(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150501
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】酸化物材料の洗浄装置、および洗浄方法
(51)【国際特許分類】
C01B 13/11 20060101AFI20220929BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20220929BHJP
B08B 3/12 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C01B13/11 Z
H05H1/24
B08B3/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053132
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000183369
【氏名又は名称】住友精密工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 学
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 光紀
【テーマコード(参考)】
2G084
3B201
4G042
【Fターム(参考)】
2G084AA03
2G084BB37
2G084CC03
2G084CC19
2G084CC34
2G084DD01
2G084DD12
2G084DD22
2G084FF03
3B201AA02
3B201AA46
3B201AB02
3B201AB53
3B201BB99
3B201BC01
4G042CA01
4G042CB23
4G042CC16
4G042CE04
(57)【要約】
【課題】比較的簡単な構造でありながら、酸化物材料を洗浄できる洗浄装置、および洗浄方法を提案する。
【解決手段】洗浄装置は、酸素ガス中に配置される第1電極と、前記酸素ガス中に配置される酸化物材料と、前記第1電極とに交流電圧を印加することにより、該第1電極と該酸化物単結晶材料との間で無声放電を生じさせる電源部とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素ガス中に配置される第1電極と、
前記第1電極および前記酸素ガス中に配置される酸化物材料に交流電圧を印加することにより、該第1電極と該酸化物材料との間で無声放電を生じさせる電源部とを備えた
酸化物材料の洗浄装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記酸化物材料は、基板に積層される酸化物薄膜である
酸化物材料の洗浄装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記酸化物材料を設置することが可能となっており、前記電源部に電気的に接続される金属材料からなる第2電極を備えている
酸化物材料の洗浄装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つにおいて、
前記酸化物材料を収容するとともに開口が形成される密閉容器と、
前記密閉容器の開口を開閉する扉と、
前記密閉容器内の前記酸化物材料を前記開口まで搬送する搬送機構とを備えている
酸化物材料の洗浄装置。
【請求項5】
前記酸素ガス中に配置される第1電極および酸化物材料に、交流電圧を印加することにより、前記第1電極と前記酸化物材料の間で無声放電を生じさせる放電工程を含む
酸化物材料の洗浄方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記酸化物材料は、基板に積層される酸化物薄膜であり、
前記放電工程では、前記第1電極と前記酸化物薄膜との間で無声放電を生じさせる
酸化物材料の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酸化物材料の洗浄装置、および洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物単結晶材料などの酸化物材料は、超伝導体、強誘電体、透明伝導体など様々な特性を有しており、電子部品やセンシングデバイスなどに広く適用されている。
【0003】
特許文献1には、酸化物単結晶材料の洗浄方法が開示されている。具体的には、特許文献1では、高圧の洗浄水(純水)をノズルから酸化物単結晶材料(酸化物単結晶基板)に噴射する。これにより、酸化物単結晶基板の汚れが除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の洗浄方法では、高圧の純水を噴霧するために装置が大型化したり、複雑化したりする。
