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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150785
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】切断装置
(51)【国際特許分類】
   B26D 5/00 20060101AFI20220929BHJP
   B26D 7/26 20060101ALI20220929BHJP
   B65H 35/00 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B26D5/00 F
B26D7/26
B65H35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053547
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104178
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100143960
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 早百合
(72)【発明者】
【氏名】鹿間 康仁
(72)【発明者】
【氏名】阪井 那央哉
(72)【発明者】
【氏名】杉山 健太郎
【テーマコード(参考)】
3C021
3C024
【Fターム(参考)】
3C021JA09
3C024AA03
(57)【要約】
【課題】設定条件を従来よりも適切に設定することで、模様の切断品質を従来よりも向上させた切断装置を提供すること。
【解決手段】切断装置の制御部は、被切断物から模様を切断するための切断データを取得する(S1)。制御部は、被切断物の硬さに応じた硬さ対応値を取得する(S15)。制御部は、取得された硬さ対応値に基づき、被切断物を切断する方向が所定量以上変化する方向変化部分で、切断刃の向きを変更する回転補正に用いるオフセット量に、被切断物の硬さが柔らかい場合よりも硬い場合の方が大きな値を設定する(S16)。制御部は、切断データの内の、方向変化部分に対応するデータを、設定されたオフセット量を用いて補正する(S18)。制御部は、補正された切断データに従って移動機構を制御し、装着部に装着された切断刃で被切断物を切断する切断処理を実行する(S20)。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラテンと、
第一方向及び前記第一方向と交差する第二方向との各々に交差する第三方向に延びる軸から所定距離離れた位置に先端部を有する切断刃を、前記軸を中心に回動可能に装着するよう構成された装着部と、
前記プラテンに載置された被切断物と前記装着部とを前記第一方向及び前記第二方向へ相対移動させる移動機構と、
前記移動機構を制御可能な制御部とを備え、
前記制御部は、
前記プラテンに載置された前記被切断物の硬さに応じた硬さ対応値を取得する硬さ取得部と、
前記被切断物から模様を切断するための切断データを取得する切断データ取得部と、
前記硬さ取得部によって取得された前記硬さ対応値に基づき、前記被切断物を切断する方向が所定量以上変化する方向変化部分で、前記切断刃の向きを変更する回転補正に用いるオフセット量に、前記被切断物の前記硬さが柔らかい場合よりも硬い場合の方が大きな値を設定するオフセット量設定部と、
前記切断データの内の、前記方向変化部分に対応するデータを、前記オフセット量設定部によって設定された前記オフセット量を用いて補正する補正部と、
補正された前記切断データに従って、前記移動機構を制御し、前記プラテンに載置された前記被切断物と前記装着部とを前記第一方向及び前記第二方向へ相対移動して、前記装着部に装着された前記切断刃で前記被切断物を切断する切断処理を実行する切断制御部
として機能することを特徴とする切断装置。
【請求項2】
前記制御部により制御され、前記第三方向であって、前記装着部を前記プラテンに接近させる接近方向及び前記装着部を前記プラテンから離隔させる離隔方向に前記装着部を移動させる接離機構と、
前記接離機構の移動に応じて、前記装着部に加える前記接近方向の圧力を変更可能な圧力変更機構と
を更に備え、
前記硬さ取得部は、前記圧力変更機構が前記装着部に加えた前記圧力に応じた圧力対応値と、前記装着部の前記第三方向の位置とに基づき、前記硬さ対応値を取得することを特徴とする請求項1に記載の切断装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記第三方向における前記被切断物の厚みを取得する厚み取得部として更に機能し、
前記オフセット量設定部は、前記厚み取得部が取得する前記被切断物の前記厚みに基づき、前記硬さ対応値が同じである場合、前記被切断物の前記厚みが薄い場合よりも厚い場合の方が、前記オフセット量に大きな値を設定する請求項1又は2に記載の切断装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記第三方向における前記被切断物の厚みを取得する厚み取得部と、
前記厚み取得部によって取得された前記被切断物の前記厚みと、前記被切断物の前記硬さ対応値とに応じて、前記補正された切断データに従って、前記切断処理を行う回数と、前記切断処理毎の前記被切断物を切り込む切込量とを設定する切込設定部
として更に機能し、
前記切断制御部は、前記移動機構と、前記接離機構とを制御して、前記切込設定部によって設定された前記回数だけ、前記切断処理毎に設定された前記切込量で、前記切断処理を実行することを特徴とする請求項2に記載の切断装置。
【請求項5】
前記オフセット量設定部は、前記硬さ対応値が所定範囲内の場合、前記被切断物の前記厚みが大きいほど前記オフセット量を大きな値に設定し、前記被切断物の前記硬さ対応値が前記所定範囲内にある場合よりも硬い場合の値である時、前記被切断物の前記厚みにかかわらず、前記被切断物の前記硬さ対応値が前記所定範囲内である場合の前記オフセット量より大きい、一定の値に設定することを特徴とする請求項3に記載の切断装置。
【請求項6】
前記オフセット量設定部は、前記硬さ対応値が所定範囲内の場合、前記被切断物の前記厚みが大きいほど前記オフセット量を大きな値に設定し、前記硬さ対応値が前記所定範囲内の場合よりも前記被切断物が柔らかい場合の値である時、前記被切断物の前記厚みにかかわらず、前記硬さ対応値が前記所定範囲内である場合の前記オフセット量よりも小さい、一定の値に設定することを特徴とする請求項3に記載の切断装置。
【請求項7】
前記切込設定部は、前記回数が一回目の前記切込量である第一切込量を前記回数が二回目の前記切込量である第二切込量以下に設定することを特徴とする請求項4に記載の切断装置。
【請求項8】
前記切込設定部は、前記被切断物の前記硬さ対応値に基づき、前記被切断物の前記硬さが柔らかい場合よりも硬い場合の方が、前記切込量を小さく設定することを特徴とする請求項4又は7に記載の切断装置。
【請求項9】
前記制御部は、
前記接離機構が制御されている期間に、前記圧力変更機構により前記装着部に加わる前記接近方向の前記圧力に対応する前記圧力対応値が圧力閾値に達したかを判断する第一判断部と、
前記接離機構が制御されている期間に、前記装着部の前記第三方向の位置が、前記切込量に基づき設定された目標位置に達したかを判断する第二判断部
として更に機能し、
前記切断制御部は、前記第二判断部により前記装着部の前記第三方向の前記位置が前記目標位置に達したと判断される前に、前記第一判断部により前記圧力対応値が前記圧力閾値に達したと判断された場合、前記接離機構の制御を停止し、前記接離機構の制御が停止された時の前記装着部の前記第三方向の前記位置で前記切断処理を行うことを特徴とする請求項4に記載の切断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の切断装置は、被切断物の種別に応じて各種設定条件を個別に記憶する記憶手段を設け、ユーザにより選択された、又は切断装置により検出された被切断物の種別に応じた設定条件を上記記憶手段から読み出す。設定条件は、例えば、切断刃の移動速度、切断刃の移動加速度、切断刃の被切断物に対する押圧力、切断開始時等のオフセット量、及び切断刃の種類である。切断装置は、読み出された設定条件に基づいて切断を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-246562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の切断装置は、設定された設定条件に基づき被切断物から模様を切断した場合、模様の内の、切断方向が所定量以上変化する方向変化部分において、模様の形状に沿って切断できないことがある。
