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特開2022-150982検査装置、検査システム、及び検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150982
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】検査装置、検査システム、及び検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/44 20060101AFI20220929BHJP
   G01N 21/35 20140101ALI20220929BHJP
【FI】
G01N33/44
G01N21/35
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053837
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 隆
(72)【発明者】
【氏名】井原 正博
(72)【発明者】
【氏名】丸野 浩昌
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB09
2G059CC20
2G059DD01
2G059EE02
2G059EE10
2G059HH01
(57)【要約】
【課題】マイクロプラスチック等の対象物の個々の重量を、効率良く且つ高い精度で以て検査する。
【解決手段】本発明に係る検査装置の一態様は、ステージ上で散在する対象物群を圧潰して所定の厚さになるように平坦化する平坦化部(3)と、平坦化された前記対象物群に含まれる少なくとも一部の対象物について厚さの方向に直交する面内でのサイズに関連する情報を取得するサイズ取得部(41、52)と、平坦化される前又は後の前記対象物を光学的に分析し、その分析結果に基いて該対象物に含まれる樹脂の種類を識別する識別部(40、50)と、前記識別部により得られた樹脂の種類の情報と前記サイズに関連する情報とを利用して、前記対象物の重量に関連する情報を求める重量算出部(51、53)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含む対象物を検査する検査装置であって、
ステージの上で散在する対象物群を圧潰して平坦化する平坦化部と、
平坦化された前記対象物群に含まれる少なくとも一部の対象物について厚さ方向に直交する面内でのサイズに関連する情報を取得するサイズ取得部と、
平坦化される前又は後の前記対象物を光学的に分析し、その分析結果に基いて該対象物に含まれる樹脂の種類を識別する識別部と、
前記識別部により得られた樹脂の種類の情報と前記サイズに関連する情報とを利用して、前記対象物の重量に関連する情報を求める重量算出部と、
を備える検査装置。
【請求項2】
前記重量算出部は、樹脂の種類毎の比重の情報を有し、該比重の情報を利用して前記対象物の重量に関連する情報を求める、請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記サイズに関連する情報は面積値である、請求項2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記重量算出部は、比重の情報と面積値に加え、前記平坦化部による平坦化の際の厚さの情報を用いて、前記対象物の重量を算出する、請求項3に記載の検査装置。
【請求項5】
前記平坦化部は、前記対象物群に熱を加えながら該対象物群を圧潰するものである、請求項1~4のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項6】
前記光学的な分析はフーリエ変換赤外分光光度測定である、請求項1~5のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項7】
前記サイズ取得部は、複数の平坦化された対象物を撮影する画像取得部を含み、撮影された画像に基いて対象物を計数する計数部、をさらに備える、請求項1~6のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の検査装置と、
複数の対象物が重なり合わずに散在する状態の試料を作成するための試料作成装置と、を備えた検査システム。
【請求項9】
樹脂を含む対象物を検査する検査方法であって、
ステージ上で散在する対象物群を圧潰して所定の厚さになるように平坦化する平坦化ス
テップと、
平坦化された前記対象物群に含まれる少なくとも一部の対象物について厚さの方向に直交する面内でのサイズに関連する情報を取得するサイズ取得ステップと、
平坦化される前又は後の前記対象物についての光学的な分析結果に基いて、該対象物に含まれる樹脂の種類を識別する識別ステップと、
前記識別ステップにおいて得られた樹脂の種類の情報と前記サイズに関連する情報とを利用して、前記対象物の重量に関連する情報を求める重量算出ステップと、
