(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150794
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】医療用穿刺デバイス及びカテーテル組立体
(51)【国際特許分類】
A61M 5/158 20060101AFI20220929BHJP
A61M 25/06 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
A61M5/158 500H
A61M25/06 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053565
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098796
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 全
(74)【代理人】
【識別番号】100121647
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 和孝
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(72)【発明者】
【氏名】大沢 航介
(72)【発明者】
【氏名】浅井 俊哉
【テーマコード(参考)】
4C066
4C267
【Fターム(参考)】
4C066FF01
4C066FF04
4C066KK05
4C066LL15
4C267AA23
4C267BB04
4C267BB10
4C267BB11
4C267BB26
4C267BB37
4C267BB40
4C267CC08
4C267EE01
4C267HH08
(57)【要約】
【課題】生体組織の例えば血管の前壁のみを穿刺し、生体組織をより確実に確保することができる医療用穿刺デバイス及びカテーテル組立体を提供すること。
【解決手段】医療用穿刺デバイス1は、生体組織に穿刺可能な針10と、針10の基端13に固定され針10を保持した針ハブ20と、針ハブ20を収容し把持可能な本体部30と、外力を加えられることで、針10が本体部30に対して進出方向X2および後退方向X1に移動する動作を操作する操作機構50と、を備える。操作機構50は、生体組織に穿刺され位置決めされた針10の位置を初期位置Mとした場合に、針10を初期位置Mから後退方向X1に引き戻した後に、針10を進出方向X2に再度進出させ初期位置Mに位置させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織に穿刺可能な針と、
前記針の基端に固定され前記針を保持した針ハブと、
前記針ハブを収容し把持可能な本体部と、
外力を加えられることで、前記針が前記本体部に対して進出方向および後退方向に移動する動作を操作する操作機構と、
を備え、
前記操作機構は、前記生体組織に穿刺され位置決めされた前記針の位置を初期位置とした場合に、前記針を前記初期位置から前記後退方向に引き戻した後に、前記針を前記進出方向に再度進出させ前記初期位置に位置させることを特徴とする医療用穿刺デバイス。
【請求項2】
前記操作機構は、前記針を前記初期位置から前記後退方向に引き戻した状態で、前記本体部に対する前記針ハブの位置を固定可能であるとともに前記本体部に対する前記針ハブの位置が固定された状態を解除可能なロック機構を有することを特徴とする請求項1に記載の医療用穿刺デバイス。
【請求項3】
前記操作機構は、前記針ハブに設けられ前記針ハブの位置を操作可能なタブを有することを特徴とする請求項1または2に記載の医療用穿刺デバイス。
【請求項4】
前記操作機構は、複数回使用可能であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の医療用穿刺デバイス。
【請求項5】
前記針が前記進出方向に再度進出するときの速度は、前記針が前記初期位置から前記後退方向に引き戻されるときの速度よりも速いことを特徴する請求項1~4のいずれか1項に記載の医療用穿刺デバイス。
【請求項6】
前記操作機構は、前記針ハブの端面と前記本体部の内面との間に配置された付勢手段を有し、
前記針を保持した前記針ハブは、前記付勢手段から付勢力を受けて前記進出方向に再度進出することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の医療用穿刺デバイス。
【請求項7】
前記操作機構は、
作動開始部材と、
前記作動開始部材が操作されると、前記針を保持した前記針ハブに前記後退方向の付勢力を与え、前記針を前記初期位置から前記後退方向に引き戻す第1付勢手段と、
前記針を前記初期位置から前記後退方向に引き戻した後に、前記針を保持した前記針ハブに前記進出方向の付勢力を与え、前記針を前記進出方向に再度進出させる第2付勢手段と、
を有することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の医療用穿刺デバイス。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の医療用穿刺デバイスと、
前記医療用穿刺デバイスの前記針が挿通可能なカテーテルと、
前記本体部に取り付けられ、前記カテーテルの基端に固定されたカテーテルハブと、
を備えたことを特徴とするカテーテル組立体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波エコー下で用いられる医療用穿刺デバイス及びカテーテル組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、薬液注入用の医療用穿刺針が開示されている。特許文献1に記載された医療用穿刺針は、超音波撮像下において人体及び動物に穿刺される。特許文献2には、穿刺孔を拡張する医療用拡張器具が開示されている。特許文献2に記載された医療用拡張器具には、皮膚への穿刺用の刃面を有する穿刺針が設けられている。穿刺針の基端部に固定された第2スライダーは、コイルバネによって穿刺針の先端部が没入する方向へ付勢されている。特許文献3には、針体を瞬間的に突出させて皮膚に対して穿刺を行う穿刺装置が開示されている。特許文献3に記載された穿刺装置の針体は、初期位置から針体の先端方向に押し出され、押し出された後、針体の基端方向に引き戻される。
