは、ずれ量算出に使用するデータを取得した時点のX線分析装置の状態を把握することができる。軌跡の形状変化を装置管理情報として記憶しておくことで、例えば、ベアリングの摩耗などの回転駆動に関係する部品の劣化や異常を判断することができる。
【0047】
測定のCT回転軸の制御において、推定されたずれ量は、CT回転軸の移動量と一致しているため、ずれ量を補正量としてずれをキャンセルするように移動制御することで補正することができる。測定時にずれ量を補正しながらデータを取得することができるため、データ処理における補正がいらなくなる。
【0048】
また、取得したデータに公差誤差の影響がある場合には、ずれ量を補正量に変換することで、データを補正することができる。補正前の検出器の中心位置をu0(t)、v0(t)移動させるように、座標を取り直す。下記の式より変換することができる。
【数8】
【数9】
【0049】
このずれ量は、CT回転軸の移動方向と移動量の情報を含んでいるため、SOD方向に対するずれも算出することができる。補正後のSODであるSODaは、下記の式により算出できる。
【数10】
【0050】
再構成の際にこれらの値を参照して、データを補正することにより、CT回転軸が検出器平面と平行な方向(u方向,v方向)のずれとSOD方向に対するずれに起因する再構成画像のブレを低減することができる。
【0051】
[全体のシステム]
図5は、X線CT装置200、処理装置300、入力装置410および表示装置420を含む全体のシステム100の構成を示す概略図である。ここで、図5に示すX線CT装置200は、試料に対しX線源260および検出器270が一体となったガントリを回転させる構成であるが、これに限定されることはなく、試料を回転させる構成でもよい。
【0052】
処理装置300(公差誤差推定装置)は、X線CT装置200に接続され、X線CT装置200の制御および取得されたデータの処理を行う。処理装置300は、PC端末であってもよいし、クラウド上のサーバであってもよい。処理装置300は、X線CTデータにおけるCT回転軸の公差誤差を推定する。入力装置410は、例えばキーボード、マウスであり、処理装置300への入力を行う。表示装置420は、例えばディスプレイであり、処理装置300による処理結果などを画面表示によりユーザーに示す等に用いられる。
【0053】
[X線CT装置]
図5に示すように、X線CT装置200は、回転制御ユニット210、試料位置制御ユニット220、試料台250、X線源260および検出器270を備えている。X線源260および検出器270は、ガントリ(図示しない)に設置し、試料台250に固定された試料に対しガントリを回転させてX線CT撮影を行う。なお、X線源260と検出器270の間に設置された、試料台250を回転させてもよい。
【0054】
X線CT装置200は、処理装置300により指示されたタイミングでガントリを回転させ、試料の投影像を取得する。測定データは、処理装置300に送信される。X線CT装置200は、半導体デバイス等の精密な工業製品に用いることに適しているが、産業用装置のみならず動物用装置にも適用できる。
【0055】
X線源260は、X線を検出器270に向けて照射する。検出器270は、二次元検出器であってX線を受ける受光面を有し、多数のピクセルにより試料を透過したX線の強度分布を測定できる。X線CT投影像は、50μm以下の検出素子(例えば50×50μm以下のピクセル)を有する二次元検出器で取得されることが好ましい。例えば、拡大率が50倍になると、1画素のサイズが1μmとなる。公差誤差によりミクロン単位の画像ブレが生じると、形状の把握や寸法の計測に誤差が生じるため、特にミクロン単位の精度で解析を行うような工業製品のX線CT装置に有効である。
【0056】
回転制御ユニット210は、CT測定時に設定された速度でガントリを回転させる。試料位置制御ユニット220は、CT測定時に試料台250の位置を調整することで試料位置を制御する。試料位置制御ユニット220は、処理装置300の指示により、各回転位置でΔx、ΔyおよびΔzに応じて試料位置を調整できる。
【0057】
[処理装置]
