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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150685
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】空調装置のコントローラ
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/63 20180101AFI20220929BHJP
   F24F 11/89 20180101ALI20220929BHJP
【FI】
F24F11/63
F24F11/89
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053398
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】服部 徹
【テーマコード(参考)】
3L260
【Fターム(参考)】
3L260BA38
3L260CA12
3L260EA07
3L260EA08
3L260HA01
(57)【要約】
【課題】適切に室温を求めることができる空調装置のコントローラを提供する。
【解決手段】実施形態のコントローラ1は、室温に基づいて空調を行う空調装置10用のものであって、筐体2と、筐体2の内部に設けられ、動作時に発熱する熱源の温度を熱源温度として測定する熱源温度センサ9と、筐体2の内部に設けられ、熱源から離間した位置に配置されていて当該筐体2の内部の温度を内部温度として測定する内部温度センサ8と、測定した熱源温度と内部温度との温度差に基づいて室温を求める制御部3とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
室温に基づいて空調を行う空調装置のコントローラであって、
筐体と、
前記筐体内に設けられ、動作時に発熱する熱源の温度を熱源温度として測定する熱源温度センサと、
前記筐体内に設けられ、前記熱源から離間した位置に配置されていて当該筐体の内部の温度を内部温度として測定する内部温度センサと、
測定した熱源温度と内部温度との温度差に基づいて室温を求める制御部と、を備える空調装置のコントローラ。
【請求項2】
前記制御部は、前記熱源の発熱による影響によって生じた内部温度の室温に対する上昇量を求め、求めた上昇量に基づいて室温を求める請求項1記載の空調装置のコントローラ。
【請求項3】
前記制御部は、既知の室温で測定された熱源温度と室温との温度差と、内部温度と室温との温度差との比として予め求められている影響係数を用いて、内部温度の上昇量を求める請求項1または2記載の空調装置のコントローラ。
【請求項4】
前記制御部は、自身が設定可能な目標温度の範囲内において、内部温度の上昇量を用いて求めた室温に基づいて前記空調装置を制御する請求項1から3のいずれか一項記載の空調装置のコントローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調装置の操作に用いられるコントローラに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空調の対象となる室内の室温を測定する温度センサを設け、その温度センサで測定した室温に基づいて空調装置を制御している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-165632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような空調装置では、温度センサをコントローラの筐体の内部に設けることがあり、その場合には、温度センサは筐体の内部の温度を測定している。ところで、筐体の内部には動作時に発熱する例えばマイクロコンピュータなどの熱源が存在している。そして、動作中に熱源が発熱すると、その発熱によって筐体の内部の温度が上昇し、温度センサの測定値が実際の室温よりも高くなる。そのため、従来では、温度センサで測定された温度に対して想定される発熱に応じた複雑な補正を行うことにより、室温を推定していた。
【0005】