【0005】
本発明は、設定条件を従来よりも適切に設定することで、模様の切断品質を従来よりも向上させた切断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る切断装置は、プラテンと、第一方向及び前記第一方向と交差する第二方向との各々に交差する第三方向に延びる軸から所定距離離れた位置に先端部を有する切断刃を、前記軸を中心に回動可能に装着するよう構成された装着部と、前記プラテンに載置された被切断物と前記装着部とを前記第一方向及び前記第二方向へ相対移動させる移動機構と、前記移動機構を制御可能な制御部とを備え、前記制御部は、前記プラテンに載置された前記被切断物の硬さに応じた硬さ対応値を取得する硬さ取得部と、前記被切断物から模様を切断するための切断データを取得する切断データ取得部と、前記硬さ取得部によって取得された前記硬さ対応値に基づき、前記被切断物を切断する方向が所定量以上変化する方向変化部分で、前記切断刃の向きを変更する回転補正に用いるオフセット量に、前記被切断物の前記硬さが柔らかい場合よりも硬い場合の方が大きな値を設定するオフセット量設定部と、前記切断データの内の、前記方向変化部分に対応するデータを、前記オフセット量設定部によって設定された前記オフセット量を用いて補正する補正部と、補正された前記切断データに従って、前記移動機構を制御し、前記プラテンに載置された前記被切断物と前記装着部とを前記第一方向及び前記第二方向へ相対移動して、前記装着部に装着された前記切断刃で前記被切断物を切断する切断処理を実行する切断制御部として機能する。
【0007】
本態様の切断装置は、被切断物の硬さ対応値を取得し、被切断物の硬さに応じて回転補正に用いるオフセット量を設定するため、被切断物の切断に用いる設定条件の内のオフセット量を従来よりも適切に設定できる。これにより、切断装置は、従来よりも被切断物に適した条件で回転補正を行うことができる。切断装置は、従来よりも、模様の形状に沿って被切断物を切断できる可能性を高めることで、模様の切断品質を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】切断装置1の斜視図である。
図2】ホルダ6が装着された状態のキャリッジ3の斜視図である。
図3】上昇位置にあるキャリッジ3及びホルダ6の正面図である。
図4】切断装置1の電気的構成を示すブロック図である。
図5】メイン処理のフローチャートである。
図6】(A)は模様Qの形状の説明図であり、(B)は補正後の切断データが示す、模様Qを切断するための被切断物9を保持した保持部90に対する装着部3Bの移動軌跡との説明図である。
図7】切断刃16を有するホルダ6を保持した装着部3Bの高さに対する、圧力対応値の変化を示すグラフである。
図8】記憶部74に記憶されたテーブル80の説明図である。
図9図5のメイン処理で実行される切断制御処理のフローチャートである。
図10】評価試験で切断された、比較例の切断模様と、実施例の切断模様とを撮影した写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る切断装置1及びホルダ6を具体化した実施形態について、図面を参照して順に説明する。参照する図面は、本発明が採用しうる技術的特徴を説明するために用いられるものであり、記載されている装置の構成等は、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。図1の左下方、右上方、右下方、左上方、上方、及び下方を、各々、切断装置1及びホルダ6の前方、後方、右方、左方、上方、及び下方とする。
【0010】
図1から図3を参照し、切断装置1の概要を説明する。切断装置1は、保持部90に保持された被切断物9を、ホルダ6に保持された切断刃16を用いて切断することが可能である。保持部90は、例えば合成樹脂材料からなるマットである。被切断物9は、保持部90の上面の粘着層に貼り付けられて保持される。切断装置1は、本体カバー2A、プラテン2B、キャリッジ3、搬送機構2C、及び移動機構2D等を備える。
【0011】
本体カバー2Aには、開口部21、カバー22、及び操作部23が設けられる。開口部21は、本体カバー2Aの正面部に設けられた開口である。カバー22は、本体カバー2Aに回動可能に支持される。図1では、カバー22が開けられ、開口部21が開放されている。以下では、カバー22が開けられた状態を前提として各種構成を説明する。操作部23は、本体カバー2Aの上面右部に設けられ、液晶ディスプレイ(LCD)231、複数の操作スイッチ232、及びタッチパネル233を備える。LCD231には、コマンド、イラスト、設定値、及びメッセージ等の様々な項目を含む画像が表示される。タッチパネル233は、LCD231の表面に設けられる。ユーザは、指及びスタイラスペンの何れかを用いてタッチパネル233の押圧操作を行う。切断装置1では、タッチパネル233により検知される押圧位置に対応して、どの項目が選択されたかが認識される。ユーザは、操作スイッチ232及びタッチパネル233を用いて、LCD231に表示された模様の選択、各種パラメータの設定、及び入力の操作等を実行できる。
【0012】
プラテン2Bは、本体カバー2A内に設けられる。プラテン2Bは左右方向に延びる板状部材である。プラテン2Bの左右方向の長さは、保持部90及び被切断物9の幅よりも大きい。搬送機構2Cにより後方に搬送された保持部90は、プラテン2Bの内、左右方向両端部を除く部分の上面に載置される。即ち、保持部90に保持された被切断物9は、保持部90を介してプラテン2Bに載置される。
【0013】
搬送機構2C及び移動機構2Dは、プラテン2Bに載置された被切断物9と装着部3Bとを前後方向及び左右方向へ相対移動させるよう構成されている。本例の搬送機構2Cは、従動ローラ24、駆動ローラ(図示略)、及びY軸モータ15(図4参照)を備える。従動ローラ24は、本体カバー2A内、且つ、プラテン2Bよりも前方に回転可能に支持される。駆動ローラは、従動ローラ24に対して下方に対向し、Y軸モータ15の駆動に応じて回転する。搬送機構2Cは、被切断物9を保持する矩形状の保持部90の左右両端部を、従動ローラ24と駆動ローラとの間に挟持する。搬送機構2Cは、この状態で駆動ローラが回転することにより、保持部90を前後方向(「Y方向」とも言う。)に搬送可能である。つまり搬送機構2Cは、保持部90に保持された被切断物9を前後方向に搬送可能である。
【0014】
移動機構2Dは、キャリッジ3を左右方向(「X方向」とも言う。)に移動可能である。移動機構2Dは、ガイドレール26、及びX軸モータ25(図4参照)等を備える。ガイドレール26は、本体カバー2A内に固定され、左右方向に延びる。キャリッジ3は、ガイドレール26に沿ってX方向へ移動可能に、ガイドレール26に支持される。X軸モータ25の回転運動は、X方向の運動に変換され、キャリッジ3に伝達される。X軸モータ25が正転駆動又は逆転駆動すると、キャリッジ3は左方向又は右方向へ移動される。
【0015】
図2及び図3に示すように、キャリッジ3は、支持体3A、装着部3B、接離機構3C、及び圧力変更機構14等を備える。キャリッジ3の内、ホルダ6が装着される部位を除く部分は、図1に示すカバー30により覆われる。図2及び図3においてカバー30は省略されている。支持体3Aは、装着部3B、接離機構3C、及び圧力変更機構14等を支持する。支持体3Aは、夫々が板状の基部31から33を有する。基部31は前後方向と直交する。基部31は、背面にてガイドレール26(図1参照)に連結する。基部31はガイドレール26により、左右方向に移動可能に支持される。基部31に対して前方に離隔した位置に、支持軸31A、31Cが設けられる。支持軸31A、31Cは夫々円柱状を有し、上下方向に延びる。図3に示すように、支持軸31Aは、基部31の左端部近傍に設けられる。支持軸31Aには後述の圧力変更機構14のバネ3Dが巻回され、且つ、後述のラックギヤ43を上下方向に移動可能に支持する。支持軸31Cは、基部31の右端部近傍に設けられる。支持軸31Cには後述の圧力変更機構14のバネ3Eが巻回される。図2及び図3に示すように、基部32は上下方向と直交し、基部31の下端部から前方に延びる。基部32には、上下方向に貫通する貫通孔32Aが形成される。基部33は左右方向と直交し、基部31の内、支持軸31Aよりも左方から前方に延びる。基部33には、後述する接離機構3Cの一部が支持される。