図6は、処理装置300(公差誤差推定装置、再構成装置および制御装置)の構成を示すブロック図である。処理装置300は、CPU(Central Processing Unit/中央演算処理装置)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、メモリをバスに接続してなるコンピュータによって構成されている。処理装置300は、X線CT装置200に接続され情報を受け取る。なお、図6に示す例では、処理装置300が、単独で公差誤差推定装置、再構成装置および制御装置の各装置として機能するが、それぞれが別体の処理装置であってもよい。いずれにしても各装置間は、情報の送受信が可能に接続されている。
【0058】
(公差誤差推定装置)
処理装置300は、測定データ記憶部311、装置情報記憶部312、特定位置算出部320、ずれ量算出部330、表示処理部332、補正量算出部335、テーブル記憶部340、指定受付部345を備える。各部は、制御バスLにより情報を送受できる。入力装置410および表示装置420は適宜のインターフェースを介してCPUに接続されている。
【0059】
測定データ記憶部311は、X線CT装置200から取得した測定データを記憶する。測定データには、回転駆動時間(回転角度情報のような回転駆動時間に対応する情報を含む)とそれに対応する投影像が含まれる。装置情報記憶部312は、X線CT装置200から取得した装置情報を記憶する。装置情報には、測定時のジオメトリ等が含まれる。
【0060】
特定位置算出部320は、各回転駆動時間における一様な密度の球体のX線CT投影像から吸収係数の重心位置を求める。これにより、投影像において回転駆動時間の変化に対する球体の中心の推移を認識できる。投影像上の球体の中心は、本来の試料の基準位置からのCT回転軸の中心のずれの投影を表しているが、ずれの投影から直接ΔxおよびΔyは分からないため、推定する必要がある。
【0061】
ずれ量算出部330は、u方向の重心位置に基づいて、CT回転軸に平行な方向を試料に固定された直交座標系のz方向としたときに各回転駆動時間における試料の基準位置からのCT回転軸の中心位置のx方向のずれΔxおよびy方向のずれΔyを算出する。このように、再構成を行うことなく投影像を用いて試料の基準位置からのCT回転軸の中心位置のずれを算出することで低コストで高速に高品質なデータを得ることができる。ΔxおよびΔyの算出の詳細は後述する。
【0062】
具体的には、各回転駆動時間に対するΔxおよびΔyのそれぞれの関数形を仮定し、仮定した関数のパラメータを最適化することで、Δxの算出に用いる関数Δx(t)およびΔyの算出に用いる関数Δy(t)を決定し、決定したΔx(t)およびΔy(t)を用いて各回転駆動時間におけるΔxおよびΔyを算出することが好ましい。これにより、公差誤差に起因するずれ量を推定し、補正に使用できる値を算出することができる。また、仮定された関数形に含まれるパラメータは、X線検出画像の特定位置とΔxおよびΔyを用いて算出される特定位置の一致度を表す評価関数を最小化するように最適化されることが好ましい。これにより、回転駆動時間によって変動するΔxおよびΔyを高い精度で推定することができる。
【0063】
ΔxおよびΔyは、CT回転の1周期で同じ値に戻る。このことを利用して、CT回転を周期とする周期関数と仮定してΔxおよびΔyを算出することが好ましい。これにより、周期関数と仮定することで容易にΔxおよびΔyを推定できる。ずれ量算出部330は、さらに投影像上の回転駆動時間に対するv方向の重心位置の推移からΔzとして算出する。
【0064】
表示処理部332は、ずれ量算出部330によって算出された一回転にわたるΔxおよびΔyを公差誤差の軌跡として表示装置420に表示させる。これにより、ユーザーは、表示された軌跡の形状から、ずれ量算出に使用するデータを取得した時点のX線分析装置の状態を把握することができる。
【0065】
補正量算出部335は、算出されたずれ量Δx、Δyを用いて補正に必要な値を算出する。補正の際には記憶されたテーブルを用いることが好ましい。
【0066】
テーブル記憶部340は、特定位置算出部320、ずれ量算出部330、補正量算出部335によって算出された値をテーブルとして記憶する。テーブルでは、各回転駆動時間とそれに対応する回転角度の組み合わせごとに、X線画像の特定位置、ずれ量、補正値が特定されている。
【0067】
