(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150868
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0444 20160101AFI20220929BHJP
H01M 8/0438 20160101ALI20220929BHJP
H01M 8/04313 20160101ALI20220929BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20220929BHJP
H01M 8/0612 20160101ALI20220929BHJP
H01M 8/04082 20160101ALI20220929BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20220929BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20220929BHJP
【FI】
H01M8/0444
H01M8/0438
H01M8/04313
H01M8/04746
H01M8/0612
H01M8/04082
H01M8/04 J
H01M8/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053658
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 真之
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA07
5H127AB23
5H127BA01
5H127BA05
5H127BA13
5H127BA18
5H127BA33
5H127BA34
5H127BA37
5H127BA57
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB18
5H127BB19
5H127BB37
5H127DB76
5H127DB77
5H127DB78
5H127DC83
5H127GG04
5H127GG09
(57)【要約】
【課題】簡易な構成により原燃料ガスの組成を適切に推定してシステムの運転をより安定させる。
【解決手段】燃料電池システムは、燃料電池スタックと、改質部と、ポンプにより原燃料ガス供給路を介して原燃料ガスを改質部へ供給する原燃料ガス供給装置と、原燃料ガス供給路内の圧力を検出する圧力センサを少なくとも含む検出部と、制御装置と、を備える。そして、制御装置は、圧力センサの検出値を含む検出部の検出値に基づく流量関連値に基づいて原燃料ガス供給路を流れる原燃料ガスの質量流量を推定し、質量流量の推定値と流量関連値とに基づいて原燃料ガスの組成を推定し、組成の推定値に基づいて原燃料ガス供給装置から供給する原燃料ガスの供給量を補正する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと酸化剤ガスとの反応により発電する燃料電池スタックと、
原燃料ガスを改質して前記燃料ガスを生成する改質部と、
原燃料ガス供給路と、該原燃料ガス供給路に設置されたポンプとを含み、前記ポンプにより前記原燃料ガス供給路を介して前記原燃料ガスを前記改質部へ供給する原燃料ガス供給装置と、
前記原燃料ガス供給路に設置され、該原燃料ガス供給路内の圧力を検出する圧力センサを少なくとも含む検出部と、
前記圧力センサの検出値を含む前記検出部の検出値に基づく流量関連値に基づいて前記原燃料ガス供給路を流れる前記原燃料ガスの質量流量を推定し、前記質量流量の推定値と前記流量関連値とに基づいて前記原燃料ガスの組成を推定し、前記組成の推定値に基づいて前記原燃料ガス供給装置から供給する前記原燃料ガスの供給量を補正する制御装置と、
を備える燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、
前記検出部は、前記原燃料ガス供給路における前記ポンプの下流側に設置されている、
燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料電池システムであって、
前記制御装置は、前記流量関連値を前記質量流量の推定値で除算した除算値に基づいて前記原燃料ガスの組成として価数を推定し、前記価数の推定値に基づいて前記原燃料ガスの供給量を補正する、
燃料電池システム。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池システムであって、
前記制御装置は、前記圧力センサの検出値に基づく実圧力に対する前記質量流量の推定値に基づいて定まる基準圧力の比と前記除算値とに基づいて前記価数を推定する、
燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1項に記載の燃料電池システムであって、
水を蒸発させて前記改質部へ供給する気化部と、
前記気化部に水を供給する水供給装置を備え、
前記制御装置は、前記原燃料ガスの供給量に応じて前記気化部への水の供給量を制御するものであり、前記流量関連値を前記質量流量の推定値で除算した除算値に基づいて前記原燃料ガスの組成として炭素数を推定し、前記炭素数の推定値に基づいて前記気化部への水の供給量を補正する、
燃料電池システム。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料電池システムであって、
前記制御装置は、前記圧力センサの検出値に基づく実圧力に対する前記質量流量の推定値に基づいて定まる基準圧力の比と前記除算値とに基づいて前記炭素数を推定する、
燃料電池システム。
【請求項7】
請求項1ないし6いずれか1項に記載の燃料電池システムであって、
前記制御装置は、前記流量関連値が所定量以上変化したことに基づいて前記原燃料ガスの組成を推定する処理を行なう、
燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関し、詳しくは燃料電池スタックと改質部とを有する燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の燃料電池システムとしては、燃料電池のカソードの入口側に設置されると共に燃料が供給されて燃焼し燃焼熱を改質器に伝達する起動燃焼バーナと、カソードの排気ガスおよび燃料が供給されて燃焼し燃焼熱を改質器に伝達する改質器燃焼バーナと、起動燃焼バーナの排出口に設けられ燃焼ガス中に含まれる酸素濃度を検出する第1酸素濃度検出手段と、改質器燃焼バーナの排出口に設けられ燃焼ガス中に含まれる酸素濃度を検出する第2酸素濃度検出手段と、改質器に供給される燃料の流量(燃料流量)を検出する燃料流量検出手段と、を備え、燃料流量と酸素濃度とに基づいて燃料組成を推定するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、燃料電池システムにおいて、ガス燃料の供給路に、熱式流量計とガス燃料の組成に依存せずに流量を計測可能な組成非依存流量計と直列に配置し、熱式流量計の計測値と組成非依存流量計の計測値とをそれぞれ積算し、両者が一定以上乖離した場合に、熱式流量計の計測値に対する換算係数を設定し、換算係数に基づいてガス燃料の組成を推定するものも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
さらに、燃料電池システムにおいて、改質器から出力される水素含有ガスの経路に流量計を設置し、流量計により検知された水素含有ガスの生成量が減少した場合には、相対的な低熱量ガスに対応する制御パラメータを設定して原料供給器を運転し、流量計により検知された水素含有ガスの生成量が増加した場合には、相対的な高熱量ガスに対応する制御パラメータを設定して原料供給器を運転するものも提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-20705号公報
【特許文献2】国際公開第2013/111777号
【特許文献3】国際公開第2016/67589号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の燃料電池システムでは、発電用途以外で燃料が使用されることとなり、システム全体の効率が悪化してしまう。特許文献2記載の燃料電池システムでは、熱式流量計の計測値と組成非依存流量計の計測値とをそれぞれ積算するため、組成変化に対するレスポンスが悪く、制御性に悪影響を及ぼす。また、流量計を2つ必要とし、コスト増も招く。特許文献3記載の燃料電池システムでは、熱量変動(組成変動)は検知できるものの、燃料の組成を定量化することができない。
【0007】
本発明の燃料電池システムは、簡易な構成により原燃料ガスの組成を適切に推定してシステムの運転をより安定させることができる燃料電池システムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の燃料電池システムは、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0009】
本発明の燃料電池システムは、
燃料ガスと酸化剤ガスとの反応により発電する燃料電池スタックと、
原燃料ガスを改質して前記燃料ガスを生成する改質部と、
原燃料ガス供給路と、該原燃料ガス供給路に設置されたポンプとを含み、前記ポンプにより前記原燃料ガス供給路を介して前記原燃料ガスを前記改質部へ供給する原燃料ガス供給装置と、
