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特開2022-150976異風味が抑制された、高度不飽和脂肪酸を含有する油脂含有食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150976
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】異風味が抑制された、高度不飽和脂肪酸を含有する油脂含有食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20220929BHJP
   A23D 9/04 20060101ALI20220929BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20220929BHJP
   A23G 1/36 20060101ALI20220929BHJP
   A23G 9/32 20060101ALI20220929BHJP
   A23L 27/00 20160101ALN20220929BHJP
   A23L 27/10 20160101ALN20220929BHJP
【FI】
A23L5/00 L
A23D9/04
A23D9/00 512
A23D9/00 518
A23G1/36
A23G9/32
A23L27/00 Z
A23L27/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053828
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永渕 詢大
(72)【発明者】
【氏名】盛川 美和子
【テーマコード(参考)】
4B014
4B026
4B035
4B047
【Fターム(参考)】
4B014GB01
4B014GB18
4B014GB19
4B014GB20
4B014GB21
4B014GB22
4B014GG07
4B014GG11
4B014GG14
4B014GK03
4B014GK05
4B014GK07
4B014GL11
4B014GP01
4B014GP13
4B014GP27
4B026DC01
4B026DG02
4B026DG03
4B026DG05
4B026DG14
4B026DH01
4B026DL02
4B026DL07
4B026DP01
4B026DP03
4B026DP10
4B026DX01
4B026DX04
4B026DX05
4B035LC02
4B035LG12
4B035LG42
4B035LP59
4B047LB02
4B047LE02
4B047LE03
4B047LF06
4B047LF09
4B047LG11
4B047LG54
4B047LP02
4B047LP04
4B047LP05
4B047LP20
(57)【要約】
【課題】
本発明は、高度不飽和脂肪酸を含有する油脂含有食品において、異風味を抑制することを課題とする。
【解決手段】
温水洗浄した油脂を使用することにより、高度不飽和脂肪酸を含有する油脂含有食品において、異風味を抑制できることを見いだし本発明を完成した。
使用する油脂は、物理的精製を施したものが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高度不飽和脂肪酸を0.1~2質量%含有し、全油脂の40~99.9質量%が温水洗浄された油脂である、油脂含有食品。
【請求項2】
該温水洗浄された油脂が、物理的精製を受けた油脂である、請求項1記載の油脂含有食品。
【請求項3】
該温水洗浄された油脂が、パーム油、ヤシ油、パーム核油、エステル交換油、大豆油から選ばれる1以上である、請求項1又は2に記載の油脂含有食品。
【請求項4】
該油脂含有食品が冷菓、チョコレート様食品、油中水型乳化油脂組成物、水中油型乳化油脂組成物から選ばれるものである、請求項1~3いずれか1項に記載の油脂含有食品。
【請求項5】
高度不飽和脂肪酸を0.1~2質量%含有し、油脂含有食品中の全油脂の40~99.9質量%を温水洗浄された油脂とする、油脂含有食品の製造法。
【請求項6】
該温水洗浄された油脂が物理的精製を受けた油脂である、請求項5記載の油脂含有食品の製造法。
