(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150880
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】カテーテル及びカテーテルの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 25/00 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
A61M25/00 620
A61M25/00 504
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053675
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】亀岡 浩二
(72)【発明者】
【氏名】森 好弘
(72)【発明者】
【氏名】日下部 瑛美
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA01
4C267BB15
4C267BB40
4C267BB47
4C267CC08
4C267FF01
4C267HH01
(57)【要約】
【課題】カテーテル及びカテーテルの製造方法において、レーザ溶接により編組体を交差部で接合する場合に、各素線の切断を防止すると共に、2つの素線の接合強度を高くすることである。
【解決手段】カテーテルは、軸方向Lに対し傾斜して巻回される金属製の第1組の素線17と、軸方向に対し傾斜して巻回され、第1組の素線と複数の交差部19で交差する金属製の第2組の素線18とを有する筒状の編組体16を含む。複数の交差部の少なくとも一部の交差部において、外周側から見た場合の4つの角P1a、P2,P3、P4のうち、1つの角を含む角領域に形成された溶接部36によって、2つの素線17,18が溶接される。溶接部36は、内周側の素線について、外周側から見た場合の幅方向一部のみに形成される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に対し傾斜して巻回される金属製の第1組の素線と、前記軸方向に対し傾斜して巻回され、前記第1組の素線と複数の交差部で交差する金属製の第2組の素線とを含む筒状の編組体を備えるカテーテルであって、
前記複数の交差部の少なくとも一部の前記交差部において、外周側から見た場合の4つの角のうち、1つの角を含む角領域に形成された溶接部によって、2つの前記素線が溶接され、
前記溶接部は、内周側の前記素線について、外周側から見た場合の幅方向一部のみに形成される、
カテーテル。
【請求項2】
請求項1に記載のカテーテルにおいて、
前記角領域は、前記一部の交差部の、外周側の前記素線の4つの角のうち、1つの前記角を含む外周側角部分と、内周側の前記素線において前記外周側角部分と径方向及び長手方向の少なくとも一方に隣接した部分とにより形成される、
カテーテル。
【請求項3】
請求項1に記載のカテーテルにおいて、
前記角領域は、前記一部の交差部について、前記2つの素線により鈍角が形成される部分にある、
カテーテル。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のカテーテルにおいて、
前記一部の交差部は、前記複数の交差部のうち、前記編組体の切断部を有する先端の近傍に配置された最先端の交差部を含んでいる、
カテーテル。
【請求項5】
軸方向に対し傾斜して巻回される金属製の第1組の素線と、前記軸方向に対し傾斜して巻回され、前記第1組の素線と複数の交差部で交差する金属製の第2組の素線とを含む筒状の編組体を備えるカテーテルの製造方法であって、
前記複数の交差部の少なくとも一部の前記交差部において、外周側から見た場合の4つの角のうち、1つの角を含む角領域にレーザ光を照射して、前記角領域を溶融し凝固させて溶接部を形成することにより、2つの前記素線を溶接する溶接工程であって、
前記溶接部は、内周側の前記素線について、外周側から見た場合の幅方向一部のみに形成される、
カテーテルの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のカテーテルの製造方法において、
前記角領域は、前記一部の交差部の、外周側の前記素線の4つの角のうち、1つの前記角を含む外周側角部分と、内周側の前記素線において前記外周側角部分と径方向及び長手方向の少なくとも一方に隣接した部分とにより形成される、
カテーテル。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載のカテーテルの製造方法において、
前記角領域は、前記一部の交差部について、前記2つの素線により鈍角が形成される部分にある、
カテーテルの製造方法。
【請求項8】