前記原燃料ガス供給路に設置され、該原燃料ガス供給路内の圧力を検出する圧力センサを少なくとも含む検出部と、
前記圧力センサの検出値を含む前記検出部の検出値に基づく流量関連値に基づいて前記原燃料ガス供給路を流れる前記原燃料ガスの質量流量を推定し、前記質量流量の推定値と前記流量関連値とに基づいて前記原燃料ガスの組成を推定し、前記組成の推定値に基づいて前記原燃料ガス供給装置から供給する前記原燃料ガスの供給量を補正する制御装置と、
を備えることを要旨とする。
【0010】
この本発明の燃料電池システムでは、原燃料ガス供給路内の圧力を検出する圧力センサを少なくとも含む検出部の検出値に基づく流量関連値に基づいて原燃料ガス供給路を流れる原燃料ガスの質量流量を推定し、質量流量の推定値と流量関連値とに基づいて原燃料ガスの組成を推定する。これにより、簡易な構成により原燃料ガスの組成を適切に推定することができる。したがって、原燃料ガスの組成の推定値に基づいて原燃料ガス供給装置から供給する原燃料ガスの供給量を補正することで、燃料電池の発電をより安定させることができる。
【0011】
こうした本発明の燃料電池システムにおいて、前記検出部は、前記原燃料ガス供給路における前記ポンプの下流側に設置されてもよい。こうすれば、原燃料ガスの流量関連値をより正確に検出することができる。
【0012】
また、本発明の燃料電池システムにおいて、前記制御装置は、前記流量関連値を前記質量流量の推定値で除算した除算値に基づいて前記原燃料ガスの組成として価数を推定し、前記価数の推定値に基づいて前記原燃料ガスの供給量を補正してもよい。こうすれば、流量関連値に含まれる原燃料ガスの流量に依存する成分と原燃料ガスの組成に依存する成分とのうち流量に依存する成分を除去することができ、原燃料ガスの価数をより正確に推定することができる。この場合、前記制御装置は、前記圧力センサの検出値に基づく実圧力に対する前記質量流量の推定値に基づいて定まる基準圧力の比と前記除算値とに基づいて前記価数を推定してもよい。こうすれば、原燃料ガスに不活性ガスが含まれていても、不活性ガスの含有率に応じた価数の補正が可能となり、原燃料ガスの価数をさらに正確に推定することができる。
【0013】
さらに、本発明の燃料電池システムにおいて、水を蒸発させて前記改質部へ供給する気化部と、前記気化部に水を供給する水供給装置を備え、前記制御装置は、前記原燃料ガスの供給量に応じて前記気化部への水の供給量を制御するものであり、前記流量関連値を前記質量流量の推定値で除算した除算値に基づいて前記原燃料ガスの組成として炭素数を推定し、前記炭素数の推定値に基づいて前記気化部への水の供給量を補正してもよい。こうすれば、流量関連値に含まれる原燃料ガスの流量に依存する成分と原燃料ガスの組成に依存する成分とのうち流量に依存する成分を除去することができ、原燃料ガスの炭素数をより正確に推定することができる。この場合、前記制御装置は、前記圧力センサの検出値に基づく実圧力に対する前記質量流量の推定値に基づいて定まる基準圧力の比と前記除算値とに基づいて前記炭素数を推定してもよい。こうすれば、原燃料ガスに不活性ガスが含まれていても、不活性ガスの含有率に応じた炭素数の補正が可能となり、原燃料ガスの炭素数をさらに正確に推定することができる。
【0014】
また、本発明の燃料電池システムにおいて、前記制御装置は、前記流量関連値が所定量以上変化したことに基づいて前記原燃料ガスの組成を推定する処理を行なってもよい。こうすれば、原燃料ガスの組成変動を適切に監視して、原燃料ガスの組成を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態の燃料電池システムの概略構成図である。
【
図2】流量センサ出力とガス流量との関係を示す説明図である。
【
図3】圧力とガス流量との関係を示す説明図である。
【
図4】制御装置により実行される運転制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【
図5】原燃料ガス中に不活性ガスが含まれている場合と含まれていない場合のそれぞれのVf/Fと価数との関係を示す説明図である。
【
図6】原燃料ガスに不燃成分が含まれている場合と含まれていない場合のそれぞれのP/Fと価数との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、本実施形態の燃料電池システムの概略構成図である。本実施形態の燃料電池システム10は、図示するように、アノードガス(燃料ガス)中の水素とカソードガス(酸化剤ガス)中の酸素との電気化学反応により発電する燃料電池スタック21を含む発電モジュール20と、発電モジュール20にアノードガスの原料となる原燃料ガス(例えば天然ガスやLPガス)を供給する原燃料ガス供給装置30と、発電モジュール20に原燃料ガスからアノードガスへの改質(水蒸気改質)に必要な改質水を供給する改質水供給装置40と、発電モジュール20(燃料電池スタック21)にカソードガスとしてのエアを供給するエア供給装置50と、発電モジュール20において発生した燃焼排ガスの熱(排熱)を回収する排熱回収装置60と、システム全体を制御する制御装置70と、を備える。