【請求項7】
高度不飽和脂肪酸を0.1~2質量%含有する油脂含有食品において、全油脂の40~99.9質量%を温水洗浄された油脂とする、異風味を低減する方法。
【請求項8】
該温水洗浄された油脂が物理的精製を受けた油脂である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
油脂を温水洗浄することを特徴とする、高度不飽和脂肪酸を使用した油脂含有食品用の油脂製造法。
【請求項10】
温水洗浄する該油脂が、物理的精製を受けた油脂であることを特徴とする、請求項9記載の油脂製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異風味が抑制された、高度不飽和脂肪酸を含有する油脂含有食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高度不飽和脂肪酸は、その生理作用等から摂取が推奨されているものの、酸化により異風味が発生する場合があり、各種の食品に広く使用する際に困難が生じる場合がある。
特許文献1には、「高度不飽和脂肪酸含有油脂を事前に所定の融点を示す油脂と混合して油相とし、これを水相と混合して水中油型乳化組成物たる乳化組成物調製用プレミックスとすることで、これを用いて調製された組成物は、高度不飽和脂肪酸に由来する異風味の発生が抑制された、風味良好な製品が得られる」旨、記載されている。
特許文献2には、「DHAとEPAの合計量に対して所定量のラウリン酸を含有させることにより、高度不飽和脂肪酸に由来する異風味の発生を抑制できる」旨記載されている。
非特許文献1には、油脂の一般的な製造技術について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2018/061723号パンフレット
【特許文献2】国際公開WO2019/146207号パンフレット
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】オレオサイエンス第1巻第7号(2001)P779~784
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高度不飽和脂肪酸を含有する油脂含有食品において、異風味を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、課題の解決に向け鋭意検討を行った。特許文献1や2の技術を用いることにより、高度不飽和脂肪酸を含有する食品において、高度不飽和脂肪酸に由来する異風味をある程度は抑えることが可能となった。しかし、特許文献1では、高度不飽和脂肪酸含有油脂を事前に所定の融点を示す油脂と混合し乳化物とする必要がある等、操作が煩雑であった。また特許文献2では、配合上の制限を受ける場合があった。
【0007】
非特許文献1は、油脂の一般的な精製方法が記載されたものに過ぎず、高度不飽和脂肪酸に由来する異風味の発生を抑制する方法との関連性は、何ら示唆されていない。
【0008】
本発明者は更に検討を行ったところ、従来、高度不飽和脂肪酸を含む食品においては、酸化に由来して、異風味が経時的に発生していると考えられていた。しかし、本発明者の検討により、高度不飽和脂肪酸組成物自体の風味は良好であるにもかかわらず、該高度不飽和脂肪酸組成物を含む油脂含有食品を調製した際に、異風味が感知される現象を見いだした。無論、油脂含有食品に使用する、該高度不飽和脂肪酸組成物以外の油脂は、それ自体では風味良好なものであったにもかかわらず、上記の様な現象が確認された。
そして、その異風味は、該油脂含有食品に使用する油脂が物理的精製 を経たものである場合に、温水洗浄する事で、顕著に改善できる事を見いだし、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)高度不飽和脂肪酸を0.1~2質量%含有し、全油脂の40~99.9質量%が温水洗浄された油脂である、油脂含有食品、
(2)該温水洗浄された油脂が、物理的精製を受けた油脂である、前記(1)記載の油脂含有食品、
(3)該温水洗浄された油脂が、パーム油、ヤシ油、パーム核油、エステル交換油、大豆油から選ばれる1以上である、前記(1)又は(2)に記載の油脂含有食品、
