(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150902
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20220929BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20220929BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20220929BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20220929BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20220929BHJP
B60L 50/61 20190101ALN20220929BHJP
【FI】
B60L15/20 J
B60K6/46 ZHV
B60W20/00
B60W10/08 900
B60L3/00 H
B60L50/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053705
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 貴之
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA07
3D202BB16
3D202CC55
3D202DD29
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA01
5H125EE05
(57)【要約】
【課題】モータ出力が制限される範囲の拡大を招かずに、モータ出力がモータ温度に応じた制限値で制限されている状況において、モータ温度がハンチングしても、モータ出力が変動することを抑制できる、車両用制御装置を提供する。
【解決手段】MG温度が制限開始閾値T1よりも高い制限範囲においては、MG出力の制限値がMG温度の上昇につれて広義単調減少するように設定され、MG出力が制限値を上限として制御される。具体的には、制限範囲内で制限範囲の上限および下限を含まない範囲において、MG温度が上昇しても制限値が一定となる範囲T1-T2,T2-T3,T3-T4,T4-T5が設けられている。この範囲では、MG出力が制限値で制限されている状況でMG温度がハンチングしても、MG出力が一定に保たれる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の動力を発生するモータが搭載された車両に用いられる制御装置であって、
前記モータのモータ出力を制御する出力制御手段と、
前記モータのモータ温度が制限開始閾値よりも高い場合に、前記モータ温度に応じた前記モータ出力の制限値を設定する制限値設定手段と、を含み、
前記出力制御手段は、前記制限値設定手段より前記制限値が設定された場合には、前記制限値を前記モータ出力の上限として、前記モータ出力を制御し、
前記制限値設定手段は、前記モータ温度が前記制限開始閾値よりも高い制限範囲において、前記モータの温度が高いほど制限値が広義単調減少し、前記モータ温度が上昇しても前記制限値が一定となる範囲を前記制限範囲の上限および下限を含まない範囲内に有するように、前記モータ温度に応じた前記制限値を設定する、車両用制御装置。
【請求項2】
前記制限値設定手段は、前記制限範囲の上限の前記モータ温度に応じた前記制限値を0よりも大きい所定値に設定し、前記制限範囲の上限よりも高い前記モータ温度に応じた前記制限値を0に設定する、請求項1に記載の車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用の動力を発生するモータが搭載された車両に用いられる制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、ハイブリッド車両には、走行用の動力を発生するモータが搭載され、そのモータには、永久磁石同期モータが採用されている。永久磁石同期モータは、運転時に銅損および鉄損などにより発熱し、高温になると、減磁やコイルを被覆する樹脂モールドの熱破壊を生じるおそれがある。そのため、ハイブリッド車両では、モータの温度(MG温度)に応じてモータの出力(MG出力)が制限され、モータの温度上昇が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図3は、MG温度とMG出力の制限値との関係の従来例を示すグラフである。