請求項5から請求項7のいずれか1項に記載のカテーテルの製造方法において、
前記一部の交差部は、前記複数の交差部のうち、前記編組体の切断部を有する先端の近傍に配置された最先端の交差部を含んでおり、
前記溶接工程で前記一部の交差部において2つの前記素線を溶接した後に、前記切断部を形成するように、前記2つの素線の一方または両方をレーザ光の照射によって切断する切断工程を含む、
カテーテルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテル及びカテーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、血管等の体内の管状器官に挿入するためにカテーテルが用いられる。カテーテルには、内層と、内層の外周側に設けられた編組体と、編組体の外周側に設けられた外層とを含む構造や、内層がなく、外層の内周側に編組体が設けられた構造がある。編組体は、補強材としての機能を有し、タングステンやステンレス鋼などからなる金属製の素線を編み込むことで形成される。編組体は、軸方向に対し傾斜して巻回される複数の第1組の素線と、軸方向に対し傾斜して巻回され、第1組の素線に交差する複数の第2組の素線とから構成される。特許文献1には、内層と外層との間に編組体を設けたカテーテルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、編組体において、金属製の素線は剛性が高いので、2つの素線が交差部で互いに周方向へ離れたり、位置ずれしたりする可能性がある。このために、交差部で編組体の外周側に位置する素線と内周側に位置する素線とをその交差部で溶接する場合がある。その溶接の方法として、外周側の素線の一側部または両側部にレーザ光を照射してその側部を溶融させ、そのレーザ光の照射エネルギを、溶融凝固した部分を通じて内周側の素線に浸透させることにより、外周側、内周側の2つの素線を接合する隅肉溶接を行うことが考えられる。
【0005】
しかしながらこのような隅肉溶接で2つの素線を接合する場合には、外側の素線の一側部または両側部にレーザ光を照射して溶融させる際に、レーザ光の照射部の幅が内周側の素線の幅全体に及ぶので、内周側の素線の幅方向のほぼ全体が、レーザ光の照射エネルギによって溶融する可能性がある。また、内周側の素線の溶融深さが大きくなった場合には、内周側の素線が切断されてしまう可能性がある。このとき、レーザ光の照射エネルギを小さくすることも考えられるが、外周側の素線の溶融が不十分となって、2つの素線の接合強度が低くなることにより、2つの素線が十分に接合されない可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、レーザ溶接により編組体を形成する各素線をその交差部で接合する場合に、各素線の切断を回避しつつ、複数の素線の接合強度を高くすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るカテーテルは、軸方向に対し傾斜して巻回される金属製の第1組の素線と、前記軸方向に対し傾斜して巻回され、前記第1組の素線と複数の交差部で交差する金属製の第2組の素線とを含む筒状の編組体を備えるカテーテルであって、前記複数の交差部の少なくとも一部の前記交差部において、外周側から見た場合の4つの角のうち、1つの角を含む角領域に形成された溶接部によって、2つの前記素線が溶接され、前記溶接部は、内周側の前記素線について、外周側から見た場合の幅方向一部のみに形成される、カテーテルである。
【0008】
上記構成によれば、溶接部をレーザ光の照射によって形成する場合に、レーザ光の照射エネルギが、交差部に隣接した内周側の素線の幅方向全体に及ぶことを防止できる。これにより、レーザ溶接により編組体を交差部で接合する場合に、内周側、及び外周側の2つの素線のそれぞれが切断されることを防止でき、素線の幅や厚さを大きくするなどの配慮をする必要がない。また、レーザ光の照射エネルギの設定範囲やレーザ光を照射する範囲をより自由度をもって設定でき、レーザ光の照射エネルギを高くすることもできるので、複数の素線の接合強度を高くできる。
【0009】
本発明に係るカテーテルにおいて、前記角領域は、前記一部の交差部の、外周側の前記素線の4つの角のうち、1つの前記角を含む外周側角部分と、内周側の前記素線において前記外周側角部分と径方向及び長手方向の少なくとも一方に隣接した部分とにより形成される構成とすることができる。
【0010】
本発明に係るカテーテルにおいて、前記角領域は、前記一部の交差部について、前記2つの素線により鈍角が形成される部分にある構成とすることができる。
【0011】
上記構成によれば、角領域が、交差部で2つの素線により鋭角が形成される部分にある場合に比べて、より自由度をもってレーザ光の照射範囲や照射位置を設定できる。また、これにより、各素線がレーザ光によりダメージを受ける範囲を小さくしやすくなる。
