(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150788
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】二次電池用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20220929BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053552
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】奥田 峻
(72)【発明者】
【氏名】吉川 和孝
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 慎也
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA01
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA23
5H050GA03
5H050GA10
5H050HA08
(57)【要約】
【課題】生産性を確保しつつ、電極材料を良好に分散させることにより電池性能に優れた二次電池用電極の製造方法を提供すること。
【解決手段】二次電池用電極の製造方法は、磁性金属触媒を用いて合成され、磁性金属触媒を含む導電性の炭素材料に対して鉛直方向の下方に向かう磁場を印加しながら粉体状の活物質と混合して混合粉体を得るステップと、混合粉体に対して鉛直方向の下方に向かう磁場を印加しながら結着剤が溶媒中に溶解又は分散された結着剤液を滴下して造粒体を得るステップと、造粒体を圧延して集電箔上に合材層を形成するステップと、を有し、炭素材料のかさ密度は活物質のかさ密度より小さい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性金属触媒を用いて合成され、前記磁性金属触媒を含む導電性の炭素材料に対して鉛直方向の下方に向かう磁場を印加しながら粉体状の活物質と混合して混合粉体を得るステップと、
前記混合粉体に対して鉛直方向の下方に向かう磁場を印加しながら結着剤が溶媒中に溶解又は分散された結着剤液を滴下して造粒体を得るステップと、
前記造粒体を圧延して集電箔上に合材層を形成するステップと、
を有し、
前記炭素材料のかさ密度は前記活物質のかさ密度より小さい二次電池用電極の製造方法。
【請求項2】
前記混合粉体に対して断続的に磁場を印加する、
請求項1に記載の二次電池用電極の製造方法。
【請求項3】
前記結着剤液を少なくとも磁場印加中に滴下する、
請求項1又は2に記載の二次電池用電極の製造方法。
【請求項4】
前記炭素材料は、予め解砕して用いられる、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の二次電池用電極の製造方法。
【請求項5】
前記合材層は、回転するロール対の間に前記造粒体を通して圧延し、圧延された前記造粒体を集電箔上に転写して形成される、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の二次電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池に用いられる電極は、導電性を有する集電箔(集電体)と、集電箔上に保持された活物質や結着剤を含む合材層と、を備えている。このような二次電池では、合材層中に十分な導電パスを形成するために、導電材が用いられる場合がある。例えば、導電材としては、炭素材料が好適に用いられる。活物質、結着剤、及び導電材等の電極材料は、適当な溶媒を含んだ液状又は流動体状であるスラリー、又は湿潤状態である造粒体の形態で集電箔上に塗工され、これを乾燥することにより集電箔上に合材層を形成することができる。
【0003】
特に、高出力性能を要する二次電池では、微細化された活物質は、一次粒子が凝集しやすく、容易に二次粒子を形成する。そのため、合材層中におけるイオン拡散抵抗の増加を抑制するためには、活物質が一次粒子の形態で良好に分散することが望ましい。また、導電材として凝集力の高い炭素材料を用いる場合は、合材層中において導電材を適度に分散させることにより良好な導電パスを形成し、電極の導電性を向上することができる。このように、合材層中における電極材料の分散状態は、電池性能に影響を与え得る。
【0004】
特許文献1には、カーボンナノ粒子及び分散媒を混合して第1混合物を得る工程S1と、第1混合物及びカーボンブラック粒子を混合して第2混合物を得る工程S2と、第2混合物及び活物質粒子を混ぜ、せん断応力τ=200N/m2以上で固練りして第3混合物を得る工程S3と、湿潤粒子の粒子集合体を形成する工程S4と、未乾燥活物質膜を集電箔上に形成する工程S5と、未乾燥活物質膜を乾燥させて活物質層を形成する工程S6とを備える電極板の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、電極板を形成するにあたり、電極材料を含む湿潤粒子の粒子集合体(造粒体)をロール対の間隙を通して圧延し、膜状(シート状)に成形したものを集電箔上に転写することにより、集電箔上に造粒体を成膜する塗工方法を用いている。この塗工方法に用いられる造粒体は、上記したスラリーと比較して少量の溶媒を用いて作製されるため、電極の乾燥時間が短縮されるというメリットがある。
【0007】
