(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150481
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】多孔質シリコン材料の製造方法、多孔質シリコン材料及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
C01B 33/02 20060101AFI20220929BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20220929BHJP
H01G 11/46 20130101ALI20220929BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20220929BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20220929BHJP
【FI】
C01B33/02 Z
H01M4/38 Z
H01G11/46
H01G11/06
H01G11/86
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053105
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川浦 宏之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 涼
(72)【発明者】
【氏名】近藤 康仁
(72)【発明者】
【氏名】長廻 尚之
(72)【発明者】
【氏名】松原 賢東
(72)【発明者】
【氏名】早稲田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 光俊
【テーマコード(参考)】
4G072
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072AA20
4G072AA21
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5H050HA06
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】Siを含む材料において、充放電特性の低下をより抑制する。
【解決手段】本開示の多孔質シリコン材料の製造方法は、SiとAlとTiとを含む原料を溶融し急冷凝固させシリコン合金の前駆体を得る前駆体工程と、シリコン合金に含まれるAl成分を除去して多孔質シリコン材料を得る多孔化工程と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiとAlとTiとを含む原料を溶融し急冷凝固させシリコン合金の前駆体を得る前駆体工程と、
前記シリコン合金に含まれるAl成分を除去して多孔質シリコン材料を得る多孔化工程と、
を含む多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項2】
前記前駆体工程では、SiとTiとAlとの全体を100at%としたときに、Tiを5at%以上20at%以下の範囲で含み、Alを50at%以上80at%以下の範囲で含み、残部をSiとする前記原料を用いる、請求項1に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項3】
前記多孔化工程では、酸又はアルカリによってAl成分を選択的に除去する、請求項1又は2に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項4】
前記多孔化工程では、SiTi化合物及びAlSiTi化合物を含む前記多孔質シリコン材料を得る、請求項1~3のいずれか1項に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項5】
前記多孔化工程では、平均空隙率が50体積%以上90体積%以下の範囲の前記多孔質シリコン材料を得る、請求項1~4のいずれか1項に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項6】
前記前駆体工程では、前記シリコン合金の溶湯をガスアトマイズ法、水アトマイズ法及びロール急冷法のうちいずれかの方法で平均粒径が0.1μm以上100μm以下の範囲に粒子化する、請求項1~5のいずれか1項に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項7】
水銀圧入法で求めた細孔径の分布範囲が1nm以上1000nm以下の範囲であり、空隙を有する三次元網目構造の骨格状シリコンを含み、SiTi化合物及びAlSiTi化合物を含み、平均空隙率が50体積%以上90体積%以下の範囲である、
多孔質シリコン材料。
【請求項8】
前記SiTi化合物であるSi3Ti5を10mol%以上30mol%以下の範囲で含有し、前記AlSiTi化合物であるTi33Al15Si52を15mol%以上60mol%以下の範囲で含有する、請求項7に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項9】
平均空隙率が60体積%以上である、請求項7又は8に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項10】