しかしながら、筐体の内部での発熱以外にも、温度センサが測定する温度に影響を与える要因が存在する。すなわち、コントローラが設置されている室内に空気の流れが生じると、その空気の流れによって筐体から熱が奪われ、筐体の内部の温度つまりは温度センサが測定する温度が低下する。その結果、空気の流れがある状態とない状態とで同じ補正値を用いて補正すると、空気の流れがある状態では過剰な補正が行われてしまうおそれがある。このとき、空気の流れがある状態とない状態とで測定される温度自体も変化することから、また、空気の流れの影響を正確に把握することも現実的には困難であることから、室温を正確に求めることが困難になる。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、精度よく室温を求めることができる空調装置のコントローラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載した発明では、空調装置のコントローラは、室温に基づいて空調を行うものであって、筐体と、筐体内に設けられ、動作時に発熱する熱源の温度を熱源温度として測定する熱源温度センサと、筐体内に設けられ、熱源から離間した位置に配置されていて当該筐体の内部の温度を内部温度として測定する内部温度センサと、測定した熱源温度と内部温度との温度差に基づいて室温を求める制御部と、を備えている。
【0008】
このように熱源温度と内部温度との温度差に基づいて室温を求めることにより、熱源温度と内部温度がそれぞれ室温に影響される場合であっても、その影響を吸収した形で室温を精度よく求めることができる。
【0009】
請求項2に記載した発明では、制御部は、熱源の発熱による影響によって生じた内部温度の室温に対する上昇量を求め、求めた上昇量に基づいて室温を求める。これにより、室温が変化した際や空気の流れの有無によって熱源温度や内部温度そのものが変化したとしても、室温を求めることができる。したがって、実際にコントローラが設置される環境に応じて、また、室温が変化したり目標温度が変化したりする状況に応じて室温を適切に求めることができる。
【0010】
請求項3に記載した発明では、制御部は、既知の室温で測定された熱源温度と室温との温度差と、内部温度と室温との温度差との比として予め求められている影響係数を用いて、内部温度の上昇量を求める。これにより、複雑な演算を行う必要なく、室温が変化したり目標温度が変化したりする状況に応じて適切に室温を求めることができる。
【0011】
請求項4に記載した発明では、制御部は、自身が設定可能な目標温度の範囲内において、内部温度の上昇量を用いて求めた室温に基づいて空調装置を制御する。これにより、空調装置のコントローラとして適切に運転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態のコントローラの構成例を模式的に示す図
図2】筐体の内部の配置例を模式的に示す図
図3】無風状態と送風状態における温度の測定値の変化例を示す図
図4】室温を求める処理の流れを示す図
図5】影響係数の求め方を説明するための図
図6】影響係数を用いて室温を求めた結果の一例を示す図その1
図7】影響係数を用いて室温を求めた結果の一例を示す図その2
図8】第2実施形態における熱源温度の個体差の一例を示す図
図9】内部温度の個体差の一例を示す図
図10】補正値を求める処理の流れを示す図
図11】補正後の熱源温度と演算温度の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、複数の実施形態について図面を参照しながら説明する。また、各実施形態において実質的に共通する部位については同一符号を付して説明する。
【0014】
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態のコントローラ1は、筐体2、制御部3、記憶部4、表示部5、操作部6、通信部7、内部温度センサ8、および熱源温度センサ9などを備えている。このコントローラ1は、空調装置10に対して目標温度の設定操作や室温(Ta)の表示などを行うためのものである。ただし、図1に示したコントローラ1の構成は一例であり、これに限定されない。
【0015】
筐体2は、例えば樹脂材料などによって薄型の概ね直方体状に形成されており、例えばオフィスや居室といった空調の対象となる室内の壁面などの設置面に取り付けられる。本実施形態では、筐体2として比較的小型のものを想定している。ここで、比較的小型とは、例えば一辺が100mm程度未満のもののように、筐体2の周囲に空気の流れが生じた場合において、筐体2の全体が概ね均等に空気と接触すると考えられる程度の大きさを想定している。
【0016】
この筐体2の内部には、図2に示すように、制御部3、内部温度センサ8、熱源温度センサ9などの電気部品が実装されている基板11が配置されている。なお、図2では、基板11を模式的にハッチングして示している。また、図2では、説明の簡略化のために他の電気部品については図示を省略しているが、基板11には表示部5や操作部6あるいは通信部7などで用いるコネクタなどの部品も実装されている。
【0017】
制御部3は、図示しないCPU、ROMおよびRAMなどを備えたマイクロコンピュータで構成されている。この制御部3は、記憶部4に記憶されているプログラムを読み出して実行することによりコントローラ1を制御する。例えば、制御部3は、操作部6に入力された操作に応じて空調装置10の運転の開始/停止を指示する処理や、目標温度を指示する処理など実行する。また、制御部3は、詳細は後述するが、室温を求める処理を実行する。