を有する検査方法。
【請求項10】
前記重量算出ステップでは、樹脂の種類の情報から該樹脂の比重を調べ、該比重を利用して前記対象物の重量に関連する情報を求める、請求項9に記載の検査方法。
【請求項11】
前記サイズに関連する情報は面積値である、請求項10に記載の検査方法。
【請求項12】
前記重量算出ステップでは、比重の情報と面積値に加え、前記平坦化ステップにおける平坦化の際の厚さの情報を用いて、前記対象物の重量を算出する、請求項11に記載の検査方法。
【請求項13】
前記平坦化ステップでは、前記対象物群に熱を加えながら該対象物群を圧潰する、請求項9~12のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項14】
前記光学的な分析はフーリエ変換赤外分光光度測定である、請求項9~13のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項15】
前記対象物はマイクロプラスチックである、請求項9~14のいずれか1項に記載の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂を含む対象物を検査する検査装置、検査システム、及び検査方法に関し、さらに詳しくは、マイクロプラスチックのような、微小・微細である対象物の個々の重量を調べるのに好適な装置、システム、及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックごみによる環境汚染は世界的に大きな問題となっている。特に、マイクロプラスチックと呼ばれている大きさが5mm以下のプラスチックは、河川や海洋の生態系に悪影響を与え、食物連鎖によって人間の健康にも影響を及ぼす可能性があるとして懸念が強まっている。こうしたことから、マイクロプラスチックの大規模な分布調査や発生源の特定を目的とした研究が世界の各所で積極的に行われている。
【0003】
現在、マイクロプラスチックの成分分析には、フーリエ変換赤外分光光度計(以下「FTIR」と略す)や、FTIRを利用した赤外顕微鏡などの光学分析法が広く利用されている(非特許文献1参照)。
【0004】
マイクロプラスチックの発生源や由来を調べるには、成分分析のみならず、個々のマイクロプラスチックの大きさや形状、或いは色などの外観検査も欠かすことができない。そのために、非特許文献2に開示されているように、マイクロプラスチックをカメラなどで撮影し、その撮影画像に対して画像処理を行うことでサイズや形状などの情報を取得する技術が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】プリムプケ(Sebastian Primpke)、「リファレンス・データベース・デザイン・フォー・ジ・オートメイテッド・アナリシス・オブ・マイクロプスラチック・サンプルズ・ベースド・オン・フーリエ・トランスフォーム・インフラレッド・スペクトロスコピー(Reference database design for the automated analysis of microplastic samples based on Fourier transform infrared (FTIR) spectroscopy)」、アナリティカル・アンド・バイオアナリティカル・ケミストリー(Analytical and Bioanalytical Chemistry)、Vol.410、2018年、pp.5131-5141
【非特許文献2】「III.海表面を浮遊するマイクロプラスチックに係る調査」、平成26年度沖合海域における漂流・海底ごみ実態把握調査報告書、[Online]、[2021年2月19日検索]、インターネット<URL: https://www.env.go.jp/water/marine_litter/H26okiai_2.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
海洋や河川におけるマイクロプラスチックの拡散の仕方や生物内での蓄積の状況などを調べる際には、個々のマイクロプラスチックの重量も一つの重要な情報である。一般に、海洋や河川などからマイクロプラスチックを回収する際には、海洋水や河川水などの液体サンプルから金属メッシュフィルターなどを用いてマイクロプラスチックを取り出す。メッシュフィルターに取り出された多数のマイクロプラスチックの全体の重量は、メッシュフィルターを含むマイクロプラスチックの総重量とメッシュフィルターの重量との差分を求めることによって容易に把握可能である。
【0007】
しかしながら、個々のマイクロプラスチックは非常に軽量であるし、マイクロプラスチックを1個1個ピックアップする作業には大変な労力と時間が掛かる。そのため、個々のマイクロプラスチックの重量を把握することは非常に困難である。また、可能であったとしても非常に大きな手間が掛かり効率が悪い。
