(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022015047
(43)【公開日】2022-01-21
(54)【発明の名称】信号処理装置及び信号処理方法
(51)【国際特許分類】
G01R 27/26 20060101AFI20220114BHJP
G01R 31/50 20200101ALI20220114BHJP
【FI】
G01R27/26 C
G01R31/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020117654
(22)【出願日】2020-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】594157142
【氏名又は名称】オー・エイチ・ティー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(72)【発明者】
【氏名】村上 真一
(72)【発明者】
【氏名】川上 幸也
(72)【発明者】
【氏名】須川 成利
(72)【発明者】
【氏名】黒田 理人
(72)【発明者】
【氏名】後藤 哲也
【テーマコード(参考)】
2G014
2G028
【Fターム(参考)】
2G014AA02
2G014AA03
2G014AB59
2G014AC09
2G014AC10
2G014AC15
2G028AA01
2G028BC01
2G028CG07
2G028FK01
2G028FK09
2G028MS02
(57)【要約】
【課題】容量センサの押し付けの差による容量センサの出力の変動の影響を抑制することができる容量センサの信号処理装置及び信号処理方法を提供すること。
【解決手段】信号処理装置は、検査電極を備え、検査電極と検査電極と対向して配置される検査対象物との間の静電容量に応じた信号を出力する容量センサの信号処理装置であって、この信号の値に基づいて検査電極と検査対象物との間の材質毎の距離を、それぞれの材質の比誘電率で割った値の総和を算出する算出部34aを備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査電極を具備し、前記検査電極と前記検査電極と対向して配置される検査対象物との間の静電容量に応じた信号を出力する容量センサの信号処理装置であって、
前記信号の値に基づいて前記検査電極と前記検査対象物との間の材質毎の距離をそれぞれの材質の比誘電率で割った値を前記材質毎に算出し、前記材質毎の前記割った値の総和を算出する算出部、
を具備する信号処理装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記信号の値と、前記検査電極の面積と、前記検査電極と前記検査対象物との間の誘電物の誘電率と、前記誘電物の静電容量とに基づいて前記総和を算出する請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記検査対象物は、前記検査電極と対向している対向電極に付着している比誘電率が既知の液体であり、
前記算出部は、さらに、前記総和に基づいて前記液体の高さを算出する請求項1又は2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記算出部は、さらに、前記液体の高さと前記検査電極の面積とに基づいて前記液体の体積を算出する請求項3に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記距離から検査画像を生成する生成部と、
前記検査画像と前記検査対象物の基準の画像である基準画像とを比較する比較部と、
をさらに具備する請求項1乃至4の何れか1項に記載の信号処理装置。
【請求項6】
検査電極を具備し、前記検査電極と前記検査電極と対向して配置される検査対象物との間の静電容量に応じた信号を出力する容量センサの信号処理方法であって、
前記信号の値に基づいて前記検査電極と前記検査対象物との間の材質毎の距離をそれぞれの材質の比誘電率で割った値を前記材質毎に算出し、前記材質毎の前記割った値の総和を算出すること、
を具備する信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、容量センサの信号処理装置及び信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
容量センサを用いて導電パターンの良否判定をすることが例えば特許文献1において提案されている。特許文献1において提案されている検査装置は、プリント回路基板に形成されている導電パターンに容量センサの検査電極を対向させ、導電パターンと検査電極との間の静電容量に応じた信号を画素値に変換し、検査画像を生成する。そして、この検査装置は、検査画像と、予め記憶しておいた良品の導電パターンの画像である基準画像とを比較し、両画像の差異から導電パターンの良否を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
