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特開2022-150478継手屈曲防止金具、および、継手屈曲防止構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150478
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】継手屈曲防止金具、および、継手屈曲防止構造
(51)【国際特許分類】
   F16L 21/08 20060101AFI20220929BHJP
   F16L 27/12 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F16L21/08 Z
F16L27/12 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053098
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】森本 皓一
(72)【発明者】
【氏名】小仲 正純
【テーマコード(参考)】
3H015
3H104
【Fターム(参考)】
3H015KA00
3H104JA08
3H104JB02
3H104JD06
3H104KA04
3H104KB03
3H104KB07
3H104KC02
3H104LG02
3H104LG22
(57)【要約】
【課題】簡便な構成で継手の屈曲を防止することが可能な継手屈曲防止金具および継手屈曲防止構造を提供する。
【解決手段】継手屈曲防止金具1を、挿し側管体2の外周面に固定される円環状の基部3と、基部3から径方向外向きに延設された拡径部4と、拡径部4の外縁から管軸方向に延設された延設部5と、を有し、挿し側管体2と接合される受け側管体6の受口が延設部5の内径側に入り込んだ状態で拡径部4および延設部5の少なくとも一方と当接することによって、挿し側管体2と受け側管体6の継手の屈曲角を規制する構成とし、継手屈曲防止構造15を、挿し側管体2と、挿し側管体2と接合される受け側管体6と、挿し側管体2の挿し口の外周面に固定される継手屈曲防止金具1と、を有する構成とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
挿し側管体(2)の外周面に固定される円環状の基部(3)と、
前記基部(3)から径方向外向きに延設された拡径部(4)と、
前記拡径部(4)の外縁から管軸方向に延設された延設部(5)と、
を有し、前記挿し側管体(2)と接合される受け側管体(6)の受口が前記延設部(5)の内径側に入り込んだ状態で前記拡径部(4)および前記延設部(5)の少なくとも一方と当接することによって、前記挿し側管体(2)と前記受け側管体(6)の継手の屈曲角を規制する継手屈曲防止金具。
【請求項2】
前記延設部(5)の延設方向に向く前記拡径部(4)の面に、径方向外側に向かうほど前記延設部(5)の延設方向と反対の方向に傾斜する傾斜部(8)が形成されている請求項1に記載の継手屈曲防止金具。
【請求項3】
前記延設部(5)の内径側の面に、該延設部(5)の先端に向かうほど内径側に傾斜する傾斜部(9)が形成されている請求項1または2に記載の継手屈曲防止金具。
【請求項4】
前記延設部(5)の延設方向に向く前記拡径部(4)の面、または、前記延設部(5)の内径側の面の少なくとも一方に、前記受け側管体(6)の受口との間に介在する弾性部材(10)が設けられている請求項1から3のいずれか1項に記載の継手屈曲防止金具。
【請求項5】
前記基部(3)に、前記挿し側管体(2)の外周面に形成された凹部(11)に嵌合する突起(12)が形成されている請求項1から4のいずれか1項に記載の継手屈曲防止金具。
【請求項6】
周方向に分割された複数の分割片を連結することによって環状とされる請求項1から5のいずれか1項に記載の継手屈曲防止金具。
【請求項7】
挿し側管体(2)と、
前記挿し側管体(2)と接合される受け側管体(6)と、
前記挿し側管体(2)の挿し口の外周面に固定される請求項1から6のいずれか1項に記載の継手屈曲防止金具(1)と、
