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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150476
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】前二輪三輪車
(51)【国際特許分類】
   B62K 5/10 20130101AFI20220929BHJP
   B62K 5/05 20130101ALI20220929BHJP
【FI】
B62K5/10
B62K5/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053094
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】特許業務法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 貴允
(72)【発明者】
【氏名】平松 雅男
【テーマコード(参考)】
3D011
【Fターム(参考)】
3D011AA02
3D011AC01
3D011AD01
3D011AD03
(57)【要約】
【課題】乗員の姿勢安定性を損なうことなく旋回性を高めることができる前二輪三輪車を提供する。
【解決手段】前二輪三輪車11は、操舵軸線Sx回りで回転自在にフレーム15のヘッドチューブ15aに支持されるハンドル軸体25と、前後方向に延びる第1軸線Lx回りに回転自在にヘッドチューブ15aの下方でハンドル軸体25に支持され、左右端に、前後方向に延びる第2軸線Xp、Xq回りに平地GRに対して傾斜自在に左前輪12aおよび右前輪12bを支持するシーソー部材27と、シーソー部材27並びに左前輪12aおよび右前輪12bに連結されて、平地GRに対して左右方向に傾斜するハンドル軸体25の第1傾斜角αに比べて大きい第2傾斜角βで平地GRに対して同方向に左前輪12aおよび右前輪12bを傾斜させるリンク機構28とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵軸線回りで回転自在にフレームのヘッドチューブに支持されるハンドル軸体と、
前後方向に延びる第1軸線回りに回転自在に前記ヘッドチューブの下方で前記ハンドル軸体に支持され、左右端に、前後方向に延びる第2軸線回りに平地に対して傾斜自在に左前輪および右前輪を支持するシーソー部材と、
前記シーソー部材並びに前記左前輪および前記右前輪に連結されて、平地に対して左右方向に傾斜する前記ハンドル軸体の第1傾斜角に比べて大きい第2傾斜角で平地に対して同方向に前記左前輪および前記右前輪を傾斜させるリンク機構と
を備えることを特徴とする前二輪三輪車。
【請求項2】
請求項1に記載の前二輪三輪車において、前記リンク機構は、
前記第1軸線から第1長さで離れた位置に前記第1軸線に平行に延びる中央軸線回りに回転自在に前記ハンドル軸体に結合される連動リンク部材と、
前記第2軸線から前記第1長さよりも短い第2長さで離れた位置に前記第2軸線に平行に延びる軸線回りに回転自在に前記連動リンク部材に連結され、前記左前輪を支持する左ナックルと、
前記第2軸線から前記第1長さよりも短い第2長さで離れた位置に前記第2軸線に平行に延びる軸線回りに回転自在に前記連動リンク部材に連結され、前記右前輪を支持する右ナックルと
を備えることを特徴とする前二輪三輪車。
【請求項3】
請求項1または2に記載の前二輪三輪車において、前記第1傾斜角αに対する前記第2傾斜角βの比率β/αは1より大きく1.3以下に設定されることを特徴とする前二輪三輪車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵軸線回りで回転自在にフレームのヘッドチューブに支持されるハンドル軸体と、ヘッドチューブの下方でハンドル軸体に連結される左前輪および右前輪とを備える前二輪三輪車に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ハンドル軸体に対して個別に上下方向に変位自在に支持される左前輪および右前輪を備える前二輪三輪車を開示する。例えば旋回時に左右方向にフレームが倒れても、ハンドル軸体の傾斜に応じて左前輪および右前輪が上下方向に変位することで左前輪および右前輪の傾斜に拘わらず左前輪および右前輪は地面に接し続けることができる。こうして地面に対して前輪の横滑りは抑制されることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-81165号公報
