(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150990
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】減速機
(51)【国際特許分類】
F16B 39/04 20060101AFI20220929BHJP
F16H 57/023 20120101ALI20220929BHJP
F16C 35/073 20060101ALI20220929BHJP
F16B 39/10 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F16B39/04 Z
F16H57/023
F16C35/073
F16B39/10 D
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053845
(22)【出願日】2021-03-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳
【テーマコード(参考)】
3J063
3J117
【Fターム(参考)】
3J063AA15
3J063AB12
3J063AC01
3J063BA04
3J063BB19
3J063CD42
3J063CD52
3J063CD56
3J117AA02
3J117CA04
3J117DA01
3J117DB02
(57)【要約】
【課題】容易に減速機のリングナットの緩み止めをする。
【解決手段】減速機100は、外周面に雄ねじ部17を有する固定ハウジング10と、油圧モータ9の出力回転が伝達されて回転する回転ハウジング20と、回転ハウジング20に収容される減速機構30と、固定ハウジング10に取り付けられ、固定ハウジング10に対して回転ハウジング20を回転自在に支持する軸受ユニット40と、固定ハウジング10の雄ねじ部17と螺合し軸受ユニット40の抜け止めをするリングナット60と、リングナット60の緩み止めをする緩み止め部材70と、を備え、雄ねじ部17には、所定の幅で固定ハウジング10の外周面に開口して軸方向に延びる切欠き18が設けられ、緩み止め部材70は、切欠き18とリングナット60との間に圧入されて切欠き18内に固定され、リングナット60と周方向に係合する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源を収容し外周面に雄ねじ部を有する固定ハウジングと、
前記駆動源の出力回転が伝達されて回転する回転ハウジングと、
前記回転ハウジングに収容され前記駆動源の出力回転を減速して前記回転ハウジングに伝達する減速機構と、
前記固定ハウジングに取り付けられ、前記固定ハウジングに対して前記回転ハウジングを回転自在に支持する軸受部材と、
前記固定ハウジングの前記雄ねじ部と螺合し前記軸受部材の抜け止めをするリングナットと、
前記リングナットの緩み止めをする緩み止め部材と、を備え、
前記雄ねじ部には、所定の幅で前記固定ハウジングの前記外周面に開口して軸方向に延びる切欠きが設けられ、
前記緩み止め部材は、前記切欠きと前記リングナットとの間に圧入されて前記切欠き内に固定され、前記リングナットと周方向に係合することを特徴とする減速機。
【請求項2】
請求項1に記載の減速機であって、
前記緩み止め部材は、円弧状の曲面部を有し、
前記曲面部は、内周面を前記雄ねじ部の径方向外側に向けて前記切欠きに圧入されることを特徴とする減速機。
【請求項3】
請求項1または2に記載の減速機であって、
前記緩み止め部材は、前記切欠きに圧入された状態において前記切欠きの前記幅方向に対応する長さが先端部に向かうにつれて小さくなるテーパ部を有し、
前記テーパ部は、前記先端部から前記切欠きに圧入されることを特徴とする減速機。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の減速機であって、
前記減速機構は、前記切欠きの延長線と交差するように設けられるギヤ部を有し、
前記軸方向における前記ギヤ部と前記リングナットの間の距離は、前記切欠きへの圧入方向における前記緩み止め部材の長さよりも小さいことを特徴とする減速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、可変容量型の斜板式の油圧モータと減速機とにより構成される減速機付き油圧モータが開示されている。減速機付き油圧モータは、油圧モータの回転を減速機の遊星歯車減速機構により減速して減速機のケーシングに伝達し、減速機のケーシングを高トルクで回転させる。油圧モータのケーシングの外周面と減速機のケーシングの内周面との間には軸受が設けられ、軸受は、減速機のケーシングを油圧モータのケーシングに対して回転可能に支持する。軸受は、油圧モータのケーシングの雄ねじ部に螺合するナットにより抜け止めされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の減速機付き油圧モータのナットは、軸受から軸方向に力を受ける。よって、減速機付き油圧モータの作動に伴い、ナットが緩んでしまうことが考えられる。