【0006】
本開示の目的は、比較的簡単な構造でありながら、酸化物材料を洗浄できる洗浄装置、および洗浄方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明では、酸素ガス中において、第1電極と酸化物材料との間に交流電圧を印加し無声放電を生じさせることとした。
【0008】
具体的には、洗浄装置は、酸素ガス中に配置される第1電極と、該第1電極および前記酸素ガス中に配置される酸化物材料に交流電圧を印加することにより、該第1電極と該酸化物材料との間で無声放電を生じさせる電源部とを備える。
【0009】
この構成により、酸化物材料の表面近傍では、酸素ガス中の無声放電に伴ってオゾン分子、酸素ラジカルなどを生成できるので、これらのオゾン分子、酸素ラジカルにより酸化物材料の汚れを除去できる。無声放電により酸化物材料の汚れを除去できるため、装置の構造も簡素化できる。これにより、装置のコンパクト化、低コスト化を図ることができる。洗浄装置を、様々なアプリケーションにコンポーネントとして組み込むことができる。
【0010】
酸化物材料は、基板に積層される酸化物薄膜であることが好ましい。
【0011】
特に酸化物薄膜を積層した対象物をスパッタリングなどで洗浄した場合に、酸化物薄膜の結晶性が乱れてしまったとする。この場合、酸化物薄膜の結晶性を改善するために、高温で熱処理する必要がある。しかし、酸化物薄膜を高温で熱処理すると、基板と酸化物薄膜との間の界面で相互拡散が生じてしまう。
【0012】
これに対し、本願発明では、無声放電により酸化物薄膜の結晶性がほとんど乱れないので、結晶性を改善するための高温の熱処理も不要となる。この結果、基板と酸化物薄膜との間での相互拡散を抑制できる。
【0013】
洗浄装置は、酸化物材料を設置することが可能となっており、電源部に電気的に接続される金属材料からなる第2電極を備えているのが好ましい。
【0014】
この構成では、第1電極と第2電極との間に交流電圧を印加することで、第1電極と酸化物材料との間で無声放電を確実に生じさせることができる。
【0015】
洗浄装置は、前記酸化物材料を収容するとともに開口が形成される密閉容器と、前記密閉容器の開口を開閉する扉と、前記密閉容器内の前記酸化物材料を前記開口まで搬送する搬送機構とを備えている
のが好ましい。
【0016】
この構成では、試験設備などにおいて、洗浄後の酸化物材料が外気に触れることなく、この酸化物材料を所定の試験場所まで搬送できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡便な洗浄装置、あるいは洗浄方法でありながら、酸化物材料表面の結晶性をほとんど乱すことなく、汚染のみを除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る洗浄装置の概略の構成図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る洗浄方法の前後における対象物の表面を分析した結果である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係る洗浄方法の後の対象物の表面を低速電子線回折により解析した結果である。
【
図4】
図4は、実施形態2に係る洗浄装置の概略の構成図である。
【
図5】
図5は、実施形態2に係る洗浄方法の前後における対象物の表面を分析した結果である。
【
図6】
図6は、実施形態2に係る洗浄方法の後の対象物の表面を低速電子線回折により解析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0020】
《実施形態1》
(1)洗浄装置の構成
図1は、実施形態1に係る洗浄装置20の概略の構成図である。本実施形態の洗浄装置20は、酸化物材料である酸化物単結晶材料11を含む対象物10を評価するための試験設備に組み込まれる。洗浄装置20は、酸化物単結晶材料11に付着した汚れを取り除く。洗浄された対象物10は、種々の試験の試料として用いられる。
【0021】
実施形態1に係る酸化物単結晶材料11は、二酸化チタン(TiO2)である。
【0022】
洗浄装置20は、ガス供給部21、放電容器22、および放電装置30を備える。
【0023】
ガス供給部21は、原料ガスを放電容器22に供給する。原料ガスは、酸素ガスである。酸素ガスは、少なくとも99.9%以上の酸素ガスを含んでいるのが好ましい。本実施形態の酸素ガスは、99.9999%の高純度酸素ガスである。
【0024】