【特許文献2】特開2004-168072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
左前輪および右前輪の間隔が広がれば広がるほど、前二輪三輪車の転倒は良好に防止されることができる。しかしながら、左前輪および右前輪の間隔が広がると、フレームの傾斜に対して抵抗が生じやすい。キャンバースラストの利用が阻害されてしまう。旋回性は低下する。
【0005】
本発明は、乗員の姿勢安定性を損なうことなく旋回性を高めることができる前二輪三輪車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態によれば、操舵軸線回りで回転自在にフレームのヘッドチューブに支持されるハンドル軸体と、前後方向に延びる第1軸線回りに回転自在に前記ヘッドチューブの下方で前記ハンドル軸体に支持され、左右端に、前後方向に延びる第2軸線回りに平地に対して傾斜自在に左前輪および右前輪を支持するシーソー部材と、前記シーソー部材並びに前記左前輪および前記右前輪に連結されて、平地に対して左右方向に傾斜する前記ハンドル軸体の第1傾斜角に比べて大きい第2傾斜角で平地に対して同方向に前記左前輪および前記右前輪を傾斜させるリンク機構とを備える前二輪三輪車は提供される。
【0007】
前二輪三輪車では走行時に左前輪および右前輪は平地に接触し続ける。フレームは三点で地面に支持されるので、前二輪三輪車の転倒は防止されることができる。特に、左前輪および右前輪の間隔が広がれば広がるほど、前二輪三輪車の転倒は良好に防止されることができる。
【0008】
旋回にあたって前二輪三輪車では二輪車と同様にキャンバースラストが利用されることができる。ここでは、フレームの傾斜に比べて左前輪および右前輪は大きく傾斜するので、前輪は旋回方向に良好に切れ込むことができる。したがって、乗員の姿勢安定性を損なうことなく小回りは実現されることができる。
【0009】
前記リンク機構は、前記第1軸線から第1長さで離れた位置に前記第1軸線に平行に延びる中央軸線回りに回転自在に前記ハンドル軸体に結合される連動リンク部材と、前記第2軸線から前記第1長さよりも短い第2長さで離れた位置に前記第2軸線に平行に延びる軸線回りに回転自在に前記連動リンク部材に連結され、前記左前輪を支持する左ナックルと、前記第2軸線から前記第1長さよりも短い第2長さで離れた位置に前記第2軸線に平行に延びる軸線回りに回転自在に前記連動リンク部材に連結され、前記右前輪を支持する右ナックルとを備えてもよい。こうして左前輪および右前輪の第2傾斜角は第1長さおよび第2長さに基づき調整されることができる。第1長さおよび第2長さが調整されることで、乗員の姿勢安定性および旋回性は設定されることができる。
【0010】
前記第1傾斜角αに対する前記第2傾斜角βの比率β/αは1より大きく1.3以下に設定されてもよい。本発明者の検証によれば、第1傾斜角αに対する第2傾斜角βの比率β/αが1.3を超えてしまうと、わずかにハンドル軸体が振れるだけで左前輪および右前輪が傾斜することから、直進走行時でもぐらつきが発生し直進安定性が損なわれることが確認された。
【発明の効果】
【0011】
以上のように開示の前二輪三輪車によれば、乗員の姿勢安定性を損なうことなく旋回性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る前二輪三輪車の全体構成を概略的に示す側面図である。
図2図1の矢印2の方向から観察される前二輪三輪車の正面図である。
図3図2の拡大部分正面図である。
図4】電動駆動系の構成を概略的に示すブロック図である。
図5】コントローラーの処理動作を概略的に示すフローチャートである。
図6】巡航制御の処理動作を概略的に示すフローチャートである。
図7】直進制御の処理動作を概略的に示すフローチャートである。
図8】旋回制御の処理動作を概略的に示すフローチャートである。
図9】斜面走行制御の処理動作を概略的に示すフローチャートである。
図10】こぎ出し制御の処理動作を概略的に示すフローチャートである。
図11】官能評価のランク付けを示す表である。
図12】官能評価の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の一実施形態を説明する。なお、以下の説明では、前後、上下および左右の各方向は前二輪三輪車に搭乗した乗員から見た方向をいう。
【0014】