一方で、固形分率の高い造粒体を作製する際には、電極材料を均一に混合することが困難な場合がある。そのため、特許文献1では、分散媒を含んだ比較的高い固形分率を有する混合物に対して高いせん断応力を与えて電極材料を混合することにより、合材層中における電極材料の分散性を改善することが検討されている。しかしながら、このように高いせん断応力を与える方法では、生産性が低下するという問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、生産性を確保しつつ、電極材料を良好に分散させることにより電池性能に優れた二次電池用電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施の形態にかかる二次電池用電極の製造方法は、磁性金属触媒を用いて合成され、磁性金属触媒を含む導電性の炭素材料に対して鉛直方向の下方に向かう磁場を印加しながら粉体状の活物質と混合して混合粉体を得るステップと、混合粉体に対して鉛直方向の下方に向かう磁場を印加しながら結着剤が溶媒中に溶解又は分散された結着剤液を滴下して造粒体を得るステップと、造粒体を圧延して集電箔上に合材層を形成するステップと、を有し、炭素材料のかさ密度は活物質のかさ密度より小さい。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、生産性を確保しつつ、電極材料を良好に分散させることにより電池性能に優れた二次電池用電極、及び二次電池用電極の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1にかかる二次電池用電極の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】電極の製造条件及び性能評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0013】
以下、本実施形態にかかる二次電池用電極の製造方法の好適な実施形態の一つとして、リチウムイオン二次電池用電極の製造方法に具体化して説明する。リチウムイオン二次電池は、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正極(正極板)と負極(負極板)との間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池である。
【0014】
まず、本実施形態にかかる二次電池用電極の製造方法により製造される電極板の概略を説明する。電極板は、集電箔と、集電箔上に形成される合材層と、を有する。集電箔は、板状又は箔状に形成され、導電性の良好な金属により構成される。正極である場合、集電箔を構成する金属は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等が挙げられる。負極である場合、集電箔を構成する金属は、例えば、銅、銅合金、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等が挙げられる。
【0015】
合材層は、幅方向の一方の縁に沿った縁部を除いて、集電箔の少なくとも一方の表面上に形成される。また、電極板は、集電箔の当該縁部に、合材層が形成されず集電箔が露出した露出部を有する。合材層は、活物質、導電材、及び結着剤を含み、集電箔に保持される。合材層は、その他に必要に応じて増粘剤等の添加剤を含んでも良い。
【0016】
本実施形態では、固形分率が比較的高い湿潤状態の造粒体をロール対の間に通して圧延し、圧延された造粒体を集電箔上に転写することにより、集電箔上に造粒体を成膜する塗工方法を用いて電極板を形成する場合について説明する。造粒体とは、活物質、結着剤、導電剤、及び溶媒を含み、合材層を形成するための材料である。
【0017】
次に、
図1を参照して本実施形態にかかる二次電池用電極の製造方法について説明する。
図1は、実施の形態1にかかる二次電池用電極の製造方法を示すフローチャートである。本実施形態にかかる二次電池用電極の製造方法は、正極及び負極の双方の電極に適用可能である。
【0018】
図1に示すように、本実施形態にかかる二次電池用電極の製造方法は、ステップS1~S3の工程を有する。ステップS1は、磁性金属触媒を用いて合成され、磁性金属触媒を含む導電性の炭素材料に対して鉛直方向の下方に向かう磁場を印加しながら粉体状の活物質と混合して混合粉体を得る粉体混合工程である。ステップS2は、混合粉体に対して鉛直方向の下方に向かう磁場を印加しながら結着剤が溶媒中に溶解又は分散された結着剤液を滴下して造粒体を得る造粒工程である。ステップS3は、造粒体を圧延して集電箔上に合材層を形成する合材層形成工程である。
【0019】
なお、ステップS1及びS2において、撹拌に用いる撹拌装置は、同一の撹拌装置を用いてもよく、異なる撹拌装置を用いてもよい。生産性の観点からは、同一の撹拌装置を用いることが好ましい。
【0020】
撹拌を行うための撹拌装置は特に限定されない。撹拌装置は、例えば、容器と、回転する撹拌子(撹拌羽根及び解砕羽根)と、を有し、この撹拌子を回転することにより粉体を解砕・混合・造粒できるものであればよい。このような撹拌装置としては、プラネタリミキサ、フードプロセッサ、ホモミキサ、ヘンシェルミキサ、スーパーミキサ、プロペラ撹拌機、高速ミキサ等の機械式の撹拌装置が例示される。
【0021】
上記の各工程について詳細に説明する。まず、ステップS1の粉体混合工程では、活物質と導電材である炭素材料とを均一に混合して混合物を得る。
【0022】
[活物質]