【0003】
手技者が例えば特許文献1~3に開示されたような穿刺針を用いて超音波エコー下で静脈及び動脈の血管を確保することは、高い技術を要する。高い技術を要する原因としては、以下に説明する2つの事象が挙げられる。
まず、第1事象として、血管潰れが挙げられる。血管潰れとは、針から加わる力で血管が変形することによって、血管径が微小となり、血管の短軸方向断面における血管の断面積が小さくなる事象である。血管潰れが生ずると、針を血管内に挿入できないことや血管の前壁を貫通させようとした結果、後壁穿刺するリスクが高くなる。後壁穿刺した場合、血腫や穿刺対象の血管に並走する別の静脈や動脈、神経を誤穿刺し損傷させることがある。血管潰れが生じる理由のひとつとしては、血管の内圧が低いことが挙げられる。特に静脈では、血管潰れが顕著に生じる。
続いて、第2事象として、血管の逃げが挙げられる。血管の逃げとは、針から加わる力で血管が針先端の位置から離れる方向へ移動してしまう事象である。血管の逃げが生ずると、針先端を血管内に挿入できないという問題がある。血管の逃げが生じる理由のひとつとしては、穿刺針が体表を破断する前に、体表と静脈との間に存在する筋や脂肪組織が変形し、筋や脂肪組織の変形により静脈が押しのけられることが挙げられる。
【0004】
上記の血管潰れや血管の逃げの発生を避けて、針の穿刺成功率を向上させ血管確保率を上げるためのひとつの手技として、手技者が針の穿刺速度を素早くすることが考えられる。本発明者が得た臨床的知見によれば、針を素早く血管に刺すほど穿刺成功率が高い。一方、手技者が針の穿刺速度を素早くしようとすると、針先端が行き過ぎて血管の前壁と後壁との両方を刺してしまうおそれがある。針先端が血管の後壁を貫通すると、穿刺対象の血管に並走する別の静脈や動脈、神経が損傷したり、後壁を貫通した針先端を手技者が血管内に戻すことで生じた穿刺痕において血腫が発生したりするといった不都合が生ずるおそれがある。このように、超音波エコー下で血管の前壁のみを穿刺し血管を確保することは、手技者にとって極めて緻密な作業であり、困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3171525号公報
【特許文献2】特許第6412483号公報
【特許文献3】特許第5015699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、生体組織の例えば血管の前壁のみを穿刺し、生体組織をより確実に確保することができる医療用穿刺デバイス及びカテーテル組立体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、生体組織に穿刺可能な針と、前記針の基端に固定され前記針を保持した針ハブと、前記針ハブを収容し把持可能な本体部と、外力を加えられることで、前記針が前記本体部に対して進出方向および後退方向に移動する動作を操作する操作機構と、を備え、前記操作機構は、前記生体組織に穿刺され位置決めされた前記針の位置を初期位置とした場合に、前記針を前記初期位置から前記後退方向に引き戻した後に、前記針を前記進出方向に再度進出させ前記初期位置に位置させることを特徴とする本発明に係る医療用穿刺デバイスにより解決される。
【0008】
本発明に係る医療用穿刺デバイスによれば、操作機構は、生体組織に穿刺され位置決めされた針の位置を初期位置とした場合に、針を初期位置から針の後退方向に引き戻した後に、針を進出方向に再度進出させ初期位置に位置させる。これにより、針は、後退方向に一旦引き戻った後、進出方向に再度進出したときに初期位置に位置する。そのため、手技者は位置決めした初期位置、すなわち生体組織の例えば血管の手前側に位置する壁部分である血管の前壁のみを穿刺可能な位置に素早く穿刺可能であり、生体組織をより確実に確保することができる。つまり、本発明に係る医療用穿刺デバイスは、血管潰れや血管の逃げが生ずることを抑え、針の穿刺成功率を向上させて血管確保率を向上させることができる。また、手技者が生体組織の例えば血管の前壁のみを穿刺可能であるため、生体組織の例えば血管の後壁に穿刺孔(すなわち穿刺痕)が形成されることを抑え、穿刺痕において血腫が生ずることを抑えることができる。また、手技者が穿刺対象の生体組織に並走する別の静脈や動脈、神経を誤穿刺することを抑えることができる。これにより、神経損傷や血腫などの不具合が生ずることを抑え、誤穿刺による後処置の手間を低減できる。さらに、穿刺時に手技者にかかるストレスの低減や穿刺時間の短縮化を図ることができる。また、針先端を生体組織の血管内に挿入する場合に、針を初期位置から針の後退方向に引き戻した後に、針を進出方向に再度進出させ初期位置に位置させる。このため、針先端は、勢いよく血管を穿刺することで、針先端の穿刺可能域を拡大でき、すなわち針先端が血管の中央位置を穿刺するのは勿論のこと、針先端が血管の中央位置からオフセットされた状態でも、血管が逃げることがなく確実に穿刺できる。針から加わる力で血管が針先端の位置から離れる方向へ移動してしまう血管の逃げの発生を避けることができ、針先端を血管内に確実に挿入できる。
【0009】
本発明に係る医療用穿刺デバイスにおいて、好ましくは、前記操作機構は、前記針を前記初期位置から前記後退方向に引き戻した状態で、前記本体部に対する前記針ハブの位置を固定可能であるとともに前記本体部に対する前記針ハブの位置が固定された状態を解除可能なロック機構を有することを特徴とする。
本発明に係る医療用穿刺デバイスによれば、ロック機構は、針が初期位置から後退方向に引き戻された状態で、本体部に対する針ハブの位置を固定可能である。すなわち、ロック機構は、針が初期位置から後退方向に引き戻された状態を維持できる。そして、ロック機構は、本体部に対する針ハブの位置が固定された状態を解除可能である。これにより、手技者は、後退方向に一旦引き戻された針を進出方向に再度進出させる動作を、任意のタイミングで安定して行うことができる。これにより、本発明に係る医療用穿刺デバイスの使用勝手を向上させることができる。
【0010】
本発明に係る医療用穿刺デバイスにおいて、好ましくは、前記操作機構は、前記針ハブに設けられ前記針ハブの位置を操作可能なタブを有することを特徴とする。