【0016】
装着部3Bは、前後方向と、左右方向との各々に交差する上下方向に延びる軸Mから所定距離J離れた位置に先端部18を有する切断刃16を、軸Mを中心に回動可能に装着するよう構成される。装着部3Bは、支持体3Aの内、基部31よりも前方、基部32よりも上方、支持軸31Cよりも左方、及び支持軸31Aよりも右方に配置される。装着部3Bは、保持体36及びレバー37を有する。保持体36は、装着された状態のホルダ6を保持する。レバー37は、保持体36に保持された状態のホルダ6を固定し、脱離不能とする。
【0017】
図2に示すように、保持体36は、側板部36S、36R、36L、上板部36U、及び下板部36Bを有する。側板部36Sは、支持体3Aの基部31の前側に配置され、前後方向と直交する。側板部36Sは、基部31に対して上下方向に移動可能に連結される。これにより装着部3Bは、支持体3Aに対して上下方向に移動可能に支持される。側板部36Rは、側板部36Sの右端部から前方に向けて延びる。側板部36Lは、側板部36Sの左端部から前方に向けて延びる。側板部36R、36Lは、夫々、左右方向と直交する。上板部36Uは、側板部36S、36R、36Lの各々の上端部に設けられる。下板部36Bは、側板部36S、36R、36Lの各々の下端部に設けられる。上板部36U及び下板部36Bは、夫々、上下方向と直交する。保持体36の前端部は開放される。
【0018】
上板部36Uには、上下方向に貫通する円形の貫通孔が形成される。下板部36Bには、上下方向に貫通する円形の貫通孔が形成される。保持体36にホルダ6が保持された状態で、ホルダ6は上板部36Uの貫通孔と、下板部36Bの貫通孔とに挿通される。この状態で、ホルダ6の上端部は上板部36Uよりも上方に突出し、ホルダ6の下端部は下板部36Bよりも下方に突出する。
【0019】
図3に示すように、側板部36Lの下端部に可動板部361が設けられ、上端部に可動板部365が設けられる。可動板部361、365は側板部36Lの左面から左方に延び、上下方向と直交する。可動板部361、365には、上下方向に貫通する貫通孔が形成され、支持体3Aの支持軸31Aが挿通される。側板部36Rに可動板部362が設けられる。可動板部362は、側板部36Rの右面から右方に延び、上下方向と直交する。可動板部362には、上下方向に貫通する貫通孔が形成され、支持体3Aの支持軸31Cが挿通される。
【0020】
図2に示すように、レバー37は、保持体36の側板部36R、36Lに揺動可能に支持される。レバー37は、左右方向に長い板状の摘み部37Aを有する。摘み部37Aが下方に移動する方向にレバー37が揺動した状態で、保持体36に保持されたホルダ6は固定され、保持体36から脱離不能となる。一方、摘み部37Aが上方に移動する方向にレバー37が揺動した状態で、保持体36に対してホルダ6が固定された状態は解除される。このため、この状態でホルダ6は保持体36から脱離可能となる。
【0021】
接離機構3Cは、制御部2により制御され、装着部3Bをプラテン2Bに接近させる接近方向(下方)及び装着部3Bをプラテン2Bから離隔させる離隔方向(上方)に装着部3Bを移動させる。装着部3Bが下方に移動することにより、プラテン2Bに載置された被切断物9に対して装着部3Bは近接する。一方、装着部3Bが上方に移動することにより、プラテン2Bに載置された被切断物9から装着部3Bは離隔する。
【0022】
図2及び図3に示すように、接離機構3Cは、Z軸モータ41、ギヤユニット42、及びラックギヤ43等を有する。Z軸モータ41は、支持体3Aの基部33の左側に配置され、基部33により支持体3Aに固定される。Z軸モータ41の回転軸は右方に延び、基部33に形成された貫通孔33Aを右方に貫通する。Z軸モータ41の回転軸にギヤ41Aが設けられる。ギヤ41Aは、基部33よりも右方に配置される。
【0023】
ギヤユニット42は、内歯車42A及びピニオンギヤ42Bを有する。内歯車42Aは円板状を有し、左右方向と直交する。内歯車42Aの左面に、右方に凹む円形の凹部が形成される。凹部の内側面に歯が形成される。内歯車42Aの右面に、ピニオンギヤ42Bが設けられる。ピニオンギヤ42Bの直径は、内歯車42Aの直径よりも小さい。内歯車42A及びピニオンギヤ42Bの夫々の回転中心の位置は一致し、左右方向に延びる。以下、内歯車42A及びピニオンギヤ42Bの夫々の回転中心を、「ギヤユニット42の回転中心」という。内歯車42A及びピニオンギヤ42Bは、一体で回転する。
【0024】
ギヤユニット42は、支持体3Aの基部33よりも右方に設けられ、基部33に回転可能に支持される。ギヤユニット42の回転中心は、Z軸モータ41の回転軸よりも下方に位置する。Z軸モータ41の回転軸に設けられたギヤ41Aは、内歯車42Aの左面に設けられた凹部に左方から進入し、内歯車42Aの内側面に設けられた歯に噛み合う。Z軸モータ41が駆動してギヤ41Aが回転することに応じ、Z軸モータ41の駆動力は、ギヤ41A及び内歯車42Aを介してギヤユニット42に伝達される。これにより、ギヤユニット42のピニオンギヤ42Bも回転する。
【0025】
ラックギヤ43は、ピニオンギヤ42Bの後方に設けられる。ラックギヤ43は、上下方向に延びる角柱状の基台の前面に、歯43Bを有する。ラックギヤ43は更に、上下方向に貫通する貫通孔を基台に有する。支持体3Aに固定された支持軸31Aは、この貫通孔に挿通する。ラックギヤ43は、支持軸31Aに沿って上下方向に移動可能である。ラックギヤ43の歯43Bは、ピニオンギヤ42Bに噛み合う。ラックギヤ43は、ピニオンギヤ42Bの回転に応じて上下方向に移動する。
【0026】
圧力変更機構14は、装着部3Bに加える接近方向の圧力を変更可能である。圧力変更機構14は、バネ3D、3Eを備える。バネ3Dは、ラックギヤ43の下方に位置する。バネ3Dは圧縮コイルバネであり、支持軸31Aの下端部近傍に巻回される。バネ3Dの上端部は、ラックギヤ43の下端部に連結する。バネ3Dの下端部は、装着部3Bの可動板部361に連結する。バネ3Dは、ラックギヤ43と装着部3Bの可動板部361との間に介在し、ラックギヤ43を上方に付勢する。これにより、ラックギヤ43の上端部は、装着部3Bの可動板部365に下方から接触し、可動板部365を上方に向けて押す。バネ3Dは、接離機構3CのZ軸モータ41が駆動した場合、ラックギヤ43の上下方向への移動に連動して装着部3Bを上下方向に移動させる。バネ3Dは、ラックギヤ43が下方に移動することに応じて圧縮された場合、装着部3Bに対して下向きの圧力を付加する。
【0027】
バネ3Eは圧縮コイルバネであり、支持軸31Cに巻回される。バネ3Eの上端部は、支持軸31Cの上端部に固定された固定ワッシャ310に下方から接触する。バネ3Eの下端部は、装着部3Bの可動板部362に連結する。バネ3Eは、固定ワッシャ310と装着部3Bの可動板部362との間に介在し、装着部3Bに下方の圧力を付与する。バネ3Eは、接離機構3CのZ軸モータ41の駆動状態に関わらず、常に装着部3Bに対して下向きの圧力を付加する。
【0028】
図1から図3を参照し、ホルダ6について説明する。ホルダ6は、装着部3Bに装着された状態で使用され、切断刃16により被切断物9を切断する。ホルダ6は、樹脂製の筐体6A、切断刃16、カバー17、及び第二バネ6F(図7参照)を有する。筐体6Aは、円筒部61、蓋部62、及びスクリューキャップ63を有する円筒部61は上下方向に延びる。円筒部61の中心は、切断刃16の軸Mと一致する。蓋部62は、円筒部61の上端部の開口を閉塞する。スクリューキャップ63は、円筒部61に締結され固定される。スクリューキャップ63は、切断刃16を交換する時に筐体6Aから脱離される。ホルダ6が装着部3Bに装着された状態で、筐体6Aは装着部3Bにより保持される。図2に示すように、円筒部61は、装着部3Bの上板部36Uの貫通孔に嵌る。筐体6Aのスクリューキャップ63は、装着部3Bの下板部36Bの貫通孔に嵌る。円筒部61の上端は、装着部3Bの上板部36Uよりも上方に配置される。図3に示すように、筐体6Aのスクリューキャップ63の下端部は、下板部36Bの下端よりも下方に突出する。第二バネ6Fは圧縮コイルバネであり、上下方向に伸縮可能である。