(4)該油脂含有食品が冷菓、チョコレート様食品、油中水型乳化油脂組成物、水中油型乳化油脂組成物から選ばれるものである、(1)~(3)いずれか1項に記載の油脂含有食品、
(5)高度不飽和脂肪酸を0.1~2質量%含有し、油脂含有食品中の全油脂の40~99.9質量%を温水洗浄された油脂とする、油脂含有食品の製造法、
(6)該温水洗浄された油脂が物理的精製を受けた油脂である、前記(5)記載の油脂含有食品の製造法、
(7)高度不飽和脂肪酸を0.1~2質量%含有する油脂含有食品において、全油脂の40~99.9質量%を温水洗浄された油脂とする、異風味を低減する方法、
(8)該温水洗浄された油脂が物理的精製を受けた油脂である、前記(7)記載の方法、
(9)油脂を温水洗浄することを特徴とする、高度不飽和脂肪酸を使用した油脂含有食品用の油脂製造法、
(10)温水洗浄する該油脂が、物理的精製を受けた油脂であることを特徴とする、前記(9)記載の油脂製造法、
に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高度不飽和脂肪酸を含む油脂含有食品において、異風味の発生を抑制する事ができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において高度不飽和脂肪酸とは、不飽和結合を2以上有する不飽和脂肪酸のことを言う。代表的には、DHA(ドコサエキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)を挙げる事ができ、これらを含む油脂含有食品において、異風味を抑制できることが、本発明の特徴である。
なお、本発明における高度不飽和脂肪酸は、グリセリンに1~3のいずれかの個数結合したトリグリセライド(いわゆる油脂)の状態で存在するものである。
【0012】
本発明において物理的精製とはフィジカルリファイニング、或いはスチームリファイニングともよばれるものであり、油脂の精製において、アルカリを使う脱酸工程(アルカリ法)の代わりに、水蒸気蒸留により脂肪酸を蒸留分離する精製法である。
油脂によっては、粗油の酸価が高いものがあり、このような油脂にアルカリ法を適用すると、歩留まりが低下して問題となることがある。このような油脂に対して、水蒸気蒸留により脂肪酸を蒸留分離することで、歩留まりを改善する事ができる。一般的にはガム質の少ないパーム油、ヤシ油やヒマワリ油に適する方法と言われている。パーム油の精製では、物理的精製法を経たものが主流である旨報告されている(「パーム油白書2012」http://www.bctj.jp/2017/wp-content/uploads/2020/06/palmwp2012.pdf 2021年3月1日検索)。
【0013】
本発明において温水洗浄に供される油脂は、物理的精製を受けた油脂であることが望ましい 。物理的精製を受けた油脂に対して本発明を適用することにより、高度不飽和脂肪酸を含有する油脂含有食品において、異風味の発生を劇的に抑制することができる。
なお、本発明では温水洗浄されることに意味があり、未精製の油脂を温水洗浄した後に、物理的精製を受けたものも、本発明に含まれる。即ち、物理的精製と温水洗浄の順番は問わない 。
【0014】
本発明においては、油脂自体では風味良好であっても、当該油脂が高度不飽和脂肪酸を含む油脂含有食品に使用された場合に、異風味の原因となることを見いだしたものである。
ここで言う異風味は、該油脂含有食品の調製直後でも認識されるものであり、高度不飽和脂肪酸が経時的に酸化を受ける事で生じるものでもない点で特徴的である。そして該異風味は、使用する油脂を温水洗浄することにより低減することができることを見いだしたものである。
【0015】
本発明においては、物理的精製された油脂を使用することが望ましいが、油脂種は特に限定されない。無論、物理的精製された油脂は容易に入手できるものが望ましい。より具体的には、パーム油、ヤシ油、パーム核油、菜種油、ヒマワリ油、大豆油、こめ油、コーン油、綿実油、落花生油、ベニバナ油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、中鎖脂肪酸結合油脂(MCT)、シア脂、サル脂を挙げる事ができ、より望ましくはパーム油、ヤシ油、パーム核油であり、更に望ましくはパーム油である。本発明においては、これらから選ばれる1以上の油脂を分別、硬化、エステル交換から選ばれる1以上の加工を施したものも使用することができる。