本発明に係る医療用穿刺デバイスによれば、手技者は、タブを手動操作することにより、針を保持した針ハブの位置を後退方向に引き戻す操作を容易に行うことができる。
【0011】
本発明に係る医療用穿刺デバイスにおいて、好ましくは、前記操作機構は、複数回使用可能であることを特徴とする。
本発明に係る医療用穿刺デバイスによれば、手技者は、操作機構を複数回使用できるため、例えば一度では所望の通りに穿刺できなかった場合でも、再度穿刺を行うことができ、生体組織をより確実に確保することができる。
【0012】
本発明に係る医療用穿刺デバイスにおいて、好ましくは、前記針が前記進出方向に再度進出するときの速度は、前記針が前記初期位置から前記後退方向に引き戻されるときの速度よりも速いことを特徴する。
本発明に係る医療用穿刺デバイスによれば、手技者は、針を後退方向に一旦引き戻す際に初期位置がずれることを抑えることができるとともに、針を進出方向に再度進出させる際に生体組織の例えば血管の前壁のみを素早く穿刺することができる。これにより、本発明に係る医療用穿刺デバイスは、生体組織をより一層確実に確保することができる。
【0013】
本発明に係る医療用穿刺デバイスにおいて、好ましくは、前記操作機構は、前記針ハブの端面と前記本体部の内面との間に配置された付勢手段を有し、前記針を保持した前記針ハブは、前記付勢手段から付勢力を受けて前記進出方向に再度進出することを特徴とする。
本発明に係る医療用穿刺デバイスによれば、操作機構は、付勢手段の付勢力を利用して、針を保持した針ハブを進出方向に再度進出させることができる。これにより、本発明に係る医療用穿刺デバイスは、針を素早く進出方向に再度進出させて生体組織の例えば血管の前壁のみを一定の力で確実に穿刺し、生体組織をより確実に確保することができる。また、電力を確保することが困難な場合であっても、例えばロボット穿刺に用いる電力が不要であるため、本発明に係る医療用穿刺デバイスは、針を素早く進出方向に再度進出させて生体組織の例えば血管の前壁のみを穿刺し、生体組織をより確実に確保することができる。
【0014】
本発明に係る医療用穿刺デバイスにおいて、好ましくは、前記操作機構は、作動開始部材と、前記作動開始部材が操作されると、前記針を保持した前記針ハブに前記後退方向の付勢力を与え、前記針を前記初期位置から前記後退方向に引き戻す第1付勢手段と、前記針を前記初期位置から前記後退方向に引き戻した後に、前記針を保持した前記針ハブに前記進出方向の付勢力を与え、前記針を前記進出方向に再度進出させる第2付勢手段と、を有することを特徴とする。
本発明に係る医療用穿刺デバイスによれば、手技者が作動開始部材を操作すると、第1付勢手段が、針を保持した針ハブに後退方向の付勢力を与え、針を初期位置から後退方向に引き戻す。そして、針が初期位置から後退方向に一旦引き戻った後に、第2付勢手段が、針を保持した針ハブに進出方向の付勢力を与え、針を進出方向に再度進出させる。これにより、手技者は、作動開始部材を操作することにより、針を初期位置から後退方向に一旦引き戻した後に、針を進出方向に再度進出させ初期位置に位置させることができる。これにより、手技者が作動開始部材を操作することにより、針を素早く進出方向に再度進出させて生体組織の例えば血管の前壁のみを一定の力で確実に穿刺し、生体組織をより確実に確保することができる。また、電力を確保することが困難な場合であっても、例えばロボット穿刺に用いる電力が不要であるため、本発明に係る医療用穿刺デバイスは、作動開始部材の操作に基づいて、針を素早く進出方向に再度進出させて生体組織の例えば血管の前壁のみを穿刺し、生体組織をより確実に確保することができる。
【0015】
また、上記課題は、上記のいずれかの医療用穿刺デバイスと、前記医療用穿刺デバイスの前記針が挿通可能なカテーテルと、前記本体部に取り付けられ、前記カテーテルの基端に固定されたカテーテルハブと、を備えたことを特徴とする本発明に係るカテーテル組立体により解決される。
【0016】
本発明に係るカテーテル組立体によれば、医療用穿刺デバイスの操作機構は、生体組織に穿刺され位置決めされた針の位置を初期位置とした場合に、針を初期位置から針の後退方向に引き戻した後に、針を進出方向に再度進出させ初期位置に位置させる。そのため、手技者は、生体組織の例えば血管の前壁のみを素早く穿刺可能であり、生体組織をより確実に確保することができる。つまり、本発明に係るカテーテル組立体は、血管潰れや血管の逃げが生ずることを抑え、針の穿刺成功率及び血管確保率を向上させることができる。また、手技者が生体組織の例えば血管の前壁のみを穿刺可能であるため、生体組織の例えば血管の後壁に穿刺孔(すなわち穿刺痕)が形成されることを抑え、穿刺痕において血腫が生ずることを抑えることができる。また、手技者が穿刺対象の生体組織に並走する別の静脈や動脈、神経を誤穿刺することを抑えることができる。これにより、神経損傷や血腫などの不具合が生ずることを抑え、誤穿刺による後処置の手間を低減することができる。さらに、穿刺時に手技者にかかるストレスの低減や穿刺時間の短縮化を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、生体組織の例えば血管の前壁のみを穿刺し、生体組織をより確実に確保することができる医療用穿刺デバイス及びカテーテル組立体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る医療用穿刺デバイスを示す断面図である。
【
図2】医療用穿刺デバイスを用いた超音波エコー下穿刺の例を示す断面図である。
【
図3】医療用穿刺デバイスの使用の操作手順の例を示す断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るカテーテル組立体を表す断面図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る医療用穿刺デバイスを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して詳しく説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0020】
(第1実施形態)
<医療用穿刺デバイス1の概要>
