(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150856
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】磁気センサ
(51)【国際特許分類】
G01R 33/02 20060101AFI20220929BHJP
H01L 43/00 20060101ALI20220929BHJP
H01L 43/02 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
G01R33/02 D
H01L43/00
H01L43/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053644
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149113
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 謹矢
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 大三
(72)【発明者】
【氏名】坂脇 彰
【テーマコード(参考)】
2G017
5F092
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AB07
2G017AC09
2G017AD63
2G017AD65
2G017AD69
2G017BA09
5F092AA01
5F092AB01
5F092AC01
5F092BD04
5F092BD19
5F092BD20
5F092BE24
5F092BE25
(57)【要約】
【課題】磁気インピーダンス効果を用いた磁気センサの感度を向上させる。
【解決手段】磁気センサ1は、非磁性の基板10と、基板10上に設けられ、長手方向と短手方向とを有し、長手方向と交差する方向に一軸磁気異方性を有し、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する、飽和磁化が300emu/cc以上且つ650emu/cc以下であるCoを主成分とするアモルファス合金の軟磁性体層101を含む感受素子30とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性の基板と、
前記基板上に設けられ、長手方向と短手方向とを有し、当該長手方向と交差する方向に一軸磁気異方性を有し、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する、飽和磁化が300emu/cc以上且つ650emu/cc以下であるCoを主成分とするアモルファス合金の軟磁性体層を含む感受素子と
を備える磁気センサ。
【請求項2】
前記軟磁性体層は、飽和磁化が300emu/cc以上且つ550emu/cc以下であることを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記軟磁性体層は、飽和磁化が300emu/cc以上且つ450emu/cc以下であることを特徴とする請求項2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
非磁性の基板と、
前記基板上に設けられ、長手方向と短手方向とを有し、当該長手方向と交差する方向に一軸磁気異方性を有し、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する、Zrが3at%、Nbが17at%以上且つ21at%未満、残部がCoであるアモルファス合金の軟磁性体層を含む感受素子と
を備える磁気センサ。
【請求項5】
前記軟磁性体層は、Nbが17at%超且つ21at%未満であることを特徴とする請求項4に記載の磁気センサ。
【請求項6】
前記軟磁性体層は、Nbが18at%超且つ21at%未満であることを特徴とする請求項5に記載の磁気センサ。
【請求項7】
前記感受素子は、前記軟磁性体層を複数含み、
複数の前記軟磁性体層の間に、当該軟磁性体層に還流磁区が発生することを抑制する磁区抑制層を含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項8】
前記感受素子は、前記軟磁性体層を複数含み、