を有し、前記受け側管体(6)の受口が、前記継手屈曲防止金具(1)の前記延設部(5)の内径側に入り込んだ状態で前記継手屈曲防止金具(1)と当接することによって、前記挿し側管体(2)と前記受け側管体(6)の継手の屈曲角を規制する継手屈曲防止構造。
【請求項8】
前記継手が、接合された前記挿し側管体(2)と前記受け側管体(6)との間の管軸方向の伸縮を許容する耐震継手構造を有し、前記継手屈曲防止金具(1)の前記挿し側管体(2)への固定時において、前記延設部(5)の先端が前記受け側管体(6)の受口先端よりも、管軸方向で前記挿し側管体(2)側に位置しており、前記挿し側管体(2)と前記受け側管体(6)が互いに接近することによって、前記受け側管体(6)の受口先端が前記延設部(5)の内径側に入り込むように構成されている請求項7に記載の継手屈曲防止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、管体の継手の屈曲を防止する継手屈曲防止金具、および、その継手屈曲防止金具を採用した継手屈曲防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上下水、農業用水、雨水などの液体や、空気などの気体を輸送するために地中に埋設されたダクタイル鉄管は、受け側管体の受口に挿し側管体の挿し口を挿入して管同士を接合することで管路を形成している。その接合部は継手と呼ばれ、この継手の形式として、メカニカルタイプ(K形)、プッシュオンタイプ(T形)などの一般継手や、GX形、NS形などの耐震継手がある。耐震継手は、継手に離脱防止機能および伸縮代を有しており、地震動や、地震に伴う地盤変動が発生しても、この継手でその変動に追従することができる。このため、一般継手と比較して高い離脱防止機能を有している。
【0003】
地震に伴う主な断層として、図8(a)~(d)に示すように、正断層(縦ずれ断層)(図8(a))、逆断層(縦ずれ断層)(図8(b))、左横ずれ断層(図8(c))、右横ずれ断層(図8(d))がある。図9に示すように、いずれの断層Fも管路Nの継手Jに負荷を生じさせるが、特に図9(a)に示す逆断層中に管路が配設されている場合、図9(b)に示すように変位が生じると、断層Fの近傍の継手Jに圧縮方向および屈曲方向の力が作用して大きく屈曲し、その屈曲角がその許容値を超えるおそれがある。
【0004】
このような継手の大きな屈曲は逆断層(図8(b))で最も生じやすいが、管路の配設方向によっては、横ずれ断層(図8(c)(d))などでも同様に生じる可能性がある。基本的には、耐震継手は断層の変位にも対応することが可能であるが、大きな地盤変動が瞬間的に起こったときなどに備えて、離脱防止機能の補完が必要とされることもある。
【0005】
そこで、例えば下記特許文献1に係る構成においては、管継手5を跨ぐように筐体11を囲繞するように配置し、受口部3cから挿口部2aが離脱したときに、この筐体11に形成された内フランジ11b、11b’が流体管2に取り付けられた離脱規制部材12、受口部3cの大径部3gに接触することによって抜け止めを図っている(以下、構成Aと称する。)。また、他の管継手5においては、耐震管継手22の係止部材23の刃部を流体管3の表面に食い込ませることによって抜け止めを図っている(以下、構成Bと称する。)(下記特許文献1の特に段落0018~0030、図1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-138637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の上記構成Aは、筐体11を囲繞するように配置するために、管継手5の周囲全体(例えば管軸方向の2~3メートル)を掘削して地表面に至るまで土砂を一旦取り除く必要がある。このため、その掘削作業が非常に煩雑で作業コストも要する。また、特許文献1の上記構成Bは、流体管3の表面に耐震管継手22の係止部材23の刃部が食い込んでいるため、耐震継手に適用するとその伸縮作用が喪失する問題がある。
【0008】
そこで、この発明は、簡便な構成で継手の屈曲を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本願発明においては、
