(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150898
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】木口材、木口処理構造および木口処理方法
(51)【国際特許分類】
B27K 3/02 20060101AFI20220929BHJP
B27M 1/00 20060101ALI20220929BHJP
B27M 3/00 20060101ALI20220929BHJP
B27K 5/00 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B27K3/02 D
B27M1/00 C
B27M3/00 N
B27K5/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053699
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501352619
【氏名又は名称】三商株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】広田 正之
(72)【発明者】
【氏名】勝野 聖世
(72)【発明者】
【氏名】加藤 圭一
【テーマコード(参考)】
2B230
2B250
【Fターム(参考)】
2B230AA18
2B230BA01
2B230BA19
2B230EA30
2B230EB28
2B250AA01
2B250BA06
2B250CA11
2B250DA01
2B250EA02
2B250EA13
2B250FA28
2B250GA06
(57)【要約】
【課題】作業員の熟練度によらず、簡易に木口からの吸水および吸湿を防止することができる木口材、木口処理構造および木口処理方法を提供する。
【解決手段】木口面14に装着される木口材10であって、吸水防止性および吸湿防止性を有するシート状の吸水吸湿防止材16と、この吸水吸湿防止材16の片面18に設けられ、木口面14に接着可能な粘着層20とを備えるようにする。吸水吸湿防止材16は、ポリカーボネイトからなるものが好ましい。吸水吸湿防止材16のもう一方の片面28に設けられた艶消し処理層と塗料層の少なくとも一方をさらに備えてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木口面に装着される木口材であって、
吸水防止性および吸湿防止性を有するシート状の吸水吸湿防止材と、この吸水吸湿防止材の片面に設けられ、木口面に接着可能な粘着層とを備えることを特徴とする木口材。
【請求項2】
吸水吸湿防止材は、ポリカーボネイトからなることを特徴とする請求項1に記載の木口材。
【請求項3】
吸水吸湿防止材のもう一方の片面に設けられた艶消し処理層と塗料層の少なくとも一方をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の木口材。
【請求項4】
木材の木口面または木口面に設けられた塗料層に装着された請求項1~3のいずれか一つに記載の木口材を備えることを特徴とする木口処理構造。
【請求項5】
木材の木口面または木口面に設けられた塗料層に対して、請求項1~3のいずれか一つに記載の木口材の粘着層側を押圧して貼り付けることを特徴とする木口処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材に注入された薬剤の溶脱を防止するための木口材、木口処理構造および木口処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、木材に注入した難燃剤の溶脱防止のためには、木材の表面の塗装に加えて裏面、木端、木口の吸水防止および吸湿防止を行う必要がある。特に、重要なのは木口処理である。
【0003】
木口からの吸水があると、木材表面の塗膜の裏側に水が入り込み、揮発によって木材表面の塗膜を押し上げてふくれ、はがれ等の不具合を生じるおそれがあった。また、難燃剤が水に溶け、水が無くなると、白華が生じてしまう。さらに、木口から難燃剤を含んだ水が流出し、水滴が発生し、水が無くなると、同じように白華が生じてしまう。
【0004】
木口から吸湿があると、潮解性の難燃剤は、液状化し、木材表面の塗膜の裏側に液体が入り込み、揮発によって木材表面の塗膜を押し上げてふくれ、はがれ等の不具合を生じるおそれがあった。また、水が無くなると、白華が生じてしまう。さらに、