【0008】
本発明はこうした課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、マイクロプラスチックを代表とする樹脂を含む微小・微細な対象物の個々の重量を、効率良く且つ高い精度で以て検査することができる検査装置、検査システム、及び検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明に係る検査装置の一態様は、樹脂を含む対象物を検査する検査装置であって、
ステージ上で散在する対象物群を圧潰して所定の厚さになるように平坦化する平坦化部と、
平坦化された前記対象物群に含まれる少なくとも一部の対象物について厚さの方向に直交する面内でのサイズに関連する情報を取得するサイズ取得部と、
平坦化される前又は後の前記対象物を光学的に分析し、その分析結果に基いて該対象物に含まれる樹脂の種類を識別する識別部と、
前記識別部により得られた樹脂の種類の情報と前記サイズに関連する情報とを利用して、前記対象物の重量に関連する情報を求める重量算出部と、
を備える。
【0010】
また、本発明に係る検査システムの一態様は、本発明に係る検査装置のいずれかの態様と、複数の対象物が重なり合わずに散在する状態の試料を作成するための試料作成装置と、を備える。
【0011】
また、本発明に係る検査方法の一態様は、樹脂を含む対象物を検査する検査方法であって、
ステージ上で散在する対象物群を圧潰して所定の厚さになるように平坦化する平坦化ステップと、
平坦化された前記対象物群に含まれる少なくとも一部の対象物について厚さの方向に直交する面内でのサイズに関連する情報を取得するサイズ取得ステップと、
平坦化される前又は後の前記対象物についての光学的な分析結果に基いて、該対象物に含まれる樹脂の種類を識別する識別ステップと、
前記識別ステップにおいて得られた樹脂の種類の情報と前記サイズに関連する情報とを利用して、前記対象物の重量に関連する情報を求める重量算出ステップと、
を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の上記態様によれば、様々な形状やサイズである樹脂を含む対象物について、その個々の重量に関する情報を、効率良く且つ高い精度で以て得ることができる。それにより、例えば海洋水や河川水中に拡散していたり、或いは、生体内に蓄積されていたりするマイクロプラスチックについて、より子細な情報を把握することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態であるマイクロプラスチック検査装置のブロック構成図。
図2】本実施形態のマイクロプラスチック検査装置における、圧潰前の試料(捕捉用メッシュ部材上に多数の切片が載ったもの)の上面図(A)及び正面図(B)。
図3】本実施形態のマイクロプラスチック検査装置における平坦化装置の概略構成図。
図4】1個のマイクロプラスチックの平坦化前の状態(A)及び平坦化後の状態(B)を示す図。
図5】本実施形態のマイクロプラスチック検査装置における光学分析装置の概略構成図。
図6】平坦化装置の変形例の概略構成図。
図7】マイクロプラスチックの重量算出例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において、検査対象である「対象物」は、典型的にはマイクロプラスチックであるものとすることができる。
【0015】
また、本発明において、対象物の「サイズに関連する情報」とは、例えば対象物の面積、周囲(輪郭)長などである。平坦化された1個の対象物の形状が平面視で略円形状又は略楕円形状である場合には、長軸と短軸の長さなどをサイズに関連する情報として用いることもできる。また、平坦化された1個の対象物の形状が平面視で略矩形状である場合には、その対角線の長さなどをサイズに関連する情報として用いることもできる。
【0016】
また、本発明において、「対象物の重量に関連する情報」とは、1個の対象物の絶対的な重量のほか、相対的な重量、つまりは複数の対象物の重量比を含むものとすることができる。
【0017】
以下、本発明に係る検査装置の一実施形態であるマイクロプラスチック検査装置について、添付図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態のマイクロプラスチック検査装置のブロック構成図である。このマイクロプラスチック検査装置は、主として海洋水、河川水などの液体中に混入しているマイクロプラスチックの検査を行うものであり、前処理装置1、試料作成装置2、平坦化装置3、光学分析装置4、データ処理装置5、及び出力装置6、を備える。
【0018】
光学分析装置4は、FITR測定部40と顕微画像取得部41とを含む。