容量センサで静電容量を検出するためには、容量センサの検査電極を検査対象物に近接させる必要がある。例えば、導電パターンの検査においては、検査電極を導電パターンに押し付けて画像を取得する。このとき、検査電極と導電パターンとの間にわずかながら空気層のギャップ(以下空気ギャップ)が発生する。空気ギャップの大きさは容量センサの押し付けのたびにわずかに変化する。検査電極と導電パターンの距離が短いため、空気ギャップが変化すると容量センサの出力は大きく変化する。この場合、仮に検査対象物としての導電パターンが良品であっても検査画像と基準画像との差が発生して不良品と誤判定されることがある。
【0005】
実施形態は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、容量センサの押し付けの差による容量センサの出力の変動の影響を抑制することができる容量センサの信号処理装置及び信号処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様の信号処理装置は、検査電極を具備し、検査電極と、検査電極と対向して配置される検査対象物との間の静電容量に応じた信号を出力する容量センサの信号処理装置であって、信号の値に基づいて検査電極と検査対象物との間の材質毎の距離をそれぞれの材質の比誘電率で割った値を前記材質毎に算出し、前記材質毎の前記割った値の総和を算出する算出部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
実施形態によれば、容量センサの押し付けの差による容量センサの出力の変動の影響を抑制することができる容量センサの信号処理装置及び信号処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る容量センサの信号処理装置の一例としての導電パターン検査装置の概念的な構成を示す図である。
【
図2】
図2は、容量センサ素子の一例の構成を示す図である。
【
図3】
図3は、容量センサ素子の等価回路図である。
【
図4】
図4は、(式6)の関数によって表されるグラフである。
【
図5】
図5は、画像処理回路の機能ブロック図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る信号処理方法を含む導電パターンの検査方法について示すフローチャートである。
【
図7B】
図7Bは、従来の不良品の検査画像の例を示す図である。
【
図8B】
図8Bは、実施形態の不良品の検査画像の例を示す図である。
【
図9】
図9は、実施形態の技術を用いた水滴の検知の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、一実施形態に係る容量センサの信号処理装置の一例としての導電パターン検査装置の概念的な構成を示す図である。導電パターン検査装置1は、容量センサ10と、ステージ20と、信号処理装置30とを有している。
【0010】
容量センサ10は、信号処理装置30の制御の下、検査対象物であるプリント回路基板(PCB)50の導電パターン51と対向する位置に配置される。そして、容量センサ10は、PCB50に形成された導電パターン51との静電容量に応じた電圧信号を信号処理装置30に出力する。容量センサ10は、エリアセンサ部11と、センサ移動機構12とを有する。
【0011】
エリアセンサ部11は、エリア状に配置された複数の容量センサ素子を有する。エリアセンサ部11は、容量センサ10の検出エリアを形成している。それぞれの容量センサ素子は、対向する導電パターンとの間でキャパシタを形成し、静電容量に応じた電圧信号を出力するように構成されている。容量センサ素子については後で詳しく説明する。ここで、複数の容量センサ素子は、エリア状ではなく、ライン状に配置されていてもよい。また、エリアセンサ部11は、PCB50の導電パターンと実質的に非接触に配置される。「実質的に非接触」とは、容量センサ10のエリアセンサ部11を覆っている窒化膜やポリイミド膜の保護膜を介しての接触であることを意味している。この保護膜は、エリアセンサ部11に形成されている電極等が実際にPCB50に接触してしまうことによって損傷又は摩耗したり、汚れたりするのを防止するための極薄の絶縁膜である。また、
図1では、導電パターン51は、櫛形の導電パターンである。導電パターン51は、櫛形に限定されるものではない。
【0012】