図1は、本発明の第1実施形態に係る医療用穿刺デバイスを示す断面図である。
図1(A)は、医療用穿刺デバイスにおいて、針先が本体部から引き出された状態を示す。
図1(B)は、針先が後退方向に一旦引き戻され、血管に向けて再度進出しようとする直前の状態を示す。
図1に示す医療用穿刺デバイス1は、超音波エコー下で用いられることを前提として、静脈穿刺、動脈穿刺、その他採卵針や生検針等の穿刺に適用可能とされている。
図1に示すように、医療用穿刺デバイス1は、針10と、針ハブ20と、本体部30と、操作機構50と、を有する。
【0021】
<針10>
図1(A)に示す針10は、生体組織に穿刺可能である。針10は、先端11と、中間部12と、基端13と、を有している。針10の先端11は、傾斜して形成されている針開口部を有する側の端部である。基端13は、先端11の反対側の端部である。針10は、超音波エコー下において穿刺用途として用いられる針であるので、所定の刃面長と刃面角(レギュラーベベルまたはショートベベル)とを有している。
針10の材料としては、例えば医療用のSUS304、SUS316L(耐食性を図るためにモリブデンを添加して、炭素含有量を低くしたもの)のようなステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン等の金属材料、あるいは硬質樹脂等が挙げられる。針10は、例えば超音波エコー下でのカテーテル手技に用いられる。穿刺対象である生体組織は、例えば、静脈および動脈の血管や、卵巣その他の臓器等である。本発明の実施形態では、生体組織が血管である場合を例に挙げて説明する。
【0022】
<針ハブ20>
図1(A)に示す針ハブ20は、例えばプラスチック製の円筒状の部材であり、針10の基端13に固定されている。針ハブ20は、挿入取り付け用の穴21を有している。針10の基端13は、針ハブ20の挿入取り付け用の穴21内に挿入され固定されている。言い換えれば、針ハブ20は、針10の基端13に固定された状態で針10を保持している。針ハブ20は、断面で見て略三角形状の係合部22を有している。係合部22は、針ハブ20の周方向の全部または一部において半径方向に突出するようにして形成されている。手動操作用のタブ23が、針ハブ20に設けられている。針ハブ20のタブ23は、半径方向外側に向けて突出して設けられている。タブ23の操作先端部23Dは、斜めに傾けて形成されている。これにより、手技者が指でタブ23を持ってタブ23を後退方向(「引き戻し方向」ともいう。)X1に向けて容易に引き戻し操作を行うことができる。
【0023】
<本体部30>
図1(A)に示す本体部30は、手技者が指で把持可能な把持部であり、針ハブ20を収容する。本体部30は、例えばプラスチック製であり、先端部31と、中間部32と、終端部33と、を有する。中間部32と終端部33とは、手技者が把持しやすいように例えば所定の直径を有する円柱状に形成されている。先端部31は、中間部32に比べて細く形成されている。先端部31と中間部32との間には、先端部31側に向けて先細りになったテーパ部34が形成されている。中間部32と終端部33との間には、断面円形状の収容空間部37が形成されている。
【0024】
図1に示す中間部32には、ガイド溝32Gが設けられている。ガイド溝32Gは、針ハブ20のタブ23を、後退方向X1と、後退方向X1とは反対方向の進出方向(「繰り出し方向」ともいう。)X2と、に沿ってガイド可能である。針ハブ20は、本体部30の収容空間部37内において収容されており、本体部30の中心軸CLに沿って、ガイド溝32Gにガイドされながら、後退方向X1と進出方向X2とに往復移動可能である。先端部31は、中心軸CLに沿った貫通孔35を有する。中間部32は、中心軸CLに沿った貫通孔36を有する。針10の中間部12は、貫通孔35および貫通孔36を通っており、中心軸CLに沿って往復摺動可能である。
【0025】
<操作機構50>
次に、操作機構50について説明する。
図1(A)に示す操作機構50は、手技者の手動操作により外力を加えられることで、針10が本体部30に対して後退方向X1および進出方向X2に移動する動作を操作する。操作機構50は、スプリング51と、ロック機構52と、上述した手動操作用のタブ23と、を含む。本実施形態のスプリング51は、本発明の「付勢手段」の一例である。操作機構50のスプリング51は、例えば金属製あるいはプラスチック製のコイルスプリングであり、針ハブ20とともに、本体部30の収容空間部37内において、中心軸CLに沿って配置されている。
図1(A)および
図1(B)に表したように、針ハブ20とスプリング51とは、中心軸CLに沿って互いに直列に配置されている。
【0026】
図1(A)に示す状態では、針10の先端11は、本体部30の先端部31から最も突出している。針ハブ20の第1端面26は、スプリング51の付勢力により本体部30の中間部32の端面32Aに突き当たっている。針ハブ20の第2端面24は、スプリング51の第1端部51Aに突き当たっている。本体部30の終端部33の内面は、スプリング51の第2端部51Bに突き当っている。このため、針ハブ20とスプリング51とは、本体部30の収容空間部37において、中心軸CLに関して保持されている。
【0027】
操作機構50のロック機構52は、例えば樹脂製で弾性変形可能な円筒状の部材である。ロック機構52は、本体部30の中間部32と終端部33との間に設けられている。ロック機構52は、本体部30に対する針ハブ20の位置を固定することが可能で、しかも本体部30に対する針ハブ20の位置が固定された状態を解除可能である。ロック機構52は、円筒部53と、押圧部54と、係合突起部55と、を有する。円筒部53は、本体部30の中間部32と終端部33とともに収容空間部37を形成している。
【0028】
図1(A)に示すように、ロック機構52の円筒部53の外形寸法は、本体部30の外形寸法と同じに設定されている。ロック機構52の円筒部53は、弾性変形可能である。円筒部53の内周面には、複数の係合突起部55が半径方向内側に向けて突出して形成されている。複数の係合突起部55は、中心軸CLに沿って互いに任意の間隔をおいて形成されている。各係合突起部55は、円筒部53の内周面において周方向の全部または一部に形成されている。