複数の前記軟磁性体層の間に、当該軟磁性体層より導電性が高い、非磁性の導電体層を含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項9】
前記感受素子は、前記軟磁性体層を複数含み、
複数の前記軟磁性体層の間に、当該軟磁性体層を反強磁性結合させる、非磁性体の反強磁性結合層を含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
公報記載の従来技術として、非磁性基板上に形成された硬磁性体膜からなる薄膜磁石と、前記薄膜磁石の上を覆う絶縁層と、前記絶縁層上に形成された一軸異方性を付与された一個または複数個の長方形状の軟磁性体膜からなる感磁部とを備えた磁気インピーダンス効果素子が存在する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する感受素子を備えた磁気センサは、インピーダンスが磁界に対して変化することを利用する。磁気センサの感度を向上させるには、磁界に対するインピーダンスの変化が大きいことが求められる。
【0005】
本発明は、磁気インピーダンス効果を用いた磁気センサの感度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明が適用される磁気センサは、非磁性の基板と、基板上に設けられ、長手方向と短手方向とを有し、長手方向と交差する方向に一軸磁気異方性を有し、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する、飽和磁化が300emu/cc以上且つ650emu/cc以下であるCoを主成分とするアモルファス合金の軟磁性体層を含む感受素子とを備える。
ここで、軟磁性体層は、飽和磁化が300emu/cc以上且つ550emu/cc以下であることを特徴とすることができる。
また、軟磁性体層は、飽和磁化が300emu/cc以上且つ450emu/cc以下であることを特徴とすることができる。
【0007】
他の観点から捉えると、本発明が適用される磁気センサは、非磁性の基板と、基板上に設けられ、長手方向と短手方向とを有し、長手方向と交差する方向に一軸磁気異方性を有し、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する、Zrが3at%、Nbが17at%以上且つ21at%未満、残部がCoであるアモルファス合金の軟磁性体層を含む感受素子とを備える。
ここで、軟磁性体層は、Nbが17at%超且つ21at%未満であることを特徴とすることができる。
また、軟磁性体層は、Nbが18at%超且つ21at%未満であることを特徴とすることができる。
【0008】
このような磁気センサにおいて、感受素子は、軟磁性体層を複数含み、複数の軟磁性体層の間に、軟磁性体層に還流磁区が発生することを抑制する磁区抑制層を含むことを特徴とすることができる。
また、感受素子は、軟磁性体層を複数含み、複数の軟磁性体層の間に、軟磁性体層より導電性が高い、非磁性の導電体層を含むことを特徴とすることができる。
そして、感受素子は、軟磁性体層を複数含み、複数の軟磁性体層の間に、軟磁性体層を反強磁性結合させる、非磁性体の反強磁性結合層を含むことを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、磁気インピーダンス効果を用いた磁気センサの感度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施の形態が適用される磁気センサの一例を説明する図である。(a)は、平面図、(b)は、(a)におけるIB-IB線での断面図である。
【
図2】感受素子の感受部の長手方向に印加された磁界と感受素子のインピーダンスとの関係を説明する図である。
【
図3】インピーダンス変化を測定する測定回路の一例を示す図である。
【
図4】Nb比率と感度及び異方性磁界との関係を示す図である。(a)は、感度、(b)は、異方性磁界である。
【
図5】軟磁性体層におけるNb比率と飽和磁化との関係を示す図である。
【
図6】飽和磁化と磁気センサの感度との関係を説明する図である。
【