【0029】
切断刃16の刃先は、先端部18を角部とする軸M及びプラテン2Bの延設面に対して交差する方向に傾斜する。切断刃16は、軸Mから離隔した位置に先端部18を有する。つまり、切断刃16の先端部18は軸Mに対して偏心している。カバー17は、円筒部61の下端から下方に突出し、切断刃16を挿通する筒状である。第二バネ6Fは、切断体6Dの切断刃16に下方向の圧力を付加するために設けられる。
【0030】
図3に示すように、装着部3Bの上下方向の移動可能範囲の内、最上位を上昇位置という。装着部3Bが上昇位置にあるとき、装着部3Bに装着されたホルダ6の切断刃16の先端部18は、基部32よりも下方に僅かに突出し、且つ、保持部90を介して切断装置1のプラテン2Bに載置された被切断物9に対し、上方に離隔する。切断刃16の先端部18は、カバー17の下端よりも上方に位置する。
【0031】
装着部3Bが上昇位置に配置された状態で、バネ3Eは、上端部の固定ワッシャ310と下端部の可動板部362との間で収縮する。このため、バネ3Eは、装着部3Bの可動板部362に下向きの圧力を付与する。装着部3Bは、可動板部362を介してバネ3Eから下向きの力を受ける。一方、ラックギヤ43に噛み合うピニオンギヤ42Bの回転はZ軸モータ41の回転負荷により抑制されるので、ラックギヤ43の上下方向の移動は抑制される。このため、ラックギヤ43の上端部に接触する装着部3Bの可動板部365の下方への移動も抑制される。したがって、装着部3Bは、バネ3Eから下向きの力を受けた状態でも、下方に移動せず静止する。
【0032】
切断刃16による被切断物9の切断時、切断装置1の制御部2(図4参照)はZ軸モータ41を駆動し、ギヤ41Aを回転させる。ギヤ41Aの回転に応じ、ギヤユニット42の内歯車42A及びピニオンギヤ42Bは一体となって回転する。これにより、ピニオンギヤ42Bに噛み合うラックギヤ43は下方に移動する。ラックギヤ43の下方への移動に応じ、ラックギヤ43の下端部に連結したバネ3Dも、収縮することなく下方に移動する。なお、装着部3Bは、可動板部365を介してラックギヤ43の上端部に接触し、且つ、可動板部361を介してバネ3Dの下端部に連結している。このため装着部3Bは、ラックギヤ43の移動に応じて上昇位置から下方に移動する。
【0033】
装着部3Bの下方への移動に応じ、ホルダ6も下方に移動する。ホルダ6の切断刃16は、下方に位置する被切断物9に対して徐々に近接し、カバー17、切断刃16の順に被切断物9に接触する。切断刃16が被切断物9に接触した時、ホルダ6を介して装着部3Bに上向きの圧力が作用する。Z軸モータ41が継続して駆動することにより、ラックギヤ43は更に下方に移動する。このとき、バネ3Eは、可動板部362を介して装着部3Bに下向きの力を付与する。
【0034】
被切断物9が硬く、バネ3Eが付与する力では被切断物9に切断刃16を刺すことができない場合、装着部3Bの下向きの移動は、ホルダ6を介して被切断物9から受ける上向きの力により抑制される。この状態で更にピニオンギヤ42Bが回転した場合、ラックギヤ43は更に下方に移動する。これによりラックギヤ43の上端部は可動板部365から離隔し、ラックギヤ43は、バネ3Dを圧縮させながら、下方に移動する。バネ3Dは、バネ3Eよりも強い下向きの力を、可動板部361を介して装着部3Bに付与する。
【0035】
図4を参照して、切断装置1の電気的構成を説明する。図4に示すように、切断装置1は、CPU71、ROM72、RAM73、及び入出力(I/O)インタフェイス75を備える。CPU71は、ROM72、RAM73、及びI/Oインタフェイス75と電気的に接続されている。CPU71は、ROM72及びRAM73と共に、制御部2を構成し、切断装置1の主制御を司る。ROM72は、切断装置1を動作させるための各種プログラム等を記憶する。プログラムには、例えば、後述するメイン処理を切断装置1に実行させるためのプログラムがある。RAM73は、各種プログラム、各種データ、操作スイッチ232の操作等で入力された設定値、CPU71が演算処理した演算結果等を一時的に記憶する。I/Oインタフェイス75には、更に、記憶部74、操作スイッチ232、タッチパネル233、検出センサ76、検出器40、LCD231、及び駆動回路77から79が接続されている。記憶部74は、各種パラメータ等を記憶する不揮発性記憶素子である。
【0036】
検出センサ76は、プラテン2B上にセットされた保持部90の先端を検出する。検出センサ76の検出信号は、制御部2に入力される。検出器40は、装着部3Bの上下方向の位置を出力する。本例の制御部2は、検出器40の出力に基づき、プラテン2Bの上下方向の位置を基準として、装着部3Bの上下方向の位置(以下、高さともいう。)を特定する。装着部3Bの上下方向の位置の基準は適宜変更されてよい。制御部2は、LCD231を制御して、画像を表示させる。LCD231は、各種指示を報知できる。駆動回路77から79は各々、Y軸モータ15、X軸モータ25、及びZ軸モータ41を駆動する。制御部2は、切断データに基づき、Y軸モータ15、X軸モータ25、及びZ軸モータ41等を制御し、保持部90上の被切断物9に対する切断を自動で実行させる。切断データは、搬送機構2C及び移動機構2Dを制御させるための座標データを含む。座標データは、模様を表す複数の線分の各々の端点の相対位置を、切断可能領域内に設定される切断座標系で表す。本例の切断座標系の原点は、矩形状の切断可能領域の左後方に設定され、左右方向がX方向、前後方向がY方向と設定される。
【0037】
図5から図9を参照して、メイン処理を説明する。切断装置1の制御部2は、切断される模様が指定された状態で、パネル操作等により開始指示が入力された場合に、記憶部74に記憶されているプログラムを、RAM73に読み出し、プログラムに含まれる指示に従ってメイン処理を実行する。メイン処理に用いられる各種閾値は、切断条件を考慮して予め設定されていてもよいし、ユーザによって設定されてもよい。
【0038】
図5に示すように、メイン処理では、制御部2は、被切断物9から模様を切断するための切断データを取得する(S1)。切断データが取得される処理は、公知の方法に従って適宜実行されればよい。図6に示すように、具体例では、辺L1からL4を有する正方形状の模様Qを切断するための切断データが取得される。模様Qは、切断データに従って、辺L1上の切断開始位置STから時計回りの方向に切断される。制御部2は、駆動回路77及び78を制御してY軸モータ15及びX軸モータ25を駆動させることで、搬送機構2C及び移動機構2Dを制御し、保持部90に対して装着部3Bを所定位置に相対的に移動する(S2)。S2の処理は、装着部3Bに装着されたホルダ6の切断刃16と、プラテン2Bに載置された保持部90及び被切断物9とが離間した状態で実行される。本例の所定位置は、公知の刃先の向きを調整する処理(例えば、特開平2-262995号公報参照)が実行される調整位置であり、より具体的には、図1に示す保持部90の内、被切断物9よりも後ろ側の部分となる刃先調整領域内の位置である。
【0039】
制御部2は、Z軸モータ41を駆動することで接離機構3Cを制御し、S2の所定位置において、装着部3Bをプラテン2Bに近づく接近方向に移動させ(S3)、切断刃16が保持部90に接触した時の検出器40が出力する上下方向の位置である接触位置HPを取得する(S4)。制御部2は装着部3Bを上下方向に移動する際にZ軸モータ41(駆動回路79)に入力するパルス数を圧力対応値としてカウントし、検出器40から出力される信号に基づき、圧力対応値に対応する装着部3Bの高さを取得する。本例の制御部2は、図7の凡例51に示すように、装着部3Bをプラテン2Bに接近させ、圧力対応値に対する装着部3Bの高さの傾きが変わる装着部3Bの上下方向の位置を接触位置HPとして取得する。図7に示すように、接触位置HPは保持部90の離隔方向(上方)の表面91の上下方向の位置を示す。制御部2は、傾きが変わったことを検出したら、接離機構3Cを制御し、装着部3Bの接近方向(下方)への移動を停止する。
【0040】