図1(A)に示す状態では、針ハブ20の係合部22は、係合突起部55に噛み合っていない。一方で、
図1(B)に示す状態では、針ハブ20の係合部22は、スプリング51による進出方向X2への付勢力を受けつつ係合突起部55に噛み合っている。
【0029】
手技者が、例えば指でタブ23を手動操作して、タブ23を後退方向X1にスプリング51の付勢力に対抗して引き戻すと、針ハブ20の係合部22が、ロック機構52の係合突起部55と接触し、円筒部53を半径方向外側に押す。これにより、円筒部53は、
図1(B)に表した矢印Q方向に弾性変形する。そして、
図1(B)に示すように、針ハブ20の係合部22は、係合突起部55に対して、引っ掛かるようにして噛み合う。
図1(B)の状態では、針ハブ20の係合部22が係合突起部55に噛み合っているので、針10を保持した針ハブ20は、後退方向X1に引き戻された状態で保持される。つまり、針ハブ20の位置は、ロック機構52の円筒部53に対して固定される。このとき、スプリング51は、針ハブ20と終端部33との間で圧縮された状態にあり、進出方向X2の付勢力を針ハブ20に与えている。
【0030】
円筒部53は、押圧部54を有する。押圧部54は、円筒部53の外側において、中心軸CLに対して直交する半径方向外側に向けて突出して形成されている。手技者が押圧部54を指で確実に押すことができるようにするために、押圧部54は、例えば断面半円形状に形成されている。押圧部54は、円筒部53の全周囲にわたって形成されていても良いし、円筒部53の周囲の一部分に形成されていても良い。
図1(B)に示すように、手技者が、例えば指を用いた手動操作により押圧部54を挟み込み、押圧力Pで半径方向内側に向けて押圧部54を押すと、円筒部53の解放部分56が、矢印Qで示すように外側に開く。これにより、手技者は、針ハブ20の係合部22が係合突起部55に対して引っ掛かるようにして噛み合っている状態を解放することができる。従って、針10と針ハブ20とは、圧縮状態で保持されていたスプリング51の付勢力を受け、一体となって進出方向X2に沿って移動する。これにより、針10の先端11は、針10の引き戻し量Wだけ繰り出される。
針ハブ20、本体部30および操作機構50の材料としては、例えば樹脂材料であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン―テトラフルオロエチレン共重合体等のフッ素系樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂またはこれらの混合物、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド等が挙げられる。
【0031】
<医療用穿刺デバイス1の使用時の操作手順の例>
次に、
図2および
図3を参照して、上述した医療用穿刺デバイス1の使用時の操作手順の例を説明する。
図2は、医療用穿刺デバイスを用いた超音波エコー下穿刺の例を示す断面図である。
図2に示すように、手技者は、皮膚90の内部に存在する例えば静脈など血管100に対して針10の先端11を穿刺する場合に、超音波プローブ95による超音波エコー下で超音波プローブ95から得られるエコー画像をモニタ等で観察しながら針10の先端11の穿刺状態を確認する。
【0032】
図3は、医療用穿刺デバイスの使用の操作手順の例を示す断面図である。
図3(A)から
図3(D)では、上段の4つの図が超音波エコー下穿刺の短軸象を示し、下段の4つの図が超音波エコー下穿刺の長軸象を示している。
図3(A)は、針10の先端11が血管100に対して穿刺される前の状態を示している。
図3(B)は、針10の先端11が血管100の前壁101の頂点に穿刺され、針10の先端11の初期位置Mが決定された状態を示す。
図3(C)は、針10の先端11が初期位置Mから引き戻し量Wだけ引き戻された状態を示している。
図3(D)は、針10の先端11が再び初期位置Mに引き戻し量Wだけ進出した状態を示している。
図3(D)に表した状態では、針10の先端11が、血管100の前壁101だけに穿刺されて穿刺孔103を形成し、後壁102には穿刺孔を形成してない。引き戻し量Wは、例えば約1mm~10mmである。
図3(A)~
図3(D)の長軸象に表したように、針10の先端11は、血管100に対して所定の傾斜角度で穿刺される。初期位置Mは、例えば
図3(B)に示すように、血管100の直径方向Eに関して中心部に設定される。但し、初期位置Mは、これだけに限定されるわけではない。
【0033】
まず、針10の先端11の穿刺が超音波エコー下で開始されるときには、
図1(A)に示すように、医療用穿刺デバイス1の針10の先端11は、本体部30から最も繰り出されている状態である。この状態において、針ハブ20の第1端面26は、本体部30の中間部32の端面32Aに突き当たっている。針ハブ20の第2端面24は、スプリング51の第1端部51Aに突き当たっている。本体部30の終端部33の内面は、スプリング51の第2端部51Bに突き当っている。
図3(A)から
図3(B)に示すように、手技者は、医療用穿刺デバイス1の本体部30を把持して、超音波エコー下でエコー画像を観察しながら血管100の前壁101の頂点109に対して所定の傾斜角度で穿刺し、針10の先端11の位置を初期位置Mに位置決めする。このとき、
図3(B)に示すように、血管100は、針10の先端11に押されて変形し、潰れた状態になる。
【0034】
次に、手技者は、例えば指で
図1(A)に示すタブ23を把持して、タブ23を本体部30に対して、スプリング51の付勢力に対抗して後退方向X1に引き戻す。そうすると、
図1(B)に示すように、針ハブ20の係合部22は、係合突起部55に引っ掛かるようにして噛み合う。
図1(B)の状態では、針ハブ20の位置は、ロック機構52の円筒部53に対して固定される。しかも、スプリング51は、針ハブ20と終端部33との間で、圧縮された状態になる。これにより、
図3(C)に示すように、針10の先端11は、初期位置Mから後退方向X1に後退した状態になる。また、針10の先端11が血管100の前壁101から離れることで、血管100の壁は、血管100の内圧を受けて元の形状に戻る。
【0035】
次に、手技者は、