【0018】
記憶部4は、例えばフラッシュメモリのような不揮発性メモリで構成されており、コントローラ1を制御するためのプログラムや各種のデータを記憶している。本実施形態では、記憶部4は、制御部3に内蔵されているものを利用しているが、制御部3に外付けの構成とすることができる。この記憶部4には、詳細は後述するが、事前試験により予め求められた影響係数(k)が記憶されている。
【0019】
表示部5は、設置面に取り付けられた状態における筐体2の正面側に設けられている。表示部5は、図示は省略するが、例えば文字や数字を表示可能な液晶パネルや運転状態を示すLEDのような発光部品で構成されている。
【0020】
操作部6は、表示部5と同様に筐体2の正面側に設けられており、空調装置10の運転の開始/停止の操作や、目標温度の設定や変更など動作が入力される。この操作部6は、例えば機械式のスイッチや表示部5の表示領域に対応して設けられているタッチパネルなどにより構成することができる。
【0021】
通信部7は、空調装置10と通信可能に接続されており、空調装置10の運転の開始/停止の指示や目標温度の指示などの制御信号を空調装置10との間で通信する。この通信部7は、有線通信方式のものを想定しているが、例えば赤外線を利用した無線通信方式のものを採用することができる。
【0022】
内部温度センサ8は、例えば測温抵抗体型やサーミスタ型、熱電対型、集積回路型などの周知のもので構成されており、自身が設置されている場所の温度、つまりは、筐体2の内部の温度を測定する。この内部温度センサ8は、図2に示すように、筐体2の右端側且つ下端側に近い位置、つまりは、筐体2の右隅に配置されている。一方、動作中に発熱する熱源となる制御部3は、筐体2の左端側且つ下端側に近い位置、つまりは、内部温度センサ8とは逆側となる筐体2の右下の隅に配置されている。
【0023】
つまり、内部温度センサ8は、熱源から離間した位置であって、筐体2の内部の温度が上昇した場合に相対的に温度が低い下部側に配置されており、動作中に熱源が発熱した際において、その熱源の温度に対してある程度の有意な温度差が得られる位置関係となるように配置されている。なお、有意な温度差が得られる配置は、筐体2の形状や大きさ、内部に収容されている電気部品の配置等を考慮して、予め熱設計などの手法により定めることができる。
【0024】
また、内部温度センサ8の近傍には、筐体2の外部に連通する複数のスリット2aが設けられている。本実施形態では、筐体2の右下の隅において、筐体2の下端側および右端側の壁部に開港を形成することによりスリット2aが形成されている。そのため、内部温度センサ8は、室内の空気に触れやすい状態となっている。
【0025】
ただし、内部温度センサ8は、スリット2aの近傍ではあるものの、あくまでも筐体2の内部に配置されていることから、熱源が発熱することによって暖められた筐体2の内部の温度を測定することになる。以下、内部温度センサ8が測定する筐体2の内部の温度を内部温度(T2)とも称する。
【0026】
熱源温度センサ9は、例えば測温抵抗体型やサーミスタ型、熱電対型、集積回路型などの周知のもので構成されており、制御部3つまりは熱源の温度を測定する。具体的には、熱源温度センサ9は、制御部3の近傍に配置したり、制御部3のパッケージに張り付けたりすることにより、熱源の温度を直接的に測定する。以下、熱源温度センサ9が測定する熱源の温度を熱源温度(T1)とも称する。
【0027】
また、熱源温度センサ9は、本実施形態では熱源となる制御部3と内部温度センサ8との間であって熱源側に寄った位置に配置されている。この場合、熱源温度センサ9は、制御部3と内部温度センサ8とを通る仮想線(CL)上、あるいは、仮想線(CL)から所定の範囲内となる位置に配置することができる。なお、熱源温度センサ9は、例えば制御部3に温度センサが内蔵されている場合には、その温度センサを熱源温度センサ9として利用することもできる。
【0028】
空調装置10は、本実施形態ではいわゆるセントラルヒーティング方式のものを想定しており、空調装置10で冷却あるいは加熱された空気は、ダクト12を経由して、室内に開口している送風口13から矢印Fにて示すように供給される。ただし、本実施形態において室温を求める手法は、いわゆる室外機と室内機とにより構成されたものにも適用することができる。以下、空調装置10によって空気の流れが生じる空調運転が行われている状態を送風状態と称し、空気の流れが生じない空調運転が行われている状態を無風状態と称する。
【0029】
次に、上記した構成のコントローラ1の作用について説明する。
