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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150664
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】偏心プラグ弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 47/02 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
F16K47/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053361
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】松原 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】真本 英光
(72)【発明者】
【氏名】畠 明宏
【テーマコード(参考)】
3H066
【Fターム(参考)】
3H066AA01
3H066BA03
3H066BA17
3H066BA32
3H066BA33
(57)【要約】
【課題】高い流量係数を確保しつつ、キャビテーションの発生を抑制することが可能な偏心プラグ弁を提供する。
【解決手段】流体が流入する流入路9と、流体が流出する流出路10と、弁室12とが内部に形成され、弁室12の流入路9側に弁箱弁座6を有する弁箱2と、弁室12内に設けられて、弁箱弁座6と接離して弁室12の流入口を開閉する弁体3と、流入口の下流側に設けられて、弁箱2の外部から弁室12内に気体を送り込む給気路4と、を有する構成とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流入する流入路(9)と、流体が流出する流出路(10)と、弁室(12)とが内部に形成され、前記弁室(12)の前記流入路(9)側に弁箱弁座(6)を有する弁箱(2)と、
前記弁室(12)内に設けられて、前記弁箱弁座(6)と接離して前記弁室(12)の流入口を開閉する弁体(3)と、
前記流入口の下流側に設けられて、前記弁箱(2)の外部から前記弁室(12)内に気体を送り込む給気路(4)と、
を有する偏心プラグ弁。
【請求項2】
前記弁体(3)が閉弁状態から開弁状態に切り替えられる際に前記弁体(3)が向かう前記弁室(12)の壁面と対向する壁面側に前記給気路(4)が設けられている請求項1に記載の偏心プラグ弁。
【請求項3】
前記流出路(10)に、前記弁体(3)を通過した流体と前記給気路(4)から送り込まれた気体の混合に伴って生じた噴流の飛沫が前記弁室(12)の下流側壁面に当たるのを防止して、この飛沫を前記流出路(10)の下流側に向かって誘導する飛沫誘導部(13)が形成されている請求項1または2に記載の偏心プラグ弁。
【請求項4】
前記飛沫誘導部(13)が、前記流入路(9)の管径DINに対して、前記流出路(10)の管径DOUTを拡大することによって形成された請求項3に記載の偏心プラグ弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ダム放流設備、上水道、石油化学プラント、工業用水などの液体運搬用配管において、遮断弁や流量調整弁として使用される偏心プラグ弁に関する。
【背景技術】
【0002】
ダム放流設備、上水道、石油化学プラント、工業用水などの液体運搬用配管においては、例えば下記特許文献1に示すように、流量係数が高く配管径を小さくすることが可能なボール弁や偏心プラグ弁が採用されることがある。ところが、特にダムで使用される放流弁などのように、高差圧の条件で使用される弁は、弁体が中間開度のときに流動が部分的に狭められることによって縮流が生じ、その縮流に伴う圧力降下によって流体内に気泡が発生するキャビテーションが生じることがある。キャビテーションによって生じた気泡は、配管などに衝突すると、壊食、騒音、振動などの原因となる。
【0003】
このキャビテーションを防止するために、例えば下記特許文献2に示すボール弁においては、空気を弁体の下流側に導入する構成を採用している(引用文献2のFig.1などを参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-118044号公報