図1(B)に示すように、例えば指を用いた手動操作により押圧部54を挟み込み、押圧力Pで半径方向内側に向けて押圧部54を押す。これにより、円筒部53の解放部分56が、矢印Qで示すように外側に開く。これにより、針ハブ20の係合部22は、係合突起部55に引っ掛かるようにして噛み合っている状態から解放される。従って、針10と針ハブ20とは、圧縮状態で保持されていたスプリング51の付勢力を受け、一体となって進出方向X2に沿って素早く移動する。針10を保持した針ハブ20が、圧縮状態で保持されていたスプリング51の付勢力を受けて進出方向X2に移動するため、針10が進出方向X2に再度進出するときの速度は、針10が初期位置Mから後退方向X1に引き戻されるときの速度よりも速い。そして、針10の先端11は、引き戻し量Wだけ進出する(繰り出される)。このように、操作機構50は、針10の先端11を初期位置Mから後退方向X1に一旦引き戻した後、進出方向X2に再度進出させ、初期位置Mに位置決めさせる。そのため、針10の先端11は、初期位置Mから後壁102へは進まない。
【0036】
手技者は、操作機構50を複数回使用できる。すなわち、手技者は、再び、タブ23を用いて針ハブ20を本体部30に対して後退方向X1に一旦引き戻した後、手動操作により押圧部54を挟み込み、針ハブ20の係合部22が係合突起部55に噛み合っている状態を解放することにより、針10を進出方向X2に再度進出させることができる。
【0037】
本実施形態に係る医療用穿刺デバイス1によれば、操作機構50は、血管100に穿刺され位置決めされた針10の位置を初期位置Mとした場合に、針10を初期位置Mから針10の後退方向X1に引き戻した後に、針10を進出方向X2に再度進出させ初期位置Mに位置させる。これにより、針10は、後退方向X1に一旦引き戻った後、進出方向X2に再度進出したときに初期位置Mに位置する。そのため、手技者は、位置決めした初期位置M、すなわち血管100の前壁101のみを穿刺可能な位置に素早く穿刺可能であり、血管100をより確実に確保することができる。つまり、本実施形態に係る医療用穿刺デバイス1は、血管100の潰れや血管100の逃げが生ずることを抑え、針10の穿刺成功率を向上させて血管確保率を向上させることができる。また、手技者が血管100の前壁101のみを穿刺可能であるため、血管100の後壁102に穿刺孔(すなわち穿刺痕)が形成されることを抑え、穿刺痕において血腫が生ずることを抑えることができる。また、手技者が穿刺対象の血管100に並走する別の静脈や動脈、神経を誤穿刺することを抑えることができる。これにより、神経損傷や血腫などの不具合が生ずることを抑え、誤穿刺による後処置の手間を低減することができる。さらに、穿刺時に手技者にかかるストレスの低減や穿刺時間の短縮化を図ることができる。一般的には、針が例えば血管100の中央位置を穿刺すれば、血管100は逃げずに穿刺できるケースが多い。一方、血管100の中央位置からオフセットされた状態で針が血管100を穿刺した場合には、血管100は針先から逃げる方向、例えば横方向もしくは下方向に移動する。これに対して、本実施形態の医療用穿刺デバイス1では、針10の先端11は、勢いよく血管100を穿刺することで、針10の先端11の穿刺可能域を拡大でき、すなわち針10の先端11が血管100の中央位置を穿刺するのは勿論のこと、針10の先端11が血管100の中央位置からオフセットされた状態でも、血管100が逃げることがなく確実に穿刺できる。
【0038】
また、前述したように、ロック機構52は、針10が初期位置Mから後退方向X1に引き戻された状態で、本体部30に対する針ハブ20の位置を固定可能である。すなわち、ロック機構52は、針10が初期位置Mから後退方向に引き戻された状態を維持できる。そして、ロック機構52は、本体部30に対する針ハブ20の位置が固定された状態を解除可能である。これにより、手技者は、後退方向X1に一旦引き戻された針10を進出方向X2に再度進出させる動作を、任意のタイミングで安定して行うことができる。これにより、本実施形態に係る医療用穿刺デバイス1の使用勝手を向上させることができる。
【0039】
また、操作機構50が針ハブ20に設けられたタブ23を有するため、手技者は、タブ23を手動操作することにより、針10を保持した針ハブ20の位置を後退方向X1に引き戻す操作を容易に行うことができる。
【0040】
また、手技者は、操作機構50を複数回使用できるため、例えば一度では所望の通りに穿刺できなかった場合でも、再度穿刺を行うことができ、血管100をより確実に確保することができる。
【0041】
また、前述したように、針10が進出方向X2に再度進出するときの速度は、針10が初期位置Mから後退方向X1に引き戻されるときの速度よりも速い。そのため、手技者は、針10を後退方向X1に一旦引き戻す際に針10の引き戻し操作をゆっくり丁寧に行って初期位置Mがずれることを抑えることができる。そして、手技者は、針10を進出方向X2に再度進出させる際に血管100の前壁101のみを素早く穿刺することができる。これにより、本実施形態に係る医療用穿刺デバイス1は、血管100をより一層確実に確保することができる。
【0042】
さらに、前述したように、針10を保持した針ハブ20は、スプリング51から付勢力を受けて進出方向X2に再度進出する。そのため、操作機構50は、スプリング51の付勢力を利用して、針10を保持した針ハブ20を進出方向X2に再度進出させることができる。これにより、本実施形態に係る医療用穿刺デバイス1は、針10を素早く進出方向X2に再度進出させて血管100の前壁101のみを一定の力で確実に穿刺し、血管100をより確実に確保することができる。また、電力を確保することが困難な場合であっても、例えばロボット穿刺に用いる電力が不要であるため、本実施形態に係る医療用穿刺デバイス1は、針10を素早く進出方向X2に再度進出させて血管100の前壁101のみを穿刺し、血管100をより確実に確保することができる。
【0043】
図4は、本発明の実施形態に係るカテーテル組立体を表す断面図である。
図4に示すカテーテル組立体200は、
図1~
図3に関して前述した医療用穿刺デバイス1と同様の構造を有する医療用穿刺デバイス1Bと、カテーテル201と、カテーテルハブ202と、を備える。カテーテル201とカテーテルハブ202とは、例えば樹脂製や金属製のチューブであり、針10を後退方向X1と進出方向X2とに沿ってスライド可能に挿通させている。