前述のように、筐体2の内部には動作時に発熱する制御部3のような熱源が存在していることから、動作中に熱源が発熱した場合には、その発熱によって筐体2の内部温度が上昇し、内部温度センサ8の測定値が実際の室温よりも高くなる。そのため、従来では、内部温度センサ8で測定された温度に対して想定される発熱量に応じた複雑な補正を行うことにより、室温を推定していた。
【0030】
しかし、筐体2の内部での発熱以外にも、内部温度センサ8が測定する温度に影響を与える要因が存在する。すなわち、図3に示すように、無風状態から送風状態となった場合には、コントローラ1が設置されている室内に空気の流れが生じ、その空気の流れによって筐体2から熱が奪われて内部温度センサ8が測定する筐体2の内部温度(T2)が低下する。
【0031】
その一方で、空気の流れが生じたとしても、空調されている室温(Ta)は、内部温度(T2)のような大きな変化は生じない。そのため、発熱量に応じた補正値(ΔH)を用いて内部温度(T2)を補正すると、例えば無風状態の時刻(x)においては、内部温度(T1(x))から補正値(ΔT)を差し引いた補正後の温度は概ね室温(Ta)と一致するものの、送風状態の時刻(y)においては、内部温度(T1(y))から補正値(ΔT)を差し引くと、補正後の温度は室温(Ta)よりも低くなり、実際の室温との間に誤差(Err)が生じている。
【0032】
つまり、無風状態と送風状態とで同じ補正を行うと、過剰な補正が行われてしまう恐れがある。このとき、空気の流れがあるか否かは運転状態から把握することができると考えられるものの、空気の流れ方によっては筐体2から奪われる熱量が異なることが想定されること、また、コントローラ1が設置される場所の大きさや室内のレイアウトが異なることなどにかんがみた場合、予め室内の空気の流れを把握しておくことも困難である。
【0033】
そこで、コントローラ1は、無風状態および送風状態の双方において、過剰な補正をすることなく、適切に室温を測定することができるようにしている。具体的には、コントローラ1は、図4に示す処理を実行することにより、動作中に測定した熱源温度(T1)と内部温度(T2)との温度差(ΔT)に基づいて室温(Ta)を求めている。
【0034】
この図4に示すように、コントローラ1は、ステップS1において熱源温度(T1)を測定し、ステップS2において内部温度(T2)を測定する。なお、ステップS1、S2は順不同で実行可能である。続いてコントローラ1は、ステップS3において熱源温度(T1)と内部温度(T2)との温度差(ΔT)を求め、ステップS4において影響係数(k)を用いて内部温度(T2)の室温に対する上昇量(OFS)を求める。なお、OFSはOffsetの略称である。
【0035】
ここで、影響係数(k)とは、熱源の発熱が内部温度センサ8の測定値に与える影響を求めるために定義されている係数であり、本実施形態では、事前試験を実施し、既知の室温において測定された熱源温度と室温との温度差と、内部温度と室温との温度差との比として求められている。
【0036】
具体的には、事前試験では、コントローラ1を一定の室温を維持可能な試験環境下に設置し、無風状態で熱源温度と内部温度を測定する。つまり、外乱がない状態で影響係数(k)を求めている。そして、この事前試験において、各温度の測定結果が例えば図5に示すように室温がTa(z)であり、測定された熱源温度がT1(z)であり、測定された内部温度がT2(z)であったとする。
【0037】
この場合、各温度の関係は、熱源温度が最も高く、室温が最も低く、内部温度がその中間になる。これは、内部温度センサ8自体は発熱しないものの、動作中の熱源が発熱し、その発熱によって筐体2の内部の空気が暖められ、その空気の温度を内部温度センサ8が測定値するためである。換言すると、内部温度は、熱源の発熱の影響を内部温度センサ8が受けることによって室温よりも高く測定されることになる。
【0038】
このとき、熱の流れは低温側に向かうことから、最も低い温度の室温が熱の流れの終着点、つまりは、熱の影響を考える際の基準点となる。また、試験環境のように熱源温度と室温が一定である状況においては、熱は、グラフGとして示すように所定の温度勾配を有する状態で流れることになる。そして、温度勾配が一定である場合には、熱源温度と室温との温度差(OFS(z)+ΔT)と、内部温度と室温との温度差(OFS(z))との関係は、影響係数(k)を用いた場合、下記の(1)式のように表すことができる。
【0039】
OFS(z)+ΔT(z)=k×OFS(z) ・・・(1)
【0040】
そして、この(1)式から、影響係数(k)は、既知の室温と、その室温で測定された熱源温度および内部温度とから、下記の(2)式のように求まる。
【0041】
k=(OFS(z)+ΔT(z))/OFS(z) ・・・(2)
【0042】
つまり、影響係数(k)は、熱源温度と室温との温度差(OFS(z)+ΔT(z))と、内部温度と室温との温度差(OFS(z))との比として定義することができる。
【0043】