センサ移動機構12は、エリアセンサ部11をPCB50の主面と平行な方向であるXY方向に移動させるように構成されている。センサ移動機構12は、Y移動機構12aと、支持部12bと、X移動機構12cとを有している。Y移動機構12aは、Y方向に延びるように形成され、支持部12bをY方向に移動させるアクチュエータを備えた機構である。支持部12bは、X移動機構12cを支持している部材である。X移動機構12cは、X方向に延びるように形成され、エリアセンサ部11をX方向に移動させるアクチュエータを備えた機構である。
【0013】
ステージ20は、PCB50を載置するためのステージである。ステージ20は、例えばY方向に移動できるように構成されている。ステージ20が移動されることにより、例えばPCB50の交換が行われ得る。
【0014】
信号処理装置30は、容量センサ10及びステージ20を制御する。また、信号処理装置30は、容量センサ10のエリアセンサ部11から出力される電圧信号を処理する。信号処理装置30は、検査信号電源31と、センサ移動制御回路32と、ステージ移動制御回路33と、画像処理回路34と、記憶装置35と、比較回路36と、表示装置37と、入力装置38と、インターフェース39と、制御回路40とを有する。ここで、センサ移動制御回路32と、ステージ移動制御回路33と、画像処理回路34と、比較回路36と、制御回路40とは、必ずしもハードウェアで構成されている必要はない。センサ移動制御回路32と、ステージ移動制御回路33と、画像処理回路34と、比較回路36と、制御回路40と同等の動作がCPU等によって実行されるソフトウェアによって実現されてもよい。
【0015】
検査信号電源31は、導電パターン51に検査信号を印加するための電源である。検査信号は、例えば所定の定電圧である。検査信号電源31によって導電パターン51に検査信号が印加されることにより、エリアセンサ部11の各容量センサ素子は、導電パターン51との静電容量に応じた電圧信号を出力する。
【0016】
センサ移動制御回路32は、エリアセンサ部11をPCB50の上の検査位置に移動させるようにセンサ移動機構12を制御する。例えば、センサ移動制御回路32は、制御回路40によって指定される座標にエリアセンサ部11が移動するようにセンサ移動機構12に指令を出す。
【0017】
ステージ移動制御回路33は、ステージ20を移動させる。例えば、ステージ移動制御回路33は、PCB50の交換の時等の制御回路40によって指定されたタイミングでステージ20に指令を出す。
【0018】
画像処理回路34は、エリアセンサ部11の各容量センサ素子から出力される電圧信号に基づき検査画像を生成する。検査画像は、それぞれの容量センサ素子の出力に基づいて生成される値を画素値とする画像である。後で説明するようにそれぞれの画素値は、導電パターンと、この導電パターンと対応する容量センサ素子との間の等価空気膜厚に対応している。等価空気膜厚については後で詳しく説明する。
【0019】
記憶装置35は、ハードディスク等の各種の記憶装置である。記憶装置35には、制御回路40によって使用されるプログラムが記憶される。また、記憶装置35には、検査位置の情報が記憶される。検査位置は、エリアセンサ部11の座標情報である。また、記憶装置35には、導電パターン51の良否の判定結果が記憶される。さらに、記憶装置35には、比較回路36における比較に用いられる基準画像が記憶される。基準画像は、断線、短絡、欠け等の欠陥のない正常な導電パターンの画像である。ここで、基準画像のそれぞれの画素値も、検査画像と同様に導電パターンと対応する容量センサ素子との間の等価空気膜厚に対応している。
【0020】
比較回路36は、検査画像と基準画像とを比較する。例えば、比較回路36は、検査画像と基準画像の画素毎の差を算出する。検査画像と基準画像との差がある位置が導電パターン51における断線箇所、短絡箇所といった不良個所である。また、比較回路36は、検査画像と基準画像の比較結果を記憶装置35に記憶させる。比較結果は、例えば検査画像と基準画像の差分の画像である。
【0021】
表示装置37は、液晶ディスプレイ等の表示装置である。表示装置37は、例えば比較回路36による比較結果の画像を表示する。
【0022】
入力装置38は、キーボード、タッチパネル等の各種の入力装置である。入力装置38は、導電パターンの検査に関する各種の入力を受け付ける。
【0023】
インターフェース39は、信号処理装置30をLAN、インターネット等のネットワークに接続するためのインターフェースである。信号処理装置30は、ネットワークを介してサーバに接続され得る。この場合において、信号処理装置30で得られた検査結果は、ネットワークを介してサーバに転送され得る。
【0024】