正極に用いられる活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な材料であり、リチウムイオン二次電池に用いられ得る活物質を特に制限なく用いることができる。活物質は、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(NCA)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(NCM)等を単独又はこれらを組み合わせて用いることができる。また、活物質には、他の金属元素が添加されていても良い。
【0023】
負極に用いられる活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な材料であり、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、活性炭等の炭素材料を用いることができる。
【0024】
活物質の一次粒子は、粒子状である。活物質の平均粒径(D50)は、例えば、0.1μm~50μmであり、造粒時の流動性の観点から、好ましくは1μm~20μmである。活物質の平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折散乱法による粒度分布測定の結果から求めることができる。そして、本実施形態では、活物質は、粉末の形態で導電材としての炭素材料と混合される。活物質のかさ密度は、例えば、0.5g/cm3~2.5g/cm3である
【0025】
[導電材]
導電材は、活物質で発生した電気を集電箔に伝達する機能を有する。合材層に導電材を混合することにより、活物質粒子間、並びに集電箔と活物質との間に導電パスを形成し、電極全体の導電性を向上させることができる。
【0026】
本実施形態において、導電材は、磁石との接触又は近接により磁性を帯びることで磁性を有し得る軟磁性体を含有するものである。軟磁性体を含有する導電材として、軟磁性を示す磁性金属触媒を用いて合成された導電性の良好な炭素材料が挙げられる。このような炭素材料の具体例は、カーボンナノファイバー(CNF)及びカーボンナノチューブ(CNT)である。なお、以下の説明において、CNF及びCNTを総称して、繊維状炭素材料とする場合がある。
【0027】
また、磁性金属触媒は、繊維状炭素材料の成長起点となる成長触媒である。このような磁性金属触媒は、遷移金属のうち鉄、ニッケル、及びコバルトの金属単体、又はこれらのうち少なくとも1種類を含む合金で構成される金属ナノ粒子である。磁性金属触媒は、これらのうち少なくとも1種類を含む金属酸化物であっても良い。磁性金属触媒が合金で構成される場合、鉄、ニッケル、及びコバルトのうち、少なくとも1種類を50質量%以上含有する合金であることが好ましい。磁性金属触媒の組成によって、磁性金属触媒を含有する繊維状炭素材料の磁気特性を調整することが可能である。
【0028】
磁性金属触媒の粒径は、例えば、1nm~500nm、好ましくは10nm~200nmである。磁性金属触媒の粒径が小さすぎると、繊維状炭素材料が十分に成長しない虞がある。また、磁性金属触媒の粒径が大きすぎると、磁性金属触媒を繊維状炭素材料に担持することが困難になる。
【0029】
繊維状炭素材料は、触媒気相成長法を用いて合成することができる。触媒気相成長法により繊維状炭素材料を合成するにあたっては、溶媒に分散させた磁性金属触媒を基材に塗布して乾燥することにより、基材に磁性金属触媒を担持させる。この基材をCVD(Chemical Vapor Deposition)装置の反応炉内に設置して、所要の温度まで加熱する。この反応炉内に、炭素源となる炭化水素ガスをキャリアガスとともに導入し、数百℃~数千℃の反応温度で加熱保持する。加熱により炭化水素ガスがベンゼン環縮合し、磁性金属触媒を核として繊維状炭素材料が気相成長する。
【0030】
基材から取り出した繊維状炭素材料には、磁性金属触媒が残留している。このように、触媒気相成長法を用いて合成される繊維状炭素材料の成長触媒が軟磁性体の磁性金属触媒であることにより、成長起点に軟磁性体である磁性金属触媒が保持された繊維状炭素材料を得ることができる。このようにして得られた磁性金属触媒を含有する炭素材料は、磁石によって引き寄せることができる。本実施形態では、導電材として、上記の磁性金属触媒を含有する炭素材料を用いることができる。
【0031】
磁性金属触媒を含有する炭素材料により構成される導電材の一次粒子は、導電性、機械的特性、及び分散性の観点から、例えば、平均繊維長が1μm~100μmである。繊維長が小さすぎると、導電性や機械的特性が十分に発現されない傾向がある。一方、繊維長が大きすぎると凝集塊(ダマ)を形成しやすくなる。導電材の平均繊維長は、例えば、電子顕微鏡を用いて測定することができる。そして、本実施形態では、導電材は、粉末の形態で活物質と混合される。導電材のかさ密度は、例えば、0.01g/cm3~0.15g/cm3である
【0032】
ここで、繊維状炭素材料やカーボンブラック等の粒子状炭素材料は、小径で、かさ密度が小さいため、活物質粒子間や活物質と集電箔との間の微細な空隙に入り込むことができ、電池の内部抵抗を低減するために効果的である。特に、繊維状炭素材料を用いた電極では、粒子状炭素材料と比べて少量で効率的に導電パスを形成することができ、電極中に含まれる導電材量を低減することができる。
【0033】
一方で、繊維状炭素材料は、特に小径であるため凝集力が非常に強く、合材層中において良好に分散させることが困難である。導電材が凝集したダマを含む電極を備えた二次電池では、良好な導電パスが形成されず、当該ダマの近傍においては電子抵抗が極端に低下するため、この部分で優先的に充放電が起こり得る。これにより、二次電池の局所的な劣化が進行するため好ましくない。