このとき、内部温度と室温との温度差(OFS(z))は、熱源の影響を受けたことによる内部温度の上昇量に相当する。そのため、測定した内部温度から上昇量を減算することにより室温を求めることができる。すなわち、予め影響係数(k)を求めておけば、運転中に測定した熱源温度と内部温度とから影響係数(k)を用いて内部温度の上昇量つまりは内部温度と室温との温度差を求めることができ、最終的に室温を求めることができる。
【0044】
また、影響係数(k)は、(1)式から分かるように単位を有していない。また、熱源温度が変化すると内部温度に与える影響も変化するものの、その場合には内部温度と室温との温度差、つまりは、内部温度の上昇量も変化する。そのため、室温や熱源温度が変わることで温度勾配が変化したとしても、影響係数(k)を共通して利用することができる。換言すると、熱源が内部温度センサ8の測定値に与える影響を表す影響係数(k)は、実際の室温や熱源温度が事前試験とは異なる場合であっても共通となっている。
【0045】
これは、筐体2の内部構造が同じ場合、内部温度センサ8と熱源温度センサ9との位置関係は変化せず、基板11の熱伝送の態様も変化せず、また、本実施形態のように比較的小型且つ薄型の筐体2の場合、空気の流れによってその全体が冷やされる態様も変化しないためであると考えられる。そして、後述する図6図7にて説明するように、事前試験時とは異なる室温において、また、異なる熱源温度において適切に室温を求めることができていることが確認されている。
【0046】
そのため、コントローラ1は、図4に示すステップS5において、熱源温度と内部温度との温度差から内部温度の上昇量(OFS)を求め、ステップS6において、求めた上昇量を内部温度から減算することにより室温を求めている。そして、コントローラ1は、運転終了の操作が入力された場合などにおいては、ステップS7においてYESとなることから処理を終了する一方、運転終了ではない場合にはステップS7においてNOとなることからステップS1に移行して次の測定を繰り返す。
【0047】
ここで、図6および図7を参照しながら、上記した処理の妥当性について説明する。まず、図6の無風状態の時刻(m)において、黒丸にて示すように、熱源温度がT1(m)、内部温度がT2(m)であったとする。このとき、図7に示す熱源温度、内部温度、内部温度の上昇量(OFS(m))の関係は、(1)式から下記のように表される。
【0048】
OFS(m)+(T1(m)-T2(m))=k×OFS(m)
【0049】
そして、影響係数(k)は予め求められており、熱源温度および内部温度は実測されていることから、それらを代入することにより、上昇量(OSF(m))、つまりは、内部温度と室温との温度差が求まる。そして、測定した内部温度から上昇量を減算することにより、室温が求まる。
【0050】
このような処理によって求めた室温を演算温度(Tc)とすると、図6に示すように時刻(m)における演算温度(Tc(m))は、黒塗りの三角にて示すように実際の室温(Ta)と概ね一致することが確認された。本実施形態の場合、演算温度は、実際の室温と概ね一致することが確認された。なお、概ね一致するという判断基準は要求される仕様によって変わるものの、本実施形態では演算温度と実際の室温とは1度(華氏)のずれの範囲内であることが確認されている。
【0051】
また、図6の送風状態の時刻(n)において、白抜きの丸にて示すように、熱源温度がT1(n)、内部温度がT2(n)であったとする。このとき、図7に示す熱源温度、内部温度、内部温度の上昇量(OFS(n))の関係は、(1)式から下記のように表される。
【0052】
OFS(n)+(T1(n)-T2(n))=k×OFS(n)
【0053】
そして、影響係数(k)は予め求められており、熱源温度および内部温度は実測されていることから、それらを代入することにより、上昇量(OSF(n))、つまりは、内部温度と室温との温度差が求まる。そして、測定した内部温度から上昇量を減算することにより、室温が求まる。
【0054】
このような処理によって求めた室温を演算温度(Tc)とすると、図6に示すように時刻(n)における演算温度(Tc(n))は、白抜きの三角にて示すように実際の室温(Ta)と概ね一致することが確認された。本実施形態の場合、演算温度は、実際の室温と1度(華氏)の範囲内で概ね一致することが確認され、比較例として従来手法により内部温度を補正した比較温度と比べて適切に室温を測定できていることが確認された。
【0055】
さらに、図示は省略するが、図6とは異なる室温において同様に試験を行った結果、事前試験により求めた単一の影響係数(k)を用いて、室温を適切に測定できることが確認できた。すなわち、コントローラ1は、上記した処理を実行することにより、いわゆる室温とみなせる温度範囲内、より具体的に言えば、コントローラ1が設定可能な目標温度の範囲内において、事前試験により求めた1つの影響係数(k)を用いて室温を適切に測定できることが確認された。