挿し側管体の外周面に固定される円環状の基部と、
前記基部から径方向外向きに延設された拡径部と、
前記拡径部の外縁から管軸方向に延設された延設部と、
を有し、前記挿し側管体と接合される受け側管体の受口が前記延設部の内径側に入り込んだ状態で前記拡径部および前記延設部の少なくとも一方と当接することによって、前記挿し側管体と前記受け側管体の継手の屈曲角を規制する継手屈曲防止金具を構成した。
【0010】
このようにすると、継手に圧縮方向と屈曲方向の力が作用したときに、圧縮方向の動きを拡径部で、屈曲方向の動きを延設部でそれぞれ止めて、この継手が所定角度を超えて屈曲するのを防止することができる。また、その構成も非常にシンプルなので、この継手屈曲防止金具の製造コストを抑制することができる。
【0011】
前記構成においては、前記延設部の延設方向に向く前記拡径部の面に、径方向外側に向かうほど前記延設部の延設方向と反対の方向に傾斜する傾斜部が形成されている構成とするのが好ましい。このようにすると、挿し側管体に対して受け側管体が傾斜部の傾斜角だけ傾斜したときに、この受け側管体の受口の端面がこの傾斜部に面接触した状態となる。このため、受け側管体から作用する圧縮方向の力を、拡径部(継手屈曲防止金具)および挿し側管体で確実に受け止めることができる。
【0012】
前記各構成においては、前記延設部の内径側の面に、該延設部の先端に向かうほど内径側に傾斜する傾斜部が形成されている構成とするのが好ましい。このようにすると、挿し側管体に対して受け側管体が傾斜部の傾斜角だけ傾斜したときに、この受け側管体の受口の外周面がこの傾斜部に面接触した状態となる。このため、受け側管体から作用する屈曲方向の力を延設部の広い面で受け止めて、この延設部の破損を防止することができる。
【0013】
前記各構成においては、前記延設部の延設方向に向く前記拡径部の面、または、前記延設部の内径側の面の少なくとも一方に、前記受け側管体の受口との間に介在する弾性部材が設けられている構成とするのが好ましい。このようにすると、挿し側管体に対する受け側管体の屈曲角が、拡径部に形成された傾斜部の傾斜角、または、延設部に形成された傾斜部の傾斜角と整合しないときでも、その角度の差分に対応して弾性部材が変形して面接触状態を確保するため、拡径部や延設部の破損を防止することができる。
【0014】
前記各構成においては、前記基部に、前記挿し側管体の外周面に形成された凹部に嵌合する突起が形成されている構成とするのが好ましい。このようにすると、受け側管体の受口がその管軸方向から拡径部や延設部に当接しても、この継手屈曲防止金具が管軸方向にずれにくくなる。
【0015】
前記各構成においては、周方向に分割された複数の分割片を連結することによって環状とされる構成とするのが好ましい。このようにすると、既設管に対してもこの継手屈曲防止金具をスムーズに取り付けることができる。
【0016】
また、上記の課題を解決するため、本願発明においては、
挿し側管体と、
前記挿し側管体と接合される受け側管体と、
前記挿し側管体の挿し口の外周面に固定される上記継手屈曲防止金具と、
を有し、前記受け側管体の受口が、前記継手屈曲防止金具の前記延設部の内径側に入り込んだ状態で前記継手屈曲防止金具と当接することによって、前記挿し側管体と前記受け側管体の継手の屈曲角を規制する継手屈曲防止構造を構成した。
【0017】
このようにすると、継手屈曲防止金具の屈曲防止効果によって、挿し側管体と受け側管体の継手が所定角度を超えて屈曲するのを防止することができ、大きな地盤変動が瞬間的に起こったときなどにおいて、離脱防止機能を確実に発揮することができる。
【0018】