正極活物質を含む正極と、
請求項7~9のいずれか1項に記載の多孔質シリコン材料を負極活物質として含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、多孔質シリコン材料の製造方法、多孔質シリコン材料及び蓄電デバイスを開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンの負極材料において、塊状のSiを70質量部とAl粉末を30質量部混合したのちアルゴン雰囲気下で合金溶湯と、ヘリウムガスによるガスアトマイズ法で粒子化したのち、塩酸でAlを除去して得られた多孔質シリコンが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この多孔質シリコンでは、充放電時の活物質体積の膨張収縮による微粉化、集電体からの活物質の剥離や導電材との接触の欠如を完全に抑制することができるとしている。また、シリコン材料の製造方法としては、Mg、Co、Cr、Cu、Feなどを含む中間合金元素と、SiとのSi合金を、所定の溶湯元素を含む溶湯中で中間合金元素と溶湯元素とを置換した第2相とSi微粒子とに分離させ、第2相を除去することによって、多孔質シリコン材料を得るものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この多孔質シリコン材料では、高容量と高サイクル特性を有するものとすることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-214054号公報
【特許文献2】特開2012-82125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1の製造方法では、SiとAlとを含む合金を用いて多孔化しているが、Siの膨張収縮に基づく不具合の抑制に対しては、まだ十分ではなかった。特許文献2の多孔質シリコン材料の製造方法では、中間合金元素を含むシリコン合金を溶融し、所定の溶湯元素を含む溶湯中で置換する、即ち高温での処理が必要であり、簡便な製造工程が求められていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、充放電特性の低下をより抑制することができる多孔質シリコン材料の製造方法、多孔質シリコン材料及び蓄電デバイスを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、共晶組成近傍である配合比のAlに更にTiを含むシリコン合金を作製し、Alを酸及び又はアルカリ処理で除去すると、充放電特性の低下をより抑制することができる多孔質シリコン材料を得ることができることを見いだし、本開示の多孔質シリコン材料の製造方法、多孔質シリコン材料及び蓄電デバイスを完成するに至った。
【0007】
即ち、本開示の多孔質シリコン材料の製造方法は、
SiとAlとTiとを含む原料を溶融し急冷凝固させシリコン合金の前駆体を得る前駆体工程と、
前記シリコン合金に含まれるAl成分を除去して多孔質シリコン材料を得る多孔化工程と、
を含むものである。
【0008】
本開示の多孔質シリコン材料は、
水銀圧入法で求めた細孔径の分布範囲が1nm以上1000nm以下の範囲であり、空隙を有する三次元網目構造の骨格状シリコンを含み、SiTi化合物及びAlSiTi化合物を含み、平均空隙率が50体積%以上90体積%以下の範囲であるものである。
【0009】
本開示の蓄電デバイスは、
正極活物質を含む正極と、
上述した多孔質シリコン材料を負極活物質として含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示は、Siを含む材料において、充放電特性の低下をより抑制することができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、リチウムイオン二次電池用シリコン負極は、理論容量が4199mAh/gであり、一般的な黒鉛の理論容量372mAh/gに比べ約10倍の値を示し、さらなる高容量化、高エネルギー密度化が期待されている。一方で、リチウムイオンを吸蔵したシリコンはLi4.4Siであり、リチウム吸蔵前のシリコンに対して約4倍まで体積が膨張する。本開示では、シリコン合金に含まれる、シリコン以外のAl成分を溶解する酸またはアルカリを用いることによってこれを選択的に除去し、細孔サイズが小さく、空隙率の大きい多孔質シリコン材料を容易に生産できる。また、微細構造としてTiを含む化合物が含まれており、この化合物によってシリコン骨格が強化されるため、充放電の繰り返しによる骨格の変動に伴う容量劣化をより抑制することができる。このように細孔サイズが小さく、空隙率が大きい多孔質シリコン材料では、リチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスに用いた場合、体積の膨張、収縮が大きく緩和されるため、例えば、充放電サイクル特性など充放電特性が向上するので、性能の高い蓄電デバイスを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図。
【
図5】実験例1~3の酸処理前後のXRD測定結果。
【
図6】実験例1の多孔質シリコン材料の細孔分布曲線。
【
図7】実験例2の多孔質シリコン材料の細孔分布曲線。
【