【0005】
ハイブリッド車両では、MG温度について、モータの各部品を保護するために超えてはならない部品保護クライテリアが設定され、その部品保護クライテリアよりも低い出力停止閾値と、出力停止閾値よりもさらに低い制限開始閾値とが設定されている。そして、MG温度が制限開始閾値よりも高い範囲においては、MG出力の制限値が設定される。すなわち、MG温度が制限開始閾値よりも高く、かつ出力停止閾値よりも低い範囲では、MG温度が高いほどMG出力の制限値が単調に小さくなるように設定され、MG温度が出力停止閾値以上の範囲では、MG出力の制限値が0に設定される。
【0006】
そのため、MG温度が制限開始閾値よりも高い範囲でハンチング(乱調)した場合、MG出力の制限値もハンチングし、MG出力が制限値で制限される状況では、MG出力が変動して、ドライバビリティが悪化する。たとえば、MG温度のフィルタ処理により、MG出力の変動を抑制して、ドライバビリティの悪化を防止できる。しかし、MG温度の検出にフィルタ処理による遅れが生じるので、その遅れ分を考慮して制限開始閾値を設定しなければならず、MG出力が制限される範囲が拡大してしまう(制限開始閾値が低くなってしまう)。
【0007】
本発明の目的は、モータ出力が制限される範囲の拡大を招かずに、モータ出力がモータ温度に応じた制限値で制限されている状況において、モータ温度がハンチングしても、モータ出力が変動することを抑制できる、車両用制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明に係る車両用制御装置は、走行用の動力を発生するモータが搭載された車両に用いられる制御装置であって、モータのモータ出力を制御する出力制御手段と、モータのモータ温度が制限開始閾値よりも高い場合に、モータ温度に応じたモータ出力の制限値を設定する制限値設定手段とを含み、出力制御手段は、制限値設定手段より制限値が設定された場合には、制限値をモータ出力の上限として、モータ出力を制御し、制限値設定手段は、モータ温度が制限開始閾値よりも高い制限範囲において、モータの温度が高いほど制限値が広義単調減少し、モータ温度が上昇しても制限値が一定となる範囲を制限範囲の上限および下限を含まない範囲内に有するように、モータ温度に応じた制限値を設定する。
【0009】
この構成によれば、モータ温度が制限開始閾値よりも高い制限範囲においては、モータ出力の制限値がモータ温度の上昇につれて広義単調減少するように設定され、モータ出力が制限値を上限として制御される。これにより、モータ温度の上昇に伴ってモータ出力の制限が強くなるので、モータ温度の上昇を抑制することができる。
【0010】
また、制限範囲の上限および下限を含まない範囲において、モータ温度が上昇しても制限値が一定となる範囲が設けられている。この範囲では、モータ出力が制限値で制限されている状況でモータ温度がハンチングしても、モータ出力が一定に保たれるので、モータ出力の変動を抑制することができる。しかも、モータ温度のフィルタ処理が行われないから、フィルタ処理による遅れ分を考慮して制限開始閾値を低く設定する必要がなく、モータ出力が制限される範囲の拡大を招かない。
【0011】
制限値設定手段は、制限範囲の上限のモータ温度に応じた制限値を0よりも大きい所定値に設定し、制限範囲の上限よりも高いモータ温度に応じた制限値を0に設定してもよい。
【0012】
この構成では、モータ温度が制限範囲の上限を超えると、制限値が所定値から0に一気に下げられる。そのため、モータ温度が制限範囲の上限から上昇するにつれて、制限値を所定値から0まで漸減させる構成よりも、制限値が0に設定されるモータ温度の下限値(出力停止閾値)から部品保護クライテリアまでの余裕代を大きく確保することができる。その結果、モータ温度が部品保護クライテリアに達することを良好に抑制できる。
【0013】
制限値設定手段は、制限範囲において、モータ温度の上昇に対して、モータ出力が段階的に低下するように、モータ温度に応じた制限値を設定してもよい。
【0014】