【0056】
以上のように、コントローラ1は、無風状態と送風状態とにおいて熱源温度および内部温度が変化した場合であっても、また、無風状態あるいは送風状態において室温自体が変化した場合であっても、事前試験により求めた同一の影響係数(k)を用いて、演算温度が実際の室温と1度(華氏)の範囲内で求めることができ、室温を適切に測定できることが確認された。
【0057】
以上説明したコントローラ1によれば、次のような効果を得ることができる。
コントローラ1は、室温に基づいて空調を行う空調装置10用のものであって、筐体2と、筐体2の内部に設けられ、動作時に発熱する熱源の温度を熱源温度として測定する熱源温度センサ9と、筐体2の内部に設けられ、熱源から離間した位置に配置されていて当該筐体2の内部の温度を内部温度として測定する内部温度センサ8と、筐体2が設置された室内の室温に基づいて空調装置10を制御する制御部3とを備えている。
【0058】
そして、制御部3は、測定した熱源温度と内部温度との温度差に基づいて室温を求める。このように熱源温度と内部温度との温度差に基づいて室温を求めることにより、熱源温度と内部温度がそれぞれ室温に影響される場合であっても、その影響を吸収した形で室温を精度よく求めることができる。
【0059】
また、制御部3は、熱源の発熱による影響によって生じた内部温度の室温に対する上昇量を求め、求めた上昇量に基づいて室温を求める。これにより、室温が変化した際や空気の流れの有無によって熱源温度や内部温度そのものが変化したとしても、室温を求めることができる。したがって、実際にコントローラ1が設置される環境に応じて、また、室温が変化したり目標温度が変化したりする状況に応じて、さらには、空気に流れを把握することなく、精度よく室温を求めることができる。
【0060】
また、制御部3は、事前に既知の室温で測定された熱源温度と室温との温度差と、内部温度と室温との温度差との比として予め定義されている影響係数(k)を用いて、内部温度の上昇量を求める。これにより、複雑な演算を行う必要なく、室温が変化したり目標温度が変化したりする状況に応じて適切に室温を求めることができる。
【0061】
また、制御部3は、自身が設定可能な目標温度の範囲内において、内部温度の上昇量を用いて求めた室温に基づいて空調装置10を制御する。これにより、空調装置10を適切に運転することができる。
【0062】
また、内部温度センサ8を熱源から離間した位置に配置したことにより、熱源温度と内部温度との温度差を大きくすることができ、室温を求める際の精度を向上させることができる。
【0063】
また、熱源温度センサ9を熱源と内部温度センサ8との間に位置して配置したことにより、各センサで測定した温度は熱源から内部温度センサ8を経て筐体2の外部に向かう熱の流れをより正確に反映したものとなり、求めた室温の精度を向上させることができる。
【0064】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について説明する。第2実施形態では、内部温度の上昇量を求める際に利用する熱源温度を補正する点において第1実施形態と異なっている。また、コントローラ1の全体的な構成や処理の流れは第1実施形態と概ね共通することから、図1図2等も参照しながら説明する。
【0065】
コントローラ1は、同一製品であれば同一種類の電気部品を利用して製造されるものの、使用される電気部品にいわゆる個体差が存在することがある。例えば図8に示すように、G1、G2、G3の3台のコントローラ1を同一温度の試験環境下でそれぞれ熱源温度を測定した結果、各コントローラ1で測定された熱源温度にずれが生じるケースが確認された。ただし、図8に示す測定結果の数値は一例である。
【0066】
例えばG1とG2のコントローラ1では電源投入直後において測定された熱源温度に5度(華氏)程度のずれがあり、G1とG3のコントローラ1では電源投入直後において測定された熱源温度に5.5度(華氏)程度のずれが確認された。また、電源投入からある程度の時間が経過してコントローラ1の温度がある程度安定した安定期間、および、送風が開始された送風状態においても、各コントローラ1において3~4度(華氏)程度のずれが生じることが確認された。また、電源投入直後と安定期間あるいは送風状態とにおいては、そのずれに差があること、すなわち、発熱に個体差があることも確認された。
【0067】
その一方で、無風状態の安定期間における熱源温度と送風状態における熱源温度との温度差を送風時温度差とすると、送風時温度差は、各コントローラ1で概ね6.1度(華氏)程度で共通する傾向になることが確認された。なお、ここでは、安定期間中に所定期間測定した熱源温度の平均値と、送風状態で所定期間測定した熱源温度の平均値との差を送風時温度差としている。また、図8では説明の簡略化のために3台の測定結果を示しているが、同様の傾向を示すことが統計的に確認できるように試験は行われている。