図1は本発明の一実施形態に係る前二輪三輪車11の全体構成を概略的に示す。前二輪三輪車11は、左右に並んで配置される左前輪12aおよび右前輪12bを支持する操舵系13と、前端で操舵系13に連結され、前端から後方に離れた位置で回転自在に単一の後輪14を支持するフレーム15とを備える。フレーム15は、左前輪12aおよび右前輪12bの上方に配置されるヘッドチューブ15aと、ヘッドチューブ15aから後方に延びるダウンチューブ15bと、ヘッドチューブ15aの後方でダウンチューブ15bから上向きに延びるシートチューブ15cと、ダウンチューブ15bからさらに後方に延びて軸線Xr回りに回転自在に後輪14を支持するチェーンステー15dとを有する。後輪14の軸線Xrが水平方向に位置すると、フレーム15の自立姿勢は確保される。このとき、フレーム15の左右中心面は鉛直面に一致する。
【0015】
シートチューブ15cの上端にはサドル16が支持される。サドル16は、シートチューブ15cに差し込まれるシートピラー17に固定される。サドル16は乗員の臀部を受ける。
【0016】
フレーム15には、乗員の人力で軸線Xr回りに後輪14を駆動する人力駆動系18が結合される。人力駆動系18は、シートチューブ15cの下方でダウンチューブ15bに回転自在に支持されるクランク19と、クランク19の回転軸線Xcに同軸にクランク19に固定される駆動スプロケット21と、後輪14の軸線Xrに同軸に後輪14に固定される従動スプロケット22と、駆動スプロケット21および従動スプロケット22に巻きかけられるチェーン23とを備える。クランク19は、後輪14の軸線Xrに平行な軸心を有し、ダウンチューブ15bの軸受に回転自在に支持される駆動軸19aと、ダウンチューブ15bよりも左側に突出する駆動軸19aの一端に結合されて、駆動軸19aから遠心方向に延びる左アーム19bと、ダウンチューブ15bよりも右側に突出する駆動軸19aの他端に結合されて、駆動軸19aから遠心方向に延びる右アーム19cとを有する。左アーム19bおよび右アーム19cは駆動軸19aの軸心回りで180度の間隔で配置される。左アーム19bおよび右アーム19cの先端にはそれぞれペダル24が連結される。ペダル24は、駆動軸19aの軸心に平行な回転軸線回りで回転自在に左アーム19bおよび右アーム19cに支持される。乗員は、サドル16に座りながら、左右のペダル24に左右の足を載せることができる。
【0017】
操舵系13は、地面から離れるに従って後方に変位する操舵軸線Sx回りに回転自在にヘッドチューブ15aに連結されるハンドル軸体25と、ヘッドチューブ15aよりも上方でハンドル軸体25に結合されて左右方向に延びるハンドルバー26と、前後方向に延びる第1軸線Lx回りに回転自在にヘッドチューブ15aの下方でハンドル軸体25に支持され、左右端に、平地に対して傾斜自在に左前輪12aおよび右前輪12bを支持するシーソー部材27と、シーソー部材27並びに左前輪12aおよび右前輪12bに連結されて、第1軸線Lx回りで左右方向に傾斜するハンドル軸体25の傾斜角に応じて左前輪12aおよび右前輪12bを傾斜させるリンク機構28とを備える。
【0018】
図2に示されるように、ハンドルバー26の左右端にはそれぞれグリップ31が固定される。ハンドルバー26の左端には後輪ブレーキレバー32が揺動自在に取り付けられる。後輪ブレーキレバー32は例えば後輪14のブレーキにワイヤー33で連結される。後輪ブレーキレバー32は左側のグリップ31に並列に延びる。乗員の左手はグリップ31を握りながら後輪ブレーキレバー32を操作することができる。
【0019】
ハンドルバー26の右端には前輪ブレーキレバー34が揺動自在に取り付けられる。前輪ブレーキレバー34は例えば前輪12a、12bのブレーキにワイヤー35で連結される。前輪ブレーキレバー34は右側のグリップ31に並列に延びる。乗員の右手はグリップ31を握りながら前輪ブレーキレバー34を操作することができる。
【0020】
リンク機構28は、第1軸線Lxに平行に前後方向に延びる左第2軸線Xp回りで回転自在に、第1軸線Lxよりも左側でシーソー部材27に連結される左ナックル37と、第1軸線Lxに平行に前後方向に延びる右第2軸線Xq回りで回転自在に、第1軸線Lxよりも右側でシーソー部材27に連結される右ナックル38と、第1軸線Lxに平行に延びる中央軸線Xa回りに回転自在にハンドル軸体25に結合され、ハンドル軸体25に左ナックル37および右ナックル38を連結するリンクアーム(連動リンク部材)39とを有する。リンクアーム39は第2軸線Xp、Xqに平行な軸線Xs、Xt回りで揺動自在に左ナックル37および右ナックル38にそれぞれ連結される。こうして4つの関節(軸線Lx、Xa、Xs、Xp)を有する四辺形のリンク機構と、4つの関節(軸線Lx、Xa、Xt、Xq)を有する四辺形のリンク機構とは確立される。こうしたリンクアーム39の働きで、左前輪12aおよび右前輪12bは、平地GRに対して左右方向に傾斜するハンドル軸体25の第1傾斜角αに比べて大きい第2傾斜角βで同方向に平地GRに対して傾斜することができる。