【0018】
発電モジュール20は、燃料電池スタック21や、気化器22、改質器23を含み、これらは、断熱性を有するモジュールケース28に収容されている。本実施形態では、発電モジュール20は、モジュールケース28内に配置されたマニホールド24上に設置される。
【0019】
燃料電池スタック21は、酸化ジルコニウム等の電解質と当該電解質を挟持するアノード電極およびカソード電極とをそれぞれ有すると共に
図1中、左右方向(水平方向)に配列された複数の固体酸化物形の単セルを有する。各単セルのアノード電極内には、図示しないアノードガス通路が形成されている。また、各単セルのカソード電極の周囲には、カソードガスを流通させる図示しないカソードガス通路が形成されている。各単セルのアノードガス通路は、マニホールド24に接続され、各単セルのカソードガス通路は、モジュールケース28内のエア通路に接続される。
【0020】
発電モジュール20の気化器22および改質器23は、モジュールケース28内の燃料電池スタック21の上方に配設される。燃料電池スタック21と気化器22および改質器23との間には、燃料電池スタック21の作動や、気化器22および改質器23での反応に必要な熱を発生させる燃焼部25が画成されている。各燃焼部25には、着火ヒータ26が設置されている。
【0021】
気化器22は、燃焼部25からの熱により原燃料ガス供給装置30からの原燃料ガスと改質水供給装置40からの改質水とを加熱し、原燃料ガスを予熱すると共に改質水を蒸発させて水蒸気を生成する。気化器22により予熱された原燃料ガスは、水蒸気と混合され、その混合ガスは、当該気化器22から改質器23に流入する。
【0022】
改質器23は、その内部に充填された例えばRu系またはNi系の改質触媒を有し、燃焼部25からの熱の存在下で、改質触媒による気化器22からの混合ガスの反応(水蒸気改質反応)によって水素ガスと一酸化炭素とを生成する。更に、改質器23は、水蒸気改質反応にて生成された一酸化炭素と水蒸気との反応(一酸化炭素シフト反応)によって水素ガスと二酸化炭素とを生成する。これにより、改質器23によって、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、水蒸気、未改質の原燃料ガス等を含むアノードガスが生成されることになる。改質器23により生成されたアノードガスは、配管やマニホールド24を介して各単セルのアノードガス通路へ流入し、アノード電極に供給される。
【0023】
また、燃料電池スタック21の各単セルのカソード電極には、モジュールケース28内に形成されたエア通路を介してカソードガスとしてのエアが供給される。各単セルのカソード電極では、酸化物イオン(O2-)が生成され、当該酸化物イオンが電解質を透過してアノード電極で水素や一酸化炭素と反応することにより電気エネルギが得られる。各単セルにおいて電気化学反応(発電)に使用されなかったアノードガス(以下、「アノードオフガス」という)およびカソードガス(以下、「カソードオフガス」という)は、各単セルのアノードガス通路やカソードガス通路から上方の燃焼部25へと流出する。
【0024】
各単セルから燃焼部25に流入したアノードオフガスは、水素や一酸化炭素等の燃料成分を含む可燃性ガスであり、各単セルから燃焼部25に流入した酸素を含むカソードオフガスと混合される。以下、アノードオフガスとカソードオフガスとの混合ガスを「オフガス」という。そして、着火ヒータ26により点火させられて燃焼部25でオフガスが着火すると、当該オフガスの燃焼により、燃料電池スタック21の作動や、気化器22での原燃料ガスの予熱や水蒸気の生成、改質器23での水蒸気改質反応等に必要な熱が発生することになる。また、燃焼部25では、未燃燃料や水蒸気を含む燃焼排ガスが生成され、当該燃焼排ガスは、燃焼排ガス中の未燃燃料を再燃焼させるための燃焼触媒を介して熱交換器62へ供給される。
【0025】