図5に示すように、木口から液体が流出し、水滴が発生し、水が無くなると、同じように白華が生じてしまう。
【0005】
このような不具合を招かないよう、従来は主に塗装やシーリング材により木口処理を行っている。
【0006】
なお、従来の薬剤の溶脱防止方法として、例えば特許文献1、2に記載のものが知られている。特許文献1の方法は、薬剤を木材に含浸・乾燥させた後、木材の表層部に存在する薬剤を不溶化・乾燥させ、その後、木材表面を水蒸気から遮断するものである。特許文献2の方法は、薬剤を含浸・注入した木材の表面に厚さ0.2mm~3.0mmの木材を接着剤にて接着するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-136992号公報
【特許文献2】特開2017-52255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来の木口処理は、塗装やシーリング材によるものが主である。
図6は、従来の木口処理の一例を示したものである。この図に示すように、木板1の木表2と木口3において、塗料あるいはシーリング材による塗膜4が形成されるが、塗膜厚を均一にして塗布することは難しい。均一に塗布するためには、面取り5が必要となる。
【0009】
また、建築現場においては、現場塗装が必要になることが多く、塗料あるいはシーリング材の塗装に対し、塗り残しまたは膜厚不足により、吸水および吸湿が生じてしまうことがあった。隅角部は、塗膜厚の確保のために面取りを要するが、作業員の熟練度によっては手間がかかり、実施されないことが少なくない。
【0010】
このため、作業員の熟練度によらず、簡易に木口からの吸水および吸湿を防止することができる技術が求められていた。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、作業員の熟練度によらず、簡易に木口からの吸水および吸湿を防止することができる木口材、木口処理構造および木口処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る木口材は、木口面に装着される木口材であって、吸水防止性および吸湿防止性を有するシート状の吸水吸湿防止材と、この吸水吸湿防止材の片面に設けられ、木口面に接着可能な粘着層とを備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る他の木口材は、上述した発明において、吸水吸湿防止材は、ポリカーボネイトからなることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る他の木口材は、上述した発明において、吸水吸湿防止材のもう一方の片面に設けられた艶消し処理層と塗料層の少なくとも一方をさらに備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る木口処理構造は、木材の木口面または木口面に設けられた塗料層に装着された上記の木口材を備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る木口処理方法は、木材の木口面または木口面に設けられた塗料層に対して、上記の木口材の粘着層側を押圧して貼り付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る木口材によれば、木口面に装着される木口材であって、吸水防止性および吸湿防止性を有するシート状の吸水吸湿防止材と、この吸水吸湿防止材の片面に設けられ、木口面に接着可能な粘着層とを備えるので、粘着層側を木口面に貼り付けることで、吸水吸湿防止材を木口面に対して簡易に装着することができる。木口面に装着された吸水吸湿防止材は、吸水防止性および吸湿防止性を有するので、作業員の熟練度によらず、簡易に木口からの吸水および吸湿を防止することができるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明に係る他の木口材によれば、吸水吸湿防止材は、ポリカーボネイトからなるので、透明性、耐衝撃性、耐熱性、難燃性、自己消火性、軽量性、寸法安定性、加工容易性などの物性に優れた木口材を提供することができるという効果を奏する。
【0019】
また、本発明に係る他の木口材によれば、吸水吸湿防止材のもう一方の片面に設けられた艶消し処理層と塗料層の少なくとも一方をさらに備えるので、光沢を抑えた落ち着いた外観や、周囲の環境と調和した外観を実現することができるという効果を奏する。
【0020】