【0021】
ここでは、図3に示されるように、中央軸線Xaは平地GRの垂直方向に第1軸線Lxから第1長さLaで離れる。左ナックル37の軸線Xsは平地GRの垂直方向に左第2軸線Xpから第2長さLbで離れる。右ナックル38の軸線Xtは平地GRの垂直方向に右第2軸線Xqから第2長さLbで離れる。第2長さLbは第1長さLaよりも小さく設定される。そして、第1傾斜角αに対する第2傾斜角βの比率β/αは1より大きく1.3以下に設定される。
【0022】
左ナックル37には、回転軸線XL回りで回転自在に左前輪12aのハブ41が結合される。右ナックル38には、回転軸線XR回りで回転自在に右前輪12bのハブ41が結合される。図1に示されるように、左前輪12a、右前輪12bおよび後輪14は、それぞれ、ハブ41と、ハブ41に同軸であってスポーク42でハブ41に連結されるリム43と、リム43に装着されるゴムタイヤ44とで形成される。
【0023】
図4に示されるように、前二輪三輪車11には、電力で生じる駆動力で回転軸線XL、XR回りに左前輪12aおよび右前輪12bを駆動する電動駆動系51が結合される。電動駆動系51は、左前輪12aに接続されて、電力の供給に応じて左前輪12aに駆動力を付与する第1電動機52と、第1電動機52に接続されて、第1電動機52に供給される電力を制御する第1ドライバー回路53と、右前輪12bに接続されて、電力の供給に応じて右前輪12bに駆動力を付与する第2電動機54と、第2電動機54に接続されて、第2電動機54に供給される電力を制御する第2ドライバー回路55と、第1ドライバー回路53および第2ドライバー回路55に接続されて、第1ドライバー回路53および第2ドライバー回路55に供給される電力を貯蔵するバッテリー56とを備える。第1電動機52および第2電動機54には例えば直流(DC)ブラシレスモーターが用いられることができる。第1電動機52および第2電動機54は左前輪12aおよび右前輪12bの車軸に直接に連結されてもよくギア機構を介して間接に連結されてもよい。第1電動機52および第2電動機54にはバッテリー56から個別に電力が供給される。したがって、左前輪12aおよび右前輪12bの駆動力は個別に設定される。
【0024】
電動駆動系51は、さらに、第1ドライバー回路53および第2ドライバー回路55に接続されて、第1ドライバー回路53および第2ドライバー回路55の動作を制御するコントローラー57と、左前輪12aの回転速度を検出し、検出した左前輪速をコントローラー57に供給する左前輪速センサー58と、右前輪12bの回転速度を検出し、検出した右前輪速をコントローラー57に供給する右前輪速センサー59と、後輪14の回転速度に基づき車速を検出し、検出した車速をコントローラー57に供給する後輪速センサー61と、クランク19に作用する踏力を検出し、検出した踏力の大きさをコントローラー57に供給する踏力センサー62と、ヘッドチューブ15aに対するハンドルバー26の操舵角を検出し、検出した操舵角をコントローラー57に供給する操舵センサー63と、鉛直方向(重力方向)に対してシートチューブ15cの傾斜角を検出し、検出した傾斜角をコントローラー57に供給する傾斜センサー64と、鉛直方向に直交する水平面に対して左右方向に路面の傾斜角を検出し、検出した路面の傾斜角をコントローラー57に供給する斜面センサー65とを備える。
【0025】
後輪速センサー61は、例えば、後輪14の軸受に取り付けられて、後輪14の回転速度に基づき車速を特定する電気信号を出力する。操舵センサー63は、例えば、ヘッドチューブ15aに取り付けられて、操舵軸線Sx回りでハンドル軸体25の回転角を特定する電気信号を出力する。傾斜センサー64は、例えば、シートチューブ15cに取り付けられて、平地での直進時に後輪14の軸線Xrに直交する鉛直面に対して左右方向に傾斜角を特定する電気信号を出力する。傾斜センサー64には例えばジャイロセンサーが用いられることができる。斜面センサー65は、例えば、ハンドル軸体25に取り付けられて、シーソー部材27の前下がり軸線Lx回りにリンク機構28の傾斜角を特定する電気信号を出力する。コントローラー57、速度センサー58、59、61、踏力センサー62、操舵センサー63、傾斜センサー64および斜面センサー65にはバッテリー56から動作電力が供給される。
【0026】