原燃料ガス供給装置30は、原燃料ガスを供給する原燃料供給源1と気化器22とを接続する原燃料ガス供給管31と、当該原燃料ガス供給管31に設置された開閉弁32、ガスポンプ33および脱硫器34とを有する。原燃料ガスは、ガスポンプ33を作動させることで、原燃料供給源1から脱硫器34を介して気化器22へと圧送(供給)される。また、原燃料ガス供給管31のガスポンプ33と脱硫器34との間には、原燃料ガス供給管31を流れる原燃料ガスの単位時間当りの流量(燃料供給量Fg)を検出する流量センサ35や、原燃料ガス供給管31内の圧力を検出する圧力センサ36、原燃料ガス供給管31内の温度を検出する温度センサ37が設置されている。なお、脱硫器34として常温脱硫式の脱硫器が用いられる場合、これらのセンサの一部または全部は、当該脱硫器34と発電モジュール20(気化器22)との間に設置されてもよい。
【0026】
流量センサ35は、検出対象の流体の組成に依存性を有する流量計(質量流量計)であり、例えば熱式質量流量計が用いられる。熱式質量流量計は、流体が当該熱式流量計(発熱体)から奪う熱の熱量が当該流体の質量流量と比例することを利用したものであり、検出値(出力電圧)が原燃料ガスの質量流量と比例するため(
図2参照)、検出値(出力電圧)に基づいて質量流量を計測することができる。ただし、流体が奪う熱の熱量は流体の組成によって変わり、流量センサ35の検出値には、質量流量に比例する成分と、原燃料ガスの組成に依存する成分とが含まれる。したがって、流量センサ35は、原燃料ガスの組成に合わせた設定が必要となる。圧力センサ36は、本実施形態では、ベルヌーイの定理により原燃料ガスの質量流量が圧力の平方根に比例することを利用して(
図3参照)、原燃料ガスの質量流量を推定するのに用いられる。更に、温度センサ37は、本実施形態では、圧力センサ36の検出値を温度補正(0℃補正)するのに用いられる。
【0027】
改質水供給装置40は、改質水を貯留する改質水タンク42と、改質水タンク42と気化器22とを接続する改質水供給管41と、改質水供給管41に設置された改質水ポンプ43とを有する。改質水ポンプ43を作動させることで、改質水タンク42内の改質水は、当該改質水ポンプ43により気化器22へと圧送(供給)される。
【0028】
エア供給装置50は、モジュールケース28内に形成されたエア通路に接続されるエア供給管51と、エア供給管51の入口に設けられたエアフィルタと、エア供給管51に設置されたエアポンプ53とを有する。エアポンプ53を作動させることで、カソードガスとしてのエアは、エアフィルタ52を介してエア供給管51に吸引され、モジュールケース28内のエア通路を経て各燃料電池スタック21(カソード電極)へと圧送(供給)される。
【0029】
排熱回収装置60は、湯水を貯留する貯湯タンク61と、発電モジュール20の燃焼部25で生成された燃焼排ガスと湯水とを熱交換する熱交換器62と、貯湯タンク61と熱交換器62とを接続する循環配管63と、循環配管63に組み込まれた循環ポンプ64と、を有する。循環ポンプ64を作動させることで、貯湯タンク61内に貯留されている湯水は、熱交換器62へと導入され、熱交換器62で燃焼排ガスとの熱交換によって昇温させられた後、貯湯タンク61へと返送される。
【0030】
また、排熱回収装置60の熱交換器62は、配管65を介して改質水タンク42と接続されており、燃焼排ガス中の水蒸気が貯湯タンク61からの湯水との熱交換により凝縮することにより得られた凝縮水は、当該配管65を介して改質水タンク42内へと導入される。更に、熱交換器62の燃焼排ガスの通路は、燃焼排ガス排出管66に接続されている。これにより、熱交換器62で燃焼排ガスから水分が除去された排ガスは、燃焼排ガス排出管66を介して大気中に排出される。
【0031】
制御装置70は、CPUやROM,RAMを有するマイクロプロセッサとして構成される。制御装置70には、流量センサ35や圧力センサ36、温度センサ37などからの各種検出信号が入力ポートを介して入力されている。また、制御装置80からは、開閉弁32のソレノイド、ガスポンプ33のポンプモータ、改質水ポンプ43のポンプモータ、エアポンプ53のポンプモータ、循環ポンプ64のポンプモータ、着火ヒータ26などへの各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。
【0032】
次に、こうして構成された本実施形態の燃料電池システム10の発電動作について説明する。
【0033】