データ処理装置5は、機能ブロックとして、樹脂種類識別部50、比重情報記憶部51、面積算出部52、及び重量算出部53を含む。このデータ処理装置5は、ハードウエア回路によって構成することも可能であるが、一般的には、パーソナルコンピューター等のコンピューターをハードウエア資源とし、該コンピューターに搭載したソフトウエア(コンピュータープログラム)を該コンピューター上で動作させることにより、各ブロックに対応する動作を実行させるようにすることができる。その場合、出力装置6はコンピューターに付設されるモニター等である。
【0019】
図1に示したマイクロプラスチック検査装置を構成する各装置の動作を説明する。
前処理装置1は、海洋水等のサンプル7中に分散している検査対象であるマイクロプラスチックの表面の汚れを除去するために酸を用いた洗浄処理を実施する。そのあと、前処理装置1は、ヨウ化ナトリウム(NaI)を利用した比重分離によって液体中でマイクロプラスチックを浮かせ、集まったマイクロプラスチック、つまりはプラスチックの微小な切片(以下、単に「切片」ということがある)を含む液体を金属メッシュフィルターで濾すことで多数の切片を捕集する。
【0020】
試料作成装置2は、その上に多数の切片(以下「切片群」ということがある)が載った状態である金属メッシュフィルター8を受け取る。切片が多量である場合、前処理装置1から受け渡された金属メッシュフィルター8上で切片同士が重なり合った状態であることが多い。その場合、そのままでは後述の平坦化処理等を行うことができない。そこで、試料作成装置2は、切片同士がメッシュフィルター上で適度に空間的に分離した状態である試料を作成する。具体的には、例えば次のような方法によってこうした試料を作成することができる。
【0021】
金属メッシュフィルターの一方の面に所定のパターン(例えば格子状の線の交点の位置)に従って複数の接着部を設けた捕捉用メッシュ部材90(図2参照)を用意し、該捕捉用メッシュ部材90を接着部を下に向けた状態で、切片群が載った金属メッシュフィルター8の上方に所定距離離して略平行に配置する。そして、送風部等により、金属メッシュフィルター8の下方から上方へと向かう空気流を生起する。金属メッシュフィルター8上の切片群は空気流によって舞い上げられ、捕捉用メッシュ部材90の接着部に接触した切片はその接着部に貼り付く。接触部において或る切片が貼り付いた箇所には他の切片は貼り付かないため、各切片は適度に分離した状態で捕捉用メッシュ部材90に固定化される。
【0022】
図2は、試料作成装置2から取り出される試料9の上面図(A)及び正面図(B)である。複数の接着部の配置のパターンや1個の接着部の大きさを適切に調整することによって、捕捉用メッシュ部材90上に様々なサイズの切片(マイクロプラスチック)100を適度に分離・分散させた状態で固定することができる。
【0023】
但し、後述するような個々の切片の重量の検査を実施するうえで、各切片の位置を固定することは必須ではなく、あくまでも切片同士の重なり合いや密着を避けるようにすればよい。したがって、切片の数がそれほど多くない場合には、例えば、切片群が載った金属メッシュフィルター8に振動を加えることで、各切片の分散を促進させるようにしてもよい。また、それ以外にも様々な方法を用いて切片の分散を促すことができる。
【0024】
平坦化装置3は、捕捉用メッシュ部材90上に多数の切片100が載った状態の試料9を受け取り、捕捉用メッシュ部材90上で各切片100を圧潰することで、その厚さを略一定に揃える平坦化処理を実行する。
【0025】
図3は、平坦化装置3の一例の概略構成図である。この平坦化装置3は、その表面が略水平で平坦であるステージ30と、ステージ30上に設けられるスペーサー31と、ステージ30の上方空間に位置し、その下面がステージ30の上面に平行で平坦であるプッシャー32と、プッシャー32を昇降させる昇降部33と、ステージ30及びプッシャー32を適度な温度に加熱する温度調整部34と、を備える。
【0026】
図4は、1個の切片100の平坦化前の状態(A)及び平坦化後の状態(B)を示す図である。図4(A)、(B)の右方の図は左方の図を上から見た状態の図である。
【0027】
試料(切片群が載置された捕捉用メッシュ部材90)9がステージ30上に載置されると、平坦化装置3において昇降部33はプッシャー32を降下させる。プッシャー32はその下面がスペーサー31に当接する高さまで降下する。一般に、マイクロプラスチックのサイズは様々であるが、ステージ30上で各切片の高さはいずれもスペーサー31の高さを越えている。そのため、全ての切片100がプッシャー32によって圧潰され、図4(B)に示すように、その上面は平らになるとともに周囲に拡がる。切片100が圧潰されたときの高さdは、スペーサー31の高さで調整され得る。図4(B)では、圧潰された状態の切片を符号100Aで示す。
【0028】
この圧潰動作に先立って、ステージ30及びプッシャー32の両方(又はいずれか一方)を適度に加熱しておくと、その熱によって切片100に含まれるプラスチックを軟化させ、圧潰時の割れや欠けの発生を抑えることができる。