【特許文献2】特開昭60-208672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に示す構成によると、弁体の下流側でのキャビテーションの発生を抑制することができるものの、本文献に示すように、ボール弁は、弁体の上流側と下流側の2か所に弁座を有し、その両方で、圧力降下に伴うキャビテーションが生じるおそれがある。この特許文献2の構成では、下流側の弁座近傍でのキャビテーションの発生を抑制できたとしても、上流側の弁座近傍でのキャビテーションの発生を抑制できない。上流側でのキャビテーションを抑制するには、上流側の弁座の下流にもピンポイントで給気する必要があるが、その近傍への給気は、ボール弁ではその構造上難しい。
【0006】
そこで、この発明は、高い流量係数を確保しつつ、キャビテーションの発生を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、この発明では、流体が流入する流入路と、流体が流出する流出路と、弁室とが内部に形成され、前記弁室の前記流入路側に弁箱弁座を有する弁箱と、前記弁室内に設けられて、前記弁箱弁座と接離して前記弁室の流入口を開閉する弁体と、前記流入口の下流側に設けられて、前記弁箱の外部から前記弁室内に気体を送り込む給気路と、を有する偏心プラグ弁を構成した。
【0008】
このように、弁室の流入口を開閉する形式の偏心プラグ弁を用い、その流入口の下流側に気体を送り込むようにすることで、高い流量係数を確保しつつ、高差圧の使用条件下におけるキャビテーションの発生を抑制することができる。
【0009】
前記構成においては、前記弁体が閉弁状態から開弁状態に切り替えられる際に前記弁体が向かう前記弁室の壁面と対向する壁面側に前記給気路が設けられている構成とするのが好ましい。このようにすると、弁体を閉弁状態から開弁状態とする際に、弁箱弁座と弁体の間に生じる隙間が給気路のすぐ近傍となって、キャビテーションが生じやすいこの隙間の近傍に速やかに気体を送り込むことができる。このため、キャビテーションを効果的に抑制することができる。
【0010】
前記各構成においては、前記流出路に、前記弁体を通過した流体と前記給気路から送り込まれた気体の混合に伴って生じた噴流の飛沫が前記弁室の下流側壁面に当たるのを防止して、この飛沫を前記流出路の下流側に向かって誘導する飛沫誘導部が形成されている構成とするのが好ましい。飛沫が弁室の下流側壁面に当たるとそれが流動損失となるおそれがあるが、この飛沫を飛沫誘導部で下流側に向かって誘導することによって、流体のスムーズな流動を維持することができる。
【0011】
前記飛沫誘導部を形成する構成においては、前記飛沫誘導部が、前記流入路の管径DINに対して、前記流出路の管径DOUTを拡大することによって形成された構成とするのが好ましい。このようにすると、簡便な構成で飛沫をスムーズに下流側に誘導することができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明では、弁室の流入口を開閉する形式の偏心プラグ弁を用い、その流入口側に気体を送り込むようにしたので、高い流量係数を確保しつつ、高差圧の使用条件下におけるキャビテーションの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】この発明に係る偏心プラグ弁の一実施形態を示す正面図
図2図1に示す偏心プラグ弁を流入路側から見た側面図
図3図1に示す偏心プラグ弁の平面図
図4図2中のIV-IV線に沿う断面図(全閉状態)
図5図1中のV-V線に沿う断面図(全閉状態)
図6図4において中間開度とした状態を示す断面図
図7図4において全開とした状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明に係る偏心プラグ弁1の一実施形態を図面に基づいて説明する。この偏心プラグ弁1は、ダム放流設備、上水道、石油化学プラント、工業用水などの液体運搬用配管に用いられ、ボール弁と同様に、特に高差圧の条件で使用した際のキャビテーションの抑制に優れている。この偏心プラグ弁1は、図1から図5に示すように、弁箱2と、弁体3と、給気路4を主要な構成要素としている。