【0005】
これに対し、雄ねじ部を有するプラグをナットに係合させてナットの緩み止めをすることが考えられる。具体的には、油圧モータのケーシングには、油圧モータのケーシングの外周面に一部が開口して油圧モータのケーシングの雄ねじ部の軸方向に延びる挿入穴が設けられる。挿入穴には、タップ加工等でプラグの雄ねじ部と螺合する雌ねじ部が形成される。挿入穴は油圧モータのケーシングの外周面に一部が開口するため、ナットが油圧モータのケーシングに螺合した状態では、ナットの雌ねじ部の一部が挿入穴に面する。よって、当該状態でプラグが挿入穴にねじ締結されることで、プラグの雄ねじ部がナットの雌ねじ部に食い込んで係合する。これにより、ナットの緩み止めがされる。
【0006】
上記のようなナットの緩み止め機構では、油圧モータのケーシングに挿入穴を設け、さらに挿入穴に雌ねじ部を形成する。また、挿入穴は油圧モータのケーシングの外周面に一部が開口するため、挿入穴に雌ねじ部を形成する際には当該開口にバリが生じる。よって、当該バリを除去する工程も必要となる。このように、上記のようなナットの緩み止め機構は、加工に手間が生じてしまう。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、容易に減速機のリングナットの緩み止めをすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、減速機であって、駆動源を収容し外周面に雄ねじ部を有する固定ハウジングと、駆動源の出力回転が伝達されて回転する回転ハウジングと、回転ハウジングに収容され駆動源の出力回転を減速して回転ハウジングに伝達する減速機構と、固定ハウジングに取り付けられ、固定ハウジングに対して回転ハウジングを回転自在に支持する軸受部材と、固定ハウジングの雄ねじ部と螺合し軸受部材の抜け止めをするリングナットと、リングナットの緩み止めをする緩み止め部材と、を備え、雄ねじ部には、所定の幅で固定ハウジングの外周面に開口して軸方向に延びる切欠きが設けられ、緩み止め部材は、切欠きとリングナットとの間に圧入されて切欠き内に固定され、リングナットと周方向に係合することを特徴とする。
【0009】
この発明では、固定ハウジングの雄ねじ部に切欠きを設け、切り欠きに緩み止め部材が圧入されてリングナットと周方向に係合することで、リングナットの緩み止めがされる。緩み止め部材は、切欠きに圧入されて切欠き内に固定されるため、リングナットの緩み止めのために雌ねじ部を形成する工程が不要となり、バリを除去する工程も削減される。よって、容易にリングナットの緩み止めをすることができる。
【0010】
本発明は、緩み止め部材は、円弧状の曲面部を有し、曲面部は、内周面を雄ねじ部の径方向外側に向けて切欠きに圧入されることを特徴とする。
【0011】
この発明では、緩み止め部材は、切欠きに圧入される曲面部の両端部の二ヶ所がリングナットに係合する。よって、より確実にリングナットの緩み止めをすることができる。
【0012】
本発明は、緩み止め部材は、切欠きに圧入された状態において切欠きの幅方向に対応する長さが先端部に向かうにつれて小さくなるテーパ部を有し、テーパ部は、先端部から切欠きに圧入される。
【0013】
この発明では、テーパ部により、緩み止め部材が切欠きに圧入されやすくなる。
【0014】
本発明は、減速機構は、切欠きの延長線と交差するように設けられるギヤ部を有し、軸方向におけるギヤ部とリングナットの間の距離は、切欠きへの圧入方向における緩み止め部材の長さよりも小さいことを特徴とする。
【0015】
この発明では、減速機構のギヤ部により、緩み止め部材が切欠きから脱落することが防止される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、容易に減速機のリングナットの緩み止めをすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係る減速機の断面図であり、緩み止め部材の取り付け前の状態を示す。
【
図2】
図1に示すIIを拡大して示す部分断面図である。
【
図3】
図1に示すIII断面から見た固定ハウジング及びリングナットの断面図である。
【
図5】本実施形態に係る減速機の緩み止め部材の取り付け後の状態を示す拡大断面図であり、
図2に対応して示す。
【
図6】