ガス供給部21の酸素ガスは、供給配管23を経由して放電容器22へ供給される。供給配管23は、酸素ガス中の水分を除去するための水除去部を有するのが好ましい。水除去部は、例えばコールドトラップで構成される。コールドトラップは、酸素ガスを冷却し、凝縮した水分を捕捉する。
【0025】
放電容器22は、密閉式の真空容器である。本実施形態の放電容器22の酸素圧は約0.1MPaである。放電装置30が無声放電(バリア放電ともいう)を生じさせると、放電容器22内の酸素ガスからオゾンガスが生成する。放電容器22のオゾンガスは、排出管(図示省略)を経由して放電容器22の外部へ排出される。
【0026】
放電装置30は、第1電極40と、第2電極50と、電源部60とを有する。第1電極40と第2電極50とは、放電容器22の内部に配置される。第1電極40は、対象物10の上側に配置される。第2電極50は、対象物10の下側に配置される。つまり、対象物10である酸化物単結晶材料11は、第1電極40と第2電極50との間に配置される。
【0027】
第1電極40は、電極本体41と誘電体42とを有する。電極本体41は、金属電極である。本実施形態の電極本体41は棒状に形成される。電極本体41の先端(下端)は、対象物10を指向する。誘電体42は、上端が開放された有底筒状に形成される。誘電体42の内部に電極本体41が挿入される。誘電体42は、ガラスやセラミックスなどで構成される。
【0028】
第2電極50は、金属材料で構成される。本実施形態の第2電極50の上面は、酸化物単結晶材料11が設置される設置面である。つまり、第2電極50は、対象物10を支える支持部材を兼用している。第2電極50は、対象物10を保持するための保持具を有しているのが好ましい。保持具は、保持板と、加圧部材とを備える。保持板と第2電極50との間に対象物10を挟み込む。この状態で、保持板と第2電極とを加圧部材により加圧する。これにより、対象物10を第2電極50の上側に確実に保持できる。
【0029】
対象物10は、第2電極50の設置面の上に置かれる。酸化物単結晶材料11は、第1電極40と離れ、第2電極50と接触する。これにより、酸化物単結晶材料11は、第2電極50と通電する。第1電極40と酸化物単結晶材料11とは、互いに対向する。第1電極40と酸化物単結晶材料11との間には、放電ギャップGが形成される。放電ギャップGは、酸素ガス雰囲気となる。
【0030】
電源部60は、交流の高圧電源を含む。電源部60の高圧側は電極本体41と電気的に接続する。これにより、電極本体41を内蔵した第1電極40は、高圧電極を構成する。電源部60の低圧側(接地側)は第2電極50と電気的に接続する。つまり、第2電極50は、低圧電極を構成する。
【0031】
厳密には、電源部60の低圧側(接地側)は第2電極50を介して酸化物単結晶材料11と電気的に接続する。つまり、酸化物単結晶材料11は、実質的には無声放電を生じさせるための電極として機能する。
【0032】
電源部60は、第1電極40と酸化物単結晶材料11との間で無声放電を生じさせるように、第1電極40と酸化物単結晶材料11との間に交流電圧を印加する。本実施形態の電源部60は、5~10kvの交流電圧を供給する。電源部60から供給される交流電圧の周波数は、1kHz以上、30kHz以下であることが好ましい。本実施形態の電源部60の電源周波数は、10kHzである。
【0033】
(2)洗浄装置の動作
洗浄装置20の動作について説明する。
【0034】
まず、放電容器22を真空状態にする、あるいは放電容器22内の酸素以外のガスをセパレータなどにより外部へ排出する工程が行われる。
【0035】
次いで、ガス供給部21は、酸素ガスを放電容器22に供給する(供給工程)。これにより、放電容器22内は高純度の酸素ガス雰囲気となる。
【0036】
電源部60は、高周波の交流電圧を第1電極40および第2電極50に印加する。その結果、第1電極40と酸化物単結晶材料11との間で無声放電が生じる。換言すると、電源部60は、高周波の交流電圧を第1電極40および酸化物単結晶材料11に印加することにより、第1電極40と酸化物単結晶材料11との間で無声放電を生じさせる(放電工程)。
【0037】
放電ギャップGにおいて、酸素ガス雰囲気下で無声放電が生じると、酸素原子などのラジカルが生成され、ひいてはオゾンガスが生成される。
【0038】
このように第1電極40と酸化物単結晶材料11との間で無声放電が生じることで、酸化物単結晶材料11に付着した汚れが取り除かれる。これにより、酸化物単結晶材料11が洗浄される。
【0039】
このような洗浄動作の後には、酸素ガスやオゾンガスを放電容器22の外部に排出する工程、あるいは、放電容器22内を次の試験や工程に必要なガス雰囲気に置換する工程が行われる。
【0040】
(3)洗浄作用について
酸化物単結晶材料11から汚れが取り除かれる作用は、以下の2つの要因によって得られるものと推察できる。