制御回路40は、CPU等のプロセッサ、ASIC、FPGA等であり、信号処理装置30の全体の制御をする。例えば、制御回路40は、センサ移動制御回路32を制御してエリアセンサ部11の位置を制御したり、ステージ移動制御回路33を制御してステージ20を移動させたりする。また、制御回路40は、表示装置37を制御して各種の画像を表示させたり、インターフェース39を制御して検査結果をサーバに転送したりする。
【0025】
次に、容量センサ素子について説明する。
図2は、容量センサ素子の一例の構成を示す図である。
図2に示すように、容量センサ素子100は、検査電極101と、保護膜102と、受電キャパシタ103と、アンプ104とを有している。
【0026】
検査電極101は、検査対象物である導電パターン51と対向するように配置される平板電極である。検査電極101が導電パターン51に近接されると、検査電極101と導電パターン51とによってキャパシタ101aが形成される。ここで、前述したように、導電パターン51には検査信号電源31から検査信号が印加される。このため、検査電極101が導電パターン51に近接されると、検査電極101には導電パターン51との静電容量に応じた電圧信号が発生する。
【0027】
保護膜102は、検査電極101の表面を覆う窒化膜のパッシベーション又はポリイミド等の絶縁膜であって、検査電極101が導電パターン51と直接接触しないように保護する。
【0028】
受電キャパシタ103は、検査電極101に発生した電圧信号によって充電される。受電キャパシタ103は、アンプ104の入力電圧を保持する素子として動作する。出力電圧Voutが読みだされるとき、受電スイッチは、リセットスイッチ103aによって放電される。
【0029】
アンプ104は、受電キャパシタ103から出力された電圧信号を増幅する。アンプ104のゲインは、固定値であってもよいし、可変であってもよい。
【0030】
図3は、容量センサ素子の等価回路図である。
図2に示すようにして検査電極101が導電パターン51に近接したとき、検査電極101と導電パターン51とによってキャパシタ101aが形成される。ここで、検査信号電源31の電源電圧(検査信号電圧)をV
f、検査電極101と導電パターン51とによって形成されるキャパシタ101aの静電容量をC
s、受電キャパシタ103の静電容量をC
c、アンプ104の入力電圧をV
inとすると、(式1)の関係が成立する。つまり、入力電圧V
inは、キャパシタ101aの静電容量C
sと受電キャパシタの静電容量C
cの分圧比と検査信号電圧V
fに比例する。
【数1】
【0031】
ここで、キャパシタ101aの静電容量C
sは、保護膜102の静電容量C
s2と、保護膜102と導電パターン51との間の空気ギャップによるキャパシタの静電容量C
s1の静電容量とが直列接続されたキャパシタの合成容量と考えることができる。つまり、静電容量C
sは、以下の(式2)、(式3)で表され得る。ここで、ε
1は空気の誘電率である。d
1は保護膜102と導電パターン51との間の空気層の距離、すなわち空気ギャップである。また、ε
2は保護膜102の誘電率であって、保護膜102に用いられる材質によって変化する。d
2は保護膜102の厚さである。Sは、検査電極101の面積である。
【数2】
【0032】
(式2)、(式3)を用いて(式1)を変形すると、(式4)が得られる。ここで、V
f、C
c、ε
1、ε
2、d
2、Sは例えば容量センサ10の設計時に決まる定数である。したがって、(式4)において、以下の(式5)のように定数a、b、cを定義することができる。
【数3】
a、b、cを用いることにより、V
inは、(式6)のように表される。つまり、V
inは、空気ギャップd
1のみの関数である。
【数4】
【0033】
図4は、(式6)の関数によって表されるグラフである。
図4に示すように、空気ギャップd
1が小さいとき、V
inの変化量は大きい。通常、容量センサ10の出力を大きくするために、エリアセンサ部11は、導電パターン51との距離が0.1mm以下といった近距離となるように押し付けられる。この場合、押し付け力のわずかな変化によって空気ギャップd
1が少し変化しただけでも、V
inは大きく変化する。さらに、押し付け力は、容量センサ素子毎にばらつき得る。このばらつきにより、容量センサ素子毎にV
inの変化量もばらつき得る。V
inの変化に伴って、容量センサ素子の出力電圧V
outも変化する。V
outの変化量のばらつきは、検査画像と基準画像との差を算出する際の誤差を引き起こす。
【0034】
実施形態では、容量センサ素子の出力電圧V
outに基づいて検査画像と基準画像とが比較されるのではなく、空気ギャップd
1と保護膜102の空気換算膜厚d
CAとの合計値である等価空気膜厚d