前記継手屈曲防止構造においては、前記継手が、接合された前記挿し側管体と前記受け側管体との間の管軸方向の伸縮を許容する耐震継手構造を有し、前記継手屈曲防止金具の前記挿し側管体への固定時において、前記延設部の先端が前記受け側管体の受口先端よりも、管軸方向で前記挿し側管体側に位置しており、前記挿し側管体と前記受け側管体が互いに接近することによって、前記受け側管体の受口先端が前記延設部の内径側に入り込むように構成されているのが好ましい。このようにすると、耐震継手の伸縮機能を維持しつつ、継手に圧縮方向および屈曲方向の力が作用したときに、屈曲防止効果を確実に発揮することができる。また、既設管への継手屈曲防止金具の取り付けに際し、挿し側管体の挿し口近傍のみ掘削すればよいため、掘削量を削減でき工期を短縮することができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明では、上記の継手屈曲防止金具を採用したので、継手に圧縮方向および屈曲方向の力が作用したときに、この継手が所定角度を超えて屈曲するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明に係る継手屈曲防止金具の一実施形態を示す正面図
図2図1中のII-II線に沿う断面図
図3図1に示す継手屈曲防止金具の断面図であって、(a)は第一変形例、(b)は第二変形例
図4】この発明に係る継手屈曲防止構造の一実施形態を示す断面図
図5図4に示す継手屈曲防止構造に圧縮方向と屈曲方向の力が作用した状態を示す断面図
図6】継手屈曲角と曲げモーメントの関係を示す図
図7】管路に圧縮方向と屈曲方向の力が作用したときの継手の屈曲角の計算結果を示す図
図8】主な断層のタイプを示す図であって、(a)は正断層(縦ずれ断層)、(b)は逆断層(縦ずれ断層)、(c)は左横ずれ断層、(d)は右横ずれ断層
図9】逆断層中に配設された管路を示す図であって、(a)は変位前、(b)は変位後
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明に係る継手屈曲防止金具1の一実施形態を図1および図2に示す。この継手屈曲防止金具1は、挿し側管体2の外周面に固定される円環状の基部3と、基部3から径方向外向きに延設された拡径部4と、拡径部4の外縁から管軸方向に延設された延設部5と、を有しており、挿し側管体2と接合される受け側管体6の受口が、継手屈曲防止金具1と当接することによって、挿し側管体2と受け側管体6の継手の屈曲角を規制する。
【0022】
基部3、拡径部4、および、延設部5は、周方向に2分割された分割片から構成され、両分割片をボルト・ナット7で連結することによって環状とされる。このように分割片とすると、既設管に対してもこの継手屈曲防止金具1をスムーズに取り付けることができる。また、既設管への継手屈曲防止金具1の取り付けに際し、挿し側管体2の挿し口近傍のみ掘削すればよいため、掘削量を削減でき工期を短縮することができる。なお、新設管の場合は、分割されていない環状の継手屈曲防止金具1を挿し側管体2の挿し口からそのまま挿入することもできる。
【0023】
基部3は、拡径部4の管軸方向幅よりも広い管軸方向幅を有する帯状の部材である。このように、管軸方向幅を広くしたことにより挿し側管体2に臨む座面が広くなるため、継手屈曲防止金具1を挿し側管体2の挿し口に安定して固定することができる。この基部3は、ボルト・ナット7を締め付けた際に、挿し側管体2に対して締まり嵌め気味となるようにその内径が設計されているため、その挿し口に基部3を確実に固定することができる。
【0024】
延設部5の延設方向に向く拡径部4の面には、径方向外側に向かうほど延設部5の延設方向と反対の方向(図2では左方向)に傾斜する傾斜部8が形成されている。この傾斜部8の傾斜角は、挿し側管体2に対する受け側管体6の許容曲げ角度程度(例えば、大口径管用の場合は2度程度、小口径管用の場合は4度程度)、および、最大屈曲角度以下(例えば、大口径管用の場合は4度程度、小口径管用の場合は8度程度)とするのが好ましい。また、傾斜部8が形成された面の反対側の面は、管軸方向に対してほぼ垂直に起立している。この拡径部4の径方向長さは特に限定されないが、この継手屈曲防止金具1を取り付けた挿し側管体2の外周面と延設部5との間の隙間に、この挿し側管体2と接合される受け側管体6の受口がスムーズに入り込める程度の長さとされる。
【0025】