図7】磁気センサの変形例の断面図である。(a)は、感受素子における感受部が一層の軟磁性体層で構成された磁気センサ、(b)は、感受素子における感受部が磁区抑制層を挟んだ二層の軟磁性体層で構成された磁気センサ、(c)は、感受素子における感受部が導電体層を挟んだ二層の軟磁性体層で構成された磁気センサである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態(以下では、本実施の形態と表記する。)について説明する。
(磁気センサ1の構成)
図1は、本実施の形態が適用される磁気センサ1の一例を説明する図である。
図1(a)は、平面図、
図1(b)は、
図1(a)におけるIB-IB線での断面図である。
図1(a)において、紙面の右方向をx方向、紙面の上方向をy方向、紙面の表面方向をz方向とする。
図1(b)において、紙面の右方向をx方向、紙面の上方向をz方向、紙面の裏面方向をy方向とする。
【0012】
図1(b)に示すように、本実施の形態が適用される磁気センサ1は、非磁性の基板10と、基板10上に設けられ、磁界を感受する軟磁性体層を含む感受素子30とを備えている。
なお、
図1(b)に示す磁気センサ1の断面構造については、後に詳述する。
【0013】
ここで軟磁性体とは、外部磁界によって容易に磁化されるが、外部磁界を取り除くと速やかに磁化がないか又は磁化が小さい状態に戻る、いわゆる保磁力の小さい材料である。
【0014】
図1(a)により、磁気センサ1の平面構造を説明する。磁気センサ1は、一例として四角形の平面形状を有している。磁気センサ1の平面形状は、数mm角である。例えば、x方向の長さが4mm~6mm、y方向の長さが3mm~5mmである。なお、磁気センサ1の平面形状の大きさは、他の値であってもよい。また、磁気センサ1の平面形状は、四角形以外の形状であってもよい。
【0015】
次に、基板10上に設けられた感受素子30を説明する。感受素子30は、平面形状が長手方向と短手方向とを有する短冊状である複数の感受部31を備えている。
図1(a)において、x方向が、感受素子30の長手方向である。複数の感受部31は、長手方向が並列するように配置されている。そして、感受素子30は、隣接する感受部31をつづら折りに直列接続する接続部32と、電流供給のための電線が接続される端子部33とを備えている。感受部31が、磁界又は磁界の変化を感受して磁気インピーダンス効果を生じる。つまり、感受部31が直列接続された感受素子30のインピーダンス変化により磁界又は磁界の変化が計測される。以下では、感受素子30のインピーダンスを、磁気センサ1のインピーダンスと表記することがある。
【0016】
図1(a)には8本の感受部31を図示しているが、感受部31は8本でなくてもよい。よって、
図1(a)では、紙面の上側の4本と、紙面の下側の4本の間を破線として、本数が8本に限定されないことを示している。
【0017】
接続部32は、隣接する感受部31の端部間に設けられ、隣接する感受部31をつづら折りに直列接続する。
端子部33(端子部33a、33b)は、接続部32で接続されていない感受部31の2個の端部にそれぞれ設けられている。端子部33は、電流を供給する電線を接続するパッド部として機能する。端子部33は、電線を接続しうる大きさであればよい。なお、端子部33(端子部33a、33b)は、
図1(a)の紙面において、右側に設けているが、左側に設けてもよく、左右側に分けて設けてもよい。
【0018】
ここで、感受部31の長手方向(x方向)の長さを長さLとする。そして、感受部31の短手方向の幅を幅Wとする。隣接する感受部31間の間隔を間隔Gとする。感受部31の長さLは、例えば1mm~10mm、幅Wは、例えば10μm~150μm、間隔Gは、例えば10μm~150μmである。なお、それぞれの感受部31の大きさ(長さL、幅W、厚さ等)、感受部31の数、感受部31間の間隔G等は、感受、つまり計測したい磁界の大きさなどによって設定されればよい。なお、感受部31は、1個でもよい。
【0019】
次に、
図1(b)により、磁気センサ1の断面構造を説明する。
基板10は、非磁性体からなる基板であって、例えばガラス、サファイアといった酸化物基板やシリコン等の半導体基板、あるいは、アルミニウム、ステンレススティール、ニッケルリンメッキを施した金属等の金属基板等が挙げられる。なお、基板10の導電性が高い場合には、感受素子30が設けられる側の基板10の表面に、基板10と感受素子30とを電気的に絶縁する絶縁体層が設けられるとよい。このような絶縁体層を構成する絶縁体としては、SiO