コントローラー57は記憶デバイス57aを含む。記憶デバイス57aには、例えば、踏力に対して電動機の回転数(1分あたり)を割り当てるルックアップテーブルが格納される。ルックアップテーブルには、踏力の大きさごとに、割り当てられた回転数(1分あたり)を実現する電流値が規定される。
【0027】
走行にあたって乗員は自立する前二輪三輪車11のサドル16を跨ぐ。乗員は左手で左のグリップ31を握り右手で右のグリップ31を握る。乗員は左右のペダル24にそれぞれ左足および右足を載せる。乗員がペダル24を踏むと、クランク19に乗員の踏力が作用する。回転軸線Xc回りでクランク19は回転する。クランク19の回転は、駆動スプロケット21、チェーン23および従動スプロケット22の働きで後輪14に伝達される。こうして人力の駆動力は後輪14の回転を引き起こす。前二輪三輪車11は前進する。
【0028】
コントローラー57のスイッチがオンされると、コントローラー57は電動アシストの制御を実施する。図5に示されるように、走行時、ステップS1でコントローラー57は走行速度を検出する。検出にあたってコントローラー57には後輪速センサー61から信号が供給される。走行速度が予め決められた速度を超えたと判断されると、コントローラー57はステップS2で巡航制御を実施する。予め決められた速度を超えると、前進方向の慣性力の働きで前二輪三輪車11の姿勢や挙動は安定する。したがって、コントローラー57は、安定した姿勢や挙動に基づき左前輪12aおよび右前輪12bの駆動を制御する。巡航制御の詳細は後述される。
【0029】
ステップS1で、走行速度が予め決められた速度以下であれば、コントローラー57はステップS3でこぎ出し制御を実施する。こぎ出し時には前二輪三輪車11の姿勢や挙動が安定しないことから、姿勢や挙動の不安定さに基づき左前輪12aおよび右前輪12bの駆動は制御される。こぎ出し制御の詳細は後述される。
【0030】
図6に示されるように、巡航制御にあたってコントローラー57はステップT1で平地での走行時に後輪14の軸線Xrに直交する鉛直面に対して左右方向にシートチューブ15cの傾斜角を検出する。検出にあたってコントローラー57には傾斜センサー64から信号が供給される。シートチューブ15cの傾斜が予め決められた傾斜角以下であれば、コントローラー57はステップT2で直進制御を実施する。シートチューブ15cの傾斜が予め決められた傾斜角以下のとき、乗員は直進走行を意図すると推定される。コントローラー57は左前輪12aおよび右前輪12bの駆動を制御し前二輪三輪車11の直進安定性を高める。直進制御の詳細は後述される。
【0031】
ステップT1で、シートチューブ15cの傾斜が予め決められた傾斜角を超えたと判断されると、コントローラー57はステップT3で旋回制御を実施する。シートチューブ15cの傾斜が予め決められた傾斜角を超えると、乗員は旋回を意図すると推定される。一般に、乗員は旋回方向に身体を傾け重心を移動させる。したがって、コントローラー57は、左前輪12aおよび右前輪12bの間で旋回時に生じる回転数の差に基づき左前輪12aおよび右前輪12bの駆動を制御する。こうして旋回時に挙動の安定性は高められる。旋回制御の詳細は後述される。
【0032】
図7に示されるように、直進制御が実行されると、コントローラー57はステップV1でハンドルバー26の操舵角を検出する。検出にあたってコントローラー57には操舵センサー63から信号が供給される。操舵角に基づき左前輪12aが内輪であると判断されると、ステップV2でコントローラー57は右前輪12bの駆動力に比べて大きな駆動力を左前輪12aに付与する制御信号を生成する。制御信号の生成にあたってルックアップテーブルから踏力の大きさに応じて第1電動機52に供給される電流値は取得される。取得された電流値に係数(<1)が掛け合わせられることで、第2電動機54に供給される電流値は特定される。傾斜角(または操舵角)が大きいほど、係数は小さい値であればよい。
【0033】
続くステップV3で制御信号は第1ドライバー回路53および第2ドライバー回路55に供給される。第1ドライバー回路53は制御信号に基づき指定される電流値で第1電動機52に電流を供給する。第1電動機52は左前輪12aを駆動する。第2ドライバー回路55は制御信号に基づき指定される電流値で第2電動機54に電流を供給する。第2電動機54は左前輪12aを駆動する。ハンドルバー26が微小角度で左に切られていても、右前輪12b(外輪)に比べて左前輪12a(内輪)に大きな駆動力が付与されることでハンドルバー26は直進方向に戻される。
【0034】