EATに基づいて検査画像と基準画像とが比較される。等価空気膜厚d
EATは、検査電極101と検査対象物との間に介在する空気、保護膜といった材質の距離を、それぞれの材質の比誘電率で割った値の総和になる。画像処理回路34は、等価空気膜厚d
EATに基づく検査画像を生成する。
図4に示すように、押し付け力の変化による容量センサ素子の出力電圧V
outの変化量に比較して、空気ギャップd
1の変化量は小さい。保護膜102の空気換算膜厚d
CAは一定である。したがって、等価空気膜厚d
EATに基づく検査画像と基準画像とで比較をすることにより、押し付け力の変化による誤差の影響が抑制される。
【0035】
図5は、画像処理回路34の機能ブロック図である。画像処理回路34は、算出部34aと、生成部34bとを有している。
【0036】
算出部34aは、それぞれの容量センサ素子の出力電圧V
outの値に基づき、対応する等価空気膜厚d
EATの値を算出する。以下、等価空気膜厚d
EATの算出方法について説明する。まず、(式4)をd
1について解くと、以下の(式7)のようになる。
【数5】
(式7)の右辺第2項は、保護膜の厚さd
2を空気に対する比誘電率ε
2で除した値である。つまり、(式7)の右辺第2項は、物理的な厚さを示すものではなく、電気的な厚さを示している。このような換算は、半導体産業では、誘電率の異なった材質の厚さを酸化膜の厚さに換算する手法として用いられ、このような換算によって得られる換算量は、EOT(Equivalent Oxide Thickness(等価酸化膜厚)或いはElectrical Oxide Thickness(電気的酸化膜厚)と呼ばれている。今回は空気の厚さに換算されているので、今回は空気換算膜厚d
CAと呼んでいる。また、(式7)の右辺第1項は、等価空気膜厚d
EATであり、空気ギャップd
1と空気換算膜厚d
CAとの合計値である。したがって、(式7)をd
EATの式に書き換えると、以下の(式8)が得られる。
【数6】
【0037】
ここで、容量センサ素子の出力電圧の値をV
out、アンプ104のゲインをG
sとすると、V
out=G
sV
inであるから、(式8)のV
inをV
outで置き換えると、以下の(式9)が得られる。
【数7】
(式9)より、等価空気膜厚d
EATは、V
outから算出され得る。算出部341は、例えば出力電圧V
outの値をデジタル値として取り込んで(式9)の演算を実施し、等価空気膜厚d
EATを算出する。
ここで、(式9)の等価空気膜厚d
EATは、検査電極101の面積と検査電極101に対向する検査対象物の面積とが同一であるものとして計算されている。検査電極101の面積よりも検査対象物の面積の方が大きい場合、検査電極101の横からのフリンジ容量も等価空気膜厚d
EATの値に影響する。フリンジ容量の値が予め計算されていれば、このフリンジ容量が(式9)のC
cに含められることによって、フリンジ容量の影響も含めた等価空気膜厚d
EATが算出され得る。
【0038】
生成部34bは、等価空気膜厚dEATの値に基づいて検査画像を生成する。生成部34bは、それぞれの容量センサ素子の等価空気膜厚dEATの値を多値化する。そして、生成部34bは、それぞれの容量センサ素子の等価空気膜厚dEATの多値化された値を画素値に割り付ける。そして、生成部34bは、それぞれの画素値を容量センサ素子の配置に従って配列することで画像を生成する。なお、生成部34bにおける多値化は、等価空気膜厚dEATの値を閾値と比較することで行われる。例えば、閾値が1つであれば、等価空気膜厚dEATは、2値化される。例えば、閾値が2つであれば、等価空気膜厚dEATは、3値化される。また、検査画像は、画素値に応じて色付けされてもよい。
【0039】
図6は、実施形態に係る信号処理方法を含む導電パターンの検査方法について示すフローチャートである。検査の開始に先立って、ステージ20には、PCB50が載せられているものとする。
【0040】
ステップS1において、制御回路40は、センサ移動制御回路32を介してセンサ移動機構12を制御し、エリアセンサ部11をPCB50の上の検査位置に移動させる。
【0041】
ステップS2において、制御回路40は、検査信号電源31を制御して導電パターン51に検査信号を印加する。このとき、エリアセンサ部11のそれぞれの容量センサ素子は、それぞれと対向している導電パターン51との静電容量に応じた電圧信号を出力する。
【0042】
ステップS3において、信号処理装置30は、エリアセンサ部11のそれぞれの容量センサ素子から出力された電圧信号を例えばデジタル信号に変換して取り込む。
【0043】
ステップS4において、画像処理回路34は、前述した(式9)に基づいてそれぞれの容量センサ素子毎の等価空気膜厚dEATを算出する。そして、画像処理回路34は、等価空気膜厚dEATを例えば記憶装置35に記憶させる。