【0012】
本発明に係るカテーテルにおいて、前記一部の交差部は、前記複数の交差部のうち、前記編組体の切断部を有する先端の近傍に配置された最先端の交差部を含んでいる構成とすることができる。
【0013】
上記構成によれば、編組体の切断部を有する先端近傍の最先端の交差部では、2つの素線がより離れやすく、位置ずれしやすくなるのにもかかわらず、その2つの素線を高い接合強度で溶接できる。これにより、2つの素線を交差部で溶接することで得られる効果がより顕著になる。
【0014】
本発明に係るカテーテルの製造方法は、軸方向に対し傾斜して巻回される金属製の第1組の素線と、前記軸方向に対し傾斜して巻回され、前記第1組の素線と複数の交差部で交差する金属製の第2組の素線とを含む筒状の編組体を備えるカテーテルの製造方法であって、前記複数の交差部の少なくとも一部の前記交差部において、外周側から見た場合の4つの角のうち、1つの角を含む角領域にレーザ光を照射して、前記角領域を溶融し凝固させて溶接部を形成することにより、2つの前記素線を溶接する溶接工程であって、前記溶接部は、内周側の前記素線について、外周側から見た場合の幅方向一部のみに形成される、カテーテルの製造方法である。
【0015】
上記構成によれば、溶接部を形成するためのレーザ光の照射エネルギが、交差部に隣接した内周側の素線の幅方向全体に及ぶことを防止できる。これにより、レーザ溶接により編組体を交差部で接合する場合に、内周側、及び外周側の2つの素線のそれぞれが切断されることを防止でき、素線の幅や厚さを大きくするなどの配慮をする必要がない。また、レーザ光の照射エネルギの設定範囲やレーザ光を照射する範囲をより自由度をもって設定でき、レーザ光の照射エネルギを高くすることもできるので、複数の素線の接合強度を高くできる。さらに、1つの交差部に対して溶接作業を少なくとも1回に済ませることができる。
【0016】
本発明に係るカテーテルの製造方法において、前記角領域は、前記一部の交差部の、外周側の前記素線の4つの角のうち、1つの前記角を含む外周側角部分と、内周側の前記素線において前記外周側角部分と径方向及び長手方向の少なくとも一方に隣接した部分とにより形成される構成とすることができる。
【0017】
本発明に係るカテーテルの製造方法において、前記角領域は、前記一部の交差部について、前記2つの素線により鈍角が形成される部分にある構成とすることができる。
【0018】
上記構成によれば、角領域が、交差部で2つの素線により鋭角が形成される部分にある場合に比べて、より自由度をもってレーザ光の照射範囲や照射位置を設定できる。これにより、各素線がレーザ光によりダメージを受ける範囲を小さくしやすくなる。
【0019】
本発明に係るカテーテルの製造方法において、前記一部の交差部は、前記複数の交差部のうち、前記編組体の切断部を有する先端の近傍に配置された最先端の交差部を含んでおり、前記溶接工程で前記一部の交差部において2つの前記素線を溶接した後に、前記切断部を形成するように、前記2つの素線の一方または両方をレーザ光の照射によって切断する切断工程を含む構成とすることができる。
【0020】
上記構成によれば、編組体の切断部を有する先端近傍の最先端の交差部では、2つの素線がより離れやすく、位置ずれしやすくなるのにもかかわらず、その2つの素線を高い接合強度で溶接できる。これにより、2つの素線を交差部で溶接することで得られる効果がより顕著になる。さらに、溶接工程の後に切断工程を行うことで、切断によって外周側の素線が内周側の素線から離れることを防止できると共に、2つの素線の切断の順序が制限されることがない。これにより、切断作業の容易化を図れる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るカテーテル及びカテーテルの製造方法によれば、レーザ溶接により編組体を形成する各素線をその交差部で接合する場合に、各素線の切断を回避しつつ、複数の素線の接合強度を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態の一例のカテーテルの使用状態を示す図である。
【
図3】
図2に示すカテーテルにおいて、ディスタルシャフトの外層の一部を剥がした状態を示す斜視図である。
【
図5】実施形態のカテーテルの製造方法において、(a)は編組体の切断工程前の溶接部と切断予定線とを示す模式図であり、(b)は切断後の編組体の先端部を示す模式図である。
【
図6】(a)は、
図4に対応する模式図であって、編組体に溶接部を形成する前の照射部分を示す図であり、(b)は(a)の照射部分を含む交差部の拡大図である。
【
図7】比較例の第1例において、
図6(a)に対応する図である。
【
図8】実施形態の別例において、