図3に示すVIを拡大して示す部分断面図であり、緩み止め部材の取り付け後の状態を示す。
【
図7】変形例の緩み止め部材の取り付け後の状態を示す拡大断面図であり、
図6に対応して示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照して、本発明の実施形態に係る減速機100について説明する。本実施形態では、油圧ショベルなどのクローラ式作業機の走行用の駆動源である油圧モータの動力を減速してクローラベルトに伝達する減速機を一例に説明する。
【0019】
図1に示すように、減速機100は、駆動源としての油圧モータ9を収容する固定ハウジング10と、固定ハウジング10に対して回転自在に設けられる回転ハウジング20と、回転ハウジング20に収容され油圧モータ9のシャフト31の出力回転を減速して回転ハウジング20に伝達する減速機構30と、を備える。
【0020】
回転ハウジング20は、円筒状の部材であり、減速機構30を介して油圧モータ9の出力回転が伝達されて回転する。
【0021】
固定ハウジング10及び回転ハウジング20は、クローラベルトが循環する経路の内側に配置される。回転ハウジング20には、外周面22から径方向外方に突出する環状の回転フランジ29が形成される。回転フランジ29には、ボルトによってスプロケット(図示せず)が締結される。スプロケットにはクローラベルトが噛み合う。回転ハウジング20とスプロケットとが共に回転することで、スプロケットに噛み合うクローラベルトが循環してクローラ式作業機が走行する。
【0022】
減速機100は、固定ハウジング10の外周と回転ハウジング20の内周との間に設けられる軸受部材としての軸受ユニット40と、軸受ユニット40の抜け止めをするリングナット60と、を備える。軸受ユニット40は、固定ハウジング10に対して回転ハウジング20を回転自在に支持する一対のベアリング41と、ベアリング41と回転ハウジング20の軸方向の相対移動を規制する断面円形状の止め輪49と、を有する。一対のベアリング41は、それぞれ同様の構成であり、左右対称に配置される。ベアリング41は、ボールと内輪との接触点及びボールと外輪との接触点を結ぶ直線がラジアル方向に対して所定の角度(接触角)をもっている単列型のアンギュラボールベアリングである。一対のベアリング41は、固定ハウジング10の外周面に取り付けられる。
【0023】
図2に示すように、固定ハウジング10は、外周面に段部16と雄ねじ部17とを有する。リングナット60は、固定ハウジング10の雄ねじ部17と螺合する。一対のベアリング41は、固定ハウジング10の段部16と、リングナット60との間で挟持される。リングナット60は、一対のベアリング41から軸方向に力を受ける。よって、リングナット60は、減速機100の作動に伴い緩んでしまうことを防止するため、後述するように緩み止め部材70により緩み止めがされる。
【0024】
図1に示すように、回転ハウジング20は、外部部材としての車体6に固定される固定ハウジング10に対して、一対のベアリング41を介して回転自在に支持され、回転中心軸Oを中心として回転する。
【0025】
油圧モータ9は、固定ハウジング10の本体部11の内部に収容される。油圧モータ9は、例えば、斜板式ピストンモータである。油圧モータ9は、公知の構成を採用できるため、詳細な説明は省略する。なお、駆動源は油圧モータ以外であってもよく、例えば、駆動源は電動モータとしてもよい。固定ハウジング10には、本体部11の外周面から突出するように固定フランジ12が形成される。固定フランジ12がボルトによって車体6に取り付けられることにより、固定ハウジング10が車体6に固定される。
【0026】
減速機構30は、油圧モータ9のシャフト31の出力回転を減速して回転ハウジング20に伝達する遊星歯車減速機構であり、ギヤ部38を有する。ギヤ部38は、油圧モータ9のシャフト31に設けられるサンギヤ32と、回転ハウジング20の内壁に設けられるインナーギヤ33と、サンギヤ32とインナーギヤ33との双方に噛み合う複数のプラネタリギヤ34と、各プラネタリギヤ34を支持するプラネタリキャリア35と、プラネタリキャリア35と噛み合う2段目のサンギヤ36と、サンギヤ36とインナーギヤ33との双方に噛み合う複数のプラネタリギヤ37と、を有する。プラネタリギヤ37には、ワッシャ39が設けられる。なお、ワッシャ39は設けられなくてもよい。
【0027】
固定ハウジング10と回転ハウジング20の間には、固定ハウジング10と回転ハウジング20との間の隙間をシールするフローティングシール50が設けられる。フローティングシール50は、回転ハウジング20の回転時に、減速機100内の油が外部に漏出しないように密封するとともに、外部から泥等の異物が減速機内に侵入することを防止する。