本実施形態の燃料電池システム10では、要求される発電出力に応じた目標電流Itagが燃料電池スタック21から出力されるように原燃料ガス、改質水およびエア(空気)の供給量を制御することにより発電動作を行なう。原燃料ガスの供給量の制御は、目標電流Itagに基づいて燃料利用率Ufが比較的高い目標利用率Uftagとなるように次式(1)により目標燃料供給量Fgtagを設定し、流量センサ35により検出される燃料供給量Fgが設定した目標燃料供給量Fgtagに一致するようにガスポンプ33を制御することにより行なわれる。式(1)中、「S」は燃料電池スタック21のセル数であり、「22.4」は0℃、1気圧での1モルの気体の体積であり、「60」は時間[sec]であり、「V」はイオン価数であり、「96485」はファラデー定数[C/mol]である。改質水の供給量の制御は、改質器23におけるスチームカーボン比SC(原燃料ガス中の炭化水素に含まれる炭素と水蒸気改質のために添加される水蒸気とのモル比)が目標比SCtagとなるように次式(2)により目標水供給量Fwtagを設定し、設定した目標水供給量Fwtagの改質水が供給されるように改質水ポンプ43を制御することにより行なわれる。式(2)中、「C」は原燃料ガス中の炭化水素の炭素原子数(炭素数)であり、「22.4」は0℃、1気圧での1モルの気体(水蒸気)の体積であり、「18」は水の分子量である。エアの供給量の制御は、エア利用率Uaが目標利用率Uatagとなるように目標エア流量Fatagを設定し、設定した目標エア流量Fatagのエアが供給されるようにエアポンプ53を制御することにより行なわれる。
【0034】
【0035】
このように、目標利用率Uftagに基づいて目標燃料供給量Fgtagを設定して原燃料ガスの供給量を制御する場合において、目標利用率Uftagをできる限り高くすることで、燃料電池システム10の発電効率をより向上させることができる。しかし、式(1)および式(2)において、価数Vや炭素数Cを予め想定された燃料組成により一律に定めると、燃料の熱量変動(組成変動)が生じた際には、燃料利用率Ufやスチームカーボン比SCが大きく変動し、燃料電池システム10に異常(燃料電池スタック21の故障)が生じるおそれがある。こうした問題は、熱量バンド制等により燃料の熱量(組成)が断続的に変動し続けている地域において、大きくクローズアップされることとなる。
【0036】
そこで、本実施形態の燃料電池システム10では、燃料の熱量変動に伴う燃料利用率Ufの変動やスチームカーボン比SCの変動を抑制して燃料電池システム10の運転を安定化させるために、燃料の熱量変動(組成変動)を監視することとし、熱量変動を検出した際には、変動後の燃料の価数Vや炭素数Cを推定して目標燃料供給量Fgtagの設定や目標水供給量Fwtagの設定に反映させることとしている。以下、燃料の価数Vや炭素数Cの推定の詳細について説明する。
【0037】
図4は、制御装置70により実行される運転制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、燃料電池システム10が一定の条件で運転(発電)中に所定時間毎に繰り返し実行される。なお、一定の条件には、燃料電池システム10の発電が安定している状態、例えば燃料電池システム10が定格出力で発電している状態等を挙げることができる。
【0038】
運転制御ルーチンが実行されると、制御装置70のCPUは、まず、流量センサ35により検出される流量(出力電圧)を取得し、取得した流量の移動平均である流量移動平均Vfを流量関連値として算出する(ステップS100)。続いて、圧力センサ36からの圧力(出力電圧)を取得し、取得した圧力に基づく移動平均である圧力移動平均Pを流量関連値として算出する(ステップS110)。ステップS100,S110において、流量および圧力の取得は、本実施形態では、流量センサ35および圧力センサ36からそれぞれ出力される出力電圧を直接取得することにより行なわれる。また、ステップS110において、圧力移動平均Pの算出は、本実施形態では、圧力センサ36により検出される圧力を温度センサ37により検出される温度により0℃換算(0℃補正)し、0℃換算圧力の平方根を算出し、平方根の移動平均を算出することにより行なわれる。なお、精度は若干落ちるものの、0℃補正や平方根の算出を省略し、圧力の移動平均を直接算出するようにしてもよい。また、平方根の算出を省略し、0℃換算圧力の移動平均を算出するようにしてもよい。
【0039】
次に、流量関連値としての流量移動平均Vfが所定量ΔVref以上変動したか否か、流量関連値としての圧力移動平均Pが所定量ΔPref以上変動したか否かをそれぞれ判定する(ステップS120)。ここで、所定量ΔVrefや所定量ΔPrefは、燃料の熱量(組成)に変化が生じたか否かを判定するための閾値であり、予め実験的に求めた値が定められる。流量移動平均Vfが所定量ΔPref以上変動しておらず、且つ、圧力移動平均Pも所定量ΔPref以上変動していないと判定すると、燃料の熱量変動(組成変動)は生じていないと判断し、これまでの運転制御を継続して(ステップS130)、運転制御ルーチンを終了する。
【0040】