図4に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。以下で説明する実施形態はあくまでも一例であって、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0024】
図1~
図6を用いて、実施形態の一例のカテーテルであるガイドエクステンションカテーテル10を説明する。
図1に示すように、ガイドエクステンションカテーテル10は、例えばガイディングカテーテル100からの導出部を冠動脈102に挿入し、その導出部の遠位端Pからステントデリバリカテーテル106を導出させて使用する。
図1では、ガイディングカテーテル100を黒色で塗りつぶした部分により示している。以下、ガイドエクステンションカテーテル10は、カテーテル10と記載する。カテーテル10は、
図1に示すような状態で使用されるので、その遠位端Pには、血管等の器官に挿入しやすいように柔軟性が求められる。
【0025】
図2は、カテーテル10の全体図である。カテーテル10は、長尺部材であり、筒状のディスタルシャフト12と、ディスタルシャフト12の近位端部に接続され、金属線からなるプロキシマルシャフト50とを含んで構成される。プロキシマルシャフト50の遠位端は、ディスタルシャフト12の外周面の周方向一部に接続されている。なお、プロキシマルシャフト50の遠位端は、ディスタルシャフトの外周面に接続するものに限定せず、例えばディスタルシャフト12の後述の内層14と外層30との間に配置されてもよい。また、本実施形態において、「近位端側」とはカテーテル10が血管に挿入される向きに対して後側(
図2における左側)をいう。また、「遠位端側」は、カテーテル10が血管に挿入される向きに対して前側(
図2における右側)をいう。
【0026】
図3は、カテーテル10において、ディスタルシャフト12の外層30の一部を剥がした状態を示す斜視図である。ディスタルシャフト12は、樹脂からなる内層14と、内層14の外周に設けられた編組体16と、編組体16の外周に設けられ、樹脂を有する外層30とを含む。
【0027】
内層14は、内部に他のカテーテルを挿入するためのルーメン15を形成する。内層14を構成する樹脂材料は特に限定されないが、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが用いられる。内層14は、単層チューブである場合に限定せず、同じまたは異なる材料からなる多層チューブとしてもよい。
【0028】
編組体16は、第1組の素線17及び第2組の素線18が網目状に編みこまれた筒状体である。具体的には、第1組の素線17は、カテーテル10の軸方向Lに対し第1方向に沿って傾斜して、内層14の外側に巻回された複数の金属製の素線17により形成される。また、第2組の素線18は、カテーテル10の軸方向Lに対し第1方向とは異なる第2方向に沿って傾斜して、内層14の外側に巻回され、第1組の素線17と複数の交差部19で交差する複数の金属製の素線18により形成される。
【0029】
第1組及び第2組の素線17,18のそれぞれは、タングステン、ステンレス鋼などの金属線である。各素線17,18の、長手方向に対し直交する断面の形状は矩形である。
【0030】
外層30は、内層14及び編組体16の外周を被覆する。これにより、外層30は、編組体16の外周に設けられる。外層30を構成する樹脂材料は特に限定されないが、例えばポリエーテルブロックアミド(PEBA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリウレタン(PU)、ナイロンエラストマー、ポリエステルエラストマー、エチレン-酢酸ビニル樹脂(EVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)などで形成される。例えば、外層30を構成する樹脂として、アルケマ社製のPebax(登録商標)が用いられてもよい。外層30の外周面には、好ましくは、ヒアルロン酸、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアルキルエーテル及び無水マレイン酸共重合体(VEMA)などの親水性コートが施される。例えば、親水性コートは、外層30の遠位端Pから長手方向中間部の所定位置までの部分のみに施されてもよい。外層30は、単層チューブである場合に限定せず、同じまたは異なる材料からなる多層チューブとしてもよい。また、外層30は、長手方向の複数の部分で硬度を異ならせてもよい。例えば、外層30を遠位端部と、中間部と、近位端部とで分けた場合に、遠位端部を形成する樹脂の硬度を最も低くし、近位端部を形成する樹脂の硬度を最も高くし、中間部を形成する樹脂の硬度を、遠位端部と近位端部との樹脂の硬度の中間とすることができる。これにより、外層30の遠位端が柔らかくなるので血管の傷つきを防止でき、かつ血管追従性がよくなる。さらに、外層30の近位端が硬くなることで、プッシャビリティを確保できる。さらに、中間部の硬さを遠位端と近位端との中間の硬さとすることで、遠位端と近位端との硬度差が大きい場合でも、中間で折れにくくすることができる。