この構成では、モータ出力が制限値で制限されている状況では、モータ温度の上昇に伴って、モータ出力が段階的に低下し、それが車両の挙動として現れるので、モータ温度が高温であるためにモータ出力が制限されていることをユーザに感覚で認識させることができる。また、モータ出力を連続的に低下させる構成と比較して、モータ出力の制御(モータを駆動するインバータの制御)の内容が簡素ですむ。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、モータ出力が制限される範囲の拡大を招かずに、モータ出力がモータ温度に応じた制限値で制限されている状況において、モータ温度がハンチングしても、モータ出力が変動することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両用制御装置が採用されたハイブリッド車両の要部の構成を示すブロック図である。
【
図2】MG温度とMG出力の制限値との関係の一例を示すグラフである。
【
図3】MG温度とMG出力の制限値との関係の従来例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0018】
<ハイブリッド車両の要部構成>
図1は、ハイブリッド車両1の要部の構成を示すブロック図である。
【0019】
ハイブリッド車両1は、シリーズ方式のハイブリッドシステムを搭載した車両である。ハイブリッド車両1には、エンジン2、発電モータ(MG1)3および駆動モータ(MG2)4が搭載されている。
【0020】
エンジン2は、たとえば、ガソリンエンジンであり、燃焼室への吸気量を調整するための電子スロットルバルブ、燃料を吸入空気に噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)および燃焼室内に電気放電を生じさせる点火プラグなどを備えている。
【0021】
発電モータ3および駆動モータ4は、たとえば、永久磁石同期モータ(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)からなる。永久磁石同期モータは、ステータおよびロータを備えている。ステータには、ステータコアおよびコイルが設けられている。ステータコアは、円環状(円筒状)のステータヨークおよびステータヨークから径方向内側に延びる複数のティースを有し、コイルは、各ティースに集中巻されている。ロータは、ステータの内側に配置されており、ステータヨークと同心で円環状のロータヨークおよびロータヨークに周方向に並べて埋め込まれた複数の永久磁石を有している。ステータのコイルに電流が流れると、ティースに沿って回転径方向に延びる磁束が発生し、この磁束がロータの永久磁石に作用して、ロータに回転力が生じる。そのため、ロータの回転位置に応じてコイルに流れる電流が制御されることにより、ロータに回転力が連続的に発生し、ロータが回転する。
【0022】
発電モータ3は、エンジン2の動力により発電を行う発電モータとして、その回転軸がエンジン2のクランクシャフトとギヤなどを介して機械的に連結される。駆動モータ4は、ハイブリッド車両1の走行用の動力を発生する駆動モータとして、その回転軸がハイブリッド車両1の走行駆動系に連結される。走行駆動系には、たとえば、デファレンシャルギヤが含まれており、駆動モータ4の動力は、デファレンシャルギヤに伝達され、デファレンシャルギヤから左右の駆動輪に分配されて伝達される。
【0023】
また、ハイブリッド車両1には、バッテリ(BAT)11およびPCU(Power Control Unit:パワーコントロールユニット)12が搭載されている。
【0024】
バッテリ11は、複数の二次電池を組み合わせた組電池である。二次電池は、たとえば、リチウムイオン電池である。バッテリ11は、たとえば、約200~150V(ボルト)の直流電力を出力する。
【0025】
PCU12は、発電モータ3および駆動モータ4の駆動を制御するためのユニットであり、インバータ13,14、コンバータ(CONV)15およびMGECU16を備えている。
【0026】
インバータ(INV1)13は、発電モータ3を駆動する三相電圧形インバータであり、2個のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)の直列回路をU相、V相およびW相の各相に対応して設け、それらの直列回路をプラス配線とマイナス配線との間に互いに並列に接続した構成を有している。インバータ13は、発電モータ3の力行運転時に、直流電力を交流電力に変換して、交流電力を発電モータ3に供給する。また、インバータ13は、発電モータ3の回生運転(発電運転)時に、発電モータ3で発生する交流電力を直流電力に変換する。
【0027】