制御部2は、取得された接触位置HPに基づき切断位置RPを設定する(S5)。本例の制御部2は、S4の処理によって取得された接触位置HPから、保持部90の厚み(上下方向の長さ)よりも小さい所定距離、装着部3Bを下方向に移動させた位置を切断位置RPに設定する。保持部90の厚みは、検出器40の出力に基づき取得されてもよいし、予め記憶部74等に記憶されていてもよく、例えば4.0mmである。所定距離は予め記憶部74等に記憶されていてもよいし、ユーザにより設定されてもよく、例えば1.0mmである。
【0041】
制御部2は、S3の処理により切断刃16が保持部90に接触した状態において、搬送機構2C及び移動機構2Dを制御し、刃先調整領域内で、切断刃16の向きを調整する公知の刃先の向きを調整する処理を実行する(S6)。制御部2は、接離機構3Cを制御し、装着部3Bを上昇位置まで離隔方向に移動させる(S7)。制御部2は、搬送機構2C及び移動機構2Dを制御し、保持部90に対して装着部3Bを硬さ対応値取得位置に相対的に移動する(S8)。硬さ対応値取得位置は、切断刃16が被切断物9の上方に位置する位置である。硬さ対応値取得位置は、例えば、S1で取得された切断データが示す切断開始位置STの近傍、且つ、切断により切り取られる模様Qの外側に設定される。
【0042】
制御部2は、接離機構3Cを制御し、S8の硬さ対応値取得位置において、装着部3Bの下降を開始させる(S9)。制御部2は、接離機構3Cに出力したパルス数に応じて、S9の処理を開始してからの出力済みのパルス数を随時更新する。検出器40の出力に基づき、圧力対応値に対する装着部3Bの高さの傾きが変化したかを判断する(S10)。制御部2は、圧力対応値に対する装着部3Bの高さの傾きが変化する迄、S10で待機する(S10:NO)。本例の制御部2は、装着部3Bをプラテン2Bに接近させ、圧力対応値に対する装着部3Bの高さの傾きが変わったことを検出した時(S10:YES)、装着部3Bの上下方向の位置TPを取得し、被切断物9の厚みEを特定する(S11)。図7に示すように、位置TPは被切断物9の離隔方向の表面92の上下方向の位置を示す。制御部2は、S4で取得された接触位置HPと、被切断物9の離隔方向(上方)の表面92の位置TPとを特定し、両者の差分から厚みEを特定する。図7の凡例52、53で示す具体例では、何れも後述の変数γを用いた5γが被切断物9の厚みEとして特定される。
【0043】
制御部2は、接離機構3Cを所定パルス分下降するよう制御し、S9の処理から計測したパルス数を所定パルス分、インクリメントする(S12)。制御部2は、S12で更新されたパルス数がパルス最大値かを判断する(S13)。パルス数は圧力対応値に相当する。パルス最大値は、例えば、予め設定され記憶部74に記憶されている。パルス数がパルス最大値ではない場合(S13:NO)、制御部2は、検出器40の出力に基づき、装着部3Bの高さが、S5で設定された切断位置RPかを判断する(S14)。装着部3Bの高さが切断位置RPではない場合(S14:NO)、制御部2は処理をS12に戻す。
【0044】
図7の凡例52で示す具体例では、パルス数がパルス最大値になる前に(S13:NO)、装着部3Bの高さが切断位置RPに達する(S14:YES)。一方、図7の凡例53で示す具体例では、装着部3Bの高さが切断位置RPに達する前に(S14:NO)、パルス数がパルス最大値に達する(S13:YES)。パルス数がパルス最大値に達した場合(S13:YES)、又は装着部3Bの高さが切断位置RPに達する場合(S14:YES)、制御部2は、プラテン2Bに載置された被切断物9の硬さに応じた硬さ対応値を取得する(S15)。硬さ対応値は、公知の方法で検出された被切断物9の硬さそのものであってもよいし、被切断物9の硬さの目安となる評価値であってもよい。硬さ対応値の取得方法は適宜設定されればよい。例えば、制御部2は、ユーザが入力した値を取得しもよいし、被切断物9の種類を検出して、被切断物9の種類に応じた値を設定してもよい。本例の制御部2は、圧力変更機構14が装着部3Bに加えた圧力に応じた圧力対応値と、装着部3Bの上下方向の位置とに基づき、硬さ対応値を取得する。より具体的には、制御部2は、圧力対応値に対する装着部3Bの高さの傾きを、硬さ対応値として取得する。図7の凡例52で示す具体例では、硬さ対応値として、後述の変数αを用いた1.5αが取得され、図7の凡例53で示す具体例では、4.5αが取得される。
【0045】
制御部2は、S15で取得された硬さ対応値に基づき、被切断物9を切断する方向が所定量以上変化する方向変化部分で、切断刃16の向きを変更する回転補正に用いるオフセット量Fに、被切断物9の硬さが柔らかい場合よりも硬い場合の方が大きな値を設定する(S16)。方向変化部分を定義するための所定量は、適宜定められればよく、例えば70度以上である。つまり、方向変化部分は、模様のうちの、角度が0度以上110度以下となる角部である。正方形状の模様Qでは、角度が90度である四つの角部の各々が方向変化部分である。オフセット量Fは、切断刃16により模様Qの内の方向変化部分を、模様に沿った形状に切断するための回転補正で用いられる変数である。
【0046】
切断装置1に装着される切断刃16の刃渡り部は、切断処理時に切断刃16に加わる圧力を考慮し、軸Mに対して交差する方向に延びる。切断装置1の装着部3Bには、切断刃16の軸Mと切断刃16の先端部18との位置が距離Jだけずれた切断刃16を有するホルダ6が装着される。このため、切断装置1が切断データに従って、保持部90に対しホルダ6を移動させた場合、軸Mの位置に対し切断刃16の先端部18の位置は、常に距離Jだけ切断刃16の進行方向の下流側にある。切断装置1が、軸Mが方向変化部分に位置する状態で、模様に沿って保持部90に対しホルダ6を移動させた場合、方向変化部分に沿って被切断物9を切断することができず、方向変化部分が切断刃16で潰れてしまう等の不具合が生じることがある。このような不具合を回避するために、方向変化部分において、保持部90に対するホルダ6の移動軌跡を変更して、切断刃16の向きを変更する補正が回転補正であり、回転補正に用いられる変数がオフセット量である。本例の制御部2は、回転補正において、方向変化部分の角をなす辺を切断方向にオフセット量Fだけ延ばし、オフセット量F分延ばした辺の端部と、接続先の辺とを方向変化部分の角を中心とする円弧状に繋ぐように、切断データを補正する。切断装置1が、回転補正された切断データに従って、オフセット量F分延ばした辺の端部の位置に保持部90に対し装着部3Bを移動させた場合、切断刃16の先端部18は、方向変化部分の角に達する。更に切断装置1は、先端部18が角部に達した位置から保持部90に対し装着部3Bを円弧状に移動させることで、切断刃16の向きを接続先の辺を切断するための方向に変更できる。
【0047】
オフセット量Fは、方向変化部分において、切断刃16の刃の向きを変更することを考慮して設定される。より具体的には、オフセット量Fは、軸Mと、切断刃16の先端部18との距離Jを考慮して設定される。オフセット量Fは、距離Jを考慮し、例えば、距離Jの0.7から1.3倍の範囲で設定される。切断装置1では、被切断物9の硬さが硬いほど、被切断物9の硬さが柔らかい場合に比べ、オフセット量Fで指定された量よりも実際に被切断物9が切断される量が短い。このため、制御部2は、オフセット量Fに、被切断物9の硬さが柔らかい場合よりも硬い場合の方が大きな値を設定することで、保持部90に対し装着部3Bをオフセット量F分延ばした辺の端部に配置させた時に、切断刃16の先端部18が方向変化部分の角に位置する可能性を高める。
【0048】
図8に示すように、本例の切断装置1は、記憶部74にテーブル80を記憶する。テーブル80は、被切断物9の硬さ対応値と、オフセット量Fとの対応を記憶する。テーブル80は、更に、被切断物9の硬さ対応値と、被切断物9の厚みEに応じた第一切込量及び第二切込量との対応を記憶する。テーブル80では、硬さ対応値を、模式的に変数αを用いて表記する。硬さ対応値は、値が大きいほど値が小さい場合に比べ、硬さが硬いことを示す。オフセット量Fは変数βを用いて表記する。オフセット量Fは値が大きいほど値が小さい場合に比べ、オフセット量Fが大きいことを示す。βから1.3βは、距離Jの0.7から1.3倍の範囲内にある。被切断物9の厚みE、第一切込量及び第二切込量を変数γを用いて示す。厚みE、第一切込量及び第二切込量は値が大きいほど値が小さい場合に比べ、厚みE、第一切込量及び第二切込量が大きいことを示す。第一切込量は、被切断物9の厚みE及び硬さを考慮し、装着部3Bの位置を変えた条件で切断処理を複数回行うことで、模様を切断する場合の、第一回目及び最後の切断処理で切断される厚み(上下方向の長さ)である。第二切込量は、複数回に分けて切断処理を行う場合の、第一回目及び最後以外の切断処理で切断される厚み(上下方向の長さ)である。制御部2は、装着部3Bの位置を、切断処理の回数が増えるほど、切断位置RPに近づけて、各回の切断処理を行う。