【0029】
なお、平坦化された切片100Aの厚さdはスペーサー31を用いずに昇降部33による降下位置の精緻な調整によって行ってもよい。また、平坦化を行ったときに平坦化されずに実質的に元のままの形状を保つ切片が存在すると、そうした切片についてはその重量を正しく求めることができない。したがって、上記の厚さdは、検査対象である切片のサイズに応じて適切に定めるとよい。
【0030】
図6は、他の例による平坦化装置3Aの概略構成図である。
この装置は、試料(切片群が載置された捕捉用メッシュ部材90)9を水平に搬送する搬送ステージ35と、図示しない駆動源により回転される圧潰ローラー36と、を備える。搬送ステージ35によって、搬送ステージ35は、その搬送ステージ35と圧潰ローラー36との間に試料9を挟み込むように該試料9を搬送することで、切片群を平坦化する。図示しないが、この場合にも、搬送ステージ35と圧潰ローラー36との一方又は両方を適度な温度に加熱することで、切片に含まれるプラスチックを軟化させてより良好に平坦化することができる。
【0031】
上述したように、略一定の厚さになるように平坦化された多数の切片100Aが載置された状態の捕捉用メッシュ部材90は、光学分析装置4に搬入される。図5は、光学分析装置4における測定状態を示す概略構成図の一例である。測定用ステージ42は、図示しない駆動機構により、互いに直交するX軸方向とY軸方向に移動可能である。試料(平坦化された切片群が載置された状態の捕捉用メッシュ部材90)9Aは、測定用ステージ42の上にセットされる。顕微画像取得部41は、赤外光を透過し可視光を反射するダイクロイックミラー410、ミラー411、撮影光学系412、カメラ413を含む。
【0032】
FTIR測定部40及び顕微画像取得部41は、測定用ステージ42をX軸、Y軸の2軸方向に適宜に移動させつつ、測定用ステージ42上の切片1個1個について、それぞれFTIR測定による赤外スペクトルの取得と顕微画像取得とを実行する。
【0033】
即ち、FTIR測定部40から出射した測定光はダイクロイックミラー410を透過して1個の切片に当たり、その反射光は再びダイクロイックミラー410を透過してFTIR測定部40に入射する。この反射光はFTIR測定部40の検出器で検出され、FTIR測定部40は得られたデータをデータ処理装置5に送る。一方、平坦化された1個の切片の画像光はダイクロイックミラー410で反射され、ミラー411で再度反射されて、撮影光学系412を通してカメラ413に入射する。カメラ413は上記平坦化された1個の切片の画像データをデータ処理部5へと送る。なお、ミラー411を介さず撮像系412に通す構成であってもよい。
【0034】
上述したように、捕捉用メッシュ部材90の所定の位置に接着部が設けられていれば、2次元面内でのその位置は既知であるから、FTIR測定及び顕微画像取得の際の位置決めを容易に行うことができる。即ち、接触部が存在する範囲に大まかに位置決めを行い、その範囲内で各切片100Aが実際に存在する位置を認識してFTIR測定及び撮影を実施することができる。また、捕捉用メッシュ部材90上の各接着部にそれぞれ識別番号を割り当てることにより、FTIR測定データや画像データなどの情報を、識別番号に対応付けて保存することができる。
【0035】
データ処理装置5において、樹脂種類識別部50は、FTIR測定データを受けて赤外スペクトルを算出し、このスペクトルに基いて切片に含まれる樹脂の種類を識別する。この樹脂種類の識別は、得られたスペクトルと既知の樹脂の基準スペクトルとの類似度に基いて実施することができる。また、ディープラーニングを始めとする様々な機械学習を利用して予め作成しておいた学習済モデルにスペクトルデータを入力し、樹脂種類の識別結果を出力として得るようにすることもできる。いずれにしても、FTIR測定結果に基いて樹脂の種類の識別が可能であることは、よく知られていることである。
【0036】
比重情報記憶部51には、予め様々な樹脂について、既知の比重の情報が格納されている。樹脂種類識別部50から出力される樹脂種類の識別結果は比重情報記憶部51に入力され、比重が出力される。つまり、検査対象である1個の切片に含まれる樹脂の比重が比重情報記憶部51から出力される。一方、面積算出部52は、検査対象である平坦化された切片100Aを撮影した画像データに基いて、その面積値を算出する。つまり、図4(B)右に示したような、圧潰された1個の切片の面積を算出する。重量算出部53は、検査対象である1個の切片について、比重と、面積値と、厚さdとから重量を計算する。即ち、面積値と厚さとから体積が求まるから、これに比重を乗じることで重量を得ることができる。
【0037】