図4に表したように、針10の先端11は、カテーテル201の先端203から繰り出される。カテーテルハブ202の基端部206は、医療用穿刺デバイス1Bの本体部30Bの中間部32に離脱可能に取り付けられている。カテーテルハブ202の先端部205は、カテーテル201の基端204の外周面に固定されている。
図4に表したように、例えば、カテーテル201の先端203は、針10の先端11に向って先細りになったテーパ状を呈する。
【0044】
(第2実施形態)
次に、
図5を参照して、本発明の第2実施形態に係る医療用穿刺デバイスを説明する。
図5は、本発明の第2実施形態に係る医療用穿刺デバイスを示す断面図である。
図5に示す第2実施形態に係る医療用穿刺デバイス1Aの構成要素が、
図1~
図3に関して前述した第1実施形態に係る医療用穿刺デバイス1の構成要素と同様である場合には、同じ符号を記して説明を適宜省略し、以下、相違点を中心に説明する。
【0045】
図1~
図3に関して前述したように、
図1(A)に示す医療用穿刺デバイス1の操作機構50では、針ハブ20の係合部22は、係合突起部55に噛み合っていない。手技者が、例えば指でタブ23を手動操作することにより、タブ23を後退方向X1にスプリング51の付勢力に対抗して引き戻すと、
図1(B)に示すように、針ハブ20の係合部22は、係合突起部55に噛み合う。これにより、針10を保持した針ハブ20が、後退方向X1に引き戻された位置に固定される。また、スプリング51が圧縮状態に保持される。
【0046】
これに対して、
図5に示す医療用穿刺デバイス1Aの操作機構50Aでは、
図5(A)から
図5(B)に示すように、針10を保持した針ハブ20は、手技者による手動操作ではなく、スプリング80の付勢力を用いてワンタッチで自動的に後退方向X1に引き戻される。そして、
図5(B)に示すように、針10を保持した針ハブ20が、後退方向X1に引き戻された位置に固定される。
【0047】
図5(A)に示すように、本体部30には、中心軸CLを中心として外筒部分77が設けられている。外筒部分77の内周面と本体部30の中間部32の外周面との間には、スプリング80が配置されている。本実施形態のスプリング80は、本発明の「第1付勢手段」の一例である。
図5(A)に表した状態では、スプリング80は、圧縮された状態で保持されている。針ハブ20は、突き当て部分25を有している。突き当て部分25は、半径方向外側に突出して形成されている。このように、突き当て部分25が半径方向外側に突出して形成されていることにより、手技者は、突き当て部分25を目視することで、中心軸CLに沿った方向についての針ハブ20の位置を確認し易くなる。なお、突き当て部分25は、必ずしも半径方向外側に突出していなくとも良い。スプリング80の一端部81は、外筒部分77の内面に固定されている。スプリング80の他端部82は、突き当て部分25および作動開始ボタン70に突き当たっている。本実施形態の作動開始ボタン70は、本発明の「作動開始部材」の一例である。
【0048】
本体部30の中間部32には、半径方向に沿ってガイド孔39が形成されている。ガイド孔39には、作動開始ボタン70が挿入されている。作動開始ボタン70は、圧縮された状態のスプリング80の他端部82が後退方向X1に伸長することを防ぐストッパである。作動開始ボタン70は、貫通孔71を有する。貫通孔71は、スプリング80の他端部82を通すことができる。
【0049】
図5(A)に示す状態では、作動開始ボタン70は、スプリング80の他端部82が後退方向X1に伸長することを防いでいる。そして、手技者が例えば指で作動開始ボタン70を
図5(A)に表したN方向に押し込むと、
図5(B)に示すように、作動開始ボタン70がガイド孔39にさらに差し込まれ、作動開始ボタン70の貫通孔71がスプリング80の他端部82を通す。従って、スプリング80の圧縮力が解放されて、スプリング80は、後退方向X1の付勢力を針ハブ20の突き当て部分25に与える。これにより、
図5(B)に示すように、針ハブ20が後退方向X1に引き戻され、針ハブ20の係合部22は、係合突起部55に引っ掛かるようにして噛み合う。
【0050】
一方、スプリング130が、ロック機構52の別の係合突起部120と、本体部30の終端部33と、の間に配置されている。本実施形態のスプリング130は、本発明の「第2付勢手段」の一例である。スプリング130の一端部131は、ロック機構52の別の係合突起部120に突き当たっている。スプリング130の他端部132は、終端部33の内面に突き当たっている。
図5(B)に表した状態では、スプリング130は、圧縮された状態で保持されている。スプリング130の付勢力は、スプリング80の付勢力に比べて大きい。例えば、スプリング130のバネ定数は、スプリング80のバネ定数よりも大きい。スプリング130の一端部131には、スプリング130の一端部131を例えば指で後退方向X1に引き戻すための操作レバー133が設けられている。
【0051】
医療用穿刺デバイス1Aの使用を開始する際には、
図5(A)に示すように、スプリング80,130はともに圧縮状態に保持されている。手技者が、例えば指で作動開始ボタン70をN方向に押すと、
図5(B)に示すように、作動開始ボタン70がガイド孔39にさらに差し込まれる。そうすると、この動作がトリガーとなって、作動開始ボタン70の貫通孔71がスプリング80の他端部82を通す。これにより、スプリング80の圧縮力が解放される。そうすると、スプリング80が針ハブ20の突き当て部分25に後退方向X1の付勢力を与え、針ハブ20を自動的に後退方向X1に引き戻す。
図5(B)に示すように、針ハブ20が後退方向X1に引き戻ると、針ハブ20の係合部22は、係合突起部55に引っ掛かるようにして噛み合う。この状態では、針10の先端11は、初期位置Mから針10の引き戻し量Wだけ引き戻される。
【0052】
次に、手技者は、
図1(B)に示すように、例えば指による手動操作により、押圧部54を挟み込み、押圧力Pで半径方向内側に向けて押圧部54を押す。これにより、円筒部53の解放部分56が、矢印Qで示すように外側に開く。