【0041】
(a)洗浄装置20では、無声放電によりオゾン分子や酸素ラジカルなどが生成される。このオゾンガスにより、酸化物単結晶材料11の表面の汚れ(例えば炭素分)が酸化分解され、汚れが取り除かれる。
【0042】
(b)無声放電により、酸化物単結晶材料11の表面にイオンなどが周期的に衝突する。イオン衝突により、酸化物単結晶材料11の表面の汚れを取り除くことができる。
【0043】
(4)洗浄効果の検証結果
洗浄装置20の洗浄効果を検証した結果について説明する。
【0044】
(4-1)XPSの試験結果
図2は、洗浄装置20の洗浄前の二酸化チタン(対象物A)と、洗浄後の二酸化チタン(対象物B)について、X線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)を用いて、各表面を分析した結果である。入射X線には、MgKα線を用いた。なお、対象物Aは、アニール処理を行った後、大気下に半年間放置している。
【0045】
図2において、対象物Aでは、結合エネルギーが300ev付近(
図2の一点鎖線で囲んだ部分)において炭素のピークが確認された。このことから、二酸化チタンを長期間大気下に放置することで、その表面に汚れが付着してしまうことが確認できる。
【0046】
これに対し、洗浄装置20で洗浄を行った対象物Bでは、この炭素のピークが全く表れなくなった。このことから、実施形態1に係る洗浄装置20により、二酸化チタンの汚れを十分に取り除けることを確認できる。
【0047】
(4-2)低速電子線回折測定の結果
図3は、洗浄処理後の対象物Bの表面を低速電子線回折測定(LEED:Low energy electron diffraction)により解析した結果である。入射電子線のエネルギーは146eVである。
図3に示すように、対象物Bにおいては、複数のスポットSからなるクリアなLEEDパターンが確認できる。このことから、上述した無声放電を行ったとしても、二酸化チタンの結晶性が損なうことなく、二酸化チタンの汚れを除去できることが確認できる。
【0048】
本実施形態の電源部60は、交流電源であるため、直流電源と比べると、酸化物単結晶材料11に作用するイオン衝撃の頻度が少なくなる。このことが、酸化物単結晶材料11の結晶性の維持に寄与すると推察できる。
【0049】
(5)実施形態1の効果
以上のように、実施形態1の洗浄装置20および洗浄方法では、無声放電により酸化物単結晶材料11の表面の汚れを除去できる。無声放電を生じる装置は、比較的単純な構成であるため、装置の簡素化、小型化、および低コスト化を図ることができる。このため、実施形態1に係る洗浄装置20を、試験設備などに簡便に導入できる。
【0050】
上述した試験結果からわかるように、本実施形態1では、酸化物単結晶材料11の結晶性を損なうことなく、その表面の汚れを除去できる。加えて、酸化物単結晶材料11の汚れを短時間で除去できる。
【0051】
洗浄装置20では、酸化物単結晶材料11自体を電極として利用している。このため、洗浄装置20の簡素化を図ることができる。
【0052】
実施形態1では、イオン衝撃を行うことなしに、清浄かつ結晶性の良い二酸化チタン表面を作製することができる。本手法により作製した二酸化チタン表面を光触媒反応の表面科学的研究に利用できる。
【0053】
対象物10である酸化物単結晶材料11は、例えば酸化亜鉛(ZnO)であってもよい。この場合、汚れや結晶性の乱れがほとんどない酸化亜鉛を試料として得ることができる。このため、例えばこの酸化亜鉛をガスセンサの研究のための試料として利用できる。
【0054】
《実施形態2》
次いで実施形態2の洗浄装置20について説明する。以下では、主として実施形態1と異なる点について説明する。
【0055】
図4は、実施形態2に係る洗浄装置20の概略の構成図である。実施形態2は、実施形態1と対象物10が異なる。実施形態2の対象物10は、単結晶の基板12と、基板12上に積層される酸化物単結晶薄膜13とを含む。実施形態2の基板12は、酸化マグネシウム(MgO)である。酸化物単結晶薄膜13は、酸化物単結晶材料としての四酸化三鉄(Fe
3O
4)である。
【0056】
実施形態2の対象物10は、実施形態1と同様、第2電極50の上側に設置される。酸化物単結晶薄膜13は、第1電極40に対向する。実施形態2は、酸化物単結晶薄膜13が電極として機能する。第1電極40と酸化物単結晶薄膜13との間に放電ギャップGが形成される。
【0057】
実施形態2の洗浄装置20では、電源部60が第1電極40と酸化物単結晶薄膜13とに交流電圧を印加することにより、第1電極40と酸化物単結晶薄膜13との間で無声放電を生じさせる。これにより、放電ギャップにおいてオゾンガスや酸素ラジカルが生成され、酸化物単結晶薄膜13の汚れが取り除かれる。