適当な油脂を選択し、該油脂を温水洗浄する事で、高度不飽和脂肪酸を含有する油脂含有食品に使用した場合に、異風味の発生を抑制することができる。
【0016】
本発明において油脂含有食品とは、油脂を含有する加工食品のことを言う。具体的には、冷菓、チョコレート様食品、ヨーグルト、チーズの他、油中水型乳化油脂組成物であるマーガリンやファットスプレッド、ショートニング、および、これらを使ったパンや菓子を挙げる事ができる。また、水中油型乳化油脂組成物であるマヨネーズ、クリームを始めとするフィリングを挙げる事ができる。より望ましくは冷菓、チョコレート様食品、ヨーグルト、チーズ、油中水型乳化油脂組成物を挙げる事ができ、更に望ましくは冷菓である。ここで言う冷菓は、いわゆるアイスクリームやアイスミルク等の、「油脂を含有する冷菓」であり、かき氷等の、油脂を含まない物は対象ではない。無論、通常であれば油脂を含まない製品であっても、あえて油脂を含ませる場合も考えられ、その場合は本発明の対象となる場合がある。
【0017】
本発明における油脂含有食品においては、油脂を3~80質量%含有する事が望ましい。この量は、より望ましくは5~50質量%であり、更に望ましくは7~20質量%である。適当な量の油脂を含有することで、高度不飽和脂肪酸に由来する経時的な異風味の発生を適切に抑制する事ができる。
なお、上記の油脂の含有量には、高度不飽和脂肪酸を含む油脂も含まれる。
【0018】
本発明の油脂含有食品には、高度不飽和脂肪酸を0.1~2質量%含有している必要がある。この量は、より望ましくは0.2~1質量%であり、更に望ましくは0.3~0.7質量%である。適当な量の高度不飽和脂肪酸を含有する事で、該高度不飽和脂肪酸に由来する効果を謳う製品とすることができる。
【0019】
本発明における油脂含有食品においては、全油脂中の40~99.9質量%が温水洗浄された油脂である必要がある。この量は、より望ましくは55~95質量%であり、更に望ましくは70~90質量%である。適当な量の、温水洗浄された油脂を含有することで、高度不飽和脂肪酸に由来する異風味の発生を低減することができる。
【0020】
なお本発明において、油脂を温水洗浄する事により、高度不飽和脂肪酸を含有する油脂含有食品において、その風味が改善する理由は定かではない。何らかの、水溶性の原因物質が存在し、該原因物質は、そのままであれば異風味等を発生しないものの、高度不飽和脂肪酸と共存する事により異風味を生じる様にも思われるが、詳細は不明である。
【0021】
本発明において油脂の温水洗浄とは、油脂を温水で洗浄する工程をいう。
具体的には、油脂に対して0.05~0.6倍の温水を添加し、攪拌後、その水を除去する工程である。この一連の工程は複数回繰り返すこともできる。また、強力な攪拌機を用いることで、効率をあげる事もできる。無論、攪拌力の弱い攪拌機を使用する場合は、攪拌する時間を長くしたり、又、温水洗浄を複数回行うことでも対応が可能である。そのため、本発明に係る油脂の温水洗浄において、温水の添加量や攪拌の条件を厳密に規定することは現実的ではない。
本発明における温水洗浄の条件は、油脂の温水洗浄が有効であることを知った当業者であれば、実施例を参考にして、自身のもつ攪拌機の性能等から適宜条件設定できるものである。
なお、温水洗浄の工程を一例として以下に記載する。
【0022】
1 融解した食用油脂100重量部に、70℃の温水5~60重量部を加える工程。
2 PRIMIX社製ホモミキサーで5000rpm、1分間攪拌する工程。
3 2.28×10G・sec、5分間の遠心分離により分離する工程。
4 デカンテーションにより、油脂を回収する工程。
なお、その後真空下で加温する事により乾燥したり、さらに脱色、脱臭工程を追加する事も可能である。
【0023】
温水洗浄は、酸ないしアルカリを添加後に行ってもよいし、また酸やアルカリを用いずに行う事もできる。効果は同じである。
また、「温水」と称しているが、実質的には水である。即ち油脂によっては融点が高いものもあり、このような油脂は加温して初めて液状となるが、ここへ温度の低い水を添加すると、凝固してしまう場合がある。油脂が凝固した場合は、洗浄操作が困難になると推定されることから、あくまでも油脂が凝固しない程度に温度を上げた水であるという意味で温水と表現したものである。