【0049】
制御部2は、S11で取得された被切断物9の厚みEに基づき、S15で取得される硬さ対応値が同じである場合、被切断物9の厚みEが薄い場合よりも厚い場合の方が、オフセット量Fに大きな値を設定する。例えば、図8のテーブル80に示すように、硬さ対応値がαから2αの範囲にある場合、被切断物9の厚みEが0から2γの範囲のオフセット量Fは1.1βであるのに対し、被切断物9の厚みEが2γから5γの範囲のオフセット量Fは1.1βよりも大きい1.2βである。
【0050】
制御部2は、硬さ対応値が所定範囲内の場合、被切断物9の厚みEが大きいほどオフセット量Fを大きな値に設定する。制御部2は、被切断物9の硬さ対応値が所定範囲内にある場合よりも硬い場合の値である時、被切断物9の厚みEにかかわらず、被切断物9の硬さ対応値が所定範囲内である場合のオフセット量Fより大きい、一定の値に設定する。本例の所定範囲は、硬さ対応値がα以上且つ4α未満の範囲である。制御部2は、図7の凡例52で示す具体例では、オフセット量Fに1.2βが設定される。制御部2は、図7の凡例53で示す具体例のように硬さ対応値が4α以上である場合には、被切断物9の厚みEにかかわらず、被切断物9の硬さ対応値が所定範囲4α未満内である場合のオフセット量Fの最大値である1.25βより大きい、一定の値である1.3βに設定する。
【0051】
制御部2は、硬さ対応値が所定範囲内の場合、被切断物9の厚みEが大きいほどオフセット量Fを大きな値に設定する。制御部2は、硬さ対応値が所定範囲内の場合よりも被切断物9が柔らかい場合の値である時、被切断物9の厚みEにかかわらず、硬さ対応値が所定範囲内である場合のオフセット量Fよりも小さい、一定の値に設定する。本例の所定範囲は、硬さ対応値がα以上且つ4α未満の範囲である。制御部2は、テーブル80に従って、硬さ対応値がα未満である場合には、被切断物9の厚みEにかかわらず、被切断物9の硬さ対応値が所定範囲α以上且つ4α未満内である場合のオフセット量Fの最小値である1.1βより小さい、一定の値であるβに設定する。
【0052】
制御部2は、S11で取得された被切断物9の厚みEと、被切断物9の硬さ対応値とに応じて、補正された切断データに従って、切断処理を行う回数と、切断処理毎の被切断物9を切り込む切込量とを設定する(S17)。制御部2は、回数が一回目の切込量である第一切込量を回数が二回目の切込量である第二切込量以下に設定する。制御部2は、被切断物9の硬さ対応値に基づき、被切断物9の硬さが柔らかい場合よりも硬い場合の方が、切込量を小さく設定する。図7の凡例52で示す具体例では、第一切込量に0.5γが設定され、第二切込量にγが設定され、切断回数に5回が設定される。図7の凡例53で示す具体例では、第一切込量と第二切込量とに0.5γが設定され、切断回数に10回が設定される。
【0053】
制御部2は、切断データの内の、方向変化部分に対応するデータを、S16で設定されたオフセット量Fに用いて補正する(S18)。制御部2は、公知の方法でオフセット量Fを用いて切断データを補正してよい。制御部2は、例えば、以下の手順で切断データを補正する。制御部2は、S1で取得された切断データに基づき、模様Qの内の方向変化部分を特定する。図6(B)に示すように、制御部2は、辺L1と、辺L2との角部において、辺L1を切断方向である右方に伸ばし、伸ばされた後の辺L1の右端と、辺L2とを、角部を中心とする円弧状に繋ぐように切断データを補正する。制御部2は、他の方向変化部分の切断データも同様に、補正する。
【0054】
制御部2は、接離機構3Cを制御し、装着部3Bを上昇位置まで離隔方向に移動させる(S19)。制御部2は、S18で補正された切断データに従って、搬送機構2C及び移動機構2Dを制御し、プラテン2Bに載置された被切断物9と装着部3Bとを前後方向及び左右方向へ相対移動して、装着部3Bに装着された切断刃16で被切断物9を切断する切断処理を実行する(S20)。
【0055】
図9に示すように、制御部2は、S1で取得された切断データに基づき、搬送機構2C及び移動機構2Dを制御し、保持部90に対して装着部3Bを切断開始位置STに相対的に移動する(S30)。制御部2は、S17で設定された切断回数を順に読み出すための変数Nに1を設定する(S31)。制御部2は、第一切込量に2γが設定されているかを判断する(S32)。第一切込量に2γが設定されている場合(S32:YES)、制御部2は、目標位置にS5で設定された切断位置RPを設定する(S34)。第一切込量に2γが設定されている場合は、被切断物9の硬さ対応値及び厚みEに基づき、一回の切断処理で、被切断物9を切断可能と判断される場合である。制御部2は、接離機構3Cを制御し、S30の切断開始位置において、装着部3Bをプラテン2Bに向けて下降させる処理を開始させる(S35)。制御部2は、検出器40から出力される信号に基づき、装着部3BがS34で設定された、変数Nに対応する目標位置に達したかを判断する(S36)。装着部3Bが目標位置に達していない場合(S36:NO)、制御部2は、処理をS36に戻す。装着部3Bの高さがS34で設定された目標位置に達した場合(S36:YES)、制御部2は、接離機構3Cを制御し、S35で開始した装着部3Bを下降させる処理を停止し(S37)、装着部3Bの上下方向の位置が目標位置にある条件でN回目の切断処理を実行する(S38)。N回目の切断処理では、制御部2は、S18で補正された切断データに従って、搬送機構2C及び移動機構2Dを制御し、プラテン2Bに載置された被切断物9と装着部3Bとを前後方向及び左右方向へ相対移動して、装着部3Bに装着された切断刃16で被切断物9を切断する。制御部2は、以上で切断制御処理を終了し、処理を図5のメイン処理に戻す。
【0056】
第一切込量に2γが設定されていない場合(S32:NO)、制御部2は、変数NがS17で設定された切断回数と等しいかを判断する(S33)。第一切込量に2γが設定されていない場合は、被切断物9の硬さ対応値及び厚みEに基づき、一回の切断処理では、被切断物9を切断可能と判断されなかった場合である。変数NがS17で設定された切断回数と等しい場合(S33:YES)、制御部2は、前述のS34の処理を行う。変数Nが切断回数ではない場合(S33:NO)、制御部2は、変数Nが1であるかを判断する(S39)。変数Nが1である場合(S39:YES)、制御部2は、切込量にS17で設定された第一切込量を設定する(S40)。制御部2は、目標位置に、被切断物9の上面位置TPから、S40で設定された第一切込量を差し引いた値を設定する(S41)。被切断物9の上面位置TPは、S4で取得された接触位置HPに、S11で取得された被切断物9の厚みEを加えた位置である。変数Nが1ではない場合(S39:NO)、制御部2は、切込量にS17で設定された第二切込量を設定する(S42)。制御部2は、目標位置に、被切断物9の切断済位置から、S42で設定された第二切込量を差し引いた値を設定する(S43)。被切断物9の切断済位置は、被切断物9の上面位置TPから、既に切断刃16により切断された厚みを差し引いた位置である。
【0057】
制御部2は、接離機構3Cを制御し、S30の切断開始位置STにおいて、装着部3Bをプラテン2Bに向けて下降させる処理を開始させる(S44)。制御部2は、接離機構3Cが制御されている期間に、検出器40から出力される信号に基づき装着部3Bの上下方向の位置が、装着部3BがS41又はS43で、切込量に基づき設定された目標位置に達したかを判断する(S45)。装着部3Bが目標位置に達していない場合(S45:NO)、制御部2は、Z軸モータ41に入力されたパルス数に基づき、接離機構3Cが制御されている期間に、圧力変更機構14により装着部3Bに加わる接近方向の圧力に対応する圧力対応値が圧力閾値(閾値ThP)に達したかを判断する(S50)。閾値ThPは、装着部3Bに加えられる圧力が過剰に大きくなることを回避するために設定された圧力対応値の最大値である。閾値ThPは、S13のパルス最大値と同じであってもよいし、互いに異なってもよい。現在の圧力対応値が閾値ThPより小さい場合(S50:YES)、制御部2は、処理をS45に戻す。装着部3Bが目標位置に達した場合(S45:YES)、制御部2は、接離機構3Cを制御し、S35で開始した装着部3Bを下降させる処理を停止し(S47)、S38と同様に、N回目の切断処理を実行する(S48)。制御部2は、変数Nを1だけインクリメントし(S49)、処理をS33に戻す。