延設部5の内径側および外径側の面は、その周方向断面において管軸方向に沿って平行に延びる面となっているが、内径側の面の端部側には、延設部5の先端に向かうほど内径側に傾斜する傾斜部9が形成されている。この傾斜部9の傾斜角は、拡径部4に形成された傾斜部8と同様に、挿し側管体2に対する受け側管体6の許容曲げ角度程度(例えば、大口径管用の場合は2度程度、小口径管用の場合は4度程度)、および、最大屈曲角度以下(例えば、大口径管用の場合は4度程度、小口径管用の場合は8度程度)とするのが好ましい。この延設部5の管軸方向長さは特に限定されないが、挿し側管体2に対して屈曲した受け側管体6の受口が、この延設部5から外れない程度の長さとされる(図5を参照)。
【0026】
この実施形態においては、拡径部4および延設部5の両方に傾斜部8、9を形成する構成としたが、拡径部4または延設部5の一方にのみ形成した構成とすることもできる。また、傾斜部8、9を形成しない構成とすることもできる。
【0027】
延設部5の延設側を向く拡径部4の面、および、延設部5の内径側の面には、受け側管体6の受口との間に介在する弾性部材10が設けられている。弾性部材10を設けることにより、挿し側管体2に対する受け側管体6の傾斜角が、拡径部4に形成された傾斜部8の傾斜角、および、延設部5に形成された傾斜部9の傾斜角と整合しないときでも、その角度の差分に対応して弾性部材10が変形して面接触に近い状態が確保されるため、拡径部4や延設部5の破損を防止することができる。
【0028】
この実施形態においては、拡径部4および延設部5の両方に弾性部材10を設けた構成としたが、拡径部4または延設部5の一方にのみ設けた構成とすることもできる。また、弾性部材10を設けない構成とすることもできる。また、この弾性部材10の厚みなどの形状や素材などは、対象管の呼び径や継手形式に対応して適宜変更することができる。
【0029】
この継手屈曲防止金具1は、図3(a)に示すように、基部3の内径面に、挿し側管体2の挿し口外周面に形成された凹部11に嵌合する突起12を形成した構成とすることもできる。このようにすると、受け側管体6の受口がその管軸方向から拡径部4や延設部5に当接しても、この継手屈曲防止金具1が管軸方向にずれにくくなる。また、図3(b)に示すように、基部3と拡径部4に跨るリブ13、および、拡径部4と延設部5に跨るリブ14を形成することもできる。このようにすると、この継手屈曲防止金具1の強度を向上することができ、大きな外力が作用したときの変形や破損を防止することができる。
【0030】
この発明に係る継手屈曲防止構造15の一実施形態を図4に示す。この継手屈曲防止構造15は、挿し側管体2と、挿し側管体2と接合される受け側管体6と、挿し側管体2の挿し口の外周面に固定される上記の継手屈曲防止金具1と、を有しており、受け側管体6の受口が継手屈曲防止金具1の延設部5の内径側に入り込んだ状態で受口と継手屈曲防止金具1が当接することによって、挿し側管体2と受け側管体6の継手の屈曲角を規制する。本実施形態で示す継手は、接合された挿し側管体2と受け側管体6との間の管軸方向の伸縮を許容する耐震継手構造となっている。
【0031】
挿し側管体2の挿し口先端の外径側には、その先端側に向かって縮径する傾斜面を有するとともに、後端側に径方向に起立する壁面を有する係止突起16が形成されている。
【0032】
受け側管体6の受口内面には、ロックリング17が設けられている。このロックリング17は、周方向の一部に切れ込みが形成された環状の部材である。このロックリング17は、挿し側管体2と受け側管体6の接合の際に、係止突起16の傾斜面との当接によって一旦拡径してこの係止突起16を通過する。そして、その通過後に再び縮径し、引き抜き力の作用時に係止突起16の壁面と当接して抜け止め作用を発揮する。ロックリング17よりも受口先端側には、止水部材18が設けられている。この止水部材18は、環状のゴム材からなる部材であって、挿し側管体2と受け側管体6との間に介在して止水作用を発揮する。
【0033】
継手屈曲防止金具1は、図2で示したものと同じなので、詳細な説明は省略する。この継手屈曲防止金具1の挿し口の外周面への固定位置は、延設部5の先端が受け側管体6の受口先端よりも、管軸方向で挿し側管体2側となっており、挿し側管体2と受け側管体6が互いに接近することによって、受け側管体6の受口先端が延設部5の内径側に入り込むように位置決めされている。このようにすると、耐震継手の伸縮機能を維持しつつ、継手に圧縮方向および屈曲方向の力が作用したときに、屈曲防止効果を確実に発揮することができる。また、継手屈曲防止金具1を取り付ける挿し側管体2の挿し口近傍のみ掘削すればよいため、掘削量を削減でき工期を短縮することができる。