【0068】
さらに、図9に示すように、各コントローラ1において内部温度をそれぞれ測定した結果、内部温度には1度(華氏)未満のずれで収まっていること、換言すると、コントローラ1の場合には、内部温度への個体差の影響がごく僅かであることが確認された。また、安定期間や送風が開始された送風状態においても同様に各コントローラ1の内部温度が概ね一致すること、ならびに、送風時温度差も概ね一致することが確認された。なお、図9では説明の簡略化のために3台の測定結果を示しているが、同様の傾向を示すことが統計的に確認できるように試験は行われている。
【0069】
このように、内部温度センサ8の測定結果と熱源温度センサ9の測定結果とに違いが生じるのは、熱源としての制御部3の発熱の個体差に起因するものと考えられる。そして、その個体差は、図8に示す電源投入直後と安定期間との温度差がリンクしていること、つまりは、全体的にオフセットが掛かった状態になっていることが分かる。
【0070】
その結果、異なるコントローラ1において異なる熱源温度の測定結果が得られたと考えられる。また、例えば熱源温度センサ9として制御部3に内蔵された温度センサを用いる場合にも、同様の個体差に起因する測定結果のずれが生じることが想定される。
【0071】
そして、図8図9に示したように、内部温度は個体差の影響をほぼ受けないことが確認されている。また、熱源温度への個体差の影響は、図8に示したG1~G3の各グラフの形状から、測定値を全体的に押し上げる、あるいは、全体的に押し下げるいわゆるオフセット値として現れることが分かる。そのため、各コントローラ1のオフセット値をそれぞれ求めることができれば、各コントローラ1の個体差の影響を抑制することができると考えられる。
【0072】
換言すると、個体差に起因する熱源温度のずれを何らかの形で補正することができれば、異なるコントローラ1に対しても同様の補正を加えることが可能になると考えられる。そこで、本実施形態では、個体差に起因する熱源温度のずれを補正することにより、演算温度に誤差が生じないようにしている。
【0073】
具体的には、コントローラ1は、図10に示すように、ステップS11において、キャリブレーション期間であるかを判定する。本実施形態では、キャリブレーション期間として、電源投入後の所定の期間を設定している。電源投入直後の所定の期間は、熱源としての制御部3が起動した直後であることから、制御部3の発熱が熱源温度に与える影響はごくわずかであると考えられる。
【0074】
また、電源投入直後においては、内部温度は概ね室温になっていると考えられる。また、キャリブレーション期間は空調制御が行われる前の期間であり、送風が開始されていないことから、送風による影響も少ないと考えられる。さらに、図9に示したように、内部温度はそれほど個体差の影響を受けていないことも明らかである。そのため、キャリブレーション期間に測定した熱源温度や内部温度は、個体差を補正するための基準として扱うことができると考えられる。
【0075】
そのため、コントローラ1は、キャリブレーション期間である場合には、ステップS11においてYESとなることから、ステップS12において初期熱源温度を測定し、ステップS13において初期内部温度を測定する。ただし、初期熱源温度とは、キャリブレーション期間中に測定した熱源温度を意味し、初期内部温度とは、キャリブレーション期間中に測定した内部温度を意味している。なお、ステップS12とステップS13とは順不同である。
【0076】
そして、コントローラ1は、ステップS14において初期熱源温度と初期内部温度との温度差である初期温度差を求め、ステップS15において求めた初期内部温度を、演算温度を求める際に熱源温度を補正するための補正値に設定する。この補正値は、初期内部温度から初期熱源温度を減算することにより、以下の式のように求められている。
補正値=初期内部温度-初期熱源温度
【0077】
この補正値は、図5を参照すると理解できるように室温の影響が除外された値、つまりは、コントローラ1が設置されている環境に依存しない値として求められている。また、この補正値は、本来であれば各コントローラ1で共通するはずの値が実際ずれているずれ量つまりは上記したオフセット値を示すものとして求められている。
【0078】
補正値を求めると、コントローラ1は、概ね図4に示した流れで室温を求める。具体的には、コントローラ1は、ステップS1において熱源温度(T1)を測定するとともに、測定した熱源温度(T1)を補正値により補正する。本実施形態の場合、補正後の熱源温度は、測定した温度に補正値を加算することにより、以下の式のように求められている。
補正後の熱源温度=測定した熱源温度+補正値
【0079】