【0058】
S45により装着部3Bの上下方向の位置が目標位置に達したと判断される前に(S45:NO)、圧力対応値が閾値ThPに達したと判断された場合(S50:NO)、制御部2は、接離機構3Cの制御を停止する(S51)。制御部2は、S17で設定された切断回数を更新した後(S52)、接離機構3Cの制御が停止された時の装着部3Bの上下方向の位置で切断処理を行う(S48)。図7の凡例52で示す具体例では、一回目の切込量に第一切込量0.5γが設定され(S40)、二回目から四回目の切込量に第二切込量γが設定され(S42)、一回目から四回目の切断処理が各々実行される。五回目の切断処理では、目標位置に切断位置RPが設定され(S34)、切断処理が実行される(S38)。図7の凡例53で示す具体例では、一回目の切込量に第一切込量0.5γが設定され(S40)、二回目から九回目の切込量に第二切込量0.5γが設定され(S42)、一回目から九回目の切断処理が各々実行される。十回目の切断処理では、目標位置に切断位置RPが設定され(S34)、切断処理が実行される(S38)。図5において、S20の後、制御部2は、接離機構3Cを制御し、装着部3Bを上昇位置まで離隔方向(上方)に移動させる(S21)。制御部2は、以上でメイン処理を終了する。
【0059】
上記実施形態のメイン処理に従って被切断物9を切断した場合の模様の切断品質の評価試験を行った。被切断物9の硬さ対応値に応じたオフセット量F、第一切込量、及び第二切込量を設定しない場合を比較例、上記実施形態のメイン処理に従って被切断物9の硬さ対応値に応じたオフセット量F、第一切込量、及び第二切込量を設定した場合を実施例とした。比較例と、実施例とで、被切断物9の材質、切断データ、及び切断刃16は同じとした。具体的には、切断刃16は、軸Mから先端部18までの距離Jが10mmのものを使用した。被切断物9の材質は、厚みEが約2mmのバスウッドとした。切断データに従って切断される模様は、一辺が30mmの正方形とした。比較例では、オフセット量Fが11mmに設定され、切断回数に5回が設定され、第一、第二切込量に0.5mmが設定された。実施例では、オフセット量Fに13mmが設定され、切断回数に10回が設定され、切込量に0.2mmが設定された。
【0060】
図10の写真中、切断模様の背景の隣り合う点の間隔は4mmである。図10に示すように、比較例の切断模様は、正方形の角部が丸みを帯びた形状になっているのに対し、実施例の切断模様は、比較例に比べ、角部が直角に近い状態で切断されていた。評価試験の結果から、被切断物9の硬さ対応値に応じたオフセット量F、第一切込量、及び第二切込量を設定しない比較例よりも、上記実施形態のメイン処理に従って被切断物9の硬さ対応値に応じたオフセット量F、第一切込量、及び第二切込量を設定した実施例の方が、模様の形状に沿って被切断物9を切断できる可能性を高めることで、模様の切断品質を向上できることが確認された。
【0061】
上記実施形態において、切断装置1、制御部2、プラテン2B、装着部3B、及び切断刃16は各々、本発明の切断装置、制御部、プラテン、装着部、及び切断刃の一例である。搬送機構2C及び移動機構2Dは、本発明の移動機構の一例である。圧力変更機構14及び接離機構3Cは各々、本発明の圧力変更機構及び接離機構の一例である。S1を実行する制御部2は、本発明の切断データ取得部の一例である。S15を実行する制御部2は、本発明の硬さ取得部の一例である。S16を実行する制御部2は、本発明のオフセット量設定部の一例である。S18を実行する制御部2は、本発明の補正部の一例である。S20を実行する制御部2は、本発明の切断制御部の一例である。S11を実行する制御部2は、本発明の厚み取得部の一例である。S17を実行する制御部2は、本発明の切込設定部の一例である。S50を実行する制御部2は、本発明の第一判断部の一例である。S45を実行する制御部2は、本発明の第二判断部の一例である。
【0062】
上記実施形態の切断装置1は、プラテン2B、装着部3B、搬送機構2C、及び移動機構2D、制御部2を備える。装着部3Bは、前後方向及び前後方向と交差する左右方向との各々に交差する上下方向に延びる軸Mから所定距離離れた位置に先端部18を有する切断刃16を、軸Mを中心に回動可能に装着するよう構成される。搬送機構2C及び移動機構2Dは、プラテン2Bに載置された被切断物9と装着部3Bとを前後方向及び左右方向へ相対移動させるよう構成されている。制御部2は、搬送機構2C及び移動機構2Dを制御可能である。制御部2は、被切断物9から模様を切断するための切断データを取得する(S1)。制御部2は、プラテン2Bに載置された被切断物9の硬さに応じた硬さ対応値を取得する(S15)。制御部2は、S15で取得された硬さ対応値に基づき、被切断物9を切断する方向が所定量以上変化する方向変化部分で、切断刃16の向きを変更する回転補正に用いるオフセット量Fに、被切断物9の硬さが柔らかい場合よりも硬い場合の方が大きな値を設定する(S16)。制御部2は、切断データの内の、方向変化部分に対応するデータを、S16で設定されたオフセット量Fを用いて補正する(S18)。制御部2は、補正された切断データに従って、搬送機構2C及び移動機構2Dを制御し、プラテン2Bに載置された被切断物9と装着部3Bとを第一方向及び第二方向へ相対移動して、装着部3Bに装着された切断刃16で被切断物9を切断する切断処理を実行する(S20)。
【0063】
切断装置1は、被切断物9の硬さ対応値を取得し、被切断物9の硬さに応じて回転補正に用いるオフセット量Fを設定するため、被切断物9の切断に用いる設定条件の内のオフセット量Fを従来よりも適切に設定できる。これにより、切断装置1は、従来よりも被切断物9に適した条件で回転補正を行うことができる。切断装置1は、従来よりも、模様の形状に沿って被切断物を切断できる可能性を高めることで、模様の切断品質を向上できる。
【0064】
切断装置1は、接離機構3C及び圧力変更機構14を備える。接離機構3Cは、制御部2により制御され、上下方向であって、装着部3Bをプラテン2Bに接近させる接近方向及び装着部3Bをプラテン2Bから離隔させる離隔方向に装着部3Bを移動させる。圧力変更機構14は、接離機構3Cの移動に応じて、装着部3Bに加える接近方向の圧力を変更可能である。制御部2は、圧力変更機構14が装着部3Bに加えた圧力に応じた圧力対応値と、装着部3Bの上下方向の位置とに基づき、硬さ対応値を取得する(S15)。切断装置1は、圧力対応値と、装着部3Bの上下方向の位置とに基づき、被切断物9の硬さ対応値を取得するので、ユーザによる被切断物9の硬さ対応値を切断装置1に入力する手間を省くことができる。切断装置1は、圧力対応値と、装着部3Bの上下方向の位置とに基づき、被切断物9の硬さ対応値を取得するので、硬さ対応値の設定ミスを抑制し、被切断物9に適した条件で回転補正を行うことができる。
【0065】
切断装置1の制御部2は、上下方向における被切断物9の厚みEを取得する(S11)。制御部2は、S11で取得された被切断物9の厚みEに基づき、硬さ対応値が同じである場合、被切断物9の厚みEが薄い場合よりも厚い場合の方が、オフセット量Fに大きな値を設定する(S16)。切断装置1は、被切断物9の硬さと厚みEとに応じて、方向変化部分のオフセット量Fを設定するため、被切断物9の硬さと厚みEとを考慮して、方向変化部分を模様に沿って切断する可能性を従来よりも高めることができる。
【0066】
切断装置1の制御部2は、上下方向における被切断物9の厚みEを取得する(S11)。制御部2は、S11で取得された被切断物9の厚みEと、被切断物9の硬さ対応値とに応じて、補正された切断データに従って、切断処理を行う回数と、切断処理毎の被切断物9を切り込む切込量とを設定する(S17)。制御部2は、搬送機構2C、移動機構2Dと、接離機構3Cとを制御して、S17で設定された回数だけ、切断処理毎に設定された切込量で、切断処理を実行する(S20)。切断装置1は、被切断物9の硬さと厚みEとに応じて、被切断物9に適した回数と、切込量とで被切断物9を切断できる。これにより切断装置1は、被切断物9の硬さと厚みEとに応じて、被切断物9に適した回数と、切込量とが設定されない場合に比べ、模様の形状に沿って被切断物9を切断できる可能性を高めることができ、模様の切断品質を向上できる。