ステップV1で、操舵角に基づき右前輪12bが内輪であると判断されると、ステップV4でコントローラー57は左前輪12aの駆動力に比べて大きな駆動力を右前輪12bに付与する制御信号を生成する。制御信号の生成にあたってルックアップテーブルから踏力の大きさに応じて第2電動機54に供給される電流値は取得される。取得された電流値に係数(<1)が掛け合わせられることで、第1電動機52に供給される電流値は特定される。
【0035】
続くステップV3で制御信号は第1ドライバー回路53および第2ドライバー回路55に供給される。第1ドライバー回路53は制御信号に基づき指定される電流値で第1電動機52に電流を供給する。第1電動機52は左前輪12aを駆動する。第2ドライバー回路55は制御信号に基づき指定される電流値で第2電動機54に電流を供給する。第2電動機54は左前輪12aを駆動する。ハンドルバー26が微小角度で右に切られていても、左前輪12a(外輪)に比べて右前輪12b(内輪)に大きな駆動力が付与されることでハンドルバー26は直進方向に戻される。
【0036】
前述のように、シートチューブ15cの傾斜が予め決められた値以下のとき、乗員は直進走行を意図すると推定される。このとき、ハンドルバー26の操舵が検出されると、外輪に比べて内輪に大きな駆動力が付与されることでハンドルバー26は直進方向に戻される。こうして直進安定性は高められる。一般に、直進走行時には、二輪車の乗員は左右方向の重心のずれをハンドルの操舵で補う。こうしたハンドルバー26の操舵が第1電動機52および第2電動機54の働きで支援されることで直進安定性は高められる。走行時の挙動の安定性は高められる。
【0037】
図8に示されるように、旋回制御が実行されると、コントローラー57はステップW1でハンドルバー26の操舵角を検出する。検出にあたってコントローラー57には操舵センサー63から信号が供給される。操舵角に基づき左前輪12aが内輪であると判断されると、ステップW2でコントローラー57は左前輪12aの駆動力に比べて大きな駆動力を右前輪12bに付与する制御信号を生成する。制御信号の生成にあたってルックアップテーブルから踏力の大きさに応じて第2電動機54に供給される電流値は取得される。取得された電流値に係数(<1)が掛け合わせられることで、第1電動機52に供給される電流値は特定される。傾斜角(または操舵角)が大きいほど、係数は小さい値であればよい。
【0038】
続くステップW3で制御信号は第1ドライバー回路53および第2ドライバー回路55に供給される。第1ドライバー回路53は制御信号に基づき指定される電流値で第1電動機52に電流を供給する。第1電動機52は左前輪12aを駆動する。第2ドライバー回路55は制御信号に基づき指定される電流値で第2電動機54に電流を供給する。第2電動機54は左前輪12aを駆動する。左前輪12a(内輪)に比べて右前輪12b(外輪)に大きな駆動力が付与されることで、旋回時に内輪および外輪に意図的に回転数の差が生成される。
【0039】
ステップW1で、操舵角に基づき左前輪12aが外輪であると判断されると、ステップW4でコントローラー57は右前輪12bの駆動力に比べて大きな駆動力を左前輪12aに付与する制御信号を生成する。制御信号の生成にあたってルックアップテーブルから踏力の大きさに応じて第1電動機52に供給される電流値は取得される。取得された電流値に係数(<1)が掛け合わせられることで、第2電動機54に供給される電流値は特定される。
【0040】
続くステップW3で制御信号は第1ドライバー回路53および第2ドライバー回路55に供給される。第1ドライバー回路53は制御信号に基づき指定される電流値で第1電動機52に電流を供給する。第1電動機52は左前輪12aを駆動する。第2ドライバー回路55は制御信号に基づき指定される電流値で第2電動機54に電流を供給する。第2電動機54は左前輪12aを駆動する。右前輪12b(内輪)に比べて左前輪12a(外輪)に大きな駆動力が付与されることで、旋回時に内輪および外輪に意図的に回転数の差が生成される。
【0041】
前述のように、シートチューブ15cの傾斜が予め決められた値を超えると、乗員は旋回を意図すると推定される。一般に、乗員は旋回方向に身体を傾け重心を移動させる。このとき、ハンドルバー26の操舵角が検出されると、内輪に比べて外輪に大きな駆動力が付与されることで、旋回時に内輪および外輪に意図的に回転数の差が生成されることができる。車両はスムースに旋回することができる。旋回時に挙動の安定性は高められることができる。良好な操舵性は実現されることができる。直進走行時と旋回時とで内輪および外輪の間で駆動力の大小関係が切り替わることで、走行時の挙動の安定性は良好に高められることができる。
【0042】