また、本発明に係る木口処理構造によれば、木材の木口面または木口面に設けられた塗料層に装着された上記の木口材を備えるので、作業員の熟練度によらず、簡易に木口からの吸水および吸湿を防止することができるという効果を奏する。
【0021】
また、本発明に係る木口処理方法によれば、木材の木口面または木口面に設けられた塗料層に対して、上記の木口材の粘着層側を押圧して貼り付けるので、作業員の熟練度によらず、簡易に木口からの吸水および吸湿を防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明に係る木口材、木口処理構造および木口処理方法の実施の形態を示す断面図である。
【
図2】
図2は、試験体仕様を示すテーブル図である。
【
図3】
図3は、試験方法を示す図であり、(1)は写真図、(2)は概念図である。
【
図5】
図5は、従来の難燃剤の溶脱状況を示す写真図である。
【
図6】
図6は、従来の木口処理を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係る木口材、木口処理構造および木口処理方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0024】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る木口処理構造100は、木板12の木口面14に装着される木口材10を備えたものである。なお、従来の木口処理構造(
図6を参照)と同様に、木板12の木表22には塗膜24が形成されている。また、従来の木口処理構造とは異なり、木板12の隅角部26は、面取り処理されていない。
【0025】
木口材10は、吸水吸湿防止シート16と、この吸水吸湿防止シート16の片面18に設けられた粘着層20とを備える。
【0026】
吸水吸湿防止シート16は、吸水防止性および吸湿防止性を有する均一な厚さのシート状の吸水吸湿防止材であり、例えばポリカーボネイト(PC)などの材料で構成することができる。ポリカーボネイトは、透明性、耐衝撃性、耐熱性、難燃性、自己消火性、軽量性、寸法安定性、加工容易性などの物性に優れるため、木口面14に装着する吸水吸湿防止材として好適である。なお、本発明の吸水吸湿防止材はポリカーボネイトに限るものではなく、吸水防止性および吸湿防止性を有するシート状のものであればいかなる材料を用いてもよい。
【0027】
上記の構成において、吸水吸湿防止シート16のもう一方の片面28に、艶消し処理層と塗料層(塗膜)の少なくとも一方を設けてもよい。すなわち片面28に艶消し処理を行ってもよいし、艶消し処理を行わず、片面28に塗料を塗布しても構わない。その塗料に艶消し処理を行ってもよい。このようにすることで、光沢を抑えた落ち着いた外観や、周囲の環境と調和した外観などの所望の外観を実現することができる。艶消し処理は、あらかじめ工場などで行ってもよいし、建築現場に搬入した後や木口面14に装着した後に行ってもよい。
【0028】
吸水吸湿防止シート16には、変色防止性を持つ塗料等を塗布可能であることが木板12の変色防止性を高める上で望ましい。
【0029】
粘着層20は、木口面14に接着可能な粘着性の材料からなり、例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂等の材料を用いて構成することができる。粘着層20の厚さは、20~60μm程度が好ましい。粘着層20は、変色防止性の機能を有することが木板12の変色防止性を高める上で望ましい。こうした粘着層20の実施例としては、例えばアクリル樹脂100質量部、ポリイソシアネート1質量部、紫外線吸収剤2質量部、光安定化剤0.5質量部からなる構成を例示することができる。建築現場での対応が容易なように、粘着層20は、木口面14に既に塗装された塗膜の上からも貼り付けが可能であることが望ましい。
【0030】
次に、建設現場において上記の木口処理構造100を施工する場合について説明する。木板12の表面には、木口面14を除いて塗膜24が形成されているものとする。まず、木口面14に対して木口材10の粘着層20側を押圧して貼り付ける。こうすることで、上記の木口処理構造100を容易に施工することができる。
【0031】
木口材10は、あらかじめ木口面14の幅と同寸法に切り出しておくことが好ましい。木口材10の貼り付けは、常温で押圧することによっても可能であるが、アイロン等で加熱しながら押圧して貼り付けるとより効果的である。木口面14に、あらかじめサンドペーパー等を当ててから貼り付けることが好ましい。従来の木口処理構造(