【0067】
切断装置1の制御部2は、硬さ対応値が所定範囲内の場合、被切断物9の厚みEが大きいほどオフセット量Fを大きな値に設定する(S16)。制御部2は、被切断物9の硬さ対応値が所定範囲内にある場合よりも硬い場合の値である時、被切断物9の厚みEにかかわらず、被切断物9の硬さ対応値が所定範囲内である場合のオフセット量Fより大きい、一定の値に設定する(S16)。切断装置1は、硬さ対応値が所定範囲を超える場合にも、被切断物9の厚みEが大きいほどオフセット量Fを大きな値に設定することに起因して、オフセット量Fを過剰に設定することを回避できる。
【0068】
切断装置1の制御部2は、硬さ対応値が所定範囲内の場合、被切断物9の厚みEが大きいほどオフセット量Fを大きな値に設定する(S16)。制御部2は、硬さ対応値が所定範囲内の場合よりも被切断物9が柔らかい場合の値である時、被切断物9の厚みEにかかわらず、硬さ対応値が所定範囲内である場合のオフセット量Fよりも小さい、一定の値に設定する(S16)。切断装置1は、硬さ対応値が所定範囲よりも小さい場合にも、被切断物9の厚みEが大きいほどオフセット量Fを大きな値に設定することに起因して、オフセット量Fを過少に設定することを回避できる。
【0069】
切断装置1の制御部2は、回数が一回目の切込量である第一切込量を回数が二回目の切込量である第二切込量以下に設定する(S17)。切断装置1は、第二切込量よりも大きい第一切込量で、回数が一回目の切断処理で被切断物に轍を形成する場合に比べ、被切断物9を模様に沿って切断する可能性を高めることができる。
【0070】
切断装置1の制御部2は、被切断物9の硬さ対応値に基づき、被切断物9の硬さが柔らかい場合よりも硬い場合の方が、切込量を小さく設定する(S17)。切断装置1は、被切断物9の硬さ対応値に応じて、被切断物9の切込量を適切に設定できる。
【0071】
切断装置1の制御部2は、接離機構3Cが制御されている期間に、圧力変更機構14により装着部3Bに加わる接近方向の圧力に対応する圧力対応値が圧力閾値に達したかを判断する(S50)。制御部2は、接離機構3Cが制御されている期間に、装着部3Bの上下方向の位置が、切込量に基づき設定された目標位置に達したかを判断する(S45)。制御部2は、S45で装着部3Bの上下方向の位置が目標位置に達したと判断される前に、S50で圧力対応値が閾値ThPに達したと判断された場合(S45:NO、S50:NO)、接離機構3Cの制御を停止する(S51)。制御部2は、接離機構3Cの制御が停止された時の装着部3Bの上下方向の位置で切断処理を行う(S48)。切断装置1は、装着部3Bに装着された切断刃16に比較的大きな圧力が加わることにより、切断刃16が欠けることを抑制できる。
【0072】
本発明の切断装置は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更が加えられてもよい。例えば、切断装置1の構成は適宜変更されてよい。切断装置1は、切断刃16による切断に加え、描画等の切断以外の処理を実行できてもよい。切断装置1は、装着部3Bと保持部90とを相対的に第一方向及び第二方向に移動できればよく、例えば、保持部90の位置を固定した上で、装着部3Bを第一方向及び第二方向に移動できてもよい。第一方向、第二方向、第三方向、接近方向、及び離隔方向は、適宜変更されてよい。保持部90は、被切断物9を保持できればよく、マット状の部材の他、例えば、トレー状の部材であってもよい。検出器40は装着部3Bの第三方向の位置を検出できればよく、配置及び構成等は適宜変更されてよい。検出器40は、例えば、装着部3Bに設けられたスリットの移動量を検出するエンコーダであってもよいし、装着部3Bに設けられたマグネットが発生する磁場(磁界)の大きさ及び方向を検出するセンサであってもよい。検出器40が出力する装着部3Bの第三方向の位置の基準は適宜変更されてよい。圧力変更機構14は、装着部3Bに加えるプラテン2B側への圧力を変更できればよく、圧縮コイルバネ以外の付勢部材(例えば、ネジリバネ)であってもよい。圧力変更機構14は、例えば、装着部3Bに接近方向の力を加えるエアシリンダであってもよい。
【0073】
図5に示すメイン処理は、制御部2の代わりに、マイクロコンピュータ、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等が、プロセッサとして用いられてもよい。メイン処理は、複数のプロセッサによって分散処理されてもよい。メイン処理を実行するためのプログラムを記憶する記憶部74は、例えば、HDD及び/又はSSD等の他の非一時的な記憶媒体で構成されてもよい。非一時的な記憶媒体は、情報を記憶する期間に関わらず、情報を留めておくことが可能な記憶媒体であればよい。非一時的な記憶媒体は、一時的な記憶媒体(例えば、伝送される信号)を含まなくてもよい。メイン処理を実行するためのプログラムは、例えば、図示略のネットワークに接続されたサーバからダウンロードされて(即ち、伝送信号として送信され)、HDDに記憶されてもよい。この場合、プログラムは、サーバに備えられたHDD等の非一時的な記憶媒体に保存されていればよい。上記実施形態のメイン処理の各ステップは、必要に応じて順序の変更、ステップの省略、及び追加が可能である。切断装置1の制御部2からの指令に基づき、切断装置1で稼動しているオペレーティングシステム(OS)等が実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって上記実施形態の機能が実現される場合も本開示の範囲に含まれる。
【0074】
S2の所定位置は適宜変更されてよい。S2の所定位置は、被切断物9が載置されない場所であることが好ましく、具体的には保持部90に設定される切断可能領域以外の領域であることが好ましい。切断装置1が、被切断物9が配置されている箇所を特定できる場合、切断装置1は、特定された被切断物9の配置に基づき、S2の所定位置を決定してもよい。この場合S2の所定位置は、切断可能領域内であってもよい。切断位置RPを取得する処理は、S3からS7までの切断刃16の向きを調整する処理とは、別の期間に実行されてもよい。S6の処理は必要に応じて省略されてよい。
【0075】
圧力対応値及び硬さ対応値は、適宜変更されてもよい。圧力対応値は、例えば、切断装置1に圧力センサが備えられている場合には、圧力センサ値を、圧力対応値としてもよい。硬さ対応値は、被切断物9が他の物体によって力を加えられたとき、加えられた力に抵抗する力の程度を示す尺度であればよい。圧力対応値は、例えば、切断装置1に硬さセンサが備えられている場合には、硬さセンサ値を硬さ対応値としてもよい。
【0076】
硬さ対応値に基づきオフセット量Fを設定する方法は適宜変更してよい。テーブル80は適宜変更してよい。制御部2は、テーブル80を参照してオフセット量Fを設定する他、所定の計算式に硬さ対応値を代入してオフセット量Fを設定してもよい。テーブル80は、硬さ対応値と、オフセット量Fとの関係を記憶すればよく、被切断物9の厚みEに応じたオフセット量F、第一切込量、及び第二切込量の少なくとも何れかを記憶しなくてもよい。制御部2は、硬さ対応値に応じてオフセット量Fに被切断物9の硬さが柔らかい場合よりも硬い場合の方が大きな値を設定できればよく、被切断物9の厚みEに応じたオフセット量Fをできなくてもよい。制御部2は、硬さ対応値が所定範囲に入っているか否かに関わらず、硬さ対応値に応じてオフセット量Fに被切断物9の硬さが柔らかい場合よりも硬い場合の方が大きな値を設定してもよい。
【0077】
制御部2は、被切断物9の硬さ対応値及び厚みEに応じて切断処理の回数、第一切込量、及び第二切込量を設定しなくてもよい。第一切込量は第二切込量より大きくてもよい。制御部2は、例えば、切断処理の回数、第一切込量、及び第二切込量を設定せず、目標位置に切断位置RPを設定し、S45、S47、S48、S50、S51と同様の処理により、切断位置RPか、圧力対応値が閾値ThPとなる上下位置との何れかで切断処理を実行してもよい。
【符号の説明】
【0078】
1:切断装置、2:制御部、2B:プラテン、3B:装着部、3C:接離機構、6:ホルダ、7:移動機構、8:搬送機構、14:圧力変更機構、16:切断刃、40:検出器、71:CPU、72:ROM、73:RAM、74:記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10