指定受付部345は、Δxおよびy方向のずれ量を適用する手段の指定を指定する画面を受け付ける。処理装置300は、受け付けた指定に応じた再構成機能または制御機能を起動する。これにより、ユーザーは、ソフトウェア上またはハードウェア上のいずれで公差誤差を補正するかを選ぶことができる。
【0068】
(再構成装置)
再構成装置350は、再構成部360を備えている。再構成装置350は、補正された試料のX線CT投影像に基づいて再構成部360に3次元画像を再構成させる。これにより、特に光学系の調整等を必要とせず、公差誤差が含まれる投影像を用いて補正された再構成画像を生成することができる。再構成部360は、X線CT投影像に基づいて3次元画像を再構成する。
【0069】
(制御装置)
制御装置370は、補正制御部380を備えており、補正制御部380は、算出されたΔx、ΔyおよびΔzを用いてCT測定時に試料の位置を補正制御する。補正の際には記憶されたテーブルを用いることが好ましい。これにより、測定時に試料の相対位置を調整しつつ撮像できるため、得られた投影像を用い補正なしで高精度な再構成画像を生成できる。
【0070】
[公差誤差推定方法]
上記のように構成された全体のシステム100を用いた公差誤差推定方法を説明する。図7は、公差誤差推定の方法を示すフローチャートである。まず、一様な密度の球体である標準試料として鋼球を用いてCT投影像を取得する(ステップS1)。次に、取得したCT投影像から吸収係数の重心位置u0(t)、v0(t)を算出する(ステップS2)。
【0071】
次に、回転駆動時間におけるずれΔxおよびΔyの関数形を仮定する(ステップS3)。公差誤差の要因は、装置を構成する部品の状態によって異なるため、各回転駆動時間に対するずれ量の変化を再現できる関数形を選択できることが好ましい。例えば、1次関数、周期関数などの関数形をユーザーが選択できる画面を表示してもよい。
【0072】
次に、最適化するパラメータに対して評価関数を設定する(ステップS4)。評価関数は、X線検出画像の特定位置、ΔxおよびΔyを用いて算出される特定位置、投影数の情報を元に設定される。そして、勾配法によりパラメータを最適化する(ステップS5)。このとき、各回転駆動時間もしくは各回転駆動時間における回転角度に対する、X線検出画像の特定位置とΔx,Δyを用いて算出される特定位置をプロットしたグラフを出力してもよい。これにより、最適化されたパラメータの確からしさを目視確認できる。
【0073】
次に、最適化されたパラメータを用いて関数Δx(t)、Δy(t)を決定する(ステップS6)。決定された関数を用いてずれ量(Δx,Δy)を算出する(ステップS7)。算出されたずれ量から補正値(SODa)を算出する(ステップS8)。そして、算出したX線画像の特定位置、ずれ量、補正値をテーブルとして記憶する(ステップS9)このようにして、公差誤差を推定することができる。
【0074】
[補正方法]
上記のように推定された公差誤差を補正して再構成画像を生成できる。補正方法には、ソフトウェアを用いる方法と測定時にX線CT装置を制御する方法の2通りがある。処理装置300は、いずれの手段で補正を行うか、補正を適用するかしないか等を選択できる画面を表示することが好ましい。
【0075】
ソフトウェアを用いる場合には、まず所望の試料をCT測定する。Δx、ΔyおよびΔzのテーブルを用いて得られた投影像を補正する。具体的には、センターシフトとSODの補正を行う。補正された投影像を用いて3次元画像を再構成する。これにより、処理のみで容易に公差誤差が補正された再構成画像が得られる。
【0076】
測定時にX線CT装置を制御する場合には、所望の試料をCT測定する際に、Δx、ΔyおよびΔzのテーブルを用いて試料位置を補正制御しつつCT測定する。このようにして得られた投影像は公差誤差が補正されたものとなっている。得られた投影像を用いて3次元画像を再構成する。これにより、機器由来の誤差を低減した精度の高い再構成画像が得られる。
【0077】