【0031】
さらに、ディスタルシャフト12の遠位端部には、外層30の一部により形成され、樹脂中にX線不透過の金属粉末が混入された先端チップ31(
図2)が設けられる。
図2では、先端チップ31を、ディスタルシャフト12の先端部の砂地部で示している。例えば金属粉末として、酸化ビスマス(Bi)、タングステン(W)、硫酸バリウムなどが用いられる。このように先端チップ31が、外層30の樹脂にX線不透過の金属粉末が混入されて構成されることにより、ディスタルシャフト12の先端部の柔軟性を確保しつつ、X線透視下でディスタルシャフト12の遠位端位置を、手技者が認識しやすくなる。
【0032】
2つの素線17,18は、複数の交差部19の少なくとも一部の交差部19において、1つの角領域に形成された溶接部で溶接されている。これについて、
図4~
図6を用いてより具体的に説明する。以下では、ディスタルシャフト12の遠位端側に位置する編組体16の先端部を中心に説明する。
【0033】
図4は、
図3のA部拡大図である。
図4の例では、ディスタルシャフト12の遠位端側に位置する編組体16の先端部にある複数の交差部19のうち、切断部20を有する先端付近に位置する最先端の交差部19において、2つの素線17,18が溶接されている。最先端の交差部19は、編組体16の先端付近の周方向複数位置に複数個が存在する。編組体16は、第1組の隣り合う2つの素線17と第2組の隣り合う2つの素線18とが組み合わされた部分によって、略菱形の網目孔を形成する。さらに、各交差部19の周りには、2つの素線17,18によって、互いに対角となる2つの鈍角(
図4の角度E1,E2)と、互いに対角となる2つの鋭角(
図4の角度E3,E4)とが形成される。
【0034】
2つの素線17,18は、最先端の交差部19で溶接部36によって接合されている。具体的には、例えば
図4の上下方向中間部の最先端の交差部19で示すように、外周側の素線17の4つの角P1a,P2,P3,P4のうち、第1角P1aを含む角領域に溶接部36が形成される。角領域は、最先端の交差部19の、外周側の素線17の4つの角P1a,P2,P3,P4のうち、第1角P1aを含む外周側角部分と、内周側の素線18において外周側角部分と径方向及び長手方向の少なくとも一方に隣接した部分とにより形成される。後述の
図6(b)では、溶接部36の形成前の状態で、第1角P1aを含む外周側角部分を横縞部Q1で示しており、内周側の素線18において外周側角部分と長手方向に隣接した部分を縦縞部Q2で示している。
図4では砂地部によって溶接部36を示している。溶接部36は、外周側角部分と内周側の素線18の外周側角部分に隣接した部分とが溶融し、それらが混じり合って固化している。この溶接部36によって、2つの素線17,18が溶接されている。さらに、溶接部36は、内周側の素線18について、
図4のように外周側から見たときの最先端の交差部19との境界線Mに沿った方向の一部のみに形成され、この境界線Mに沿った方向の全部には形成されない。これにより、内周側の素線18について外周側から見た場合の幅方向一部のみに、溶接部36が形成される。このため、後述のように、レーザ溶接により編組体16を交差部19で接合する場合に、各素線17,18の切断を防止できると共に、2つの素線17,18の接合強度を高くできる。
【0035】
さらに、溶接部36を形成する角領域は、最先端の交差部19について、2つの素線17,18により鈍角E1が形成される部分にある。
【0036】
次に、
図5~
図6を用いてカテーテル10の製造方法を説明する。
図5は、実施形態のカテーテルの製造方法において、(a)は編組体16の切断工程前の溶接部と切断予定線とを示す模式図であり、(b)は切断後の編組体16の先端部を示す模式図である。
図6(a)は、
図4に対応する模式図であって、編組体16に溶接部を形成する前の照射部分38を示す図であり、
図6(b)は、
図6(a)の照射部分38を含む交差部19の拡大図である。
【0037】
まず、内層14の外周面である円筒面14aに編組体16を配置する「配置工程」を行う。このとき、内層14は、金属芯線上、またはジグを構成する円筒状外周面を有する軸部上に、樹脂材料の押出機等により長尺な円筒状に押出成形されてもよい。編組体16を内層14の外周に配置するために、編組機が用いられてもよい。編組機は、内層14の円筒面14aに、第1組の複数の素線17を内層14の軸方向に対し傾斜した第1の方向に沿って巻回すると共に、第2組の複数の素線18を内層14の軸方向に対し傾斜し、第1の方向と交差する第2の方向に沿って巻回する。このとき、編組体16は、内層14のほぼ先端まで延びるように配置される。