【0028】
次に、
図3~6を参照して、リングナット60の緩み止めがされる構成について説明する。
図3は、
図1に示すIII断面から見た固定ハウジング10及びリングナット60の断面図であり、緩み止め部材70の取り付け前の状態を示す。
図1では、固定ハウジング10及びリングナット60以外の構成は省略している。
図4は、緩み止め部材70の斜視図である。
図5は、緩み止め部材70の取り付け後の状態を示す拡大断面図であり、
図2に対応して示す。
図6は、
図3に示すVI部を拡大して示す部分断面図であり、緩み止め部材70の取り付け後の状態を示す。
【0029】
図3,6に示すように、固定ハウジング10の雄ねじ部17には、所定の幅で固定ハウジング10の外周面に開口して軸方向に延びる切欠き18が設けられる。本実施形態では、切欠き18は、雄ねじ部17の径方向に沿った断面において弓形状に形成され、固定ハウジング10上に油圧モータ9のシャフト31を挟んで対向する位置に二つ設けられる。なお、切欠き18は、三つ以上の複数が固定ハウジング10の周方向に等間隔を空けて設けられてもよい。切欠き18は、後述するように、緩み止め部材70が圧入された状態で緩み止め部材70の曲面部71の一部が切欠き18から固定ハウジング10の外周面を越えて突出するように形成される。
【0030】
また、
図4に示すように、減速機100は、リングナット60の緩み止めをする緩み止め部材70を備える。緩み止め部材70は、硬度の高い金属で形成される。緩み止め部材70は、切欠き18の内周面とリングナット60との間に圧入されて切欠き18内に固定され、リングナット60と周方向に係合する。これにより、リングナット60の緩み止めがされる。
【0031】
緩み止め部材70は、切欠き18への圧入方向(
図4中の矢印方向)に延びて形成される。緩み止め部材70は、円弧状の曲面部71と、切欠き18に最初に圧入される(言い換えれば、圧入方向の前方側の端部である)先端部72と、切欠き18に圧入された状態において切欠き18の幅方向に対応する長さが先端部72に向かうにつれて小さくなるテーパ部73と、切欠き18への圧入方向において先端部72とは反対側の端部74と、端部74から突出して設けられる頭部75と、を有する。テーパ部73は、言い換えれば、切欠き18に圧入された状態において、切欠き18における外周面への二つの開口端を結ぶ接線方向の長さが、先端部72に向かうにつれて小さくなるように形成される。
【0032】
テーパ部73は、先端部72と曲面部71の間に設けられ、曲面部71と連続した曲面状に形成される。頭部75は、切欠き18に圧入される状態において雄ねじ部17の径方向外側に向けて端部74から突出する。緩み止め部材70は、切欠き18への圧入方向に延びるとともに、切欠き18に圧入される状態において雄ねじ部17の径方向に折り曲げられたL字状に形成される。
【0033】
図5,6に示すように、緩み止め部材70は、固定ハウジング10の雄ねじ部17にリングナット60が螺合した状態で、曲面部71の内周面71aを雄ねじ部17の径方向外側に向けて、テーパ部73から切欠き18に圧入される。緩み止め部材70の頭部75は切欠き18への圧入方向に対して垂直に延びるため、頭部75を打ち込む等で頭部75に荷重を加えることで、緩み止め部材70を容易に切欠き18に圧入させることができる。そして、曲面部71が切欠き18に圧入されるまで、頭部75に荷重が加えられる。このように、曲面部71は、内周面71aを雄ねじ部17の径方向外側に向けて切欠き18に圧入される。
【0034】
ここで、
図6に示すように、切欠き18は、緩み止め部材70が圧入された状態で緩み止め部材70の曲面部71の一部(具体的には、曲面部71の周方向の両端部)が切欠き18から固定ハウジング10の外周面を越えて径方向外側に向けて突出するように形成される。切欠き18に緩み止め部材70が圧入された状態では、雄ねじ部17の径方向における緩み止め部材70の曲面部71の長さL1は、雄ねじ部17の径方向における切欠き18の深さL2よりも大きい。よって、緩み止め部材70は、雄ねじ部17にリングナット60が螺合した状態で切欠き18に圧入されると、曲面部71の切欠き18から突出する部分がリングナット60の雌ねじ部に食い込み、雌ねじ部と周方向に係合する。これにより、緩み止め部材70は、切欠き18内に固定されるとともにリングナット60の緩み止めをする。
【0035】
このようなリングナット60の緩み止めの機構は、固定ハウジング10の雄ねじ部17に切欠き18を設けることで形成される。具体的には、本実施形態における減速機100では、まず、固定ハウジング10の外周面においてリングナット60が取り付けられる部分に切欠き18が形成される。その後、切欠き18を含む固定ハウジング10の外周面に雄ねじ部17が形成される。なお、切欠き18の内周面には雄ねじ部は形成されない。