そして、コントローラ1は、ステップS2において内部温度を求め、ステップS3において、補正した熱源温度と内部温度との温度差を求め、ステップS4において内部温度の上昇量を求め、ステップS5において室温を求めている。つまり、コントローラ1は、内部温度の上昇量を求める際に利用する熱源温度を、電源投入時に求めた補正値を用いて補正している。
【0080】
図11は、補正値を用いて熱源温度を補正することにより求められた熱源温度と、補正後の熱源温度に基づいて求められた演算温度とを示している。この図11に示すように、G1~G3の各コントローラ1では、オフセット値が負の場合には測定結果が全体的に引き下げられ、オフセットが正の場合には測定結果が全体的に引き上げられることにより、それぞれのコントローラ1の補正後の熱源温度が概ね重なった状態、つまりは、個体差が吸収された状態になっていることが分かる。
【0081】
また、その補正後の熱源温度に基づいて求めた演算温度は、G1~G3の各コントローラ1において、共に室温(Ta)と概ね1度(華氏)の範囲内で一致することも確認できた。つまり、運転中に測定した熱源温度を上記のように補正することにより、適切な室温を求めることができることが確認できた。そのため、コントローラ1は、補正後の熱源温度に基づいて求めた演算温度に基づいて、ステップS6において適切に空調制御を行うことが可能となる。
【0082】
このように、コントローラ1は、内部温度の上昇量を求める際に利用する熱源温度を補正している。また、コントローラ1は、電源投入後のキャリブレーション期間において個体差に起因する熱源温度のずれを取得し、そのずれを用いて補正している。これにより、熱源や温度センサなどの電気部品の個体差に起因して生じる誤差を低減することができる。また、キャリブレーション期間中のごく短期間に補正値を複数回求め、補正値の妥当性や精度を向上させる構成とすることができる。
【0083】
このとき、図5に示したように熱源温度は室温+αとして測定され、内部温度は室温+βとして測定されるため、補正値を初期内部温度から初期熱源温度を減算して求めることにより、補正値から室温の影響を除外することができ、コントローラ1の設置環境に関わらず、また、コントローラ1の設置後であっても、適切な補正値を求めることができる。この場合、電源投入直後のキャリブレーション期間では送風状態ではないと考えられるため、空気の流れの影響を受けることなく、適切に補正値を求める事ができる。
【0084】
また、運転中つまりはコントローラ1を設置した後に個体差を吸収することが可能になるとともに、室温の影響を除外する形で補正することが可能となることから、事前試験ではある室温において影響係数を求めればよく、異なる室温での試験等は不要となることから、作業効率や製造効率を大幅に改善することができるとともにコストの低減にも大きく寄与することができる。
【0085】
また、キャリブレーション期間に補正値を求めることにより、経年変化により熱源や温度センサの個体差が変化した場合であっても、その変化を吸収した形で補正値を求めることができるため、長期間に渡って適切な補正を行うこと、つまりは、長期間に渡って品質を確保することができる。
【0086】
本発明は上記した、或いは、図面に記載した実施形態にのみ限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変形又は拡張することができるとともに、それらの変形や拡張は均等の範囲に含まれる。
【0087】
例えば、実施形態では1つの内部温度センサ8を設ける構成を例示したが、内部温度センサ8を複数設ける構成とすることができる。その場合、複数の内部温度センサ8を用いてそれぞれ室温を求め、その値を平均したり、誤差と思われる値を除外したりする処理を実行することにより、精度を向上させることができ、適切な室温を求めることができる。
【0088】
実施形態では制御部3を熱源として想定したが、例えばバックパネルなどの他の熱源がる場合には、熱設計等により最も高温になる部位と、その部位から離間していて有意な温度差が得られる部位とを求め、そこに内部温度センサ8を設けることにより、実施形態と同様の手法で室温を求めることができる。
【0089】
実施形態では華氏の例を示したが、摂氏の場合も同様に、コントローラ1は、無風状態と送風状態とにおいて熱源温度および内部温度が変化した場合であっても、また、無風状態あるいは送風状態において室温自体が変化した場合であっても、事前試験により求めた同一の影響係数(k)を用いることにより、演算温度と実際の室温とが概ね一致し、室温を適切に測定できることが確認されている。
【符号の説明】
【0090】
図面中、1はコントローラ、2は筐体、3は制御部(熱源)、8は内部温度センサ、9は熱源温度センサ、10は空調装置を示す。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11