【0038】
次に、「溶接工程」を行う。溶接工程は、
図5(a)に一点鎖線で示す切断予定線の隣である
図5(a)の下側の、周方向に沿って1列に並んだ複数の交差部であって、最先端の交差部となる交差部19にレーザ照射を行うことにより、2つの素線17,18を溶接する。このとき、レーザ照射する交差部19の4つの角のうち、編組体16の軸方向中央側の1つの角を含む角領域に、レーザ光を照射する。
図5(a)(b)では、内側を塗りつぶしていない複数の円により、レーザ光の照射領域を示している。
【0039】
より具体的には、
図6に示すように、レーザ光を照射する前の交差部19は、4つの角P1,P2,P3,P4を有する菱形である。交差部19の4つの角P1,P2,P3,P4のうち、編組体16の軸方向中央側の1つの角P1を含む外周側角部分と、内周側の素線18において外周側角部分とその素線18の長手方向に隣接した部分により形成される照射部分38を照射するように、レーザ光は照射領域(
図6(a)の円H内)に照射される。これにより、2つの素線17,18の照射部分38に含まれる部分と、内周側の素線18であって外周側角部分に径方向に隣接した部分とが溶融し、凝固することにより溶接部36(
図4)が形成され、その溶接部36によって、2つの素線17,18が接合される。このため、溶接部36を形成する角領域は、外周側の素線17において、交差部19の第1角P1aを含む外周側角部分と、内周側の素線18において、外周側角部分と径方向及び長手方向のそれぞれに隣接した部分とによって形成される。もっとも、角領域は、外周側角部分と、内周側の素線18において、外周側角部分と径方向及び長手方向の一方のみに隣接した部分とによって形成されてもよい。
【0040】
上記のようにレーザ光で照射領域を照射するので、外周側の素線17及び内周側の素線18は、それぞれの一部が溶けて液状化した後、凝固することにより一体化される。このとき、本例では、内周側の素線18は幅方向の一部のみが溶融するので、内周側の素線18の切断リスクに配慮する必要がなく、レーザ光の照射エネルギを高く設定して角領域を照射できる。すると、レーザ光を照射された2つの素線17,18の溶融量が増え、溶融した素線17、18が固化して溶接部36を形成する際に、2つの素線17,18が溶接部36で強く接合されやすい。さらに、各素線17,18の溶接部がそれぞれの素線17,18の幅方向全体には及ばないので、各素線17,18が切断されることを防止できる。上記では、外周側に第1組の素線17が配置され、内周側に第2組の素線18が配置される交差部19で、2つの素線17,18を溶接部36によって接合する場合を説明したが、外周側に第2組の素線18が配置され、内周側に第1組の素線17が配置される交差部19でも、2つの素線17,18を、位置が逆になるだけで溶接部36によって同様に接合できる。
【0041】
「溶接工程」の後は、「切断工程」を行う。「切断工程」は、編組体16を、
図5(a)に一点鎖線で示した切断ラインで切断する。このとき、溶接部が形成された最先端の交差部となる交差部のそれぞれから先端側に向けて2方向に延びる2つの素線17,18のうち、溶接部が形成された交差部19に接近した部分を、レーザ光の照射によって切断する。具体的には、
図5(a)で切断ライン上の各素線17,18にレーザ光を照射する。
図5(a)では、第1組の素線17の切断部を黒丸で示し、第2組の素線18の切断部を黒四角で示している。切断ライン上の各素線17,18にレーザ光を照射することによって、レーザ光に照射された部分が溶融し、その溶融によって対応する素線17,18が切断される。これにより、
図5(b)に示すように、切断ラインで切断された編組体16が得られる。その後、切断ラインより先端側の余分な部分を除去する。このため、
図5(a)の編組体16の溶接部が形成された交差部19が、
図5(b)の編組体16において、切断部20を有する先端付近の最先端の交差部19となる。
【0042】
「切断工程」において、素線の余分な部分を除去した後には、編組体16及び内層14の外周側に、樹脂からなる外層30を成形してディスタルシャフト12を形成する。その後、ディスタルシャフト12にプロキシマルシャフト50を結合することにより、カテーテル10を形成する。
【0043】