【0034】
そのため、本実施形態では、活物質と混合する前に、予め導電材を解砕することが好ましい。解砕により凝集を解した導電材を他の電極材料と混合することにより、合材層における導電材の分散性を向上することができる。導電材の解砕には、解砕羽根の機能を有する撹拌子を備えた撹拌装置を用いることができる。導電材を解砕する際の撹拌子の回転数は、例えば、1000rpm~5000rpmである。撹拌時間は、例えば、1秒~60秒である。導電材の凝集を解すとともに、導電材の繊維の切断を伴わないよう、撹拌子の回転数及び撹拌時間を適宜調整することが好ましい。
【0035】
ところで、もともと小径である導電材を解砕すると、解砕が進むにしたがって導電材と活物質との間のかさ密度の差が拡大する。したがって、かさ密度が大きく異なる粉体同士を単に乾式混合した場合には、互いに分離して不均一な混合状態となる。
【0036】
繊維状炭素材料で構成される導電材のかさ密度は、活物質のかさ密度より小さいため、両者を乾式混合した場合、導電材は上方に浮上しやすく、活物質は下方に沈みやすい。このように、容器内で鉛直方向に分離した導電材と活物質とが不均一な混合状態のまま電極を製造すると、分散不良によって合材層中で導電材と活物質とがそれぞれ偏在する。電極材料の分散状態に偏りがあると、導電性の低下や、活物質における電池反応に関与し得る反応面積の低下等によって内部抵抗が増加する要因となり得る。
【0037】
そこで、本実施形態にかかる二次電池用電極の製造方法は、解砕されて非常に小径な繊維状炭素材料であっても良好に分散し得る合材層を形成できる点に特徴の1つを有する。特に、正極に用いられる活物質は導電性が低いものが多いため、負極と比較して正極には導電材としての炭素材料が多量に混合される場合がある。導電材は、混合される量が多い程、凝集しやすいため、本実施形態にかかる二次電池用電極の製造方法は、正極に好適に用いられる。
【0038】
本実施形態では、電極材料の混合に用いられる撹拌装置の容器の周囲に磁場発生装置が配置される。磁場発生装置には、永久磁石、電磁石等を用いることができるが、本実施形態では、電磁石であることが好ましい。磁場発生装置は、容器内において導電材が鉛直方向の下方に向かう磁力を受けるように配置されれば良い。例えば、撹拌装置の容器の底面側(下方)に磁場発生装置が配置される。磁場発生装置が発生する磁場の強さは、例えば、1000G~20000Gの範囲で、容器のサイズ、用いる導電材やその量等に応じて、適宜調整することが好ましい。
【0039】
粉体混合工程において、導電材と活物質とを混合する際には、撹拌羽根の機能を有する撹拌子を備えた撹拌装置の容器内に導電材及び活物質を投入し、磁場発生装置を用いて鉛直方向の下方に向かう磁場を印加しながら撹拌して両者を乾式混合する。粉体混合工程において、撹拌子の回転数は、例えば、1000rpm~5000rpmである。撹拌時間は、例えば、1秒~60秒である。また、粉体混合工程における磁場の印加方法は、電磁石への通電をON状態として磁場を連続的に印加してもよく、後述する造粒工程と同様に、電磁石への通電のON/OFFを切り替えて磁場を断続的に印加してもよい。
【0040】
このような構成により、導電材に対して下方に向かう磁場を印加できるため、上方に浮上しやすい導電材を下方に引き寄せながら活物質と混合することができる。これにより、導電材と活物質とが均一に混合された混合粉体が得られる。
【0041】
続いて、ステップS2の造粒工程では、結着剤が溶媒中に溶解又は分散された結着剤液を調製する。
【0042】
[結着剤]
結着剤は、合材層を構成する材料を互いに結着させて合材層を形成し、形成された合材層を集電箔上に結着させるものである。このような機能を有する結着剤は、後述する溶媒中に溶解又は分散する材料であれば、特に制限されない。結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を用いることができる。
【0043】
[溶媒]
溶媒は、結着剤を均一に溶解又は分散することができれば、非水系溶媒及び水系溶媒を特に制限なく用いることができる。溶媒は、用いる結着剤に応じて適宜選択されるものである。溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、メチルエチルケトン(MEK)、ジメチルホルムアミド(DMF)、トルエン等の非水系溶媒、非水系溶媒を組み合わせた混合溶媒、水、水を主体とする混合溶媒等の水系溶媒を用いることができる。
【0044】
なお、結着剤を液状の形態で添加することにより、結着強度の低下を抑制することができる。例えば、結着剤を粉末の形態で添加すると、結着剤の溶解不足による粉残りに起因して、結着強度が不足する場合がある。結着強度が不足すると、成膜性が低下したり、合材層と集電箔との密着性が低下したりする要因になり得る。
【0045】
続いて、粉体混合工程で得られた混合粉体に対し、調製した結着剤液を滴下して造粒する。この造粒工程は、粉体混合工程と同一の容器内において、撹拌羽根の機能を有する撹拌子を備えた撹拌装置を用いて行われる。造粒工程においては、撹拌子の回転によって混合粉体を撹拌しながら結着剤液を滴下して造粒することが好ましい。この際、撹拌子の回転数は、例えば、1000rpm~5000rpmである。撹拌時間は、例えば、10秒~600秒である。造粒体が所望の粒径となるように、撹拌子の回転数及び撹拌時間を適宜調整することが好ましい。
【0046】