なお、本発明で通常行う温水洗浄においては、その温度は50~80℃が望ましく、より望ましくは54~70℃であり、更に望ましくは65~70℃である。適当な温度の水で温水洗浄を行う事で、高度不飽和脂肪酸を含有する油脂含有食品に該油脂を使用した場合において、異風味を抑制することができる。
【0024】
本発明はまた、高度不飽和脂肪酸を含有する油脂含有食品において、異風味が抑制された油脂含有食品の製造法ととらえることができる。具体的には、使用する油脂の所定量を、温水洗浄された油脂とする事を特徴とするものである。
【0025】
本発明は更に、高度不飽和脂肪酸を含有する油脂含有食品において、異風味を抑制する方法の発明ととらえることもできる。具体的には、使用する油脂の所定量を、温水洗浄された油脂とする事を特徴とするものである。
【0026】
本発明は高度不飽和脂肪酸を使用した油脂含有食品用の油脂の製造法ととらえることもできる。ここで「高度不飽和脂肪酸を使用した油脂含有食品用」とは、高度不飽和脂肪酸を使用した油脂含有食品に使用した場合に生じる異風味を低減することができるという、従来知られていない用途である。そして、温水洗浄された油脂が、このような用途に特に適する事を見いだしたものである。
以下、実施例により、より詳細に発明の実施態様を説明する。
【実施例0027】
検討1 油脂の準備
表1-1に従い油脂を準備した。エステル交換の詳細は「○エステル交換方法の詳細」に記入した。酸洗浄の詳細は、「○酸洗浄の詳細」に記載した。なお、それぞれの油脂は、日頃から油脂の開発に従事するパネラー3名が食し、合議により、風味的に異常のないものであることが確認された。
【0028】
表1-1 油脂の配合
・パーム油には、不二製油株式会社製「精製パーム油」を使用した。本品は食用油脂としての一般的精製(物理的精製)を経た食品用の製品であった。
【0029】
○エステル交換方法の詳細
原料油脂1.0kgに、ナトリウムメチラートを触媒として1.5g添加し、80℃にて30分ランダムエステル交換を行った後、常法に従い水洗/脱色/脱臭を行いエステル交換油脂を得た。
【0030】
○酸洗浄の詳細
1 油脂を60℃に加熱した。
2 1の油脂をPRIMIX社製ホモミキサー(5000rpm)にて攪拌しながら、50質量%クエン酸水溶液を対油5質量%添加した。
3 ただちに温水(60℃)を対油20質量%添加した。
4 PRIMIX社製ホモミキサーにて攪拌した(5000rpm×4分間)。
5 温水(60℃以上)を対油20質量%添加した。
6 PRIMIX社製ホモミキサーにて攪拌した(5000rpm×1分間)。
7 遠心分離(2000rpm×5分間)にて水層を除去した。
8 温水(60℃)を対油10質量%添加した。
9 PRIMIX社製ホモミキサーにて攪拌した(5000rpm×3分間)。
10 遠心分離(2000rpm×5分間)にて水層を除去した。
以降、常法に従い脱水処理後、脱色、脱臭操作を行った。
【0031】
検討2 冷菓の調製と評価
油脂含有食品として、表2-1の配合に従い冷菓を調製した。冷菓の調製方法は「○冷菓の調製方法」に従った。
得られた冷菓を「○冷菓の評価方法」に従い、評価した。結果を表2-2に記載した。
【0032】
表2-1 冷菓の配合
・デキストリンには三和澱粉株式会社製のデキストリンである「サンデック#250」(DE22~26)を使用した。
・乳化剤1には理研ビタミン製のモノグリセライドである「エマルジーMS」を使用した。
・高度不飽和脂肪酸組成物には、不二製油株式会社製「プロレアC」を使用した。本品は高度不飽和脂肪酸を43質量%含有するものであった。
【0033】
○冷菓の調製方法
1 油脂以外の原材料をホモミキサーにて60℃、7000rpm、20分混合した。
2 油脂を投入し、ホモミキサーにて60℃、7000rpm、10分混合した。
3 高圧ホモゲナイザーにて15Mpaで均質化した。
4 70℃、200rpm、30分殺菌処理を行った。
5 冷蔵庫にて1晩エージングした。
6 アイスクリーマー(Cuisinart製)にてオーバーランが60となるまで練った。