これにより、手技者は、針ハブ20の係合部22が係合突起部55に引っ掛かるようにして噛み合っている状態を解放することができる。しかも、スプリング130の一端部131と係合突起部120との係合状態が解消する。これにより、圧縮状態で保持されていたスプリング130の付勢力が解放されて、針10と針ハブ20とは、圧縮状態で保持されていたスプリング130の付勢力を受け、一体となって進出方向X2に沿って素早く移動する。これにより、針10の先端11は、引き戻し量Wだけ進出する。この場合に、スプリング130の付勢力がスプリング80の付勢力に比べて大きいため、スプリング130は、スプリング80の付勢力に打ち勝って、針10を保持した針ハブ20を進出方向X2に素早く繰り出すことができる。
【0053】
なお、手技者は、操作機構50Aをもう一度使用する場合には、例えば指で
図5(B)に示す針ハブ20を進出方向X2に押し戻してから、作動開始ボタン70をガイド孔39から引き出す。そして、手技者は、スプリング80の他端部82の移動を作動開始ボタン70で止めることで、スプリング80の圧縮状態を保持できる。また、手技者が例えば指で操作レバー133を後退方向X1に引き戻すことで、スプリング130の一端部131は、係合突起部120に再び係合する。これにより、スプリング130は、圧縮状態に保持される。これにより、医療用穿刺デバイス1Aは、
図5(A)に示す状態に戻ることができる。このようにして、手技者は、操作機構50Aを複数回使用可能である。これにより、例えば手技者が一度では所望の通りに穿刺できなかった場合でも、再度穿刺を行うことができ、血管100をより確実に確保することができる。
【0054】
本実施形態に係る医療用穿刺デバイス1Aによれば、手技者が作動開始ボタン70を操作すると、スプリング80が、針10を保持した針ハブ20に後退方向X1の付勢力を与え、針10を初期位置Mから後退方向X1に引き戻す。そして、針10が初期位置Mから後退方向X1に一旦引き戻った後、手技者が押圧部54を押すことで、スプリング130が、針10を保持した針ハブ20に進出方向X2の付勢力を与え、針10を進出方向X2に再度進出させる。これにより、手技者は、作動開始ボタン70を操作することにより、針10を初期位置Mから後退方向X1に一旦引き戻した後に、針10を進出方向X2に再度進出させ初期位置Mに位置させることができる。これにより、本実施形態に係る医療用穿刺デバイス1Aは、手技者が作動開始ボタン70を操作することにより、針10を素早く進出方向X2に再度進出させて血管100の前壁101のみを一定の力で確実に穿刺し、血管100をより確実に確保することができる。また、電力を確保することが困難な場合であっても、例えばロボット穿刺に用いる電力が不要であるため、本実施形態に係る医療用穿刺デバイス1Aは、針10を素早く進出方向X2に再度進出させて血管100の前壁101のみを穿刺し、血管100をより確実に確保することができる。また、第1実施形態に係る医療用穿刺デバイス1に関して前述した効果と同様の効果が得られる。
【0055】
なお、本発明の実施形態に係る医療用穿刺デバイス及びカテーテル組立体の適用範囲には、超音波エコー下で用いられることを前提として、静脈穿刺デバイス、動脈穿刺デバイス、その他採卵針や生検針等の超音波エコー下穿刺デバイス全般が含まれる。静脈穿刺用の穿刺デバイスとしては、CICC(内頸静脈,鎖骨下静脈,大腿静脈などより穿刺する中心静脈カテーテル、Centrally Inserted Central Catheter)、PICC(上腕の静脈を穿刺して留置する末梢挿入式中心静脈カテーテル、Peripherally Inserted Central Catheter)、ミッドラインカテーテル等の金属針及び留置針などが挙げられる。
【0056】
動脈穿刺用の穿刺デバイスとしては、PTCA(経皮的冠動脈形成術、Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty)カテーテル治療等の金属針及び留置針などが挙げられる。その他に、医療用穿刺デバイス及びカテーテル組立体は、採卵針や生検針等の超音波エコー下穿刺デバイスとして適用可能である。本実施形態の説明では、生体組織として血管100を例に挙げた。但し、生体組織は、血管100だけに限定されず、血管以外でも穿刺困難な対象部位であれば良い。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。上記実施形態の構成は、その一部を省略したり、上記とは異なるように任意に組み合わせたりすることができる。
例えば、操作機構50の付勢手段としてのスプリング51と、操作機構50Aの付勢手段としてのスプリング80,130と、は、例えば金属製あるいはプラスチック製のコイルスプリングである。但し、各付勢手段は、これに限らず、例えば弾性変形可能な例えば樹脂やゴム等で作られた円柱状あるいは円筒状の構造体であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
1、1A、1B:医療用穿刺デバイス、 10:針、 11:先端、 12:中間部、 13:基端、 20:針ハブ、 21:穴、 22:係合部、 23:タブ、 23D:操作先端部、 24:第2端面、 25:突き当て部分、 26:第1端面、 30:本体部、 30B:本体部、 31:先端部、 32:中間部、 32A:端面、 32G:ガイド溝、 33:終端部、 34:テーパ部、 35、36:貫通孔、 37:収容空間部、 39:ガイド孔、 50、50A:操作機構、 51:スプリング、 51A:第1端部、 51B:第2端部、 52:ロック機構、 53:円筒部、 54:押圧部、 55:係合突起部、 56:解放部分、 70:作動開始ボタン、 71:貫通孔、 77:外筒部分、 80:スプリング、 81:一端部、 82:他端部、 90:皮膚、 95:超音波プローブ、 100:血管、 101:前壁、 102:後壁、 103:穿刺孔、 109:頂点、 120:係合突起部、 130:スプリング、 131:一端部、 132:他端部、 133:操作レバー、 200:カテーテル組立体、 201:カテーテル、 202:カテーテルハブ、 203:先端、 204:基端、 205:先端部、 206:基端部、 CL:中心軸、 E:直径方向、 M:初期位置、 P:押圧力、 W:引き戻し量、 X1:後退方向、 X2:進出方向