造粒工程では、容器内の混合粉体に対して磁場発生装置により鉛直方向の下方に向かう磁場を印加しながら結着剤液の滴下が行われる。容器内の混合粉体に対して磁場を印加することにより、混合粉体に含まれる導電材は、磁石に引き寄せられて下方に向かって移動する。これにより、電極材料の混合状態の均一性が向上する。そして、混合粉体の撹拌下で結着剤液の滴下を行うことにより、電極材料の混合状態の均一性がより一層向上する。
【0047】
さらに、造粒工程では、混合粉体に対する磁場の印加が断続的に行われることが好ましい。磁場の断続的な印加は、電磁石への通電のON/OFFを切り替えることにより、磁場の印加及び停止を切り替えることが可能である。
【0048】
容器内の混合粉体に対して断続的に磁場を印加することにより、混合粉体に含まれる導電材は、磁場印加中には磁石に引き寄せられて下方に向かって移動し、磁場停止中には上方に向かって移動する。したがって、導電材の偏在を抑制するために、磁場発生装置による磁場の印加及び停止は頻繁に切り替えることが好ましい。このように、磁力が導電材に対する駆動力となり、導電材の上下運動を促すことによって、電極材料がより均一に混合されて分散性が向上する。
【0049】
これにより、結着剤液が導電材と活物質との粒子間に湿潤し、各粒子間が互いに結着結合した球状の造粒体が得られる。造粒体は、活物質、導電材、結着剤、及び溶媒を含んでいる。造粒体は、固形分率の高い粘土状の形態であり、静止時に流動性がないものである。造粒体の固形分率は、導電材、活物質、及び結着剤の配合量、並びに、結着剤液の濃度により調整することができる。
【0050】
造粒工程で造粒される造粒体は、例えば、平均粒径(D50)が100μm~4mmであり、好ましくは200μm~2mmである。造粒体の平均粒径(D50)は、造粒時の条件によって調整可能である。なお、造粒体の平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折散乱法による粒度分布測定の結果から求めることができる。また、造粒体の全体から溶媒を除いた造粒体の固形分率は、成膜性の観点から、例えば60質量%~95質量%であり、好ましくは70質量%~90質量%である。
【0051】
造粒体の全体に対する溶媒の割合は、造粒体の固形分率が上記の範囲となるように結着剤液中における溶媒の量を調整する。溶媒の割合が少なすぎる場合や、多すぎる場合には、成膜性が低下する。溶媒の割合が多すぎると、電極板の乾燥に時間を要するため、生産性が低下する。また、溶媒の割合が少なすぎると、造粒工程で行われる撹拌の負荷が大きくなる。
【0052】
造粒体の固形分全体に対する結着剤の割合は、剥離強度及び成膜性の観点から、例えば、0.5質量%~10質量%であり、好ましくは1質量%~5質量%である。結着剤の割合が少なすぎると、集電箔近傍の結着剤量が不足して合材層と集電箔との剥離強度が低下傾向になる場合がある。また、合材層の成膜性が低下し、スケやスジが生じることにより、充放電時にリチウムが析出しやすくなる等して電池性能の低下を招く虞がある。一方、結着剤の割合が多すぎると、結着剤が正極活物質の表面を覆うことで電荷担体の出入りが阻害され、電池の内部抵抗が増加傾向になる場合がある。
【0053】
造粒体の固形分全体に対する活物質の割合は、高エネルギー密度を実現する観点から、例えば、70質量%~99質量%であり、好ましくは85質量%~95質量である。
【0054】
造粒体の固形分全体に対する導電材の割合は、例えば、0.1質量%~15質量%であり、好ましくは2質量%~5質量%である。導電材として繊維状炭素材料を用いた場合は、少量の使用量であっても高い導電性を確保することができる。導電材の使用量が低減すると、活物質を増量できるため、より高いエネルギー密度を実現できる。
【0055】
次に、ステップS3の合剤層形成工程では、回転するロール対の間で造粒体を圧延してシート状の成形体に成形し、これを集電箔上に転写することにより造粒体を集電箔上に塗工する。造粒体の塗工には、3本のロールを有するロールコータを用いることができる。
【0056】
3本のロールは、第1ロール、第2ロール、及び第3ロールである。水平方向に隣り合う一対の第1ロールと第2ロールとの間には、所定の幅のギャップが形成される。第1ロールの外周面と第2ロールの外周面は互いに対向している。第1ロールと第2ロールとは、逆方向に回転する。第2ロールの隣には、集電箔を搬送する第3ロールが配置されている。第2ロールの外周面と第3ロールの外周面は互いに対向している。第2ロールと第3ロールとは、逆方向に回転する。なお、第3ロールの配置は、集電箔の表面へ成形体の転写が可能な位置であればよい。
【0057】
また、第1ロール及び第2ロールの幅方向の両端部には、隔壁が設けられる。隔壁は、造粒体の湿潤粉体を第1ロール及び第2ロール上に保持するとともに、隔壁間の距離によって、集電箔上に形成される合材層の幅を規定する機能を有する。
【0058】
その他に、駆動装置、造粒体供給装置、集電箔供給装置、及び制御装置が備えられる。駆動装置は、3本のロールを回転させるとともに、ロール間のギャップを調整するための装置である。造粒体供給装置は、第1ロールと第2ロールとの間のギャップに造粒体を供給するための装置である。集電箔供給装置は、第3ロールに集電箔を供給するための装置である。制御装置は、これらの装置の動作を制御する。
【0059】
造粒体を集電箔上に塗工するにあたっては、まず、第1ロールと第2ロールとの間に造粒体を供給する。この状態で、第1ロール、第2ロール及び第3ロールを互いに反対方向に回転させると、造粒体がギャップに送られて第1ロールと第2ロールとの間で圧縮され、シート状に成形される。すなわち、造粒体が第1ロール及び第2ロールによって押し潰されながら引き延ばされることにより圧延され、シート状の成形体が形成される。