【0044】
ステップS5において、制御回路40は、すべての検査位置へのエリアセンサ部11の移動が完了したか否かを判定する。ステップS5において、すべての検査位置へのエリアセンサ部11の移動が完了していないと判定されたとき、処理はステップS6に移動する。ステップS5において、すべての検査位置へのエリアセンサ部11の移動が完了したと判定されたとき、処理はステップS7に移動する。
【0045】
ステップS6において、制御回路40は、次の検査位置を設定する。その後、処理はステップS1に戻る。この後、次の検査位置へのエリアセンサ部11の移動が行われる。
【0046】
ステップS7において、画像処理回路34は、記憶装置35に記憶されている等価空気膜厚dEATの値を読み出し、読み出した等価空気膜厚dEATの値の画素値に変換することによって検査画像を生成する。
【0047】
ステップS8において、比較回路36は、検査画像と基準画像とを比較する。例えば、比較回路36は、検査画像と基準画像との差分画像を生成する。そして、比較回路36は、比較結果を記憶装置35に記憶させる。
【0048】
ステップS9において、制御回路40は、比較結果を提示する。例えば、制御回路40は、差分画像を表示装置37に表示させる。この際、検査画像と基準画像の差分画像を2値化した画像を表示させると不良個所はより分かりやすくなる。その後、
図6の処理は終了する。なお、別のPCB50に対する検査が行われるときには、PCB50の交換の後、再度、
図6の処理が行われる。
【0049】
図7Aは、従来の基準画像の例を示す図である。つまり、
図7Aの基準画像のそれぞれの画素値は、対応する容量センサ素子の出力電圧の値に対応している。
図7Aに示す基準画像は、配線201aの先端201bにスルーホールが形成されている導電パターンの画像である。また、
図7Aの基準画像では、右下の配線の先端201cにもスルーホールが形成されている。また、
図7Aの基準画像の左上には、PCB50の端部201dがある。
【0050】
図7Bは、従来の不良品の検査画像の例を示す図である。
図7Bの検査画像のそれぞれの画素値は、対応する容量センサ素子の出力電圧の値に対応している。ここで、
図7Bでは、配線202aの先端202bにスルーホールが形成されていない。
図7Bのその他の部分は
図7Aと同一である。
【0051】
図7Cは、
図7Aと
図7Bの比較結果の一例としての差分画像を示す図である。例えば、断線や短絡といった不良が生じていない部分については、容量センサ素子の出力電圧の値が基準画像における対応する画素における出力電圧の値とほぼ一致する。このため、検査画像と基準画像との差分は殆ど生じない。一方で、断線や短絡といった不良が生じている部分については、容量センサ素子の出力電圧の値が基準画像における対応する画素における出力電圧の値と一致しない。このため、検査画像と基準画像との差分が生じる。つまり、
図7Cに示す差分画像においては、配線203aの先端203bの位置にスルーホールの有無による差分が画像として現れている。しかしながら、先端203cの部分も基準画像と検査画像の両方にスルーホールがあるために差分が画像として現れないはずであるのに、差分が画像として現れてしまっている。端部203dや配線203aも同様である。
【0052】
このような基準画像と検査画像との比較結果と基準画像と実際の導電パターンとの比較結果との差は、検査の時の押し付け力の差に起因するものである。実施形態では、この差が閾値で2値化し、閾値を超えた部分が不良個所と判定される。
図7Dは、
図7Cの差分画像の2値化画像を示す図である。
図7Dに示すように、先端203bと対応した部分204bと先端204cと対応した部分204cと端部203dと対応した部分204dのそれぞれの欠損部分が不良と判定される。差分画像では差として現れていた配線203aと対応した部分204aは不良とは判定されない。
【0053】
図8Aは、実施形態の基準画像の例を示す図である。つまり、
図8Aの基準画像のそれぞれの画素値は、対応する容量センサ素子の出力電圧の値から算出された等価空気膜厚d
EATに対応している。
図8Aに示す基準画像は、
図7Aと同様に、配線301aの先端301bにスルーホールが形成されている導電パターンの画像である。また、
図8Aの基準画像でも、
図7Aと同様に、右下の配線の先端301cにもスルーホールが形成されている。また、
図8Aの基準画像の左上には、PCB50の端部301dがある。
【0054】
図8Bは、実施形態の不良品の検査画像の例を示す図である。
図8Bの検査画像のそれぞれの画素値は、対応する容量センサ素子の出力電圧の値から算出された等価空気膜厚d