2、Al
2O
3、TiO
2等の酸化物、又は、Si
3N
4、AlN等の窒化物等が挙げられる。ここでは、基板10は、ガラスであるとして説明する。
【0020】
感受素子30は、一例として、基板10側から4層の軟磁性体層101a、101b、101c、101dを備える。そして、感受素子30は、軟磁性体層101aと軟磁性体層101bとの間に、軟磁性体層101aと軟磁性体層101bとに還流磁区の発生を抑制する磁区抑制層102aを備える。さらに、感受素子30は、軟磁性体層101cと軟磁性体層101dとの間に、軟磁性体層101cと軟磁性体層101dとに還流磁区の発生を抑制する磁区抑制層102bを備える。そしてまた、感受素子30は、軟磁性体層101bと軟磁性体層101cとの間に、感受素子30の抵抗(ここでは、電気抵抗をいう。)を低減させる導電体層103を備える。軟磁性体層101a、101b、101c、101dをそれぞれ区別しない場合は、軟磁性体層101と表記する。磁区抑制層102a、102bをそれぞれ区別しない場合には、磁区抑制層102と表記する。
【0021】
軟磁性体層101は、磁気インピーダンス効果を示すアモルファス合金の軟磁性体で構成される。軟磁性体層101の厚さは、例えば100nm~1μmである。本実施の形態が適用される感受素子30では、軟磁性体層101は、飽和磁化が300emu/cc以上且つ650emu/cc以下であるCoを主成分とするアモルファス合金の軟磁性体で構成されている。軟磁性体層101については、後に詳述する。
なお、本明細書において、アモルファス合金、アモルファス金属とは、結晶のような原子の規則的な配列を有しない構造を有し、スパッタリング法などで形成されるものをいう。
【0022】
磁区抑制層102は、磁区抑制層102を挟む上下の軟磁性体層101に還流磁区が発生するのを抑制する。
一般に、軟磁性体層101には、それぞれの磁化の向きが異なる複数の磁区が形成されやすい。この場合、磁化の向きが環状を呈する還流磁区が形成される。外部磁界が大きくなると、磁壁が移動し、外部磁界の向きと磁化の向きとが同じ磁区の面積が大きくなり、外部磁界の向きと磁化の向きとが逆の磁区の面積が小さくなる。そして、外部磁界がさらに大きくなると、磁化の向きが外部磁界の向きと異なる磁区において、磁化の向きが外部磁界の向きと同じ向きを向くように磁化回転が生じる。そして、ついには隣接する磁区同士の間に存在していた磁壁が消滅し、1つの磁区(単磁区)となる。つまり、還流磁区が形成されていると、外部磁界の変化に伴って、還流磁区を構成する磁壁が階段状に不連続に移動するバルクハウゼン効果が生じる。この磁壁の不連続な移動は、磁気センサ1におけるノイズとなり、磁気センサ1から得られる出力におけるS/Nの低下を生じるおそれがある。磁区抑制層102は、磁区抑制層102の上下に設けられた軟磁性体層101に面積の小さな複数の磁区が形成されるのを抑制する。これにより、還流磁区が形成されることが抑制され、磁壁が不連続に移動することによるノイズの発生を抑制する。なお、磁区抑制層102は、磁区抑制層102を含まない場合に比べて、形成される磁区の数が少なく、つまり磁区の大きさが大きくなる効果が得られればよい。
【0023】
このような磁区抑制層102としては、Ru、SiO2等の非磁性体や、CrTi、AlTi、CrB、CrTa、CoW等の非磁性アモルファス金属が挙げられる。このような磁区抑制層102の厚さは、例えば10nm~100nmである。
【0024】
導電体層103は、感受素子30の抵抗を低減する。つまり、導電体層103は、軟磁性体層101より導電性が高く、導電体層103を含まない場合に比べて、感受素子30の抵抗を小さくする。感受素子30による磁界又は磁界の変化は、2個の端子部33a、33b間に交流電流を流した際におけるインピーダンス(以下では、インピーダンスZと表記する。)の変化(ΔZと表記する。)により計測される。この際、交流電流の周波数が高いほど、外部磁界の変化(ここでは、ΔHと表記する。)に対するインピーダンスZの変化率ΔZ/ΔH(以下ではインピーダンス変化率ΔZ/ΔH)が大きくなる。しかし、導電体層103を含まない状態で交流電流の周波数を高くすると、磁気センサ1とした状態における浮遊容量により、逆にインピーダンス変化率ΔZ/ΔHが小さくなってしまう。つまり、感受素子30の抵抗をR、浮遊容量をCとし、感受素子30を抵抗Rと浮遊容量Cとの並列回路とすると、磁気センサ1の緩和周波数f0は、式(1)で表せる。