図8】実験例3の多孔質シリコン材料の細孔分布曲線。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(多孔質シリコン材料の製造方法)
本開示の多孔質シリコン材料の製造方法は、前駆体工程と、多孔化工程とを含む。前駆体工程では、SiとAlとTiとを含む原料を溶融し急冷凝固させシリコン合金の前駆体を得る処理を行う。多孔化工程では、シリコン合金に含まれるAl成分を除去して多孔質シリコン材料を得る処理を行う。まず、原料組成について説明する。
【0013】
図1は、Al-Si-Tiの三元系の状態図である。一般的に、共晶系A-B合金の平衡状態図において、液相線が極小となる共晶組成の融液を凝固させると、A相とB相とが繊維状(ラメラ状)に相分離した共晶組織が形成される。このとき、形成されるラメラ組織のサイズは、冷却速度が速いほど細かくなり、1000℃/s以上の冷却速度では、ナノサイズの組織が形成される。この共晶組織から、酸処理によりA元素のみを選択除去することができれば、共晶組織を特徴としたB元素からなる材料を得ることができる。微細構造は、共晶組成付近でA元素とB元素との組成を調整することで変化し、B元素からなる晶出相が連結した構造を有する多孔体となる。合金中のA元素としてAlを、B元素としてSiおよびTiを考えると、Al-Si-Tiの三元共晶組成近傍では、SiTi化合物、AlSiTi化合物、Siが晶出するともに、初晶のAl、AlTi化合物が晶出あるいは析出することが平衡状態図からわかる。凝固組織はSiTi化合物、AlSiTi化合物、AlTi化合物、共晶Si、初晶Si、初晶Alからなるラメラ組織を形成する。酸に溶出する化合物としては、初晶Al、AlTi化合物が挙げられるため、酸処理後の構造は、残存するSiTi化合物、AlSiTi化合物、共晶Si、初晶Siからなる骨格状の多孔体が得られるものと推察される。
【0014】
(前駆体工程)
前駆体工程では、SiとTiとAlとの全体を100at%としたときに、Tiを5at%以上20at%以下の範囲で含み、Alを50at%以上80at%以下の範囲で含み、残部をSiとする原料を用いることが好ましい。なお、原料には、不可避的不純物を含むものとしてもよい。不可避的不純物としては、Si,Ti、Alのいずれかの精製の際に不可避的に残存する成分であり、例えば、FeやC、Cu、Ni、Pなどが挙げられる。不可避的不純物は、より少ないことが好ましく、例えば、SiとTiとAlとの全体を100at%としたときに、5at%以下が好ましく、2at%以下がより好ましい。Tiの配合比は、例えば、7.5at%以上が好ましく、10at%以上としてもよい。また、Tiの配合比は、17.5at%以下が好ましく、15at%以下としてもよい。Alの配合比は、60at%以上が好ましく、65at%以上がより好ましい。また、Alの配合比は、77.5at%以下が好ましく、75at%以下としてもよい。AlやTiをこのような範囲で含むシリコン合金では、空隙率をより高めると共に、より好適な形状、サイズの空隙を得ることができ好ましい。Alの含有量が多いと、溶融して合金としたあと、急速冷却するとAlの単相が大きく析出するので、多くの空隙を形成させることができる。この冷却速度は、より急冷であることが好ましく、例えば、溶融状態から102℃/s以上108℃/s以下の範囲としてもよい。この工程では、共晶組成となる範囲でAlを含むシリコン合金を用いることが好ましい。共晶組成は、Alが87.6質量%であり、Siが12.6質量%であるが、共晶組成近傍としてもよく、亜共晶組成や過共晶組成の一部など、所定の幅を有するものとしてもよい。例えば、共晶組成に対して±5質量%の範囲を含むものとしてもよい。
【0015】
この工程において、原料を溶解する場合は、Arなど不活性ガス雰囲気中の高周波るつぼ溶解が好ましいが、いかなる溶解手法を用いても構わない。前駆体工程では、原料から得られた合金を粒子化するものとしてもよい。この粒子化処理では、シリコン合金の原料の溶湯を金型に鋳造して、得られたインゴットを破砕して粒子化するものとしてもよい。また、シリコン合金を粒子化する方法は、シリコン合金の溶湯をガスアトマイズ法、水アトマイズ法及びロール急冷法などのうち1以上としてもよい。ガスアトマイズ法及び水アトマイズ法では合金粉末が得られる。一方、ロール急冷法では薄帯合金が得られることから、その後粉砕して粉末にするものとしてもよい。ロール急冷法で得られた粉末は合金組織が微細となるため、溶出処理後に微細な細孔を有する多孔質シリコンを得ることができる。このうち、シリコン合金を粒子化する方法は、ガスアトマイズ法がより好ましい。ガスアトマイズでは、溶湯とする際にAr雰囲気で行うことが好ましく、粒子化の際は、ArやHe雰囲気下で行うことが好ましい。
【0016】
前駆体工程では、平均粒径が0.1μm以上100μm以下の範囲でシリコン合金を粒子化することが好ましい。この粒子は、例えば、平均粒径が0.5μm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上5μm以下がより好ましく、1μm以上3μm以下が更に好ましい。シリコン合金の粒子は、蓄電デバイスに求められる特性に応じて適宜選択すればよい。ここで、粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で粒子を観察し、各粒子の長径をその粒子の直径として集計し、粒子数で除算して平均した値として求めるものとする。この粒子化処理で得られた粒子は、最終的に得ようとする多孔質粒子の集合体の平均粒径となる。