上記のカテーテル10及びその製造方法によれば、最先端の交差部19についての4つの角のうち、1つの角を含む角領域に形成された溶接部36によって、2つの素線17,18が溶接される。さらに、溶接部36は、内周側の素線について、外周側から見た場合の幅方向一部のみに形成される。これにより、溶接部36をレーザ光の照射によって形成する場合に、レーザ光の照射エネルギが、交差部19に隣接した内周側の素線の幅方向全体に及ぶことを防止できる。これにより、レーザ溶接により編組体16を交差部19で接合する場合に、内周側、及び外周側の2つの素線17,18のそれぞれが切断されることを防止できるため、素線の幅や厚さを大きくするなどの配慮をする必要がない。また、レーザ光の照射エネルギの設定範囲やレーザ光を照射する範囲をより自由度をもって設定でき、レーザ光の照射エネルギを高くすることもできるので、2つの素線17,18の接合強度を高くできる。これにより、各素線17,18の切断を回避しつつ、複数の素線17,18の接合強度を高くすることができる。さらに、上記のカテーテル10の製造方法によれば、1つの交差部19に対して溶接作業を少なくとも1回に済ませることができる。
【0044】
さらに、溶接部36が形成される角領域は、交差部19において2つの素線17,18により鈍角が形成される部分にある。これにより、溶接部が形成される角領域が、2つの素線により鋭角が形成される部分にある場合に比べて、より自由度をもってレーザ光の照射範囲や照射位置を設定できる。また、これにより、各素線17,18がレーザ光によりダメージを受ける範囲を小さくしやすくなる。なお、本例の場合には、最先端の交差部で鈍角が形成される2つの角P1a、P3のうち、各素線17,18の切断部20と反対側の角P1a側の角領域で2つの素線17,18が溶接される。一方、最先端の交差部の鈍角が形成される2つの角P1a、P3のうち、各素線17,18の切断部20と同じ側の角P3側の角領域で2つの素線17,18が溶接されてもよい。
【0045】
さらに、溶接部36が形成される交差部19は、複数の交差部19のうち、編組体16の切断部20を有する先端の近傍に配置された最先端の交差部19である。これにより、編組体16の切断部20を有する先端近傍の最先端の交差部では、2つの素線17,18がより離れやすく、位置ずれしやすくなるのにもかかわらず、その2つの素線17,18を高い接合強度で溶接できる。これにより、2つの素線17,18を交差部19で溶接することで得られる効果がより顕著になる。
【0046】
さらに、本例のカテーテルの製造方法によれば、溶接工程で交差部19の2つの素線を溶接した後に、切断部20を形成するように、2つの素線17,18の両方を、レーザ光の照射によって切断する切断工程を行う。これにより、切断によって交差部の外周側の素線が内周側の素線から離れることを防止できると共に、2つの素線の両方を交差部の近くで切断する場合に、切断の順序が制限されることがない。具体的には、2つの素線を交差部で溶接しないで、その交差部に隣り合う位置で2つの素線を切断する場合に、交差部で内周側となる素線の後、外周側となる素線を切断するように切断の順序が制限される。この理由は、この切断の順序を逆にすると、外周側の素線の内周側への押さえが弱くなることで外周側の素線が交差部で内周側の素線から離れやすくなるためである。一方、本例の製造方法によれば、この切断の順序が制限されないので、切断作業の容易化を図れる。なお、溶接工程で交差部の2つの素線を溶接した後に、切断部を形成するように、2つの素線17,18の一方のみを、レーザ光の照射によって切断する切断工程を行ってもよい。この場合、例えば、切断部を有する交差部が、編組体の周方向について、軸方向の1列目と2列目とに交互に配置されるようにしてもよい。
【0047】
図7は、比較例の第1例において、
図6に対応する図である。比較例の第1例は、交差部19において、外周側、及び内周側の2つの素線17,18を隅肉溶接で接合している。具体的には、交差部19において、外周側の素線17のうち、
図7にT1,T2で示す円形領域である幅方向両側部にレーザ光を照射してその両側部を溶融させ、そのレーザ光の照射エネルギを、溶融凝固した部分を通じて内周側の素線17に浸透させる。これにより、交差部19を形成する2つの素線17,18が接合される。このとき、例えば、
図7に示すように照射領域の中心は、交差部19における外周側の素線17の幅方向両側端のうち、長手方向の略中央に位置させる。また、レーザ光の照射部の幅は、各素線17,18のほぼ幅全体に及ぶ。これにより、交差部19を形成する内周側の素線18の外周側面18aのうち、交差部19と素線18の長手方向に隣接した部分の幅方向の全体が、レーザ光の照射エネルギによって溶融する可能性がある。これにより、比較例の第1例では、交差部19を形成する内周側の素線18の溶融深さが大きくなった場合に、内周側の素線18が交差部19の近くで幅方向に切断されてしまう可能性がある。一方、比較例の第1例において、レーザ光の照射エネルギを小さくした場合には、内周側の素線18の切断のリスクを小さくできるが、外周側の素線17の溶融が不十分となって、2つの素線17,18の接合強度が低くなることにより、2つの素線17,18が十分に接合されない可能性がある。実施形態によれば、このような不都合を解消できる。