【0025】
【0026】
式(1)から分かるように、浮遊容量Cが大きいと、緩和周波数f0が小さくなる。よって、緩和周波数f0より交流電流の周波数を高くすると、逆にインピーダンス変化率ΔZ/ΔHが低下する。そこで、導電体層103を設けて、感受素子30の抵抗Rを低減させて、緩和周波数f0を高くしている。
【0027】
このような導電体層103としては、導電性が高い金属または合金を用いることが好ましく、導電性が高く且つ非磁性の金属または合金を用いることがより好ましい。このような導電体層103としては、Al、Cu、Ag、Au等の金属が挙げられる。導電体層103の厚さは、例えば、10nm~1μmである。導電体層103は、導電体層103を含まない場合に比べて、感受素子30の抵抗が低減されるものであればよい。
【0028】
なお、磁区抑制層102を挟む上下の軟磁性体層101、及び導電体層103を挟む上下の軟磁性体層101は、互いに反強磁性結合(AFC:Antiferromagnetically Coupled)している。下上の軟磁性体層101が反強磁性結合することで、反磁界が抑制され、磁気センサ1の感度が向上する。
【0029】
磁気センサ1は、次のようにして製造される。
まず、基板10上に、基板10の表面において、感受素子30の平面形状の部分を除いた部分を覆うフォトレジストのパターンを公知のフォトリソグラフィ技術により形成する。ついで、基板10上に、軟磁性体層101a、磁区抑制層102a、軟磁性体層101b、導電体層103、軟磁性体層101c、磁区抑制層102b、軟磁性体層101dを順に、例えばスパッタリング法により堆積する。そして、フォトレジスト上に堆積された軟磁性体層101a、磁区抑制層102a、軟磁性体層101b、導電体層103、軟磁性体層101c、磁区抑制層102b、軟磁性体層101dを、フォトレジストとともに除去する。すると、基板10上に、感受素子30の平面形状に加工された、軟磁性体層101a、磁区抑制層102a、軟磁性体層101b、導電体層103、軟磁性体層101c、磁区抑制層102b、軟磁性体層101dからなる積層体が残る。つまり、感受素子30が形成される。
【0030】
軟磁性体層101は、長手方向と交差する方向、例えば短手方向(
図1(a)のy方向)に一軸磁気異方性が付与されている。なお、長手方向と交差する方向とは、長手方向に対して45°を超え、且つ90°以下の角度を有すればよい。一軸磁気異方性は、基板10上に形成された感受素子30を、例えば3kG(0.3T)の回転磁場中における400℃での熱処理(回転磁場中熱処理)と、それに引き続く3kG(0.3T)の静磁場中における400℃での熱処理(静磁場中熱処理)とを行うことで付与できる。一軸磁気異方性の付与を回転磁場中熱処理及び静磁場中熱処理で行う代わりに、感受素子30を構成する軟磁性体層101の堆積時にマグネトロンスパッタリング法を用いて行ってもよい。つまり、マグネトロンスパッタリング法に用いられる磁石(マグネット)が形成する磁界により、軟磁性体層101の堆積と同時に、軟磁性体層101に一軸磁気異方性が付与される。
【0031】
以上に説明した製造方法では、接続部32、端子部33は、感受部31と同時に一体として形成される。なお、接続部32、端子部33を、導電性のAl、Cu、Ag、Au等の金属で形成してもよい。また、感受部31と同時に一体に形成された接続部32、端子部33上に、導電性のAl、Cu、Ag、Au等の金属を積層してもよい。
【0032】
(感受素子30の動作)
感受素子30の作用について説明する。
図2は、感受素子30の感受部31の長手方向(
図1(a)のx方向)に印加された磁界Hと感受素子30のインピーダンスZとの関係を説明する図である。
図2において、横軸が磁界H、縦軸がインピーダンスZである。なお、インピーダンスZは、
図1(a)に示す感受素子30の端子部33a、33b間に交流電流を流して測定される。
【0033】