【0017】
この前駆体工程では、第1元素とSiとに加えCa、Cu、Mg、Na、Sr及びPのうち1以上を含む第2元素を含む原料を用いてもよい。このうち、第2元素としては、Ca、Na及びSrのうち1以上が好ましい。第2元素は、AlやTiの含有量よりも少ないことが好ましく、例えば、シリコン合金の全体に対して。10質量%以下の範囲が好ましく、5質量%以下の範囲より好ましい。
【0018】
(多孔化工程)
多孔化工程では、上記作製したシリコン合金の粒子からSi以外の物質を除去する処理を行う。Si以外の物質としては、例えば、Alやその化合物、Tiやその化合物などが挙げられる。この工程では、酸又はアルカリによってAl成分、即ちAl相やその化合物を選択的に除去することが好ましい。用いる酸またはアルカリは、シリコン合金中のシリコン以外の元素及び/又は化合物を溶出し、シリコンが溶出されないものが好ましく、塩酸、硫酸、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。この酸又はアルカリは、水溶液とすることが好ましい。酸又はアルカリの濃度は、Alやその化合物、Tiやその化合物を除去できる範囲であれば特に限定されず、例えば、1mol/L以上5mol/L以下の範囲などにすることができる。この除去処理は、例えば、30℃~60℃で加温するものとしてもよい。また、除去処理は、シリコン合金の粒子を酸又はアルカリ溶液に浸漬し、1~5時間程度で撹拌を行うことがこのましい。得られた多孔質シリコン材料は、その後、洗浄および乾燥を行う。
【0019】
多孔化工程では、Si以外の物質を85質量%以上100質量%以下の範囲で除去するものとしてもよい。例えば、AlやTi、その他の酸素などは、残存しても構わないが、電極活物質として利用する際には、充放電容量の観点からは、より少ない方が好ましい。また、AlやTiなどの成分は、シリコン骨格を補強し、耐久性向上の観点からは、所定量以上含まれることが、好ましい。この工程では、SiTi化合物及びAlSiTi化合物を含む多孔質シリコン材料を得るものとしてもよい。SiTi化合物としては、例えば、SixTiy(x、yは任意の数)としてもよく、Si3Ti5やSi4Ti5などが挙げられる。また、AlSiTi化合物としては、例えば、AlaSibTic化合物(a、b、cは任意の数)としてもよく、Ti33Al15Si52(τ2)などが挙げられる。SiTi化合物やAlSiTi化合物は、酸又はアルカリに難溶であるものとしてもよい。
【0020】
多孔化工程では、Si,SiTi化合物及びAlSiTi化合物の全体を100mol%としたときに、SiTi化合物を10mol%以上30mol%以下の範囲で含有する多孔質シリコン材料を得ることが好ましい。また、多孔質シリコン材料において、SiTi化合物は、12.5mol%以上含有することが好ましく、15mol%以上含有するものとしてもよい。また、多孔質シリコン材料において、SiTi化合物は、25mol%以下含有することが好ましく、22.5mol%以下含有するものとしてもよい。また、この工程では、Si,SiTi化合物及びAlSiTi化合物の全体を100mol%としたときに、AlSiTi化合物を15mol%以上60mol%以下の範囲で含有する多孔質シリコン材料を得ることが好ましい。また、多孔質シリコン材料において、AlSiTi化合物は、17.5mol%以上含有することが好ましく、20mol%以上含有するものとしてもよい。また、多孔質シリコン材料において、AlSiTi化合物は、65mol%以下含有することが好ましく、50mol%以下含有するものとしてもよい。この工程では、Si3Ti5及びTi33Al15Si52が残存する多孔質シリコン材料を得ることが好ましい。
【0021】
多孔化工程では、平均空隙率が50体積%以上90体積%以下の範囲の多孔質シリコン材料を得るものとしてもよい。この平均空隙率は、水銀ポロシメータで測定した値とする。この平均空隙率は、例えば、60体積%以上であることが好ましく、70体積%以上としてもよい。また、平均空隙率は、例えば、85体積%以下であることが好ましく、80体積%以下としてもよい。
【0022】
(多孔質シリコン材料)
本開示の多孔質シリコン材料は、上述した製造方法で作製されたものとしてもよい。ここでは、多孔質シリコン材料の各物性などについて、上述した製造方法と同様であるものとしてその詳細な説明を省略する。この多孔質シリコン材料は、水銀圧入法で求めた細孔径の分布範囲が1nm以上1000nm以下の範囲であるものとする。この細孔径は、10nm以上としてもよいし、50nm以上としてもよいし、100nm以上としてもよい。また、この細孔径は、500nm以下としてもよいし、300nm以下としてもよいし、250nm以下としてもよい。この多孔質シリコン材料において、水銀圧入法で求めた平均細孔径は、10nm以上1000nm以下の範囲としてもよいし、50nm以上250nm以下の範囲としてもよい。
【0023】
多孔質シリコン材料は、空隙を有する三次元網目構造の骨格状シリコンを含み、SiTi化合物及びAlSiTi化合物を含む。このSiTi化合物及びAlSiTi化合物は、シリコン骨格の補強を担うものと推察される。この多孔質シリコン材料は、SiTi化合物を10mol%以上30mol%以下の範囲で含有することが好ましい。また、多孔質シリコン材料は、AlSiTi化合物を15mol%以上60mol%以下の範囲で含有することが好ましい。