【0060】
この時、第2ロールの周速を第1ロールの周速より大きく、第3ロールの周速を第2ロールの周速より大きくすると、成形体が第2ロールの表面に付着したまま、第3ロールまで搬送される。第3ロールまで搬送された成形体は、第2ロールと第3ロールとの間で圧縮されながら、集電箔の表面に連続的に転写される。これにより、造粒体を集電箔上に成膜することができる。すなわち、集電箔上に未乾燥の合剤層が形成される。なお、成形体の厚さは、スケやひび割れが発生しないように最適な厚さを選択することが好ましい。その後、未乾燥の合剤層を集電箔とともに乾燥炉等を用いて乾燥する。
【0061】
本実施形態にかかる二次電池用電極の製造方法により、合剤層が集電箔に保持された構成を有する電極を製造することができる。このような構成によれば、合材層を形成するための材料として比較的固形分率の高い造粒体を用いる場合でも、製造された電極板の合材層において電極材料の良好な分散状態を確保できる。
【0062】
ここで、合材層を形成するための材料として、比較的固形分率の低い液状のスラリーを作製し、ダイコータ等を用いて集電箔上に塗工するスラリー塗工法が知られている。これに対し、本実施形態で用いる造粒体は、スラリーに比べて少量の溶媒で作製できるため、合剤層の乾燥時間を短縮できる。また、このような造粒体を用いた場合には、高密度な合剤層を形成することができるため、乾燥後に高密度化を目的としたプレスを行う必要がない。そのため、合材層を形成するための材料として造粒体を用いれば、高容量化や高エネルギー密度化に寄与し得る高密度な合材層を効率よく形成できる。
【0063】
以下、
図2を参照して、実施例について説明する。なお、実施例は、本発明を限定するものではない。
図2は、電極の製造条件及び性能評価結果を示す図である。
図2に示す製造条件に基づいて実施例1~11及び比較例1~3の正極板を製造した。そして、製造された各正極板を用いてそれぞれ評価用リチウムイオン二次電池(評価用電池)を構築し、電池性能の評価を行った。
【0064】
<正極>
実施例1~11及び比較例1~3の正極板は、共通の材料を用いて製造され、
図1に示すフローのステップS2を除いて、共通の製造方法により製造されたものである。
図2に示す製造条件は、ステップS2の造粒工程における撹拌子の回転数、磁場の印加方法、及び結着材液の滴下方法に関する条件を示している。
【0065】
図2に示される製造条件の各項目について、説明する。
[回転数(rpm)]
回転数は、撹拌装置が備える撹拌子の回転数である。混合粉体に結着剤液を滴下する際に、撹拌なし、1000rpm、3000rpm、のうち何れか1つの撹拌条件を用いて造粒体を造粒した。回転数が大きい程、高速で撹拌を行うことができる。
【0066】
[磁場の印加方法]
磁場の印加方法は、混合粉体に結着剤を滴下する際に、電磁石に対する通電のON/OFFの切り替え状態に応じて、磁場の印加を行わない、磁場を連続的に印加する、磁場を断続的に印加する、の3つの方法に分類される。磁場の印加を行わない場合は、電磁石への通電をOFF状態として、磁場を発生させなかった。磁場を連続的に印加する場合は、電磁石への通電をON状態として、磁場の印加を連続的に行った。磁場を断続的に印加する場合は、電磁石への通電のON/OFFを1分間隔で繰り返すことにより、磁場の印加及び停止を断続的に行った。
【0067】
[結着剤液の滴下方法]
結着剤液の滴下方法は、結着剤液を滴下するタイミングによって、連続的、磁場停止中、磁場印加中、の3つの方法に分類される。結着剤液を連続的に滴下する場合は、磁場の印加及び停止にかかわらず、30秒間かけて連続的に結着剤液を滴下した。結着剤液を磁場停止中に滴下する場合は、磁場の印加方法は断続的であって、磁場停止中には結着剤液の滴下を行い、磁場印加中には結着剤液の滴下を行わなかった。結着剤液を磁場停止中に滴下する場合、結着剤液の滴下時間は、磁場停止中の滴下時間の合計が30秒間となるように調整した。結着剤液を磁場印加中に滴下する場合は、磁場の印加方法は断続的であって、磁場印加中には結着剤液の滴下を行い、磁場停止中には結着剤液の滴下を行わなかった。結着剤液を磁場印加中に滴下する場合、結着剤液の滴下時間は、磁場印加中の滴下時間の合計が30秒間となるように調整した。
【0068】
続いて、正極材料及び製造装置について説明する。
[正極材料]
正極活物質には、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2で表されるNCM粉末を用いた。導電材には、カーボンナノチューブ(CNT、平均繊維長1μm~100μm)粉末を用いた。結着剤としてPVdFを用い、溶媒としてNMPを用いて結着剤液を調製した。結着剤液中における結着剤の割合は、10質量%であった。集電箔には、アルミニウム箔(厚さ15μm)を用いた。なお、正極活物質のかさ密度は1.5g/cm3であり、導電材のかさ密度は0.1g/cm3であった。
【0069】
[装置]
一連の製造工程は、同一の撹拌装置を用いて実施した。撹拌装置の容器は、上端が開口した有底円筒形状を有し、その寸法は、φ260mm、高さ60mmであった。そして、磁場発生装置には、電磁石を用いた。
【0070】
続いて、実施例1~11及び比較例1~3の各正極板の製造方法について詳述する。
(実施例1)