図2に示すように、感受素子30のインピーダンスZは、感受部31の長手方向に印加される磁界Hが大きくなるにしたがい大きくなる。そして、感受素子30のインピーダンスZは、印加する磁界Hが異方性磁界Hkより大きくなると逆に小さくなる。異方性磁界Hkより小さい範囲において、磁界Hの変化量ΔHに対してインピーダンスZの変化量ΔZが大きい部分、つまりインピーダンス変化率ΔZ/ΔHが急峻な部分(大きい)を用いると、磁界Hの微弱な変化をインピーダンスZの変化量ΔZとして取り出すことができる。
図2では、インピーダンス変化率ΔZ/ΔHが大きい磁界Hの中心を磁界Hbとして示している。つまり、磁界Hbの近傍(
図2で矢印で示す範囲)における磁界Hの変化量ΔHが高精度に計測できる。ここで、インピーダンスZの変化量ΔZが最も急峻な(インピーダンス変化率ΔZ/ΔHが最も大きい)部分、つまり磁界Hbにおける単位磁界当たりのインピーダンスの変化量Zmaxを、磁界HbでのインピーダンスZ(インピーダンスZbと表記する。)で割ったもの(Zmax/Zb)が感度である。感度Zmax/Zbが高いほど、磁気インピーダンス効果が大きく、磁界又は磁界の変化を計測しやすい。換言すれば、磁界Hに対するインピーダンスZの変化が急峻なほど感度Zmax/Zbが高くなる。これには、異方性磁界Hkが小さいほどよい。つまり、磁気センサ1においては、感度Zmax/Zbが高いことが好ましく、これには、異方性磁界Hkが小さいことが好ましい。磁界Hbは、バイアス磁界と呼ばれることがある。以下では、磁界Hbをバイアス磁界Hbと表記する。
【0034】
(感度Zmax/Zbの測定法)
図3は、インピーダンス変化を測定する測定回路の一例を示す図である。
図3に示す測定回路は、ブリッジ回路50である。ブリッジ回路50は、端子A、B、C、Dを備えている。そして、端子A-B間、端子C-D間、端子D-A間がインピーダンスZに設定されている。端子B-C間に、インピーダンスが変化する試料Sが設けられているとする。つまり、ブリッジを構成する4辺の内、3辺にインピーダンスZが設定され、残りの1辺に試料Sが設定されている。端子A-C間に、交流電流を供給する交流電源Pが接続されている。端子A-C間は、電圧Vinである。そして、ブリッジ回路50では、端子B-D間の電圧ΔVが測定される。
【0035】
ここで、試料Sは、インピーダンスがZからZ+ΔZに変化するとする。試料SがインピーダンスZであるときは、ブリッジ回路50における4辺は、インピーダンスZである。よって、ブリッジ回路50は平衡状態であって、端子B-D間には、電圧が発生しない。つまり、ΔVは0Vである。一方、試料SがインピーダンスZ+ΔZとなると、ΔVは、ΔZ/(4Z)×Vinとなる(ΔV≒ΔZ/(4Z)×Vin)。
【0036】
試料Sを磁気センサ1とした場合、ΔH=1のときの上記のΔZ/Zは、感度Zmax/Zbに対応する(ΔZ/Z=Zmax/Zb)。このように、磁気センサ1の感度Zmax/Zbは、ブリッジ回路50によって計測される。なお、磁気センサ1の感度Zmax/Zbは、ブリッジ回路50以外の方法で測定してもよい。
【0037】
(Nb比率と感度Zmax/Zbとの関係)
これまで、先行技術文献1に記載されているように、磁気インピーダンス効果を用いた磁気センサ1の軟磁性体層101を構成する軟磁性体として、Nbが12at%、Zrが3at%、残部がCoであるCo85Nb12Zr3(Co12Nb3Zrと表記することがある。)が用いられてきた。ところが、Nbの比率を高めたところ、感度Zmax/Zbが向上することを見出した。以下では、Co、Nb、Zrの比率を表記しない場合には、CoNbZrと表記する。
【0038】
図4は、Nb比率と感度Zmax/Zb及び異方性磁界Hkとの関係を示す図である。
図4(a)は、感度Zmax/Zb、
図4(b)は、異方性磁界Hkである。
図4(a)では、横軸がNb比率(at%)、縦軸が感度Zmax/Zb(/Oe)である。
図4(b)では、横軸がNb比率(at%)、縦軸が異方性磁界Hk(Oe)である。
【0039】
磁気センサ1は、感受素子30における感受部31の本数を24本、感受部31の長さLを4mm、感受部31の幅Wを100μm、感受部31間の間隔Gを50μmとした。
【0040】
軟磁性体層101a、101b、101c、101d(
図1(b)参照)は、Coを主成分とするアモルファス合金であるCoNbZrであって、Nb比率を、12、17、18、19、20at%と変化させた。なお、Zr比率は、3at%に固定した。つまり、Nb比率の増加に合わせ、Co比率を減少させた。軟磁性体層101a、101b、101c、101dの各厚さは、500nmとした。