【0058】
図5は、洗浄装置20の洗浄前の酸化物単結晶薄膜(対象物C)と、洗浄後の酸化物単結晶薄膜(対象物D)について、XPSにて各表面を分析した結果である。なお、対象物Cは、大気下に取り出された後、低真空条件下において約半年間保管されたものである。
【0059】
図5において、対象物Cでは、結合エネルギーが300eV付近(
図5の一点鎖線で囲んだ部分)において炭素のピークが確認された。このことから、実施形態2に係る対象物Cの表面には汚染物が付着していることが確認できる。
【0060】
これに対し、洗浄装置20で洗浄を行った対象物Dでは、この炭素のピークが全く表れなくなった。このことから、実施形態2に係る洗浄装置20により、酸化物単結晶薄膜13の汚れを十分に取り除けることを確認できる。
【0061】
図6は、洗浄処理後の対象物Dの表面をLEED測定により解析した結果である。入射電子線のエネルギーは93eVである。
図6に示すように、対象物Dにおいては、複数のスポットSからなるクリアなLEEDパターンが確認できる。このことから、上述した無声放電を行ったとしても、酸化物単結晶薄膜13の結晶性が損なうことなく、その汚れを除去できることが確認できる。
【0062】
本実施形態の電源部60は、交流電源であるため、直流電源と比べると、酸化物単結晶薄膜13に作用するイオン衝撃の頻度が少なくなる。このことが、酸化物単結晶薄膜13の結晶性の維持に寄与すると推察できる。
【0063】
以上のように、実施形態2に係る洗浄装置20および洗浄方法においても、無声放電により酸化物単結晶薄膜13の汚れを除去できる。無声放電を生じさせる装置は、比較的単純な構成であるため、装置の簡素化、小型化、および低コスト化を図ることができる。このため、実施形態2に係る洗浄装置20を、試験設備などに簡単に導入できる。
【0064】
上述した試験結果からわかるように、本実施形態2では、酸化物単結晶薄膜13の結晶性を損なうことなく、その表面の汚れを除去できる。加えて、酸化物単結晶薄膜13の汚れを短時間で除去できる。
【0065】
洗浄装置20では、酸化物単結晶薄膜13自体を電極として利用している。このため、洗浄装置20の簡素化を図ることができる。
【0066】
仮にスパッタリングにより対象物10を洗浄すると、酸化物単結晶薄膜13の結晶性が乱れてしまう可能性がある。この場合、対象物10を高温(例えば600℃)で加熱することにより、酸化物単結晶薄膜13の結晶性を回復させることが考えられる。しかし、このように対象物10を高温で加熱すると、基板12(酸化マグネシウム)と、その表面の酸化物単結晶薄膜13(四酸化三鉄)との間で相互拡散が生じ、対象物10の物性が大きく変化してしまう。
【0067】
これに対し、実施形態2では、上述のようなスパッタリングにより酸化物単結晶薄膜13の結晶性が乱れないため、上述のような高温加熱の工程が不要となる。このため、相互拡散に起因して対象物10の物性が大きく変化してしまうことを回避できる。
【0068】
四酸化鉄を酸化物単結晶薄膜13として無声放電を行うと、四酸化三鉄(Fe3O4)が酸化され三酸化第二鉄(Fe2O3)に変化する可能性がある。この場合、対象物10を真空下で中温(例えば200℃)で加熱することで(加熱工程)、三酸化第二鉄を四酸化三鉄に戻すことができる。この場合、上記のように対象物10を高温まで加熱しないため、上述したような、酸化物単結晶薄膜13と基板12との間での相互拡散も抑制できる。このように、洗浄方法では、上述した放電工程の後、対象物を、相互拡散が生じない温度で加熱する加熱工程を行ってもよい。
【0069】
《その他の実施形態》
上記各実施形態では、以下のような構成を採用してもよい。
【0070】
上記各実施形態の洗浄装置20は、密閉容器と、扉と、搬送機構とを備えていてもよい。密閉容器は、酸化物材料を収容する気密性の高い容器である。密閉容器には、その内部と外部とを連通する開口が形成される。扉は、密閉容器の開口を開閉する。洗浄装置20の洗浄動作では、扉が開口を閉じる状態となる。対象物10の洗浄動作が終了すると、搬送機構は、対象物10を開口付近まで搬送する。この構成により、例えば試験設備などにおいて、洗浄後の対象物10を外気に触れることなしに所定箇所(試験場所等)に搬送させることができる。扉を開けることで、対象物10を試験場所に取り出し、所定の試験や測定を行うことができる。扉は搬送機構による対象物の移動が終了すると、所定の駆動源によって自動的に開状態になってもよいし、手動により開閉できるものであってもよい。
【0071】