このようにして、推定されたΔx、ΔyおよびΔzは、テーブルとして保持することが好ましい。図8は、テーブルのイメージを示す図である。図8に示すように、一定のステップごとの各駆動時間(t1,t2,t3,…)に対して、回転角度(θ1,θ2,θ3,…)、u方向の吸収係数の重心位置(u01,u02,u03,…)、v方向の吸収係数の重心位置(v01(Δz1),v02(Δz2),v03(Δz3),…)、X方向のずれ量(Δx1,Δx2,Δx3,…)、Y方向のずれ量(Δy1,Δy2,Δy3,…)、補正後のSOD(SODa1,SODa2,SODa3,…)が保存されている。一定のステップごとの各回転駆動時間としては、例えば、投影像の取得する各回転駆動時間を用いればよい。
【0078】
[その他の実施形態]
上記の実施形態では、X線CT装置の公差誤差の推定とその補正を対象としているが、本発明はその他のX線分析装置にも応用できる。X線回折装置は、試料を載置する基準位置を中心して検出器を回転させる回転駆動軸を備えている。そして、回転駆動軸に公差誤差が生じると取得するデータに影響を与えることがある。例えば、公差誤差によりカメラ長(試料-検出器間距離)が変わると、取り込み角度が変わる。同じ回折線を取得しても、検出器面上で検出される位置が変わるため、角度誤差が生じる。
【0079】
X線回折装置において、標準試料を、回折位置が既知の粉末試料として回折像を取得すると、観測されたデバイリングからデバイ中心(特定位置)を算出することができる。このデバイ中心を(u,v)として本発明を適用すればずれ量を算出でき、データまたは回転駆動の制御を補正できる。
【0080】
[実施例1]
試験用のガントリ回転型のX線CT装置を用いて、鋼球をCT測定した。得られた鋼球の投影像から重心位置を算出し、得られた実測のu方向の重心位置からΔxおよびΔyを算出した。ΔxおよびΔyの算出にはHelgason-Ludwig条件を用いた最適化を行った。図9は、回転角度に対する実測および計算によるu方向の重心位置を示すグラフである。図9に示すように、パラメータ{ai}{bj}が最適化されると、u方向の重心位置について実測値と計算値とが一致することを確認した。
【0081】
図10は、回転角度に対するΔx、Δyおよび算出されたu方向の重心位置(センターシフト)を示すグラフである。図11は、一回転にわたるΔxおよびΔyの軌跡を示すグラフである。試験用のガントリ回転型のX線CT装置のΔxおよびΔyのずれ量を確認した。図12は、回転角度に対するv方向のずれΔzを示すグラフである。CT投影像から算出したv0をプロットすることで、Δzのずれ量を確認した。
【0082】
上記のようにして得られたΔx、Δyを用いてSODa(t)を算出した。図13は、回転角度に対するSODa(t)の変化割合を示すグラフである。これにより、再構成画像の補正に使用する補正量を確認した。
【0083】
[実施例2]
補正の有無による再構成画像の違いを確認した。まず、Δx、Δy、およびΔzの算出に用いた鋼球について、補正無しの投影像を用いて再構成画像を生成した。次に、算出されたΔx、Δy、およびΔzを用いて補正した投影像を用いて再構成画像を生成した。図14(a)、(b)は、それぞれ補正無しおよび補正有りの鋼球の再構成画像である。図14(a)では、ブレが生じ鋼球が球形に表示されていないのに対し、図14(b)では、鋼球が球形に表示されていることが確認できた。
【0084】
[実施例3]
次に、X線テストチャートをCT測定し、まず補正無しの投影像を用いて再構成画像を生成した。次に、鋼球を用いて算出されたΔx、Δy、およびΔzを用いて補正した投影像を用いて再構成画像を生成した。図15(a)、(b)は、それぞれ補正無しおよび補正有りのX線テストチャートの再構成画像である。図15(a)では、X線テストチャートのパターンの境界が明瞭でないのに対し、図15(b)では、境界が明瞭であることを確認できた。
【符号の説明】
【0085】
100 システム
200 X線CT装置
210 回転制御ユニット
220 試料位置制御ユニット
250 試料台
260 X線源
270 検出器
300 処理装置
310 公差誤差推定装置
311 測定データ記憶部
312 装置情報記憶部
320 特定位置算出部
330 ずれ量算出部
332 表示処理部
335 補正量算出部
340 テーブル記憶部
345 指定受付部
350 再構成装置
360 再構成部
370 制御装置
380 補正制御部
410 入力装置
420 表示装置
L 制御バス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15