【0048】
なお、図示は省略するが、実施形態の別例として、編組体を形成する第1組の素線及び第2組の素線のうち、少なくとも一方を断面が円形の素線としてもよい。この場合、外周側から交差部にレーザ光を照射することで、2つの素線がレーザ溶接で接合される。この場合も、
図1~
図6の実施形態と同様に、各素線の切断を回避しつつ、複数の素線の接合強度が高くなる。さらに、円形の素線を用いる場合でも、断面矩形の素線のみを用いる場合とほぼ同様の素線の溶融量とすることができるので、断面矩形の素線のみを用いる構成と同程度に溶接強度を高くできる。さらに、外周側の素線に断面円形の素線を用いる場合に、外周側の素線の側部を幅方向に大きく削ることができるので、比較例の第1例と比して、溶接部側での断面円形の外周側の素線の内周側面と、内周側の素線の外周側面との間に大きな隙間が形成されにくい。
【0049】
なお、上記の実施形態の各例では、編組体16において、2つの素線が溶接される交差部を、編組体の切断部を有する先端の近傍に配置された最先端の交差部19,19aのみとしているが、最先端の交差部19,19aと共に、別の交差部で2つの素線17,18を角領域で溶接してもよい。例えば、編組体16の先端部に、軸方向Lに離れて配置された2列以上の交差部で、2つの素線を角領域で溶接してもよい。これにより、編組体16の剛性を先端部でより高くすることができる。編組体の軸方向Lに離れた複数の領域で、2つの素線を角領域で溶接する交差部の数を異ならせることで、複数の領域の剛性を異ならせてもよい。
【0050】
また、上記の実施形態の各例では、交差部について鈍角が形成される2つの角P1a、P3のうち、一方の角のみを含む角領域で2つの素線が溶接されているが、交差部について鋭角が形成される2つの角P2、P4のうち、一方の角のみを含む角領域で2つの素線が溶接されてもよい。
【0051】
図8は、実施形態の別例において、
図4に対応する図である。本例の場合には、
図1~
図6の構成と異なり、最先端の交差部19において、4つの角領域に形成された溶接部36a~36dによって、2つの素線17,18が溶接される。それぞれの角領域は、外周側の素線17の4つの角P1a,P2,P3,P4のうち、1つの角を含む外周側角部分と、内周側の素線18において外周側角部分と径方向及び長手方向の少なくとも一方に隣接した部分とにより形成される。そして、4つの角領域に、溶接部36a~36dが形成される。
図8では砂地部によって溶接部36a~36dを示している。これら4つの溶接部36a~36dによって、2つの素線17,18が溶接されている。さらに、溶接部36a~36dは、内周側の素線18について、
図8のように外周側から見たときの交差部19との境界線M1、M2に沿った方向の一部のみに形成され、この境界線M1、M2に沿った方向の全部には形成されない。これにより、溶接部36a~36dは、内周側の素線18の幅方向一部のみに形成される。上記では、外周側に素線17が配置され、内周側に素線18が配置される交差部19について説明したが、外周側に素線18が配置され、内周側に素線17が配置される交差部19についても同様である。
【0052】
本例の場合には、上記の各実施形態と異なり、4つの角領域に形成された溶接部36a~36dによって、交差部19において2つの素線17,18が溶接されるので、溶接強度をより高くできる。さらに、多くの方向からの2つの素線17,18を引き離すように加わる力に対する強度をより高くできる。本例において、その他の構成及び作用は、
図1~
図6の構成と同様である。
【0053】
なお、本例では、1つの交差部19について4つの角領域に形成された溶接部36a~36dによって2つの素線17,18が溶接される場合を説明したが、4つの角領域のうち、いずれか2つのみ、または3つのみの角領域に形成された溶接部によって2つの素線17,18が溶接されてもよい。また、交差部19の位置によって溶接部の数を異ならせることにより、編組体の剛性を異ならせることもできる。
【0054】
なお、上記の実施形態の各例では、本発明のカテーテル及び本発明の製造方法により製造するカテーテルがガイドエクステンションカテーテルである場合を説明したが、これに限定せず、外層の内側に編組体を備える種々のカテーテルとすることができる。
【符号の説明】
【0055】
10 ガイドエクステンションカテーテル(カテーテル)、12 ディスタルシャフト、14 内層、14 円筒面、15 ルーメン、16 編組体、17、18 素線、18a 外周側面、19 交差部、20 切断部、21 素線、22 隙間、30 外層、31 先端チップ、36,36a~36d 溶接部、38 照射部分、50 プロキシマルシャフト、100 ガイディングカテーテル、102 冠動脈、106 ステントデリバリカテーテル。