【0024】
多孔質シリコン材料は、平均空隙率が50体積%以上90体積%以下の範囲である。この平均空隙率は、60体積%以上であることが好ましい。この平均空隙率は、水銀ポロシメータで測定した値とする。
【0025】
多孔質シリコン材料は、平均粒径が0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上がより好ましく、5μm以上としてもよい。また、この粒子は、平均粒径が10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、3μm以下が更に好ましい。この多孔質シリコン材料は、酸素や不可避的不純物を除き、Si、Al及びTiの全体を100at%としたときに、Siを45at%以上含むことが好ましい。このSiの含有率は、より高いことが好ましく、50at%以上としてもよい。Alの含有率は、5at%以上25at%以下としてもよく、10at%以上としてもよいし、12.5at%以上としてもよい。また、Alの含有率は、20at%以下としてもよいし、15at%以下としてもよい。Tiの含有率は、15at%以上50at%以下としてもよく、20at%以上としてもよいし、25at%以上としてもよい。また、Tiの含有率は、40at%以下としてもよいし、35at%以下としてもよい。また、多孔質シリコン材料は、15質量%以下の範囲で第2元素としてのCa、Cu、Mg、Na、Sr及びPのうち1以上を含むものとしてもよい。なお、Si以外の元素は、より少ないことが好ましい。
【0026】
(蓄電デバイス用電極)
蓄電デバイス用電極は、上述した多孔質シリコン材料を電極活物質として備えたものである。この電極は、電極活物質の電位に対して対極の電位に基づいて正極又は負極のいずれかとなるが、リチウムをキャリアとする場合、負極とすることが好ましい。この電極は、例えば、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などに利用することができる。蓄電デバイス用電極は、多孔質シリコン材料の平均空隙率が5体積%以上50体積%以下の範囲に圧縮されているものとしてもよい。この電極では、作製時に圧縮することにより、多孔質シリコン材料の空隙率が減少したものとしてもよい。多孔質シリコン材料の空隙率が5体積%以上50体積%以下の範囲で作製したものに比して、50体積%以上95体積%で作製したのち圧縮してこの範囲としたものの方が、空隙の形状などによって、より良好な充放電特性を示す。例えば、多孔質シリコンの粒子をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いる場合、細孔が小さいほどリチウムイオンが合金化する際に、均一に合金化するため、応力集中が減少し、電極そのものの劣化を防ぐことが可能となる。この圧縮後の多孔質シリコン材料の平均空隙率は、蓄電デバイス用電極に求められる特性に応じて適宜調整すればよく、例えば、10体積%以上や、20体積%以上としてもよい。また、この圧縮後の多孔質シリコン材料の平均空隙率は、例えば、40体積%以下や、30体積%以下としてもよい。
【0027】
蓄電デバイス用電極は、集電体上に上述した多孔質シリコン材料を形成し、集電体上に固着したものとしてもよい。この電極は、多孔質シリコン材料を必要に応じて導電材や結着材と溶媒に混合しペースト状にして集電体上に塗布する工程か、多孔質シリコン材料を必要に応じて導電材や結着材と混合して集電体に圧着する工程により作製することができる。この電極において、多孔質シリコン材料の含有量は、より多いことが好ましく、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましい。導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。溶媒としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体は、活物質の電位などに応じて適宜選択すればよいが、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、銅、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。活物質複合体の形成量は、蓄電デバイスに求められる所望の性能に応じて適宜設定すればよい。
【0028】
この電極において、電極活物質は、低拘束圧と容量維持率との両立が可能な範囲において、多孔質シリコン材料に加えて、多孔質シリコン材料以外の活物質が含まれていてもよい。例えば、電極活物質として、炭素質材料やLi4Ti5O12などが含まれていてもよい。ただし、電池容量を一層増大させる観点から、電極活物質全体を100質量%として、例えば、多孔質シリコン材料が50質量%以上、好ましくは90質量%以上を占めることが好ましい。
【0029】
(蓄電デバイス)