インバータ(INV2)14は、駆動モータ4を駆動する三相電圧形インバータであり、インバータ13と同様に、2個のIGBTの直列回路をU相、V相およびW相の各相に対応して設け、それらの直列回路をプラス配線とマイナス配線との間に互いに並列に接続した構成を有している。インバータ14は、駆動モータ4の力行運転時に、直流電力を交流電力に変換して、交流電力を駆動モータ4に供給する。また、インバータ14は、駆動モータ4の回生運転(発電運転)時に、駆動モータ4で発生する交流電力を直流電力に変換する。
【0028】
コンバータ15は、発電モータ3および駆動モータ4の力行運転時に、バッテリ11から出力される直流電力を昇圧してインバータ13,14に供給する。また、発電モータ3および駆動モータ4の回生運転時には、インバータ13,14から出力される直流電力を降圧してバッテリ11に供給する。
【0029】
ハイブリッド車両1には、複数のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が搭載されており、MGECU16は、複数のECUのうちの1つである。各ECUは、マイコン(マイクロコントローラ)を備えており、マイコンには、たとえば、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリが内蔵されている。複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。
【0030】
複数のECUには、HVECU17が含まれている。HVECU17は、エンジン2を制御し、また、PCU12を介して発電モータ3および駆動モータ4を制御する。発電モータ3および駆動モータ4の制御では、HVECU17からMGECU16に、発電モータ3のトルク指令値および駆動モータ4のトルク指令値が入力される。MGECU16は、HVECU17から入力されるトルク指令値に基づいて、インバータ13,14およびコンバータ15の動作を制御する。
【0031】
ハイブリッド車両1では、エンジン2の始動時には、バッテリ11から出力される直流電力がコンバータ15により昇圧されて、昇圧された直流電力がインバータ13で交流電力に変換され、交流電力が発電モータ3に供給される。これにより、発電モータ3が力行運転されて、エンジン2が発電モータ3によりモータリング(クランキング)される。モータリングによりエンジン2の回転数がファイアリングに必要な回転数まで上昇した状態で、エンジン2の点火プラグがスパークされると、エンジン2がファイアリングする。
【0032】
ハイブリッド車両1の走行時には、駆動モータ4が力行運転されて、駆動モータ4が動力を発生する。
【0033】
発電モータ3および駆動モータ4に要求される出力の合計がバッテリ11の出力より小さいときには、ハイブリッド車両1がEV走行する。すなわち、エンジン2が停止されて、発電モータ3による発電が行われず、バッテリ11から駆動モータ4に電力が供給されて、その電力で駆動モータ4が駆動される。
【0034】
一方、発電モータ3および駆動モータ4に要求される出力の合計がバッテリ11の出力を上回るときには、ハイブリッド車両1がHV走行する。すなわち、エンジン2が運転状態(ファイアリング)にされて、発電モータ3が発電運転(回生運転)されることにより、エンジン2の動力が発電モータ3で交流電力に変換される。そして、発電モータ3からの交流電力がインバータ13で直流電力に変換され、インバータ13から出力される直流電力がインバータ14で交流電力に変換されて、その交流電力が駆動モータ4に供給されることにより、駆動モータ4が駆動される。
【0035】
また、バッテリ11の充電残量が所定以下に低下すると、駆動モータ4の駆動/停止にかかわらず、エンジン2がファイアリングしている状態で、発電モータ3が発電運転される。このとき、発電モータ3からの交流電力がインバータ13で直流電力に変換され、インバータ13から出力される直流電力がコンバータ15で降圧されて、降圧後の直流電力がバッテリ11に供給されることにより、バッテリ11が充電される。
【0036】
ハイブリッド車両1の減速時には、駆動モータ4が回生運転されて、駆動輪から駆動モータ4に伝達される動力が交流電力に変換される。このとき、駆動モータ4が走行駆動系の抵抗となり、その抵抗がハイブリッド車両1を制動する制動力(回生制動力)として作用する。このときにも、駆動モータ4からの交流電力がインバータ14で直流電力に変換され、インバータ13から出力される直流電力がコンバータ15で降圧されて、降圧後の直流電力がバッテリ11に供給されることにより、バッテリ11が充電される。