ここで、一般に、乗員は旋回方向に身体を傾け重心を移動させる。旋回の曲率が大きいほど、重心の移動距離は大きくなる。重心の移動距離が大きくなれば、シートチューブ15cの傾斜は大きくなる。したがって、シートチューブ15cの傾斜に合わせて内輪と外輪との間で駆動力差が大きくなれば、車両は旋回の曲率に合わせてスムースに旋回することができる。旋回時に挙動の安定性は高められることができる。走行時の挙動の安定性は高められることができる。
【0043】
巡航制御では、直進制御時に、斜面走行制御が重畳的に実行されてもよい。図9に示されるように、斜面走行制御が実行されると、コントローラー57はステップQ1で路面の傾斜角を検出する。検出にあたってコントローラー57には斜面センサー65から信号が供給される。路面の傾斜角に基づき左前輪12aが下側輪であると判断されると、ステップQ2でコントローラー57は右前輪12bの駆動力に比べて大きな駆動力を左前輪12aに付与する制御信号を生成する。制御信号の生成にあたってルックアップテーブルから踏力の大きさに応じて第1電動機52に供給される電流値は取得される。取得された電流値に係数(<1)が掛け合わせられることで、第2電動機54に供給される電流値は特定される。傾斜角が大きいほど、係数は小さい値であればよい。
【0044】
続くステップQ3で制御信号は第1ドライバー回路53および第2ドライバー回路55に供給される。第1ドライバー回路53は制御信号に基づき指定される電流値で第1電動機52に電流を供給する。第1電動機52は左前輪12aを駆動する。第2ドライバー回路55は制御信号に基づき指定される電流値で第2電動機54に電流を供給する。第2電動機54は右前輪12bを駆動する。左右方向に傾斜する斜面で走行時に、右前輪12b(上側輪)に比べて左前輪12a(下側輪)に大きな駆動力が付与されることで、斜面に沿って下降する力に抗する駆動力が左前輪12aおよび右前輪12bに付与される。こうして直進安定性は高められる。走行時の挙動の安定性は高められることができる。
【0045】
ステップQ1で、路面の傾斜角に基づき右前輪12bが下側輪であると判断されると、ステップQ4でコントローラー57は左前輪12aの駆動力に比べて大きな駆動力を右前輪12bに付与する制御信号を生成する。制御信号の生成にあたってルックアップテーブルから踏力の大きさに応じて第2電動機54に供給される電流値は取得される。取得された電流値に係数(<1)が掛け合わせられることで、第1電動機52に供給される電流値は特定される。
【0046】
続くステップQ3で制御信号は第1ドライバー回路53および第2ドライバー回路55に供給される。第1ドライバー回路53は制御信号に基づき指定される電流値で第1電動機52に電流を供給する。第1電動機52は左前輪12aを駆動する。第2ドライバー回路55は制御信号に基づき指定される電流値で第2電動機54に電流を供給する。第2電動機54は右前輪12bを駆動する。左右方向に傾斜する斜面で走行時に、左前輪12a(上側輪)に比べて右前輪12b(下側輪)に大きな駆動力が付与されることで、斜面に沿って下降する力に抗する駆動力が左前輪12aおよび右前輪12bに付与される。こうして直進安定性は高められる。走行時の挙動の安定性は高められることができる。
【0047】
図10に示されるように、こぎ出し制御が実行されると、ステップR1でコントローラー57は左前輪12aの回転速度および右前輪12bの回転速度を検出する。検出にあたってコントローラー57には左前輪速センサー58および右前輪速センサー59から信号が供給される。左前輪12aの回転速度が右前輪12bの回転速度よりも小さければ、ステップR2でコントローラー57は左前輪12aの回転速度に基づき制御信号を生成する。制御信号では踏力(人力)の大きさに応じて第1電動機52および第2電動機54に共通に供給される電流値が特定される。
【0048】
続くステップR3で制御信号は第1ドライバー回路53および第2ドライバー回路55に供給される。第1ドライバー回路53は制御信号に基づき指定される電流値で第1電動機52に電流を供給する。第1電動機52は左前輪12aを駆動する。第2ドライバー回路55は制御信号に基づき指定される電流値で第2電動機54に電流を供給する。第2電動機54は右前輪12bを駆動する。
【0049】
左前輪12aの回転速度が右前輪12bの回転速度以上であれば、ステップR4でコントローラー57は右前輪12bの回転速度に基づき制御信号を生成する。制御信号では踏力(人力)の大きさに応じて第1電動機52および第2電動機54に共通に供給される電流値が特定される。
【0050】