本開示の蓄電デバイスは、上述した多孔質シリコン材料を有する電極を備えたものである。この蓄電デバイスは、正極と、負極と、正極及び負極の間に介在しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものとしてもよい。多孔質シリコン材料は、負極活物質として用いることができる。この蓄電デバイスは、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などのうちいずれかであるものとしてもよい。正極において、正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMncO2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV2O3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV2O5などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、Li(1-x)Ni1/3Co1/3Mn1/3O2などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、AlやMgなど他の元素を含んでもよい趣旨である。あるいは、正極活物質は、キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどに用いられている炭素質材料としてもよい。炭素質材料としては、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素質材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。正極に用いられる導電材や結着材、溶媒、集電体などは、上述した電極で例示したものを適宜利用することができる。
【0030】
イオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0031】
また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、固体のイオン伝導性ポリマーをイオン伝導媒体として用いることもできる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、フッ化ビニリデンなどのポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲルを用いることができる。更に、イオン伝導性ポリマーと非水系電解液とを組み合わせて用いることもできる。また、イオン伝導媒体としては、イオン伝導性ポリマーのほか、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0032】
蓄電デバイスは、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0033】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
図2は、蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図である。この蓄電デバイス10は、正極12と、負極15と、イオン伝導媒体18とを有する。正極12は、正極活物質13と、集電体14とを有する。負極15は、負極活物質16と、集電体17とを有する。負極活物質16は、上述した多孔質シリコン材料21であり、空隙23を有する。
【0034】
(全固体リチウムイオン二次電池)
この蓄電デバイスは、全固体リチウムイオン二次電池とすることが好ましい。全固体電池では、電解液による性能の変化をより抑制することができ、更に安全性を高めることができ好ましい。この全固体リチウムイオン二次電池は、正極活物質を含む正極と、上述した蓄電デバイス用電極である負極と、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導する固体電解質と、を備えたものとしてもよい。正極は、上述した蓄電デバイスに示したいずれかを用いることができる。また、負極は、上述した蓄電デバイス用電極を用いることができる。
【0035】
固体電解質は、例えば、LiとLaとZrと少なくとも含むガーネット型酸化物としてもよい。この固体電解質は、基本組成がLi7.0+x-y(La3-x,Ax)(Zr2-y,Ty)O12であるものとしてもよい。但し、AはSr、Caのうち1種以上であり、TはNb、Taのうち1種以上であり、0<x≦1.0、0<y<0.75を満たすものである。あるいは、固体電解質は、基本組成(Li7-3z+x-yMz)(La3-xAx)(Zr2-yTy)O12や、(Li7-3z+x-yMz)(La3-xAx)(Y2-yTy)O12で表されるガーネット型酸化物であるものとしてもよい。但し、式中、元素MはAl,Gaのうち1以上、元素AはCa,Srのうち1以上、TはNb,Taのうち1以上であり、0≦z≦0.2、0≦x≦0.2、0≦y≦2であるものとしてもよい。この基本組成式において、0.05≦z≦0.1を満たすことがより好ましい。この基本組成式において、0.05≦x≦0.1を満たすことがより好ましい。また、この基本組成式において、0.1≦y≦0.8を満たすことがより好ましい。このような範囲では、イオン伝導度をより好適なものとすることができる。
【0036】