データ処理装置5は、光学分析装置4においてFTIR測定と撮影とが実施された全ての切片について、それぞれ重量を算出する。出力装置6はその重量の算出結果を例えば一覧表等(後述の図7参照)の所定の形式で表示する。データ処理装置5では、重量以外の各切片に関する他の情報も併せて求めることができる。例えば、一つの捕捉用メッシュ部材9に載っていた全ての切片の総数を計数し、出力装置6はその計数値を各切片の重量と共に出力することができる。また、総重量や平均重量などを計算して出力できることも当然である。
【0038】
図7は、本実施形態のマイクロプラスチック検査装置における切片の重量算出結果の一例である。図7において、PPはポリプロピレン、PEはポリエチレン、PSはポリスチレンである。例えばポリプロピレンは比重が0.9であるので、面積値と厚さとから算出した体積に、この比重を乗じることで重量を算出することができる。
【0039】
上記説明では、プラスチックを含む個々の切片の絶対的な重量を算出していたが、場合によっては、個々の切片の相対的な重量、つまりは重量比の情報が得られれば十分な場合もある。その場合、全ての切片の厚さが一定になっていれば、その厚さの情報自体は不要であり、各切片の比重と面積とから相対重量を求めることができる。
【0040】
なお、前処理装置1、試料作成装置2、平坦化装置3、及び光学分析装置4の間での試料の搬送や各装置への試料の装着は作業者が実行してもよいが、周知のハンドリング機構や搬送機構を用いて自動的に実施されるようにしてもよい。
【0041】
また、上記実施形態の装置では、プラスチックの種類の識別のためにFTIR測定を用いていたが、ラマン分光測定、蛍光X線分析などの、他の様々な光学的な測定を利用することができる。
【0042】
また、上記実施形態の装置では、撮影画像から平坦化された切片の面積を求めていたが、面積に代わる、サイズに関連する情報を求めてもよい。例えば、平坦化された1個の切片の輪郭線を抽出し、その輪郭線の長さ、つまりは平坦化された切片の周囲長を求め、これを面積に代えて利用してもよい。但し、周囲長を利用する場合には、平坦化された切片に割れ等があると正しい値が求まらない。したがって、輪郭線をスムージング処理(又は他の同様の処理)したあとに周囲長を算出するとよい。
【0043】
また、検査対象の1個の切片の形状が例えば円形状、楕円形状、矩形状など揃っているような場合には、面積や周囲長に代えて、直径(又は半径)、長径と短径、対角線の長さなどを用いることもできる。
【0044】
また、上記実施形態はあくまでも本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加等を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【0045】
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0046】
(第1項)本発明に係る検査装置の一態様は、樹脂を含む対象物を検査する検査装置であって、
ステージ上で散在する対象物群を圧潰して所定の厚さになるように平坦化する平坦化部と、
平坦化された前記対象物群に含まれる少なくとも一部の対象物について厚さの方向に直交する面内でのサイズに関連する情報を取得するサイズ取得部と、
平坦化される前又は後の前記対象物を光学的に分析し、その分析結果に基いて該対象物に含まれる樹脂の種類を識別する識別部と、
前記識別部により得られた樹脂の種類の情報と前記サイズに関連する情報とを利用して、前記対象物の重量に関連する情報を求める重量算出部と、
を備える。
【0047】
(第9項)本発明に係る検査方法の一態様は、樹脂を含む対象物を検査する検査方法であって、
ステージ上で散在する対象物群を圧潰して所定の厚さになるように平坦化する平坦化ステップと、
平坦化された前記対象物群に含まれる少なくとも一部の対象物について厚さの方向に直交する面内でのサイズに関連する情報を取得するサイズ取得ステップと、
平坦化される前又は後の前記対象物についての光学的な分析結果に基いて、該対象物に含まれる樹脂の種類を識別する識別ステップと、
前記識別ステップにおいて得られた樹脂の種類の情報と前記サイズに関連する情報とを利用して、前記対象物の重量に関連する情報を求める重量算出ステップと、
を有する。
【0048】
第1項に記載の検査装置及び第9項に記載の検査方法によれば、様々な形状やサイズである樹脂を含む対象物について、その個々の重量に関する情報を、効率良く且つ高い精度で以て得ることができる。それにより、例えば海洋水や河川水中に拡散していたり、或いは、生体内に蓄積されていたりするマイクロプラスチックについて、より子細な情報を把握することが可能となる。
【0049】
(第2項)第1項に記載の検査装置において、前記重量算出部は、樹脂の種類毎の比重の情報を有し、該比重の情報を利用して前記対象物の重量に関連する情報を求めるものとすることができる。
【0050】
(第10項)また同様に、第9項に記載の検査方法において、前記重量算出ステップでは、樹脂の種類の情報から該樹脂の比重を調べ、該比重を利用して前記対象物の重量に関連する情報を求めるものとすることができる。