続くステップR3で制御信号は第1ドライバー回路53および第2ドライバー回路55に供給される。第1ドライバー回路53は制御信号に基づき指定される電流値で第1電動機52に電流を供給する。第1電動機52は左前輪12aを駆動する。第2ドライバー回路55は制御信号に基づき指定される電流値で第2電動機54に電流を供給する。第2電動機54は右前輪12bを駆動する。
【0051】
静止状態からこぎ出し始めたとき、前進方向に慣性力が十分に高まっていないことから、左右方向に重心がずれることで前二輪三輪車11には左右方向にふらつく力が作用する。このとき、シートチューブ15cの傾斜に合わせて第1電動機52および第2電動機54が個別に制御されても、そうした制御は姿勢の安定化に寄与しない。無駄に電力が消費されてしまう。左前輪12aおよび右前輪12bで共通に1回転速度が設定されると、制御の無駄は省かれ、消費電力は節制されることができる。
【0052】
本実施形態に係る前二輪三輪車11では走行時に左前輪12aおよび右前輪12bは平地GRに接触し続ける。フレーム15は三点で地面に支持されるので、前二輪三輪車11の転倒は防止されることができる。特に、左前輪12aおよび右前輪12bの間隔が広がれば広がるほど、前二輪三輪車11の転倒は良好に防止されることができる。
【0053】
旋回にあたって前二輪三輪車11では二輪車と同様にキャンバースラストが利用されることができる。ここでは、フレーム15の傾斜に比べて左前輪12aおよび右前輪12bは大きく傾斜するので、前輪は旋回方向に良好に切れ込むことができる。したがって、乗員の姿勢安定性を損なうことなく小回りは実現されることができる。
【0054】
本実施形態では、リンク機構28は、第1軸線Lxから第1長さLaで離れた位置に第1軸線Lxに平行に延びる中央軸線Xa回りに回転自在にハンドル軸体25に結合されるリンクアーム39と、左第2軸線Xpから第2長さLbで離れた位置に左第2軸線Xpに平行に延びる軸線Xs回りに回転自在にリンクアーム39に連結され、左前輪12aを支持する左ナックル37と、右第2軸線Xqから第2長さLbで離れた位置に右第2軸線Xqに平行に延びる軸線Xt回りに回転自在にリンクアーム39に連結され、右前輪12bを支持する右ナックル38とを備える。こうして左前輪12aおよび右前輪12bの第2傾斜角βは第1長さLaおよび第2長さLbに基づき調整されることができる。第1長さLaおよび第2長さLbが調整されることで、乗員の姿勢安定性および旋回性は設定されることができる。
【0055】
前述のように、本実施形態では、第1傾斜角αに対する第2傾斜角βの比率β/αは1より大きく1.3以下に設定される。その結果、良好な姿勢安定性を損なうことなく小回りは実現されることができる。第1傾斜角αに対する第2傾斜角βの比率β/αが1.3を超えてしまうと、わずかにハンドル軸体が振れるだけで左前輪12aおよび右前輪12bが傾斜することから、直進走行時でもぐらつきが発生し直進安定性は損なわれてしまう。
【0056】
本発明者は前二輪三輪車11の姿勢安定性および旋回性を検証した。検証にあたって実物の前二輪三輪車11に基づき官能評価が実施された。前二輪三輪車11では第1傾斜角αに対する第2傾斜角βの比率β/αが変更された。比率β/αの変更にあたってシーソー部材27や左右のナックル37、38、リンクアーム39の交換に基づき第1長さLaおよび第2長さLbは調整された。設定された比率β/αごとに3人の被験者が姿勢安定性および旋回性を評価した。評価にあたって、図11に示されるように、10段階のランク付けが実施された。
【0057】
図12に示されるように、比率β/αが1を超えると、連続した小回りが実現されることが確認された。良好な旋回性が確保された。直進安定性は確保された。良好な姿勢安定性は確保された。その一方で、比率β/αが1.3を超えてしまうと、わずかにハンドル軸体25が振れるだけで左前輪12aおよび右前輪12bが傾斜することから、直進走行時でもぐらつきが発生し直進安定性が損なわれることが確認された。なお、グラフ中、個々のプロットは3者の平均値を示す。
【符号の説明】
【0058】
11…前二輪三輪車、12a…左前輪、12b…右前輪、15…フレーム、15a…ヘッドチューブ、25…ハンドル軸体、27…シーソー部材、28…リンク機構、37…左ナックル、38…右ナックル、39…連動リンク部材(リンクアーム)、GR…平地、La…第1長さ、Lb…第2長さ、Lx…(シーソー部材の)第1軸線、Sx…操舵軸線、Xa…中央軸線、Xp…第2軸線(左第2軸線)、Xq…第2軸線(右第2軸線)、Xs…(連動リンク部材左の)軸線、Xt…(連動リンク部材右の)軸線、α…第1傾斜角、β…第2傾斜角。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12