あるいは、固体電解質としては、例えば、一般的な、Li3N、LISICONと呼ばれるLi14Zn(GeO4)4、硫化物のLi3.25Ge0.25P0.75S4、ペロブスカイト型のLa0.5Li0.5TiO3、(La2/3Li3x□1/3-2x)TiO3(□:原子空孔)、ガーネット型のLi7La3Zr2O12、NASICON型と呼ばれるLiTi2(PO4)3、Li1.3M0.3Ti1.7(PO3)4(M=Sc,Al)などが挙げられる。また、ガラスセラミックスである80Li2S・20P2S5(mol%)組成のガラスから得られたLi7P3S11、さらに硫化物系で高い導電率を持つ物質であるLi10Ge2PS2なども挙げられる。ガラス系無機固体電解質ではLi2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-Li4SiO4、Li2S-P2S5、Li3PO4-Li4SiO4、Li3BO4-Li4SiO4、そしてSiO2、GeO2、B2O3、P2O5をガラス系物質としてLi2Oを網目修飾物質とするものなどが挙げられる。また、チオリシコン固体電解質としてLi2S-GeS2系、Li2S-GeS2-ZnS系、Li2S-Ga2S2系、Li2S-GeS2-Ga2S3系、Li2S-GeS2-P2S5系、Li2S-GeS2-SbS5系、Li2S-GeS2-Al2S3系、Li2S-SiS2系、Li2S-P2S5系、Li2S-Al2S3系、LiS-SiS2-Al2S3系、Li2S-SiS2-P2S5系などが挙げられる。これらの固体電解質は、板状に形成して正極と負極との間に配置するものとしてもよい。
【0037】
また、全固体リチウムイオン二次電池は、正極、固体電解質及び負極を積層した積層体を積層方向に対して拘束する拘束部材を備えるものとしてもよい。この拘束部材は、例えば、積層体の積層方向の両端側から積層体を挟む1対の板状部と、1対の板状部を連結する棒状部と、棒状部に連結されネジ構造等によって1対の板状部の間隔を調整する調整部とを備えるものとしてもよい。
【0038】
以上詳述したように、本開示は、Siを含む材料において、充放電特性の低下をより抑制することができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、リチウムイオン二次電池用シリコン負極は、理論容量が4199mAh/gであり、一般的な黒鉛の理論容量372mAh/gに比べ約10倍の値を示し、さらなる高容量化、高エネルギー密度化が期待されている。一方で、リチウムイオンを吸蔵したシリコンはLi4.4Siであり、リチウム吸蔵前のシリコンに対して約4倍まで体積が膨張する。本開示によれば、シリコン合金に含まれる、シリコン以外のAl成分物質を溶解する酸またはアルカリを用いることによってこれを選択的に除去し、細孔サイズが小さく、空隙率の大きい多孔質シリコン材料を容易に生産できる。また、微細構造としてTiを含む化合物が含まれており、この化合物によってシリコン骨格が強化されるため、充放電の繰り返しによる骨格の変動に伴う容量劣化をより抑制することができる。このように細孔サイズが小さく、空隙率が大きい多孔質シリコン材料では、リチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスに用いた場合、体積の膨張、収縮が大きく緩和されるため、例えば、充放電サイクル特性など充放電特性が向上するので、性能の高い蓄電デバイスを容易に得ることができる。
【0039】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例0040】
以下には、本開示の多孔質シリコンおよび蓄電デバイスを具体的に作製した例を実験例として説明する。実験例1~3が本開示の実施例であり、実験例4が比較例である。
【0041】
[多孔質シリコン材料の作製]
(実験例1)
10mm角の塊状のAlを72質量%と、塊状のSi及びスポンジ状Tiをそれぞれ15質量%秤量して混合し、Ar不活性雰囲気中において高周波加熱法により溶解して合金溶湯とした。この合金溶湯をAr不活性ガスを用いたガスアトマイズ法によって平均粒径3μmのAlSiTi合金粉末を得た(前駆体工程)。急冷速度は、106℃/sとした。得られた粉末に対してX線回折を行ったところ、結晶質相としてのSi、Al相、Si相及び(Al,Si)3Tiの存在が確認された。この合金粉末は、Si、τ2(Ti33Al15Si52)、(Al,Si)3Ti、Si3Ti5およびAlを含むものであった。原子組成では、Al-15at%Si-7.5at%Tiである。次に、得られた合金粉末を純水中に希釈した3mol/Lの塩酸に入れ、室温25℃で1時間攪拌したのち十分に洗浄しながら濾過し、30℃の真空乾燥炉で2時間乾燥した(多孔化工程)。このようにして、実験例1の多孔質シリコン材料を作製した。
【0042】
(実験例2)
Alを64質量%、Siを19質量%、スポンジTiを16.5質量%を用いた以外は上記実験例1と同様にして実験例2の多孔質シリコン材料を作製した。原子組成にするとAl-20at%Si-10at%Tiである。実験例1と同様の条件で酸処理を行い、実験例2の多孔質シリコン材料とした。
【0043】
(実験例3)
Alを56質量%、Siを23.5質量%、スポンジTiを20質量%を用いた以外は上記実験例1と同様にして実験例3の多孔質シリコン材料を作製した。原子組成にするとAl-25at%Si-12.5at%Tiである。実験例1と同様の条件で酸処理を行い、実験例3の多孔質シリコン材料とした。
【0044】
(実験例4)
平均粒径が5μmのSi粉末を実験例4のシリコン材料とした。