【0051】
具体的には例えば、樹脂の種類と既知の比重との対応関係を予め記憶しておいた情報記憶部を用いることで、判明した樹脂の種類の情報から速やかに比重を求めることができる。
【0052】
(第3項)第2項に記載の検査装置において、前記サイズに関連する情報は面積値であるものとすることができる。
【0053】
(第11項)また同様に、第10項に記載の検査方法において、前記サイズに関連する情報は面積値であるものとすることができる。
【0054】
サイズに関連する情報としては面積値以外に例えば周囲長などがあるが、平坦化される際に対象物の周囲にひびや割れが生じたような場合であっても、面積値であれば正確な値を求めることが可能である。第3項に記載の検査装置及び第11項に記載の検査方法によれば、個々の対象物の重量に関する情報を高い精度で得ることができる。
【0055】
(第4項)第3項に記載の検査装置において、前記重量算出部は、比重の情報と面積値に加え、前記平坦化部による平坦化の際の厚さの情報を用いて、前記対象物の重量を算出するものとすることができる。
【0056】
(第12項)第11項に記載の検査方法において、前記重量算出ステップでは、比重の情報と面積値に加え、前記平坦化ステップのおける平坦化の際の厚さの情報を用いて、前記対象物の重量を算出するものとすることができる。
【0057】
第4項に記載の検査装置及び第12項に記載の検査方法によれば、個々の対象物の絶対的な重量に関する情報を高い精度で得ることができる。
【0058】
(第5項)第1項~第4項のいずれか1項に記載の検査装置において、前記平坦化部は前記対象物群に熱を加えながら該対象物群を圧潰するものとすることができる。
【0059】
(第13項)第9項~第12項のいずれか1項に記載の検査方法において、前記平坦化ステップでは、前記対象物群に熱を加えながら該対象物群を圧潰するものとすることができる。
【0060】
多くの場合、樹脂は加熱によって軟化するため、潰れ易くなり、且つひびや割れなどが生じにくくなる。第5項に記載の検査装置及び第13項に記載の検査方法によれば、平坦化の際に対象物にひびや割れが生じにくくなり、また一定の厚さになり易くなるので、作業効率が改善するとともに、個々の対象物の重量に関する情報の算出精度の向上にも繋がる。
【0061】
(第6項)第1項~第5項のいずれか1項に記載の検査装置において、前記光学的な分析はフーリエ変換赤外分光光度測定であるものとすることができる。
【0062】
(第14項)また同様に、第9項~第13項のいずれか1項に記載の検査方法において、前記光学的な分析はフーリエ変換赤外分光光度測定であるものとすることができる。
【0063】
第6項に記載の検査装置及び第14項に記載の検査方法によれば、対象物の色などの制約を受けずに、様々な種類の樹脂について正確にその種類を識別することが可能である。
【0064】
(第7項)第1項~第6項のいずれか1項に記載の検査装置において、前記サイズ情報取得部は、複数の平坦化された対象物を撮影する画像取得部を含み、撮影された画像に基いて対象物を計数する計数部、をさらに備えるものとすることができる。
【0065】
第7項に記載の検査装置によれば、多数の対象物について個々の重量を調べる際に、その対象物の個数も併せて知ることができる。
【0066】
(第15項)第9項~第14項のいずれか1項に記載の検査方法において、前記対象物はマイクロプラスチックであるものとすることができる。
【0067】
第15項に記載の検査方法によれば、従来一般的には個々の重量の測定が困難であるマイクロプラスチックについて、効率良く且つ正確に、個々の重量を調べることができ、大規模なマイクロプラスチックの分布調査等に有用な情報を提供することができる。
【0068】
(第8項)本発明に係る検査システムの一態様は、第1項~第7項のいずれか1項に記載の検査装置と、複数の対象物が重なり合わずに散在する状態の試料を作成するための試料作成装置と、を備えるものとすることができる。
【0069】
第8項に記載の検査システムによれば、例えば海水中に含まれる多量のマイクロプラスチックについての個々の重量の計測を、人手に頼ることなく効率的に、且つ正確に実施することができる。また、計測の自動化にも有利である。
【符号の説明】
【0070】
1…前処理装置
2…試料作成装置
3…平坦化装置
30…ステージ
31…スペーサー
32…プッシャー
33…昇降部
34…温度調整部
35…搬送ステージ
36…圧潰ローラー
4…光学分析装置
40…FITR測定部
41…顕微画像取得部
5…データ処理装置
50…樹脂種類識別部
51…比重情報記憶部
52…面積算出部
53…重量算出部
6…出力装置
図1
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図3
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図7