EATに対応している。ここで、
図8Bでは、
図7Bと同様に、配線302aの先端302bにスルーホールが形成されていない。一方、
図8Bの検査画像では、右下の配線の先端302cにはスルーホールが形成されている。また、
図8Bの検査画像の左上には、PCB50の端部302dがある。
【0055】
図8Cは、
図8Aと
図8Bの比較結果の一例としての差分画像を示す図である。
図8Cに示す差分画像においては、配線303aの先端303bの位置にスルーホールの有無による差分が画像として現れている。また、
図8Cに示す差分画像においては、配線303aの部分、右下の先端303cの部分、左上の端部303dの部分は画像として殆ど現れていない。
図8Dは、
図8Cの差分画像の2値化画像を示す図である。
図8Dでは、不良個所はスルーホールの欠損がある配線303aの先端303bに対応した部分304bのみとなる。これは、押し付け力の変化に伴う検査電極と導電パターンとの距離の変化に比べて、断線や短絡といった不良に伴う検査電極と導電パターンとの距離の変化のほうが大きいためである。
【0056】
このように、実施形態によれば、容量センサ素子の出力電圧の値に基づき、検査電極101と導電パターン51との間の空気層の距離に対応した等価空気膜厚の値が算出される。
図4で示したように、押し付け力の変化による出力電圧の値の変化に比べて空気ギャップの変化は小さい。したがって、空気ギャップと保護膜の空気換算膜厚の合計値である等価空気膜厚の値に基づいて検査画像と基準画像との比較が行われることにより、検査毎の押し付け力の変動による容量センサ素子の出力電圧の変動の影響が抑制される。また、等価空気膜厚の値は、容量センサの出力に基づいて算出されるので非接触での検査も可能である。
【0057】
[変形例1]
前述した(式4)は、保護膜102が1つの材料から形成されていることを前提としている。これに対し、保護膜102は、複数の異なる材料から構成される多層膜であってもよい。検査電極101と導電パターン51との間にn(nは自然数)層の誘電物が介在しているとき、合成容量C
sは、以下の(式10)から算出される。ここで、(式10)のε
nは誘電物nの誘電率である。d
nは誘電物nの厚さである。
【数8】
【0058】
(式1)と(式10)とから、空気ギャップd
1は、以下の(式11)のように得られる。
【数9】
(式11)の右辺第1項は等価空気膜厚d
EATである。また、右辺第2項は多層膜である保護膜102の空気換算膜厚d
CAである。このように、保護膜102が多層膜であっても等価空気膜厚d
EATは(式8)と同様にして算出され得る。
【0059】
以上説明したように変形例1によれば、保護膜102が多層膜であっても等価空気膜厚dEATが算出され得る。これにより、押し付け力の変動による容量センサの出力電圧の変動の影響が抑制される。
【0060】
[変形例2]
前述した実施形態では、信号処理装置30の導電パターン検査装置への適用例が説明されている。これに対し、実施形態の技術は各種の検査装置への適用が可能である。
【0061】
例えば、実施形態の技術は、貫通樹脂埋め基板(PAD on HOLE)の検査装置にも適用され得る。貫通樹脂埋め基板は、スルーホールに樹脂を埋め込み、その樹脂が埋め込まれたスルーホールの上にパッドを設けることによってスルーホールを配置するためのスペースが確保された基板のことである。
【0062】
貫通樹脂埋め基板では、樹脂埋めの工程又は研磨の工程で検査が行われる。例えば、樹脂埋めの際に樹脂不足があると基板表面がフラットにならず、IC等の部品を実装した場合にはんだ付け不良が発生する。そのため、樹脂が充填されているか検査する必要がある。
【0063】
信号処理装置30は、検査電極と検査対象物との間の空気層の距離である等価空気膜厚dEATを画像化する。ここで、貫通樹脂埋め基板の場合、等価空気膜厚dEATは、スルーホールに充填されている樹脂の量に応じて変動する。したがって、実施形態で説明したのと同様の検査画像と基準画像との比較によって、貫通樹脂埋め基板の樹脂埋めが正しく行われているか否かの検査が行われ得る。
【0064】
また、実施形態の技術は、基板上に形成されたバンプの検査にも用いられ得る。等価空気膜厚dEATは、基板上に形成されているバンプの高さに応じて変動する。したがって、実施形態で説明したのと同様の検査画像と基準画像との比較によって、基板上にバンプが正しく形成されているか否かの検査が行われ得る。
【0065】
さらに、実施形態の技術は、電極上の液体の検知も用いられ得る。
図9は、実施形態の技術を用いた液体の検知の概念図である。液体の検知の場合、容量センサ10に対向するように対向電極401が配置される。対向電極401には、検査信号電源31から検査信号が印加される。また、対向電極401には、液体402が付着している。ここで、対向電極401は、導電パターン51であってもよいし、その他の任意の電極であってよい。