【0045】
(多孔質シリコン材料の物性測定)
酸処理後の多孔質シリコン粉末をHFとHNO3とで溶解し、ICP発光分光分析(ICP-OES,日立ハイテクサイエンス製PS3520UVDDII II)で元素分析を行った。また、走査電子顕微鏡(SEM,HITACHI製S-4300)およびエネルギー分散型X線分析(EDAX,HITACHI製S-4300)で観察、元素分析を行った。また、水銀ポロシメータ(カンタクローム製POWERMASTER60GT)で細孔分布を測定した。
【0046】
(結果と考察)
図3は、実験例2の多孔質シリコンの表面SEM像であり、
図4は、実験例2の多孔質シリコンの断面SEM像である。
図3に示すように、酸処理によって、Si合金から初晶AlなどのAl成分が溶出し、多孔質シリコン粒子になっていることが確認された。また、
図4に示すように、その粒子断面を観察すると、Siの三次元網目構造の骨格状シリコン上にSiTi化合物及びAlSiTi化合物が析出した構造が確認された。
【0047】
図5は、実験例1~3のアトマイズ粉末の酸処理前後のXRD測定結果である。アトマイズ処理後では結晶質相としてのSi、(Al,Si)
3TiおよびAl相及びSi相の存在が確認された。一方、酸処理後では、Si、τ2(Ti
33Al
15Si
52)、Si
3Ti
5相が検出された。したがって、酸処理によって、Al相、(Al,Si)
3Tiが溶出され、この部分が細孔となったものと推察された。
【0048】
図6~8は、実験例1~3の多孔質シリコン材料の水銀ポロシメーターによる細孔分布測定結果である。水銀ポロシメータでは粒子間の空隙も検出されるが、SEM観察の結果も踏まえると、細孔サイズは1μm未満であると算出された。水銀ポロシメータから求めたポーラスシリコン粉末の細孔分布は、5nm以上200nm以下の範囲であり、細孔サイズは80nm近傍で最も多かった。水銀ポロシメータで得られた実験例1~3の空隙率は、それぞれ、79体積%、61体積%、52体積%であった。
【0049】
実験例1~4の原料の原子組成(at%)、多孔質シリコン材料の化合物組成(mol%)、元素組成(at%)、水銀圧入法による空隙率(体積%)及び平均細孔径の測定結果を表1にまとめた。実験例1~3の多孔質シリコン材料では、化合物組成は、Siが29~63mol、Si3Ti5が15~22mol、τ2(Ti33Al15Si52)が21~50molの範囲内であった。また、実験例1~3の空隙率は、52~79体積%であり、平均細孔径は60nm~100nmであり、高い多孔性を有することがわかった。
【0050】
【0051】
(非水系電解液を用いたリチウム二次電池の作製)
実験例1~4の各々のシリコン材料を負極活物質とし、これを60質量%、導電材として平均粒径2μmのアセチレンブラックを20質量%、結着材としてのポリイミドを20質量%、秤量して混合し、N-メチルピロリドンを加えてから攪拌して負極合材スラリーを作製した。次に、このスラリーを厚さ20μmの銅箔上に塗布して乾燥し、これを圧延して厚さ50μmの負極電極を作製した。この圧延によって、多孔質シリコン材料は、三次元網目構造を維持したまま、その空隙率が50体積%程度に減少したものと見積もられた。作製した負極電極を直径16mmの円形に打ち抜き、この負極電極に多孔質ポロエチレン製セパレータを挟んで対極として金属リチウムを重ねて積層体とした。続いて、フルオロエチレンカーボネート(FEC)/炭酸エチレン(EC)/炭酸ジメチル(DMC)/炭酸エチルメチル(EMC)を体積比で1.5:3:4:3で混合した混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で添加した電解液を上記積層体へ注液することにより、トムセル型小型電池セルであるリチウム二次電池を製造した。得られたリチウム二次電池に対して、電池電圧0.005V~1.5Vの範囲で0.2Cの電流密度による充放電を10サイクル繰り返し行った。
【0052】
(非水系電解液を用いたリチウム二次電池の特性)
実験例1~4の初回放電容量(mAh/g)、10サイクル後の放電容量(mAh/g)及び容量維持率(%)をまとめて表2に示した。容量維持率は、1サイクル目の放電容量Q1と、10サイクル目の放電容量Q10とを用い、Q10/Q1×100の式から求めた。
実験例1~3では、シリサイド相やτ2相が存在し、Si相が相対的に少ないため、実験例4に比して初回放電容量は小さい傾向を示した。一方、実験例4は、10サイクル後には、容量維持率が28%と低下した。これは、空隙を有さないシリコン粒子では、体積変化を吸収することができず、電極に不具合が発生したものと推察された。一方、実験例1~3のリチウム二次電池では、容量維持率が91~93%と良好な値を示し、電極が安定的であることがわかった。実験例1~3のように、空隙率60体積%以上を示す多孔質シリコン材料に、更にTiを含む化合物相を有すると、Si骨格を補強することなどによってサイクル特性の低下をより抑制し、容量維持率を高めることができることがわかった。
【0053】
【0054】
なお、本発明は上述した実験例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
10 蓄電デバイス、12 正極、13 正極活物質、14 集電体、15 負極、16 負極活物質、17 集電体、18 イオン伝導媒体、21 多孔質シリコン材料、23 空隙。