一方、流量移動平均Vfが所定量ΔVref以上変動したと判定したり、圧力移動平均Pが所定量ΔPref以上変動したと判定すると、燃料の熱量変動(組成変動)が生じたと判断し、燃料の組成としての価数Vおよび炭素数Cを推定するために、以下の処理を行なう。すなわち、まず、ステップS100およびS110で算出した流量移動平均Vfおよび圧力移動平均Pに基づいて次式(3)により原燃料ガスの実質量流量Fを算出する(ステップS140)。式(3)中、「a」,「b」は係数であり、「c」は定数である。続いて、算出した実質量流量Fと流量移動平均Vfおよび圧力移動平均Pとに基づいて次式(4)により原燃料ガスの組成に対応した暫定価数Vを算出すると共に(ステップS150)、実質量流量Fと流量移動平均Vfおよび圧力移動平均Pとに基づいて次式(5)により原燃料ガスの組成に対応した暫定炭素数Cを算出する(ステップS160)。式(4)中、「d」,「e」は係数であり、「f」は定数である。また、式(5)中、「g」,「h」は係数であり、「i」は定数である。上述したように流量センサ35は検出対象の流体の組成に対して依存性を有するため、ステップS140により算出される実質量流量Fには、原燃料ガスの質量流量に対応する成分と原燃料ガスの組成(価数,炭素数)に対応する成分とが含まれ、当該実質量流量Fは、両成分の積によりあらわされる。したがって、原燃料ガスの質量流量に対応する流量移動平均Vfおよび圧力移動平均Pをそれぞれ実質量流量Fで除算することにより、得られる除算値Vf/F,P/Fから原燃料ガスの質量流量による影響を除去することができ、除算値Vf/F,P/Fに基づいて原燃料ガスの組成(価数,炭素数)を推定することができる。
【0041】
【0042】
次に、実質量流量F、流量移動平均Vfおよび圧力移動平均Pに基づいて次式(6)により圧力係数Kを算出する(ステップS170)。式(6)中、「j」,「k」は係数であり、「m」は定数である。そして、算出した圧力係数KとステップS150で算出した暫定価数Vとに基づいて次式(7)により補正後の価数V’を算出すると共に(ステップS180)、算出した圧力係数KとステップS160で算出した暫定炭素数Cとに基づいて次式(8)により補正後の炭素数C’を算出する(ステップS190)。圧力係数Kは、原燃料ガス(混合ガス)中に窒素等の不活性ガス(不燃性ガス)が含まれている場合に当該不活性ガスの含有率に応じて暫定価数Vや暫定炭素数Cを補正するための補正係数であり、実圧力(圧力移動平均P)に対する原燃料ガスに不活性ガスが含まないものとして換算した基準圧力P’の比(P’/P)として算出される。なお、実圧力(圧力移動平均P)は、0℃換算圧力の移動平均が用いられてもよい。基準圧力P’は、式(6)中、分子部分であり、実質量流量Fと流量移動平均Vfとに基づいて求められる。原燃料ガスの価数は、
図5および
図6に示すように、原燃料ガス中に窒素等の不活性ガスが含まれている場合には(図中、一点鎖線参照)、不活性ガスが含まれていない場合(図中、実線参照)に比して、小さくなる。同様に、原燃料ガスの炭素数は、原燃料ガス中に窒素等の不活性ガスが含まれている場合には、不活性ガスが含まれていない場合に比して、小さくなる。更に、こうした原燃料ガスの価数や炭素数は、当該原燃料ガス中の不活性ガスの含有率が高いほど小さくなる。こうした関係を踏まえて、不活性ガスの含有率に対応する圧力係数Kを算出し、当該圧力係数Kに応じて暫定価数Vや暫定炭素数Cを補正することにより、より正確な価数V’や炭素数C’を推定することができる。
【0043】
【0044】
ここで、式(3)-(6)の演算式に用いられる係数a,b,d,e,g,h,j,k並びに定数c,f,i,mは、任意のパラメータとすることができ、例えば流量移動平均Vfや圧力移動平均P等を説明変数とし、それぞれ実質量流量F、暫定価数V、暫定炭素数C、圧力係数Kを目的変数とした重回帰分析により求めた回帰式により設定することができる。強い相関を示すセンサ出力を説明変数として使用することにより、実質量流量F等をより正確に推定することができる。なお、回帰手法は任意の手法を用いることができる。
【0045】
こうして価数V’と炭素数C’とを算出すると、算出した価数V’を上述した目標燃料供給量Fgtagを演算するための式(1)の「V」に代入して、目標燃料供給量Fgtagを算出することにより、燃料供給量を補正する(ステップS200)。更に、算出した炭素数V’を上述した目標水供給量Fwtagを演算するための式(2)の「C」に代入して、目標水供給量Fwtagを算出することにより、水供給量を補正して(ステップS210)、本ルーチンを終了する。
【0046】