【0034】
例えば、管路が配設されている逆断層に変位が生じると(図9(a)参照)、継手に作用する圧縮方向および屈曲方向の力によって、図5に示すように継手が屈曲することがある。このとき、継手の屈曲内側では、受口の端面が弾性部材10を介して拡径部4の傾斜部8に当接する一方で、屈曲外側では、受口の外周面が弾性部材10を介して延設部の傾斜部9に当接する。継手の屈曲角と各傾斜部8、9の傾斜角が近いときは、受口の端面および外周面と各傾斜部8、9はほぼ面接触状態となる。
【0035】
本願発明に係る継手屈曲防止金具1を設けた場合と設けない場合において、継手の屈曲挙動について数値解析を実施した。この数値解析に用いた管路、地盤、および、断層の条件は表1に示す通りである。また、使用した管の長さ、および、本願に係る継手屈曲防止金具1の取り付け状況は表2に示す通りである。なお、この数値解析に用いるモデルでは、継手の屈曲角が6度(絶対値を示す。以下同様。)となったときに、図5に示すように、挿し口と受口が直接接触するとともに、継手屈曲防止金具1と受口が接触するとした。また、表2に示すいずれの場合も、1本の管の中央部で断層Fと管路Nが交差するものとした(図9(a)(b)を参照)。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
継手の挙動を表現する継手ばね特性のうち、回転方向の特性を図6に示す。呼び径がΦ300のGX形ダクタイル鉄管は、継手が6度以上屈曲すると挿し口と受口が直接接触して大きな曲げモーメントが発生する。本願に係る継手屈曲防止金具1を取り付けていない場合(図6中の破線のグラフを参照)、継手の屈曲角の増加とともに曲げモーメントも連動して増加する。この屈曲角が最大屈曲角度となる許容範囲の例えば8度を超えると、継手からの漏水などの可能性が高まる。
【0039】
これに対し、本願に係る継手屈曲防止金具1を取り付けた場合(図6中の実線のグラフを参照)、継手屈曲角の増加に対して曲げモーメントの増加が急峻となった。これは、継手屈曲防止金具1の剛性によって、継手の屈曲が抑制されたためと考えられる。これにより、屈曲角が許容範囲の8度を超えにくく、継手からの漏水などの問題が生じにくい。
【0040】
継手屈曲角の計算結果を図7に示す。定尺6m管の場合(比較例1)、断層位置にある中央の管に断層の変位に伴う傾斜が集中し、この中央の管の両端の継手(図7において「〇」で表記する。)で大きな屈曲角が発生する(最大値17.4度)。このため、屈曲角の許容範囲を大きく超え、継手からの漏水などの問題が生じるおそれがある。また、管長を短縮して2m管を採用すると(比較例2)、断層位置にある中央の管とともにその両隣の管も傾斜しやすくなるため、この中央の管の両隣の継手における屈曲角はやや小さくなるものの(最大値11.1度)、依然として屈曲角の許容範囲を超えている。
【0041】
これに対し、2m管の挿し側管体2の挿し口に本願に係る継手屈曲防止金具1を取り付けた場合(実施例)、断層位置にある中央の管の両隣の管のさらに隣の管も傾斜しやすくなるため、傾斜角の最大値を許容範囲内(最大値7度)に抑制することができる。このため、継手の屈曲に起因する漏水などの問題を抑制することができる。
【0042】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味およびすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0043】
1 継手屈曲防止金具
2 挿し側管体
3 基部
4 拡径部
5 延設部
6 受け側管体
7 ボルト・ナット
8、9 傾斜部
10 弾性部材
11 凹部
12 突起
13、14 リブ
15 継手屈曲防止構造
16 係止突起
17 ロックリング
18 止水部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9