7 アイスカップ(40ml容)に分注し、-34℃にてショックフリーズを1時間行った。
8 -20℃冷凍下にて保存し、風味評価に供した。
【0034】
○冷菓の評価方法
1 評価対象の冷菓を、5℃に60分間放置した。
2 日々、油脂の開発業務に従事しているパネラー3名により、冷菓を食し、以下の評価基準にて、合議により評価を行った。
-20℃保管1ヶ月後において4点以上を合格と判断した。
「評価基準」
点数と判断基準
5+:劣化臭、魚臭が感じられず、他の臭い(酸っぱさ等)も感じられないもの。
5 :劣化臭、魚臭が感じられないもの。
4 :劣化臭、魚臭は感じられないが、若干の違和感が感じられるもの。
3 :ごく僅かに劣化臭、魚臭が感じられるもの。
2 :劣化臭、魚臭が感じられるもの。
1 :劣化臭、魚臭が強く感じられるもの。
0 :劣化臭、魚臭が非常に強く感じられるもの。
【0035】
表2-2 冷菓の評価結果
【0036】
考察
・表2-2に示されたとおり、温水洗浄された油脂を使用することにより、高度不飽和脂肪酸に由来する異風味は、冷菓の調製直後も、また1ヶ月保管後も抑制されていた。
【0037】
検討3 油脂の準備2
表3-1に従い、パーム油を処理した。使用したパーム油は検討1と同じ不二製油株式会社製の物理的精製が行われた「精製パーム油」であった。油脂の処理は「○油脂の処理方法の詳細」に従った。
【0038】
表3-1 油脂の処理
【0039】
○油脂の処理方法の詳細
1.60℃で融解したパーム油に対油5質量%でそれぞれの使用薬剤を設定された濃度で添加した。なお、実施例3-5では温水を、比較例3-1では何も加えなかった。
2.ホモミキサー(5000 rpm×4分)で攪拌しながら温水(75-85℃)を対油20質量%添加した。但し、比較例3-1では何も加えなかった。
3.さらにホモミキサー(5000 rpm×1分)で攪拌しながら温水(75-85℃)を対油20質量%添加した。但し、比較例3-1では何も加えなかった。
4.遠心分離(2000 rpm×5分)を行い、下層(水層)を除去した。但し、比較例3-1では下層は存在しなかった。
5.ホモミキサー(5000 rpm×3分)で攪拌しながら温水(75-85℃)を対油10質量%添加した。但し、比較例3-1では何も加えなかった。
6.遠心分離(2000 rpm×5分)を行い、下層(水層)を除去した。但し、比較例3-1では下層は存在しなかった。
以降、常法に従い脱水処理後、脱色、脱臭操作を行った。
【0040】
検討4 冷菓の調製と評価2
油脂含有食品として、表4-1の配合に従い冷菓を調製した。冷菓の調製方法は「○冷菓の調製方法」に従った。
得られた冷菓を「○冷菓の評価方法」に従い、評価した。結果を表4-2に記載した。
【0041】
表4-1 冷菓の配合
・高度不飽和脂肪酸組成物には、不二製油株式会社製「プロレアC」を使用した。本品は高度不飽和脂肪酸を43質量%含有するものであった。
・デキストリンには三和澱粉株式会社製のデキストリンである「サンデック#250」(DE22~26)を使用した。
・乳化剤1には理研ビタミン製のモノグリセライドである「エマルジーMS」を使用した。
【0042】
表4-2 風味評価
【0043】
考察
・表4-2の通り、パーム油を温水、酸やアルカリで洗浄する事で、高度不飽和脂肪酸を含む冷菓において、風味が改善する傾向が確認された。共通する工程は温水洗浄であり、温水洗浄により、風味改善効果が生じていることが確認された。

・パーム油は、物理的精製を行ったものも、その後に酸洗浄や温水洗浄を行ったものも、油脂としての風味は良好であった。また、これらを用いて調製された冷菓は、高度不飽和脂肪酸組成物を併用しない場合は、いずれの風味も良好であった(比較例4-2,4-4)。
・比較例4-1は、比較例4-2で使用したパーム油の一部を高度不飽和脂肪酸組成物で置換したものである。高度不飽和脂肪酸組成物自体の風味は良好なものであったが、実際に冷菓を調製すると、その風味はやや劣るものであった。即ち、高度不飽和脂肪酸が酸化し易く、結果、経時的に異風味を発生する事は知られていたものの、冷菓の調製直後の段階で、劣化したような風味が観察されることを本発明者は見いだした。
・上記の様な、劣化したような風味を改善する方法として、油脂の温水洗浄が有効であることを見いだした。