以上説明した本実施形態の燃料電池システム10では、原燃料ガス供給管31に設置された圧力センサ36の検出値に基づく圧力移動平均P(流量関連値)等に基づいて原燃料ガス供給管31を流れる原燃料ガスの実質量流量Fを推定し、実質量流量Fと圧力移動平均P(流量関連値)等に基づいて原燃料ガスの組成(価数,炭素数)を推定する。これにより、簡易な構成により原燃料ガスの組成を適切に推定することができる。したがって、原燃料ガスの価数に基づいて原燃料ガス供給装置30から供給する原燃料ガスの供給量を補正することで、原燃料ガスの組成変動に伴う燃料利用率Ufの変動を抑制することができる。また、原燃料ガスの炭素数に基づいて改質水供給装置40から供給する改質水の供給量を補正することで、原燃料ガスの組成変動に伴うスチームカーボン比SCの変動を抑制することができる。これらの結果、燃料電池システム10の運転を安定させることができる。
【0047】
また、本実施形態の燃料電池システム10では、圧力移動平均P(流量関連値)を実質量流量Fで除算した除算値P/F等に基づいて原燃料ガスの価数を推定し、価数の推定値に基づいて原燃料ガスの供給量を補正する。これにより、圧力移動平均P(流量関連値)等に含まれる原燃料ガスの流量に依存する成分を、実質量流量Fによって除去することができ、原燃料ガスの価数をより正確に推定することができる。更に、実圧力(圧力移動平均P)に対する原燃料ガス中に不活性ガスが含まれない場合の基準圧力P’の比に基づいて価数を補正する。これにより、原燃料ガスに不活性ガスが含まれていても、不活性ガスの含有率に応じた価数の補正が可能となり、原燃料ガスの価数をさらに正確に推定することができる。
【0048】
また、本実施形態の燃料電池システム10では、圧力移動平均P(流量関連値)を実質量流量Fで除算した除算値P/F等に基づいて原燃料ガスの炭素数を推定し、炭素数の推定値に基づいて改質水の供給量を補正する。これにより、圧力移動平均P(流量関連値)等に含まれる原燃料ガスの流量に依存する成分を、実質量流量Fによって除去することができ、原燃料ガスの炭素数をより正確に推定することができる。更に、実圧力(圧力移動平均P)に対する原燃料ガス中に不活性ガスが含まれない場合の基準圧力P’の比に基づいて炭素数を補正する。これにより、原燃料ガスに不活性ガスが含まれていても、不活性ガスの含有率に応じた炭素数の補正が可能となり、原燃料ガスの炭素数をさらに正確に推定することができる。
【0049】
本実施形態では、原燃料ガスの組成の推定に用いるセンサとして、流量センサ35と圧力センサ36と温度センサ37とを備えるものとしたが、少なくとも圧力センサ36を備えるものであればよく、流量センサ35や温度センサ37を省略してもよい。なお、流量センサ35を原燃料ガスの組成の推定に用いない場合、ステップS100の処理を省略すると共に、式(3)-(6)において流量移動平均Vfを含む項を省略すればよい。また、原燃料ガスの流量と組成とに依存した検出値を出力するものであれば、例えばCOセンサ等の他のセンサを用いてもよい。
【0050】
実施形態の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施形態では、燃料電池スタック21が「燃料電池スタック」に相当し、改質器23が「改質部」に相当し、原燃料ガス供給管31が「原燃料ガス供給路」に相当し、ガスポンプ33が「ポンプ」に相当し、原燃料ガス供給装置30が「原燃料ガス供給装置」に相当し、流量センサ35と圧力センサ36と温度センサ37とが「検出部」に相当し、制御装置70が「制御装置」に相当する。また、気化器22が「気化部」に相当し、改質水供給装置40が「水供給装置」に相当する。なお、実施形態の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施形態が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施形態は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0051】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、燃料電池システムの製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 原燃料供給源、10 燃料電池システム、20 発電モジュール、21 燃料電池スタック、22 気化器、23 改質器、24 マニホールド、25 燃焼部、26 着火ヒータ、28 モジュールケース、30 原燃料ガス供給装置、31 原燃料ガス供給管、32 開閉弁、33 ガスポンプ、34 脱硫器、35 流量センサ、36 圧力センサ、37 温度センサ、40 改質水供給装置、41 改質水供給管、42 改質水タンク、43 改質水ポンプ、50 エア供給装置、51 エア供給管、52 エアポンプ、60 排熱回収装置、61 貯湯タンク、62 熱交換器、63 循環配管、64 循環ポンプ、65 配管、66 燃焼排ガス排出管、70 制御装置。