上記各実施形態の洗浄装置20は、洗浄動作を自動的に終了させてもよい。具体的には、洗浄装置20は、制御装置とタイマ部とを有する。タイマ部には、洗浄動作を実行させる時間を任意に設定できる。タイマ部がカウントする時間が所定時間に達すると、制御装置は、洗浄装置20の洗浄動作を終了させる。
【0072】
洗浄装置20は、洗浄動作において、対象物10の汚れが除去されたことを検出する検出部を有してもよい。検出部は、例えばX線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)等の表面分析法を用いて、対象物10の汚れを検出する。検出部により、対象物10の汚れ(例えば炭素)が除去されたことが検出されると、制御装置は、洗浄装置20の洗浄動作を終了させる。
【0073】
洗浄装置20は、第1電極40と酸化物材料との間の放電ギャップGを調整する調整機構を有してもよい。調整機構は、第1電極40と第2電極50との距離を調節するアジャスタを含む。アシャスタは、所定の駆動源によって、または手動によって、第1電極40と第2電極50との距離を調節する。これにより、第1電極40と酸化物材料との間の放電ギャップを最適に調節できる。
【0074】
ここで、調節機構は、第1電極40と対象物10(厳密には、酸化物材料)との間の放電ギャップGを計測する計測部を有してもよい。計測部は、例えばレーザ式の距離測定器で構成される。調整機構は、計測部で計測した放電ギャップGが最適になるようにアジャスタを自動で制御する。これにより、対象物10の形状や厚みが変化したとしても、洗浄装置20では、第1電極40と対象物10との間の放電ギャップGを最適な距離に調節でき、所望の無声放電を生じさせることができる。
【0075】
上述した酸化物材料は、酸化物単結晶材料である。しかし、酸化物材料は、多結晶酸化物であってもよい。また、上述した酸化物薄膜は、酸化物単結晶薄膜でなくてもよく、酸化物多結晶薄膜であってもよい。また、上述した基板は、金属材料なくてもよく、樹脂材料であってもよい。
【0076】
第1電極40は、平板状であってもよい。この場合、第1電極40と酸化物材料とを互いに平行に配置するとよい。
【0077】
第2電極50に誘電体42を設けてもよい。第1電極40と第2電極50との双方に誘電体42を設けてもよい。
【0078】
第2電極50を省略した構成としてもよい。この場合、電源部60の低圧側(接地側)を、第2電極50を介さずに酸化物材料に電気的に接続する構成としてもよい。
【0079】
洗浄装置20は、必ずしも試験設備に組み込まれなくてもよく、単独の装置であってもよい。また、洗浄装置20は、例えば半導体を含む電子部品の製造設備に組み込まれてもよい。
【0080】
本開示の基板、および酸化物単結晶薄膜は、以下のような構成、および用途に利用されてもよい。
【0081】
酸化マグネシウム(MgO)は、強磁性薄膜からなる酸化物単結晶薄膜(例えばFe、Fe3O4)を成長させる基板として用いられる。これらの強磁性薄膜は、ハードディスクの磁気ヘッドや磁場センサに用いられる。
【0082】
アルミナ(Al2O3)は、窒素化合物半導体かなる酸化物単結晶薄膜(例えばGaN)を成長させる基板として用いられる。窒素化合物半導体は、青色LED,白色LED,青色レーザなどに用いられる。アルミナ(Al2O3)は、誘電体や超伝導体薄膜を成長させる基板としても用いられる。
【0083】
チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)は、強誘電体(例えばBaTiO3)や超伝導体薄膜からなる酸化物単結晶薄膜を成長させる基板として用いられる。BaTiO3などの強誘電体は、積層セラミックコンデンサなどに用いられる。
【0084】
洗浄装置20を試験の試料の洗浄に利用する場合、超伝導体、強磁性体、強誘電体、透明導電体などの酸化物単結晶材料を洗浄の対象物10とすることができる。
【0085】
試料を例えば研究機関において製作した後、その試料の特性を外部の大型施設で詳細に分析することがある。この場合、試料を搬送する過程において、試料が大気中に暴露されるため、試料が炭素や水などにより汚染されてしまう。本開示に係る洗浄装置20および洗浄方法は、このような大気中の暴露に起因する汚れを、表面の結晶性に損傷を与えることなく、分析や評価の直前の段階にて除去できる。このため、本開示の洗浄装置20および洗浄方法を様々な試験用途に利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上説明したように、本発明は、酸化物単結晶材料の洗浄装置、および洗浄方法として有用である。
【符号の説明】
【0087】
10 対象物
11 酸化物単結晶材料(酸化物材料)
12 基板
13 酸化物単結晶薄膜(酸化物材料)
20 洗浄装置
40 第1電極
50 第2電極
60 電源部