【0015】
この実施形態に係る偏心プラグ弁1は、弁体3を回転させる弁棒5(駆動側弁棒5a、従動側弁棒5b)が弁体3から管軸方向に偏心し(一次偏心)、弁箱2(流路)の軸心に対して弁箱弁座6の中心が管径方向に偏心し(二次偏心)、さらに、弁箱弁座6の当接面を構成する円錐の中心軸が弁箱2(流路)の軸心に対して傾斜した(三次偏心)、多重偏心弁であるが、種々の形式の偏心弁(一次偏心弁、二次偏心、三重偏心弁、および、四重偏心弁など)に対し適用することができる。
【0016】
弁箱2は、流体の流入側の第一弁箱2aと、流出側の第二弁箱2bから構成されている。第一弁箱2aと第二弁箱2bは、ボルト7によって一体化されている。第一弁箱2aには、配管接続用のフランジ8と、流体が流入する流入路9が形成されている。この流入路9の終端には、管軸方向から見て円形をなし楕円球面の一部から構成される弁箱弁座6が形成されている。なお、この実施形態においては、弁箱2(第一弁箱2a)と弁箱弁座6を一体に構成したが、この弁箱2と弁箱弁座6を別部材で構成することもできる。
【0017】
第二弁箱2bには、流体が流出する流出路10と、給気路4を取り付けるための取り付け穴11が形成されている。一体化された弁箱2の内部には、略球面状の内面を有する弁室12が形成されている。なお、この実施形態においては、第二弁箱2bに流出路10と取り付け穴11を形成したが、第一弁箱2aに流出路10と取り付け穴11を形成した構成とすることもできる。また、弁室12の内面は、略球面状に限定されず、開閉弁時に弁体3が弁室12内に収まった状態でスムーズに回転することができる限りにおいて、四角形状などとすることもできる。
【0018】
流出路10には、飛沫誘導部13が形成されている。この飛沫誘導部13は、弁体3を通過した流体と給気路4から送り込まれた気体の混合に伴って生じた噴流の飛沫が弁室12の下流側壁面に当たるのを防止して、この飛沫を流出路10の下流側に向かって誘導する役目を有している。この実施形態においては、飛沫誘導部13は、流入路9の管径DINに対して、流出路10の管径DOUTを拡大することによって形成された流出路10の拡径部である。このようにすると、飛沫をスムーズに下流側に誘導でき、飛沫の衝突防止効果を発揮させることができる。ここでは、流入路9の管径DINと流出路10の管径DOUTの比DOUT/DINを約1.3としたが、この比DOUT/DINを、1<DOUT/DIN≦1.4の範囲内とするのが好ましい。このように、DOUT/DINの範囲を1.4以下とすると、管径DOUTの拡大に伴う経済性の低下(コストの上昇)を防止することができる。
【0019】
弁体3には、弁箱弁座6に当接して弁室12への流入口を開閉する、楕円球面の一部から構成される弁体弁座14が形成されている。このように弁体3を配置すると、弁室12内が流体供給側の一次圧力が直接作用する接水部とならないため、弁室12内のボス部などで流体の剥離が生じて、この弁室12内でキャビテーションが生じるのを防止することができる。
【0020】
弁体3の内側には、流入路9の内径と同程度の内径の半円筒面15が形成されており、開弁時において流体が流入路9から弁室12内にスムーズに流れ込むことができるようになっている。弁体3の一方側の端部には駆動側弁棒5aが、他方側の端部には従動側弁棒5bが、それぞれ設けられている。両弁棒5a、5bは、第二弁箱2bに形成された貫通穴に軸受16、17を介して挿通されており、弁体3とともにその軸周りに回転可能となっている。弁体3と駆動側弁棒5a、および、弁体3と従動側弁棒5bの間にはそれぞれキー部材18、19が介在して設けられており、弁体3と各弁棒5a、5bが軸回りに相対回転するのを防止している。
【0021】
駆動側弁棒5aの端部は、減速機20に固定されている。この駆動側弁棒5aと減速機20の間にはキー部材21が介在して設けられており、駆動側弁棒5aと減速機20が軸回りに相対回転するのを防止している。減速機20には入力軸22が設けられており、この入力軸22を操作することにより弁体3を開閉することができる。
【0022】