図1に示すフローにしたがって実施例1の正極板を製造した。ステップS1では、撹拌装置の容器内に導電材を投入し、撹拌子の回転数3000rpmで60秒間撹拌することにより導電材を解砕した。続いて、容器内に正極活物質を投入し、5000Gの磁場を連続的に印加しながら、正極活物質と導電材とを撹拌子の回転数3000rpmで20秒間撹拌することにより混合粉末を得た。
【0071】
次に、ステップS2では、得られた混合粉末に対して5000Gの磁場を印加しながら、容器内に結着剤液を滴下時間の合計が30秒間となるように滴下した。この際、撹拌は行わなかった。また、磁場の印加方法は、連続的であった。また、結着剤液の滴下方法は、連続的であった。結着剤液の滴下量は、造粒体の全固形分における正極活物質、導電材、及び結着剤の質量比が、NCM:AB:PVdF=93:5:2となるように滴下した。これにより、造粒体を造粒した。このようにして得られた造粒体の固形分率は、およそ85質量%であった。
【0072】
その後、ステップS3では、ロールコータを用いて、得られた造粒体を圧延して集電箔上に転写した後、これを加熱乾燥して合剤層を形成した。これにより、集電箔の両面に合剤層が保持された正極板を製造した。
【0073】
なお、造粒体は目付量が集電箔の片面で10mg/cm2、両面で20mg/cm2となるように第1ロールと第2ロールとのギャップ及び造粒体の供給量が調整され、このように作製した正極全体の厚さはおよそ80μmであった。
【0074】
(実施例2)
ステップS2における磁場の印加方法が断続的であったことを除いて、実施例1と同様に正極板を製造した。
【0075】
(実施例3)
ステップS2における磁場の印加方法は、断続的であった。また、結着剤の滴下方法は、磁場印加中に結着剤液の滴下を行う方法であった。これらを除いて、実施例1と同様に正極板を製造した。
【0076】
(実施例4)
ステップS2における撹拌子の回転数を1000rpmに設定し、混合粉体の撹拌下で磁場の印加及び結着剤液の滴下を行ったことを除いて実施例1と同様に正極板を製造した。
【0077】
(実施例5)
ステップS2における撹拌子の回転数を1000rpmに設定し、混合粉体の撹拌下で磁場の印加及び結着剤液の滴下を行った。また、磁場の印加方法は、断続的であった。これらを除いて実施例1と同様に正極板を製造した。
【0078】
(実施例6)
ステップS2における撹拌子の回転数を1000rpmに設定し、混合粉体の撹拌下で磁場の印加及び結着剤液の滴下を行った。また、磁場の印加方法は、断続的であった。さらに、結着剤液の滴下方法は、磁場停止中に結着剤液の滴下を行う方法であった。これらを除いて実施例1と同様に正極板を製造した。
【0079】
(実施例7)
ステップS2における撹拌子の回転数を1000rpmに設定し、混合粉体の撹拌下で磁場の印加及び結着剤液の滴下を行った。また、磁場の印加方法は、断続的であった。さらに、結着剤液の滴下方法は、磁場印加中に結着剤液の滴下を行う方法であった。これらを除いて実施例1と同様に正極板を製造した。
【0080】
(実施例8)
ステップS2における撹拌子の回転数を3000rpmに設定し、混合粉体の撹拌下で磁場の印加及び結着剤液の滴下を行ったことを除いて実施例1と同様に正極板を製造した。
【0081】
(実施例9)
ステップS2における撹拌子の回転数を3000rpmに設定し、混合粉体の撹拌下で磁場の印加及び結着剤液の滴下を行った。また、磁場の印加方法は、断続的であった。これらを除いて実施例1と同様に正極板を製造した。
【0082】
(実施例10)
ステップS2における撹拌子の回転数を3000rpmに設定し、混合粉体の撹拌下で磁場の印加及び結着剤液の滴下を行った。また、磁場の印加方法は、断続的であった。さらに、結着剤液の滴下方法は、磁場停止中に結着剤液の滴下を行う方法であった。これらを除いて実施例1と同様に正極板を製造した。
【0083】
(実施例11)
ステップS2において、撹拌子の回転数を3000rpmに設定し、混合粉体の撹拌下で磁場の印加及び結着剤液の滴下を行った。また、磁場の印加方法は、断続的であった。さらに、結着剤液の滴下方法は、磁場印加中に結着剤液の滴下を行う方法であった。これらを除いて実施例1と同様に正極板を製造した。
【0084】
(比較例1)
ステップS2において、磁場の印加を行わなかったことを除いて、実施例1と同様に正極板を製造した。
【0085】
(比較例2)
ステップS2において、撹拌子の回転数を1000rpmに設定し、混合粉体の撹拌下で結着剤液の滴下を行った。この際、磁場の印加を行わなかった。これらを除いて、実施例1と同様に正極板を製造した。
【0086】
(比較例3)
ステップS2において、撹拌子の回転数を3000rpmに設定し、混合粉体の撹拌下で結着剤液の滴下を行った。この際、磁場の印加を行わなかった。これらを除いて、実施例1と同様に正極板を製造した。
【0087】
<負極>
負極活物質には、天然黒鉛(C、平均粒子径10μm)を用いた。結着剤には、SBRを用いた。増粘剤として、CMCを用いた。溶媒には、イオン交換水を用いた。また、集電箔には銅箔(厚さ10μm)を用いた。
【0088】
負極活物質、結着剤、及び増粘剤の質量比は、C:SBR:CMC=98:1:1となるように秤量し、これにイオン交換水を添加して混練することにより、負極合材層形成用のスラリーを作製した。集電箔の両面に、当該スラリーを塗工し、これを乾燥させることにより、負極合材層を備える負極板を作製した。なお、スラリーは、目付量が集電箔の片面で15mg/cm2、両面で30mg/cm2となるように塗工量を調整し、負極全体の厚さがおよそ120μmとなるようにプレスした。
【0089】
<評価用電池の構築>