【0037】
また、HVECU17には、制御に必要な各種のセンサが接続されており、その接続されたセンサの検出信号が入力される。センサには、サーミスタ18が含まれる。サーミスタ18は、駆動モータ4のステータコアに取り付けられており、ステータコアの温度に応じた検出信号を出力する。HVECU17は、サーミスタ18の検出信号から駆動モータ4のステータコアの温度を演算し、その演算したステータコアの温度を駆動モータ4の温度(以下、「MG温度」という。)として検出する。
【0038】
<出力制限処理>
図2は、MG温度とMG出力の制限値との関係の一例を示すグラフである。
【0039】
ハイブリッド車両1では、MG温度について、駆動モータ4の各部品を保護するために超えてはならない部品保護クライテリアが設定され、その部品保護クライテリアよりも低い制限開始閾値T1が設定されている。そして、MG温度が制限開始閾値T1よりも高温に上昇すると、駆動モータ4の出力(以下、「MG出力」という。)が制限される。
【0040】
駆動モータ4の出力を制限するため、HVECU17の不揮発性メモリには、MG温度とMG出力の制限値との関係が記憶されている。HVECU17では、MG温度が検出されて、MG温度とMG出力の制限値との関係からMG温度に応じた制限値が設定され、MG出力が制限値以下に制限されるように、駆動モータ4のトルク指令値が設定される。
【0041】
MG温度が制限開始閾値T1以下の範囲では、制限値が駆動モータ4の最大出力値に設定され、MG温度が制限開始閾値T1よりも高い制限範囲において、制限値が駆動モータ4の最大出力値から0まで5段階で低下するように設定されている。具体的には、MG温度が制限開始閾値T1よりも高く、かつ第2制限閾値T2以下の範囲では、制限値が駆動モータ4の最大出力値よりも低い第1制限値R1に設定される。MG温度が第2制限閾値T2よりも高く、かつ第3制限閾値T3(>T2)以下の範囲では、制限値が第1制限値R1よりも低い第2制限値R2に設定される。MG温度が第3制限閾値T3よりも高く、かつ第4制限閾値T4(>T3)以下の範囲では、制限値が第2制限値R2よりも低い第3制限値R3に設定される。MG温度が第4制限閾値T4よりも高く、かつ第5制限閾値T5(>T4)以下の範囲では、制限値が第3制限値R3よりも低い第4制限値R4に設定される。MG温度が第5制限閾値T5よりも高い範囲では、制限値が0に設定される。
【0042】
なお、制限値が駆動モータ4の最大出力値に設定されている状態は、制限値が設定されていない状態と同義である。また、制限値が0に設定されている状態は、駆動モータ4の出力が停止されている状態と同義であり、第5制限閾値T5は、駆動モータ4の出力が停止される出力停止閾値である。
【0043】
MG温度とMG出力の制限値との関係は、たとえば、第1制限値R1、第2制限値R2、第3制限値R3および第4制限値R4がそれぞれ設定され、また、
図2に二点鎖線で示される直線、すなわち、制限開始閾値T1から部品保護クライテリアよりも一定量だけ低い温度までのMG温度の上昇に対して、MG出力の制限値が駆動モータ4の最大出力値から0まで比例的に減少する直線が設定されて、その直線上で第1制限値R1、第2制限値R2、第3制限値R3および第4制限値R4に対応するMG温度をそれぞれ第2制限閾値T2、第3制限閾値T3、第4制限閾値T4および第5制限閾値T5とすることにより作成される。また、第2制限閾値T2、第3制限閾値T3、第4制限閾値T4および第5制限閾値T5がそれぞれ設定され、また、
図2に二点鎖線で示される直線が設定されて、その直線上で第2制限閾値T2、第3制限閾値T3、第4制限閾値T4および第5制限閾値T5に対応するMG出力をそれぞれ第1制限値R1、第2制限値R2、第3制限値R3および第4制限値R4とすることにより、MG温度とMG出力の制限値との関係が作成されてもよい。
【0044】
いずれにしても、最大出力値と第1制限値R1との差、第1制限値R1と第2制限値R2との差、第2制限値R2と第3制限値R3との差、第3制限値R3と第4制限値R4との差および第4制限値R4と0との差がその順に大きくなるように、第1制限値R1、第2制限値R2、第3制限値R3および第4制限値R4が設定される。
【0045】
また、HVECU17の不揮発性メモリには、駆動モータ4の出力の制限が解除される際のMG温度とMG出力の制限値との関係も記憶されている。HVECU17では、駆動モータ4の出力制限の解除の際には、MG温度が検出されて、MG温度とMG出力の制限値との関係からMG温度に応じた制限値が設定され、MG出力が制限値以下に制限されるように、駆動モータ4のトルク指令値が設定される。