図6を参照)では、木板の隅角部を面取り処理した方が耐候性に優れるが、本発明では面取り処理しない方が耐候性に優れ、美観にも優れる。このため、本実施の形態の隅角部26は、面取り処理を行っていない。
【0032】
本実施の形態によれば、木口材10の粘着層20側を木口面14に貼り付けることで、吸水吸湿防止シート16を木口面14に対して簡易に装着することができる。木口面14に装着された吸水吸湿防止シート16は、吸水防止性および吸湿防止性を有するので、作業員の熟練度によらず、簡易に木口からの吸水および吸湿を防止することができる。
【0033】
木材に注入された難燃剤(薬剤)は、水溶性、潮解性を持つものがある。この難燃剤は吸水または吸湿により木口から溶脱するおそれがあるが、本実施の形態の木口材10を用いることによって、難燃剤のタイプにかかわりなく、容易に溶脱を防止することができる。また、木口材10を木口面14に装着することによって、木板12の耐久性を向上することができる。
【0034】
(本発明の効果の検証)
本発明の効果を検証するために、吸水試験を実施した。試験体には、60×60×12mmの板状のスギ製材に対して、
図2に示すような各処理を施したものを使用した。試験体1~3の木表、木裏、木端は同じ塗料を用いて塗装を行った。また、試験体1の木口は塗装、試験体2の木口は2回塗りの塗装、試験体3の木口は2回塗り塗装の間に実施例のシート(吸水吸湿防止シート)を配置したものとした。試験体4は、全面に縁切り材を設けた。この縁切り材は、試験体1~3に用いた塗料とは異なる塗料と、実施例のシート(吸水吸湿防止シート)とで構成した。したがって、試験体3、4が本発明の実施例に相当し、試験体1、2が比較例に相当する。
【0035】
吸水試験は、
図3に示すように、水30mlを入れた容器にスギ製材(試験体)の木口を浸漬した状態とし、木口からの吸水に伴う試験体重量の時間変化を測定した。
図4に、測定結果を示す。この図に示すように、木口に本実施例のシート(吸水吸湿防止シート)を用いた試験体3、4は、試験体1、2に比べて重量変化が殆どなく、木口からの吸水が抑えられていることがわかる。したがって、本実施例によれば、木口からの吸水が抑えられるので、木材に注入された難燃剤(薬剤)の溶脱を防止することができる。なお、吸湿防止効果についても、同様の結果になると考えられる。
【0036】
以上説明したように、本発明に係る木口材によれば、木口面に装着される木口材であって、吸水防止性および吸湿防止性を有するシート状の吸水吸湿防止材と、この吸水吸湿防止材の片面に設けられ、木口面に接着可能な粘着層とを備えるので、粘着層側を木口面に貼り付けることで、吸水吸湿防止材を木口面に対して簡易に装着することができる。木口面に装着された吸水吸湿防止材は、吸水防止性および吸湿防止性を有するので、作業員の熟練度によらず、簡易に木口からの吸水および吸湿を防止することができる。
【0037】
また、本発明に係る他の木口材によれば、吸水吸湿防止材は、ポリカーボネイトからなるので、透明性、耐衝撃性、耐熱性、難燃性、自己消火性、軽量性、寸法安定性、加工容易性などの物性に優れた木口材を提供することができる。
【0038】
また、本発明に係る他の木口材によれば、吸水吸湿防止材のもう一方の片面に設けられた艶消し処理層と塗料層の少なくとも一方をさらに備えるので、光沢を抑えた落ち着いた外観や、周囲の環境と調和した外観を実現することができる。
【0039】
また、本発明に係る木口処理構造によれば、木材の木口面または木口面に設けられた塗料層に装着された上記の木口材を備えるので、作業員の熟練度によらず、簡易に木口からの吸水および吸湿を防止することができる。
【0040】
また、本発明に係る木口処理方法によれば、木材の木口面または木口面に設けられた塗料層に対して、上記の木口材の粘着層側を押圧して貼り付けるので、作業員の熟練度によらず、簡易に木口からの吸水および吸湿を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上のように、本発明に係る木口材、木口処理構造および木口処理方法は、木材を用いた建築工事に有用であり、特に、作業員の熟練度によらず、簡易に木口からの吸水および吸湿を防止するのに適している。
【符号の説明】
【0042】
10 木口材
12 木板
14 木口面
16 吸水吸湿防止シート(吸水吸湿防止材)
18,28 片面
20 粘着層
22 木表
24 塗膜
26 隅角部
100 木口処理構造