各正極板のそれぞれと、負極板とを、ポリオレフィン製の樹脂シートである2枚のセパレータを介して絶縁状態で積層し、捲回軸回りに捲回して捲回型の電極体を形成した。さらに、当該電極体及び非水電解液を直方体形状の電池ケース内に収容して、各評価用電池を構築した。
【0090】
[評価]
実施例1~11及び比較例1~3の正極板を用いて得られた各評価用電池について、出力性能を評価するため、IV抵抗を測定した。測定は、25℃において、SOC(State Of Charge)60%の充電状態から1C、3C、及び5Cの各電流値で放電を行った時の放電開始から10秒間のそれぞれの電圧降下量を測定し、この電圧降下量を対応する電流値で除することで抵抗値を算出し、3つの抵抗値の平均値(平均抵抗値)を求めた。
【0091】
さらに、比較例1の平均抵抗値を実施例1~11及び比較例1~3の各平均抵抗値で除した値の百分率として出力性能比(%)を算出し、その結果を
図2の評価の欄に示した。
図2の評価の欄において、百分率の値が高い程、抵抗増加が抑制されていると考えられる。
【0092】
図2の結果からわかるように、比較例1~3の各評価用電池に比べて、実施例1~11の各評価用電池では、出力性能比が大きく電池性能が良好であった。実施例1~11の中では、実施例9~11の評価用電池における抵抗低減効果が大きく、出力性能が特に良好であった。このような結果となった理由は、以下であると考えられる。
【0093】
比較例1~3の正極板の製造方法では、結着剤液を滴下して造粒を行う際に、容器内の混合粉体に対して磁場の印加が行われていないため、導電材と活物質とのかさ密度の差に起因して導電材が浮上しやすく、電極材料の混合状態の均一性が低下する。これに対し、実施例1~11の正極板の製造方法では、容器内の混合粉体に対して鉛直方向の下方に向かう磁場を印加しながら結着剤液を滴下して造粒を行う。これにより、活物質と比べてかさ密度が小さい導電材に対し、導電材が下方に向かって移動する駆動力を付与することができる。また、この製造方法では、容器内の混合粉体に対する磁場の印加及び結着剤液の滴下は、混合粉体の撹拌下で行うことが好ましく、撹拌は高速で行うことがより好ましい。このような構成によれば、造粒体において電極材料が均一な混合状態となるため、合材層における電極材料の分散性が向上する。
【0094】
さらに、実施例1~11の正極板の製造方法について、ステップS2における好適な磁場の印加方法は、磁場の印加及び停止を頻繁に切り替える断続的な磁場の印加方法である。このように、容器内の混合粉体に対して鉛直方向の下方に向かう磁場の印加を断続的に行うと、導電材の上下運動が促進されると考えられる。一方、磁場の印加が連続的に行われる場合、導電材が電磁石に向かって一方向(本実施形態の場合は下方向)に引き寄せられるため、磁場の印加方法が断続的である場合と比べて、導電材と活物質とがそれぞれ偏在しやすい。したがって、造粒を行う際に磁場の印加方法が断続的であることにより、得られた造粒体では電極材料がより一層均一な混合状態となるため、合材層における電極材料の分散性がさらに向上する。
【0095】
また、実施例1~11の正極板の製造方法について、ステップS2における好適な結着剤液の滴下方法は、少なくとも磁場の印加中に結着剤液を滴下する方法である。そして、最も好適な結着剤液の滴下方法は、磁場の印加中のみ結着剤液を滴下する方法である。鉛直方向の下方に向かう磁場の印加中は、容器内において導電材が下方に引き寄せられる。そのため、磁場印加中のタイミングで結着剤液が滴下されることにより、混合粉体の上方から添加される結着剤液と導電材とが直接接触することが抑制される。かさ密度が小さい導電材と結着剤液とが直接接触すると、凝集してダマになりやすいため、これが抑制されることにより、導電材のダマを低減できる。
【0096】
以上説明したように、本実施形態にかかる二次電池用電極の製造方法によれば、かさ密度の差が大きい活物質と導電材とを均一に乾式混合することができる。また、分散された導電材と活物質との粒子間に結着剤液が湿潤することにより、これらの電極材料が均一な混合状態の造粒体を得ることができる。そして、合材層を形成するための材料として、均一な混合状態の造粒体を用いることにより、電極材料が良好に分散した合材層を形成することができる。
【0097】
そして、例えば特許文献1のように、湿潤状態の混合物に対して高いせん断応力を与えることにより電極材料の分散性を改善する方法では、生産速度が著しく低下するため、生産性が低いという問題がある。これに比べて、本実施形態では、乾式での混合性が良好であるため、生産速度を向上することができ、生産性が高い。
【0098】
また、本実施形態では、合材層を形成するための材料として固形分率の比較的高い造粒体を用いた場合でも、電極材料の分散状態を良好に保つことができる。造粒体は、スラリーに比べて、溶媒量が少量であるため、電極の乾燥時間が短縮され、生産性が向上する。
【0099】
よって、本実施形態にかかる二次電池用電極の製造方法によれば、生産性を確保しつつ、電極材料を良好に分散させることにより、電池性能に優れた二次電池用電極を製造することができる。
【0100】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、上記実施の形態では、造粒体をロール対の間を通して圧延し、集電箔上に転写することにより、集電箔上に合材層を形成する方法を例示したが、合材層の形成方法はこれに限らない。例えば、造粒体を集電箔上に堆積した後、プレス成形して合材層を形成する方法を用いてもよい。ただし、生産効率および生産安定性の観点からは、前者の方法を適用することが好ましい。