【0046】
MG温度に応じた制限値が0に設定されている状態では、MG温度が第5制限閾値T5よりも低い第5解除閾値T’5に低下したことに応じて、制限値が0から第4制限値R4に戻される。MG温度に応じた制限値が第4制限値R4に設定されている状態では、MG温度が第4制限閾値T4よりも低い第4解除閾値T’4に低下したことに応じて、制限値が第4制限値R4から第3制限値R3に戻される。MG温度に応じた制限値が第3制限値R3に設定されている状態では、MG温度が第3制限閾値T3よりも低い第3解除閾値T’3に低下したことに応じて、制限値が第3制限値R3から第2制限値R2に戻される。MG温度に応じた制限値が第2制限値R2に設定されている状態では、MG温度が第2制限閾値T2よりも低い第2解除閾値T’2に低下したことに応じて、制限値が第2制限値R2から第1制限値R1に戻される。そして、MG温度に応じた制限値が第1制限値R1に設定されている状態において、MG温度が制限開始閾値T1よりも低い第1解除閾値T’1に低下したことに応じて、制限値が第1制限値R1から最大出力値に戻されて、駆動モータ4の出力制限が解除される。
【0047】
<作用効果>
以上のように、MG温度が制限開始閾値T1よりも高い制限範囲においては、MG出力の制限値がMG温度の上昇につれて広義単調減少するように設定され、MG出力が制限値を上限として制御される。これにより、MG温度の上昇に伴ってMG出力の制限が強くなるので、MG温度の上昇を抑制することができる。
【0048】
また、制限範囲内で制限範囲の上限および下限を含まない範囲において、MG温度が上昇しても制限値が一定となる範囲T1-T2,T2-T3,T3-T4,T4-T5が設けられている。この範囲では、MG出力が制限値で制限されている状況でMG温度がハンチングしても、MG出力が一定に保たれるので、MG出力の変動を抑制することができる。しかも、MG温度のフィルタ処理が行われないから、フィルタ処理による遅れ分を考慮して制限開始閾値T1を低く設定する必要がなく、MG出力が制限される範囲の拡大を招かない。
【0049】
MG温度が制限開始閾値T1よりも高い制限範囲では、制限値が駆動モータ4の最大出力値から0まで5段階で低下するように設定される。この構成により、MG出力が制限値で制限される状況では、MG温度の上昇に伴って、MG出力が段階的に低下し、それが車両の挙動として現れるので、MG温度が高温であるためにMG出力が制限されていることをユーザに感覚で認識させることができる。また、MG出力を連続的に低下させる構成と比較して、MG出力を細かく変化させなくてすむので、MG出力の制御(駆動モータ4を駆動するインバータ14の制御)の内容が簡素ですむ。さらには、MG出力が制限値で制限される状況において、
図2に示される太実線に沿って制限されるMG出力は、
図2に示される二点鎖線に沿って制限されるMG出力以下となるので、MG温度の上昇を一層抑制することができる。
【0050】
しかも、MG温度が制限範囲の上限である第5制限閾値T5を超えると、制限値が第4制限値R4から0に一気に下げられる。そのため、MG温度が制限範囲の上限から上昇するにつれて、制限値を第5制限閾値T5から0まで漸減させる構成、すなわち、MG温度とMG出力の制限値との関係が
図2に二点鎖線で示される関係となる構成よりも、制限値が0に設定されるMG温度の下限値である出力停止閾値から部品保護クライテリアまでの余裕代を大きく確保することができる。その結果、MG温度が部品保護クライテリアに達することを良好に抑制できる。
【0051】
さらに、最大出力値と第1制限値R1との差、第1制限値R1と第2制限値R2との差、第2制限値R2と第3制限値R3との差、第3制限値R3と第4制限値R4との差および第4制限値R4と0との差がその順に大きくなるように、第1制限値R1、第2制限値R2、第3制限値R3および第4制限値R4が設定されているので、MG温度が高いほど、MG出力の制限値が変更される際の変更幅が大きくなる。これにより、MG温度が高温になるほど、MG温度の上昇を強く抑制することができる。
【0052】
また、制限値が1段階小さい値に設定される際の閾値T1,T2,T3,T4,T5と、それぞれ制限値が1段階小さい値から1段階大きい値に戻される際の閾値T’1,T’2,T’3,T’4,T’5とにヒステリシスが設けられているので、制限値が頻繁に切り替わることを抑制でき、制限値の切り替わりによるMG温度の変動を抑制できる。