給気路4は、弁室12の外部から内部に気体を送り込むための管であって、第二弁箱2bに形成された取り付け穴11に挿し込むことによって流入口(弁体3)の下流側に取り付けられている。この給気路4は、弁箱2に対して鉛直方向上向きに接続されている。これにより、偏心プラグ弁1を流れる流体がこの給気路4から流出するのを防止している。給気路4から導入される気体の種類は特に限定されないが、空気とするのが実用上好ましい。なお、この実施形態においては、取り付け穴11に給気路4を挿し込む構成としたが、例えば鋳物のように、弁箱2と給気路4を一体に形成した構成とすることもできる。また、弁箱2に取り付け穴11を形成せずに、弁箱2と給気路4をフランジなどの連結手段で連結する構成とすることもできる。
【0023】
この取り付け位置は流入口の下流側であれば特に限定されないが、給気路4の少なくとも一部が弁棒5(5a、5b)よりも上流側に掛かる管軸方向位置に取り付けるのが好ましい(図4を参照)。このようにすると、弁体3のすぐ下流側のキャビテーションが生じやすい位置にスムーズに気体を送り込むことができる。なお、この給気路4の形状、位置、大きさ(内径)などは、気体のスムーズな導入に影響しない限りにおいて適宜変更することができる。
【0024】
なお、この実施形態においては、流入路9の管径DINに対して、流出路10の管径DOUTを拡大することによって形成された流出路10の拡径部を飛沫誘導部13としたが、例えば、弁室12の下流側壁面から流出路10に亘って形成された、下流側に向かって次第にその内径が小さくなる傾斜面とすることも考えられる。このようにすると、噴流の飛沫の弁室12の下流側壁面への当たりを弱めることができる可能性がある。
【0025】
この発明に係る偏心プラグ弁1の作用を図6を用いて説明する。この偏心プラグ弁1のキャビテーション防止効果は、本図に示すように、弁体3が図4に示す閉弁状態から開弁方向に少し回転した中間開度のときに最も発揮される。すなわち、この中間開度のときは、流動が部分的に狭められることによって縮流が生じ(本図中の矢印fを参照)、その縮流に伴う圧力降下によって流体内に気泡が発生するキャビテーションが生じやすい。
【0026】
この偏心プラグ弁1では、そのキャビテーションが生じやすい部分に気体が導入されることにより圧力降下を防止しているため(本図中の矢印aを参照)、キャビテーションの発生を抑制することができる。しかも、弁体3を通過した流体と給気路4から送り込まれた気体の混合に伴って生じた噴流の飛沫が、飛沫誘導部13(流出路10の拡径部)によって流出路10の下流側に向かって誘導されて、この飛沫が弁室12の下流側壁面に当たりにくいため、流体のスムーズな流動を維持することができる。
【0027】
この偏心プラグ弁1の弁体3は、閉弁状態から開弁状態に切り替えられる際に弁室12の下方側の壁面に向かって回転するため、弁箱弁座6と弁体弁座14との間の隙間は、弁室12の上方側から生じる。給気路4は、この弁体3が回転に伴って向かう壁面と対向する壁面である上方側の壁面に接続されている。このため、弁箱弁座6と弁体弁座14の間に生じる隙間が給気路4のすぐ近傍となって、キャビテーションが生じやすいこの隙間の近傍に速やかに気体を送り込むことができ、キャビテーションを一層効果的に抑制することができる。
【0028】
さらに、図7に示すようにこの弁体3を全開状態とすると、流入路9の内面と弁体3の内側に形成された半円筒面15がほぼ面一の状態となる。このため、流体を流入路9から弁室12を通って流出路10までスムーズに導くことができる(本図中の矢印fを参照)。
【0029】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味およびすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0030】
1 偏心プラグ弁
2 弁箱
2a 第一弁箱
2b 第二弁箱
3 弁体
4 給気路
5 弁棒
5a 駆動側弁棒
5b 従動側弁棒
6 弁箱弁座
7 ボルト
8 フランジ
9 流入路
10 流出路
11 取り付け穴
12 弁室
13 飛沫誘導部
14 弁体弁座
15 半円筒面
16、17 軸受
18、19、21 キー部材
20 減速機
22 入力軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7