【0041】
磁区抑制層102a、102b(
図1(b)参照)は、原子数比が1:1のCrTiである。磁区抑制層102a、102bの各厚さは、25nmとした。
【0042】
導電体層103(
図1(b)参照)は、Agである。導電体層103の厚さは、400nmとした。
【0043】
図4(a)に示すように、Nb比率が増加すると、感度Zmax/Zbが向上する。一方、
図4(b)に示すように、Nb比率が増加すると、異方性磁界Hkが小さくなる。つまり、異方性磁界Hkが小さくなることで、磁界Hに対するインピーダンスZの変化が急峻になる。これにより、感度Zmax/Zbが向上していると考えられる。
【0044】
(Nb比率と飽和磁化Msとの関係))
図5は、軟磁性体層101におけるNb比率と飽和磁化Msとの関係を示す図である。
図5において、横軸は、Nb比率(at%)、縦軸は、飽和磁化Ms(emu/cc)である。ここでは、基板10上に軟磁性体層101を設けて、飽和磁化Msを測定した。磁界によって磁壁が消失した状態を磁化が飽和したという。そして、磁化が飽和した状態の磁化を飽和磁化Msと呼ぶ。
【0045】
図5では、CoNbZr(黒丸)に加え、CoFeCrMnSiB(白丸)と表記するCoを主成分とするアモルファス合金を加えている。なお、CoFeCrMnSiBは、Feが1.4at%、Siが13.8at%、Mnが3.6at%、Crが5at%、Bが9.5at%であって、残部がCoである。つまり、ここで示すCoFeCrMnSiBは、Co
66.7Fe
1.4Cr
5Mn
3.6Si
13.8B
9.5(Co1.4Fe5Cr3.6Mn13.8Si9.5Bと表記することがある。)である。
また、
図5では、CoNbZrにおいて、Nb比率が21at%の場合も示している。
【0046】
図5に示すように、CoNbZrでは、Nb比率が大きくなるに従い、飽和磁化Msが小さくなる。つまり、磁界による磁化の飽和が生じやすい。また、CoFeCrMnSiBの飽和磁化Msは、390emu/ccであって、Nbが19at%のCoNbZrの421emu/ccや、Nbが20at%のCoNbZrの365emu/ccに近い。
【0047】
なお、Nbが21at%のCoNbZrは、飽和磁化Msが284emu/ccと小さいが、磁気センサ1とした場合、異方性磁界Hkが小さくなり過ぎ、磁気センサとして作動しなかった。これは、飽和磁化Msが小さすぎると、一軸異方性を付与しづらくなるためと思われる。
【0048】
(飽和磁化Msと感度Zmax/Zbとの関係)
図6は、飽和磁化Msと磁気センサ1の感度Zmax/Zbとの関係を説明する図である。
図6において、横軸は、飽和磁化Ms(emu/cc)、縦軸は、感度Zmax/Zb(/Oe)である。ここでは、前述したNb比率(at%)の異なるCoNbZr(黒丸)と、CoFeCrMnSiB(白丸)とを示している。なお、CoNbZrについては、Nb比率(at%)を( )内に示している。さらに、CoFeCrMnSiBを用いた磁気センサ1は、
図1に示した構造を有している。ただし、軟磁性体層101a、101b、101c、101dの各厚さは、250nmとした。
【0049】
図6に示すように、飽和磁化Msが300emu/cc以上且つ650emu/cc以下において、Nb比率が12at%の飽和磁化Msが801emu/ccの場合に比べて感度Zmax/Zbが向上している。これは、軟磁性体層101がCoNbZrで構成されている場合に限らず、軟磁性体層101がCoFeCrMnSiBで構成されている場合であっても該当する。このことから、磁気インピーダンス効果を用いた磁気センサ1では、Coを主成分とする軟磁性体層101の飽和磁化Msが300emu/cc以上且つ650emu/cc以下であれば、感度Zmax/Zbが向上することを示している。ここで、Coが主成分であるとは、Co比率が60at%以上であることをいう。なお、前述したように、飽和磁化Msが300emu/cc未満であると、異方性磁界Hkが小さくなりすぎるために好ましくない。
【0050】
また、
図4(b)に示したように、Nb比率が17at%超であると異方性磁界Hkがより低減する。一方、