【0036】
ここで、例えば、雄ねじ部を有する緩み止め部材でリングナットの緩み止めをすることを考える。この場合には、固定ハウジングの外周面に一部が開口して固定ハウジングの雄ねじ部の軸方向に延びる挿入穴が設けられ、挿入穴には、タップ加工等でプラグの雄ねじ部と螺合する雌ねじ部が設けられる。そして、リングナットが固定ハウジングの雄ねじ部に螺合した状態で緩み止め部材が挿入穴にねじ締結されることで、緩み止め部材の雄ねじ部がリングナットの雌ねじ部に食い込んで係合し、リングナットの緩み止めがされる。このようなリングナットの緩み止め機構では、挿入穴が固定ハウジングの外周面に一部が開口するため、挿入穴に雌ねじ部を形成する際には当該開口にバリが生じる。よって、当該バリを除去する工程も必要となる。したがって、このようなリングナットの緩み止め機構は、加工に手間が生じてしまう。
【0037】
これに対して、本実施形態における減速機100では、緩み止め部材70は、切欠き18に圧入されて切欠き18内に固定される。そのため、リングナット60の緩み止めのために雌ねじ部を形成する工程が不要となり、バリを除去する工程も削減される。よって、少ない工数で容易にリングナット60の緩み止めを容易にすることができる。
【0038】
また、緩み止め部材70の曲面部71は、内周面71aを雄ねじ部17の径方向外側に向けて切欠き18に圧入されるため、曲面部71の周方向の両端部の二ヶ所がリングナット60に係合する。具体的には、曲面部71の内周面71aと、曲面部71の両側面71b、71c(
図6参照)と、の間の二つの角部がリングナット60の雌ねじ部に食い込んで係合する。よって、リングナット60の緩み止めをより確実にすることができる。
【0039】
また、緩み止め部材70は、切欠き18に圧入された状態において切欠き18の幅方向に対応する長さが先端部72に向かうにつれて小さくなるテーパ部73を有し、テーパ部73は、先端部72からから切欠き18に圧入されるため、緩み止め部材70が切欠き18に圧入されやすくなる。
【0040】
なお、緩み止め部材70は、テーパ部73を有さなくてもよい。また、緩み止め部材70は、曲面部71が切欠き18に圧入されるまで荷重を加えることができれば、頭部75を有さなくてもよい。
【0041】
また、固定ハウジング10には、減速機構30のギヤ部38が切欠き18の延長線と交差するように設けられる。言い換えれば、固定ハウジング10は、緩み止め部材70が無い状態では、切欠き18とギヤ部38が雄ねじ部17の軸方向において他の部材を介さずに対向する。さらに、雄ねじ部17の軸方向におけるギヤ部38とリングナット60の間の距離は、切欠き18への圧入方向における緩み止め部材70の長さよりも小さい。これにより、切欠き18に圧入された緩み止め部材70が切欠き18から脱落する向きに力を受けても、緩み止め部材70が切欠き18から脱落するよりも前にギヤ部38(具体的には、プラネタリギヤ37またはプラネタリギヤ37に設けられるワッシャ39)と接触する。これにより、緩み止め部材70が切欠き18から脱落することが防止される。
【0042】
上述した実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0043】
減速機100では、固定ハウジング10の雄ねじ部17に切欠き18を設け、切欠き18に緩み止め部材70の曲面部71が圧入されてリングナット60と周方向に係合することで、リングナット60の緩み止めがされる。緩み止め部材70は、切欠き18に圧入されて切欠き18内に固定されるため、リングナット60の緩み止めのために雌ねじ部を形成する工程が不要となり、バリを除去する工程も削減される。よって、少ない工数で容易にリングナット60の緩み止めを容易にすることができる。
【0044】
緩み止め部材70は、切欠き18に圧入された状態で、緩み止め部材70の頭部75が切欠き18への圧入方向に対して垂直に延びる。よって、頭部75に荷重を加えることで、容易に緩み止め部材70を切欠き18に圧入させることができる。
【0045】
曲面部71は、切欠き18に圧入されて曲面部71の周方向の両端部の二ヶ所がリングナット60に係合する。よって、より確実にリングナット60の緩み止めをすることができる。
【0046】
緩み止め部材70は、切欠き18に圧入された状態において切欠き18の幅方向に対応する長さが先端部72に向かうにつれて小さくなるテーパ部73を有し、テーパ部73から切欠き18に圧入される。よって、緩み止め部材70が切欠き18に圧入されやすくなる。
【0047】