【0053】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0054】
たとえば、前述の実施形態では、MG温度が制限開始閾値T1を超えたことに応じて、MG出力の制限値が最大出力値から第1制限値R1に低下されるとしたが、MG温度が制限開始閾値T1から制限開始閾値T1よりも大きくかつ第2制限閾値T2未満の値に上昇する間に、MG出力の制限値が最大出力値から第1制限値R1まで徐々に下げられてもよい。これと同様に、MG温度が第2制限閾値T2から第2制限閾値T2よりも大きくかつ第3制限閾値T3未満の値に上昇する間に、MG出力の制限値が第1制限値R1から第2制限値R2まで徐々に下げられてもよい。また、MG温度が第3制限閾値T3から第3制限閾値T3よりも大きくかつ第4制限閾値T4未満の値に上昇する間に、MG出力の制限値が第2制限値R2から第3制限値R3まで徐々に下げられてもよい。MG温度が第4制限閾値T4から第4制限閾値T4よりも大きくかつ第5制限閾値T5未満の値に上昇する間に、MG出力の制限値が第3制限値R3から第4制限値R4まで徐々に下げられてもよい。MG温度が第5制限閾値T5から上昇するにつれて、MG出力の制限値が第4制限値R4から0まで徐々に下げられてもよい。
【0055】
また、前述の実施形態では、HVECU17の不揮発性メモリに、MG温度とMG出力の制限値との関係が記憶されており、その関係からMG温度に応じた制限値が設定されるとした。しかしながら、これに限らず、MG温度と正の相関関係を有する変数とMG出力の制限値との関係がHVECU17の不揮発性メモリに記憶されて、その関係からMG温度と正の相関関係を有する変数に応じた制限値が設定されてもよい。MG温度と正の相関関係を有する変数としては、たとえば、駆動モータ4を駆動するインバータ14に含まれるスイッチング素子の温度、PCU12を冷却する冷却水の温度などを例示することができる。
【0056】
さらには、HVECU17の不揮発性メモリに、MG温度またはMG温度と正の相関関係を有する変数とMG出力の制限率(駆動モータ4の最大出力値に対する制限値の割合)が記憶されて、その関係からMG温度などに応じた制限率が設定されて、駆動モータ4の最大出力値に制限率を乗じて得られる値に制限値が設定されてもよい。
【0057】
また、前述の実施形態では、最大出力値と第1制限値R1との差を第1制限量とし、第1制限値R1と第2制限値R2との差を第2制限量とし、第2制限値R2と第3制限値R3との差を第3制限量とし、第3制限値R3と第4制限値R4との差を第4制限量とした場合に、第1制限量、第2制限量、第3制限量および第4制限量が第1制限量<第2制限量<第3制限量<第4制限量の関係を有しているが、たとえば、第1制限量=第2制限量<第3制限量=第4制限量の関係を有するように、第1制限量、第2制限量、第3制限量および第4制限量が設定されてもよい。これにより、制限開始閾値T1からのMG温度の超過温度が小さい間は、MG出力の低下によるハイブリッド車両1の走行性能の低下を極力抑えながらMG温度の上昇を抑えることができ、それでもMG温度が上昇し続けた場合には、MG出力の制限量が大きくなり、走行性能の確保よりも駆動モータ4などの部品保護を優先することができる。
【0058】
前述の実施形態では、シリーズ方式のハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車両1を取り上げたが、本発明は、シリーズ・パラレル方式など、シリーズ方式以外の方式のハイブリッドシステムを搭載した車両に適用可能である。シリーズ・パラレル方式のハイブリッドシステムでは、たとえば、エンジンおよびモータが遊星歯車機構に接続されており、エンジンからの動力を分割してモータおよび駆動輪に振り分けることができ、エンジンからの動力およびモータからの動力を合成して駆動輪に伝達することができる。また、本発明は、ハイブリッドシステムを採用した車両に限らず、モータを搭載した車両であれば、電気自動車(EV:Electric Vehicle)に適用することもできる。
【0059】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1:ハイブリッド車両(車両)
4:駆動モータ(モータ)
17:HVECU(車両用制御装置、出力制御手段、制限値設定手段)
T1-T2,T2-T3,T3-T4,T4-T5:範囲