図6に示すように、Nb比率が17at%超の場合、飽和磁化Msが550emu/cc以下であることから、飽和磁化Msが300emu/cc以上且つ550emu/cc以下であるCoを主成分とする軟磁性体層101を用いることがよりよい。さらに、
図6に示すように、飽和磁化Msが450emu/cc以下であると感度Zmax/Zbがより高くなることから、飽和磁化Msが300emu/cc以上且つ450emu/cc以下であるCoを主成分とする軟磁性体層101を用いることがさらによい。
【0051】
CoNbZrにおいては、Nb比率が17at%以上且つ21at%未満であることがよい。なお、前述したように、Nb比率が21at%以上であると、異方性磁界Hkが小さくなりすぎるために好ましくない。また、
図4(b)に示したように、Nb比率が17at%超であると異方性磁界Hkがより低減することから、Nb比率が17at%超且つ21at%未満であるとよりよい。さらに、
図6に示すように、Nb比率が18at%超であると感度Zmax/Zbがより高くなることから、Nb比率が18at%超且つ21at%未満であるとさらによい。
【0052】
(変形例)
図7は、磁気センサ1の変形例の断面図である。
図7(a)は、感受素子30における感受部31が一層の軟磁性体層101で構成された磁気センサ2、
図7(b)は、感受素子30における感受部31が磁区抑制層102を挟んだ二層の軟磁性体層101で構成された磁気センサ3、
図7(c)は、感受素子30における感受部31が導電体層103を挟んだ二層の軟磁性体層101で構成された磁気センサ4である。なお、
図7(a)、
図7(b)、
図7(c)では、
図1に示した磁気センサ1と同様の部分は、同じ符号を付している。
【0053】
感受部31は、
図7(a)に示すように、一層の軟磁性体層101で構成されてもよく、
図7(b)に示すように、磁区抑制層102を挟んだ二層の軟磁性体層101で構成されてもよく、
図7(c)に示すように、導電体層103を挟んだ二層の軟磁性体層101で構成されてもよい。また、感受部31は、三層以上の軟磁性体層101で設けられてもよい。
また、
図7(b)における磁区抑制層102の代わりに、上下の軟磁性体層101を反強磁性結合させる反強磁性結合層を用いてもよい。また、
図1に示した磁気センサ1における磁区抑制層102a、102bを反強磁性結合層としてもよい。前述したように、磁区抑制層102は、還流磁区の発生を抑制するとともに、上下の軟磁性体層101を反強磁性結合させる。反強磁性結合層とは、還流磁区の発生を抑制する機能を有さないか、又は、還流磁区の発生を抑制する機能が弱い層である。反強磁性結合層を有することで、上下の軟磁性体層101が反強磁性結合することで、反磁界が抑制され、磁気センサの感度Zmax/Zbが向上する。このような反強磁性結合層としては、Ru又はRu合金が挙げられる。
そして、感受部31は、磁区抑制層102、導電体層103及び反強磁性結合層の複数の層を含んでもよい。
【0054】
さらに、磁気センサ1~4において、基板10と感受素子30との間に、バイアス磁界Hb(
図2参照)を印加する、硬磁性体層で構成された磁石(以下では、薄膜磁石と表記する。)を設けてもよい。硬磁性体とは、外部磁界によって磁化されると、外部磁界を取り除いても磁化された状態が保持される、いわゆる保磁力の大きい材料である。薄膜磁石は、磁極N、Sが感受素子30における感受部31の長手方向に磁束が透過するように設ければよい。なお、基板10と感受素子30との間に薄膜磁石を設けた場合であっても、基板10と薄膜磁石とをまとめて基板とする。
【0055】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は本実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨に反しない限りにおいては様々な変形や組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0056】
1、2、3、4…磁気センサ、10…基板、30…感受素子、31…感受部、32…接続部、33、33a、33b…端子部、50…ブリッジ回路、101、101a、101b、101c、101d…軟磁性体層、102、102a、102b…磁区抑制層、103…導電体層、H…磁界、Hb…バイアス磁界、Hk…異方性磁界、Ms…飽和磁化、P…交流電源、Z…インピーダンス