【0066】
液体が導電体の場合、例えば水銀や純水でない液滴はわずかであるが抵抗を持っている。したがって、対向電極401に付着している液滴402は、対向電極401と同電位となる。このため、容量センサ素子の出力電圧は、距離が縮まっているので大きくなる。
【0067】
ここで、容量センサ10の検査電極101と対向電極401との距離をD、液滴の高さをd
dとすると、液滴402の部分では、以下の(式12)が成り立つ。
【数10】
【0068】
ここで、(式12)のdCAは、(式7)又は(式11)で示した空気換算膜厚dCAである。前述したように、空気換算膜厚dCAは容量センサ10の設計時に決められる値である。したがって、等価空気膜厚dEATが算出されることにより、液滴の高さddが算出され得る。(式12)からも明らかなように、検査電極101と対向電極401との距離Dは、既知の値となるように制御されている必要がある。
【0069】
さらに、液滴402の高さが求まることにより、液滴402に検査電極101の面積を乗じることにより、検査電極101と対向している部分の液滴402の体積が算出され得る。つまり、微小液滴の体積vは、以下の(式13)によって表される。
v=ddS (式13)
【0070】
微小液滴の体積vがエリアセンサ部11のすべての容量センサ素子分だけ積算されることにより、液滴402の体積が算出され得る。液滴402の体積の変化から、例えば液滴402が蒸発しているか否かを検出することができる。また、液滴402に細菌が含まれていれば、液滴402の体積の変化から細菌が増殖しているか否かを検出することもできる。
【0071】
ここで、液体が純水、油等の絶縁物の場合の距離d
dの算出の仕方について説明する。油は前述の保護膜102と同様に誘電物である。したがって、対向電極401に油が付着している状態は対向電極401に保護膜が付けられたのと同じであると考えることができる。つまり、対向電極401に付着した油は静電容量を持つ。前述したように、誘電物質の多層膜の合成容量は(式10)によって表され、この合成容量に液滴402としての油の静電容量が含められる。(式10)では順番の入れ替えで値が変わらない。したがって、液滴402が対向電極401ではなく、保護膜102に付着したとしても合成容量の値は変わらない。ここで、油の比誘電率をε
sdとすると、空気換算膜厚と同様の考えに基づき、液体層の空気換算距離はd
d/ε
sdで表すことができる。したがって、(式14)より、絶縁物の液体の高さd
dも算出され得る。ここで、(式14)のd
CAは、(式7)又は(式11)で示した空気換算膜厚d
CAである。
【数11】
【0072】
このように、容量センサ10の検査電極101と対向電極401との距離Dが与えられることで、液体の高さddが算出され得る。
【0073】
ここで、
図9では検査電極101と対向電極401との間に空気層が含まれている例が示されている。(式12)又は(式14)の関係は、検査電極101と対向電極401との間に液体が充填されている場合にも成立する。したがって、(式12)又は(式14)から算出された液体の高さから液体の体積が求められることにより、例えば液体中の気泡の総量を求めることができる。
【0074】
(その他の変形例)
前述した実施形態による各処理は、コンピュータである制御回路40に実行させることができるプログラムとして記憶させておくこともできる。この他、磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等の外部記憶装置の記憶媒体に格納して配布することができる。そして、制御回路40は、この外部記憶装置の記憶媒体に記憶されたプログラムを読み込み、この読み込んだプログラムによって動作が制御されることにより、上述した処理を実行することができる。
【0075】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0076】
1 導電パターン検査装置、10 容量センサ、11 エリアセンサ部、12 センサ移動機構、12a Y移動機構、12b 支持部、12c X移動機構、20 ステージ、30 信号処理装置、31 検査信号電源、32 センサ移動制御回路、33 ステージ移動制御回路、34 画像処理回路、34a 算出部、34b 生成部、35 記憶装置、36 比較回路、37 表示装置、38 入力装置、39 インターフェース、40 制御回路、50 プリント回路基板(PCB)、51 導電パターン、100 容量センサ素子、検査電極、102 保護膜、103 受電キャパシタ、104 アンプ。