減速機構30は、切欠き18の延長線と交差するように設けられるギヤ部38を有し、雄ねじ部17の軸方向におけるギヤ部38とリングナット60の間の距離は、切欠き18への圧入方向における緩み止め部材70の長さよりも小さい。これにより、切欠き18に圧入された緩み止め部材70が切欠き18から脱落する向きに力を受けても、緩み止め部材70が切欠き18から脱落するよりも前にギヤ部38と接触する。よって、緩み止め部材70が切欠き18から脱落することが防止される。
【0048】
次に、本実施形態の変形例について、説明する。以下のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせることも可能である。
【0049】
<変形例>
上記実施形態における緩み止め部材70は、円弧状の曲面部71と、曲面部71と連続した曲面状のテーパ部73と、を有する。これに限らず、緩み止め部材70は、円弧状の曲面部71を有さず、代わりに平面状の平面部171を有し、テーパ部73が平面部171と連続した平面状に形成されてもよい。この場合は、
図7に示すように、緩み止め部材70の平面部171がリングナット60の雌ねじ部に食い込み、雌ねじ部と周方向に係合すればよい。切欠き18は、雄ねじ部17の径方向に沿った断面において三角形状に形成される。そして、切欠き18の内周面と緩み止め部材70の平面部171とが接触するように切欠き18に圧入され、緩み止め部材70の平面部171の角部の一つがリングナット60の雌ねじ部に食い込み、リングナット60の雌ねじ部と周方向に係合する。
【0050】
以上のように構成された本実施形態の構成、作用、および効果をまとめて説明する。
【0051】
減速機100は、駆動源としての油圧モータ9を収容し外周面に雄ねじ部17を有する固定ハウジング10と、油圧モータ9の出力回転が伝達されて回転する回転ハウジング20と、回転ハウジング20に収容され油圧モータ9の出力回転を減速して回転ハウジング20に伝達する減速機構30と、固定ハウジング10に取り付けられ、固定ハウジング10に対して回転ハウジング20を回転自在に支持する軸受部材としての軸受ユニット40と、固定ハウジング10の雄ねじ部17と螺合し軸受ユニット40の抜け止めをするリングナット60と、リングナット60の緩み止めをする緩み止め部材70と、を備え、雄ねじ部17には、所定の幅で固定ハウジング10の外周面に開口して軸方向に延びる切欠き18が設けられ、緩み止め部材70は、切欠き18とリングナット60との間に圧入されて切欠き18内に固定され、リングナット60と周方向に係合する。
【0052】
この構成では、固定ハウジング10の雄ねじ部17に切欠き18を設け、切欠き18に緩み止め部材70が圧入されてリングナット60と周方向に係合することで、リングナット60の緩み止めがされる。緩み止め部材70は、切欠き18に圧入されて切欠き18内に固定されるため、リングナット60の緩み止めのために雌ねじ部を形成する工程が不要となり、バリを除去する工程も削減される。よって、少ない工数で容易にリングナット60の緩み止めを容易にすることができる。
【0053】
また、減速機100では、緩み止め部材70は、円弧状の曲面部71を有し、曲面部71は、内周面71aを雄ねじ部17の径方向外側に向けて切欠き18に圧入される。
【0054】
この構成では、緩み止め部材70は、切欠き18に圧入されて曲面部71の両端部の二ヶ所がリングナット60に係合する。よって、より確実にリングナット60の緩み止めをすることができる。
【0055】
また、減速機100では、緩み止め部材70は、切欠き18に圧入された状態において切欠き18の幅方向に対応する長さが先端部72に向かうにつれて小さくなるテーパ部73を有し、テーパ部73は、先端部72から切欠き18に圧入される。
【0056】
この構成では、テーパ部73により、緩み止め部材70が切欠き18に圧入されやすくなる。
【0057】
また、減速機100では、減速機構30は、切欠き18の延長線と交差するように設けられるギヤ部38を有し、軸方向におけるギヤ部38とリングナット60の間の距離は、切欠き18への圧入方向における緩み止め部材70の長さよりも小さい。
【0058】
この構成では、減速機構30のギヤ部38により、緩み止め部材70が切欠き18から脱落することが防止される。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0060】
9・・・油圧モータ(駆動源)、10・・・固定ハウジング、17・・・雄ねじ部、18・・・切欠き、20・・・回転ハウジング、30・・・減速機構、38・・・ギヤ部、40・・・軸受ユニット(軸受部材)、60・・・リングナット、70・・・緩み止め部材、71・・・曲面部、71a・・・内周面、72・・・先端部、73・・・テーパ部、100・・・減速機